11.ちょっとだけ流された
「そう…じゃあ一つお願いだ。俺に悪いと思っているなら、これっきりにするから一度だけ抱かせて欲しい。一生の思い出にするから。お願いだ天理」
確固とした意志で否定する天理に土護は諦めた様に項垂れると手を天理の両肩に置くと哀願した。天理は思いがけぬ親友の申し出に驚く。信頼を裏切ってしまった事の後ろめたさと、土護のその願いが一生侯輝との関係は無いだろうと思って諦めていた過去の自分の想いと重なり思わず揺らぐ。「っ…」天理は唇を強く噛むと黙り込んだ。
「頼むよ天理。一度だけでいいから。それとも侯輝以外とは嫌かな?」
「っ……一度…だけだ」
しばらく考え込み、天理は小さく答えた。
「..天理、優しくするから。怖くはないからね」
そっと壊れ物を扱うように抱きしめられ、耳元で囁かれる。体がそれでも強張るのを感じた。
「すまん…キスとか跡つけるのはやめてくれ…あと後ろからだけにしてくれ…頼む」「…わかった」
天理は靴を脱ぎベッドの上で背を向けた。
「じゃあ始めるよ」
土護が天理の後ろからゆっくりと天理の上着を脱がしていく。「体、思ったより綺麗だね。学者ってデスクワークばかりだと思ってたから心配してたけど」
「遺跡探索するのにも体力いんだよ、あいつの手間増やす訳にもいかんし……っ」といつも一緒にいてくれる侯輝の事を思いだし辛くなってしまう。
「ごめん、余計なこと聞いたよね。大丈夫だから、もう考えなくて良いからね」
そっと髪を撫でられる。その優しい手付きは侯輝と似ているようでされど違っていた。
「触るよ」
「……っ」
天理の体に手が這わされる。首筋、背中、腕、腰、腹、胸へ。
(違う…違う…違う。侯輝)天理は目を瞑り耐えていると侯輝の顔が浮かんでは辛さが増した。
そして土護が天理のベルトを緩めつつ、後部に触れようと手を差し込もうとすると限界を迎えた。
「やっぱりダメだ!」と土護を振り払いその腕から逃げ出す。思いの外あっさりと抜け出せた事を少し驚きつつ否定する。
「やっぱりダメだ土護、俺の事は恨んでくれていい。俺は侯輝が好きなんだ、俺はあいつを裏切れない」
すると土護は大きくはーーと息を吐いた。
「…全くこのままお前が流されたらどうしようかと思ったよ。お前は優しすぎるね。まあそこをつけこむ感じにはしてみたけれど」と上着を天理の肩にかけた。
「…え?」
土護は後ずさりそのまま床に膝をつくと両手を地につけ頭を下げた。
「ごめん!!天理!侯輝への想いがどれくらいか天理を試してた!本当にごめん!!」
「なっ……」
「もう二度とこんな真似しない!だから許してくれ!」
「……土護」
「はい」
「神官が嘘ついていいのか?」
「大地の女神様はその辺少し寛容かな」
「ほ、ほう…あれが少し」と、腕を組む。天理は普段真面目で嘘や冗談の類いは滅多に言わない土護が随分と迫真の演技だったなと思う。本当に全部演技だろうな?
「ごめんなさい」
「俺が止めなきゃどうなってたんだ?」ちょっと怖い質問をしてみる。
「もっと自分を大切にしなさいってお説教コースかな?」
「うぇ。本番突入より怖いコースじゃねぇか…」
「侯輝を裏切るより怖いとか心外だな…」と少し顔を上げる
「お前のお説教えげつないだろ。あと、一応ちゃんと拒否ったんだから今お説教できんの俺、じゃ、ない、のか、よ」と土護を指差し、手首だけで荒ぶる。
「ちょっと流されそうだったけどね…」
「ぐ…それだってやり方えげつないだろ…一度きりとか。お前じゃなきゃ即ぶっ飛ばしてるわ」と気まずそうに言う。
「そこなんだよね…お前は態度の割には懐に入れちゃうと優しすぎるというか」
「甘いっていいたいのか」
「うっかり侯輝の為に体売らないか本当に心配だよ。侯輝を人質に取られて解放させる為に体を寄越せとか」
「…無いって多分」
「今、侯輝が助かるならーってちょっと思ったよね?そういうとこだよ」
「…思ってねぇよ。それにあいつなら簡単に捕まらんだろ」
「嘘つくときは目を逸らす癖あるよお前は。まあそうだね人質になるなら天理だね。気を付けるんだよ」
「そうだな。…あいつも平気で体売りそうだし」
「え、侯輝もその対象になるのかい?」
「そうだよ。あいつガタイいいし、俺なんぞよりあいつのがそっちの人には人気だぞ?」
「うへぇ。そういう世界もあるんだな…」
「見た目は爽やかイケメンだし、性格も明るいし、気も効くからモテるぞ。女にも男にも。…抱いたら可愛かったけどな」重苦しいまでの独占欲と嫉妬の塊になるのは自分だけのものだ。
「え?天理、侯輝抱いたの?抱かれるだけじゃないの?」といきなり食いつき気味に聞いてきた。
「まぁ…俺が基本下だけど、まだ一回だけな」
「ちょっとその話詳しく聞かせて貰っていい?天理、侯輝は8歳下だよ?俺達が18歳の時10才だよ分かってる?」
「おい、目をマジにすんな!いきなり保護者に戻るな!俺だってそう思ってたから下やってんだよ!一回だけだって!」
「本当だろうね?」
「本当だって!そもそもその一回だってあいつが抱いてくれって言うからやったやつだし、これからもたまには上下交代って話ついてんだよ。」そのたまにが次いつかは知らんが。
「なるほど、分かった。もうそれでいいからとりあえず続き話して」
「え、もっと詳細いんのか?」
「天理が侯輝に健全な性交をしているのか確認しておきたいからね保護者として」
(うわぁブラコンきたよ)「いや、普通だって」
「じゃあ何で侯輝がそんな事言い出したんだい」
天理は侯輝が天理の元カノの存在に嫉妬して最後の女?になりたいから抱いて欲しいと言われた事を説明した。
「侯輝…ああ天理に前カノさえいなければ侯輝は純血のままだったのに」
「ええ、そこ俺のせいか..ブラコン怖…」
「そうだよ!天理は悪くないよ!聞き捨てならないね!」
「お、侯輝お帰り」
「ああお帰り侯輝…」
「居間に居ないと思ったら何で俺が天理に抱かれた話で盛り上がってんのさ!それもたった一回の!」
「お前のブラコンお兄ちゃんがどうしても知りたいって言うから」
「侯輝、天理に酷くされてないね?」ハラハラと弟に詰め寄る。
「優しかったし、ちゃんと気持ち良かったよ!あと天理に前カノ居なくても抱いて貰ってたからね!天理の童貞も俺のモノだから!」
「そうか…」
「あああ…俺の可愛い弟が幼なじみに食べられたぁぁ」
「わざわざ俺の心を抉りにくる言い方をやめろ!合意だっつってんだろ!」
「そうだよ!普段は俺の方がいっぱい天理の事食べてるからいいの!」
「おまえもこれ以上生々しい話はやめとこうな」
「えー俺が天理をどう抱いてるのかの話の方が沢山あるし話したいのに…」
「絶対に言うな。お前の兄ちゃんは普段幼なじみがどう抱かれてるのかは興味無い」
「ところでさ、帰ってからずっと気になってるんけど、何で天理服乱れてんの?二人でナニしてたの?ねえ?」目が笑ってない笑顔
(忘れてた)
(なんでまだ直してないんだい天理)「ふ、服の中に蜘蛛が入ってきゃーとかなってたんだよ」
(嘘下手か。きゃーて)服装を正す天理
「本当に?天理は俺に嘘つかないよね?」と天理を見つめる。
「っ…え、とだな」
(しまった天理は侯輝に嘘をつけない!)焦る土護
「っ!俺はお前を裏切るような事はしてない!」
「本当だね!?」侯輝は曇り無き眼で更に見つめる。
「っ………ちょっとだけ流されかけた」と目を泳がせる
「天理ーー!」土護はどんな時でも正直な天理を悔やんだ。
「ちょっと土護兄。話があるんだけど。天理はそのあとでね」
「落ち着きなさい侯輝。ちゃんと未遂だから」
「これから結婚予定の俺の可愛いお嫁さんに未遂するような何かをしたの?」
「とりあえず可愛い嫁はやめろ」
「それよりフォローしてくれないか天理」
「どうせ俺はこの後、侯輝にお仕置きとか言われるオチだろうから、体力を温存したい。兄弟で先に体力削っといてくれ。俺へのお仕置きを軽減したい」と悟った目で親友を見る。
「とーもーごーにーー!!」
侯輝本当に大きくなったね、怒る姿も迫力があるよ…と土護は思いながら、やむ無く天理に迫って流されないか試したことを話した。
「土護兄。ちょっと正座」
しばらく侯輝の説教が続いた。その間天理は風呂を借りた。
「うわぁぁぁ侯輝に嫌われたぁぁぁあ」
「土護兄はそこで反省してて。さ、次は天理ね」
「大して体力削れてないな土護…すまんが湯沸し器に、魔力チャージ頼む」風呂で準備を済ませた天理はまた風呂入るんだろうなと覚悟した。
「いいけど…あと客間なら一緒に寝られるけど声は抑えてくれ…」
「悪いがこいつ次第かな…」と侯輝に客間に引っ張られながら言った。