空想と太陽の物語3
ーーお前と一緒に、逝きたかった。
地下2階まで上がってくると狭く高い天井の岩の隙間からほのかな明かりだけが差し込む薄暗い地底湖だった。近くにはスタートポイントと書かれた桟橋に船外機付きのボートが置いてある。先のフロアでのモヤモヤを晴らし気分転換させるように言う。
侯輝:「今度は誰もいないとこなんだね。このフロアはこのボートで進めって事かな」
天理:「らしいな。まったくモーター付きとは便利だな」
天理は船外機のスイッチを入れる。モーター音が鳴り響き船は問題なく動き出した。
天理が薄暗く狭い水路もどこか慣れた様に梶を取りながら警戒しつつ水路を進む。岩で入り組んだ地底湖は一本道の水路で時折岩影に小動物は見かけたもののモンスターは現れなかった。
侯輝:「えへへ、こういうデートもいいよね」
天理:「そ、そうか?まあお前と一緒なら……って油断するなよ」
侯輝:「うん、分かってる……お出ましみたいだね」
水路を進むと開けた地底湖に出た。船外機のエンジン音でこちらの所在はバレバレにもかかわらず地底湖中心には待ち構えるようにどことなくどこかで見たような気がする巨大な灰色の水蛇が水面から顔を出していた。舌をチロチロと出し入れし威嚇音を出しながら獲物を品定めするように二人を見つめてくる。
侯輝:「やる気マンマンっぽいね」
天理:「船上じゃただの餌食だ、水上歩行をかける。ウィン!」
侯輝:「おっけー!光の精霊よ
暗がりを照らせ!」
天理の水の精霊ウィンの力により水の加護を得た事を感じた。そして侯輝は剣を構えつつ光の精霊を呼び散開させ光源を確保しつつ、巨大水蛇の目を眩ませた。
侯輝:「いくぞ!はぁあああ!」
天理:「ガノ!力貸してくれ!」
二人は素早く船から水上に飛び降りると素早く水上を駆け水蛇に接敵する。侯輝は光の力を帯びた剣で斬りかかり、合わせる様に天理は土の精霊力で身体能力を強化しながら小刀で突く。
水蛇:「シャアアァッ!!」
元々目は良くない水蛇は目眩ましにはほとんど怯まず、赤視と匂いですぐにこちらを補足する。水蛇は痛みの怒りをぶつけるかの様に侯輝に素早く噛み付こうとした。
侯輝:「っぃっ!!はぁー!!!」
侯輝は寸で回避し、避けながらすれ違い様に胴を切り裂く。傷口から血を吹き出しながら水蛇は激しく暴れ、その口から蛇のものとは思えない低い音を発すると水中に潜った。二人が水中を警戒していると水中奥深くが一瞬赤く光り水上にいても伝わるほどの振動が伝わってきた。心の奥で警鐘が鳴る。
侯輝:「これまずくない?!」
天理:「水奥の土と火の精霊力が尋常じゃない!水底噴火だ!逃げるぞ!」
水底が徐々に赤く明るさを増してくるのが見えてくる。徐々に上がる水温。
侯輝:「嘘ぉ!これ攻略方法あるの?!」
天理:「ウィン守ってくれ!」
水の精霊ウィンの守りを受けながら二人はボートのエンジンをフルスロットルにし急いでその場を逃げようとする。だが尋常ではないスピードで湖の水がせり上がり始め水位が上がり始めた。
水蛇:「ガアアァッ!」
水蛇は水面から飛び出してくるなり、ボートを体当たりで破壊し二人に飛びかかるとそのまま二人を丸呑みにした。
天理:「っ!ウィン!」
侯輝:「負けるかぁあああああ!」
侯輝は天理と離れない様、天理の腰に手を回し強く抱きしめ、天理は水蛇の牙から二人を守る様にウィンの守りのフィールドを強化する。そして水蛇の喉奥へと完全に飲み込まれる瞬間、侯輝は剣を突き立て水蛇の口内を滅茶苦茶に切り刻んだ。
水蛇:「ギャオォオオオ!!」
水蛇は痛みに叫び声を上げながら暴れ、口から大量の血と共に二人を吐き出すとそのまま徐々に力尽きたのか動きを止めていった。なんとか水蛇は倒せたものの水中が水奥より溶岩で満たされていく。
天理:「ガノ!シア!ブラム!」
侯輝:「天理、俺の魔力も使って!」
天理は更に土の精霊ガノ、風の精霊シア、火の精霊ブラム、と4精霊全てを呼び衝撃防御、呼吸維持、熱遮断を施す。侯輝は天理をきつく抱きしめながら天理の魔力枯渇を案じ、魔術契約を通じて天理へと魔力の供給を図る。噴火の衝撃が凄まじく視界も遮断される中、天理は侯輝に強く抱きしめられ魔力を受けながら全精霊力を駆使して必死で空中へ安全な所へ戻ろうとする。だが状況は絶望的だ。ゲームとは思えない程のリアリティーが侯輝の心臓をバクバクと揺らした。
天理:「くそっ!このままじゃ……このままじゃ……また……また!!……嫌だ!嫌だ!嫌だ!!」
侯輝:「天理?!落ち着いてっ……あ、れ?これって……俺……は……っ!!」
逼迫した状況だけに慌ててしまう気持ちは分かるが天理が異常な程取り乱し始める。そして侯輝もまたこの光景に強烈なデジャヴを感じてしまっていた。それは遠い遠い昔、同じ体験をした様な記憶。
天理:「戻る!戻るんだ今度こそ二人で!」
錯乱寸前にも見える形相で天理がギリギリで精霊を維持しているのを見てはっとすると取り乱した天理をなんとか宥めてあげたいと思い侯輝は天理を抱き締める力を強めた。
侯輝:「天理!天理!落ち着いて!俺はここに居るから!ずっと傍にいるから!だから」
天理:「あ……あ……う……傍、に……う、わぁあああああああああああ!!!」
侯輝:「天理!!っ……!」
侯輝の声に天理は一瞬光を取り戻すも涙を流し絶叫すると完全に精霊の制御を失った。衝撃に飲み込まれ視界を完全に失うと遠くで「ビーッビーッビーッ!機器の異常を検知。緊急停止します」と機械音声を聞きながらそのまま意識を失った。