はっぴーしぇありんぐ

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天理と侯輝がそんな話をしてからニ週間後の事。
初心者訓練用ダンジョンに挑むまだ少年少女と呼べる年齢のパーティが簡易訓練ダンジョンを抜け、試練の間にたどり着いていた。
少年少女達は訓練とは言え緊張が隠せない様子でその部屋に入る。30畳くらいの何もない石畳部屋に入るとよく通る力強い歓迎の声が聞こえてきた。そこには先輩冒険者の侯輝が片手剣ほどの木製の模造刀を脇に携え佇んでいた。
「よく来たね!ここは勇気の試練の間だよ!俺が出す試練を乗り越えたら次の間の鍵を上げるよ!もちろん試練無視して俺が持つ鍵を奪うのもありだよ!」
そう侯輝が首から下げた鍵を見せながら言うと一人の少年が質問する。
「侯輝先輩、それで勇気の試練って何ですか?」
「それはね[[rb:奏太 > そうた]]…………自分の好きな子の名前を言う!」
侯輝は妙に溜めた後、ウィンクし、ビシッと少年少年達を指差しながら言った。
「えええ!侯輝先輩、それのどこが勇気の試練なんですか!先輩と戦うんじゃないんですか!」
その内容に少年少女達が唖然とする中、ポニーテールに髪を結んだ勝気そうな少女が侯輝に突っ込んでいた。
「もちろんそれもありだよ?でも勇気ってそういう事だけじゃないよね?![[rb:茉奈 > まな]]」
「ちょっ、聞いて無いですよ!」
侯輝であれば速攻でクリアできるお題であったが思春期真っ盛りの少年少女達には難題であった。お互いをチラチラと見交わしつつ、慌てる少年少女達に侯輝が笑顔で答える。
「戦ってもいいけど。手加減しないよ?俺今守護者だしね!さ、どうする?」
侯輝が模造刀を手に取る。木製の模造刀とはいえ当たり所が悪ければ死ぬ事もある。少年少女達は侯輝の腕前は訓練で良く知っていた。どうしたものかという雰囲気で顔をみ合わせる少年少女達だが茉奈が進み出る。
「やります!絶対負けないから!」
「茉奈、その心意気良いね!準備が出来たらいつでもおいで。本気で行くよ!」
そう言うなり模造刀を持ち素振りを始める侯輝に、少年少女達は意を決しそれぞれの武器を持って前に出た。
「うわあ!」「きゃああ!!」「ひいい!」
飛び掛かる少年少女達だったが、その攻撃は侯輝に全く当たらない。回り込んだり一斉に切り込むもいなし弾き飛ばされる。ごく簡単な風や火の精霊術を使える者もいたが実線慣れしておらず簡単に止められ防がれていた。息一つ切らさない侯輝に対し、体力の配分も滅茶苦茶なので少年少女達はもうヨレヨレだった。結局5分間ひたすら打ちのめされた少年少女達。
「さっどーする?失格で帰る?これクリアしないと冒険者デビューできないよ?」
地べたにへたり込み諦めた様に消沈しつつある少年少女達に侯輝は少し挑発的に告げた。
すると茉奈が再び進み出た。その目は真っ直ぐに侯輝を見つめており、先程までとは違う真剣さが感じられる。
「私はどんな事をしても絶対冒険者になる!私、私は……!奏太が好き!」
そして茉奈は自らが好意を向ける少年の名前を言った。勇気の試練の条件で突破しようとする試みであった。
「えええ!!?ちょっ、待って!俺は」
突然の告白に慌てる奏太だが、目の前の茉奈の目からは本気が伝わってくる。そして更に顔を真っ赤にしながら「好き、ずっと昔から奏太が好き!お嫁さんにして!」と叫ぶ様に言われると奏太もまた顔を赤くしていた。
「奏太!茉奈は勇気を出したよ!ちゃんと答えないとダメだよ!」
そして侯輝は奏太にも勇気を課す。奏太は一旦考え込む様に目を瞑り俯き、そして意を決した様に顔を上げて茉奈に告げた。
「うん…俺も茉奈のこと好きだ。結婚しよう。今はまだ無理だけど、必ず一緒に住めるようにするから。俺が立派な冒険者になった時にプロポーズするよ。だからもう少し待ってて?」
そして奏太が茉奈を優しく抱きしめると茉奈は「うぅ〜〜待ってる~!」と泣き出してしまった。
侯輝はそんな茉奈の頭をポンっと撫でる
「よし、合格!素晴らしい勇気だったね!戦闘の方はみんなちゃんと成長してるからこれからも頑張って。ただ冒険では戦い以外にも必要なものあるからそれを忘れないように。それじゃ鍵をあげるよ!」
侯輝は笑顔を見せると茉奈に鍵を渡す。少年少女達が両想いになった二人を祝福したり冷やかしたりするのが落ち着いたところで、侯輝が一人一人に戦い方の反省点や良かった点についてアドバイスをし、次の試練へと進んだ。

「次は純愛の間?何の試練なのかしら」
「あの、侯輝先輩はなんでついてきてるんですか?」
「今日君達が最終組だから次の見学しようなかなって。大丈夫、ついてくだけだから気にしないで!試練の邪魔はしないよ!」
奏太が侯輝に半信半疑な視線を送る中、茉奈が鍵を開け扉を開くと、また30畳くらいの石畳の広い部屋だった。奥には1畳程の花壇が見え、開けな放たれた大きな窓から小さな花壇に光が差し込んでいる。中央には見知らぬ黒髪の男性がイスに腰掛け長い足を組んで本を読んでいるのを見つけた。その男性もこちらに気づくと本をテーブルに置き立ち上がると話しかけてきた。
「よくきたな冒険者志願者達、ここは純愛の試練の間……っておい、余計なのついてきてんぞ。前の試練の間の守護者がなんでついてきてんだ」
黒髪の男性が試練を厳粛に始めようとしていたが、侯輝を見た途端呆れた様な顔をすると途端に言葉遣いが乱れた。
「もう最終組だから見学でーす!この子達の邪魔はしないよ!」
「帰れ」
「ええー絶対邪魔しないからー!天理ー!」
侯輝が親しそうに元気に答えるがに天理はにべもなく否定すると侯輝は尚も食い下がった。
天理と呼ばれたその名前には少年少女達は聞き覚えがあった。時折宴会で酔った侯輝が自慢している『可愛い嫁』の名がそれだったはずと。よく見ると天理の左手の薬指にも侯輝のものと似た指輪が嵌められていた。じゃあこの人が噂の嫁…と少年少女達は心の中で思った。男性であった事は驚いたがその凛々しい顔の特徴は侯輝が酒の席でデレデレと自慢していた内容と一致する。
「はぁ、仕方ないな……」
「やったーありがとう天理大好き!!」
「抱きつくな。そこで大人しくしてろ」
「はーい♪」
見た目によらず押しに弱いらしい天理はため息をつくと諦めた様に許可を出し、侯輝は喜びのあまり抱きついた。天理はすぐに腕を解かせ侯輝を離れた所に座らせる。先程自分達を完膚なきまでに叩きのめした先輩がゴールデンレトリバーの様に尻尾を振りながら甘える姿に、少女らは戸惑いつつも若干引いた目を向けた。
天理はこちらに向き直ると再度話しかけてきた。
「あー悪かったなお前ら、改めて。ここは純愛の間だ。俺は守護者の天理。俺が出す試練をクリアしたら合格だ。試練はここにある判子をとってお前さん達が持ってる講習用の手帳に印を押せ。仲間内で判子の使いまわしは不可。以上」
天理は試練の内容を伝えながらテーブルの上に置いてあった金魚鉢の水底に沈んだ人数分の判子を指指さした。脇にはスタンプ台や試し打ち用らしい雑紙も置いてある。もう一つの椅子の上には暇潰しだろうか何冊か本が置いてあった。茉奈が驚いた表情で天理に問いかける。
「え?それだけですか?」
「それだけだ。まぁがんばんな」
天理は話は済んだとばかりに座って本を読み始めた。侯輝は遠巻きに興味深そうに眺めている。
一見簡単過ぎる試練に少年少女達が戸惑う中、まずは行動しようと茉奈が金魚鉢に手を入れようとすると奏太が引き留めた。
「待って!その水怪しい!水の精霊の力を感じる!」
慌てて茉奈は手を引っ込めた。天理は歓心した様に奏太に話す。
「お前さんは確か水の精霊適性持ちだな。正解。ちゃんと感知できたな。さてどうする?手突っ込んだら極悪なトラップかもな?」
天理は意地悪く笑った。
奏太は精神を集中し金魚鉢の水に探りを入れた。確かに精霊力は感じるが敵意は感じない。水の精霊がなにやら暇そうにこちらを覗いているがそれ以上の事は分からなかった。奏太はかっこいい剣士を希望し精霊術の訓練は真面目に受けていなかった事を悔やむ。
「どう?奏太、やっぱりこのまま手を入れたらまずい?」
茉奈が不安そうに奏太に尋ねる。
「確かに水の精霊力を感じるけど…危なくはない…と思う!」
「分かったわ!でも慎重に手を入れてみるわね」
奏太の言葉に茉奈がほっとした様子で水の中に手をゆっくりと入れていく。
「あれ?普通に冷たいだけ……うーん、手を浸けると私も何か感じるんだけど特に何も無いわね」
茉奈は拍子抜けしてそのまま水底の判子を取り上げた。無事に取れた判子を嬉しそうに少年少女達に見せる。
「さっきも言ったが判子は一人一つだからな」
天理が釘をさすように言った。判子の使い回しは禁止。つまり全員やれとの事だろう。奏太や他の少年少女達もやや緊張しつつそれに続き無事全員判子を引き上げた。そして茉奈が早速濡れた判子を拭きいざインクにつけて判を押そうとして雑紙に気付き天理に「使っていいぞ」と声をかけられた。
茉奈がインクを付け雑紙に印を押そうとするとやたらインクが水で滲んで印が滲む。まともに打つ事ができない。このまま打ったら証明書でもある手帳が水浸しになってしまうだろう。
「あれ??」
濡れた判子を手拭いで拭って再度押そうとしても何度やっても同じだった。判子から滲んだ水で雑紙がどんどん濡れていく。
「これじゃ押せないじゃない!」
茉奈が困り果てていると、奏太はそこで漸く判子からも微細な水の精霊力を感じ取っていた。
「この判子からも水の精霊力を感じる!きっと水の精霊が判子から水を滲ませてるんだ。水の精霊をなんとかしないと……」
「それで?!でもどうやって!?」
「う、なんだっけ……?」
奏太は頭を抱える。またも精霊術の授業を真面目に受けていなかった事が災いしていた。水の精霊がフフンと得意気にしている中、少年少女達が揃って頭を抱え解決法を相談する。
「精霊術が使えないと無理なんじゃ?僕らじゃできないよ」
「い、いやまだ諦めるのは早いよ。水にもう一回浸けてみるとか?」
「やってみる!……ダメっぽい」
その他にも火を点けてみようとしてはあっさり水の精霊に消され、風を当てても全く効果が無かった。
そんな中、見学していた侯輝が暇そうに本を読む天理にすすっと近づき小声で話しかける。
「天理、その本暇つぶし用?沢山持ってきたね。」
「まぁ俺の試練内容だと時間ありそうだったからな」
「考古学の本かな?あと……あ、これ懐かしい初心者用精霊術の本だ。俺も昔読んだよ。ふーん?なるほどー」
初心者用精霊術所を見つけた侯輝が意味ありげにニヨニヨと天理に笑いかけると天理はバツが悪そうな顔になった。
「……な、なんだよ」
「天理が今更"初心者用の精霊術"の本読む必要無いのになんで持ってきてるのかなーって」
と、ここで侯輝は普通程度の音量で話始める。そしてその声は水の精霊をなんとかしようと頭を抱えていた少年少女達の所まで届いた。「やーさしーいなー♪」とニヨニヨと話しかける侯輝に天理は少し顔を赤くしそっぽを向いた。
「う、うるさいな。初心忘れるべからずだろ俺だって読む時があんだよ」
「ねえねえ奏太、あれ!」
「うん!」
初心者用精霊術の教本!奏太は天理に恐る恐る聞いてみた。
「あ、あのっ!その初心者用精霊術の本読ませて貰ってもいいですかっ!?」
「んー?今試練中だよ?カンニングできるのかな?」
「まぁ、あれだ。ダンジョンに運良く初心者用精霊術の本が置いてある場合だってあるだろ。いいぞ。」
侯輝が横から意地悪そうに、だがクスクスと笑いながら口を挟むのを横目に天理は奏太に許可を出した。
「ありがとうございます!!」
奏太が喜色満面でお礼を言うと天理は照れたのか視線を逸らす様にまた本を読み始めた。侯輝が横で何やらニコニコ笑っている。
奏太は早速パラリとページを開くと茉奈も「見せて見せて」とその本を覗き込む。そこには図解入りで精霊に関する分かりやすい説明が載っていた。
「ええと……水の精霊の対処法は……『火は水に弱く、水は土に弱く、土は風に弱く、風は火に弱い』か。」
「あっこれやったような気がする!」
「ともかく土の精霊術が使えれば判子についてる水の精霊力を抑える事ができそうだな。」
「土の精霊術かー。誰か使えたっけ?」
少年処女達はお互いを見つめあうが誰も使えない。土の精霊適性があるものは居たが精霊使いとして行使できる者は居なかった。またも沈黙が訪れる。
「これ私達じゃクリアできないんじゃ……?」
少年少女達がまた騒然していると、天理から声がかかる。
「一応精霊魔法が使えなくても解ける様にはしている。良く観察するんだな」
とだけ言うと、また本を片手に読書を始めた。観察……と呟きながら奏太達は改めて部屋を見て回る。入ってきた時に見えた部屋の隅の花壇が目に入った。
「あ……あの花壇から何か感じるよ……」
土の精霊適正を持った少年が控えめに告げると、他の少女らも同意した。
「あそこに土の精霊が居るんじゃないかな」
「土の精霊さんにお願いして判子から水の精霊を追い払ってもらおう」
天理が本で顔を半分隠しながら様子を伺う中、少年少女達がは判子を持ってその花壇に近づくと待ってましたとばかりに突然土の精霊が姿を現した。
『こんにちはー!』
「わっびっくりした!こんにちはー」
「土の精霊さん、力を貸して欲しいんだ。水の精霊を判子から追い出して欲しい!できる?」
『できるよー!でも、ただじゃお願いきけないなー』
土の精霊が得意気に笑うと、茉奈が困ったように眉を下げている。
「お願いしたいけど、どうしたら良いのかな」
「なんか欲しい物とかあるの?」
土の精霊は楽しげにくるりと回りながら答える。
『ここは純愛の間なのさ!だから君達の好きな人の名前を教えてくれたら協力してあげるよ!』
その内容に無言で顔を赤くする茉奈。奏太はさっきの試練の間を思い出し苦笑いしている。
「あの…それさっきやったんだけど…」
『「え?」』
土の精霊と天理がシンクロした様に驚く。
すると天理の横にいた侯輝が元気よく告げた。
「ごめーん!天理、俺、勇気の間の試練でそれお題にしちゃった!」
悪びれもしない侯輝の態度に天理が頬をヒクリとさせると手持ちの本を侯輝へべしりと投げつけ叫ぶ。
「ばーーーか!!」
呆気にとられる少年少女達を他所に侯輝は「危ないよー」と言いながら寸でで本をキャッチしつつ笑っている。
「何で勇気の間でそんなお題出してんだお前はぁ!」
「だって告白には勇気いるでしょ?俺も天理に告白する時はすんごい勇気要ったし、お題にしてもいいかなって」
「な!今関係ない話まですんな!」
試験官同士で口論が始まったと思っていれば天理が顔を赤くする。それはほぼ痴話喧嘩であった。侯輝に「ほらほらそれより試練の続きしないと」と言われ、天理はハッとすると唖然とする少年少女達に向いた。
「あ、ああすまん、また逸れた。じゃあそのお題ならクリアしてるんだな?」
天理の問いに奏太と茉奈はコクコクと頷く。
「じゃあ合格だ」『ウィン、ガノお疲れさん。還っていいぞ』
『よっし還れる!じゃあな!』
『楽しかったーまったねー』
天理が水の精霊と土の精霊の名らしきもの名を呼ぶと、水の精霊と土の精霊は共に姿を消した。すると少年少女達が手に持った判子から水が滲み出てこなくなった。
「水の精霊魔法でこんな事できるんだ……」
「あの、純愛の試練ちゃんとやってたらどうなってたんですか?」
『ふふふそれはねー!』
『おいもうお仕置き労働終わっただろー!』
「こら勝手に出てくるな」
奏太の問いに天理が答えるより早く[[rb:土の精霊 > ガノ]]が天理に喚ばれてもいないのに何故か[[rb:水の精霊 > ウィン]]を引っ張りながら顕れると、ガノは嬉々として説明し始めた。
『判子に宿ったウィンをえいってパンチして……ほらウィンやってやって』
『あーれー』
ガノが軽くウィンにパンチすると棒読みのウィンが倒れるという寸劇が繰り広げられた。
「で、判子から水の精霊を追い出せるという流れだったんだ。ガノその辺にしてやれ。そして還れ」
『はーい』
『ちくしょーもうやんねーからなー』
天理に言われ、ガノは素直に返事をして消え、残されたウィンは負け犬の遠吠えの様な捨て台詞を残して消えた。
「なんか水の精霊さん可哀想……」
茉奈の呟きに天理が答える。
「うーん、それはな……調子に乗って遊んでたウィン…水の精霊が、ガノが土の精霊魔法で一生懸命作ってくれてた遺物レプリカを壊した為でな……今回のは反省労働だ」
「そういう事ってあるんだ……精霊使いってもっとこう淡々として厳粛?な感じだと思ってました」
「ま、天理の使役精霊くらいのものだろうけどね。あれだけ好き勝手するのは」
茉奈や侯輝の言葉に天理が肩を落とす。
「はは、そうだな。未熟な限りだ。将来精霊使いになっても俺のは参考にしてくれるなよ」
自嘲気味に笑う天理に侯輝はにこりと笑いつつも真剣に告げた。
「でも俺、天理の精霊好きだよ。いざという時は便りになるし楽しいし」
「俺も精霊使いになるならあんな感じの友達みたいな精霊がいいです」
侯輝と奏太にそう言われ、同意するように頷く少年少女達に天理は照れて俯きながらも口元を緩めた。
「……そうか、ありがとな。さて!横道にそれてしまったが試験は最後までやってくれよ」
天理が苦笑しつつ試験の続きを促した。
少年少女達は再度インクをつけ試しに押してみると今度はちゃんと押すことができた。講習手帳に合格の印が押される。皆が喜ぶ中、天理が手を叩く。
「見ての通り合格だ、精霊術についてはもう一度復習しておけよ。精霊は色々いるけど真摯に向き合えば力を貸してくれるからな。今は難しくてもじっくり付き合ってやってくれ」
「はい!」
「ふふー。ちなみに天理が精霊の召喚主だって気づけたなら、天理を気絶させても解けちゃうのは皆気付いてた?」
「あ!」
侯輝の言葉にハッとして声を上げる奏太。思えば自分達が謎解きに専念するよう誘導されていた事に気づく。先の間で明らかに戦闘の構えを見せていた侯輝と異なり、戦闘は選択肢に無いとばかりに武器も見当たらず無防備に本を読んでいた天理。
「あれはわざと解かされてたんですか?」
「俺は近接戦はからっきしだからな。こういう風に人の話を全っ然聞かずに物事の解決に向けてあらゆる可能性を考えられるのも冒険者の大事な資質だから覚えとけお前ら」
天理が侯輝を指差しながら言うと少年少女達は素直に「「はーい」」と返事をしていた。
「ねぇねぇ天理、俺褒められてる?」
「お前は初心者じゃないだろ。まあ昔から突拍子無かったけどな」
侯輝がにこにこと天理に言うもやはり素っ気なく返されていた。傍目に仲が良いのか悪いのか微妙だなと思いつつ茉奈が質問する。
「好きな人いなかったらどうなってたの?」
「好きな物について語るで可。例えば遺物とか遺物とか遺物とかな。遺物はいいぞ」
茉奈からの問いに天理はうんうんと頷きながら話す。どうやら天理が遺物が好きなのだろうと思いふと読んでいた本を見るとそれは題字すら読めない文字だった。内心感嘆していると侯輝が語り始めた天理に突っ込みを入れた。
「天理それ話長くなるからやめてあげて?」
「なんでだ、折角若人に啓蒙できるチャンスなのに。バイト代だけ貰って帰ってたまるか!」
「え、これバイトだったんですか?」
「頼まれてな。俺冒険したことあっても冒険者じゃない。本業は学院の遺物研究の学者だ」
奏太の問いに天理は手持ちの本を見せながら答える。
「俺は普段、遺跡調査で護衛の依頼を出す側だ。縁があったら護衛を頼むかもしれん。その時はよろしくな」
それまで比較的堅そうな印象だった天理が少年少女達に微笑えむと、彼らは頬が熱くなった気がした。
「あんまり無いと思うけど。天理には俺がいるしね!」
だが侯輝がその間にすかさず割って入ってきた。その様子に天理はまた呆れた表情に戻りまたほぼ痴話喧嘩が始まった。
「お前は新人にまで牽制して回るな」
「君たち天理の護衛をしたいなら俺を倒してからにして貰うからね!」
「ついさっき不可能なのを証明したばかりの新人に無茶言うな!俺の若人への遺物啓蒙活動の機会を奪うな!」
「やーだー!天理はずっと俺が護衛すーるーのー!」
「おい!抱きつくな!子供に見せるもんじゃねぇ」
仕舞には天理に抱きつき始めた侯輝に、天理はぐいぐい押し返すも離して貰えないらしい。
「あ、あの……お二人は結婚してるんですか?」
「そうだよーいいでしょー」
「こらっやめっ」
奏太の問いに侯輝は天理を抱き締める力を強めると天理にじゃれつき始める。少年少女達はその様子を見て少し顔を赤めていた。
「いい、加減に、しろ!」
「ぐはっ!」
天理が指を一鳴らしすると侯輝が数メートル吹っ飛んだ。一瞬小さな風の精霊が頬を膨らませて可愛らしく怒っているのが見えたがすぐに消え、その後拡散した様な風が吹いた。
「今の……風の精霊魔法?ねえ詠唱聞いた?」
「聞いてない……」
夫婦漫才と化した二人を見ながら茉奈と奏太は呟く。少年少女達は天理に近接戦を挑んでいてもほぼノータイムであの魔法が使えるなら勝てなかったのでは。と思うに至る。先程近接戦はできないと言っていたが謙遜だったのだろうかと。
尚、少年少女達が天理の精霊適性が一般的な一、二種類でなく三種類もあることに気づくのは冒険者証を貰った頃で、更にレアスキルである四種だった事を知るのはもっと後になった。
「お前ら度々すまんな合格だ。おめでとう。出口はあっちな」
「おめでとー!」
天理が出口を指さし、侯輝は大してダメージを負っていないようで半身を起こしながら見送ってくれた。
「「あ、ありがとうございましたー!」」
こうして、少年少女達は馬鹿っプルってこんな感じなんだな気を付けようと思いながら純愛の試練の間をあとにした。

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