空想と太陽の物語3

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ーー人として生きそして多くの人にめぐり逢い支えられて結ばれた。

地下3階に昇るとそこは大きな中世風の街中といった場所だった。リアリティに溢れた大勢のNPCらしきキャラクターが行き交い活気がある。見たことが無いのにどこか懐かしい感じがした。
侯輝:「うーんでも何すればいいんだろう」
天理:「お約束としては冒険者ギルドってやつにいってみるか」
侯輝:「だねぇ」
しばらく歩くと石造りの大きな建物が見えてきた。
中に入ると、酒場の様な雰囲気だった。ボードに貼られた依頼書らしきものを眺めていると30前後と思われる女性から声をかけられた。
パルマ:「いらっしゃい、あんた達ここは始めてだね。あたしはパルマ、このギルドの仕事の取り纏めをやってる。今新人だろうが猫の手も借りたい所なのさ。暇なら仕事手伝ってくれないかい?お使いで悪いんだけど……」
パルマから依頼されたのはとある考古学者夫婦の荷物を運ぶ事だった。
なんでも最近遺跡で発掘された貴重な古代の書物を研究所まで運び出したいので護衛して欲しいらしい。目的地はここから近いらしく徒歩で行く事になった。
護衛の道すがら、かつて考古学者を目指していた天理は相手がただのNPCだと分かっていても興味深そうに質問をしていた。
質問責めにしてしまった事にはっとして天理が謝罪すると、考古学者夫婦には息子がいるらしくまるで大きくなった息子と話している様だと喜ばれた。
侯輝:「でも本当に親子みたいだね。よく見ると二人に天理ちょっとずつ似てる」
天理の黒髪や凛々しい眉と少し引き結んだ唇は夫、アンバーの瞳と理知的で涼しげな目元は妻に似ている。
天理:「そ、そんなに似てるか?」
学者妻:「あら、うちの子が将来こんなにイケメン君になってくれるなら嬉しいわ」
学者夫:「……お前たち。もうすぐ着くぞ」
終始天理と楽しそうに考古学談義をしていた学者妻がきゃっきゃとはしゃぎ、ぶっきらぼうな口調だが優しい声音で学者の夫が話しかけてくる。
そして目的地の街へと無事辿り着いた。
学者妻:「この度は護衛して頂き有難うございました!冒険者のお仕事頑張ってね!」
天理:「いえ、こちらこそ。楽しかったです」
侯輝:「また会えるといいね」
学者夫:「……やる」
学者の夫が天理に近づくと鍵らしきものを差し出す。
学者夫:「これは古代の魔道具だ。使い方は分からないが、もし使えれば役に立つかもしれない」
天理:「え?いいんですか?ありがとうございます」
学者夫:「ああ、達者でな」
学者の夫はそれだけ言うと荷物を抱え歩いて行った。学者の妻がふふふと笑い手を振りながら夫の後を追うのを見送る。天理:「これ……鍵、だよな?」
天理は渡された先端が不思議な光沢を放つ小さな金属製の鍵を見つめ首を傾げる。鍵の持ち手は6枚の葉を模していた。鍵というものは開ける対象があって初めて意味を成す物である。
侯輝:「何に使えるんだろ?」
天理はとりあえずポーチにしまい込んだ。
天理:「さっきの人の子供ってどんな感じだったんだろうな」
侯輝:「きっと美人さんだよ」
天理:「息子と言ってたが……まあそうかもな」
天理は侯輝の言葉にくすりと笑うと再びすべき事を探す為ギルドへと移動する。地下3階のフロアは明確な指針が無いのでとにかく探すしか無さそうだ。

キョロキョロと街中を歩いていると奥から鎚を叩く音が聞こえる武器屋兼鍛冶屋を通りかかる。そろそろ武器を新調したかったので武器屋の店内に入って行くと従騎士らしき赤髪の女と鍛冶士が深刻そうな顔で細長い箱を前ににらめっこをしていた。
女従騎士:「どうしよう……このままじゃ兄さんの御使いが果たせない……正騎士叙任式に間に合わない……」
侯輝:「ねえねえどうしたの?」
野次馬精神が疼き興味津々で尋ねると鍛治士と女従騎士は急に話しかけられた事に驚きつつ藁をも掴む勢いで事情を説明した。
女従騎士が言うにはこの箱の中にある刀を鍛冶屋で研いで貰いに来たが収納箱が開かずに困っていたらしい。鍵穴はあるが鍵は無く、細工鍵ではない様で解錠スキルでは開かない。家に戻れば鍵があるかもしれないが戻っていたら叙任式に間に合わない。木箱なのでハンマーで叩き壊せそうではあったが、中身の刀も壊れてしまいそうだ。
侯輝:「そっか……そうだ!天理さっきの鍵使えない?攻略アイテムかも!」
女従騎士:「コウリャクアイテム?」
天理:「侯輝、メタな発言はNPCにするな。親父から貰った鍵か?」
天理はリュックから先程の考古学者の夫から貰った鍵を取り出す。
鍛治士:「そいつはアーティファクトの如何なる物も開けられるってぇ魔法の鍵じゃねえか?!実物は初めて見るぜ」
侯輝:「じゃ使ってみようよ!」
天理は実際そんなアイテムゴロゴロあったら問題だろうと思ったがそこは突っ込まずに鍵に魔力を込め解錠を試みた。が、一瞬光ったものの鍵が回らない。
天理:「不良品か?親父め……」
侯輝:「ダメかぁ……天理何気にあの学者の夫さんの事、親父って呼んでるんだね」
天理:「え?ああ、なんとなくな」
女従騎士:「わ、私にも試させて貰えるだろうか?」
珍しい物を触ってみたいとワクワクしてる体で手をピシッと挙げながら女従騎士が言い、天理がクスりと笑いながら「どうぞ」と場所を代わり女従騎士が鍵を掴む。そして女従騎士が気合いを入れるかのように「むん!」と鍵に精霊力を込めると木箱が突然炎上し瞬時に炭となって崩れ落ちた。
侯輝&鍛治士:「ええええ!!」
女従騎士:「やったあ!」
皆が驚愕する中、女従騎士が一人嬉しそうに炭の中から柄や鞘に真紅の意匠が施された見事な刀を取り出し掲げる。
天理:「開いた?っちゃ開いたが、いいのか?箱は……」
女従騎士:「はい!後で兄さんに謝ります!鍛治士さんお願いします!」
侯輝:「いいんだ。でもこれで正騎士叙任式間に合うから良かったね!」
不知火:「はい!」
鍛治士は戸惑いつつも刀を受け取ると刀身をじっくりと眺めた後、真剣な面持ちになると作業台で研ぎ始めた。女従騎士は興奮気味に侯輝と天理の両手を掴み「本当にありがとう!ありがとう!」と深く感謝をするとお礼にとこの魔法の鍵について詳しく知っていそうな情報屋を紹介してくれた。

その情報屋はいつも冒険者ギルドにいるとの事だったので侯輝と天理は再びギルドに戻る。
女:「こんにちは!私を探してるの?」
パルマにその情報屋が来ていないか名前を出して聞いていると突如後ろから話しかけられた。驚き振り向くと碧みかがった黒髪を結い上げ好奇心が強そうな瞳で話しかけてくる女がいた。S.Gのオペレーターに似た女性がいたが偶然だろうか。天理も覚えがあるのか少し驚いた顔をしている。
パルマ:「あんた達運がいいねぇそいつが情報屋速水だよ」
女→速水「ふーん君達が私を探してるって事は何か聞きたい事があるんだよね?なんでも答えてあげるわよ!」
侯輝:「じゃあ、この鍵なんだけど」
そう言って魔法の鍵を見せる。女従騎士が使ってから鍵の持ち手の6枚の葉の意匠の1枚がほんのり赤く変色していた。女従騎士の紹介だと言うと速水は友人なのだと笑顔で納得してくれた。
速水:「凄い!古代魔道具の魔法の鍵ね!この世のあらゆる物を解錠できると言われているけど、使い手を選び、その真の力は異界への扉を開くと言われているわ」
侯輝:「へぇー……ねえ天理、異界への扉って地下2階への扉かな?」
天理:「かもしれん。だが使い方が分からないな」
こそこそと天理と話していると速水がこちらを見て首を傾げる。
速水:「私も詳しい事は知らないからやはり専門家に聞いたらどうかしら!?学院の高名な考古学者先生にツテがあるから紹介してあげられるわよ?」
天理はそれだとまた使い方を知らないと言っていた最初の考古学者の所に行くのかと不安になったが成り行きを見守る事にした。
侯輝「ホント?!」
速水:「ええ!ただし交換条件として貴方達のお話を聞かせて欲しいの。私は情報屋よ。私興味深い話が大好きなの」
侯輝:「うん!いいよ!」
侯輝はともかく面白そうな話をすればこのイベントはクリアできるのかなと、地下8階からここまでの冒険譚を語って聴かせた。この階層とは世界観が違うフロアの話もあったのだが速水は楽しそうに二人の話を聞いていた。
速水:「ふむふむそうして艱難辛苦を乗り越えて二人は愛を育んでいったのね」
天理:「え、いやそんな話は一言も……」
侯輝:「そうだよ!元々ラブラブだったけど更に愛が深まったんだよ!違うの?」
天理:「……ち、違い、はしないが……」
赤くなり小さな声で肯定する天理の様子に速水は「ごちそうさまです」とにこにこと笑った。
速水:「さて、お腹いっぱいになったし最後に一つお願い。その鍵一回使わせて貰っていいかしら?どうしても開けたい物があるんだけど鍵を無くして開けられなくなった物があるの」
速水は軽い調子でお願いしていたが、その声と表情にどこか真剣な様子を感じ取る。天理と顔を見合わせると同じ様に感じ取ったのか頷いたので侯輝は「いいよ」と気軽に答えた。
速水:「ありがとう!じゃあちょっと借りるね」
そう言って速水は鍵を受け取ると、懐から取り出した小さなロケットの鍵穴に差し込み回む。すると鍵の取っ手模様の葉の一枚が青く変化した。カチャリと静かに開いたロケットの中身を速水は懐かしそうにじっと見つめると再びパタリとロケットを閉めて鍵を天理に返した。
天理:「……それ閉めていいのか?鍵はもう無いんだろう?」
速水は寂しそうな嬉しそうな複雑な表情で微笑すると「ええ。ありがとう先輩。じゃ!紹介する考古学者先生の場所を教えますね!」とメモにサラサラと地図を書いて渡してくれた。
天理:「あ、ああ、助かった」
速水:「いえいえこちらこそ。面白い話聞かせてくれましたし!また会いましょう!」
戸惑い気味に礼をいう天理に元気よく応えると速水は風の様に去っていった。
天理:「あいつ、俺の事先輩って言ってたよな?バグか?」
天理は首を傾げながら呟くと、侯輝が「うーんそうかも」と苦笑いしつつ話を流した。侯輝は速水が天理に向けた微笑に不快感は無いもののどうしてもモヤモヤしてしまうのだった。

そして二人は速水が書いた地図を頼りに考古学者がいるという学院へと辿り着く。速水の紹介だと伝えると考古学部の部長室へと案内された。かつて大学で考古学者を目指していた天理は学内の懐かしい雰囲気を感じながら場馴れした風に部長室へ「失礼します」と入り侯輝はそれに続いた。そこに居た老いた考古学者の女性を見た瞬間天理の目が驚愕に開かれる。
天理:「義母さん……」
天理の呟きに老女の考古学者は首を傾げて「あら?どこかで会ったかしら?」と言うと「いや、何でもないです」と天理はすぐに誤摩化した。
侯輝:「知ってる人に似てるの?」
天理:「あ、ああ……偶然だと思うが」
天理はほとんど生まれてすぐに孤児になったと聞いていたので、話に聞いていた考古学者の養母に似ている人物なのかと侯輝は推測した。
改めて互いに名を名乗り挨拶を交わすと考古学者の老女ヒステリアに魔法の鍵について聞く。ヒステリアは少し驚きの表情をした後、魔法の鍵について説明してくれた。
この魔法の鍵は巷ではなんでも開けられる鍵として知られているが、別名精霊王の鍵と言い、火、水、風、土、光、闇の6つの精霊力を込めると使い手が望む異界への扉を開く事ができる。精霊力はそれぞれの精霊適性のある人物に鍵を用いてもらう事で込める事ができる。現在鍵の持ち手の葉の意匠が赤と青に染まっている為、火と水の精霊力は既に込められている事が分かるとの事だった。
侯輝:「やった!それなら俺と天理で後全部込められるね!」
ヒステリア:「あら!……ところで最初にこの鍵を使われたのはどなた?」
天理:「え?火の精霊力を込めた偶然知り合った騎士見習いなのですが……」
ヒステリア:「そうではありません。その前にこの鍵を使った人です。最初に使った方は精霊力を込める事ができません」
侯輝:「あ!天理だ!」
女従騎士の箱を開ける為、最初に開錠をこの鍵で試したのは天理だった。無反応だった為、その後女従騎士が使用したのだった。
ヒステリア:「この鍵は最初に真の鍵の使い手として認められる人物に目覚めさせられて初めて起動する魔道具です。その後他の人物に助けて貰わなくてはなりません。天理さんが真の使い手ならば侯輝さんしか込められません。侯輝さんの精霊適性は?」
真の使い手の条件さえ無ければ二人で6つ全部込められたのだが、天理が真の使い手の為、それができないという。
侯輝:「がーん。俺が先に使ってれば楽だったのに……俺は光と……闇です」
天理:「いや、俺で良かった。確かに俺なら4つ一気にいけたが信用できる闇の適性持ちを探す方が大変だ」
ショックを受ける侯輝に天理が優しく慰める。ヒステリアは侯輝の闇適性を聞き一瞬驚きはしたが天理とのやり取りを見て微笑んだ。
ヒステリア:「そうなのですね。ではあとは風、土の適性持ちが必要なのですね。私風の適性はあるので協力しましょうか?」
侯輝:「ありがとうございます!助かります」
天理:「本当に良いんですか?何かお手伝いとか……俺文書整理とかもできますよ」
天理は亡き養母にそっくりなヒステリアに何かしてあげたいと訴える様に申し出たがヒステリアは静かに首を振った。
[NPCヒステリアのモデル:天理の養母であり転生前では恩師]
ヒステリア:「構いませんよ。かの精霊王の鍵が真の姿に近づく貴重なところを見せて頂きましたし、若い方々のお役に立てるなら嬉しい限りです。さて何を開けましょうかね」
ヒステリアは目尻に皺を寄せ嬉しそうに微笑み、一つ考えたあと部屋の棚にあった小さな錠付きの箱を机に置いた。天理から鍵を受け取ると鍵穴に差し込み、回しながら箱を開けた。開けるとほんのり花の香りが漂った。「これはね私の宝物なの」そう言いながら中からドライフラワーを取り出した。
侯輝:「いい匂いがするね」
ヒステリア:「ええ、私と同じく考古学者を目指していた私の娘や教え子達が卒業時にくれた物です。とても可愛らしいでしょう?」
他にも栞や押し花や刺繍のハンカチや小さなぬいぐるみ、ビーズアクセサリー、手紙等があった。
ヒステリア:「みんな私の元を旅立って考古学者として各地で活躍しています。なかなか会えませんが活躍の報せが耳に届くと自分の事の様に嬉しいんですよ。なぜかしら貴方を見ていたら無性に思い出してみたくなってしまったの」
天理:「……」
ヒステリアが天理を見つめて優しく微笑む。その笑顔を見て志半ばにして考古学者の道を閉ざしてしまった天理は俯いた。亡き養母もこうして期待してくれていたのかと思うと胸が痛くなった。
ヒステリア:「あらごめんなさい。こんな話をするつもりじゃなかったのに」
天理:「あの……俺も実は以前、心から考古学者を目指していたのですが、やむを得ず諦めてしまったんです」
ヒステリア:「まぁ……そうなのですね。今のお仕事は大変なのですか?」
ヒステリアは労わる様な優しい口調で問いかけてきた。
天理:「いえ、危険はありますがなんとか。どうしても諦めきれなくて趣味で遺物収集は続けています」
ヒステリア:「まあ!それはとても素敵な事だわ」
ヒステリアは嬉しげに笑った。
天理:「え……」
ヒステリア:「きっとこれまで大変だったでしょう……そんな中、このドライフラワーから薫る微かな薫りを共有するかの様にほんの少しだけでも同好の想いを抱いていてくれるだなんて嬉しいわ」
ヒステリアは手に持ったドライフラワーを優しく撫でた。天理はそこにいるのがNPCだと分かっていても、まるで亡き養母が話しかけてくれてる様に感じ、ヒステリアの優しさに涙が出そうになり少し俯く。事情を知る侯輝は天理にそっと寄り添って背中を摩った。
天理:「そう、ですか」
ヒステリア:「あら嫌だわ、こんなおばあちゃんに言われても困ってしまわれるかしら?」
天理:「いえ……恩師の期待に応えられていないとずっと思っておりましたので少しだけ救われた気がします」
ヒステリアは目を見開いた後、優しく微笑んだ。
ヒステリア:「そう……私ならどんな道を選んでも良いと思っていますよ。きっと貴方の恩師もそう思っているわ」
天理:「ありがとうございます」
ヒステリア:「ふふふ、鍵はお返ししますね。その鍵に認められたという事は貴方にはきっと進まなければならないところがあるのでしょう。お気をつけて二人とも。楽しかったですよ」
天理が面を上げ少し笑顔を見せた事でヒステリアは楽しそうに微笑みながら、意匠の葉が更に一枚緑色に染まった魔法の鍵を天理に返した。
天理:「こちらこそ貴重なお話ありがとうございました」
侯輝:「ありがと、ヒステリアさん」
微笑みながらヒステリアが二人を見送る中、天理は深く礼をすると部屋を出た。侯輝も続いて出る。
学院の廊下を歩きながら侯輝は少しだけ目線の下にいる隣を少し物思いに耽り歩く天理をちらりと見た。
侯輝:「良かったね天理。例えここがゲームの中でもさ、天理がびっくりするくらいそっくりな人がああ言ってくれたならさ、本物のヒステリアさんもきっとそう思ってくれてるんじゃないかな?」
天理:「そう、だといいんだが」
侯輝:「そうだよ。ね。大丈夫だよ天理」
天理:「ん……ありがとな侯輝」

ヒステリアの助言に従い、魔法の鍵に土の精霊力を込めてくれる人を探す事にした。現実であればあてはあったがゲームの中ではそうもいかないだろう。またパルマに聞いてみればイベントキャラが出てくるかもしれないと冒険者ギルドに戻る事にする。
天理:「しかし偶然なんだろうか……他のキャラクターもどこかで会った事がある様な気がするんだよな……」
侯輝:「俺もそうなんだよね。でもデジャヴにしては何か違和感があってうまく説明できないんだけどさ」
天理の養母ヒストリアはメディアにも出演した事がある有名な人物であった為、このアトラクションのNPCキャラモデリングを現実の人間から引っ張ってきたという説明ならできそうではあったのだが今は考えても仕方がないと冒険者ギルドに戻る。二人はパルマに土の精霊適性持ちに心当たりがないか尋ねてみるとバーカウンターでちょうど休憩していた様子の二人組の女性の一人に声をかけた。
パルマ:「土花!あんたに頼みたいことがあるってさ!」
その二人を見た侯輝と天理は各々驚愕する事になる。
侯輝:「土花姉!土実姉も!」
天理:「え……って侯輝お前も知ってるのか?」
侯輝:「え?天理も?俺が家勘当された時に助けてくれた姉貴達なんだけど」
天理:「あの二人土護の妹なんだよ」
侯輝:「え、嘘ぉ、こんなところで接点知るだなんて…」
二人の女性…双子の姉妹な土花と土実は侯輝にとって第二の姉の様な存在でS.Gに入隊し独り立ちするまで世話になっていた人達であった。また天理は幼馴染みの土護の双子の妹として知っていたのだが接点があった事はたった今知ったのだった。
土花:「え?何?私達あんた達とどこかで会ったかしら?ねぇ土実」
土実:「私は覚えが無いのだけれど……どちら様でしょうか?土花に何の御用ですか?」
見た目はそっくりな冒険者風の姉妹だったが突然名前を知己の様に呼ばれても大様として楽しそうに話す土花と、生真面目そうに見ず知らずの他人として警戒してこちらを伺う土実の様子に、自分達が知っている土花と土実と瓜二つではあるもののやはり別人のNPCである事を実感させられる。
天理:「失礼しました、知人によく似ていたもので。俺は天理と言います」
侯輝:「急にごめんねっ俺は侯輝だよ!」
天理と侯輝は無言でアイコンタクトを取ると姉妹がNPCだと分かっていても丁寧に挨拶し直して心証を改め直して貰える様に勤める。性格も似ている可能性があるのならば生真面目な土実は礼儀知らずには厳しい。用があるのは土花の方で、無礼もさほど気にしていない様子だったが、現実の土花は意外と土実の意見を尊重する為、土実の機嫌を損ねるとお願いを聞いて貰えない可能性があるのだ。こちらが改まり名乗ると土実は少し警戒を緩めたのか「土実です」と会釈し返してくれた。その様子を見て土花が微笑むと笑顔で問いかけてきた。
土花:「土花よ。よろしく。で、私に頼み事ってなぁに?」
天理は魔法の鍵を取り出し鍵の概要を簡単に説明する。そして鍵に土の精霊力を込めて欲しい事をお願いする。
土花:「へぇー何でも開けられる魔道具かー折角使えるなら普段開けられないモノを開けてみたいわねー王宮の宝物庫とか!」
侯輝:「わあ、面白そう!」
天理:「おい、待て」
土実:「もう、私と同じ顔で犯罪を犯すのは止めなさい」
土花が冗談めかしながら言うと侯輝が悪ノリし、それに土花が笑う。天理が思わず素で突っ込み土実は冗談と分かりつつも呆れている。
土花:「折角レアアイテムが使えるのよ!あんた達、精霊力込めるのはただでやったげるから何か面白いアイデア出しなさい!」
天理:「ぇぇ……」
侯輝:「うーん、じゃあね……」
波長が合うらしい土花と侯輝は、ああだこうだと楽しそうにアイデアを話始める。
土実が「土花がわがまま言ってすみません」と天理に謝り「いや、こっちが頼んでるので……」と真面目傾向の二人が苦笑しながら見ていた。
侯輝:「そうだ!その鍵ねえ、使うと開けた箱が燃えたりしたよ!」
土花:「何それくわしく!」
火の精霊力を込めて使って貰った時に開けた木箱が燃えた話をする。
土花:「なるほど単なる鍵って概念で考えなくてもいいわけね……ふふふ、いいこと考えた♪」
侯輝:「何々?!」
土花が面白い悪戯を思い付いた顔をし侯輝がワクワクと聞く。土実と天理は少し嫌な予感がし顔をひくつかせた。
「ついてきなさい!」と土花に連れられて街外れの山沿いにある寂れた温泉旅館に辿り着く。なんでも数ヶ月前から温泉の湧きポイントが山崩れの土砂やらで詰まったらしく客足が遠退いていふらしい。以前土花が土の精霊使いとして詰まりの除去を頼まれたが力不足で敵わなかったと説明された。
土実:「あなたまさか……」
土花:「そう!土砂詰まりを閉じた扉と解釈すればこの魔法の鍵が私の土の精霊力と相乗してお湯の道が開くって寸法なのよ!」
侯輝:「無茶苦茶だけど凄いよ土花姉!」
天理:「ぇぇ……」
土花が温泉の土砂詰まりの前で高らかに魔法の鍵を掲げると、土花の精霊力が魔法の鍵に注がれる。そして土砂詰まりの中心辺りに魔法の鍵を勢いよく差し込んだ。
土花:「蘇れ!オープン・ザ・温泉!」
ザバーッ!
土花の声と共に土砂詰まりが消えお湯が勢いよく溢れだした!
土花:「やったー!お気に入りの温泉復かーつ!報酬もゲットー!」
侯輝:「凄いよ土花姉!」
全員お湯でずぶ濡れの中、侯輝は目をキラキラと輝かせ、土花はドヤ顔で胸を張り、天理と土実は「ああ、うん」「そうね……」と苦笑していた。
流石に風呂場は休業中ですぐに入れなかったので温泉の女将から無料入浴券だけ貰って帰る事になった。道すがら土花と侯輝、そして土実も混ざり本当の姉弟かの様に仲良く話ながら歩いていく。冒険者ギルドへと近づくと土花は思い出したように魔法の鍵を天理へと返した。鍵の葉は更に一枚黄色に染まっていた。
土花:「あー楽しかった」
土実:「そうね。また縁があらばご一緒しましょう。侯輝さん、天理さん」
侯輝:「うん!なんか、さん付けさらるとむず痒いなぁ」
土花:「さっきからずっと姉呼びしてるけど、そんなにあんたに知ってる姉さんに似てるの?」
侯輝:「う、うん」
侯輝はすっかり自分が知る土花と土実と同じ様に接してしまっていた事を思いだし照れた様に応えた。
土花:「あんた見かけは私とあんた歳変わらなさそうなのにね。でもなんかでっかい弟ができたみたいで楽しかったわ。じゃ、私達はそろそろいくわ」
土花がそう言って手を振り去り土実も微笑して一礼すると土花に続いて去っていった。
侯輝:「土花姉と土実姉は有名人って事無かったはずなんだけど……このアトラクションどうやって作られてるのかなぁ……」
土花はフラワーアレンジメント講師、土実は公務員でメディアへの露出はほぼ皆無だったはずだ。こうも連続で偶然知人が出てくるとなるとアトラクションのシステムに疑問が沸かざるを得ない。
侯輝がうーんと悩んでいると天理が侯輝をまじまじと見ていた。
天理:「あ、れ……お前ちょっと老けたか?」
侯輝:「えっ!?」
天理:「いや、違うな。なんかこう、雰囲気が大人びたというか……」
天理が土花に言われた事が気になりよくよく侯輝を観察してみると、下層で感じていた侯輝への違和感をはっきりと目の当たりにしていた。ほんの僅かだがこれまでより目線が高い、体格がより成熟し、幼さが残っていた顔付きが精練されている等々、それはまるで時が経ち成長した侯輝を見ているかのようだったのだ。
侯輝:「そ、そんなに?え、天理は何も変わってないよ?」
キョロキョロと鏡を探し街のショーウィンドウのガラスを鏡代わりに見ると天理の言う通り大人びた自分がいた。
侯輝:「あ、あれ?どうして?このアトラクションの視覚効果?え?」
天理:「落ち着け、侯輝、他はどこもおかしな所はないか?」
天理に心配そうに言われて改めて自分の体を見直す侯輝。他は特に変わった様子はない。
侯輝:「うん……大丈夫だと思う」
天理:「そうか……そんな説明無かったがな……」
自分以上に不安そうにし始める天理を元気づけようと侯輝は努めて明るい声を出す。
侯輝:「よし、早くクリアしちゃおうよ!そういうシステムなのかもだしさ!のんびり攻略してるとおじいちゃんになっちゃうのかもよ!」
天理:「あ、ああ……。うん、そうだな!」
本来自分なぞより不安なはずの侯輝に元気付けてくれていると気付けば天理はすぐに気を取り直した。

さっさと進めてしまおうと、魔法の鍵に残りの闇と光の精霊力を込める為、侯輝は適当な錠を探す。
女:「ねぇっ!そこの人っ!この辺で鍵束落ちてるの見かけなかった?!木製のっ!」
二人は錠付きの箱でも探そうと道具屋に入ろうとすると長い黒髪で30代くらいの女に切羽詰まった風に話しかけられた。服装は清廉とした袖の長い異国の神官着だったが女性にしては体格が良く、快活そうな雰囲気が少し不釣り合いにも見える。
侯輝:「残念だけど、見てないや」
神官女:「そっかぁ……うわぁんどうしよー!結納式に間に合わないよー!」
天理はなんとなく全体的な雰囲気が侯輝に似てるなと思っていると、神官女はぐるっとこちらを見ると「ねえっあなた達冒険者?報酬出すから鍵探し手伝って!」と拝み倒してきた。
天理:「ええっと……」
侯輝:「うん、いいよ!」
天理は侯輝の異変から早くこのゲームをクリアしてしまいたかったが、侯輝があっさり承諾してしまったので仕方なく了承した。が天理は神官女の袖に何やら鍵らしきものが入っているのに気付く。
天理:「ん?なあ、あんたの袖になんか入ってるのもしかして……」
神官女:「え?あ!!鍵!あっ……たぁ……ぁぁ」
侯輝:「あー壊れちゃってるねー」
結局袖に入っていただけだったというオチだったのだが木製の鍵は粉々になっていたのだ。
神官女:「あ、あは……あははは……どうしよう……これじゃ結納式に出られないよぉ……」
侯輝:「結納式?」
神官女の言葉に侯輝も驚いた顔をした。
神官女:「あ、うん……私ね、結婚を控えてるんだけど……式の先祖代々のお道具の部屋の鍵がこれだったの……」
壊れた鍵を手にしながら泣きそうになっている神官女を見て侯輝は天理に言った。
侯輝:「ねぇ天理、どうせなら人助けしてあげようよ。なんだかほっとけないよ」
天理:「まあ……そうだな」
最初は乗り気では無かった天理だが神官女を見ている内に助けてやりたくなってしまった。苦笑しながら同意する天理に侯輝はにこりと笑う。
侯輝:「ねえお姉さんは精霊適性なぁに?」
神官女:「?光よ?あ、私見ての通り神官なの」
侯輝:「お、ラッキーだねお姉さんそれなら助けてあげられるよ!ね、天理」
天理:「ふふっ、みたいだな」
不思議そうな顔をする神官女に何でも開けられる魔法の鍵の説明をする。
神官女:「わぁそんな凄い鍵使わせてくれるの!?ありがとーっ!」
侯輝:「わわっ!」
神官女は感激の余り侯輝に抱きついて礼を言ってきた。その邪気の無い行為に天理は驚き少しの嫉妬心を覚えるももなぜだか不快にはなりきれないでいた。
神官女:「ほんと助かるよー!私一人じゃ絶対無理だったもん!これで結納式に間に合うよ!じゃうちに案内するね!」
神官女は侯輝や天理が突っ込みを入れる間もなくバッと離れたと思ったらもう「こっちこっち!」と歩きだしていた。
侯輝:「楽しそうな人だね」
天理:「ああ、お前が一人増えたみたいだ」
侯輝:「えへ、そうかな?」
天理が微笑しながら頷くと侯輝は嬉しそうに笑った。
神官女:「ここが私のうち」
しばし歩くと神官女が辿り着いたのは立派な社のある建物で敷地は漆喰の高い塀に囲まれていた。夏侯の実家に近いがより歴史を感じる風情があった。黙って立っていれば神官女の服装と家とがぴったりと一致しそれだけで一枚の絵になりそうだった。
侯輝:「立派なお屋敷だねー」
神官女:「色々だいぶ古いけどね」
天理:「いや、手入れされてるし、なかなか趣があるいい家だと思うが」
神官女:「えへへ、ありがと。あ、ごめんね裏口からこっそり入るよ」
神官女は裏口に回ると鍵がかかっている事に気付くと場馴れした風に塀の近くにあった木に登りよじ登ると侯輝が「ニンジャみたーい」と歓心し、天理が唖然と見ている内にそのまま塀の屋根に飛び移り塀を越えた。そしてカタリと裏口扉から音がすると「入って」と扉が開き中に二人を招き入れた。敷地内を静かに移動すると蔵の前に来た。
神官女:「壊しちゃったのはここの鍵なの」
神官女は恥ずかしそうに蔵の扉に付けられた年代物だが丈夫そうな南京錠を指す。天理が神官女に魔法の鍵を手渡すと「じゃあ借りるね」と言って魔法の鍵に光の精霊力を込めつつ緊張した面持ちで南京錠に差し込んだ。
神官女:「えいっ!」
一瞬鍵が光輝くとガチャリと音を立てて南京錠が外れる。
神官女:「凄い!開いた!ありがと鍵は返すね。そうだ良かったら見てって!」
天理:「え、部外者にいいのか。家宝とかあるじゃないのか?」
魔法の鍵の葉の意匠が更に一枚白くなった事を確認しつつ、天理はその申し出に驚きつつ尋ねる。
神官女:「お兄さんうちみたいな古いモノの好きそうだから、お礼に!見るだけならタダだから!」
ニコニコとさっどうぞ!とばかりに蔵の中に導く神官女に、そんなに物色紛いの目で見ていたのかと少し恥ずかしそうにする天理を見て侯輝はクスクスと笑った。
天理:「じゃあお言葉に甘えて……」
神官女が結納のお道具一式を運んでいる間に天理が歴史ある古物を興味深く眺め、侯輝は結納道具の運び出しの手伝いをしていた。
侯輝:「ねえねえ、これ衣装箱?ちょっとだけ見てもいい?」
年代物の桐の衣裳箱はシンプルでありながら鍵付きの丁寧な造りで高級感があった。
神官女:「うん!……あ、鍵……」
侯輝:「え、まさかこの鍵も壊れて?」
神官女:「うわぁん!そうだった、どうしよー!箱、こ、壊すしか!えーぃ」
侯輝:「ストップ!ストップ!」
天理:「まてまてまて!」
衣装箱を手近な家宝っぽい壺で速攻壊そうと思い切りが良すぎる神官女を二人して思い止まらせる。
侯輝:「ほら!魔法の鍵あるし!」
神官女:「えっでも……それもう後一回しか使えないとかなんじゃないの?大事な物なんじゃ……?」
天理が取り出した魔法の鍵を見て葉の意匠が先ほど自分が使った後カウントアップするかの様に染まった事で不安になった神官女が言う。
天理:「事情があってむしろ逆に使いきりたいんだ」
侯輝:「ついでに人助けできるならおっけーだよ!」
神官女:「そ、そうなの?じゃお願いしまぁす……」
神官女はこちらの都合だと聞かされてホッとしたような表情をするも、それでも申し訳無さそうにお願いしてきた。
侯輝は天理から鍵を受け取ると早速、闇の精霊力を魔法の鍵に込めようとするも戸惑い躊躇する。
侯輝:「あの、さ、俺の精霊力闇なんだけど大丈夫かな?」
天理:「侯輝……」
これまでこの魔法の鍵を使うと込めた精霊力の影響でただ単に錠が開くではすまない場合があった。流石に闇の力で炎上したり爆砕したりという事は無いだろうが神聖そうな気配すらある衣装が闇の力で穢れてしまわないかと侯輝は心配したのだ。
神官女:「?あなたなら大丈夫と思うな!私お日様も好きだけどお星様も好きなの!星が綺麗に見えるのは夜がとっても神秘的な深い闇だから!」
侯輝:「あ、ありがと……じゃ、開けるね」
侯輝と天理は驚きの目でニコニコと笑う神官女を見、侯輝は嬉恥ずかしそうに礼を言うと改めて魔法の鍵に闇の精霊をそのぽかぽかと嬉しい心のままに込め、衣装箱の鍵を開けた。静かにコトンと解錠音がし蓋を開けるとそこには見事な白無垢が納められていた。ふわりと漂う香の匂いは甘くどこか懐かさを思い起こされた。
侯輝:「綺麗……これ着るんだねきっと似合うよ」
神官女:「えへへありがと。あっ!皆隠れて!」
侯輝:「誰か来そうだね」
家人であろうか、神官女と侯輝がほぼ同時に蔵に近づく人物に気付くと逃げ場が無い為、侯輝と天理は蔵内の大きな荷物の影に身を潜める。
男:「接!なかなか帰ってこないと思っていたら遊んでいたのかい?!衣装箱まで広げて……」
侯輝:(えっ!)
天理:(この声……)
神官女:「ご、ごめんね!ケイちゃん、ほらちょっと鍵がおかしくて手間取っちゃった。ちょうど開いたからもうすぐ持っていけるよ!」
天理と侯輝が隠れると同時に蔵に一人の若そうな成人の男の声が聞こえてきた。その声は若々しさはあったが侯輝には父親夏侯継の声そっくりで困惑を隠せない。
(ケイって……それに今、お姉さんの事、接って呼んでた……!)
接と呼ばれた神官女はやって来たケイと呼ぶ男に壊れた鍵をじゃらじゃらと見せなんとか場を取り繕っていた。
男→ケイ:「全く君って人は……ああもう服も汚れているじゃないか」
神官女→接:「えへへ、転んじゃった」
生真面目そうなケイが呆れた様にだがどこか柔らかい声色で話し、接の服の汚れをぱたぱたと払う音が聞こえる。侯輝は様子を見たいが位置的に姿を表すと見つかってしまう為やむ無く身を潜め続けた。
ケイ:「まったく、これから結納式だというのに……君が怪我でもしたらどうするつもりだい?」
接:「うん、ごめんね」
ケイ:「……それが花嫁衣裳か……君の晴れ姿早くみたいな」
接:「ケイちゃん……♡」
ケイ:「あ、すまない……つい」
接:「えへへ……ありがと。ケイちゃん大好き!」
ケイ:「私だって……好きだよ」
二人ともお互いを想い合っているのは明白だった。接が結婚する相手はケイで間違いないだろう。
ケイ:「ほら、もうあまり時間が無い。とりあえず早く片付けて着替えなさい」
接:「はーい」
ケイはそう言うと慌ただしく去って行った。侯輝はそっと覗き込みその後ろ姿を捉える。それは細身で長身、自分と同じ金髪で歩き方は父夏侯継にそっくりだった。
天理:「なぁあれ、だいぶ若いがお義父さんじゃないか……?」
侯輝:「う、うん……でもそうなると」
接は母の若かりし頃という事になる。侯輝は産まれてすぐ母と死に別れ、母の写真も見た事がなかったから、接が史実通りの母か判別はつかない。本当にこのゲームはどうなっているのか、いつの間にか夢でも見させられているのかと今度こそ混乱しそうになった。
接:「ねーもう出てきても大丈夫だよー」
そうこうしていると接の声に呼び戻された。
接:「ごめんね、さっきの人はね私の旦那様になってくれる人なんだ」
天理:「とても真面目そうな人だな」
接:「うん、ちょっと堅苦しいとこもあるけど誠実で凄く優しいんだー。ケイちゃんはまだ若いけど将来の神官長候補なんだよ。それでね……」
亡き母だったかもしれない人が聞かれてもいない父の自慢を楽しそうに話す。父はきっとこんな母を心から愛していたのだろう。母が亡くなり荒れてしまった気持ちがなんとなくわかる気がした。
天理:「それにしてもケイさん若い様な……年下?いやいいんだが……」
接:「うん、6個下なんだけど私よりしっかりしててね。入婿になっちゃうし私でいいのかなって思うのに熱烈にプロポーズしてくれたの」
天理:「なるほど性格は母親似で性癖は父親似だったんだな……」
侯輝:「ちょっと天理っ」
えへへーと惚気る接の言葉に天理が侯輝を見ながらボソリと呟くと侯輝が慌てて止めに入った。
接:「あ、そろそろ帰って貰わないとだね!のんびりしてたらまたケイちゃん様子見に来ちゃう!」
天理:「と、そうだな」
急ぎ再び裏口へと向かう。扉を開けて外に出た。
侯輝:「あのっ一つだけっ」
ではと別れの挨拶を天理がしようとすると、侯輝が引き止めた。
接:「なぁに?」
侯輝:「子供はやっぱり作るんだよね?」
接:「うん、そうだね。ケイちゃんとの子供はいっぱい欲しいな!」
きっと自分が知る通りならこの家は御子の血を残さなければならない家であろう。だが接はそんな縛りも関係無いかのように明るく答えた。自分を産んだら死んでしまうのだと叫びたい気持ちもその笑顔の前に飲み込まれた。だがどうしても聞きたかった。
侯輝:「もし……産んだら命を落とす事になっても?」
接:「うん、それでもケイちゃんの子を産むよ。私の中で産まれてきたいって子がいる限り産むの」
そう言って微笑む彼女に侯輝はもう何も言えなかった。
侯輝:「……わかった。ありがと」
接:「ふふ、心配してくれるの?ありがと。あなたみたいな優しい子だったらいいな!」
侯輝:「あ、ご、ごめんねっこれから式だって時にっお幸せにねっじゃあ……」
接:「ううん、こちらこそ色々ありがと!またね!」

ブンブンと手を振る接に別れを涙を堪えて告げると侯輝は急いでその場を後にした。
人通りが無いところまでくると侯輝は我慢できずに涙を流していた。
侯輝:「母さん……」
天理は黙って引き寄せると頭を撫でた。やがて泣き止むと「ごめんね」と謝って離れる。
侯輝:「あれどこまで本当なのかな?父さんは俺の知らない若い頃だったけど確かに父さんだったと思う。ホントなんなんだろうここ。俺段々分からなくなってきちゃった……」
ゲーム中と言うにはあまりにも現実的過ぎて、まるで本当に生きている人間のように感じる。
侯輝:「俺はさ、この世界が夢だとしてもずっとここに居たいよ。だってここは天国みたいに平和だし、母さんも生きてるし……きっと探せば神我見姉や他のみんなだって……」
天理:「侯輝……そう……だな……」
魔法の鍵に全ての精霊力が込められ次の階層への条件は揃ったのだろう。鍵は精霊王の鍵となり天理の手の中で使われるのを待っているかの様にほのかに光っていた。天理は鍵をぎゅっと握りしめる。
天理:「そうだけど、でも夢は夢だ。行こう侯輝」
侯輝:「……うん」
侯輝が返事を返すと天理は精霊王の鍵に導かれる様に何も無い空間に差し出す。すると鍵が様々な色に輝いた後消えると突如そこに扉が現れていた。ゆっくりと扉が開かれると上層への階段が見え二人はそれぞれの迷う思いを抱えながら繋いだ手だけを縁にゆっくりと登っていった。

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