結婚後小話 ラブ遺跡、夏の恋人、冬の恋人
陽光が強く地面を焼く頃になると、侯輝はまるで太陽のエネルギーを吸収したかのように元気いっぱいになる。一方俺は容赦ない熱気に包まれ虫の求愛の歌が鳴り響く中、体のだるさに抗えなくなるのだった。
だが先日近代遺跡で見つけた遺物を改造した空冷機のおかげでなんとか快適に過ごせる様になったのだ。発掘した遺物のマイベスト3に入るだろう。魔力で冷やされた空気がそよそよと俺を癒す。素晴らしいぞ空冷機。素晴らしいはずなんだが今は暑い。背中が。
「ふふふ、天理は暑いのダメだもんね。ぐったりしちゃっていつも可哀想だったから良かったよー」
「……その良かった感を噛み締めたいからちょっとどけ、暑い、重い」
侯輝である。伴侶という間柄になる前から年中スキンシップを好む侯輝は夏になると俺に邪険にされては叱られた犬の様にしょんぼりとし、見かねた俺が引っ付くのを許可し結局俺がぐったりするという流れが出来上がっていたのだが今年は違うのだ。
「やだ。夏になると天理引っ付かせて貰えないから、これからは空冷機かけて天理にいつでもぎゅうってできるよ!」
「……だが暑い。早くどけ」
嫌ではないんだが。恥ずかしさで暑くなるからどいて欲しいのだ。
「やだー。天理最近ずっと仕事で忙しくて、全然構ってくれないじゃん!寂しかったんだよ!?」
「……悪かった」
確かにここ最近は色々と予定が詰まっていた。侯輝の仕事のタイミングとの兼ね合いが悪く会えないでいたのだった。正直今こうしてぎゅうぎゅうされているのも嬉しかったりするのだが、いかんせん暑いものは暑い。
「だから、沢山ぎゅーってしようね♡」
「ああもう分かったから」
侯輝を背中に張り付かせながら俺は畳の上を這い空冷機ににじり寄った。うーん涼しい暑いのコラボレーション。
「ねぇ天理、やっぱり暑いからどこも行きたくないよねえ?」
正直な所、家の中でのんびりくっついていたくはあったのだが、俺を気遣ってくれているのか遠慮がちに聞いてくるので少しは聞いてやる事にした。
「まあなあ……どこか行きたいとこでもあるのか?」
「うん、俺さ、天理と海に行ってみたいなーって」
「海か…そういえばしばらく行ってなかったな」
故郷にいた頃、まだ小さかった侯輝や土護と近場の海に行った事はあったが大人になり上京してからは機会がなくすっかり足が遠退いていた。たまには悪くないかと思い、少しだけ乗り気になっていれば近場の海水浴場が最近海開きの儀式をしており、今年は大変綺麗に仕上がっている事を熱心にアピールされそこへ行く事に決めた。正直暑いが侯輝が楽しそうだからいいだろう。
「じゃあ決まりだね♪楽しみ♪水着買わなきゃだね♪」
「俺も泳ぐのか」
「もちろん泳ごうよ。オイル塗ったげるよ?あ、天理は日焼け止めのがいいかな?」
そう言いながら夏だというのに真っ白い俺の腕を何かを塗る様な手付きで触ってくるので気が早いとぺしっと叩き落とす。
「別に日焼けしても問題はないけどな」
「駄目だよ、天理は肌弱いからちゃんと紫外線対策しないとね」
まあお前みたいに綺麗に焼けないけどな。いつもなら、侯輝であれば光の精霊魔法で陽光弱めて紫外線対策だってできるんだぞと説教してしまう所だったが、それは太陽の神の魂を継ぐ侯輝を否定してしまう様で嫌だった。
「あと、浮き輪とかビーチボールも持って行こうよ、夜は花火しようね♪」
「はいはい」
楽しそうに予定を立てる侯輝に相槌を打っていると少しだけ夏もいいかなと思う。プランが一通り纏まると改めて抱き締めてきた。
「ねえ、もっとぎゅっとしていい?冷房効いてるから大丈夫だよね」
「……いいぞ」
「えへへ、やった。天理大好き♪」
ぎゅうと抱きつかれやっぱり暑いぞと返しつつ、なんのかんのでじゃれ合って、どちらからともなくキスをして。触れあって気づいたら組み敷かれていて、空冷機の前で汗をかく行為をして馬鹿だなぁと冷たいシャワーを浴びながら笑いあっていた。仕方ないのだ、俺だって久しぶりに侯輝とのんびり触れあえたのだから。
スッキリしつつも心地よい疲労感を覚えた俺は侯輝を枕にしながら空冷機の効いた部屋で昼寝を決めこもうとすると、涼しげな浴衣の希守が一緒に寝たそうにしていたので二人で迎え入れ川の字で寝た。なんと贅沢なのだろう。
次の休みの日、俺達は予定通り近場の海水浴場に向かった。お天気男侯輝のお陰様々で鬱陶しいほどいい天気だ。広い砂浜には俺達と同じく海水浴に来た人々がパラソルを立てて思いおもいに過ごしており、幾人かのライフセーバーを兼務する海の神の神官が軽装で巡視しているのが見えた。俺達も適当な所にレンタルしたパラソル席で一旦腰を落ち着かせた。
「天理日焼け止め塗ってあげるね。脱いで♪」
「ああ」
言われるままに薄手のパーカーとパンツを脱いで海パン一枚になった。俺の水着はなんでもいいだろと言ったのだが、やっぱりあれこれ着せ替え人形にされて侯輝が決めた物になった。水着の色は黒に近い紺色に白いラインが入ったサーフパンツタイプの短めの水着で着心地もデザインも良く、やはり侯輝のチョイスセンスはいいなと思ったものだ。シートの上にうつ伏せになると侯輝が手際よく俺に日焼け止めを丁寧に塗り始める。俺はされるがまま侯輝に身を任せた。
「ふふ、天理の体引き締まっててすべすべして気持ち良いなー。ずっと触ってられるよ♪」
「俺で遊んでんな」
俺はお前の体の方が逞しくて好きだけどな。もう散々隅々まで触ってるだろうに飽きないものなのか。
時々くすぐったくて身体がビクッっと震え、声を上げそうになるのを何でもないフリをして我慢していると耳元に近づいてきて囁かれた。
「やっぱり敏感だね」
くっそやっぱりバレてんのか。少し耳が熱い。恥ずかしいから無視してやり過ごす事にしたのだが耳元でクスクス笑われた。擽ったいからやめろっての。
なんとかやり過ごし次は侯輝にオイルを塗ってやる事になったのだが。
「お前……」
侯輝は着ていた薄手のパーカーを脱いで水着一枚になる。冒険で鍛えられた逞しい体に派手なオレンジとブラックのゼブラ模様の際どいビキニパンツ。体に自信満々の侯輝でなければできないセクシースタイルだ。周囲の女性と心なしか一部の男性の目も引いている気がする。まったく、そんな人目を引くスタイルしやがって。
「なーに?天理。見惚れちゃった?」
「うっさい。いいから寝転がれ」
「はーい♪」
侯輝がシートにうつ伏せになると、俺は手にしたオイルを侯輝の肩から背中にかけて塗っていく。やっぱりお前の肌の方が触っていて気持ちいい。この美しい身体が俺だけのものかと思うとちょっとだけ優越感に浸ってしまうと口角が緩みそうになるのをぐっと堪えた。侯輝の背中をマッサージするように揉み込んでいく。
「天理上手だね。あ、そこ、きもちぃ♪」
「おう…こら、変な声出すな」
きゃっきゃっとはしゃぐ侯輝に軽く咎める。因みに本気で感じている時はこんな声は出さないので軽く咎める程度だ。はしゃぎたい気持ちは分からなくはなかったから。
互いに塗り終わり荷物を預け、海に出て二人でビーチボールで遊んだり水をかけあったりして童心に返った様に遊ぶ。例によってなかなかの容姿の女性達に逆ナンされ俺が困惑、侯輝がキラキラ笑顔でお断りするという、侯輝とデートしていると良くあるパターンが発生したりしていた。毎度不甲斐ないばかりだ。侯輝がモテるのは誇らしいやら独り占めしておきたいやら複雑な心境になる。だが今日は特に多い様だ。やはり侯輝の爽やかイケメンにムキムキが合わさると効果倍増だな。
「やっぱりお前モテるなあ」
「やっぱり気づいてないし」
歓心し苦笑していたらなぜか呆れた様に溜め息をつくと俺の魅力を力説してくれた。いつも思うが凛々しいやかっこいいはともかく可愛いとは何なのか。お前みたいな格好いい方がいいと思うのだが。明るくてたまに馬鹿やるけど頼りになるし。可愛いというならお前の方だしそれでいてしムキムキだし。小首を傾げてむむと疑問符を浮かべていると侯輝がまた大きなため息をついた。
「とりあえず一人にならない様に気をつけてよね。ね、あっちの岩場行ってみよ」
なぜか釘を刺された。俺は子供か?不服そうな顔をしている俺に、侯輝はさっさと手を引いて人気の無い岩場へと歩き出した。
静かな波の音と潮の香り。岩陰には小さな蟹がいた。照りつける太陽と青い空をほんの少し遮るように岩場の陰ができているそこは、涼しい風が吹いていて気持ちいい場所だった。丁度いい岩を見つけて並んで腰かけた。
「ここ涼しいね。ここならいいんじゃない?」
「そうだな。お、魚泳いでんな」
色とりどりの小魚が群れを作ってすいーっと泳ぐ様は見ていて飽きないものだ。
「ほんとだ!綺麗だねー潜れたらいいのに」
「できるぞ?ウィンに頼めばいける」
「ほんと!行きたい!」
「よしきた。ウィン、シア」
俺は指をパチンパチンと二鳴らしすると契約精霊の[[rb:水精霊 > ウィン]]と[[rb:風精霊 > シア]]を呼び出した。呼び出されたウィンは元気よく俺の周りを飛沫を散らしながらくるくると回り、シアは澄んだそよ風を漂わせながらふわりと俺の指に止まった。
『デートの手伝いかー?』
「ぐ、まあそうだ、俺達二人で海に潜りたい。呼吸と泳ぎの補助をしてくれ」
『あいよー!』『わかった』
「ウィン、シアよろしくね♪」
『おー任せろ!』
侯輝の挨拶にもウィンは元気に応えシアもコクリと頷いた。侯輝が俺の精霊ともすっかり馴染んできたのは嬉しいが時折俺をスルーして簡単な願いなら聞いているのは制御している召還主としては微妙な気分である。
ウィンとシアは俺と侯輝の周りをまとわりつくように飛ぶとその力を貸し与えてくれた。これで水中の中でも呼吸が出来るし、水中での推進力も得られる為移動もスムーズになる。音も伝えてくれるから会話も可能だ。
「それじゃ行くぞ」
「うん!」
侯輝はワクワクとした様子で目を輝かせている。俺はそんな楽しそうな恋人を見て嬉しくなり、思わず笑みが浮かんだ。俺は侯輝の手を取り揃って海中へ潜った。
海の中はとても静かで、サンゴ礁や熱帯魚の群れなどが見え、美しい光景が広がっている。海面を見上げると太陽の光が差し込んでキラキラと輝き、光のカーテンの様なそれはとても神秘的で美しかった。
「凄いねー!」
「ああ…凄いな」
何より隣にニコニコと笑いかけてくれる人がいる事が嬉しい。いつもはセットされた金髪がふわふわと揺れその笑顔が少し幼く見えた。俺達は手を繋いでゆっくりと泳ぐ。時折小さな魚の群生が見えたり珊瑚の間を小さなエビなどが移動していたりして楽しいし面白いし飽きない。
目を閉じて耳を澄ます。
聞こえるのは侯輝の楽しそうな鼻歌とウィンが奏でる水のせせらぎのみ。とても心地よい空間だ。
「侯輝」
「ん?」
俺は侯輝の手を握り直すとそのまま引き寄せて抱きしめる。侯輝は一瞬驚いた顔をしたもののすぐに嬉しそうに抱き返してくれた。
重力にほとんど縛られないゆらゆらと揺らめく海中での抱擁は少し不思議な感覚で、お互いを抱き締める感覚だけが確かで他は曖昧に溶けていく。俺達は軽く触れるだけのキスをした。嬉しそうな侯輝を見ていると自然と笑みがこぼれた。
幸せだな。
「天理、あれ!」
「あれは…沈没船か?」
「行ってみようよ!遺物とかあるかもよ」
またしばらく泳いでいると目の良い侯輝が海の深い方に沈没船らしき物が沈んでいるのを見つけた。残り魔力やモンスターを心配したが、今年は癒しの力も司る海の神の加護もこの辺りならまだ届いているだろうし、古い物なら遺物があるかもしれない。一度下見として行って帰るくらいならできると思われた。少し深く潜っていくと光が届かなくなってきたので今度は侯輝が光の精霊魔法を使い明かりを照らし先に進む。辺りは暗く自分達の周りだけが光が灯されていて、慣れない環境に少し恐怖を感じた。ギュッと握る侯輝の手の温かさに心強さを感じ握り返すと侯輝がこちらを見て安心した様に微笑んだ。俺が支えて貰えて貰うばかりでなく、俺も侯輝を安心させてやれていると良いのだが。
たどり着いた海底の沈没船は数人乗り程度の木造中規模の船で、損傷は大きかったものの腐敗は進んでおらず近代の物である様だった。故に古い遺物は期待できそうに無かったがそれでも何かないかと割れた舟板の間から入り船内を調べてみる。樽やチェストなどがその中身と共に散乱した倉庫らしき一室で、小さな麻袋の中に魔蓄石が大小三つも入っているのを発見した。万年魔力不足の俺としては良い拾い物だと嬉々として回収した時、俺の太股辺りに何か強く吸い付く様ないくつもの感触が絡み付いた気がした。地味に痛い!そして近くの大きな樽辺りに引っ張られている!脚を見るも何も付いていないように見えるのにだ。
「なっ!?!」
「天理じっとしてて!樽から何か出て絡み付いてる!はぁっ!!」
侯輝が慌てて近場に転がっていた錆びた剣に光の精霊力を宿し俺と樽の間辺りを引き切る様に振り抜くと、俺に絡み付いていた触手が切断され見えるようになった。切断面から青い体液が辺りに漂う。推定蛸であったが透明化できるタイプの様だ。倒れた樽から出てきたソイツは俺達と同じくらいの大きさで、かなり力が強い。海の神の加護があるというのに好戦的な質なのだろうか。
ダメージを与えたからか本体も少し見えやすくなったが体液で視界が悪くなった隙を狙われ、もう1本の蛸足が俺の腰に絡み付き引き寄せられてしまう。
「うわあっ!!」
「天理どこ?!燦然と輝け!光の精霊!」
「!」
その声で咄嗟に目を瞑ると瞼の裏からでも分かる強い光が辺りを覆う。すると蛸の目を眩ませる事ができたらしく蛸が怯んだ隙に精神を集中するとウィンに命じた。
「ウィン![[rb:真水に変えろ > ピュリフィケーション]]!」
『あいよ!』
辺りに漂っていた青臭い体液が消え去り海水が浄化され透明度が増した。半透明だが蛸の輪郭がはっきり見えるようになる、だが蛸は俺を離そうとしない。そして他とは少し違う形をしたもう1本の足が地を這うように迫っていた。ウィンに命じて蛸を斬り刻んでやろうとしたが、気づけばいつになく興奮し瞳を金色に光らせた侯輝が光剣で突きの構えをし、ウィンに背中を押されながら突進してきていたので一旦取り止めた。
「俺の天理に何してんの!!このスケベ蛸おおお!!」
なぜ蛸がスケベなのか一旦置いておいて、侯輝の光剣が蛸の目を正確に貫き蛸が悲鳴を上げる。ついでに蛸の墨袋が破れたのか辺りに今度は黒い液体が漂い視界が悪くなった。蛸が俺毎踠く様に暴れ始めるがなんとか堪えてウィンに命じる。
「っ!ウィン、切り刻め!」
『まかせろ!ウィンジェットカッターぁ!うりゃー!』
また技に謎名付けたなって思ったのは一旦置いておいて、ウィンが高速で蛸の周りを旋回し俺を掴む足、胴体、残りの足をズタズタに切り裂いた。
「うわっと!ウィン![[rb:ピュリフィケーション > もう一回だ]]!」
『会心の!くーりあー!』
「天理っ!」
俺を掴んでいた足が切り離され墨だらけの中放り投げられた。握っていた魔蓄石を使い潰しながら、ウィンに再度辺りの水の浄化をさせると墨で覆われていた視界がまた鮮明になる。慌てて侯輝が俺を抱き留めてくれた。バラバラになった蛸の体がそこかしこに漂い蛸は沈黙した。ひとまずなんとかなった様だ。
「大丈夫?」
「大丈夫だ」
侯輝が心配そうに俺を見つめてくるので安心させるように微笑みかけるとホッと一息つき俺を放すと体を検分しはじめた。蛸足が俺の太股やら腰やらに巻き付いたままだ。
「これ引っぺがさないとな。っ!いててっ」
「わぁっ、待って。無理やり引っ張っちゃだめだよっ」
蛸足を力任せに引き剥がそうとすると強い吸盤の力で吸い付かれており痛みが走る。全部剥がすとなると、少しきついが我慢するしかないかと覚悟していれば侯輝に慌てて止められた。
「蛸の吸盤はね、指でぐるっと摘まむ様にしてゆっくり外すと痛くないんだよ。ほらこうやって……」
「んっ、おお、痛くない。流石だな」
侯輝は冒険者仲間や冒険先で色んな雑学を教わっているので物知りだ。頼りになるなと笑みを浮かべると侯輝は嬉しげに微笑み返してくれる。俺の体についた蛸足を優しく触れながらゆっくりと全て外してくれた。蛸の体は元の樽の中に収まって貰うことにする。
「あー跡残ってる。天理の綺麗な脚がぁ……あのスケベ蛸ぉ……」
「ちょっとヒリヒリするけど大丈夫だって」
確かに少し赤くなってるがそんな気にするほどでもないと思うんだが。俺の脚や腰を労る様にそっと撫でていた侯輝だったが不満げに口を尖らせた。
「天理の体に跡付けていいのは俺だけだもん……」
拗ねたように呟いた後ちゅっと音を立てて吸われたり舐められたりされてくすぐったくて身を捩ってしまう。すると余計に強く吸われてまた跡をつけられてしまった。
「んっ、こら、何蛸に対抗してんだ」
太股の内側とか際どいところまで吸われてしまい、抗議するように軽く頭をコツンとすると侯輝はえへへと笑い俺の耳に唇を寄せ囁いた。
「ね、海の中でえっちしたらどんな感じかな?気持ちいいと思う?」
「は!?お前何言って……」
俺が戸惑っている間に俺の腰を引き寄せると侯輝の手がするっと水着の中に入ってきて直接尻を撫でられる。
「ね?ちょっとだけ」
「っ、ま、魔力が持たないって」
常に無さすぎる環境への不安から何とか回避しようとしてみれば侯輝はにっこり笑ってもう一つ見つけたらしい魔積石を俺に握らせてきた。そうまでしてヤりたいか。……ちょっと興味はあるんだが。いや落ち着け俺。ここは海の中だぞ。屋外だ!青姦ってやつだ!恥ずかしい。何とか逃れようとして、他にモンスターがと言えばまた俺をスルーしてウィンに周囲を確認して貰ったらしく、海中での未知の身体被害がと言ってみれば、海中には微生物がいるけど、さっきウィンがこの船室一帯の水綺麗にしてくれたから大丈夫と言い、水中だと滑りが……と言えばさっきチェストから見つけた昆布のヌメヌメがローションの原材料だから代用できるんだよ♪と雑学王っぷりを発揮していた。
俺と、海中セックスする為に。呆れるやら歓心するやら嬉しいやら。
「それにほら、ここは俺達だけだよ?ね?」
侯輝は俺を説得する間も大人しく撫でているだけだった俺の尻を割れ目からゆっくりなぞる。体が微かに震えた。
くそ、好奇心が疼く。
「っ、ああ、も……分かったから」
光が僅かしか届かない海の中、愛する侯輝と二人だけの空間。その特異な環境に俺の箍も外れてしまったのか、俺は侯輝の首に腕を巻き付けキスをした。こうしてると俺も蛸みたいだよな。
「ん、ふぅ……んっ……」
舌を差し入れれば侯輝も嬉しそうにそれに応えてくれる。脚を絡ませながら俺達は夢中で口づけを交わした。その間も俺の尻をなぞっていた指が俺の後孔に辿り着き、これからを思わせる様にマッサージを始める。俺があれこれと逃れようとしている間にも薄い海パン越しに感じる互いの雄は実はもうとっくに臨戦態勢だったそれを、俺は侯輝の指の動きに合わせて腰を揺らし擦り付ける事でより明確に感じさせる。
そうやって互いに高め合ったところで口を離せば侯輝の嬉しそうでいて欲情しきった表情が目に入った。俺を欲しいのだと語るその目が愛おしくて堪らない。ああもっと俺に興奮してお前の金の瞳を見せて欲しい。
俺達は再び抱き合い、今度は俺の方から侯輝の耳元へ囁いた。
「早くお前をくれ、侯輝……」
「うん!俺も欲しい!」
侯輝は目を細めて微笑むと、俺の海パンをずり下ろした。侯輝のビキニ海パンも降ろせば、もう立ち上がった雄が勢いよく飛び出してくる。どこかに流れてしまわないように海パンを腕に通しながら、その元気な雄の様子に思わず笑みを浮かべてしまった。
「ふふ、いつでも元気だなお前……」
「だってぇ……天理が可愛いんだもん」
そう言いながら首、鎖骨、胸の突起へとチクりとした痛みを伴いながら吸い付かれていった。その痛みは毒など持っていないのに痺れる様な感覚を呼び起こすもので、俺は小さく声を上げながらもその快楽に身を任せたくなる。水中で漂いながら受ける愛撫は縋るものが侯輝しかなくて、愛撫を受ける度に震えや力みが侯輝に伝わるのが恥ずかしくて堪らない。
「んっ……っ!そこばっか吸うな……」
吸われる度にビクビク反応してしまう身体を抑えようとすればするほど余計に強く吸われてしまい俺は慣れぬ水中で身を捩って逃れようとするのだが、蛸のように力強く俺に絡み付いた侯輝の腕が外れる訳もなく、逆に更に強く吸われてしまった。
「あっ……あぁ……っ」
「ふふっ美味しいよ、天理。こっちも上書きしなくちゃね」
侯輝は俺の下腹部に唇を移動させると、蛸に貼り付かれ赤くなってしまった箇所をチロチロと上書きするかの様に舐め回し始めた。くすぐったくもその度にゾクゾクとした震えが走って堪らない。太股の内側秘所の際を音を立てて吸い付かれれば俺の身体がびくっと跳ねそれすら楽しむように執拗に舌を這わせていく。
「やっ……もっ……しつこい……っ!」
「でも俺の印で上書きしないとだし……」
そう言って更に吸い付こうとする侯輝の頭を押さえ制止させた。下肢への愛撫は縋るものが無く、自分を抱きしめる様に堪えるしか無くて気持ちは良くても、少し、寂しくなってしまう。
「これからだって沢山付けてくれるんだろ……?」
言ってて恥ずかしくなったが、侯輝はその俺の顔を見ると嬉しそうに笑って俺の手を握り締めてきた。
「うん、そうだね。ずっと一緒だもんね!」
「お、おう……」
こうも真っ直ぐ言われると照れてしまう。そんな俺を見て侯輝はクスリと笑うと俺の頬に軽くキスをした。
「それじゃ、後ろしようね」
そう言えばローションは昆布からとか言ってたがどうするんだ?と首を傾げていれば、侯輝は「ちょっと待ってね」と言うと近場に漂っていた昆布を口に含み、俺を俯せ方向に反転させると、両手で俺の尻を掴みその谷間に顔を突っ込んできたので体を半分ひねって慌てて制止した。
「え!?ちょ、侯輝、何して……!」
「口で入れてあげるよ?お尻に」
当然の様な顔で言う侯輝に俺は唖然とした。つまりローション代わりの昆布のヌメヌメを口から俺の尻に入れると?!マジか?
「な!!汚いって!」
「大丈夫大丈夫ピュリフィケーション効いてるから天理のお尻も綺麗綺麗。そうじゃなくても綺麗綺麗。ダメ?」
馬鹿なのか?ほんと馬鹿なのか?……そんなお前が好きだけどな。その行為に羞恥で顔が真っ赤になる。ぐぅぅと葛藤する事しばし。やはり俺は侯輝に敵わないのだった。
「ぅ……や、やってくれ……」
「天理ありがと!頑張ろうね!」
「うう……」
実のところさっきから愛撫され過ぎててお前と早く繋がりたくて仕方ないんだ。俺が傷付かない様にやってくれると言うならむしろ感謝すべきだろう。趣味とかじゃない事を願いつつ。
そうこう考えている内に侯輝は俺の腰に腕を回すと尻に顔を近づけて舌で丹念に解し始めた。尻に舌を入れられる事などはじめてで羞恥で全身が熱くなる。
「ぃぅっ……っ、……んっ」
「大分解れたかな?じゃヌメヌメ入れるね」
侯輝は口に含んだ昆布から抽出したヌメヌメを俺の後孔に注入してきた。もっとでかいものをいつも尻に入れているがこれはこれで異物感や恥ずかしさが半端なく堪らない。水中でなければ泣いていたのがバレていただろう。
「ぅわっ、……ぅぅっ」
「これくらいでいいかな?大丈夫?あ……ごめんね天理泣かないで……」
侯輝は俺を再び反転させ俺の顔を見ると慌てて抱きしめながら慰めてくれてくれた。なんでバレたんだろう。顔に出さないつもりでいたのに情けない。お前にそんな顔をさせたい訳じゃないのに。
「大丈夫だ、入れてくれ……」
「ホントに?無理してない?」
「すまん、侯輝。ちょっと慣れなかっただけだ。早く、お前のをくれ……」
繋がりたいのは本当だ。侯輝の首に腕を絡ませ、愛し合いたいのだという気持ちを込めて見つめる。
「……うん!俺も早く繋がりたいや」
侯輝は俺が侯輝にしっかりと捕まるのを確認すると昆布の滑りが施された俺の後孔へとヌプヌプとその熱い猛りを埋め込んでいった。
「あ……あぁ……あ」
「あぁ、凄……天理の中あっつい……」
ゆっくりと押し入ってくる感覚に俺は喘ぎ、侯輝はうっとりとした声で呟いている。お前の猛りの方が余程熱いと言いたかったが俺は入りたての圧迫感や刺激に堪え巻き付けた腕に力を込め喘ぐので精一杯だった。侯輝のカタチに慣れる間、まだ心配されているのか顔中にキスされながら優しく抱きしめられると身も心も満たされていく気がした。
「侯輝……」
馴染んだ頃を見計らって名を呼べば心得ているとばかりに優しい口付けをされる。その心地よさに陶酔しているとズルリと中のものが引き抜かれる感覚があり咄嗟に離れまいと目の前の体にしがみついた。しかしそれは一瞬の事ですぐにまた奥へと突き入れられてしまう。そしてそのまま律動が開始された。
あられもなく声を上げそうになり、まず誰も来ないであろう海の中だとしても屋外だと思いだし声を我慢しようとしていれば、それに気づいたらしい侯輝が宥めるように頬にキスを落としてくる。
「声、聞きたいな、誰もいないし、ね?」
そう耳元で欲を孕んだ声で囁かれれば自然と体から力が抜けていき、抑えていた声が口から漏れ出すようになった。
「……ぁ、ぁっ、ぁぁっ、あっ……ぅんっ!」
「は、ぁ……っ……」
最初は恥じらいを覚えたが俺は侯輝の望むままに声を上げる。すると侯輝が嬉しそうに興奮し、侯輝の雄が中でさらに質量を増し、吐息混じりの声を漏らした。侯輝が俺で悦んでくれているのが嬉しい。侯輝は水中故に突き入れた反動で逃げてしまわない様、俺の腰をがっちりと掴み激しく腰を打ち付けてきた。俺はそれに合わせ腰を揺らし快楽を追い求めるように自ら動いていく。
やがて強い快楽に腕が震え、もうダメだと逃げ出したくなるくらいだったが、俺はそれ以上に侯輝との愛に溺れたいと思いその項に必死にしがみついていた。
「ぅあっ!……ああっ!……ゃあっ!」
「はぁっ、……っく、……あ"ぁっ」
世界にたった二人しかいなくなった様な錯覚さえ覚える薄暗い海の中、こうして交わっていると、もう世界に二人しかいなくても、こうしてお前と繋がれるならそれで良いような気すらしてくる。小さな光の精霊が灯す中に映される侯輝の金の瞳は情欲と愛に満ちていて、俺だけを映し見つめている。それが堪らなく幸せだ。
しかし次第に限界が近いのか腰の打ちつけ方が早くより力強くなってきた。俺も知らず巻き付けていた脚を更にきつく絞め腰を侯輝の腰に合わせて打ち付ける。
「ああっ!侯輝っ、侯輝っ!侯っ……!!」
「天理!天理!天理っ……!くぁっ……!」
侯輝の熱を最奥で受け止めながら、俺も侯輝と共に果て、荒い息を吐きながらそのまま二人で抱き合って海中を漂う。それからどちらからでもなく顔を近づけ口付けを交わした。
ああ、このまま時間が止まれば良い。
愛してるよ。侯輝。
暫くして侯輝が俺の中から出ていき、俺の身体を抱き寄せてきた。侯輝はやはりニコニコと嬉しそうに俺を抱きしめてくる。先程までの熱が覚めてくると俺は恥ずかしくなり照れ隠しに態度が素っ気なくなってしまうのを直したいのだがなかなかいかんともし難かった。いつもなら俺が吐き出した白濁は侯輝が拭ってくれているのだが、ふと見るとその辺にクラゲの様に漂っていたので恥ずかしくて慌ててあっちに行けとばかりにシッシと手で追い払おうとしたが無情にもその辺にプカプカ浮いていた。それを悔しがっていると侯輝にクスクスと笑わられてしまい顔が赤くなるのを抑えられなかった。
「えへへ、ちょっと大変だったけど気持ち良かったし、今日も天理が愛してるーっていっぱい言ってくれて嬉しいな」
「言ってはないだろ」
言葉では。……多分。幸せそうな顔でそんな事を言うものだからやはり照れ臭くてそっけない返事になってしまう。
「えー?言ってたよー?」
そんな俺に構わずニヤニヤしながら言ってくるのだから悔しくて、その緩んだ頬をむにと引っ張ってやると[[rb:痛 > ひた]]ぁいなんて言いながら笑っていて本当に幸せそうなものだから俺も釣られて笑ってしまうんだ。
「も、地上に上がるぞ。魔力も持たないし。ほら俺の海パン返せっ」
照れ隠す様に魔力切れを言い訳にして海面を目指す事にする。結局めぼしいお宝は魔力が僅かに残る小さな魔蓄石一つになってしまったがこの体験は忘れられない思い出の一つになるだろう。始めての屋外プレイが海の中になるとは思わなかったが。侯輝と一緒だと飽きることが無いな。
ウィンに浮力を調整して貰いながら海中から浮上し元居た岩場に上陸すると、やや傾いていた太陽だったがまだ光が眩しかった。
「うわっ、あっついね!ちょっと忘れてたや」
「そうだな……ウィン、今日はお疲れさんシアもフォローありがとな」
「ウィン、シアありがとー!」
『おー、またなー!』
飛沫とそよ風を残しニ精霊が消えると、腹も空いてきたし仲良ししてちょっと疲れたし海の家にでも行こうとすると侯輝に引き留められた。
「ごめーん、天理、そのままじゃ帰れないかも♡えへへ」
なにがだ?と首を傾げていると俺の首筋や胸元やらを指差す。
「痕♡」
「!」
てへ♡と笑う侯輝。俺は自分の身体を確認した。胸元、脚、蛸の跡なんぞ目じゃない程に付けられた紅い侯輝の印。俺は羞恥のあまり顔を真っ赤に染め上げわなわな震えながら叫ぶしかなく。
「ば!…か!これじゃ恥ずかしくて帰れるか!」
「だよねーごめんねパーカー取ってくるから待っててー」
「まったく…!こんな付けやがって」
「付けて欲しそうだったしつい♡」
「ばーかー!!」
侯輝は笑いながらダッシュで荷物を取りに行くと程なくして俺のパーカーとパンツを持って戻ってきたので素早くそれを着込んだ。良く見ると侯輝にも俺が跡をつけてしまっていたので気にしないと侯輝は言い張ったがパーカーを着させた。
「首筋の痕まだ見えるね」
「マジか。お前なあ……。ふぅ……」
どんだけ付けたんだ。仕方なくフードも被ると日が当たらないがこのままでは風か通らない分暑い。魔力が潤沢だったらシアに纏わりついて貰って涼しくして貰うのだが。何かこういう遺物発掘できないかな。小型の冷風機搭載衣服みたいな。
「早く海の家で涼も?お腹も空いたし」
「ん……そうだな」
先程の行為もあり少し気だるくしていると目敏く気を効かせて差し出してくれた手を嬉しく思いながら取り、俺達は海の家へと向かった。
飯時を過ぎた海の家は混雑のピークは過ぎていた様だがまだちらほら人が居た。空いた席に座り店員に注文する。頼んだ焼きそばがやってきた。
「いただきまーす!天理、あーんして♪」
「できるか!」
家ならともかく。言いながら後から来たフランクフルトをあーんと待ち構えてた口に突っ込んでやった。これでいいにしろ。
「わーひ♪」
いいらしい。嬉しそうにもぐもぐ食べる様は微笑ましいものだ。と思っていたら俺にも「あーん♪」と差し出して来るので一口齧って返す。もっと深い関係であるのに今さら間接キスなど気にもしないがこそばゆい。近くにいた女性グループがキャー♡と小さく歓声を上げているのが見えたが見なかった事にする。恥ずかしい。平然としておくのがベストだろう。
「しかしあの蛸には参ったな」
「そうだね、油断してた。スケベ蛸じゃなかったら持って帰って食べたのに」
そういえばそうだったと思いつつ気になっていた事を聞いた。
「なんでスケベ蛸なんだよ。俺食われかけてただろ」
「違うよ?天理生殖されそうになってたよ?」
は?蛸に?なんで蛸の気持ち分かんだお前、動物的勘か?と驚きの視線を向けていれば俺はまた侯輝の雑学王っぷりを知らされる事になるのだった。曰く、吸盤の形からあの蛸が雄である事、そして俺に迫っていた足の内一本は生殖用の足で俺はなぜだか雌と勘違いされその足で種付け寸前だったのだそうだ。嘘だろ?
「勘だけど寝ぼけてたんじゃない?あの蛸。まあ俺は許さないけどね」
戦闘では派手に戦っている様に見えて意外とクレバーな側面を持つお前が随分と激昂していたのはそのせいだったか。思い出したのか少し憤慨している様子に思わず笑ってしまったが本人はいたって真剣だったらしくちょっと拗ねられたので真面目に謝罪する事にした。
「……手間かけた、すまん」
「ううん、俺がついてたのに怖い思いさせてごめんね」
シュンとした侯輝にでもお前のお陰で無事だったろ?とまだ少し湿った髪を撫でてやる。すると嬉しそうにふにゃりと笑うので笑い返しているとまた背後で小さくキャー♡と聞こえたが気合いで平静を保った。デートするには少し落ち着かないな。
俺達は遅い昼食を終えると夕方まで近くの露天を冷やかしたり波打ち際で遊んだりして過ごした。綺麗な貝殻を見つけて希守への手土産にする。
暗くなってきて人も少なくなってきた。もういいだろうとフードを外せば通りすがりの風の精が気まぐれに首元を心地よく涼めてくれた。
俺達は再び海辺を歩く。波の音を聞きながら。潮風を感じながら。何を話す訳でもないけれど、手を繋ぎただ一緒に歩いているだけで心地好いと感じる。しばらくすると遠くで親子連れが花火やっているのが見えた。騒ぐ子供が侯輝の様だと思わず吹き出すと侯輝が頬を膨らませるものだから余計におかしくて笑ってしまった。機嫌を取るように花火で遊ぼうぜと言うと満面の笑みに変わるのだから可愛いものだ。
浜辺の近場で露天売りしていた花火を買い再び浜辺へと移動する。
「よーっし!まずは派手なのやりたい!」
「おう。火、つけるぞ」
「おねがいー」
付属のマッチが湿気ていたので魔蓄石の最後の魔力を使い[[rb:火の精霊 > ブラム]]を呼び出す。『遊びで私を呼び出すな』と文句を貰いつつも火を付けて貰う。
ブラムが花火に点火する。シュバーっと派手な音を起てながら色とりどりの花が咲く。花火とはよく言ったものだ。
「きれーーっ!」
「だな。」
侯輝は目を輝かせて花開く様を見つめていた。次々に点けては子供の様に騒ぎを繰り返し、やがて線香花火を残すのみとなる。
侯輝の持つ最後の一本に俺は静かに着火した。すると、最初はパチパチッと弾けていたが次第にパチッ…パチッ…と小さくなり、最後にはポトッと落ちた。
静けさが訪れ、思い出した様に波の音が小さく聞こえてきた。
「終わっちゃった」
「なんか、寂しいな」
「ね。でも、俺は楽しかったな」
「俺もだ」
月明かりがほのかに照らす中、二人で顔を合わせて笑い合う。
花火を片付け、遠巻きに巡視していた海の神の神官に挨拶をすると、侯輝が差し出した手を素直に握って帰路についた。小さな街路灯だけが点々と灯る海岸沿いの少し小高い道を通ると広い海を一望出来るスポットにかかる。月明かりに照らされて海面がキラキラと波打つ様子はとても幻想的だった。空を見上げれば満天の星空が広がっている。
「星が降ってくるみたいだ……」
ほんの一時星に見とれていると侯輝に背後からぎゅっと抱きしめられた。
「天理は本当に星を見るのが好きだよね」
苦笑され項にかかる吐息がくすぐったい。その声にはほんのりと拗ねたような甘えたような、それでいて……不安が少し混じっていた。後ろ手で侯輝の頭を探り当てると優しく撫でる。そうすると首筋に鼻を擦り付けてきたのでくすぐったくて思わず身を捩ったけれど、行かないでとばかりに離してくれなかった。俺はまだお前を安心させてやれていないのかな。
「それでも…お前が一番好きだぞ、侯輝」
そう言って抱きしめられた腕をそっと撫でると腕の力が緩んだ。その隙をついて体を反転させ正面から抱きしめる。どこにも行かないぞと伝えるように。すると背中に腕が回されてきつく抱き締められた。
「……うん、知ってるよ……」
そう呟いた声は消え入りそうで、今にも泣き出しそうだった。大きな背を慈しむ様に撫で言葉を探す。普段雨霰の様に愛の言葉を投げ掛けてくれるお前の様に返せない自分がもどかしい。
「愛してる、侯輝。」
俺にはそれしか言えないから。せめてこの気持ちが伝わるよう願いを込めて真っ直ぐに見つめると泣きそうな笑顔があった。それはとても綺麗で愛しさが込み上げてくる。吸い込まれる様に口付けると嬉しそうな吐息と共に舌が絡まった。
「また来ようね」
「ああ、そうだな。夏も、たまにはいい。」
「えへへ。良かった♪」
繋いだ手を振りニコニコと侯輝が笑う。これだけ沢山侯輝の笑顔を見られるなら、これからの夏はきっと悪くない。