闇はまだ暗がりの中(初夜設定変更。唐突な影をどうするか、ラストを足すか)
それから一月程が経ち情勢が落ち着いてくると、侯輝はかねてより予定していた豫の本国、夏凌に一旦戻る事になった。王の執務室に呼ばれると侯輝より豫への同行の内示を受ける。
「承知致しました。お供させて頂きます」
情勢は落ち着いてきてはおり道中も護衛はつけるが、念の為、戦えるような支度をしておけ。あとこっちは先日の稟議書だ進めてくれていい」
「支度の件、心得ました。稟議の件、ありがとうございます」書類を受け取ると、今すぐ見てというオーラを感じたのでぴらりと捲るといつも通りメモが挟んである事に気づく。『天理の事は俺が命に代えても守るからね!』王が臣下を守ってどーする。武芸はからっきしだが精霊でちょっとくらい自分の身は守れるってのに過保護な王だ。俺は苦笑いをしつつ、侯輝の気持ちをありがたく受け取ることにした。
「……分かりました。お心遣い感謝します。」そう一礼すると侯輝は満足した様に笑った。
「それではまた後日な」
「はい」
俺はそう返事をすると、執務室を後にした。内務省の官舎に戻ると、さて、と気合を入れ、早速今日の分の業務に取り掛かった。豫の国への出張の為、小早川に引き継ぎ連絡事項を纏めていく。豫の出身でもある小早川から豫の情報を聞き出しておく事にした。
「豫の本国で今、内政預かってる宰相の金公ってどんな人だ?」内務書類でいくらか文書でのやり取りはしているが、直接合うのははじめてになる。文書から見て取れるのはまず、筆跡が優美で美しい。そして文章からも伝わるその知性、思慮深さ、それでいて親しみやすい人柄が滲み出ている。
「金公様ですか。眉目秀麗、スマートさが人の形して歩いてる様な方で社交界でも華と謳われる方です。一夜限りの噂も絶えない方ですが実は本命がいるとかどうとか」
「ほぉ」やっぱり蛮族蛮族言ってたのは普の方だけだったか。
「またその外見と、明晰な頭脳により近年豫が安定した発展を遂げているのは金公様のお陰ですね。輝王の信任も厚いですよ」
「ふぅん」まあこれだけの間、侯輝が本国離れられるくらいだしな。
「ただその物腰の柔らかさに嘗めてかかった方が返り討ちにあって気づいたら中央から外されてたり、言う事を聞かざるを得なくなったりしますね」
「一筋縄ではいかない感じか。お手柔らかに願いたいところだな。前のやる気の無い上司も困りもんだがサボれない上司も困る」苦笑しながら言うと、小早川はクスリと笑って言った。
「大丈夫です。清水さんはサボる為には頑張る方ですから、きっと気に入られますよ♪オススメのお店リストアップしときましたので楽しんできてください♪」
「それもどうなんだ、まぁありがとな」手渡されたリストを出張資料の脇に入れておく。
日が暮れてその日の業務を終わらせると宿舎に戻り出張の旅支度をすると、その日は早めに就寝した。
翌朝、朝鳥の鳴き声と共に起き朝食を取り身支度を整えると、宿舎を出る。
城門に向かうと侯輝と王の護衛の一団が出立の準備を進めていた。ガチャガチャと旅用の軽鎧の音が響く中、侯輝がシャキッと王の顔をして指示を飛ばしていた。ああしていれば、それなりに年相応な王なのだが、なにゆえ俺の前だとデレデレなのか。
「おはよう、清水」
「おはようございます、夏侯王。本日よりよろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく頼む」
侯輝の側に控える護衛の1人が俺を見て言った。
「あれ?もしかして噂の内務の姫様?」
「ん?」誰か他にいるのか?俺が首を傾げてキョロキョロしていると、侯輝が笑いを堪えながら答えてくれた。
「あー、そうだな。そう呼ばれてるみたいだな」
「んなっ……!」俺が?!全っ然姫って感じじゃないだろ俺は!なんだってそんな呼称ついてんだ!豫の感覚おかしいだろ!
「ははは、天…清水は美人だからな」
「いりませんよ、そんな二つ名」
誰が美人だ。てかお前がちょいちょい俺に対する感情を公で洩らしてるからじゃないのか?!
「まあまあ、そう言うな。似合ってるぞ、じゃ、出立するぞ」
似合ってねぇよ。王に乗る馬車に王付きの者として同乗できるのはありがたいがそれもそう呼ばれる理由か!?表面上平静にしつつ憤慨していると、先に馬車に乗った侯輝が手を差し出してくる。なんだその手は?
「さ、お手をどうぞ、姫?」ぶっとばすぞ?「お戯れも程々に」
「ははは、悪い」
そう言いつつも悪びれない侯輝に俺はため息をつくしかない。しぶしぶ俺は差し出された手を取ると馬車に乗り込んだ。
「それでは出発します」
護衛達が馬に鞭をいれると、ゆっくりと馬車が進み出す。
「今日は天気も良いし、気持ちいい旅になりそうだ」
「そうですね。万一に備えて動ける格好にはしてきましたが、私は戦闘は不得手です。基本は護衛にお任せと考えておいてよろしいですか?」
万一の時は王の盾くらいなっておきたい所だが自分自身で戦う事も得意な侯輝には俺は邪魔だろう。
「ああ、それでいい。まあその時は俺が守ってやるからな。姫?」
お戯れも程々になさって下さいね。「ホントにぶっとばすぞ?」
「今本音と建前逆じゃなかったか清水(汗)」
「冗談ですよ、半分くらい」
「おいこら」
ふっと笑うと俺は窓の外を見た。侯輝も同じように外を見る。窓から見える風景は草原と森と山と川。この辺りはまだ平和だなと思う。
「清水、そっちの森は妖怪の類いが出るらしいな」
指す方向を見ると確かに薄気味悪そうな森が広がっていた。目を凝らすと少し闇の精霊が漂っているように見える。何かがこちらをじっと見ている気がする…微かに未知の恐怖を覚えて視線を侯輝に戻した。
「さしもの王も妖術は不得手でしょう?出てきても大人しくしてくださいね」
喜び勇んで出ていこうとする姿が目に浮かんだ。
「あ、うん、分かっているぞ」ホントかよ。
道中は遠巻きに野犬がチラホラと見かけられたが流石にこの集団に襲いかかってくるほど愚かではなかったようだ。小さな声でせっかくカッコいいとこ見せようと思ったのに…と呟く侯輝に思わず吹き出しそうになる。馬車から声は漏れても姿は見えないだろうからだろう、そっと横に座る俺の手を握ると耳元に口を寄せて囁いた。
「天理、着いたらお忍びデートしよ?俺の国をいっぱい紹介するよ」
お前な…本国の方がお前の顔知れ渡ってるだろうが!忍べるか!そうでなくても目立つんだよお前。だがしかしまぁ「……被り物をして大人しくして頂けるのならば」そう言うと侯輝は無言で顔を輝かせると握る手を小さくブンブンと振った。ホントにガキだなぁ。
しばらくして森を抜けるとまだ新しい城壁に囲まれた夏凌の街が見えてきた。街に近づくと道も整備されて行き交う人も増えた。ここからでも活気がありそうな気配がする。城門まで辿り着くと、門番が王の馬車に敬礼し門が開かれると馬車の窓の隙間から街並みが見えた。
「ここが俺の生まれ育った故郷、豫の王都、夏凌だ」
城門を潜ると、そこは賑やかな城下町だった。
「これは……思っていた以上に栄えていますね」
「ああ、俺が即位した時はまだ荒れていた街に人を集めて商売も盛んにしてな。俺が王に即位してからは、どんどん良くなっているぞ」
得意気に話す侯輝を尻目に興味深く眺める。まだ古い家も残っていたが着々と取り壊しと再建築が進められており区画も整備され、人の往来も多く、店も多い。何より人々が活き活きとしている。
「なるほど、良い王様のようですね」
「ああ、俺の自慢だ」
侯輝が誇らしげに胸を張る。
「さ、このまま王城に向かう、宰相が手ぐすね引いて待っているはずだ。お前にも引き合わせよう」
「金公殿ですよね。なかなかのやり手と伺いました」
「ああ、そうだな。この国の内政が上手く回っているのも、あいつがいるからだな」
「それは楽しみです」
「おう、会えば分かるぞ」
馬車は街中を通り抜け、城の前の広場に停まった。
「さ、着いたぞ」
馬車から降りると、目の前に巨大な王城の門が聳え立っている。
衛兵が門が開くと、侯輝に連れられ城内に進んだ。通りすがる衛兵達が侯輝に敬礼していく。
「随分慕われてるんですね」
「まあな、俺の事を慕ってくれる奴らがいて、俺が王になって良かったと思って貰えるように頑張って来たからな」
「そうですか」なるの嫌だって言ってたけど頑張ったんだな侯輝。そんな侯輝を見て少し嬉しくなった。
「ん?どうした?」
「いえ、何でもありませんよ」
「帰ったぞ!金公!」
王の間にたどり着くと侯輝はそう扉を開けながら叫んだ。
すると奥から一人の男が歩いてくる。一目見てその人が豫の宰相、金公だと察しがついた。まず規格外の優男であるその容姿はプラチナブロンドの髪と切れ長の目、整った鼻梁に薄い形のいい口。まるで彫刻の様な美貌に均整の取れた体格の上に優美に纏った宰相服は凡人が切れば豪奢にも見えようが彼が纏えば引き立て役だ。俺は小早川の言葉を思い出しうっかり、うわぁスマートが人の形をして歩いてる…と呟きそうになるのを全力で抑えた。
「お帰りなさいませ、夏侯王。道中ご無事で何よりです」
金公はその姿に見合う仕草で侯輝に挨拶をした。
「ああ、ただいま。変わりないか?」
「はい、滞りなく」
「そうか良かった。金公、紹介する。あっちの内務ナンバー2の清水だ。今回は俺の帰国に同行させた。」
「初めまして、清水です。いつも文でのやり取りばかりでしたので、こうして直接会うのは初めてですね。お会いできて嬉しいです」
「こちらこそお会いできて光栄です。私は宰相の金公と申します」
金公は俺を少しだけじっと見ると微笑んで会釈を返した。と、侯輝が微妙に割って入る。
「さて二人とも積もる話は俺の執務室へ行ってからしようか!」
侯輝が俺の肩を押して別室へと移ろうとするのを内心おい!と思っていると金公がクスりと笑っているのが見えた。
聞かれても問題ないレベルの政況の話をしながら衛兵を伴って王の執務室に辿り着くと侯輝が金公にいつも通り頼むと言うと金公がおもむろに魅了の魔法と思われる精霊魔法を衛兵に唱え始めた。
『汝は我が親友也、汝我の願いを聞き給え』
「はい…何なりとお申し付けください…」
『今からこの部屋に人を近づけさせないように。それとこれから聞こえた事は次に私に会った瞬間に忘れる様に』
「わかりました…」
衛兵達は術の最中夢見心地でいたが金公が執務室に入るといつも通りの顔に戻り扉の前に立った。なるほど精神系の精霊魔法の使い手でもあるのか。こりゃ的に回したら厄介だ。人払いをさせつつ秘密の会話をできる様にさせてるのか。3人が部屋に入ると侯輝が素に戻って大きく伸びをした。
「あーー!帰ってきたー!じゃあ改めて紹介するね公!この清水こと天理が俺のお嫁さんだよ!」
そしておもむろに金公に俺を再紹介しはじめた。が
「ちょっと待てぇ!」恋人ですら無い前に誰が嫁だ!しまったつい素で反射的に突っ込んでしまう。
「やはりそうなのかい?輝君」
おい、あんたも乗っかるな宰相。
「ああ、そうだよ!公!とっても可愛いでしょ!あげないからね!」
可愛いはないだろ、あとお前のものになった覚えはない。俺を無視して話を進めるな。
「ああ、なかなか綺麗なお嫁さんを捕まえてきたね。分かっているよ輝君。そんな無粋な事はしないさ」
おい、あんた分かってて乗っかってるだろ。絶対そうだろ。
「公ならそう言ってくれると思った!天理とはもうラブラブなんだ!」
お前は素で願望を垂れ流してるだけだな!そうだな!
「よし黙れ侯輝」げしっと侯輝の足を蹴る。
「いたーい、酷いよ天理」
「初対面の相手に誤った情報を植え付けるな」
「ふむ、なるほど仲が良さそうだね」
「うん!俺と天理は愛し合ってるからね!」
金公が俺達を微笑ましそうに見ているのを見て俺は慌てて否定する!
「違いますので!というか、あんたも分かってて乗っかっているだろ」
もう面倒なのでそのままのノリで話すことにした。
金公はクスクスと笑う。
「いやいや天理君も見ていて楽しいからつい、ね。でもお似合いだと思うけれど、実際はどこまで進んでいるんだい?」
「う、そ、れは」
友人以上…だと思うが、体の関係は持ってしまっている……あれは命令扱いだったからノーカウントなのか?ああでもキスと抜き合いは合意でやったな俺。うわ、他人に話せる状態じゃない…恥ずかしくて回答に逡巡していると侯輝がチラリとこちらを見る。そして口を開く
「それは内緒だよ!ね!天理!」
「あ、ああ」
フォローすまん、侯輝。侯輝がそう言うと金公は少し複雑な状況であることをプライベートでもその頭脳を遺憾なく発揮できるらしく察してくれた様子だった。
「ふふ、そうかい?でも仲が良さそうで良かったよ。輝君にやっと伴侶ができそうだからね」
他人にはそう見えるのか…俺はまだ侯輝をどう思ってるのか整理がついていないのに。
「でも俺はもうお嫁さんにするつもりでいるけどね」
おい侯輝。お前は何を言っているんだ。金公が微笑みながら俺に話しかけてくる。
「ふふふ、式が楽しみですね」
「ありがとう公!」
おいおいおいおいおい!待ってくれ!俺に拒否権は無いのか?!
「ところで、仕事の話なのですが……」
金公は侯輝の言葉をさらりと流して仕事の話を始めたので俺はほっとしつつ、気を取り直して政務について金公とのやり取りを交わした。こちらの内務状況は人材不足による滞りが廻先生の召還により解消に向かいつつあるものの、依然として旧体制が根強い部分も多く難航する案件が多い為金公に助言を求め、金公は俺の質問に対応指示を出していく。昼食を挟みつつ政務を進めた。決済が必要な問題も目の前に国王の侯輝がいるのでスムーズに進む。普時代の稟議がいつまでも返ってこない頃を思うと涙がでそうだ。
「さて、こんなところですかね」
「はい。金宰相のおかげで大分進みました。噂通りのご手腕でした。助かりました。」
これはこっちに来て良かったな。連れてきてくれた侯輝に心の中で感謝しておく。
「ふふ、そうですか。私もそちらに貴方が居てくださるおかげで随分と楽が出来ていますよ。さて、今晩は夏侯王の帰還と未来のお妃……もとい清水さんをお迎えする宴を催す予定です。それまで時間があるので、よろしければ城内を案内されては?輝君」
「うん!そうだね!俺も見回りたいし、じゃあ行こうか天理!」
「あ、ああ」
三人揃って公用の顔に戻り王の執務室を出ると宰相の執務室の前で金公に見送られ、俺は侯輝に城内をあちこちと案内された。
お気に入りの場所などを自慢げに話ながら城内の役人や侍女達にも挨拶を交わしていく。気のせいか侍女達の俺に向ける視線が興味津々だし、侯輝の俺の紹介の仕方が恋人のそれっぽい。待ってくれまだ恋人じゃないんだ!俺と侯輝の寝所の支度を進めないでくれ!これ外堀を埋められてないか?! そんな俺の内心を知らずに侯輝は俺に話しかけてくる。
「どうだ清水、良いところだろう?」
「そうですね…城も美しいですし、皆さん朗らかで優秀な方達ばかりですし」
本当に良い所だ。侍女の察しが良すぎてまだ臣下でしかない俺の寝床がなぜか王の寝所になりそうなんだがな!
「そうか?そう言って貰えると嬉しいぞ」
嬉しそうに笑う侯輝。
「ええ」
この笑顔を曇らせるわけにはいかないな…… そう思っているとふと美しい弦楽器の音が聴こえた。
「ああ、これは育海だな。宮廷楽士だ。今晩の晩餐会で演奏してくれるはずだ」
「へぇ、それは楽しみですね」
美しい音だったのだが、なぜか…少しだけ悲しみを帯びた音色に感じられた。
その音に近づくと人気の無い庭に辿り着く。そこには琵琶を爪弾く濡れた様な青髪の女性が居た。
「育海!久しぶりだな!」
「夏侯王、お帰りなさいませ」
演奏を止めて振り返った育海という女性は侯輝の知り合いのようだ。
「ああ!ただいま!相変わらず良い腕してるな!」
「ありがと、うございます……」
彼女は礼を言うとまた弦を弾き始めた。なんだか俺を見ようとしないのは気のせいか?侯輝はキョロキョロと辺りを見回して人気が無いのを確認すると少し声音を下げ素で話し始めた。
「ねえ育海、天理は俺のプライベート知ってるから普通に話しても大丈夫だよ?あ、天理、彼女は育海、幼なじみなんだ」
侯輝にそう言われると俺を見て少しだけ複雑そうな顔をしたあと、それでも侯輝を見て嬉しそうな顔をした。
「そ、そう?じゃあ遠慮なく……」
「初めまして、俺は清水天理と言います。元普の役人でしたが今は…夏侯王に使えさせてもらってます」
「清水…さんね、私は宮廷楽士の五十嵐育海って言うの。よろしくね」
「こちらこそ」
「ふふ、良かったら私の演奏聴いていって?」
「ありがとう」
そう言って彼女が琵琶を爪弾くと美しい音色に合わせて静かにでも心が揺さぶられるような歌声が響いた。異国語による歌唱に大学の頃少しだけ覚えたその単語の意味を当てはめていく。これは……失恋の唄では……!幼なじみ(侯輝)が帰ってきた時にわざわざ歌う歌じゃないだろう。侯輝は歌詞が分からないのか旋律だけ聞き入っている。先程からの彼女の侯輝への態度から察するにもしや…侯輝は気づいてないのか?俺はとたんに居心地が悪くなった。
「ふふ、どうだった?私の演奏」
「うん!やっぱり育海の奏でる音が一番好きだな!」
無邪気に笑う侯輝。
「明鳴……!もう!またそんな事ばっかり!」
顔を少し赤らめて侯輝に笑いかける彼女を見ていると、ああ本当に好きなんだろうなぁと思う。こうして並んでいると美しい彼女は侯輝にお似合いだ、彼女の一途な思いが侯輝に通じていたなら侯輝の横に立つのは…そう思っていたらチクチクと心が痛んだ気がした。おい俺は何を考えてんだ?彼女の様に侯輝への想いも定めて無い癖に。侯輝からの好意に呑気に胡座をかきすぎじゃないのか俺。冷水をぶっかけられた気分にさせられた。
「明鳴、その、良ければ今晩の宴で一緒に演奏しない?」
「お!いいね!じゃあ俺も演奏しようかな!」
「やったー!!じゃあ今夜はよろしくね!じゃあ私はこれで失礼するわ」
そう言って彼女は琵琶を片手に去っていった。俺は一連のやり取りが堪らなくなって侯輝に話しかけた。
「なあ、侯輝」
「ん?なあに?」
「あ、いや、なんでもない」
彼女の事どう思ってんだとか、彼女の想いに気づいているのか?なんて恋人ですらない俺が聞いてどうするってんだ。
「そっか、何かあったら言ってね」
「ああ、ありがとう」
そう言って微笑む侯輝に俺は上手く笑えていただろうか?
侯輝に城内を一通り案内してもらうと宴の時刻に近づいていたらしい。
「そろそろ戻らなきゃな」
「そうですね」
俺達は宴の会場である大広間に向かうと既に大勢の人が来ていて賑わっていた。宰相の金公がこちらに気がつき、手を振ってきた。侯輝が上座へと座り、俺は侯輝の後ろに控えようとすると金公がすぐ横の席を勧めてきた。
「貴方も歓迎される側ですからこちらですよ。清水さん」
そう言われて俺は少しだけ迷ったが結局隣に座っていた。
「ありがとうございます」
そう言って俺が座ると侯輝が立ち上がり良く通る声で酒宴の開幕を告げる。
「皆、今日は良く集まってくれた!金公、そして皆、俺が留守の間よく国を守ってくれていた!本当にありがとう!感謝する!これからもこの国が平和であり続けるように、共に頑張ってくれ!乾杯!」
「「「「「乾杯!!!!」」」」」
皆で乾杯をすると、各々食事や酒を楽しみ始めた。久しぶり帰ってきた王と留守を預かっていた臣下達が次々と挨拶に来る。昼間もそう感じていたが侯輝は随分慕われているようだ。俺も内務絡みで金公や何人かと会話を交わすと、俺にも気さくに話しかけてくれる人達ばかりでほっと胸をなでおろした。本当に良い国にできてるんだな侯輝。嬉しく思いながら郷土料理に舌鼓を打っていると、琵琶の音と共に踊り子達が舞を披露してくれた。琵琶の弾き手は育海、さすがに今は楽しげな曲だ。
「お、じゃあ俺も久々に弾くか!」
「明鳴!」
侯輝が弦楽器を手に取り育海の曲に合わせて弾き始めると場は更に盛り上がった。酔っぱらって一緒に踊り出す者もいる。楽しそうに弾く二人を俺は何とも言えない気持ちで眺めた。
「二人は仲が良いんですね」
「ええ、そうですね。夏侯王と育海さんは幼なじみだそうですから。……羨ましいですか?」
「え?」
「お二人の関係ですよ」
「いや…私は…王が誰かと仲が良いことは良いことだと…」
俺と侯輝は体の関係があり、侯輝から好意を告げられていても、まだはっきりしない俺のせいで恋人同士ではないのだ。そんな俺が羨ましいだとか、どうこう言う事はできない。
「おや?…そうですね。私もお二人がお似合いだと思いましたよ。夏侯王は良い王になるでしょう。そして彼を一途に思う幼なじみの彼女と結ばれ良い夫婦になれば皆に祝福されこの国は更なる繁栄を遂げるでしょうね。しかし夏侯王はそのつもりは無い様です。もし貴方が夏侯王の気持ちに応えるつもりがないなら、貴方はどうして夏侯王を振らないのです?」
金公は侯輝の前では言わなかったが流石に痛い所を突いてくる。宰相としてこの国を預かる立場もあるのだろう。そうだ、さっさと振ればいい、なのに俺はぐだぐだと侯輝の好意を手放す事ができないでいる。侯輝に好かれているのは嬉しいのだ、だが例えば育海の様にまっすぐに侯輝を好きになる自信がない。ああそうか、俺は彼女が…
「前言撤回します、やはり羨ましい様です。すみません、優柔不断で」
「いえ、良いんですよ。王の恋心がもし弄ばれているようなら臣下としても放っておけませんでしたが、貴方は思いの外真面目に考えすぎてるようです」そう言って金公は笑った。「まあ、でも、私は貴方と夏侯王の関係は上手くいくと思いますけどね」
「そう…でしょうか」
侯輝の横なら彼女の方が似合うと思うんだが。そう思いながら二人を眺めていると、ふ…と金公が髪に触れてきた。え?
「貴方はもう少し自信を持っていいですよ?白い肌と黒髪、整った顔立ちは美しいですし、その瞳は深い知性を感じます。貴方は魅力的だ」
俺の髪に触れられながら、じっと見つめてそう言われると近くに居た女官から黄色い悲鳴が上がる。何やってんだあんた。だが良く分からないが褒めてくれてるらしい
「ありがとうございます?」
「ふふふっここまで無反応だと私も自信なくしそうです。どうです?夏侯王と比べてみて心の動きは」
「え?ええと」
あいつに迫られた時?やたら恥ずかしいような。あれ?あれ?俺がまごついていると金公はふふっと笑って言った。
「まあ、今はそれで良いでしょう。心でよく感じてみてください。きっと答えが見えてきますよ」
金公はそう言って俺から離れていった。心でか……。
宴もたけなわとなり、皆それぞれ思い思いに楽しんでいると、金公が立ち上がった。金公は皆の見て言う。
「さあ、宴は終わりです!皆さん!お疲れ様でした!明日は休みなのでゆっくり休んでくださいね!さ、お開きにしましょう!」
そう言うと、女官達が酒瓶を回収し始めた。皆もそれに習って帰り支度を始める。
侯輝が帰ろうとすると育海が名残惜しそうに侯輝に話しかけているのが見えた。また少しチクチクと心がするのを感じながらも久々の幼なじみ同士だしなと先に戻る事にする。
俺、このまま侯輝の寝所に行っていいのか?今からどこか別の寝床を探した方が…そんな事を考えて一人広間を出る。とは言えもう夜も更けて今から城内の者に手を煩わせるわけにもいかず、土地勘のない城外で今から宿も…と考えながら結局王の寝所まできてしまった。なんだかベッドで寝る気になれなかったので居間の長椅子で横になることにしたのだが、やはり落ち着かない。俺、ここにいて良いんだろうか?俺は…侯輝の事が…そんな事を考えながら目を瞑っているといつの間にか眠っていた。未明、ふと気配がして目が覚める。侯輝か?起き上がろうとした瞬間鈍器で殴られた様な衝撃が頭に走り、そのまま意識を失った。
「ねぇ、目を覚まして?」
「う…」
俺は顔に衝撃を受けると覚醒された。ここはどこだ?薄暗い部屋に篝火の光がいくつか見える。俺は頭がガンガン痛むのを感じて顔をしかめた。手足は拘束されて動けない。俺は何をしていたんだっけ?そうだ俺は確か王城の侯輝の寝室に……。俺は自分の置かれた状況を確認しようと辺りを見回そうとすると目の前に誰かが立っているのに気付いた。そしてその姿に安心した瞬間違和感を覚える。
「起きた?」
「お前は……」
「俺は侯輝だよ」
侯輝?侯輝はこんなに冷たい目で俺を見たりしない。
「侯輝?お前は誰だ」
「俺は俺だよ」
声も姿はそっくりだが俺はこいつが偽物だと分かる。だが、【侯輝】の名は俺が夏侯輝に付けた愛称だ。ごくごく一部の人間にしか知られていないその名を名乗るこいつは一体何なんだ?
「まだ知らないんだね、俺の事。まあ、これから知ればいいよ」
そう言うとそいつは俺に近づいてきた。
「やめろ」
俺は逃げようとするが縛られているせいで上手く動けない。そしてそのまま押し倒される。
「俺は侯輝の捨てられた影…のような者だよ。俺はずっと見ていたよ。出会ったあの日からずっと。俺は天理が欲しい」
俺の名も知っている。本当にお前は誰なんだ?
「俺は……俺はお前なんか欲しくない!」
「そうなんだね…残念だよ」
そう悲しそうな顔をすると男は俺の服に手をかけた。
「俺は天理が好きだ。全部俺のものにしたい、閉じ込めておきたい」
そう言いながら俺の衣服を脱がせると俺の首筋を舐める。俺は怖くて震えていた。
「いやだ、やめろ!」
「ああ、可愛いな。大丈夫、優しくしてやるよ」
そう言って俺の胸元に吸い付いてきた。俺が抵抗しようとすると?
「大人しくして」と言って俺の頬を思い切り叩いた。
「痛っ」俺が痛がると「痛い?じゃあもっと痛みあげるね」そう言って今度は腹を殴ってきた。
「ぐっ」俺は苦しさに咳き込む。なんなんだこいつは!
「ああ、やっぱり綺麗だ。白い肌、黒い髪、瞳も美しい……俺だけのものだ」
そう言うと俺の身体中に口付けてくる。
「嫌だ、触るな、離せ!」俺が暴れるのを押さえつけるように「うるさいな黙って」と俺の口に布を押し込んできた。
「んー!うううう」
「はははっ大人しく俺を受け入れてくれれば優しくしてやったのに可愛そうな天理」
黙れと言いたい言葉はもう塞がれて紡げなかった。
「やっと手に入れた。俺のものになった。もう誰にも渡さない。俺が守ってあげるから」
そう言うと侯輝の姿の男?が覆い被さってくる。
「さあ、愛してあげるからね」
助けてくれ侯輝!俺は心の中で叫んだ。下腹部に伸ばされた手の感触に俺の全身は粟立つ。
「恥ずかしがらないで」
そう言うと俺の下半身に手を這わせてきた。後孔に指を入れられて俺は声にならない悲鳴を上げる。
「ここ、気持ちいい?」
そう言うと中でバラバラと動かされた。
「うう」
「ほら、だんだん柔らかくなってきた。感じてるんだね。嬉しいよ」
そう言うとさらに激しく動かし始めた。俺は必死に首を振って否定する。
「嘘は良くないなぁ」
そう言って俺の陰茎を掴むと上下に擦り始めた。
「うー!うう」
「ふふ、感じているんでしょ?正直になって?」
そう言って扱く速度を上げていく。
「うううう」俺は涙を流しながら首を横に振る。
「強情だな…虐め甲斐がありそう」
そう言って俺の口から布を取ると「さあ、認めて」と耳元で囁かれる。
「誰、が!」
「へぇ、まだそんな余裕があるんだ」
睨み付けても楽しそうにそう言って俺の亀頭を強く握る。
「ああっ」
「痛い?でもすぐに良くなるさ」
俺の竿を握りしめて上下にしごき始める。抵抗する素振りを見せると更に強くしごく。俺が反応すると「ふふ可愛い」と笑った。
涙で視界が霞む。俺の乳首に吸い付いてビクッと反応すると舌で転がす様に舐めた。
「うう……」
俺は身を捩る。
「敏感なんだね」
そう言うと俺の腰を掴み、自分の股間を俺の尻に押し付ける。
「ねえ、俺もこんなになって辛いんだ。もういいよね?挿れるよ」
そう言うと俺の足を持ち上げ、自分のモノを俺の後孔に押し付けてくる。俺は血の気が引くのを覚えながら必死で懇願した。
「頼む!やめてくれ!ほかの事ならするからそれだけは!」
嫌だ!嫌だ!俺は恐怖に震えていた。抵抗しないと!精霊!どうするんだっけ?誰か、助けて!嫌だ!頭の中で必死に侯輝の顔を声を思い出す。
「大丈夫、優しくしてあげるから」
俺がパニックに陥っているとそう言って一気に突き刺してきた。
「ああああ!!!」
俺は絶叫した。あまりの痛みと悲しみに涙が溢れ出す。
「ああ、可愛いよ」
そう言って俺の頬にキスしてくるとゆっくりと動き出した。
「痛いっ嫌だ!助けてくれ侯輝!」俺は泣き叫ぶ。
「俺も侯輝だってば、大丈夫、すぐ慣れるよ」そう言うと激しく出し入れを始めた。
「嫌だ!やめてくれ!お願いだからやめてくれ!」
俺は狂ったように叫んだが男は止まらなかった。
「ああ、可愛いな、可愛いよ」
そう言って俺の首筋を舐める。俺は怖くて震えていた。何もかもそっくりだったが俺はこの男を侯輝だと思えなかった。
俺は……あの侯輝でないとダメだった。
「大丈夫、大丈夫、優しくしてやるからね」
そう言うと俺の下腹部に手を伸ばして陰茎を掴んで上下に擦り始めた。そしてそのまま扱かれ続けた。やがて絶頂に達しそうになる。
「イっちゃいなよ」
そう言われると同時に亀頭を爪で引っ掻かれた。その瞬間頭が真っ白になる程の快楽に襲われ達してしまった。
「ふふっ気持ち良かった?」
そう言いながらまた動かし始める。繰り返し繰り返し侯輝の名を叫びながら助けを求めたが悪夢は終わらなかった。何を言われても心に響かず、長い長い悪夢がようやく終わるとようやく後孔から引き抜かれる。痛みが走り血が流れ出たのを感じた。
「綺麗だよ、とても可愛くて美しかった……次はもっと可愛くしてあげるからね」
そういうと俺の髪を撫でてきた。そしてそのまま意識を失った。
それから何日も何度も犯されて涙も枯れてきた頃、碌に食事も喉が通らず衰弱し朦朧とする中、遠くで戦いの声が聴こえてくるのをぼんやりと聞いていた。
「ああ、やっと来たんだね、間抜けな半身は」
そう言うと俺の頬に手を添えてきた。俺はビクッとする。
「ああ、そんなに怯えないで。大丈夫、何もしないよ」そう言うと俺の頬に口付けをした。
「さあ、一緒にいこうか」
そう言って俺を抱きかかえると数日ぶりに捕らわれていた部屋を出て歩き始めた。環境が変わったからか少しだけ回った頭でこのそっくりな男はなぜここまで執着するんだろうと考えたが結論は出なかった。俺はもう抵抗もせずぐったりと抱えられていた。しばらく歩くと広い場所に出た。そこでは二つの軍が戦っているのが見えた。向かってくるのは豫の軍勢、もう守り手は滅んだ筈の普の旗を掲げている。
「ちょっと普の残党に力を貸してあげたんだ。見てごらん間抜けな豫の国王がようやくおでましだよ」
示した方向を見ると侯輝がいた。
「侯輝!」俺は掠れる声で叫んでいた。
「天理ぃ!!!」
侯輝は俺に気がつくと目を見開いて一直線にかけてくる。
「さてちょっと待っててね決着をつけるから」
侯輝に似た男は俺を地に下ろすと侯輝に向き直る。
「お前は誰だ!天理を返せえええ!!!」問答無用で斬りかかるが「なぁにそれ?」と闇を纏った剣で受け流して蹴りを入れ侯輝はいとも簡単に吹っ飛んだ。
「ほら、早くしないと天理が死んじゃうよ」
そう言って俺を指差す。俺はもう起き上がる力も残されておらず顔をなんとか傾ける程度しかできなかった。
「おまえ!天理に何をしたあ!!」
俺に駆け寄ろうとする侯輝の前に侯輝そっくりな男は立ち塞がり幾合をも剣を交える。
「あんたこそ何してんの?天理は俺のものにしちゃうからね?まあ、もう俺のものだけどね」
侯輝はそれに激昂する。
「そこをどけえ!!」
「そうやってさ、真っ直ぐに天理だけ見てないから間抜けにも俺にさらわれちゃうんだよ?半身の俺」
そう言うと侯輝の目の前に一瞬にして現れ、闇纏う剣で腹に一撃入れると侯輝はどさりと倒れた。
「うわああっ!」
俺は思わず目を瞑っていた。侯輝、侯輝、侯輝!すまない俺が不甲斐ないばかりに。お前の足をひっぱった。
「さあ、これで邪魔者はいなくなったよ。行こうか、愛しい俺の天理」
そう言って俺を抱えようとするが俺は最後の力をふりしぼり、精神を集中して心の中で精霊に呼び掛けた。俺の周囲に風水炎土の精霊が浮かび上がる。精霊達でそっくりなその男を囲むと閃光の円柱を作り出し内部で爆発させた。内部から言葉に鳴らないそっくりな男の叫びが聞こえる。精霊に拘束を解かせると侯輝に這う這うの体で倒れる侯輝に這い寄った。
「侯輝、侯輝、目を覚ましてくれ」
俺は泣きながら血塗れの侯輝にすがりつく。
「天……理……」
並外れた生命力でまだ息のあった侯輝はそう言うと力の無い手で俺を抱きしめる。だが俺が行方不明だった間まともに寝食していないのだろう、いきいきとしていた肌にはクマが浮かんでおり、頬がこけてきていた。
「侯輝、ごめん侯輝、俺はお前の事が好きだったんだ。やっと気づけたんだ俺は馬鹿だ。俺のせいでこんなにしてしまった」
俺は泣き崩れていた。
「嬉しいな、やっと…両想いになれたね天理」
そう言うと俺を優しく抱き締める。俺は侯輝を優しく抱きしめ返すと俺は侯輝にキスをした。
「ちょっと…間抜けな半身の癖して俺の天理と何してんの?ねえ天理、俺の相手してよ」
ほとんど黒焦げに近い傷を負った侯輝そっくりな男は侯輝の足に剣を突き立てた。
「ぐああっ」
悲鳴をあげる侯輝に構わず踏みつけようとする。
「やめろ!」
俺は魔力が尽きかけていたが、もう一度精霊に呼び掛けるとそっくりな男を切り裂き燃やしズタズタにする。
「ぐぁ…ぁ…..まだこんな力が….いい、のか?天理、俺を殺せば、その間抜けな半身も死ぬ、ぞ?」
「……どういう事だ?」
「やっぱり天理も…何も知らないんだね。もういいや、さあ俺を殺してよ…その間抜けがこれ以上愛されなくなるし、天理に殺されるなら本望だ」
このそっくりな男が悪あがきで嘘をついているのではないのは、この数日の悪夢の中で少しだけ分かるようになってしまっていた。だが、どんなにそっくりでも俺はこいつは愛せない。俺には侯輝だけだ。しかし侯輝の傷は浅くない。俺も衰弱しきった体で無理やり使った魔法で生命力が削られていた。ならば。
「侯輝」俺は侯輝に向き直り見つめた。
「天理…」俺達は見つめ合うと口付けを交わす。
「一緒に逝ってくれるか?」
「うん、一緒だよ」侯輝は力なくも嬉しそうににこりと笑った。
「あ”ああ、やっと手に入れたのに……俺だって天理を愛せるのに!俺の方が愛してるのに!俺が!俺が!…あああ!!あ”あ”あああああ!!!」
倒れていたそっくりな男は真っ黒なモヤを纏い足から奇怪な立ち上がり方をすると闇の剣で俺ごと侯輝を貫いた。
「ぐ…愛してる、侯、輝、今度…生まれてこれたら…その時は…お前と」
「俺、も愛してるよ…目が…覚めたら…生まれた時には…天理が居て欲しいな…」
「わ、がまま…言う…な…馬鹿」
「え、へ…..それで…結婚して…ずっと…一緒に…」
触れる侯輝の感触がどんどん分からなくなる。
「あ”ぁ…天理…だけ…気づ……のに」
近くの闇も気配が消える。意識が遠退く。今度生まれ変わったら最初からやり直せるだろうか。
今度はお前と一生を共に。
そう思いながら俺は意識を失い、その生を終えた。精霊が俺達の魂をどこかに運ぶ気がした。
俺は夢を見た。見たことないキラキラとした街に俺と侯輝が一緒にいる。見慣れない少しだけオシャレな装束で手を繋ぎどこかをゆっくりと歩いている。左手には揃いの指輪。ああ、幸せそうだ。いつか…