はっぴーしぇありんぐ

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そうして二人は眼を覚ます事ができた。侯輝は目の前の天理に抱きついて泣き出した。転生の際、闇の半身たる自分がうまく立ち回れていれば事実では多くの人が傷つかずに済んでいた事、何もかも分かって受け入れ命がけで産んでくれた母の最期の言葉、侯輝の心は張り裂けそうな程に辛かった。
それを一部始終影で見守っていた天理は侯輝の心中を察すると黙って抱きしめ背中を撫でる。 大地の神の言った通り、事実をそのまま再現するよりも辛いものを知ったかもしれない。天理は大地の神が自分に何もかも伏せている理由を察せずにはいられなかった。侯輝の心は自分よりずっと強い。自分なら折れずにいる自信が無かった。だが大地の神から託された今、支えてやるのは自分しかいないのだと気を奮い立たせる。
侯輝は天理が本当に同じ夢を見ていたかどうかもまだ分からないのにいきなり泣き出してしまって困惑させていないかと、優しい天理の事だから黙って抱きしめていてくれているだけなのではと慌てて天理から離れると謝った。
「ぅ、ぅ…あ、ごめんね急に泣き出してるよね。ちょっとおかしな夢見ちゃって、俺が生まれた時の……」
「"侯輝"」
「え……」
天理は優しく微笑むと侯輝の顔を両手で包み込み見つめるとほんの少し高い声で懐かしむ様に侯輝の名を呼んだ。天理のその言葉は確かにいつも通り侯輝に向かって放たれていたが、侯輝の心の奥底にまで響く様に侯輝には聞こえた。天理は一度目を瞑り開くと懐かしむ様な笑みを浮かべ少しだけ照れたようにしつつ重ねて語り掛けた。
「"僕"だよ。天理だよ。覚えている?"侯輝"」
「あ……!お、覚え……てるよ!天理!」
夢の中で闇の半身であった侯輝と少年の天理が交わした約束。同じ夢を見た証。侯輝は心の奥底から込み上げた涙を流し再び天理を抱き締めた。生まれてから天理にその名を幾度も呼ばれていたが、はじめてその意味を持って侯輝の心の奥底に届けられていた。
「あの夢は全部事実通りじゃなかったんだろうけど、きっとお前の名前は俺が付けたんだろうと思う。やっとちゃんと呼べたな。折角お前がこの名を気に入ってくれて、お前のお袋さんがその想いを受け止めてお前に名付けてくれたってのに」
「う”んっう”んっ……天理、俺を助けてくれて、俺に名前をくれて、ありがと」
天理が頭を優しく撫でる手を感じながら侯輝の心は夢の世界を通じて20年振りの再会の喜びも合わさり更に涙を流す。天理が侯輝の背をぽんぽんと叩くいてくれている間、侯輝は天理の胸で存分に泣いた。
落ち着くと侯輝は少しだけ身体を離し泣きすぎてしまった事で少し恥ずかしそうにしながら天理の顔を見る。
「俺のせいで天理に心配させる様な夢見させちゃってごめんね。」
「俺には謝らなくていい。なあ侯輝、そもそも何で俺と一緒の夢見させたいと思ったんだ?昨晩の……俺の寝がけの我が儘叶えてくれようとしたんじゃないのか?」
天理は侯輝の涙の跡をそっと拭いながら優しい瞳で問いかける。
「う、うん……でも天理の我が儘じゃないよ。天理が俺と夢の中まで一緒にいたいって思ってくれた事が俺も嬉しかったから、だから俺もそうなったらいいなって思ったけど……こんな夢になるとは思わなくて……」
必死で天理の想いを肯定し、だが想定外な事態になってしまった事でまだしゅんとなる侯輝を天理はよしよしと撫でる。
「結果的にお前にとって辛い夢だったな。でもきっかけはお前も俺と同じだと心から思ってくれたって事だろ?それは俺も嬉しいよ。だから謝らなくていい。ありがとな」
そういって微笑む天理にそれでもと侯輝が続ける。
「でも、あと少しで天理も夢から覚められなくなってたかもしれない。もっと楽しい夢を見させたかったのに……俺が闇の力をちゃんとコントロールできてれば……」
「侯輝、その闇の半身だけどな、今日の夢が闇の半身が主に引き起こした事として、なんであの夢を見せてきたのかって考えたんだよ」
「え?」と少し首を傾げる侯輝に天理は続ける。
「お前は俺と一緒の楽しい夢を見させたかった。でもお前はそんな大それた事できないから無意識に闇の半身の力に頼るってなった時、闇の半身にとっての楽しい夢になったんじゃないかなって、そうだったらいいなって俺は思うんだよ」
「えっ天理にとってあれは楽しい夢だったの?」
侯輝が驚くと天理は微笑みながら問い返した。
「お前、闇の半身として夢の中でガキの頃の俺と居てどうだった?」
侯輝は少し夢を思い出す様にして答えた。
「……なんか凄く楽しかった。ちっちゃい天理が俺の言った事に返してくれるのが凄く楽しくて、それでちっちゃい天理が喜んでくれるのが嬉しくて、笑ってくれると俺も楽しいって思えて。うん…あれはずっと闇の中で一人だった闇の半身のとても幸せな光景で…でも辛い思い出でもあって…もう一度やり直せたらって願っていたのかもしれない」
「やっぱりそうか、横で聞いてた俺はガキの時の俺が恥ずかしくて仕方がなかったけどな。でももし覚えていたなら一生忘れられない楽しかった思い出になっていたって思ったし、本当はあったはずのお前との大切な最初の思い出が共有し直せて楽しかった。お前が楽しかったなら尚、良かったよ」
天理が少し照れ臭そうにしながらも優しい瞳であの時の少年の天理の様に本当に嬉しそうにそう話すので、侯輝は心の奥底にいる闇の半身の魂が喜んでいるのを感じていた。熱いものが込み上げ思わずぎゅっと抱きついた。
「ありがと…そう思ってくれてありがと天理…ぅ…」
侯輝はまた天理の胸に顔を埋めたまま泣いてしまう。天理は落ち着かせる様に侯輝の背中をぽんぽんと叩き穏やかに話す。
「侯輝、お前は俺を想って、夢を見せようとしてくれた。闇の半身のお前はその想いを叶える為、楽しいと思ってくれたガキの俺との思い出を共有しようとしてくれた。辛かった事も伝えてくれて嬉しかった。俺はその想いが心から愛おしいよ侯輝。生まれてきてくれてありがとう。これからも俺と思い出を沢山作ろうな」
天理はそう言って侯輝の髪をかきあげ額にキスをした。見つめるその瞳には慈愛と愛情だけが宿り、侯輝の心を満たす。
「うんっ、俺も天理と沢山思い出作りたい。俺こそ、生まれてきてくれて、俺を選んでくれて、愛してくれて、一緒にいてくれてありがと」
侯輝は泣き笑いでそう言うと、今度は侯輝の方から天理の頬に口づけた。そして二人はお互いの瞳を見詰め合い、どちらからともなく自然と唇を重ねた。
これからもこの幸せを二人で分け合っていこう。そう誓う様な優しい優しいくちづけだった。
朝から晩まで共にいて、叶うならずっとこうして二人で過ごせたらと。そう願わずにはいられなかった――

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