空想と太陽の物語1(未確定)

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依頼人の件の始末書を泣きながら書く侯輝のフォローを天理がしつつ、またいつものS.Gの業務生活に戻る。
小さく変わった事としては、侯輝は天理に促され口の堅いフリーの鑑定士に視て貰い、光と闇の適正の確認と魔力を測って貰った。魔力は天理に及ばぬ程あまり高くは無いものの親和性は天理同様非常に高いと判定された。自己流でしか魔法の扱い方を知らなかった侯輝は二人の模擬訓練中に天理から精霊魔法の手解きを受け、実践に織り混ぜる事ができる様になると少しだけ戦略戦術の幅が広がった。
そして大きく変わった事としては、侯輝がその好意を一切オブラートに包む事なく隙あらば天理にアピールする為、天理は気が休まる暇がなくなった。かと思えば性的に迫る事はなくあくまで紳士的で、天理が「おまえよく好きな奴の前でムラムラともせず平気でいられるな若いのに」などと逆に心配してやれば「あえて封じておいて天理が着替え中の半裸な俺を見てムラムラしてくれないかなーって。ほら、天理、アノ時、俺の体美しいって褒めてくれたじゃない?」などと言われ熱に浮かされていたとは言えとんだ発言をしていたものだと一人反省会を開く。元々悪からず思っていた相手だけに、少しずつ、だが確実に侯輝の想いが天理の心を染めていく。だが天理には侯輝の想いを受け止め、そして返す為にはどうしてもクリアしなければならない問題があった。

「報告書終わった!ねえ天理!今晩俺んちで宅飲みしない?!」
隊員が出動なりして出払っているS.Gの一室にて、隣席で侯輝の報告書のチェックをしていた天理はじぃーっと侯輝を見る。
「……構わないぞ」
普通なら下心ありの相手の家で飲むなどOKですと言わんばかりの行為だが一応これまでの紳士的な侯輝の態度から天理は信用しても良いだろうと判断した。決して流されてる訳じゃないんだと自分に言い聞かせながら。
「ほんと?!やった!前に美味しいって言ってた料理のアレンジ考えたから是非食べてよ!」
意外と料理が上手い侯輝は嬉しそうに胃袋掴むぞお!と張り切っている。
そんな侯輝との付き合いが悪くないと天理は思っていると天理の携帯機が鳴る。その相手の名前に不機嫌さを隠せずにしぶしぶ出ようとすると侯輝が表示を見もせずに取り上げ勝手に通話に出た。
「もしもし何か御用ですか?エレリウスさん」
「あっ!馬鹿」
天理は慌てて止めようとしたが既に遅く電話の向こうからは落ち着いた声が聞こえてきた。
「誰だい君は」
「俺は天理の恋人だよ!」
「こら、何言って」
携帯機を取り返そうとする天理を制しつつ通話を続ける。
「それは初耳だね……ひょっとして君が天理君の新人バディ君かい?先日は君のお陰でだいぶ魔力供給する事になったと聞いているんだがね。天理君もその後大変だったろう?」
侯輝は内心舌打ちする。先日は自分の失態なのは間違いない。だがそもそも天理があんな辛い思いをしなければならない原因を作ってるのはあんたじゃないかと腹を立てる。
「ともかく!今日は天理はそちらには伺えませんから!」
「待て、勝手に」
「そこに天理君がいるなら伝えて貰えるかい?いつも通り私の研究室まで来る様にと。ああ、君も来てくれても構わないよ?"魔力補充要員"としてね。先日は君が彼を慰めたのだろう?彼の体は魅力的だと思うが毎度相手にするのは中々」
最後まで聞くに耐えず侯輝は通話を切った。まだ天理の事を大事に思っているのなら救いはあると微かに思っていた。だがとてもそうとれないエレリウスの態度に侯輝は怒りを抑える事ができなかった。
「……俺に来いって連絡だったんだろう?すまん、さっきの約束は……」
辛そうにそう告げる天理にどうしてそこまで言いなりになっているのかと苛立つ。
「どうしてあいつの言いなりなの?魔術契約にそんな強制力あるの?いつも辛そうなのに。俺天理がしんどい思いするの見てられないよ」
「契約自体に強制力はない……はずだ。そこまでやったら即逮捕だしな。結果的に協力せざるをえなくなってるんだ。元々は俺の都合というか……俺、考古学者になりたかったんだ」
天理は苦笑しながらいつもは語ってくれない昔語りを始めるのを、侯輝は憤慨しつつも黙って聞いていた。
「俺、元々怪物被害による孤児でな、運よく引き取ってくれた人が考古学の研究してる元大学の教授で。良くしてくれて大学まで行かせて貰ったんだ」
天理は懐かしむように目を細める。
「……その人は親代わりだった。俺も考古学楽しかったし俺も考古学者になって余命いくばくもなかった先生の研究継いで恩返しがしたくて必死だったんだ。俺が魔術学院の大学生の頃、資金不足で考古学科が廃部になりそうになって、資金提供の話を持ちかけて来たのがエレリウスだった。俺のレアスキルの四元素契約精霊を俺と契約することで共有させて欲しいってな。悪い話じゃないって思った俺はやつが特殊契約させようとしてるのも気づけず契約してしまったんだ」
その時の事を思い出したのか天理は悔しそうにする。
「あの野郎共有どころか俺の四元素契約精霊を剥奪しようとしてやがった。情けない主だが精霊達が自力で帰って来てくれて阻止されたんだが契約自体は結ばれちまって。通常、契約解除は契約陣でその術式を俺が上書きすれば解除できるんだが、契約の時の不具合なのか術式通りに上書き実施しても解除できなかったんだ。調べてみてもどうしても分からなくて。俺適正あってもあの野郎みたいに研究はしてないからな。……ごめんな」
「えっ天理が謝る事じゃないよ!天理が一番辛いんだから」
申し訳なさそうに謝る天理に侯輝が慌ててフォローする。だが天理は少し諦めた様な表情で答えた。
「俺はもういいんだ。もう、慣れたし。ただお前が俺を好いてくれるって言うならこんな俺じゃ嫌だろうなって思ってさ」
(こんな時まで俺を気遣わなくていいのに!それに慣れてるってあんなに苦しそうだったのに!天理平気な訳無いじゃん!)
「確かに嫌だけどそれは天理に対してじゃないよ!やっぱり今日もエレリウスの研究室に行かないとならない?」
「ああ……無理やり剥奪されそうになった時の影響からか、契約以来俺の精霊力は不安定になっちまったんだ。色々試してみた結果、研究室の契約陣で魔力供給を受けながら目一杯精霊力放出してやれば安定する事が分かった。それで仕方なくあの野郎の所に通ってるんだよ。で、発情して毎度、な」
「うう……不安定になると生活厳しいの?」
「精霊達が力加減が出来なくて暴発したり、あとは使わなくても軽度の発熱とか影響がでる。S.Gの外回り業務なんてとてもできないな」
「どうして考古学者にはならずにS.Gになったの?」
「当時エレリウスの野郎が大学内で不正を働いたとかで問題になって一時地方に飛ばされてな。考古学科への資金提供の件が白紙になってそのまま廃部。俺は結果的にしなくてもいい契約をさせられた上に考古学者への道も絶たれちまった。不幸が重なって親代わりの人まで亡くした俺はもう夢を追う事も半ば諦めてたんだ……そんな時、ある遺跡近くの裏道で怪物に遭遇しちまい精霊魔法だけでなんとか逃げ回ってた俺をS.Gで当時バディ組んでた公金さんと葉金さんに助けられてそれがきっかけで誘われて入隊する事にしたんだ。S.Gなら遺跡や遺物に触れられる権限が与えられるって聞いて、まだ考古学研究の夢を諦めずにいられると思ったから剣なんて握った事も無かったのに必死で鍛えたよ」
天理が遺跡の知識が豊富な事、遺跡絡みの任務に行くと少し楽しそうにしていた事を思いだし、侯輝はS.Gの隊員にしては少し異質な天理が在籍している理由に納得する。しかし肉が付きにくく細身の天理がどれだけ苦労したのか想像に難くなかった。
「大変だったんだね……頑張ったんだ天理」
「ん……エレリウスとの契約も、俺ばかりあいつに力利用されてやる事はない、あいつの魔力を奥の手として利用しちまえって開き直れるようにもなった。ま、使うとお前も知ってる通りちょっと人には見せられない状態になるけどな」
あははと苦笑する天理だが、侯輝はその時の天理の痴態を思い出してしまい顔を赤くしてしまう。だが天理はエレリウスの元に通い精霊力放出をする度にあの発情状態となり、その解消の為エレリウスや誰かに魔力供給儀式という名のセックスを余儀なくされているのだ。天理への愛を自覚した今、侯輝はそんな天理の姿をもう誰にも見せたくはなかった。
「だから……今日も行くしかないんだ」
「……分かった。けど、俺もついてく」
「えっ!」
「さっきの通話であの人わざわざ俺を招待してくれたからね。"魔力補充要員"として来てくれて構わないってさ。ちょっと俺舐められすぎだよね!だったら乗り込んでその面拝んでやろうと思って」
「あ、の野郎、侯輝まで巻き込むつもりか!?」
「いいんだよ、俺が行きたくて行くんだから。それに精霊力放出したら天理どうやったって発情状態になって魔術供給儀式しなきゃならないんでしょ?これからは誰にもそんなことさせない。二度と誰にも見せない、天理は俺だけのものだから」
天理は紳士的だと思っていた侯輝が見せた深い独占欲の一端に少しだけ驚きつつも悪くないなあと思ってしまう自分に苦笑した。
「ふふっ告白の返事してない俺が言うのも何だけど俺まだお前のもんになってないぞ?」
「あっ!えーっと、ともかく!天理一人が辛い思いすんのはヤなの!」
くすくすと笑いながら指摘する天理に、侯輝はエレリウスへの怒りのままうっかり心の本音を漏らしてしまった事を慌てて取り繕う。
「分かった分かったありがとな。じゃあついて来てくれるか?その後の、魔力供給儀式お前に頼みたい。お前の好意を利用する様で悪いんだが」
苦笑しつつも申し訳なさそうに言う天理に対し侯輝は力強く答えた。
「気にしないで!俺がそうしたいんだから!」
「ん……じゃあ行くか。正直、お前がついてきてくれるの、凄い心強いし嬉しいんだ」
「うん!俺頑張るから!」
儚げに笑う天理を力付ける様に侯輝は笑顔で答えた。


魔術学院にある精霊科の最奥へと侯輝を連れた天理は裏口から顔パスで通される。エレリウスの研究室は精霊科の棟の最上階にあり、通路でチラホラとすれ違う様々なローブを纏った研究員や教員と思しき人々が天理の姿をみて様々な反応を示していた。
「天理ここだと凄い有名人?」
「俺、一応精霊適正国内唯一の4属性持ちの超レアだし、ここは精霊研究の総本山だからな……それだけじゃないけど」
羨望、嫉妬、侮蔑など天理に向けられる視線を慣れた様子で苦笑する天理。侯輝は遠くから小さな声で「エレリウスの情婦が」などと聞こえた瞬間ダッシュで殴り込みをかけたかったが隣を行く心を殺した様な顔で天理がぎゅっと手を握りしめてきたのでなんとか堪えた。
最上階にたどり着くとそこはフロア丸ごと精霊科長エレリウスの研究室エリアだった。天理がドアをノックし入室する。そこは様々な神秘的に輝く魔法道具、ハーブなどの薬類や実験器具、書物などで溢れかえっていた。お伽噺の魔法使いの部屋を彷彿させつつも機械端末もいくつか並んでおり化学的な角度からも研究が進められている様子が伺えた。
「なんか散らかってるねー天理の部屋の遺物コレクション置き場みたい」
「一緒にすんな」
(研究者気質の人ってそんなものなのかな)
真顔で拒否る天理に侯輝はこっそりと思っていると奥の方から気配がした。
「やあ、よく来たね天理君。待ちかねたよ。伝言は伝えてくれたようだね。そちらが先ほど通話に出てくれたバディ君かな?」
入隊した奥の部屋の扉が開くと銀髪をオールバックにしやや鋭い目付きでありながらも端正な顔立ちと長身細身の男が現れた。40才と聞いたがもう少し若く見える。天理を歓迎する様ににこやかに笑っていたが侯輝には胡散臭く見えた。男は侯輝の方にも笑顔を向け続ける。
「はじめまして、私は精霊科長エレリウスだ。よろしく」
「はじめまして!俺はS.Gの侯輝、天理のバディだよ。今日はお招きありがとう!よろしくね!」
侯輝はこいつが天理を苦しめている元凶かと思いつつも笑顔を作り、だが挑戦的なニュアンスを含めながら挨拶をした。
「こちらこそ、元気なバディ君だね。エネルギーに満ち溢れている。前回天理君に魔力供給儀式をしたのは君なんだね?精霊適性を聞いてもいいかな?さしずめ火か光といったところかな?」
エレリウスは笑顔を絶やさぬ様にしながらも侯輝をどこか値踏みする様に見ていた。
「よく分かったね!光だよ☆流石精霊科の科長さんだね!」
侯輝は正直に全部話す事などないだろうと闇の適性は伏せエレリウスを持ち上げる様に答えた。闇を隠し、光の属性的なキャラで居続ける事は従来侯輝が得意としてきた事だった。天理も伏せている事に気づいたが闇の適性を伏せておきたい事情は察したので反応せず何もポーカーフェイスを通した。エレリウスは疑う様子も無く侯輝の発言に頷く。
「光か、少し珍しいね。では侯輝君は天理君の精霊力放出の儀式が終わるまで待機しておいてくれるかい。ベッドとシャワールームはあちらの部屋に…」
エレリウスがそう言って奥の部屋を指した瞬間侯輝がその言葉を遮る。
「俺、天理の横に居ていい?儀式の邪魔はしないからさ。すぐに天理を介抱したいし!あとできればここじゃシたくないから儀式終わり次第天理連れて帰りたいな」
すぐに介抱するという意味でならすぐそこにあるというベッドの方がいいだろう。でもここはきっと天理には辛い思い出しかない場所だ。それにこんな所で天理に8年もの間望まぬ性交を強いた奴と同じ空間で同じ空気を吸わせるなんて冗談じゃなかった。
「移動の最中天理君が辛いと思うのだがね……私は構わないが天理君もそれでいいのかい?」
エレリウスは侯輝の言葉の裏の意味に気づいているのかいないのか、あっさり了承した。
「俺はこいつに頼んでいる立場です。文句は言えませんし、辛さについては今始まった話ではないので」
天理は侯輝の申し出に内心嬉しく思いながらも、エレリウスの問いに無表情なまま答えた。
「ふむ…ならそうしたまえ。では早速だが儀式を始めようか」
エレリウスはそう言うと奥の部屋へと二人を導く、そこには侯輝には難解な魔方陣が存在し、おそらくそれが天理とエレリウスとの契約陣なのだろうと察した。
(何て書いてあるか意味までは分からないけど、何だか気分悪い契約陣だなぁ)
「じゃぱぱっと終わらせてくるから、あと…頼むな」
「うん、がんばってね」
天理は小さな声で侯輝に囁くと、慣れた風にその契約陣の内に進むとエレリウスから何やら今回の儀式について説明を受ける。天理はエレリウスから精霊力放出の儀式に使用するであろう掌大の透明なクリスタルを受け取り床に置いた。天理は集中する様に一つ息を吸って吐いたのち、指を鳴らし自身の契約精霊4体を次々と召喚した。普段天理が呼び出す掌に乗る程度の小さな精霊と異なり、エレリウスの魔力供給を受け、大人程の大きさの神々しささえある大精霊が契約陣の中に呼び出された。4体の精霊達は主である天理を歓迎する様に、楽しそうに、敬う様に、見守る様にそれぞれ生き生きと宙に漂った。いつも呼び出す小さな精霊の時も生き生きとしていたが侯輝はこれが天理の契約精霊の本当の姿なのだと感嘆した。
「すご…い…」
「うむ、いつ見ても実に素晴らしいね。では説明通りお願いできるかな」
天理は頷くとクリスタルに手をかざし、精霊達に呼びかける。息を合わせた様に一斉に精霊達が舞いハーモニーを奏でながら力を放出する、そしてその力が一つになると天理の足元にあったクリスタルに力が注がれていった。膨大な精霊力の放出に契約陣が反応し、契約陣から伸びた光が薄目を開けながら術に集中している天理の体を包む。天理はその中で体内の精霊力が整っていくのを感じとり、エレリウスは輝きを増すクリスタルを満足げに見ていた。
そして侯輝はその神秘的とも言える光景の中に紛れ込む様に細く真っ黒い触手の様なおぞましい意思を持つものも契約陣から伸び天理を絡みつこうとしているのを見ていた。
(何、だよあれ、闇の精霊?!なんで!凄く気持ち悪い意思を感じる。天理それ払って!気づいてないの!?)
そこで侯輝はその闇の精霊が"隠し"を纏っている事に気づいた。精霊使いであっても気づかれる事無いその隠しは犯罪者がよく使用する手口だった。闇の精霊適性を持つ侯輝だからこそ見破れたそれは、契約陣の術式に織り込まれる様に一体化し、天理の精霊力放出を補助する様に見て取れた。侯輝は光の精霊魔法で払おうと考えたが寸でで思いとどまった。
(そうかあれも契約陣の術式の一部なんだ!そして天理が契約陣の術式が分からなかったのはこの為だったんだ。そして分かっても闇適性の無い天理じゃこの契約は破棄実行できない!天理を一生奴隷にするつもりだなこの外道!……待て、落ち着け、解除の施行は天理でなければならず今は手段がないんだから暴れたって解決できない!)
侯輝はこの契約陣の異常を知り、おそらく仕込んだであろうエレリウスに今にも叫びだしたくなる感情を抑えつつ、必死に冷静な思考を保ち頭をフル回転させる。喧嘩を売るのは手札が揃ってからだ、天理を開放するという絶対に負けられない勝負なのだから。
(観察し考えろ、今度は間違うな。そうだ契約術式が契約陣に刻まれているなら俺が覚えて天理に読んで貰えば真相が分かるはず!叩き込め!)
侯輝が思考を進めるその契約陣を覚えることに全集中する間にもクリスタルはその力を受け輝き始めるとまるで共鳴するかの様に部屋全体に光を撒き散らす。
やがて光が収まるとそのクリスタルの中に精霊の紋様が浮かび上がってきた。こんな状況でなければ素人の自分でもゆっくり眺めていたいほどの美しさだった。だが天理は感慨深さもなくひょいとクリスタルを手に取るとそれをエレリウスに手渡す。エレリウスはクリスタルを満足そうに検分し始めた。
「うん、やはり君がやると精霊力の密度が違うね。私が君の精霊を借りて4属性精霊術を施行してクリスタルに込めてもこうはならないんだ。これでまた研究が一歩進む。感謝するよ」
(精霊を借りて……そうだ!闇の精霊だって闇の精霊適性持ちと契約すれば使えてしまうんだ!エレリウスに天理の他にも契約者がいれば使える!そして天理だって俺と契約すれば……!よし!)
「そう、ですか。それは……何よりですね……」
精霊達を送還し、契約陣の光も消えると、天理の体にエレリウスからの魔力供給を受けた後に発症するという発情状態が少しずつ現れ始める。だが侯輝にはそれが天理の体に先ほど絡み付き蝕んだ闇の精霊力がそう促しているのがはっきりと見えた。
(くそ…全部お前のせいかエレリウス!!奴隷にするのにそこまで必要ないのに!)
天理は必死に耐えようとするも、体は言う事を聞かず、頬が紅潮し、息も荒くなっていく。エレリウスはそれに気づき天理に近寄ると、優しく声をかける。
「お疲れ様。大丈夫かい?」
「はい、もう用はないよね?天理を連れて帰るよ」
「ぅ、ぁ……侯、輝」
侯輝は怒りの感情を全て天理を救う一点に集中させる事で封殺し、言いながらエレリウスを押し退け、もう立っているのもやっとの天理を刺激しないようそっと掬い上げ抱きかかえる。それでも敏感に反応してしまいながらも天理がほんの少し安心した様に小さく微笑んだ。
「おや、もう帰ってしまうのかい?君にも感謝しているよ、魔力供給儀式の信頼できる要員を準備するのも一苦労でね。いつも来る男は少し性癖に難があるものだからちょっと天理君が可愛そうでね。また頼むよ」
侯輝はその言葉に腕の中の天理が小さく震えるのを感じ取ると今度こそ爆発しそうになったが全てを天理に集中する事で抑えた。
(天理があんなに辛そうになったのはそいつのせいか!そしてお前がそれを言うな!!)
「そう!じゃあ二度と用意しなくていいからね!それじゃ!」
(今度会う時はお前とは最後だ!)

侯輝は天理を抱え、ぶん殴らずに我慢した自分を全力で自画自賛しながら研究室を後にした。天理を救う決意を新にする。戦う手札となる材料は揃った、あとは天理と準備をしてその時が決戦だ。仮にも相手は大精霊使い、ミスればより強力な対策を講じられない。だが今は腕の中の愛しい人を癒すのが先だ。
「ごめんね、天理、すぐ休める所に行くから!」
「ぅ、ん……大丈夫、だから」
夜も更け始めた時間となり学院内にはほとんど人気が無くなっていた。各部屋に小さく明かりが点いている部屋はあったが幸い廊下では誰もすれ違わず熱く吐息を洩らす天理の痴態を晒す事無く魔術学園の外に出る。予期していた事なので予め予約していたホテルにチェックインするとすぐにベッドに横たえ優しく声をかけた。
「もう大丈夫だからね。少しお水飲む?」
「はっ……はっ……ん…ありがと…な」
侯輝は備え付けの冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出すと蓋を開けて渡そうとするが既にろくに力が入らない状態に気づき、水を自分の口に含むとそのまま口移しにする。
「ぅ……ふ……ぁ……」
「もっと欲しい?じゃあもう少し……」
頷く天理にもう一度口移しそのままキスすると侯輝は離そうとせず何度も角度を変えながら舌を入れていく。天理も受け入れ応えようとしてくれるのが嬉しくて夢中で味わっていると弱弱しく胸を叩かれ我に帰ると名残惜しげに見つめつつゆっくりと口を離す。
「こら、まだ委譲契約、やってない、だろ。いきなり、始めんな」
天理が怒った風に突っ込みを入れるもそれほどでも無い様子に侯輝は嬉しくなってしまう。天理にとって辛い"儀式"でしかなかったこれからの行為が少しでも和らげればと思っていたからだ。
「えへへ。天理が応えてくれたからつい。ねぇ、天理、キス好き?」
「な、んだよ急に」
「だって天理キスの時は嬉しそうだから」
「はぁっ?!」
発情して紅潮した顔を更に赤くして狼乱する天理が可愛らしくて仕方がない。過去の辛い経験よりセックスが辛いものとして認識している天理を楽しませてあげたいと必死だった。今までは儀式の精液の受け渡し行為のみが必要でキスは一度も無かったという天理は、前回も俺とのキスは良いものと認識してくれていた様だった。
「そ、そんな風に見えてんのか?俺……」
「うん!とっても可愛く見えるよ!」
にこりと笑いながら言うと天理は少し怯みつつ恥ずかしそうに目をそらす。
「ぅ……年上の男に可愛いってお前……惚れるとそう見えるもんなのか?と、ともかく先に簡易契約印を……」
エレリウスとの不条理な契約の日々の影響か恋愛についても疎くなってしまっていた天理はまごまごと困った風にしながらとりあえず儀式を進めようと自らのシャツのボタンに手をかけ、震えてしまう指に更にまごついた。
「やるね」
侯輝はそんな天理が可愛いなと思いつつ声をかけ代わってボタンを外していく。
「天理、あのね、天理が許してくれる限り……できればずっと許してくれるといいんだけど、この行為はこれからはずっと俺が相手だからね?これまで天理がずっと耐える様にしてきた行為はもうおしまい。今すぐ楽しめる様になってなんてずっと一人で苦しんできた天理には言えないけど、俺がいる間はもう我慢しなくていいからね?」
言いながらボタンを外し終え天理の肌をさらけ出させると忌々しいエレリウスとの契約印が見える。それはうっすらとではあったが見た目以上に天理を苦しめてきたはずだった。侯輝はそんな天理に寄り添いたかった。
「ぉ……俺、は……お前にそこまでして貰えるほど返せないかもしれないのに……お前への気持ちがまだ……」
侯輝の言葉に天理はうっすらと涙を浮かべる。沸き上がる感情をどう扱えば良いのか分からず戸惑っている様子だ。
「天理、俺は見返りを求めてやってるんじゃないよ。俺はただ天理が好き。好きな人が辛い目にあってるのを見てられないだけだよ」
「……侯輝……っ……俺……お前の事……ぁ……多分、好きだ……でも……まだ……分からないんだ……」
侯輝はまたごしごしと涙を雑に拭おうとする天理の手を止め目尻にそっとキスをする。
「うん、そうだと思う。天理言葉以外は素直に出るタイプだと思うから。言葉にしてくれてありがと、嬉しいな。でも今は弱ってる天理につけ込んじゃってる感じだからさ、全部解決してフラットな状態になった時、その時お返事頂戴?ね?」
「ぅ……ん……ありがと、な……ぁ、でも俺、契約、が……いつ返せるか……」
天理は例えそれが恋愛感情ではなかったとしても一生この男への恩は忘れまいと心に誓う。ずっと耐え続けてきた心の奥で凍りついていた心が溶けた様に天理の瞳からまた涙がこぼれ落ちた。
エレリウスとの契約があり続ける限り、対等な関係とは程遠いこの依存した関係が続いてしまう。天理が侯輝への想いを明確に口にする事はできない事を気にかけている事も侯輝は察していた。だが今日研究室で確認した事と推察が正しければ天理を解放できるかもしれないのだ。
「あ、泣かないで……天理、あのね、その契約も解除できるかもしれない」
「ぇ……?」
「まだ推察だからうまくいくか分からないんだけど。あとで落ち着いたら相談させて?ほら、まずは儀式しなきゃ、ね?」
侯輝はまたその涙を吸い取るとそのままあやす様に口づけをした。精霊魔法に関してはまだ素人の自分の独断でぬか喜びさせても仕方ないだろう。まずは天理を発情状態から楽にしてあげなくては。
天理が落ち着いたところで唇を離し、自らもシャツを脱ぐと天理が簡易魔力委譲契約の契約印を互いの胸に施し、二人の間に一時の繋がりが形成された。

再び口づけから交わりを始める。やはり嬉しそうに応えてくれるのが嬉しくて、愛おしくて、侯輝は夢中でキスを繰り返す。天理が苦しくない程度に舌を差し込み絡め合うと、応える様に絡ませ返してくれた。
天理は侯輝と出会わなければ口付けが心地好いものであった事も知らずにいたのだろうと思うも、それが発情状態故にもたらされるもので自分が嬉しそうにしてるのも単に淫乱野郎なだけだとしたら、侯輝をぬか喜びさせてるだけなのでは無いかと思う。
ふ……と不安そうな顔を見せる天理の表情の変化に気付いた侯輝は安心させようと優しく微笑みかける。
「どうしたの?どこか辛い?何でも言って?」
「あ……その、キスとか俺の嬉しそうにしたり、感じたりしてる反応で、お前を喜ばせる事ができてんの、俺が今発情状態だからなんじゃないかって、不安に……」
侯輝は天理の言葉に一瞬きょとんとした後、破顔してその喜びのままに抱きしめた。嬉しくて顔が緩んでしまうのを抑えきれない。
(!!!天理可愛いぃ……!これ無自覚なの?)
「んっ!なっ……え?」
全身性感帯と化している天理はそれだけでもびくりと震えたあと、侯輝の突然の行動についていけず戸惑いの声をあげた。
「ねぇ、天理は俺を喜ばせる事ができないと不安になっちゃうの?天理は俺の事喜ばせたいって思ってくれてるの?」
(それってもう俺の事好きって事じゃないの?!)
愛おしそうに見つめながら天理にそう告げると、天理は恥ずかしそうにしながら俯きがちにポツリポツリと小さく答える。
「え?……そりゃ……お前には……喜んで欲しい……身勝手な願いだけど……できれば、好きでいて欲しいとは……」
(それってもう俺の事大好きだからあ!気づいて天理ぃ!!)
侯輝はできれば天理自身で気づいて欲しかった為、全部解決したらお返事頂戴と言ってしまった手前、侯輝は天理が自覚できていない心の奥底の想いに叫びだしたい気持ちを堪えながら、愛撫を続ける事にする。
「ありがと天理、不安にならなくてもいいんだよ。天理のその気持ちが一番嬉しいから。」
「んっ!でも俺……」
言いながら天理の乳首を軽く摘まむとビクリと身体を震わせながらもまだ不安そうにしていた。
「今はおかしな状態かもしれないけど、俺はどんな天理でも大好きだよ。まだ天理は癒さなきゃいけない時期だと思うから、今はただセックスは気持ちいいんだって、それだけ感じよ?ね?」
「そう、か……?ありがとな」
もう一度キスをすると天理はやっと安心したように小さく微笑んだ。
侯輝は天理を慈しむようにただただ気持ち良くなれる様に愛撫を続ける。
はじめての前回と違い少し余裕ができた侯輝は、発情状態とは言え天理の敏感な箇所に差異があることを探り当て、慣れない愛撫に反応する天理が可愛らしくてイヤイヤしてきたにも拘わらず調子に乗って重点的に愛撫を重ねていると半泣きで天理に顔を真っ赤にして怒られた。
「いい、加減にしろっ、……たく、何が楽しいんだか……」
下肢に手を伸ばしパンツごとズボンを脱がし、可愛いなぁと思いながら綺麗な脚に口づけて愛撫してまた怒られて、やっと後孔を解し剛直を埋めこむ。埋め込んだ剛直に慣れるまでの間のキスはやっぱり嬉しそうで、その表情が愛おしくてたまらない。
そしてゆっくりと動かし始めると段々と感じてきている様子で声が上がりそうになるが、やはり歯を食い縛った様に堪える癖はそのままだった。
「はっ、はっ、声、聞きたい、な」
「ん"んっ!んぁ!んっ!は、ぅ"……」
「無理言ってごめんね……」
激しく突き上げながらそう告げると、天理が恥ずかしそうにしながらも、その想いに答えようと何度か口を開きかけてはやはり長年の癖で食い縛ってしまい、少し辛そうにするので謝りながらキスをしてまた互いの口の中で声を響かせ合った。
「ん!ん!ん"んっ!んぅ!!」
「んん!ん!ん!んん!」
侯輝の肩に力無く捕まる天理の腕がそれでもきゅうっと侯輝を締め付け絶頂が近い事を伝えると侯輝は更に激しく腰を打ち付ける。
そしてその寸前侯輝は天理から口を離した。
「んん"ん"っあぁ…………っ!!」
「っ!くああ"っ!!」
絶頂に寸前に解放された天理の口は、食い縛るだけだった喉奥からはじめて艶やかな声を上げた。
そして侯輝もその強烈な締め付けと艶やかな声に導かれるように声を上げ天理の中に精を放つ。
(可愛い、天理、好き、大好き、もっと声聞きたい、愛してる、ずっと側に、俺だけの)
天理は快楽とはじめて上げた己の酷い嬌声に羞恥心で頭一杯になり、更に侯輝から放たれた精液を通じて侯輝の魔力と天理を誰よりも愛しく想う気持ちに押し寄せられ、気持ちいいやら恥ずかしいやら嬉しいやらで感情がぐちゃ混ぜになり真っ赤な顔で涙目になっていた。そして己の想いが確実に侯輝のものと重なりつつあるのを自覚する。
そんな様子の天理に侯輝はそっと触れるだけのキスをした。
「……天理、大丈夫?」
息もまだ整わず真っ赤になったまま少しぼぅっとしたままの天理の様子はとても艶っぽく、侯輝はつい先程までの激しい情事を思い出してしまい再び欲望に駆られてしまうのを必死で堪え天理を労る。
「ん……」
侯輝の言葉に小さくこくりと首肯で返す天理だったが、まだ少し混乱していてうまく話せないでいた。
侯輝はそんな天理の仕草に愛おしく思いながら天理を落ち着かせるように優しく抱き締め頭を撫でる。
「落ち着いたらシャワー浴びようね」
「ん……ありがと、な…おかげで発情状態は治ったし、体は、落ち着いてきたから」
「良かった」
「ああ」
侯輝が安堵すると短くもはにかんで答える天理が可愛くてついまた押し倒したくなるがぐっと我慢して抱きしめた。
「今日は、ホントありがとな。あいつとの儀式の日に、こんなにも憂鬱にならない日がくる事なんて、もう来ないって諦めてたから。お前には感謝しきれない」
「ううん、良かった、天理が少しでも幸せに近づいてくれるのが一番だよ。もう辛い思いなんて俺がさせないから」
「それで、あの…な、お前への返事なんだが」
「焦らなくていいからね、解決してからで……そうだっ!それでさっき言ったエレリウスとの契約の解除方法についての俺が思い付いた方法の相談なんだけ、ど…」
侯輝が全てを言いきる前に天理は侯輝の項に手を伸ばし引き寄せ、近づくと、はじめて自分から口づけをした。
「すまん、ちょっと逸りすぎた、その相談急いだ方がいいか?」
眼を丸くして驚く侯輝に恥ずかしそうに天理が言う。侯輝の契約解除も大切な話だとは思った。けれど天理には今沸き上がってしまった感情を確かめたくて考えるより動いてしまっていた。
「わ、えっと今すぐ始めなくてもいい、と思うけど……」
「あの、な、侯輝、お前から見て、俺が冷静じゃなかったら、止めて、くれ。俺……発情状態終わったって言うのに、お前に今、もう一回抱かれてみたいって、俺の、この気持ちは多分……ん……」
侯輝は天理の言葉より早く口づけをしていた。侯輝とて冷静でなど無かった。大好きな相手が抱いてくれと言っているのにそれを断ることなどできなかった。
「ん……侯輝……もっとくれ……」
そう言って自ら舌を差し出す天理の積極的な様子に侯輝は内心驚いた。恥ずかしがり屋の一面がある天理からは考えられない行動だったからだ。その姿は発情状態時よりも余程艶めかしく、混じりっ気の無い純粋な熱が籠った瞳で侯輝を愛おしそうに見つめていた。
「うん……嬉しいよ天理、大好きだよ」
「ん……おれも……」
そう言って再び唇を重ね愛し合った。それが二人の身も心も通じ合ったはじめての交わりとなった。


発情状態ではないはじめて素の状態で抱かれた天理はその感触に戸惑いながらも幸福を感じていた。何年も自分が望まない熱に強制的に浮かされ続け、二度とまともな交わりなど望めないと思っていたからだ。まだ歯を食いしばり耐え忍ぶ癖は抜けきらなかったが恥ずかしい思いをしながらも嬌声を響かせれば腹の中の侯輝の剛直がさらに固く大きくなり、天理は嬉しさのあまり泣きながらその身を震わせた。
侯輝はそんな天理を歓喜の想いのまま強く抱き締め、キスをして、何度も好きだと愛しい想いを心身全てでぶつけていた。
「侯っん゙あぁ!ああっ!ああっ……………!!」
「天理っあ゛っああっ!!」
天理は発情状態でなくても侯輝を喜ばせられた事の幸せと喜びと侯輝への恋慕を確かに自覚した。
再び互いから精が放たれ天理の中が再び侯輝の光と闇の魔力と想いで満たされていく。
(天理、大好き、もっとしたい。愛してる。滅茶苦茶に乱れさせたい。一生大切にしたい。閉じ込めてしまいたい。護りたい……)
「はぁっはぁっはぁっ……」
侯輝の想いはどんどん深く重くなってく。だが天理はそれも心地好いと感じてしまう己に呆れつつも受け入れていた。
「はぁ……はぁ……天理……天理……」
ぎゅうぎゅうと抱きしめながら頬ずる侯輝に天理はまだ体を震わせ幸福感に身も心も包まれながら微笑む。
侯輝はその護りたくなる微笑にぽぅとしながらも事後の天理のまだ残る色香に反応してしまう自己とのジレンマと戦っていた。
「ふふっ侯輝……お前まだ足りないのか?」
まだ埋め込まれたままの剛直が放たれた後だと言うのにすぐに固さをとりもどしつつあるのを身をもって感じ取っている天理はくすりと笑いながら問いかけた。
「ぅ、そ、そんな事ちょっとしかないよ!平気だよっ」
天理の笑みにまたドキドキしながらそう言って慌てる侯輝に天理は笑みを堪えられなかった。
「ふははっ、ちょっとってお前、俺を本当はもっと滅茶苦茶に乱れさせたいんだろ?ん?」
「あ!それはっそのっ!例えっ例えだからっ」
侯輝は魔力供給で意志が伝わってバレてしまっている事を思い出しながらも必死で誤魔化そうとする。そんな侯輝を見て天理はクスクスと微笑んでいた。
「お前が望んでくれるなら俺はいくらでも応たえたいんだ。俺も頑張るから、滅茶苦茶にして、いいぞ?」
照れながらも侯輝の頬に手を添えながらにこりと微笑む天理に侯輝はごくりと喉を鳴らした。己が愛した人は自分が思うよりも深い愛を湛えていて、満たそうとしているのだと。
(したい!したいけど!大事にもしたいし!でもおお!!)
「天理!」
「おう。」
誘われるまま欲求に逆らえずに再び侯輝が覆い被さると天理は迎える様に微笑みながら侯輝の肩に腕を回す。
「天理……あ、れ……」
「侯輝?………あ。」
そのままキスを…と思ったところで侯輝は力尽きた様に天理の腕の中で眠りに着いた。
二人は簡易魔力委譲契約中だった事を忘れていた。
天理に放たれた精液を通じて二回も魔力供給してしまい、抜かずにもいた為侯輝は魔力を天理に供給しっぱなしになり、たった今、侯輝は魔力が枯渇してしまったのだ。
「ぷっ…ははは、全く、締まらないな」
「ぅぅ…ん天理ぃ…好きぃ俺のぉzz」

天理の胴を抱きしめスヤスヤと眠りはじめてしまった侯輝の、精悍さはあるがまだ少しだけ幼さの残る頬をつんつんと指先で突きながら天理は微笑んでいた。
これ程までに誰かを愛おしいと思える日がくるとは夢にも思わなかったのだ。
「そうだ!早く抜かないと!どいてくれっ侯輝っ」
このままでは供給しっぱなしだと天理は眠りながらも引っ付いたままの侯輝をどうにか剥がして退かそうとする。
「この馬鹿力!筋肉重い!……んっ……ぅぅ……っ…………はりきり過ぎた……」
天理は侯輝をまた少し震えながらなんとか体内から抜け出させた。己の体内から零れ出る白濁に一人顔を真っ赤にしながら状況もわきまえず初めて己から誘ってしまった事を反省する。
軽くシャワーを浴び侯輝を軽く拭ってやってそのまま隣に横たわる。
どういう知覚をしているのか眠りながらもすぐに侯輝が名を呼びながら抱きついてきて、少し汗ばみつつもそのぽかぽかとした太陽の様な体温にくるまれていると、眠気が襲ってきて、天理は抵抗する事なく眠りに落ちていった。
(これからは俺もお前の夢が見られるといいな……)


翌日。天理が眼を覚ますと昨晩の己が今更ながら恥ずかしく……思う間もなく起き抜けから侯輝に泣きながら抱きつかれていた。
「うわーん折角天理がエロく誘ってくれたのに寝ちゃったよー!俺体力には自信あるのにー!」
「……仕方ないだろ魔力切れたんだから……その、またやればいいだろ?な?」
よしよしと侯輝の頭を撫でる天理に侯輝は赤くなって悶える。
「ぅ、うん。えへへ、そうだね、これからはずっと一緒だもん。よおっし!俺魔力も鍛えるぞお!」
「魔力は、ほとんど鍛えられないんだがな……俺もそれで苦労してるんだし……」
がーん!とショックを受ける侯輝に天理は再度よしよしと撫でる。
「儀式無しで普通にすりゃいいだろ。そういう関係になったんじゃないのか?俺達……」
「そうだね♡」
天理が照れつつ言えば、侯輝はとたんにぱぁっと顔を輝かせてと喜ぶのだった。

ホテルからチェックアウトしつつ早速エレリウスとの契約解除の話をしようと、二人で落ち着いた所で相談する為、天理の自宅に向かった。
自然がチラホラ点在する閑静な住宅街にあるマンションの、一人で住むには少しだけ広めの1DKの天理の自宅に入る。考古学者を目指していたという天理の部屋は、学術書や古文書などが整理された本棚と利便性重視の家具で小綺麗に整理されていた。ただリビングの向こうにある大きなウォーキングクローゼット部屋には服ではなく天理が趣味で集めている遺物コレクションが詰め込まれているのを侯輝は知っている。S.Gの内勤の女子の間で密かに人気がある天理だが、見たらちょっと引かれるレベルのコレクション量ではあった。以前来た時には存在していなかったコレクションがリビングに進出しているのを侯輝は確認したが触れると嬉々として考古学的見地による云々な話が始まりそうなので今はスルーする事にした。
「おじゃましまーす!」
「茶でいいか?」
「うん、あと大きな模造紙とペンあるかな?」
「分かった、ちょっと待て」
侯輝はこれから天理とエレリウスとの契約解除の相談に必要になるであろう道具を要求した。天理は書斎机と棚の合間からA3サイズの大きな白紙を幾枚か取り出し、それとペンを数本テーブルに広げる。そしてリビングテーブルを挟み真剣な表情になると侯輝と向き合った。
「やつとの契約解除の方法を思いついたって言ってたな?」
「うん、あ、あのねっ俺、正規の精霊術はまだ素人だから、うまくできるかわかんないんだけど……ぬか喜びさせちゃったらごめんね」
少し緊張しながらそう言う侯輝の頭を撫でながら天理は安心させるように微笑む。
「いいんだ、これからはお前が横にいてくれるってだけでもう俺は嬉しいんだ、大丈夫、話してくれ」
侯輝は天理の言葉に勇気づけられて「うん」と大きくうなずくと話を始めた。
「天理、俺、あの契約陣に闇の精霊術が紛れ込んでいるのが見えたんだ」
「は?そんな……俺にはそんな気配全く…」
驚愕する天理に、確かに昨日の天理の儀式の最中、契約陣から闇の精霊術が天理に伸び作用していた事、そして気づかなかったのはその闇の精霊術に"隠し"が纏われていた事を伝えた。にわかに信じられないといった表情をする天理に侯輝は言葉を続ける。
「信じて貰うしか無いんだけど……」
幼い頃から人々から嫌われる闇の精霊適正がある事をひた隠しにしてきた侯輝が不安げな顔をすると天理は慌てて誤解をといた。
「お前の事は信じてる!すまん、今、何年も気づかなかった自分の頭の固さ加減に呆れていたところだったんだ。俺は少し自分の力を過信しすぎていた。そうか…そういう可能性があったのか…それで解けなかったのか……クソ」
悔しそうに眼を瞑る天理に侯輝は優しく声をかける。
「ううん、信じてくれてありがと。"隠し"はほとんど一般には知られていないから。しかも結構念入りに隠そうとしてる様に見えたから適正のない天理じゃ難しいと思う」
天理はその優しい声に気を取り直すと同時におそらく侯輝があまり話したがらない闇の精霊術について話してくれた事を嬉しく思った。
「そうか…教えてくれてありがとな……しかしどうやって闇の精霊術を混ぜて……まさか」
ぶつぶつと思考を巡らせ何か思い当たったらしい天理に侯輝は声をかける。
「俺、エレリウスが天理とは別に闇の適正持ちと契約してるのかなって思ったんだけど」
「ああ、俺もそう思う。と、なると肝心の解除方法だが……」
「契約の解除は契約陣の術式を上書きすればいいんだよね?」
「ああ、その為には、俺も闇の精霊術が使える必要が、あって……その……」
「だったらっ俺と契約すればいいんじゃないかな?!」
もう自分でも思い付いているであろう天理が言い辛そうにしている言葉を侯輝は迷わず言葉にした。だが天理はやはり辛そうな表情のままでいた。
「契約ってよく分からないんだけど、俺じゃだめなの?闇だから、かな……?」
「違うんだ、もうお前には頼りっぱなしなのに、またお前に迷惑かけなきゃならないんだって思ったら情けなすぎるんだ……」
申し訳なさそうにする天理に侯輝は慌てて声をかける。
「俺がしたいんだから、させてよ!それにほら、俺も天理の精霊術使える様になるんでしょ!?天理の精霊楽しそうだし!力にならせてよ、ね?」
「分かった……すまん、俺と魔術契約してくれ、侯輝」
頭を下げ気落ちする天理に侯輝は切り替える様に明るく声をかける。
「うん!で、どうやるの?俺達も契約陣どこかに書くの?」
「ああ、どこでもいいんだが、契約陣は通常簡単には壊せない所に書くんだ」
「壊れたら困るんだね。え、じゃあエレリウスとの契約陣も壊せば解除できるの?」
「ああ、そうなんだが……精霊科の棟はS.Gの訓練施設と同じで魔法実験やらの衝撃から耐えられる様に結界礎石や精霊石を含んだ床材が使われててな……無理だって止められてたんだが……」
「やったんだ?」
少し遠い目をしつつ苦い顔をしながら思い切った過去を語る天理に今でもちょっとだけそういう所もあるんだよねと思いながら侯輝は質問する。
「若気の至りでな。儀式にかこつけて試して失敗した挙げ句ボロクソ馬鹿にされながら魔力供給させられるし散々だった」
「うわぁっそっか……もうそんな事にはさせないからねっ」
しかしその若気の至りは天理の手痛い心の傷の一つとなっており、また落ち込みそうになる天理を侯輝はぎゅっと抱きしめて元気づけようとする。
「ん……ありがとな。……さてどこに契約陣作ろうか。ただのマンションだけどうちでもいいか……でも引っ越せなくなるしなぁ」
うーんと悩む天理に侯輝はこれからずっと契約し続けてくれる前提でいてくれる事を嬉しく思いながら提案をする。
「ねぇ、俺の体に書いたりできる?」
「なっ、馬鹿言うなそこまでお前にさせられるか」
「ねぇ天理、俺との魔力供給で俺の気持ちは知ってるよね?俺、結構重いよ?その表れだと思ってくれていい」
侯輝が決意を込めた真剣な表情で天理を見つめると天理は頷き同じく決意を込めて見つめ返した。
「……分かった。ただし俺にも入れる」
「えっダメだよ天理の綺麗な肌に傷なんて!」
慌てて反対しようとする侯輝は天理に悪戯っぽく笑う。
「あのな、侯輝、多分だが。俺も結構重いんだと思う」
そう宣言されると侯輝は目を丸くした後、嬉しそうな顔をする。
「えへへ、じゃあ二人でなろ!」
そう言って侯輝は嬉しそうに笑うと天理を抱き寄せキスをした。

天理が魔術契約についてメリット・デメリット全てを侯輝に丁寧に説明し契約内容を相談、二人で決定したその内容に了承すると、二人は魔術契約の儀式に入る。互いに上着を脱ぎ半裸になり向き合い、指を絡ませ手を繋ぐと契約に織り混ぜる内容を互いに謳う。
一つは今回の目的でもあるエレリウスの契約破棄に向けての精霊適正の共有、相互の魔力供給、他は今後便利であろう契約精霊の貸与命令権限、短文の念話権限だ。
『我、侯輝との契約を結ぶ』
『我、天理との契約を結ぶ』
『『我らが胸にその契約と証を印す』』
二人の精霊力が二人の周囲に渦巻き二人の胸にその内容が刻まれた精緻な文字と神秘的な意匠の契約陣が刻まれていく。
「くっ…!」
「ぁっ!っぃ」
二人の胸に契約陣が刻まれ終わると更にその上から契約印がうっすらと浮かび上がった。そして見えない糸の様な繋がりが二人の間に出来た。契約陣は水土風火と光闇が意匠化され、均等に混ざりあうように描かれていた。侯輝はその美しい印こそ天理に相応しいと思え同時にそれがコンプレックスすらあった闇も含めた自分との印である事に歓喜した。
「ふぅ…これで契約完了だ。さすがに胸に直は痛いもんだな。ふふ、お前との契約印はこんな感じになるんだな……どうだ?変な感覚とかないか?」
「不思議な感覚……えへへ……嬉しいな」
「そうか……良かった」
天理がほっと一息ついていると。気づけば侯輝の回りに天理がいつも呼び出す契約精霊が各々興味深そうに集まっていた。
『もう知ってるよな?俺はウィン!あんたも俺らの召喚主になんの?精霊使い荒いなぁよろしくな!』
『ブラムだ。魔力はあまり無さそうだが居心地は悪くなさそうか?ふざけた呼び方はするなよ?』
『僕はガノだよ♪キミ主の事大好きだよねー?!ねえねえ主もねぇモガモガ』
『私、シア……あるじの……たいせつ……』
「わあ凄い凄い!みんなよろしくねー!」
主である天理を介在させず好き勝手挨拶をし触れ合う精霊達に侯輝も嬉しくなって笑顔で応える。
『お前ら俺放置で好き勝手すんな!ガノ、余計なこと言うな!挨拶もういいだろ還れー!』
再びシャツを着たのち、ガノの口を塞ぎつつ少し恥ずかしそうに還そうとする天理に、精霊の一部がぶーぶーと文句を言いながら消えていく。侯輝は笑顔で手を振り名残惜しそうに見送る。
「またねー。……じゃあ天理も光と闇の精霊使役できるんだよね?あの……天理こそ大丈夫?」
闇の精霊は心に作用する事が多く、使役者の精神を蝕む事がある。侯輝はそれゆえに今まで積極的に使役する事を避けていた。天理は試しに呼んでみた小さなふよふよ浮かぶ光球と闇球になんだかじゃれつかれている様に見えた。
「ん?おお、俺も今までとは辺りが違って見えるな、光と闇の精霊の強弱が強くなったというか……ふふっ……ちょっと賑やかになった、なんだか面白いな。お前みたいだ」
楽しそうに微笑しそう評する天理に侯輝は自分が褒められた様でくすぐったい気分になる。
「えへへ……そっかぁ……良かったぁ」
「ん。これであとはやつとの契約陣を解読して上書き詠唱したら解除できるはずだ。しかしいきなり現地で解読解除は少し自信ないな……あいつは解除させたくないだろうし……不自然にならないように何回か通うしかないか」
「それなら俺バッチリ頭に叩き込んできたよ!それも伝えたくて。意味は分かんないから丸暗記だけど」
侯輝は言いながら白紙を手に取る。
「でかした侯輝!本当に助かる!ちょっと待て俺の知ってる契約陣まで先に書くから」
「うん!」
侯輝はシャツを羽織りつつ、天理が白紙にエレリウスとの契約陣を書き記していくのを見る。天理にとってはもう見るのも嫌であろうその契約陣が今度こそ消せるようにと侯輝は思った。
できあがった契約陣に侯輝が現地で丸暗記した闇の精霊術による契約術式を書き足していく、静かに見守っていた天理だったが徐々に怒りに震えだし侯輝が書き終わるととうとう爆発した。
「くっそ!!全部!全部あの野郎の仕込みだった!しらばっくれやがって!8年間ずっとずっと俺は……!」
「天理……俺が居る……俺が天理を助けるから……だから泣かないで……」
俯き拳を握りしめ、自分の不甲斐なさに歯を食いしばり今にも泣きそうな天理を侯輝は優しく抱きしめる。悔しかった。悲しかった。天理がこんなにも苦しんでいたのに何も知らずにいた自分が許せなかった。しばらく抱きしめていると落ち着いた天理に問いかけた。
「言いたくなかったらいいんだけど…エレリウスとの契約の闇の精霊術の部分って何だったの?」
「っ……主に3つ。まず一定期間ごとの精霊力異常を俺に付与する事、そしてその異常となる時間のリセットは奴との契約陣上で奴から魔力供給を受けた精霊術放出儀式に組み込まれている事。そして……奴から魔力供給を受けると魔力回復するまで発情状態になり自力での魔力回復が大幅に阻害される事。これが闇の追加内容だ……」
今まで天理に起こっていた原因不明の現象は契約時の不具合などではなく、全て仕組まれていた事だった。
「な……何それ!何のメリットがあるの!そんなの!」
「思いつくのはエレリウスが俺を定期的に通わせて全力の精霊術を行使させたかったからだろう。やつも言ってただろ?精霊適正を借りることができても、俺が直接精霊術行使すると出来が違うって。俺の在学時から精霊科への編入に拘ってたからなあの野郎。手元に居ない俺を縛り付ける契約が欲しかったんだろう」
「そんなの酷いよ!それにじゃあ最後の一つは何なの!精霊術行使の協力させたいだけなら必要ないじゃん発情なんて!エレリウスって変態なの?!天理に恨みでもあんの?!」
「そこは……多分なんだが、エレリウスの思惑じゃないと思ってる。あいつは魔力供給は仕方なくやってる感じだし……」
「そういえばそんな事言ってた。魔力供給要員として来ていいなんて言うくらいだし拘って無さそうだった」
「ああ。まだ推測だがいつも主に俺を魔力供給してる男が一枚噛んでるかもしれない。……多分そいつが闇の適性持ちだ。そいつがエレリウスと契約してて俺とエレリウスの契約に条件を入れさせた可能性はありそうだ。好んで俺とやってそうだし行為がけっこうキツイやつでな……可能性はあると思う」
天理は魔力供給で受けた闇の精霊力が侯輝と同じだった事でそう判断していたが侯輝を思いそう気づいた理由は伏せた。
侯輝はエレリウスとの先日の会話でそれらしい事も言っていた事を思い出し、納得した。と同時に天理を傷つけ続けてきた男に殺意すら沸いていた。かつて姉が傷つけられた時の様に。
「じゃあそいつが変態って事だね。何年も天理を苦しめて!どこにいんのそいつ、殺してやらないと!」
何より俺の天理を汚し続けたのは万死に値すると、侯輝は普段は抑えている自身の闇の精霊力が乱れるのを止める気がおきなかった。
「落ち着け侯輝。まだ推測だしそいつを今更どうこうしても俺とエレリウスの契約解除はできない。お前の手を汚させたくない。」
侯輝と契約した天理には侯輝の闇の精霊力が乱れているのを今ならはっきりとみて取れた。侯輝を鎮めたいと天理は侯輝の手を握り、優しく語りかける。
「俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけどな。俺は大丈夫だ、俺にはももうお前がいるから。それにお前のお陰で契約解除の道筋もできた」
天理は侯輝の目を真っ直ぐに見つめて微笑む。それはとても綺麗な笑顔で侯輝は見惚れてしまう。その笑みは侯輝を安心させるもので侯輝は落ち着きを取り戻した。
「うん。そうだよね。ごめん。俺ちょっと耐えられなくて」
「いやいいさ。なあ侯輝、これまでの8年間の事はもうどうしようもないけど、この俺とお前の契約陣の様にこれからは俺のこの体も…そのっ、お、お前で、上書きしてくれないか?」
天理は胸の契約陣に手を添え、言いながら顔をどんどん紅くしながら恥ずかしそうに侯輝に請うた。侯輝はその意味を理解し天理の体を抱きしめた。
「う、うん!もちろんだよ!俺、天理の事ずっと大事にするから!8年先もその倍の倍の先もずっと!」
「ふはっ流石に俺その頃じじいだなあ。」
嬉しそうに笑う天理に侯輝はキスをした。
「そんなの関係ないよ。きっとおじいちゃんになっても天理は可愛いから」
侯輝は愛おしくて堪らないという表情で天理を見詰める。
「可愛いは無いだろ…ありがとな。えっと、じゃあ契約解除決行は次に奴に呼ばれた時に……ん。おいまだ相談の最中で」
侯輝は愛おしい感情が抑え切れず、天理を再び口づける。
「だって天理可愛いもん……本当はすぐにでも乗り込んで解除したいけど……怪しまれて警戒されるだろうから……次回呼び出し時にしようって事だよね?……」
「ん……ん……そう、だよ。って相談するかキスするかどっちかにしろ!」
話ながらあちこちキスの雨を降らせる侯輝に抱きつかれたまま天理は顔を真っ赤にして抗議する。
「んーあとは相手が相手だし、シミュレーションして何かの時の為に俺達の契約の連携取れるようにしておく、くらい?」
「……そうだな。…………相談かよ」
小さくポソリと呟く天理に侯輝は嬉しくて頬が緩むのを止められなかった。
「ごめんね相談終わり!天理が大好きなキスしよーね♡」
「ちが!!待て、わ」
恥ずかしそうに視線を逸らす天理をもう押し倒してしまいたい侯輝だったが、流石に昼だとぐっと堪え、天理の唇に優しく触れるだけの口付けをする。
「ね、今からどこか遊びにいこーよ!デートしたい!」
「……いいけど。でも、俺、デートとかもはじめてで……休日はお前も知っての通り遺物博物館やジャンク屋巡りばかりで何もわからないんだが……」
天理は俯きながら困った様に言った。
「じゃあ俺がエスコートしてあげる!俺が天理の初めての男だね!」
「なあ、どうせならお前の事もっと知りたい」
侯輝は嬉しくて堪らないという表情で天理に抱きつかと、天理は侯輝の背中をそっと擦りながら言う。
「え……えっと……俺は……」
自分の事。自身の闇の精霊術の事を思い、侯輝が戸惑っていると天理は慌てて侯輝に謝る。
「すまん。言いたくない事は言わなくていい。俺の過去の話を聞いたからってお前まで話さなきゃいけないわけじゃないしな」
「ううん、聞いて欲しい……俺の事。そうだ、デートって感じじゃなくなっちゃうかもだけど一緒に来て欲しい所があるんだ。いいかな?」
真剣な表情で言う侯輝に天理は頷いた。


二人は家を出ると、侯輝に連れられて車で郊外へ向かう。
少し丘になった小高い場所に墓地があった。多くの墓石が静かに並ぶ中を近くの花屋で買った花を携え、静かにだが慣れた様子で進む侯輝の後を天理は黙ってついていく。そして侯輝は夏侯鏡と記された墓石の前で立ち止まると親しい人に話しかける様に墓石に告げた。
「久しぶり、神我見姉。今日は俺に大切な人ができたから紹介するね。天理って言うんだ」
そして天理に向き直ると侯輝は優しく微笑む。
「紹介するね。ここに眠ってるのが神我見姉。俺の姉ちゃん。俺が生まれてから唯一味方だった人なんだ。あ、俺、本当の名前は夏侯輝って言うんだ。もう名乗る気無いけど」
侯輝はそう言いながら少し枯れかけくたびれた花を片付け、新しい花を供え祈りを捧げた。
天理は侯輝もまた複雑な生い立ちをしている事を察する。そしてここに眠る神我見と呼ばれる故人が侯輝の大切な人だった事はわかったので同じように祈りを捧げ心の中で故人に丁寧に挨拶と侯輝への想いを告げた。
「ありがと」
暫くして目を開けた侯輝は小さく微笑んだ。そして墓石を眺めながら語り始めた。
「俺の生まれた家はね、結構由緒正しい神事を司る一族でね、時折光の御子って呼ばれる力を持った男児が生まれる家系なんだって。そして御子が産まれるってお告げを受けて俺は待望されて生まれてきたんだけど、母さんは産後の肥立ちが悪かったらしくて俺の事を生んですぐに死んじゃった。光と闇の両方の適性のある子供なんて今までいなかったらしくて、そんな俺が生まれた事で一族中大騒ぎになった。やれ不吉だの忌み子だの母さんが死んだのは俺のせいだの言いだし始めて、母さんの死もあって父さんは凄いショック受けて俺の事憎みはじめてね……俺は遠縁の親戚の人に預けられて育ったんだ」
侯輝はそこまで言って一度息をつくと苦笑しながら続けた。
「忌み子と言われても本家筋の人間だったからか一応ちゃんと育ててはくれるんだけどさ、やっぱり腫れ物扱いっていうか、闇の力を持つ俺の事怖がってるんだよね。俺はできるだけ怖がらせない様に光の適性持ちでもあるんだよーって元気にアピールしたり、武術も勉強も頑張ったりしたけど、やっぱり本当に親しくしてくれる人はいなかった。年に何回か一族で集まりがあっても俺だけいつも一人ぼっちでさ」
寂しそうな表情で語る侯輝に、天理もなんと言っていいかわからずただ聞いていた。
「でも神我見姉だけは俺の事ちゃんと見てくれて、俺が住んでる親戚の家に様子見に来てくれたり、遊びに連れて行ってもらったりした。俺が寂しくて今思えばちょっと危険な悪戯しようとしたら本気で怒ってくれた。俺にとって唯一の味方で、母親の様な人だった。俺が闇の適正があっても曲がらずに生きてこられたのは神我見姉のおかげだと思う」
「良い姉さんだったんだな」
墓石を見ながら懐かしそうに話す侯輝に、天理は告げると侯輝は嬉しそうに微笑む。
「うん。でも……俺が14才の頃だった。裏町で発生した悪霊騒ぎを鎮める為に出向いていた神我見姉を俺、こっそり追いかけてったんだ。早く一人前になって一族の連中を見返してやりたかったから仕事覚えたくてさ。神我見姉の悪霊退治自体はすぐに終わったんだけどその帰り、連続強姦魔に襲われてさ、俺とっさに飛び出していったんだけど何をされたか分からないままにあっけなく返り討ちにされて。気を失って……気づいたら身動きとれなくて……神我見姉が……目の、前で……」
侯輝は言葉を詰まらせると拳を強く握りしめた。天理はその手をそっと包むと侯輝は言葉を振り絞る様に続ける。
「ありがと……神我見姉は俺が人質にとられたせいで……そいつに……めちゃくちゃにされて。俺、目の前が真っ暗になって、ずっと抑えてた闇の精霊力が暴走して……そいつは逃げてったんだけど、暴走する俺を鎮める為に神我見姉が命がけで止めてくれて。急いで本家に連れて帰ったんだけどもう手遅れだった。俺のせいで……神我見姉が……」
涙する侯輝を天理はそっと抱き締める。
「お前がすぐに飛び出してっちまうのは変わらないんだな。責めてるんじゃないぞ?」
天理は先日自分を助けるために一人助けに来た侯輝を思い出しながら頭を撫でる。
「ぅん……。それで俺は家から追い出されたんだ。俺も当然だと思ったし、むしろそうしてくれって思ってた。もう引き留めてくれる神我見姉もいないしね。アテも無くさ迷っていたら神我見姉の友達の人達が少し助けてくれて住むとこ確保させてくれたから後はいろんなバイトしてなんとか食い繋いで。そんな時S.Gの募集を見て。これだって思ってがむしゃらに頑張って今に至るんだ」
「そう…か。大変だったな侯輝」
自分ではどうにもならない生い立ちと大切な人の喪失。その辛さを知っている天理はその気持ちを察し心から労わる。普段明るく振る舞う侯輝のその心中を思うと胸が痛くなった。
「うん。あのね、神我見姉って天理に結構似てるんだ。神我見姉は綺麗な黒髪でね、涼しげな顔立ちの清楚な美人だった。いつもは真面目なんだけど照れたように笑うと凄い可愛んだ。でも芯が強くて、自分の信念は曲げなくて」
懐かしむ様に話す侯輝に天理は苦笑する。
「そんないい人と似てるとかお前俺を過大評価し過ぎだろ……」
「そんな事ないよ?毅然としてかっこいいなと思ったらどこか天然で可愛いとか。凄く無理して頑張っちゃうとことかさ」
嬉しそうな笑顔を見せる侯輝に対し天理の顔が赤くなりそっぽを向いてしまう。
「あ、俺は天理を神我見姉の代わりとして見てるんじゃないよ?そういう感情で言うなら全然違う。天理は本当にはじめて愛おしいって思った人なんだ。今日はね、最期まで俺の事を心配していた神我見姉に、独りだった俺にも大事な人ができて、この人を生涯かけて護る、幸せにするよって……誓いに来たんだ」
涙ぐんでいるのか声も震えている侯輝。天理は黙って背中を撫でた。暫く沈黙した後言葉を続ける。
「…………俺ね、ずっと怖かったんだ。また闇の精霊力が暴走したらと思うと誰にも言えなくて。天理があっさり俺の闇の力受け入れてくれた事すっごく嬉しかったけど、俺と契約した天理までこの力で辛い思いしたらって思うと……」
天理は少し腕を緩めると侯輝を見つめて言った。
「俺な、最初にお前の闇の力を受けた時、正直怖いって思ったんだ。8年間理不尽に受け続けた力と同じだったから」
その言葉に侯輝は身を固くする。しかし天理は穏やかな表情で侯輝を見つめながら続きを話す。
「でもな、侯輝の闇の力は優しいんだ。眩しすぎるくらいの光と共に、暖かい闇が俺の凍りついてた心を温めて溶かしてくれた、本当に嬉しかった。だから、俺もお前の力になりたい」
「ありがと…、でもね、俺が弱いせいで力を制御できなくなって天理を危険な目に遭わせたくないんだ……」
そう言って微笑む天理に侯輝の緊張していた身体から力が抜けるもののまだ頭垂れ悲しげな顔を見せる侯輝に天理は元気付ける様に覗き込みながら語りかけた。。
「まあ、俺も弱いさ。それなのに一人でどうにかしようとしてお前に助けられるまで何もできなかった。なあ侯輝、お前の闇の力だって二人でかかれば何とかなるんじゃないかって思うんだ。お前が俺を想ってくれてるみたいに俺もお前を護りたい」
「う、うん……」
侯輝は少し顔を赤らめて天理の気持ちに嬉しく思いながらもまだ不安そうに俯く。
「それに闇の力の暴走の事も全く勝算が無いわけでもないんだ」
「え?!そうなの?どんな方法?」
天理の言葉に即嬉々として聞いてくる侯輝に天理は苦笑しながら答える。
「そんなに期待される程自信も無いんだが…お前と俺の魔術契約で魔力の融通可にしただろ?で、お前が暴走しそうになったら俺が強引に魔力を吸い上げる」
「そっか。俺正気じゃなさそうだし、魔力が無きゃ闇の精霊力暴走させようがないね!あ、俺自身が暴れてたらどうしよう……」
侯輝は天理との魔術契約時、魔力の融通は基本許可制だが申請時に応答が無い場合、目減りはするが強奪可である事の説明を受けていた。侯輝は天理が相手なら良いよと二つ返事で返し天理を呆れさせていた。
「そこも、だな、念和も可にしただろ?直接心に問いかければ鎮めてやれないかな…と。俺の問いかけで鎮めてやれるか分からないが……」
「うん!分かった、それなら大丈夫だと思う!」
侯輝は少し自信なさげに言う天理の手を握りしめ嬉々として答えた。
「お、おう……なんでお前の方が自信たっぷりなんだよ……」
天理は侯輝のテンションの高さに若干引きつつ苦笑する。
「だって天理の心の声が聞こえるんでしょ。その気になればいつでも俺のすぐ側に天理がいるんだって思ったら、もうそれだけで大丈夫だって思えちゃった」
そう言って笑う侯輝を見て、天理は少しだけ頬を染めて俯く。
「そ、そうなのか……?まあ、お前が大丈夫だって思ってくれるならそれだけでも良かったが……」
侯輝はそんな天理の様子にニコニコと微笑む。
「俺の事大好き、愛してる♡っていっぱい言ってくれればすぐ正気に戻れると思うんだよね!」
「緊急時に愛の囁きなんてできるか!」
すっかり元気を取り戻しいつもの調子に戻った侯輝に天理はホッとする間もなく顔を真っ赤にして言い返す。
「あはは!冗談だよ!それじゃそろそろ帰ろっか。神我見姉にも十分俺達の仲の良さを分かって貰えたと思うしさ!」
天理は墓前だったことを思い出して慌てて姿勢を正した。
「あ、ああ、そうだな」
「うん!じゃあ、またね!神我見姉!」
「また、二人で来ます」
そう言って侯輝は墓に手を振り天理は小さく頭を下げ故人に挨拶を告げると墓を離れる。
いつもとは違う涼やかで心地好い風が静かに吹いていた。

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