空想と太陽の物語1(未確定)

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侯輝×天理 

ちょっと近未来っぽい夢の話


西暦20×0年頃、世界戦争によって人類文明はほぼ消滅したが生き残った人々が1000年以上かけてなんとか当時の技術水準程度にまで復興させた。それには今まで表沙汰になっていなかった精霊や神術といった霊的な力による力が大きかったが、大衆にも知れ渡った結果不用意に産み出されたり召喚された怪物などが蔓延する事にもなり、人類の新たな驚異となった。
それら怪物などから人々を守る公的組織が誕生した。その名はセキュリティ・ガードという。略してS.Gと呼ばれた彼らは精霊術や鍛えられた体術を駆使し復興していく人々の暮らしを守っていた。

厳しいS.G訓練所を体術ではトップの成績を収め、精霊術無しでS.Gの戦士として資格を得て新人隊員として配属される事になった侯輝は、第一印象が肝心、と更衣室の鏡を見て己の容姿をチェックする。
鏡にはハニーブロンドの髪をバックは短く刈り上げ、トップは立ち上げて前に少し垂らしツーブロックにした男が初々しい緊張を隠せない表情を浮かべていた。しなやかな筋肉で引き締まった長身は、真新しい隊服に包まれエネルギーに満ちていた。決意が込められた力強いブラウンの眼差しはすぐにいたずらっぽい笑みに変わる。
「よし! 完璧!」
(見ててね神我見姉、俺、ここで家の連中見返せるくらい出世するからね!)
こうして侯輝のS.Gでの生活が始まった……のだが入隊も数日しか経たぬ昼過ぎた頃、侯輝はバディを組んだばかりの指導役の先輩、葉金に連れられS.G本部たる建物の廊下を内務勤務フロアへと歩いていた。
S.Gの内務勤務フロアは広く明るく、大きな窓ガラスの向こうの階下には守るべき都市の景色が広がっていた。30台程設置されたデスクは整然と並べられていたが、各デスクは資料やデータ端末、古新書が混在し、多くの内務職員がせわしなく働いていた。
この場所は内務職員の執務場であると同時に、直接脅威とは戦わなくても怪物から人類を守る重要な任務が行われているのだと葉金から説明を受けたばかりだった。
「すまんなあ侯輝、配置早々バディ変更せなあかん様になって、嫁さん急にお産に入ってもうてんねん。面倒見てくれるおかんも腰やってもうて。本当は初出動までは面倒見るつもりやったんけどな」
(子作り計画って難しいんだね…)
先を行く葉金は侯輝から見て頭頂部がはっきり見える程小柄ではあったがその肉体は服の上からでもその頑強な肉体が見て取れる男だ。一見大雑把に見えたが気さくで常に周囲に気を配り、隙を感じさせない歴戦の勇士である事を侯輝は直感で捉えていた。侯輝は自己の成長にあたり葉金の指導に期待していたのだが万事うまくいくことなど無いのだと頭を素早く切り替える。
「ううん、大丈夫だよ!どんな人か楽しみだな!」
「おう、あの端っこのデスクの黒髪の男が天理や。まあ多少変わってるかもしれんけどええやつやで!」
(そういう人って大体おかしな人なんだよね…)
そこに見えたその天理という人物は端末に目を向け真剣に入力操作をしていた。端正な顔立ちだが硬派でクールな雰囲気を持つ青年だった。S.Gの戦士は外回りが多く隊長クラス以外は固定デスクを持つことは少ない。デスクを与えられ普段は内勤を担当しているのだろう。
「なんかすごい真面目そう……。俺ちょっと苦手かも」
「ははは、最初はみんなそんなもんや。慣れればおもろいで!」
「そっかぁ……」
(ま、どんな相手でも構わないけどね!)
葉金は天理の方へと歩いていくと手を振りながら呼びかける。
「おーい、天理、待たせたなぁ連れてきたでー!」
「そんな大きな声出さなくても聞こえてますよ葉金さん」
天理は手を止めるとくるりと椅子を回転させ苦笑しながら立ち上がった。侯輝は自分よりは背は僅かに低く戦士としてはやや細身ではあるものの内勤を兼務しているとはいえしっかりと鍛えられた体躯を見て取った。
(へぇ、精霊術がメインかと思ってたけど、この人も前で戦うのかな……)
「おう!すまんすまん!こいつが期待の新人侯輝や!」
「初めまして!侯輝です!」
「初めまして。俺は天理だ。葉金さんから話は聞いているかな?」
「はい!よろしくお願いします天理さん!」
「ああ、よろしく頼む、侯輝」
侯輝が第一印象が大事!と明るく元気よく天理に挨拶すると天理は一瞬驚いて少し目を丸くしたのち微笑み返した。黒髪で一見固そうな雰囲気だったが想定より柔らかいその笑みは、侯輝に黒髪が美しく真面目でありながら優しかった姉の姿を少し思い起こさせた。
「まあ、細かいことはおいおいな!急やけど今日から二人でバディを組んでもらう。仲良うしてな!ほな、後は任せたで!」
「はい、了解しました。奥さん大事にして下さい」
「おう!んじゃ、わしは帰るでー。またなんかあったら連絡してな!ほな!」
「お疲れ様ー!」
こうして慌ただしく侯輝と天理の臨時バディが結成された。侯輝は一抹の不安を感じつつも、これから始まる新しい日々に期待を抱いていた。

侯輝への業務基本内容は葉金から既に引き継いでいた天理だったが今後の連携の為、実際に侯輝がどの程度戦えるのかを確認するために模擬戦をする事にした。二人はS.G内にいくつか存在する模擬訓練施設の一つに移動する。個人戦を想定されたその部屋は球技コート程の大きさがあり天井は広く床と壁は精霊術に対しても高い耐久性を持つ特殊な材質でできていて、その強度は訓練所の比では無い。
侯輝は得意とする両手剣の模擬刀を手にしつつ、天理の片手の小刀のみ構えているスタイルを見て取った。
「天理さんって精霊魔法使いだって聞いてたんだけどフォワードもするの?」
「ああ、俺は魔力が低いから大魔法は滅多に使えないんだ。基本は補助的に魔法を使用して小刀で戦う感じだな」
「へぇ……基本は俺が前衛でいいのかな?」
「ああ、そのつもりでいてくれ。まずはお前さんの力を知りたい、簡易回復ならできるから遠慮無く来てくれ」
「うん!わかった!」
(この人、独特な雰囲気があるな…接近戦は苦手なのかな?)
侯輝は両手剣を構え、小刀を構える天理に打ち込みにかかる。天理の構えは確かに真剣ではあったものの葉金や既存の訓練生と比べるとどこか空気が異なり圧を感じさせない。どことなく油断してしまった侯輝は小刀に軽く振り下ろすと天理は想定外の動きを見せた。
『ガノ』
侯輝が打ち込む手前で天理がたった一言、精霊術と思しき言葉を呟いたと思った瞬間、天理の動きが侯輝の想定よりも早くなった。
(魔法!?詠唱は?!)
侯輝は慌てて体勢を立て直すと、模擬刀が体の急所を僅かに外れた所を掠めていった。辛うじて回避するもピリッとした感覚が体に残る。
「お、避けるか?初見なら大体通るんだがなこれ。資料通り凄い身体能力なんだな」
「あ、ありがと!」
素直に関心した風に告げる天理に侯輝は礼を言うも実際はこれが実戦で毒でも仕込まれていれば一発アウトだった事に冷や汗を流していた。指摘されるかと思い天理を見るもどこか楽しそうに小さく笑みを浮かべるだけだった。
「じゃ、次はこっちから行くぞ」
天理はそう言うと侯輝に素早く踏み込み、また急所を狙って小刀を振るった。天理は小刀使いらしい速さと小刀らしからぬ大剣の様な重さの打ち込みで侯輝の両手剣を防戦一方になる程に押し込んできた。
(小刀がなんでこんなに重いの!これも精霊魔法?術が分かんない!)
侯輝はそう疑問に思うも、答えが得られない今は考えるだけ無駄と思いきって戦法を変える事にする。
「ふん!!」
「っ!」
侯輝が押し込まれる勢いを利用して逆に力任せに押し返すと、天理は僅かにバランスを崩す。侯輝は両手剣を手放し、素早く回り込み得意の体術で小刀を持つ天理の右手を両手で掴みそのまま捻じり上げ腕にそのまま体重をかけて倒すと押さえ込んだ。侯輝には想定していたより天理の体重が軽く感じられた。
「これで終わりだね!」
「ふぅ。参った。大した格闘センスだ。俺も鈍ってたな。鍛え直さないと…ってなんだ?」
勝負が決まり侯輝は天理の身を解放する。天理が立ち上がりながらそう評していると侯輝は眼を輝かせながら天理を見つめていた。
「ねぇっ!今の精霊魔法だよね?どんな魔法使ってたの?!こんなにハードな近接戦しながらあれだけの詠唱で使ってる人見たことない!」
精霊魔法とは基本、集中と大なり小なり詠唱が必要だ。術者は大体無防備になる。乱戦使用に慣れていてもあれだけの剣を振るいながらとなると大抵の者は不可能に近い。侯輝は相手が先輩だという事も忘れ、未知の技に夢中になると身を乗り出して質問してしまっていた。
「あ、ああ、そうだ。俺は精霊と親和性が結構高いらしくてイメージしただけでもで即精霊に指示ができる。簡単なやつなら近接しながらでもいけるんだ」
「へぇー!S.Gってそんな人達ばかりなの?!」
「隊長クラスになら何人かいるぞ」
侯輝に気圧されつつも、天理がその稀有であろう技術を謙虚に説明をすると、侯輝は興奮冷めやらぬまま立て続けに質問する。
「天理さんって隊長目指してるの?」
「あー、俺はいろいろあって内勤兼務のぺーぺーだ。魔力低いから隊長資格取れないんだ。剣技もちょっと苦戦していてな」
確かに天理は鍛えてはいたが自分に比べ肉がつきにくいのか、筋肉はあるが全体的に細い印象を受けた。剣技も慣れてはいるようだったが精霊魔法に頼っている印象がある。天理は苦笑しながら続けた。
「なんか期待させて悪いな。新人の前だってのに。だが葉金さんが戻ってくるまではきっちり[[rb:仕事 > サポート]]はするから安心してくれ」
(葉金さん急遽お休みだって言ってたもんね)
天理の言葉に侯輝はそう思いつつ首を横に振った。
「ううん!全然大丈夫!いろんな人と組んで経験積めるのも楽しいもん!よろしくね!」
(ま、魔力低いって言っても隊長クラスの特性持ちなら良い経験になるだろうし)
「そう言って貰えると助かる、こちらこそよろしくな」
侯輝がそうポジティブに算段をつける中、天理が作り物ではなさそうな微笑みを浮かべると侯輝は思わずドキリとした。
(最初は硬くて真面目そうに見えたけど笑うといいな。あとこの人、何と言うか妙に綺麗なんだよね……)
侯輝は天理の顔を見て改めてそう思った。
引き結ばれた形の良い薄い唇と意志の強そうな眉、長いまつげに縁取られた涼しげで理知的な目元が特徴的だ。シャープな輪郭にスッと通った形の良い高い鼻、七三に分けられた艶のある漆黒の髪は少し癖があり襟足は短く清潔に整えられている。やはり亡き姉の面影が想起されたがどうみても毅然とした男だった。だがどこか儚げに見える瞬間があるのはなぜだろうと侯輝は不思議に思う。
侯輝はそんな事を考えながらぼんやりと見つめているとその視線に気付いたのか天理が小首を傾げた。
「ん?どうかしたか?質問あるなら遠慮なく言ってくれ」
(あれ?その首傾げるのなんかいい!)
「え、あっなんでもないよ!今日のはこれで終わりかなっ?!」
侯輝が慌てて取り繕いながらそう返すと天理はきょとんとした表情を浮かべた。
「え?ああ、今日は終わりだ。明日から正式によろしく頼む。報告上げたら上がっていいぞ」
「了解!…ねぇっ!今日このあと空いてる?!」
「えっ」
驚く天理を前に、侯輝は言ってしまって自分でも驚いていた。当たり障りなく誰とでも隔てなく接する事ができるのは特技だった。でもあくまで特技であって深く関り合いになろうとする事は今までなかった。
侯輝は自分が何故こんなことを言ったのか理解できなかった。ただ、何故か今言わなければと思ったのだ。
(なんで俺今日初めて会った先輩にナンパみたいな事言ってんの?!)
侯輝が内心慌てふためく中、天理は侯輝の内情も知らず、見た目通りコミュ強の後輩が親睦を深めようと自分から言ってくれたのだと勘違いをした。
「う…わぁ…すまん、先約の飲みがあるんだ明日でもいいか?」
そう思っていたので天理は心底すまなそうにそう言った。
「えっと…誰と?」
(なんで俺食い下がってんのぉ!!)
「え、俺の友達っていうか幼なじみの男とだが…」
天理は思わぬ侯輝の質問に驚きつつも素直に答えた。
「一緒に行って良い?!えっとほらこれからバディを組む訳だしさ、いろいろ話したいし!天理さんの客観的なお話も聞きたいかなって!」
「まあ…あいつ気にするタイプじゃないけどな。面倒見もいいし……」
天理はこれから幼なじみとの気兼ね無い飲みだと思っていたので突然の申し出に戸惑いながらもそう返す。天理は若干強引だが期待の新人が自分から親睦を深めようとしてくれている事、自己評価としてその辺の付き合いが得意とは言えない自分が面倒見の良い幼なじみを介すれば新人と円滑にコミュニケーションが取れるのではないかと考えた。
「じゃOKでいい?!」
「待て待て、一応聞くから」
天理は前のめり気味の侯輝を制し幼なじみにメッセージを携帯機から送信する。そしてほどなくして返事が来た。
「いいってよ」
「やった!どこ?どこの店?ここら辺あまり知らないんだー!」
天理は完全に侯輝のペースにのまれつつも、悪い気はしないと思いつつ店の場所と名前を答える。侯輝は通りかかった所にあり一度入ってみたかった所だと思いつつもそれ以上に自分でも意外な程に天理との交流を楽しみにしていた。
だがそこに天理の携帯機が鳴り中断させられる事になる。天理が相手の名前を見、やや顔を険しくしながら小さく舌打ちをすると「すまん、やっぱり明日になるかもしれん」と侯輝にいいながら渋々電話に出た。
「天理です。何用でしょうかエレリウスさん……いつも通りです。……すみません、今日は先約があって明日に……はい…分かりました、伺います」
「どうしたの?」
天理がエレリウスなる人物から一方的に告げられたであろう言葉に不機嫌な表情を浮かべ通話を切りため息をつくと、侯輝は嫌な予感を感じながら天理に尋ねる。
「……悪い、急用ができた。やはり明日にさせてくれ。土護にも伝えないと…」
天理は苦虫を噛み潰した様な表情でそう言いながら、携帯機に恐らく幼なじみの土護なる人物にもメッセージを送っている。
「俺、は無理に入れて貰ったし、いいんだけど…先約の幼なじみの人はいいの?」
「土護は俺の事情知ってるから分かって貰えると思う。あいつにゃ悪いけど……お前もホント悪かったな、ちょっと相手が悪いんだ」
天理がメッセージを再度送りつつ侯輝に謝罪しながら心底申し訳なさそうに言う。
「……ふーん……まあ、仕方ないよ!俺は気にしないからさ!……俺の方こそごめんね?なんか無理やりみたいな感じになって……嫌だったよね?」
侯輝は天理の態度になんとなく違和感を感じながらも、それを悟られない様に明るく振る舞う。
「いや、嫌って事なんて無かったんだ。さっきのやつに比べれば間違いなく、な。ってすまん、お前さんにする様な話じゃなかった。じゃすまんすぐ行かないとならないんだ。また明日よろしく頼む」
そう言って足早に去っていく天理に侯輝は何も言えずに見送った後、小さくため息をついた。
(なんだろう……このモヤっとした気持ちは……)
侯輝は去り際の天理が今日一番儚げに見え、天理をそうさせている理由が間違いなくそのエレリウスなる人物にあると分かったが何もできなかった自分になぜか苛立った。


翌日侯輝が出勤すると天理は一見きっちりしつつもこっそり小さくため息をついているのを侯輝は見た。S.Gの任務は外回りが多いとは言え、報告書類なども大切な業務の一つだ。未知の怪物、現象などS.G内で共有、場合によっては民間に提示しなければならない。侯輝は体を動かすのは得意だったが書類はどうにも苦手だったのでやる気を出せずにいると、内勤も兼ねている天理は「報告書を疎かにするやつは初見殺しの既知の怪物に食われて○ぬぞ」などと物騒な事を言われ必死になって端末操作を覚えていたのだった。
「ごめんね、俺が遅いから疲れさせちゃってるよね」
「え?いや最初はそんなもんだろ、まだド新人だし謝らなくていい。お前さんに疲れる事なんてないよ」
「そう?なんかため息ついてたから呆れて疲れさせちゃってるのかなって」
天理はそれを聞くとハッとした表情をしその整った顔をパシパシと叩き顔を引き締めた。
「いや大丈夫だ!ちょっと寝不足かもな!ダメだな!すまんすまん!」
天理がどうみてもその端正な顔に似合わないテンションで誤魔化した。というか、思ったより悪戯っぽく笑う事もあり、話せば話すほど遠くから見れば少し近寄りがたいクールな雰囲気からかけ離れていく気がすると侯輝は感じていた。侯輝はそれが所謂ギャップ差とも言える好感が持てるもので内勤専属の女子隊員がひそかに騒いでいるのも知ったので、多分こういうところも人気の要因なんじゃないかと思う。だだ本人は己の容姿の評価を全く認識していない様子だったので、侯輝はしっかりしてそうでちょいちょい緩んだ所もある年上のその人を可愛いと思ってしまい、先日に引き続きそんな自分に当惑した。
(俺が原因じゃないとするとやっぱり昨日の通話の相手が原因かな…エルリウスとかいう。大丈夫かな?嫌そうだったし)
「そう?無理しない方がいいんじゃないかなあ?」
「ああ、心配かけてすまないな」
天理は侯輝の言葉を聞き申し訳なさそうに返すと表情を引き締め仕事に戻った。

その日の晩、今度こそ天理の幼なじみの土護を交えて親睦を計った。
ミッション系の養護施設に勤務しているという土護は天理よりも僅かに背は低いもののしっかりとした体躯の持ち主で、地味な印象ながら人を安心させる穏やかな笑みを持つ青年だった。面倒見がいいと評されるだけあって初対面の侯輝に対しても非常に友好的で、侯輝ともすぐ打ち解けた。
天理が用を足しに少し席を外すと土護が侯輝に話しかけてきた。
「天理が一時的とは言え固定のバディを組むって聞いた時は心配してたけど君で安心したよ」
「そうなの?俺期待の星みたいだけど、まだド新人だよ?」
「ふふっ、俺はそっちの仕事は分からないけれど、君にもうだいぶ心を許してる様だから」
「そうかな……」
(俺のは特技というか処世術だけど。あの人ちょっと心配になるくらい無防備なとこはあるよね。この人も心配なんだろな)
侯輝が内心そう思いつつもそれでも土護は見透かしたかのように微笑んでいた。
「そうだと俺は思うよ。天理はちょっと事情があって人と組むのを…戦闘自体嫌がっていたからね」
「そうなんだ……その事情って聞いていい?」
侯輝の問いに土護は少しだけ悩んだあとに答えた。
「それは本人から話すのを待ってやって貰えるかな」
「うん……あの、たまたま聞いたんだけど、もしかしてエルリウスって人絡み?」
エルリウスの名を出すと土護は一瞬目を見開き沈黙すると、しまったという顔をしながら苦笑した。
「……ふふっ、君はズンズン来るね。なるほど天理が許してしまうわけだ。答えをもう言ってしまった様なものだけどすまないが言わないでいた事にしてくれないかな?」
「……うん」
侯輝は頷きながらもどうして天理に関してここまで踏み込んでしまうのかはっきりと分からずにいた。
「なかなか難しい話でね。君の臨時バディ中だけならその機会は訪れないかもそれないが、もしその時が…天理が困っていたら見守るだけでもいいから助けてやって欲しい、すまないね、君になら頼める様な気がしてしまったんだ」
「うん!分かったよ」
頭を下げる土護に侯輝は心の中でそうしなければならないのだという想いに同意すると力強く返事をした。
(だって…助け合う為のバディなんだから、うん、この気持ちは当然なんだよね!)
「ありがとう。天理をよろしく頼むね」
そう言って土護は微笑む。天理が用足しから戻ってくると、また談笑が始まった。

酒が進むと少し酒に弱かった侯輝は「夢はまず隊長になって、そこから更に出世して…とにかくビックになるんだ!」と将来の展望を語り始め、天理と土護はそれを温かく見守り、微笑すると「微力だが力になるからな」「応援しているよ」と言われると侯輝は嬉しくなりとても良い気分で笑っていた。


そして外回り初勤務の日。
侯輝は緊張と初めての実践に興奮気味になるのを天理に苦笑しつつ鎮められながら、街外れの地下水道に出現する怪物退治に来ていた。地下道は一見するとただの大きなコンクリート製のトンネルとしての機能を持っているが、一歩足を踏み入れるとその雰囲気は一変する。じめじめとした空気が肌にまとわりつき、周囲を満たすのは水の流れる音と、どこかで響く不気味な滴る音だけだ。天井にはぽつぽつと錆びた古いライトが間隔を置いて取り付けられており、そのひとつひとつがぼんやりと薄暗い光を放ち、ぎりぎりの視界を提供していた。
「わあ新人の定番だねぇやっぱり巨大化したねずみとか昆虫とかなんだね」
「まあそう言うな何千年経ってもそこは変わらん。それも依頼通りなら、だ。突然変異がいる可能性はあるから油断するな」
「了解、じゃ俺が前、天理さんが後ろでいい?」
「ああ、生活排水路にトラップなんぞないからな、あと言い忘れてた、一応指揮権は俺だけど、特に任務中は呼び捨てていいぞ、さん付け長いし」
「分かったよ天理!」
「っ!ふふっ、おまえ順応性早いな。いいけど」
突っ込みながらも楽しそうに笑う天理に侯輝は嬉しくなった。
(なんか楽しい!)
そうかと思えば深刻な声で天理が聞いてきた。
「なあ俺、先輩として頼りないって事か……?」
「そうじゃないってば!」
(たまに心配な時はあるけど!)
侯輝はそんな事を考えつつ、初めて任された実戦の任務に胸を高鳴らせていたのだった。

しばらく歩くと前方に巨大な鼠が現れた。
「あれ?デカい!」
「そうだな……これは変異種か?それとも元々こういう奴なのか?牽制かける。問題なさそうなら突っ込め」
「了解!」
天理は指を一つ鳴らしつつ炎の精霊を呼び出す。
『ブラム、少し焼いてきてくれ』
『承知』
天理の呼びかけに呼応するように掌から赤い火の粉を散らしやや青白く燃える人型の精霊が現れる。
ブラムは弧を描くように天理の手から飛び立つと巨大鼠の胴を軽く抉るようにジュッと焼いた。鼠は慌てて距離をとるが傷口が焼け爛れたままだ。体液も見た感じ一般より巨大なだけで変わらない。尚、ここで慎重にするのはただの変異種だと思ったら体液が派手に飛び散って爆散するなどの極悪なキメラだったケースが過去あった為だ。侯輝は逸る気持ちを事前ミーティングの知識で抑え込む。
あと天理があまりにも気軽に精霊魔法を使っている為忘れがちだが、いくら天理が接近戦も可能とは言え術者を守るのはフォワードの役目だ。むやみに術行使中に突っ込んではいけない。講習中なら減点行為だ。
(だから天理の側を離れちゃいけないんだから)
「よし、でかい故に時間はかかるかもだが接敵して問題無さそうだ。やるぞ侯輝、フォローするから全力で行け!」
「了解!行くよ!」
侯輝は初陣の高揚感を味わいながら駆け出した。


「初勝利!」
身体中返り血やら体液やらで綺麗な金髪までもベトベトに汚しながらも侯輝が嬉しそうに言う。
「はい、油断しない、帰るまでが任務中。でも迂闊に突っ込まなかったのは偉いぞ」
それを見ていた天理が突っ込み・褒めつつも苦笑しながら指を一つ鳴らすと[[rb:水の精霊 > ウィン]]を呼び出し侯輝の汚れをざっくりと落としてやった。
「わあ!凄い凄い!ありがとう!俺S.G帰るまでベトベトだと思ってた!なんかこう……俺、魔法ってもっと単純で派手なのばかりだと思ってた」
「俺どっちかっていうと生活系の地味なやつの方が得意というか、そっちの方が好きなんだよな…」
天理は恥ずかしいのか少しだけ声を小さくしながら答える。
「へえ、そうなんだ。でも俺も好きだな!便利だし!」
(しっかりしてそうで時々ぽやっとしてる天理に合ってる気がする!)
「そ、そうか?まあ戦闘メインの連中からしたらもっと派手に小さな城一つ吹っ飛ばせるとかの方が好まれると思うんだが……」
ニコニコと答える侯輝に天理が少し嬉しそうに答えた。
(わあ照れてる。やっぱりこの人可愛いなあ…男だし年上だけど)
「あはは!流石にお城吹っ飛ばせる人なんていないよーそんなに派手でも実際困るしさ!」
「そう…だよなぁ…」
侯輝はそんな大袈裟な事も言うんだなぁと笑っていると天理は少し困った様に笑った。
二人は地下下水道で依頼があった区間を念のためくまなく探索し、問題ない事を確認すると地上に戻った。


その後も二人は徐々に連携を密にし任務をこなしていく。
侯輝はそんな日々が楽しくて仕方なかった。
天理もそんな侯輝を可愛く思い、日々実践でどんどん成長する姿を優しく見守っていた。
時折天理がエレリウスに呼び出されて翌日そっと隠れてため息をついていなければより完璧だったが、天理に聞いてもそれだけは頑なに返事が得られず、未だそれだけは侯輝にはどうにもなっていなかった。

そんなある日、いつもの様に任務を終え、依頼人の屋敷の客間にて帰り支度をしていた時だった。
依頼人に報告に行った天理が険しい表情で戻ってきた。
「侯輝、悪いが先に帰って報告と増援を要請してきて欲しい」
「え!どうして?」
「依頼人が行方不明になった」

その依頼は、ある田舎の地主の男が行方知れずになったというので探索して欲しいというものだった。しかし依頼人の屋敷で既に地主の男は亡くなっており、更に地主の男は魔族との契約魔術により魔物と化していた。その魔物は二人で倒したがその魔物に変貌すると魔族を召喚する能力がある為、屋敷を念入りに捜索した。だが魔族は居らず召還跡も見つからなかった為、魔族は召喚されていなかったものとして帰還しようとしていたのだった。だが天理が依頼人部屋に報告に行くと厳重に封鎖されていたはずの依頼人の部屋は魔術によってこじ開けられ、隠れて難を逃れた依頼人の妻の証言により依頼人が魔族に連れ去られた事が伝えられた。そしてその魔族は魔物から召喚される可能性のある魔族と特徴が一致した。

「俺は連れ去られたという古代遺跡について先行して潜入してくる。お前はさっきも言った通り増援を…」
通信設備が全く届いていないその地域ではS.G本部にこの場から携帯機で連絡できないでいた。
「いやだ!なんで天理さん一人で潜入するのさ!バディは二人で行動するのが原則でしょ!」
「遭遇した場合、召喚された魔族はお前じゃ手に負えない……っ、足手まといだ帰れ」
天理は一瞬いい淀みながらもすぐに冷静な瞳をすると努めて冷たくいい放った。侯輝はその言葉を聞いてカッとし声を上げた
「そんな言い方ってある!?」
「本当の事だ。俺一人なら潜入スキルもあるし忍びやすい、一応魔族の接敵経験もある。いざとなれば奥の手もあるしな。いずれの場合でもお前は邪魔だ」
天理の奥の手、行動を共にして信頼関係が築けてきた頃、連携模擬訓練で天理が教えてくれたそれは、詳しい原理は教えて貰えなかったが精霊術を用いた強力なもので、その反動で天理自身も動けなくなるというデメリットがあるから滅多に使えないとだけ侯輝は教えられた。
しかしそれでも天理の言葉で侯輝の怒りはさらに増す。
「それじゃ尚更俺がいないとダメじゃん!もし他に何かいたら天理さんが!」
「他の奴ごと攻撃できるから問題ない。お前はその後隊長クラスと一緒に来てくれればいい。じゃあ頼んだぞ」
そう言うと、天理は素早く遺跡へと向かって出ていった。
「くそ!俺じゃ足手まといだっていうの?!」
侯輝はまだ魔族との接敵経験は無い。自分の実力不足に歯噛みしていた。


天理は依頼人が連れ去られた古代遺跡へ向かうと潜入を開始する。風の精霊シアを呼び出すと遺跡内の探索をしながら慎重に進む。
(すまん、侯輝、お前を危険な目に合わせたくないし、できれば奥の手を使った後の俺をお前には任せたくないんだ。後で謝って許してくれるといいが……)
天理は一人心の中で侯輝への謝罪しながら先へ進む。天理の遺跡マニアとしての知識からここの遺跡には現在これと言って怪物などの危険が無いことは知っていた。今回の件でその情報が書き変わってしまった訳で早々に魔族には消えて貰わねばなるまいと考える。
(それにしても次のエサの為なんだろうが行き先をペラペラ喋っていくとか人類嘗めてるにも程があるな魔族め)
そう内心で愚痴りながらも天理は慎重に遺跡の中を進む。すると天理の周りのそよ風が起こりそれに気づいた天理が手を差し出す。やがてそよ風は人型の精霊の姿となると天理手に止まった。音を立てぬ様心話で連絡を取り合う。
(『あるじ、魔族、いた。人間も居て、まだ生きてる。魔族、人間で遊んでる』)
シアの報告を聞いて天理の表情が嫌そうに少し歪む。
(遊んでる。か。魔族め、依頼人生きてても五体満足に帰れるといいが)
天理はそう内心で毒づく。今は魔族よりも先に依頼人である。無事だとしても助けた後衰弱死されては困るのだ。急がねばなるまい。
(『探索ありがとうシア、案内してくれ』)
(『こっち、あるじ』)
シアに先導され天理は極力気配を消し、シアの力で移動音も消しつつ小走りに移動した。
ここ、とシアに案内された場所に近づくと魔族と思しき下卑た笑い声と苦しげに呻く男の声が聞こえてきた。聞き覚えのあるその声は依頼人のものだ。天理は素早く壁際へと近寄るとそっと様子を伺った。
「ど、う、し、よ、う、か、なぁ~~~うりゃ!」
「ぐあ!!はぁっはぁっ……もうやめてくれ……何でも……言うことを聞くから……」
ブシュっとした音で恐らく依頼人が何かで刺されている事が推察された。致命傷では無い様だがこのまま続けば依頼人の命は確実に危ういものとなろう。いつ気まぐれに殺しかねないその様子は一刻を争いそうだ。
(さてどうする?この遺跡は半地下型だ。地上に出るにはそこの扉しかない。奥の手で魔族を倒すにしても魔族の攻撃範囲に入れば依頼人も巻き添えになる可能性が高い。なんとか魔族を引き離せないか……)
天理はそう考えながら魔族に見つからないように注意しつつ辺りを見回す。すると壁に隠し通路と思われる個所を発見する。
(これ位置的にあの部屋の奥に繋がってたりするか?)
そう考える間にも魔族の意味不明な発言とブシュっとした音と苦しそうな依頼人の声が聞こえる。
その度に痛みで声を上げる依頼人を、流石に迷っている時間は無いと急いで隠し扉を消音しながら開き確認する。
(ビンゴ!これでこの部屋の入り口は二つある!あとは魔族をうまく誘導できれば依頼人を引き離せるぞ!あとはこの遺跡の構造からこう誘導して…)
そう内心呟くと天理は魔族を部屋の外へ誘うべく素早く隠し通路へ移動を始めた。


「なんかこいつ飽きてきたな~~一緒にいたメスも連れてきちゃえば良かったな~でもあの時まだ召喚主生きてたからな~」
「ぐあ!!はぁっはぁっ……やめてくれ……やめてくれ……」
「そうだ!命令された事以外はやっちゃダメって言われて無かったから連れてきちゃえば良かったんだ~今度からそうしよ~」
そしてその部屋の扉がばんっと開かれるとそこには天理の姿があった。
「今度なんてねぇよクソ魔族!お前はここで終わりだ!」
「なんだおめぇ?」
「知る必要は無い!覚悟しろ!」
天理は魔族が振り向いた瞬間、既に攻撃体勢に入っていた。言いながら素早く天理は魔族の首筋を切り、そのまま魔族の後ろに回って魔族の背後に回り込む。通常なら致命傷だ。だが魔族は痒くもなさそうににやぁと笑った。
「こいつ飽きたから次お前で遊ぼ~」
「ちっ!」
天理は険しい顔をすると小刀を構える。そこに魔族が突っ込んできた! 天理は素早く身を捻り避けようとするも腕や胴を引っ掻かれてしまう。
「くそっ!」
「おまえちょろちょろ楽し~待て待て~」
完全に舐めた態度で魔族は楽しそうに天理を追いかけ回し少しずつダメージを与えた。
「ぐっ……」
天理は扉を背にすると悔しそうに扉から逃げ出した。
「え~鬼ごっこ~?俺鬼だけに~ギャハハハハ!お、早いな待て~」
魔族は嬉々として天理を追って部屋の外へ出て行った。
(よし頼んだぞガノ、遺跡の奥へと当分引っ張り回してくれ。今のうちに依頼人を外へ救出する。あとは隊長待ちだ)
ここで魔族の知性がもう少し賢ければ天理の傷跡から碌に血が流れていない事に気づいたのだが、新しいおもちゃに夢中になった魔族には無理であった。魔族が追いかけて行った天理は土の精霊ガノが作り出した天理そっくりの人形であり、天理本人は隠し通路から依頼人が捕らわれた部屋へと侵入する。捕らわれぐったりしている依頼人の拘束を解き、ウィンの力で出血が酷い箇所へ応急措置を施した。
「天理!今助けるから!」
そして治癒しきれない箇所を治療キットで補おうとしていると、今、外からここで聞こえてはいけない声が天理の耳に聞こえてきた。
(なんであいつが!)


時は少し遡り、侯輝は通話可能な区域まで移動するとS.G本部に連絡、そして、天理の指示を無視して隊長の到着を待たず単身天理を追いかけ古代遺跡へと侵入していた。
(俺だって天理さんの力に……!もうあの頃みたいに無力じゃない!でなきゃ何の為のバディか分かんないじゃん!)
そう心の中で呟きながら、遺跡を探索する。先行した天理が残したS.G独自のマーカーを辿りながら進む。
そしてしばらく進んだ所で魔族と思しきものに天理が追われ体中切り傷だらけにされているのを発見した。相手は隊長クラスでなければ相手できない事はその瞬間侯輝の頭から消えていた。
「天理!今助けるから!」
思った瞬間には駆け出していた。その天理は天理が作り出した土の精霊ガノの天理人形だったのだが、薄暗い遺跡と緊張と逸る気持ちが判断力を鈍らせていた。
「おうおう~また新しいおもちゃだ~」
魔族は侯輝を見て楽しそうに言った。
「はぁぁ!!」
侯輝は全力で移動しその勢いのまま両手剣を叩き込む!だがその一撃を受けても魔族は楽しそうに笑うだけだった。
「おお~そっちのやつより痛ぇ~~ギャハハハハ力比べしよ~ぜ~」
魔族は侯輝の攻撃を防いだまま腕を横に振り払う。侯輝はそれを咄嵯に避けて距離を取る。
「お前も避けるな~でもさっきのより遅せ~捕まえられそ~そ~れ」
魔族の腕が連続で侯輝を襲う。侯輝は避け、両手剣で受けるもついにその強烈な一撃が侯輝を捕らえた。どん!と通路の壁に叩きつけられる。
「ぐあっ!」
「侯輝!」
その時、侯輝が想定していなかった方向から天理の声が聞こえた。
(あ、れ?天理あっちに居たんじゃ……そう、か馬鹿だ……また……俺)
侯輝は最初に見た天理が人形である事に気づき、そして自分の失敗を悟る。そして絶望的な気分になりながら意識を失った。


「馬鹿野郎!」
叩きつけられ意識を失った侯輝を庇う様に素早く移動し前に出る。
(なんで一人で来た!なんで……)
「あれ?あれ~?お前いつそっちいった~?まあいいやそいつ寝ちゃったし鬼ごっこ続きしよ~その前にそいつ動けない様にしとこ~」
「黙れ」
魔族が楽しそうに踏み出そうとするする前に天理は奥の手を使う覚悟を決めた。もうこうなってはそれしか助かる道は無い。
(エレリウス!あんたの魔力今ありったけ寄越せ!)
天理は瞬時にして集中するとその瞬間膨大な魔力が自分に供給されるのを自覚した。
「あれ~?なんか雰囲気変わった~?そっか~それじゃ~本気出さないといけないかな~?」
魔族は楽しそうに言うと一気に飛び上がり天井に逆さまにぶら下がる。あいも変わらず余裕でいる内に天理は素早く指を鳴らしつつ全ての契約精霊を呼び出す。
『ウィンディ!』『ガートノード!』『エーシァ!』『ブラムド!』
普段の召喚と異なり天理の契約精霊水土風火が全て大人程度の大きさで召喚される。1体1体が神々しさまで纏い壮観ですらあったが今ギャラリーは魔族しかない。
「何々?す~げ~!」
口ではお気楽であったが魔族の目つきが変わり天井から急襲してきた。
『共命し彼を滅せ!四精方陣!』
天理がそういい放つと共に四体の大精霊が息を揃え一斉に魔族へと突進する。そして遺跡内は閃光に包まれた。
「グ…」
魔族はたった一言の呻きを遺しその術の前に霧散した。
天理は精霊達が技の残り火だけで働いてくれた捜索で魔族が確実に屠られている事を知ると一旦胸を撫で下ろした。
(なんとか脅威は去った。侯輝に大事が無いといいが……見られてしまうんだな……)
全身に徐々に痺れの様な感覚が覆うと、立っていられなくなった天理は侯輝を視界の隅に確認しながらその場に崩れ落ちた。


「おい起きてくれ」
「ぅぅ……」
(俺、生きてる?天理さん……)
無遠慮に肩を揺らされ誰かの声がする。確か依頼人の声だったと思い出しながら侯輝はグラグラと揺れる頭をなんとか覚醒させる。
「ここから脱出させてくれよ。あの魔族がいない内によ。そっちのやつは動けそうにないんだよ」
(そうだ魔族!)
侯輝はがばっっと起き上がると周りを見渡し魔族を探す。まず最後に魔族が居た方の壁が一面、爆発でもあったかのように崩壊しており、その瓦礫の中に魔族の物だった様なモノの欠片が散らばっているのが見えた。そして天理が少し離れた所で横たわっていた。
(これが天理さんの奥の手……!それより天理さん!)
天理が魔族を倒したのは間違いなさそうだった。しかし侯輝はそんな事よりも天理が心配でならなかった。
「天理さん!大丈夫?!」
「無事だったか侯輝……あ、待、んっ!」
侯輝は依頼人を無視して倒れていた天理の方へ駆け寄り、抱き起そうとすると天理に静止されたが心配でそのまま抱き起す。すると天理は身を捩りびくりと反応した。その声が艶っぽく聞こえ、顔が赤いのも相まって侯輝はどきっとしてしまう。仰向けにさせてしまった事で天理の股間が盛り上がっているのが見え、興奮状態にある事を侯輝は察した。
「ごめんっ、凄く熱い……まさか、魔族のせい?」
「ぅ、ちっ……違う。奥の手使うとこうなるんだ……」
(え!これが天理の言ってたデメリット!?)
「そいつそんな調子なんだよ気持ち悪い。あんた、俺を護衛して街まで連れてってくれよ」
侯輝が天理が奥の手を使いたがらない理由を察しながらどうやって天理を介抱しようと思考を巡らせようとした瞬間、依頼人から言われた言葉を侯輝は一瞬理解できなかった。だがすぐに依頼人が天理に対して吐いた暴言と気づき依頼人を睨み付けた。
「な、なんだよ、俺は依頼人だぞ……」
その眼光にたじろぐ依頼人に天理が声を振り絞って告げた。
「よせ侯輝、依頼人さん、魔族は倒しました。そこはご安心ください。S.Gが街まで安全にお連れいたします」
依頼人は侯輝に怯みながらも反論しようとしたが、天理の発言を聞いてしぶしぶ引き下がった。
「分かってりゃいいんだよ……」
「侯輝、お前はまだ動けるな?まず依頼人さんに手当、その後街まで護衛だ」
侯輝は必死で毅然とあろうとする天理の言葉に我に返り頷くと天理をそっと横たわらせすぐに行動を開始する。
己の応急キットを取り出すと依頼人の傷の治療を行うべく服を脱がし手早く応急処置を施していく。依頼人の消毒液の悲鳴を聞きながら、チラリと天理の見ると顔はまだ赤く息遣いが荒かったが少しだけましになったのか目を閉じて耐えていた。外傷は無さそうだが一刻も早く天理の措置をしたかった。治療完了を告げると天理に有無を言わさず「行ってこい」と告げられる。万が一の事があったらと食い下がろうとするも無言で睨まれたので仕方なく侯輝は天理を置いてその場を離れる事にした。
「すぐ戻るからね!」

侯輝が依頼人を連れ、遺跡の出口近くにくると呼んでいたS.Gの部隊らしき一団が到着しているのが見えた。その中で一目で目を引く男によりその隊が誰のものか判別できた。隊長の一人、公金だ。整えられた輝くプラチナの髪、眉目秀麗、戦闘着を纏いながらもその洗練された優美な仕草がこの場所が無骨な遺跡ではなく、夜会の社交場に思わせる。だが精霊術・剣術共に優れ、なにより屈指の戦術指揮をとる事で有名で魔族狩りの実績も数多い男だ。
「公金隊長!こちら要救助者の依頼人さんです。連絡した魔族は天理さんが討伐済みです!」
その報告に公金の部下達から小さく驚きの声が上がるが公金が侯輝を瞬時見定める様に見つめた後、話し始めるとピタリと止んだ。
「ご苦労様。そう、天理君が魔族を。……では君はそのまま依頼人を護衛して街まで……」
「あの!依頼人の護衛をお願いしても宜しいですか!?天理さんが今動けないので護送したいです!」
公金の発言を遮る様に侯輝は公金に願いでる。階級を無視した発言と態度に公金の部下がざわついた。そして依頼人が不満を漏らす。
「おいあんたが護衛するんじゃ」
「この人達はあの魔族を倒せるほどの実力者です!俺より頼りになります!公金隊長!お願いします!」
依頼人をも遮り侯輝は説明すると、重ねて公金に願い出た。公金は静かにじっと侯輝を見つめる。
「まず依頼人の護衛が先だね。皆、先に依頼人さんを連れて戻っていてください」
公金の部下たちは一瞬無礼な侯輝の発言が通ったのかと驚くもすぐに命令を実行した。依頼人はまたも文句を言おうとしたが大勢の屈強そうな部下の前に侯輝よりは頼りにはなりそうだと黙って護衛されていった。それを見送ると公金は再び侯輝に向き直る。
「さて、君は天理君が今どういう状態か分かっていますか?」
公金と二人きりになると侯輝は公金の口調は先ほどまでとは変わらぬと思いつつも何か雰囲気が変わった事に直観で気づく。そしてその問いの答えを間違えたら天理を任せて貰えない、そう直観して答える。
「分かっています!精霊術の反動であの様に身動き取れなくなる事の説明は受けています!俺に任せてください!」
多少誇張したが侯輝は勢いで押し切ろうとする。公金はほんの一瞬驚いた目をした後、その言葉を真偽を見通す様にしながらも公金はそんな侯輝を少し興味深そうに見つめる。少し思案した素振りをみせ公金は口を開く。
「そう……天理君が。……君に任せてみても良いかもしれないね。君ならひょっとしたら……」
思わせぶりな言葉を小さく呟きながら公金は侯輝を見つめる。
「はい!任せてください!」
自信満々な表情で応える侯輝を見て公金は頷いて微笑むとすぐに指示を出す。
「では私は周囲を確認しつつ先に戻ります。君は天理君の護衛をお願いしますね。後程顛末の報告を下さい」
「分かりました!」
侯輝は元気よく答えた後すぐに天理の元に駆け戻った。

「天理さん大丈夫!?」
侯輝の声に天理は驚いた様に駆け寄る侯輝に目を向けた。
「な、にしてる、依頼人は…」
「公金隊長が到着してたからお願いしてきたよ!」
その言葉に天理は渋そうな顔をする。
「あの人……」
「ねっ天理さんも早く帰ろう!俺ちゃんと連れてくよ!任せて体力は自信あるから!」
「いや……そういう問題じゃなくて……」
相変わらず顔を赤くしたまま、動けないながらも、どこかもじもじと恥ずかしそうにしている天理に侯輝は焦る。
「このまま放っておいても良くならないでしょ?辛いだろうけど頑張ってっ」
「えっ!んんっ!待、て……」
侯輝は返事を待たず天理を抱きかかえ、小走りで移動を開始した。
「ちょっ!ゆっくっり!ふ、ぅ……」
侯輝に抱えられた天理はできるだけ揺らされない様侯輝の首に手を回し首筋に顔を埋めて声を耐える様に漏らす。
(うわーっ天理さん…なんて言うか……俺、どうしよう……)
体が全身熱くなって艶っぽい声を自分の首筋近くで漏らす天理に侯輝はどうしようもなくドキドキしてしまうのを必死に抑えながらもなんとか街中に着くと滞在中に取っていた宿泊所に戻ってくる事ができた。
「ともかく休んで!」
侯輝はゆっくりとベッドの上に天理をおろすと靴を脱がせ自身も上着を脱ぎながら隣に座って様子を確認する。
少し息を荒くし汗ばみながら目を潤ませてこちらを見つめる天理の色気に、侯輝も平静でいられなくなっていた。
「……言いたい事が、沢山あるんだが」
「な、何かな!何でも言って!」
「何で……一人で来た」
どきまぎしていた気分から一転、そもそもなぜ天理がこんな状態になってしまったのかを思い出し、顔を赤から一気に青くさせると侯輝は己の大失態を謝罪した。
「ごめん…なさい、俺、天理さんの力に、なりたくて……それで……」
申し訳なさそうに必死に謝る侯輝に天理はやはり熱っぽいため息をつきながら呆れた様に言う。
「お前を足手まといだなんて酷い言い方したやつ……ほっとけよ……」
天理は気まずそうに眼を反らしながらそれでも少し嬉しさを含んだ声で侯輝を責めた。
「でもっもしもの事があったらって思ったら居ても立っても居られなくて!でも……俺頭に血が登って……天理さんの人形にも気づかないで俺足手まといで……本当にごめんなさい」
段々と泣きそうなくらいしょげてきた侯輝に天理は仕方ないと言わんばかりに小さく熱い溜息をつくと
「……もう怒ってないから……俺も……酷い言い方してごめんな?」
天理は震える腕を懸命に動かし、優しく侯輝の髪を鋤く様に頭をなでる。辛い身であろうに気遣わしげなその視線に侯輝はぱっと顔を明るくさせた。
「うん!」
「ふっ立ち直り早いなお前。でも……本当にお前にもしもがあったらって……思う気持ちは俺だってそうなんだから忘れんなよ……?」
既に顔を赤らめていた天理だったが更に少し顔を赤くしながら恥ずかしそうにぼそぼそと言う。
「うん……ありがと。忘れないよ…」
そんな天理に侯輝も少し顔を赤らめるとその言葉を噛みしめながら嬉しそうに笑った。
「あの……聞いていいかな?その、体の。普通の興奮とは違うみたいだし……」
天理の体をちらちらと恥ずかしそうに見ながら言いにくそうに質問をする。
「公金さんに聞かなかったのか?」
「知らないって言ったら任せて貰えないかなって思って嘘言っちゃった。だからまだ分からなくて」
申し訳なさそうなのにえへへと小さく笑う侯輝に天理は呆れた様に溜息をつくと諦めた様に言う。
「……はぁ……お前とは短期だと思って伝えてなかった俺も悪いかな……隊長クラス以上と……土護と葉金さんとかごく一部は知ってる」
「あの、無理にとは」
「魔術契約は知ってるか?」
「えっと、ちょっと習った」
「契約してるんだよ俺。あの……エレリウスと。奥の手は……契約で成し得た術なんだ」
侯輝にその予感はあった。度々天理が有無を言わさず呼び出され、天理に憂いを与えている相手のその名前。問いただしても頑なに答えを得られないその主が、ここに出てくるのかと。侯輝は「その時がきたら助けてやって欲しい」という土護の言葉を思い出しながら、その時がきたのだと少し覚悟を決めて質問した。
「それ…で、こうなってるの?」
侯輝は緊張で喉が渇くのを感じた。一体どんな原理で天理がこんな状態になっているのか。
「俺とあの人との魔術契約は少し難儀してな……あいつから魔力供給を受ける度にこのザマだ……正直嫌だし、本当に奥の手なんだよ」
正直嫌の部分に天理によこしまな感情を抱きつつあった侯輝は少しだけなぜかショックを受けるも、そんなの当然じゃないかと自分を戒める。
「うん……辛い……よね。ごめんね。嫌な手使わせちゃって」
「いい……気にすんな……今まで使わずに済んでたのはたまたまだ。S.Gの仕事に偶発的な危険はつきものだってのにな」
新人のバディに魔族級が担当させられる事など無い。天理が臨時バディにわざわざ話そうとしなかったのは納得できたし、こんな事になるとは予想できなかったのだとしても仕方がないと思う。
ただ侯輝に言わせれば天理に無理矢理協力させられているエレリウスが不愉快でならなかったのだが、それはまた別の問題であったので今は置いておく事にした。
「この状態はいつまで続くの?何か早く治す方法があるの?俺にできることならするから!」
隊長クラスならそれも知りすぐに解決できていたのだろうかと思いつつ侯輝は自分が役に立つならと必死に訴える。天理は困った様に目を逸らし途切れ途切れ答えた。
「少しずつ治まってくるが二、三日かかる……ピークは今晩だから、今晩はずっとこんなだ……早く治すには、原理的には魔力を……回復できればいいんだが……簡易儀式して誰かに貰うとか……ただこの田舎じゃ提供できるレベルの魔力持ちなんて地主くらいしかいないだろうし、それに……」
(今晩ずっとこの状態!?自力で発散もできなさそうだし、天理さん一晩生殺しじゃん。俺、の、魔力なら……ええい気にしてる場合か!)
侯輝は誰にも打ち明けられずひた隠しにしている事があった。S.G入隊時に希望者には正規の鑑定士に精霊特性と魔力を判定してもらえるのだが、侯輝は事情があってあえて受けずに適正を隠していた。おかげで剣と格闘だけでで入隊資格を取らなければならなかったが幸いフィジカルには恵まれ努力の甲斐もあって、優秀な成績を納めることができるほどだったので気にされなかった。
「あの俺、実は魔力あって……俺で良ければ……」
「え……?お前適正無しだって……」
「本当はある……光と……闇で……嫌なら……」
心臓をバクバクさせながら小さな声で告げる。精霊適正闇、レアではあるものの主に犯罪者が使い、忌み嫌われる場合が多い。天理は一瞬驚きに目を見開くと、嫌悪されると思っていた侯輝の想定に反し、苦しそうにしながらも労るような嬉しそうな表情をし、侯輝はそれに一瞬見惚れてしまった。
「驚いた……お前の様な闇もいるのか。ありがとな……言いにくいだろうに俺の為に告白してくれて」
その表情と言葉にひた隠しにしてきた侯輝の心の中でぐるぐると渦巻いていた闇がふわりと溶けていくような気がした。
侯輝は今まで誰にも言えなかった自分の秘密をあっさり受け入れてくれた事がたまらく嬉しく、今までずっと心に抱えてきたコンプレックスを、こんなにも簡単にさらけ出せたのは、相手が天理だからだと改めて思う。そして今、これまでモヤモヤとさ迷っていた想いに名がはっきりと付けられた
「好き……」
(!!!しまったあ!!何言ってんの俺ぇ!今天理さんそれどころじゃないのに!)
「?……ありがとな?」
誰かに告白するなら、完璧にセッティングした場所でムード満点の時にしようと決めていた侯輝だった。だが思った瞬間既に声に出してしまっていた。ハッとして口を塞ぐ。天理はまだ分かっていないのか素直に感謝し微笑する。侯輝はそういえば天理がその容姿の割に色恋沙汰に無頓着だった事を思い出す。恐らくまだ弟の様な後輩に好意を口に出して貰って嬉しいぐらいにしか思っていないのだろう。今ならリカバリーがきく、何より誰よりも大切な人だと自覚した今、天理を救いたい一心で言葉を紡ぐ。告白は後日!
「ほらっ闇って聞いてありがとうまで言われたのはじめてだったから、天理さんのその感覚が好きだなって……」
「ん……そうか、俺もそう言われたのははじめてかな……はは、お互い大変だよな」
どうやら悩みは違えども苦労仲間が増えたくらいの感覚で捉えたらしい。いくら今平常ではないにせよ、これは鈍そうだ、告白する時は分かりやすくせねばなるまいと侯輝は思う。
「でさ!俺の魔力でいいかな?いいなら全部持ってっていいから!今日の償いさせてよ!」
慌てて誤魔化しつつ本題に戻す侯輝。すると天理は困った顔をする。やはりダメなのだろうかと不安になった。
「あ、お前が嫌なんじゃ無いんだ。その、お前魔力供給儀式の内容知ってるのか?」
「どうやるの?」
「まず俺の血で互いの体に一時契約印を描く。で、お前の精を体内に直接貰う……つまり、その、セックスをだな……」
言いにくそうに告げられた内容に侯輝は一瞬理解できずぽかんとするが、すぐに天理の言葉の意味を理解して慌てる。
「え?……セッ……クス!?」
「俺はまあ……いいんだが。助けて貰う立場だし。何度もあるから慣れてると思うし、ただ今動けないからリードして貰わないとならないんだが……お前俺相手なんて気持ち悪いだろ?」
お前女子にモテて嬉しそうにしてたしノーマルだよな?と苦笑している天理に侯輝は衝撃を受ける。侯輝は基本的にチヤホヤされると嬉しくなってしまう性質だったが今天理に抱いている感情とは別物だった。
(そんな!天理さん処女じゃないの?て、そうじゃない、その相手って)
「あ、の、何度かってのはエレリウスの事……?」
天理のレアスキルでもって精霊研究の協力をしているのだとだけ聞いていた。何度も嫌がりながら半ば強制で呼ばれていつも気だるそうにしていた。まさか、その度に……侯輝は頭が沸騰しそうになるのを寸で抑えながら返事を待つ。
「いや……魔力切れの度にあの野郎にって訳じゃなくて大体他の何人かに……こんなやつ軽蔑するよな。端から見たらビッチだ。嫌になる」
侯輝は想定以上の事実に衝撃を受けると同時に自己嫌悪する天理に心が痛む。天理が普段凛としながらも時折儚く見えたのはこの為で、なんでそこまでしてと侯輝は思う。確かに強力な見返りはあるが天理はそもそも戦闘を好むタイプではないのだ。天理が自前で見せる力はいつも補助的な便利で楽しく優しいものが多かった。侯輝は自分の下心もあったが今はただ天理を癒してあげたかった。
「そんな事、無い。天理にはやむを得ない事情があったんでしょ?頑張ってる天理を軽蔑するなんて俺にはできない。天理が良いって言ってくれるなら俺は天理を助けたい」
力強く真っ直ぐに答える侯輝に天理は驚く。そして微笑み「ありがとう」と言うと、そっと侯輝の頬に手を添える。
「じゃあ…やり方は指示するから…よろしく頼む」
その手は冷たく少し震えていた。

侯輝は緊張する指で天理のシャツを脱がす。そういえばS.Gのシャワー室でも更衣室でも一度も天理の半裸身すら見かけた事が無かったと侯輝は思い返す。共に帰還してもタイミングをずらされる事が多かったのだ。そしてその理由を今知る。胸の辺りに契約の印らしきものがうっすらとだが見えていた。その印は力強い火と土に小さな風と水が意匠化されたもの……までは良かったがどこか形が歪んでいて、普段の天理の扱う精霊達を思えば天理に相応しくないと思えた。侯輝は天理を縛るその印に悔しさからぐっと歯を食い縛る。
「楽しいもんじゃないだろ?あまり見ないでくれ…」
自分より天理の方がずっと悔しいのだ。自分がしょげてる場合じゃないと侯輝はそんな天理を励ますように声をかける。
「でも天理の体は凄く綺麗だよ!」
「!い、一応戦士の端くれだし…こんなもんだろ。綺麗っていうか美しい体ってならお前みたいなのを……」
「えへへ、ありがと」
一瞬驚いたあと照れた様に顔を剃らしゴニョゴニョと呟く天理。その様子にやっぱり可愛いところあるなと思いながら、侯輝は褒めてくれた天理に素直に礼を返し自らも上着を脱ぐ。
鍛え上げられたその肉体美を見、天理は直ぐに恥ずかしそうにまた目を逸らす。
「えっと、まずは簡易魔力委譲契約をするんだっけ」
「ああ、俺の血で俺の体とお前の体に一時契約印を書くんだ」
天理は指を小刀で小さく切り、血で互いに印を描く。特殊な術式により描かれた印は互いの体に一時的な契約を結ぶ。見えない何かで繋がった様な気がして天理に想いを寄せる侯輝はそれだけで嬉しくなった。
「えへへこれで天理と一つになれたんだね」
「!お、前恥ずかしい言い方するな……ただの儀式だってのに。だからモテんだろな……」
「俺言うほどモテないよ?でも今ので天理がちょっとときめいたなら嬉しいかな」
これから天理に好きになって貰いたい侯輝としては天理のときめきポイントはガンガンついていきたいところであった。
天理はそんな侯輝に呆れるが、こんな状況でと困ったように苦笑する。
「?全く……こんな儀式初めてだよ、調子狂うな……俺にリップサービスとかいらんし、好きに動いて出してくれればいいからな?」
「えー!どうせなら一緒に気持ちよくなろうよ!俺下手だったらごめんだけど頑張るから!」
「お前いいやつだよなぁ……」
(天理にだけだよ!これは手強そう……)
侯輝はまだ告白するつもりはなかったが少しでも意識して貰いたくて近づきたい思いに駆られた。
「キスしていい?」
「はは、それ言われたのも初めてだ。別にいいぞ」
「……あの、天理、儀式以外でセックスとかキスとかは」
「無いんだよなぁ……はは……」
乾いた笑いを自嘲気味に呟く天理に侯輝はつい舞い上がってしまう。
(いやったぁぁ!ファーストキスは貰える!……ってごめんね天理苦労してるのに喜んででー!)
「あのっエレリウスの事好きだったりは」
「ねぇよ」
心底嫌そうに即答する天理にほっとするも、それだけに今までの心労を察した。
「余計なこと聞いてごめんねっ始めるね」
ドキドキしながら天理に唇を寄せる。まずは軽く啄むようにキスをすると、天理がクスクスと笑っていた。
「なんか可愛いなお前」
(子供扱いされてる?!)
思えば相手は儀式とはいえ経験豊富?な年上の男、対してこちらは童貞の若造だった。なんとかドキドキして貰いたくてもう一度今度は舌を天理の口内へと差し入れると、天理はびくりと体を震わせつつも抵抗せず受け入れてくれる。そのまま暫く互いの唾液を交換し合う様に深いキスを交わす。
「んっ……ふぅ……はぁ……」
息継ぎの合間に漏れる天理の吐息が艶かしい、いくら敏感になっているとはいえキスだけでこんなにも感じるものなのなのか分からない。唇を離すと天理が顔は紅くしつつもやはり少し楽しそうに微笑していて、やはり自分ばかりがドキドキしているようで侯輝はちょっと悔しかった。
侯輝はめげずに天理の胸に手を這わせる。
「っ……」
天理はびくりと体を震わせると小さく声を洩らした。腹、脇腹と触れる度に天理は声を殺しながらも体は震え呼吸が荒くなっているのが見て取れた。
「大丈夫?」
「ああ……」
胸でピンッと固く主張していたそれをそっと撫でると「んっ」歯を食い縛りそれでも喉奥から高い声を鳴らしビクビクと痙攣するように反応を示す。切なそうに瞳を揺らす天理の姿に鼓動がどんどん高鳴っていくのを自覚しながら侯輝はその先端を口に含むと舌で転がし優しく吸い上げてみた。
「ん"!!っ……やっ……待」
天理はその刺激が辛く思わず侯輝の頭を離そうと腕を伸ばすが力が入らずされるがままになっていた。天理は更に舌先でつつかれ吸われ噛まれて甘い刺激に腰が浮き、未知の感覚に身を捩りながら無意識に逃げようとした。
だが夢中になった侯輝は更にもう片方の先端も指できゅっと摘み上げ震わせると逃げを封じる。天理の反応が楽しくて興奮してつい夢中になってしまいハッと気がついて顔を上げると天理は頬を上気させ涙目で睨んでいた。
「ご、ごめん痛かった?!」
「ちがう……お前、しつこい……」
慌てて口を放し謝ると、天理は首を振り呟く。
「えへ、ごめんなさい。気持ち良さそうだから……もっと天理に気持ちなって欲しくて……」
「馬鹿……俺はいいから……ああ、もう好きにしてくれ。ただあんまり焦らさないでくれ。辛い……」
言葉の割にはそこまで怒っていなさそうな表情が可愛くて思わず笑ってしまうとやっぱり怒られた。呆れたように容認してくれたが嫌がってはいない事に侯輝は安堵する。
「ご、ごめんねっじゃあ……失礼しまぁす……」
侯輝は今回の行為の目的を思い出し慌てて思い直す。恐る恐る天理の下着に手をかけ脱がすとそれは既に立ち上がり汁を滴らせていた。侯輝はまた鼓動が早くなるのを自覚する。
(天理のも思ってたよりおっきいし綺麗……)
「それはほっといていいから……その、後ろを解してくれ……さすがにお前のブツはいきなり入らんだろうし」
天理は少し恥ずかしそうにしながらチラリと侯輝のズボンの上からでも分かる膨らみ具合をみて言う。
「う、うん」
天理の立ち上がったそれの下には何度も懸命に受け入れたという小さな蕾がそこにあった。
(入るの?コレ……)
「下キツイだろ?大きさ確認したいしお前も脱げ」
「う、うんっ」
天理に言われ侯輝は己の欲の塊を晒してしまう事に一瞬恥ずかしく思いつつも慌てて下を脱ぐと、天理は一瞬固まった。
「……すまん、できるだけ丁寧に解してくれ。いつもは事前に自分でやってるんだが……」
(自分で!違う違う。天理は好きでやってたんじゃないんだから!)
侯輝は一瞬また天理の淫らな想像をしてしまうがすぐに己を正して頭を切り替える。侯輝は天理の指示によって丁寧に後孔を解した。その最中もやはりどこもかしこも触れるだけでびくびくと跳ねる天理に侯輝は労りたいと思いつつも興奮は抑えられずにいた。
「ん"んっ!はっ、ん"!ん!」
(感じてはいるんだけど歯食い縛ってるしやっぱりどこか苦しそう……声聞きたいけど……)
経緯を考えれば今まで天理にとってセックスは儀式でしかなく、楽しんでいたとは思えない。こうしてずっと歯を食い縛って堪えるものだったのだろう。そう思うと侯輝は悲しくなった。
「いっ!ん"ん"ん"……!!っはっ……はっ……はっ……」
(す、ごい……)
侯輝が天理の後孔を丹念に解している間に天理は一際高く喉を鳴らしながら前に触れることなく吐き出していた。しばし脱力していたが術による発情は治まらないのかまた辛そうにしていた。
「はっ…んっ……すま、ん汚して……後ろ、もういい、から、来て、くれ」
タオルを手繰り寄せ差し出しながらやはり申し訳なさそうにする天理。侯輝はできるだけ刺激しないようにそっと指を抜き、優しく微笑むと凍ってしまった天理の心を溶かせたらいいのにと思いを込めて抱き締める。
「んっ侯、輝……?……ふふっどうした?あと入れるだけだぞ?」
(また笑ってくれた!やっぱり楽しそうにしてくれた方がいい!)
「うん、初めてだから緊張しちゃって。じゃ……入れる、ね」
「おう、頼む」
自分の行為で天理が喜んでくれることを嬉しく思いながら脚をそっと割開き入り込むと天理は慣れた様に息を吐き力を抜く。
「うっ……キッツぃ……」
「っ!」
侯輝はだらんと力を抜いた脚を抱え、ゆっくりと腰を進める。ぎゅっと目を閉じていた天理が小さく鳴いた。
「大丈夫っ?」
「大丈夫、だぞ」
侯輝がその声にドキリとして思わず腰を止めると、目を開いた天理が微笑んだ。自分より余程辛そうに見えるのにそれでも気遣ってくれる天理に侯輝はまた一つ想いが強くなる。
「ん、はぁ、ん、くっ、っ…………はー」
そのまま腰を進め、奥まで収めると、天理が大きく深呼吸をした。
(天理と一つになれた……想いも一つになれたらいいのに)
「すまんが少し待ってくれるか?」
「うん、キスしてていい?」
「ふふっキス好きだな?いいぞ」
「うん、好きだよ」
(だって天理が楽しそうにするから。そんな天理が大好きだから。天理もキス好きだと思ってくれたらいいな。俺の事も好きになってくれないかな)
やはり楽しそうに返す天理に侯輝は想いをふんだんに込めて口付けた。

「んっ……ん……」
「ん……ん……」
天理はいつもと明らかに違う行為に戸惑いつつもその感覚に好感を抱き始めていた。まるで恋人の様に大切に扱ってくれる侯輝に勘違いしそうだと思い、いつも相手が侯輝であったならとまで考えてそれを否定した。良かったからまた抱いてくれなど、それこそビッチではないか。今は謝罪ときっと同情で行為に及んで優しくしてくれているだけなのだからと。侯輝が同性同士に抵抗が無いらしく緊張しつつも楽しそうに行為を進めている事は天理は幸いに思った。普段から愛嬌のある男ではあったが今は一段と可愛らしく思えてきた天理は知らず震える腕を伸ばし侯輝の頭を撫でていた。
「わ……!」
(わぁ気持ちいい……嬉しいな)
「あ、悪い。つい……あ、もう動いてくれていい、ぞ」
だいぶ打ち解けてきた頃、仕事が上手にできたら侯輝が調子に乗り「もっと褒めて!」と賛美する事を要求すると「はいはい偉い偉い」と撫でる習慣ができてはいたのだがそれとは違う天理の手付きの感覚に侯輝は驚いてしまい、天理も自身の行動に驚き狼狽えた。
「じゃあ動く、ね」
突っ込んだままだというのにお互い微妙にギクシャクしてしまいながら侯輝はゆっくりと腰を動かし出す。
ぐちゅりと音を立てつつ少し引くと内壁がきゅっと締まり侯輝のモノに絡みつく様に纏わり付く感覚にゾクリとした。
「んっ……!」
「すご……」
再び押し込むとその熱さと締め付けに再び持っていかれそうになるが侯輝は必死に耐える。ゆっくりと出し挿れを繰り返す内に段々とスムーズになってきたのか、だんだんと速度を上げていく。
「んっ……くっ、ん"っ……!?ん"……!?」
「はっ……はっ……すご……はっ……」
天理は今まで感じた事のない様なしびれが走り快楽に飲み込まれていく。歯を食い縛り声を漏らさない様にするのが精一杯で、いつも気持ち悪さしかない相手の吐息とは違って聞こえる侯輝の熱い吐息を聞き意識してしまうと後孔が収縮した。その度に侯輝の剛直をリアルに感じてしまい余計に感じ入ってしまう循環に陥る。何よりそれに不快どころか快楽に溺れそうになる自分に困惑していた。
(熱い……キツい……溶けそう……天理、苦しそうなのに、俺、気持ちいいよお……)
そして侯輝は天理が辛そうにしつつも全身から零れ出る色香と与えられる快楽に没頭していった。
二人はそれぞれ初めての意味合いは異なったが未知の感覚にその行為にただ溺れていった。そして快楽の頂点へと登り詰めていく。
荒い息を吐きながら侯輝はやはり歯を食い縛っている天理をどうにかして解してあげたいと、唇を寄せキスをした。天理は驚くも侯輝の舌を受け入れるように口を開けてると絡めて応えていた。
「ん!ん!ん!ん"んっ!うぅ!」
お互い夢中で貪り合いながら侯輝が腰を動かすと、食い縛る事のなくなった天理の嬌声が互いの口の中で響き合う。
「ん"!ん"!ん"!うっ!ん"んっ!」
「ん"ん!ん"!ん"!!ん"んっ!」
(凄い!!もっと!もっと!天理!)
侯輝が応える様に共に喘げば互いの脳に響き渡り、気づけば天理は侯輝をもっと引き寄せるかの様に腕も足も絡ませそして自らも腰を動かしていた。今までの儀式ではあり得ない己の行為だったが天理はもう考えられなくなっていた。
(凄い!凄いよお!!天理!天理!)
「ん"ん"んん!ん……………!!」
侯輝はその反応に嬉しくなってさらに激しく腰を打ち付けると、一際高く響かせ鳴いた天理は身体をガクガクと震わせ、天理のモノから勢い良く放たれた液体が二人の腹の間で飛び散った。
その瞬間、後孔が強烈に締まり侯輝のモノを搾り取ろうとする。その強い締め付けに堪えきれず侯輝は天理の中に精を放つ。
(熱い……焼ける……あ……光と、闇、が)
天理は目を瞑り体内に熱く焼けるような精を受け止めながら、いつものように魔力とそして純粋で力強い侯輝の光と闇の精霊力を感じ取っていた。光は鬱陶しい程に眩しく輝き、闇は儀式の為に相手している男を思いだし恐怖を覚えた。だがすぐに違う事を感じとる。優しく吸い込まれそうな魅力に侯輝を思い出せば心地好さすら感じていた。
そして、魔力が供給され理不尽な発情が少しずつ解かれていくと共に流れ込んでくる感情に天理は困惑する事になる。
いつもは曖昧な感情だった。支配欲、羨望、嫉妬、侮蔑、性欲、そういった類の物。しかし侯輝の感情は力強くはっきりとした想いだった。
(天理……好き……好き……大好き……愛しい……)
「えっ!」
侯輝の想いに混乱し目をパチッと開けるとそこにはまだ快楽の余韻を残しながら侯輝がじっとこちらを……熱く、優しく、労るような……そう、名状するなら愛おしそうに見つめていた。その瞳に天理は思わずどきりとする。
「大丈夫?どこか痛いところない?」
「い……たくはない」
「良かった」
ほっとした様子で優しく笑う侯輝に天理はまた胸の奥がじんわりと熱くなるような感覚を覚えた。それは今まで感じた事のない不思議な感覚で、同時に今まで感じた事のない感情が溢れてきて天理は知らず涙を零していた。
「ど、どうしたの?やっぱりどこか痛い?俺の魔力のせいかなっ?無理しないで……」
天理がセックスに辛いイメージしか無いと思っていた侯輝はやはり辛かったのか自分の闇の精霊力が悪影響をもたらしていないかと狼狽し心配になった。
そしてこんなはっきりとした恋愛感情を向けられたことは無いと思っていた天理は侯輝の心を知りこちらもまた狼狽えていた。天理には侯輝の想いを一方的に知ってしまった事を秘匿する事をよしとはできなかったがその答えを持ち合わせていなかったのだ。天理はごしごしと意図せず流れた涙を拭いながら混乱する頭で応えられる事を先に途切れ途切れ回答していく。
「お前、は、悪く、無いんだ。魔力、も、ちゃんと受け取った。不調、も、回復した。ありがと、な」
侯輝が「うん、うん」と頷く中、天理は最課題に入る。
「ええっと……すまん、先に伝えてなかった俺が悪かった……魔力供給儀式するとな、相手の気持ちが、伝わってくるんだ。それで、その、混乱してる」
ボソリと呟かれた言葉に侯輝は固まる。
その表情に天理が慌てて補足する様に続ける。
「本当にすまん!他の連中もっと曖昧なイメージだったから、あんなにはっきりとしたもんが来るの初めてで、わざわざこんな事やってくれるくらいだから悪からず思ってくれてるんだろうな位だとてっきり……返事、いるよな?今頭ごちゃごちゃしてるから、できればちょっと待って欲しくて……」
混乱している事を示すように一気に捲し立てる天理の言葉に侯輝は嬉しさを隠せず笑みを浮かべて返す。自分の闇どころか想いすらも受け止めて貰えただけでも侯輝にとっては堪らなく嬉しい事だった。
「待つ!待つよ!待ってていいんだよね?!あの!返事貰えるまで好きでいていい?!」
心配そうな顔から一転、少し頬を赤らめながら満面の笑みで身を乗り出してくる侯輝に、天理はたじろぎながらあの侯輝のイメージが幻想では無かったのだと再確認する。
「え、あ、ああ……その、おり良い返事が返せないかもしれないのに待たせて悪いんだが……なにぶん、その、この年で初めてで恋とか」
「いい!いいよ!全然!ゆっくり考えて!それに俺の事嫌いじゃないんでしょ?」
「むしろ……好ましい部類に入るんじゃないかと、思うんだが……」
「やった!嬉しい!ありがと!大好き天理!」
天理が未知の感情をまともに扱えず羞恥でもじもじと返すも、侯輝は歓喜の感情のままにがばっと抱きついた。天理がまた慌てふためきはすれどやはり否定されない事にまた嬉しくなって頬擦りをした。
「ちょ、おい!」
「えへへ。ごめんね、嬉しくて。順番が逆になっちゃったけど、改めて。俺、天理の事が大好きだよ。愛してる。どうか俺の事好きになって欲しいな」
侯輝は真っ直ぐに天理を見つめると優しく愛おしそうに微笑む。
天理はその真っ直ぐな想いを受け止めはすれど途方にくれていた。

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