はっぴーしぇありんぐ

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「ふー終わったか」
天理は少年少女達を試験会場から見送ると試練で使った小道具を片付けはじめた。ただの水となった水槽の水を花壇に満遍なく捨て、使い終わった元魔畜石を外に投げ捨てた。
「お疲れ天理。楽しかったー」
侯輝はそれを手伝い、テーブルやら椅子やらを動かす。
「なんか恥ずかしかった…あれで良かったのか?なんかもっとこう、あいつらの為になるような助言とかした方がよかったんじゃないか?」
「良かったと思うよ。考えてくれてありがとね。ただ戦うだけよりああいう事を新人に教えて貰えて良かった。精霊の良さとかもね。あまり複雑にしたら大変だと思うからこれくらいでいいよ」
思い悩む天理に、侯輝はなんだかんだ言いながら関わると真剣に取り組んでくれる恋人を労った。
「ならいいんだが」
「天理結構向いてるんじゃない?」
「……だから恥ずかしいって。やりたい事もあるし」
だが褒められてちょっと嬉しいと思いつつ天理は新人の報告書を書きながら言う。水槽の水は確かに罠は無かったが精霊適性能力チェックも兼ねており、その報告は天理の役目だ。奏太は鍛えればいい精霊使いになれるだろう。
「またやって貰いたいけどなーでも仕事あるし厳しいよね。まあ俺としては今回天理を新人に自慢できたからOKかな」
「お前それでこのバイトさせたんじゃないだろな」
「ないよー人手不足はホントホント。天理自慢はついで♪」
「だとは思うがな…」
「仕事中にすぐ近くに天理が居たらいいなとは思ったけどね」
「ん…まぁ家で一人で留守番してるよりは……」
天理は侯輝の仕事に対する姿勢までは疑っていなかった。寂しさも紛れたし一石二鳥ではあった想いをボソリと漏らすと侯輝がニヨニヨと表情を崩しつつも謝罪する。
「いつも待たせてごめんね」
「ん……大丈夫だ。さ、確認してくれ」
天理は侯輝のその想いに微笑む。天理が書き上げた報告書を侯輝が確認し修正を加えるとバインダーに丁寧に綴じた。あとは提出すれば完了である。
「ところでお前の方の試練の間の名前が勇気の間なのはまあ分かるが、俺の方、何で純愛の間なんだ?そういう設定なのか?」
「あ、それね、俺がつけたよ!」
「やっぱりお前か……しかしなんで?え?お前が……俺に的な?」
天理は自らのその推測に少し照れつつも口にすると、侯輝は首を横に振った。
「ううん天理が俺に!」
「はあ?!俺っが純愛?!」
満面の笑みでそう告げる侯輝に天理は顔を赤く染める。そんな様子に侯輝はニコニコしながら続けた。
「ほら天理、俺の事すっごい好きでしょ?俺の事想って苦しくなっちゃうくらい。俺も天理の事大好きだけど、なんかもうそれ以上にピュアな感じしてさ」
侯輝は片付けも一通り終わり手が空いたので天理を抱き締める。
「な、ピュ、誰、が」
天理はもういい歳なんぞと思いつつ、人目も無いので今度は抵抗しなかった。
「無自覚な天理も可愛いけど、さっきみたいに無自覚に新人たらしこめ始めちゃうからホントに心配だよー」
「いつ俺がガキ共たらしこんだ」
「もーホント困るー」
顔を赤らめながらも反論する天理に、天然タラシの自覚が全く無い事に侯輝は呆れる。
「本当に知らねぇ…お前以外に色目使った覚えねぇよ」
ボソリと少し拗ねた様に言う天理に侯輝は内心悶える。
「ほらほらほらほら!ねっねっねっ?!俺の事大好きでしょ!純愛でしょ!天理にぴったり!」
「ああもう分かったから!」
もう顔が真っ赤になっている天理に侯輝は軽く触れるだけのキスをした。
「えへへ。もー超好きー」
「こらっまだ仕事中っ」
天理は叱りはするものの抱き締めた腕はそのままにさせていると、ダカダカと足早に音がして扉が開きギルドマスターが入ってきた。
「おいお前ら部屋は片付いたか?撤収するぞ、新人の報告書あげたら給料やるから、いちゃつくなら終わってから家帰ってやれ」
ギルマスは呆れた顔をしつつも慣れた体で要件だけ言うと出ていった。
「はーい」
「は、い」
何事も無かったかの様に返事を返す侯輝の腕の中で天理は久々にちょっと固まりつつ返事した。
「さっ帰っていちゃいちゃしよー天理」
侯輝はチュッと天理にもう一つキスをすると腕から解放した。
「バカ」

最終確認をし試練部屋を出てギルマスに報告書を提出するとバイト代を貰う。天理はまた頼まれてくれよと言われたが丁重にお断りした。日が沈み試験会場としていた街外れの遺跡から二人の家に帰宅すべく侯輝と天理は歩き出す。
中心街に近づけば整備された通路の石畳を魔法の街灯がほんのり照らしていた。侯輝が手を差し出すと街中でも慣れてきた天理が繋ぎ返す。人通りがまばらとは言えまだ有り、天理はまだ少し恥ずかしく照れるのだが、それでも手を繋いで歩くのが当たり前になりつつある。
「そういえばなんで天理は[[rb:土の精霊 > ガノ]]の交換条件、好きな人の名前を言う。にしたの?」
歩きながら侯輝は昼間の試練で疑問に思っていた事を問う。純愛の間だからと言って基本真面目な天理がそういった事を条件にするとはちょっと考えにくかったからだ。
「ああ……新人の資料作ったのお前だろ。ごちゃごちゃ余計な事も書いてあったの」
試練作りの参考にと天理が事前に受け取った冒険者志願者達の資料には、少年少女達の能力以外に冒険にはおおよそ関係ない好きな食べ物だの癖だの個人情報が満載だった。侯輝のコミュ力フル活用の情報であろうと天理は推測していた。
「ん?そうだよーちゃんと読んでくれてたんだ」
「そりゃあな。清書してあったから書いて貰ったんだろなとは思ったけどな」
「えへへ」
侯輝は頭は悪くないが書類仕事は苦手だ。さぞパルマ辺りにさぞ迷惑かけた事だろうとも天理は推測していた。
「奏太と茉奈について両片思いのやつ書いただろ?だから…その、余計な事だとは思ったんだが」
明日の生死が分からない冒険者になるなら早い方がいいだろう。自分達は両片思いの期間が長かった。きっかけさえあれば…と天理はちょっと若人たちに慣れぬお節介を焼いてしまった。焼こうとしたら既に焼かれた後だったのだが。
「俺と一緒だ!俺も同じ事考えて試練の条件にしてたよ!」
バツの悪そうな顔をする天理に侯輝は嬉しそうに目を輝かせて言った。
「あ、そ、そうなのか……」
天理は侯輝も同じ事を考えて奏太と茉奈の恋の世話焼きをしていたと思うと頬を緩め、にやけそうになるのを必死で抑えていた。
「えへへ♪俺達以心伝心だね♪」
「お、おう……」
侯輝は繋いだままの手を大きく振りながら上機嫌で歩いていく。天理は照れつつ並んだ。
「あいつら幸せになるといいな」
「そうだね〜俺達みたいにラブラブになれるかな?」
「俺達みたいに、なぁ……比較できるもんかどうか分からんが…ふふっ、そうなるといいな」
天理はラブラブという表現がまだぬるいとばかりの愛情を込めた瞳で侯輝を見ると穏やかに微笑した。侯輝はそんな天理を見て自分の顔が火照るのを自覚する。これで純愛じゃなくてなんだっていうんだ。侯輝は胸がいっぱいになって思わず天理を抱き締めていた。
「お、い、まだ街中だぞ。ふはっ、お前顔真っ赤」
この薄明かりの中でも分かる程に赤くなっている様だったが、腕の中の天理もまた同様に顔を赤らめつつ、くすぐったげに笑うと、侯輝の顔を見上げて笑みを深めた。侯輝はこれほどまでに愛おしく美しい存在が腕の中で笑ってくれる奇跡に感謝した。
「ごめん、なんかもう我慢できなくって」
「ふふ、しょーのない奴。俺もか」
そう言いながらも自分からも抱き締め返してくる。お互いがお互いに溺れている自覚はありつつもそれを心地好いと感じてしまうのだから仕方ないのだ。
「ねぇ、キスしていい?」
「……家まで我慢しろ」
「今したいょぅ」
抱きしめる力を強め頬にすり寄りながら懇願すると天理は少したじろぎ辛そうな顔をする。
「っんな声で言うな……俺だって我慢してんだよ」
天理のまるで最中にお預けをくらったかの様な顔をされた侯輝は理性のたがが完全に外れた。なけなしの理性で街灯の明かりが届かない建物の合間の脇道に引っ張り込む。
「っおいっ!どこいく気…」
そして天理を壁に追い詰め、頭の後ろを押さえながら深く口づけると貪るように求めていた。
「ん!…む…ぅ…」
天理は一瞬抵抗しようとしたがすぐに侯輝の背中に腕を回し、自らも欲しかったのだと言わんばかりに侯輝を求める。
そのまま何度も角度を変えお互い夢中で唇を重ね舌を絡ませ合った。二人の体温があっという間に熱を持つ。
「っは……ん……は……」
「ん、ん……は、ん……」
そして、ようやく離れた頃にはすっかり息が上がり二人の呼吸音だけが響いていた。
「は、ぁ…立ってるのしんど…やりすぎた。とめろよお前」
真っ赤になって膝が抜けかけているのにそんな悪態をつく天理を侯輝は支える様に腰に手を回した。言葉とは裏腹に、少し乱れて露になった首筋や鎖骨辺り、何よりその表情がもっと欲しいと訴えている様にしか見えないのに。
「そんな顔しといて酷いなぁ俺が止められる訳無いのに。歩けそう?抱っこする?」
侯輝は苦笑しながらわざとらしく聞くと、天理はむっとして少しくやしそうな顔をする。
「あーくそっ、余裕こきやがって。ちょっと待ってろ、脚落ち着かせるから。あれは緊急時以外無し」
天理と深呼吸して下肢に力を取り戻させる。意地でも強気であろうとする恋人にまた苦笑しつつもこれはこれで可愛いなと侯輝はその様子を見つめていた。
「早く帰りたいなぁ俺爆発しそう」
「おいおい、緊急事態だな。はーっ…おし、とっとと帰るぞ」
「えへへ、うん、帰ろう!愛の巣へ、俺達のスイートホーム!」
天理は気合いで脚に踏ん張りを取り戻すと侯輝に手を差し伸べ、侯輝は差し伸べられた手を取りながら満面の笑顔で応えた。
「ぶっは、その表現恥ずかしいからやめろ」
天理は赤くなりながらもケラケラと笑い返す。メインストリートに戻ると再び二人は家路についた。夜の色で染まり始めた街路が二人の周りだけ温かい灯りで照らされている様だった。

家にたどり着き二人で「ただいまー」と言うと希守がまたどこからともなく現れる。二人で希守の留守番を労いながら希守の頭を撫でていると、この時だけ自分の恋人から親の顔になってしまう天理に侯輝はやっぱり寂しさを覚えた。希守がにこにことしながらすぅと消えると、それを察し恋人の顔に戻った天理にしょうがないなと撫でられた。

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