空想と太陽の物語2

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翌々朝、二人は一旦侯輝の家に寄りつつ、侯輝が運転する天理の車に乗りS.Gへ出社しようとしていた。助手席に座り天理は携帯機に来ていたメッセージを確認する。
天理:「お、土護から返事来てた。えーと?はは、長々書いてあるけど要はおめでとう、だとさ。侯輝君にもよろしくってよ」
天理はエレリウスとの契約を知る幼馴染みに無事契約解除できた事を伝えその返事を苦笑しながら読んでいた。
侯輝:「えへへ、良かったね!今度また飲みに行こうよ」
苦笑しながらも嬉しそうな様子に侯輝もニコニコと上機嫌になった。
天理:「ああ。あいつにも心配かけてるし改めて礼言わないとな。あとは……エレリウスとの契約が無くなった事を上にも報告しないとならないんだよな。俺の査定変わるだろうなぁ……」
これまで天理はエレリウスとの契約の為に一定期間毎の体調不良・要強制性交渉等のデメリットを抱えてはいたが、同時に大精霊使いである魔術学院の精霊科長との契約者である事で魔族すら一撃で屠る力の行使が可能であった。普段使いはできないが、緊急事態用の戦力としてはカウントされていたのである。それが不可能となった事を報告しなければならない。いくらデメリットがあったとはいえ巨大な力を自ら手放したとなれば、天理の評価は下がるだろう。
侯輝:「そっか……、俺とのバディ解消にはならないよね?」
天理:「それは無いと思うぞ、エレリウスとの契約能力無しでも俺は新人とのバディ要件は満たしている筈だ。これまでだって俺だけの能力でお前との任務は達成できているし。例の魔族の件は本当にイレギュラーだ」
天理の言葉に侯輝はほっ、と息をついた。
侯輝:「よかった……。天理が他の奴と一緒に任務行くなんて嫌だよ」
その言葉に嬉しく思いながらも天理は複雑だった。想いの通じた侯輝とずっと傍に居たい。だが契約のデメリットも無くなったとはいえ戦闘能力の限界を感じている天理と異なり、侯輝はまだまだ伸びしろのある若者だ。自分と一緒に組んでいるよりより、多く経験を積み、強くなれる相手と組み、出世していく方が侯輝の為だと分かっているからだ。
天理:「ありがとな。……なあ、侯輝、もし……将来他の誰かと組みたくなったら言ってくれよ?お前出世したがってたろ?俺、ちゃんと納得するし応援するからさ」
そう言う天理に侯輝は顔をしかめた。
侯輝:「えっヤダ!俺天理以外と組みたくないよ!」
赤信号で停止した侯輝は真っすぐに悲しそうな顔を天理に向ける。天理はその視線を受けて胸が痛んだ。
天理:「ごめんな、そんな顔をさせたかったんじゃないんだ。お前がそう言ってくれるならこれからも一緒に組ませてくれ。あ、信号変わったぞ」
天理は侯輝の髪を謝罪を込めて撫でると安心させる様に微笑んだ。
侯輝:「うん、わかった……。俺、絶対天理の傍から離れないし、離れられないように頑張る……」
天理:「ああ、俺も頑張るからな」
侯輝は車を進め、駐車場に向かう。運転しながらほんの数ヶ月前まで自分が亡き姉に誇れる様に立派に出世したがっていた事をすっかり忘れていた事を思い出していた。
天理は侯輝の気持ちが本音では嬉しくて堪らなかった。せめて共に在れる様に努力しようと思いつつも、もし将来侯輝がバディ解消を望む日が来たら自分は大人しく身を引き、侯輝を応援しようと心に決めた。
そしてもう一つ、侯輝と天理もまたほんの数ヶ月前までの事を忘れていた事があったのだった。

天理は出社すると一人、S.Gの隊長の中の一人で本日の社勤めである公金の部屋へ向かう。公金の隊長室へ入ると公金にエレリウスとの契約解消による己の能力状況を説明した。
公金:「事情は分かりました天理君。上層部及び隊長各位には私から伝えておきます。あれ程の力を失うのは惜しいですが、契約の解除は本人の意思を尊重するべきでしょう。これまで大変でしたね」
公金はその優美な顔立ちに相応しい優雅な態度で天理を労った。
天理:「ありがとうございます」
天理は丁寧に頭を下げた。目の前の天才戦術家と言われたこの優美な男が本音ではどれくらい落胆しているのか、そしてその態度からは窺い知れなかったからだ。しかし公金はその天理の心さえ見透かした様に微笑んだ。
公金:「幸い、通常業務はこれまで通り……いえ、体調不良が発生しないのであらばより安定した活動ができそうですね。新人バディの侯輝君との成果も……上々でしたし、今後もこの調子で……」
天理が自分への評価はともかく、侯輝とのバディは継続できそうだと一安心しようとしようとしていた瞬間、部屋の外から少し賑やかな音が聞こえてくるなと思えば隊長室のドアがノックもせず無遠慮に開け放たれた。
葉金:「お疲れさん!公金おるか?!わい明日から復帰できる様になったで!お、天理も居ったんか?!久しぶりやな!なんや元気そうやん!」
初子の育休が明けたらしくブランク明けとは思えない程変わらず嵐の様にやってきた先輩である葉金に、天理は苦笑しながら挨拶をする。
天理:「おはようございます、葉金さん」
小柄な体型を倍増させるかの様にドカドカと入室し公金の机の前に立ち大声で喋る葉金を落ち着かせるように、公金は掌で椅子を示し勧めた。
公金:「はい、おかえり葉金。いい加減事前にメッセージを送るとかノックを覚えて欲しいんだけどね」
呆れながら言う公金に葉金はすまん、すまん、と軽く謝りつつ天理の隣にどかっと座る。
葉金:「で、俺復帰できんねんけど仕事あるかー?侯輝どないしてる?」
天理:「ぁ」
公金:「ふぅむ。どうしたものかな」
侯輝のバディは本来新人教育係の葉金であり、葉金が急遽育休の為、自分が侯輝の臨時バディになった事を、天理はすっかり忘れていたのだった。葉金が復帰するのであればお役御免という事になる。
天理が静かに消沈していると公金は形の良い顎に手をあて思案したのち告げた。
公金:「そうだね。葉金には本来予定していた侯輝君とのバディ編成に戻って貰おうか。」
天理がやはりと肩を落とすと、葉金がその様子をチラリと見ながら言った。
葉金:「なんや、ええんか?天理と侯輝うまくいってたんならバディ継続でええんちゃう?」
公金:「天理君が悪いって訳じゃないんだけど、侯輝君は期待の新人だからね、侯輝君には能力に合って新人育成に長けた葉金と組ませてより成長して貰いたいというのは部会でも一致した意見なんだよ」
葉金:「ほぉ~ん?まぁ、俺は別にかまへんけど……」
天理は内心の落胆を隠そうとしながらも、思わず俯いてしまう。葉金はそんな天理を見、本当にいいのか?と公金に視線を送るが公金は企みありげに微笑んだままで、葉金は呆れた視線を公金に送った後、天理に向き直ると少し優しくトーンを落とし尋ねる。
葉金:「天理は?それでええんか?」
天理:(できればずっと一緒に居たい。だが、やはり俺といるよりは……)
天理:「俺、は…上がそういう方針なのでしたら……侯輝には期待できると思いますし、その指導は葉金さんの方が適任かと思います。」
天理は侯輝の将来を思い、心を押し殺して回答した。
だがその言葉はどこか上の空で覇気が感じられない。その様子に葉金は心配そうな表情を浮かべるが公金は考えが読み取れぬ笑みを口元に浮かべたままだった。
公金:「君がそう言ってくれて良かった。では明日からでも葉金は侯輝君とバディを組んでくれるかい」
葉金:「……了解や。侯輝には俺から話しとくわ」
葉金はまだ納得しきれていない風ではあったが了承する。
天理:「俺は……内勤に戻るんでしょうか?」
公金:「いえ、天理君には私のバディになって欲しいと思っています」
天理:「え?俺が……ですか?」
ニコニコと告げる公金に天理は勿論葉金も驚嘆の視線を送る。
公金:「ええ、以前から私の副官を兼ねたバディを必要としていたのですが中々良い人材がいなくて。天理君が以前の体調不良も無くなり、手が空いているのであれば丁度良いかと思いまして」
天理:「え、俺にはとても……公金さんの部隊に適材がいるのでは?」
公金:「天理君、君はこれまでの事もあり出世の事も諦めて自身を過小評価している様ですが私は君の事をずっと評価していました。今回の編成変更は侯輝君の事だけでなく君の育成も兼ねています。私の副官として経験を積み、よりS.G全体の活動に貢献できる人材になって欲しいのです」
真剣な眼差しで告げる公金をじっと見つめた後、目を伏せてしばし考え込んだ後、天理は口を引き結びつつもコクリと頷く。そしてふっと息をつくと顔を上げ公金を見据えて言った。
天理:「分かりました。公金さんのお役に立てるよう尽します」
決意の表情を浮かべて返答する天理に公金は笑顔でうなずく。
公金:「承諾してくれてありがとうございます。では明日からよろしくお願いしますね」


やはり騒がしく旧知の隊員に挨拶しつつ隊員室にやってきた葉金は、天理の報告帰りを天理のデスクで待つ侯輝に再会の挨拶も早々、事の顛末を簡潔に伝えた。
葉金:「と、いう訳やから明日からお前のバディは俺な!よろしゅう頼むで!異議はあるか?!」
侯輝:「大ありだよ!!!俺、天理以外とバディ組みたくないよ!」
葉金がフレンドリーな人柄とは言え、仮にも教育係の先輩にタメ口で言い返す侯輝に周りは呆気にとられる中、葉金の方は動じずむしろ嬉しげだ。
葉金:「おお!やっぱそうこんとな!しかしお前、この数ヶ月で変わったなー?おもろいわー」
ギャハハハと笑いながらガシっと背中をバッシバッシ叩く先輩の葉金を嫌そうに見ながら、侯輝は内心の不安を隠して抗議を続ける。
侯輝:「何も変わってないよ!真面目に聞いてよ!!」
葉金:「気づいてんかー?天理に"さん"付け無くなくなっとるし、お前もっと本音隠して話とる感じやったでー?なるほどなぁ天理効果か、お前ら仲良うやってたんやなぁ」
実は隠れタラシである天理を知る葉金は納得した様に良かった良かったと頷き、満足そうに笑う葉金を睨む侯輝。
「……天理は何て」
「あぁ、あいつも了承済みや。今後は公金の副官兼バディになる予定やで」
「なんで!?」
(ずっとバディ組もうって言ったじゃん天理!)
侯輝は思うより早く公金の隊長室へと駆け出していた。
「せやけどー……ちょっ、待てぇ!最後まで聞けぇ!」


時は遡り、葉金が隊員室に戻った頃。
隊長室に残った天理は、公金に副長用に存在してはいたが天理から見れば半ば物置と化していたデスクを与えられ消沈していた気分を一瞬忘れ呆然とする。
「この書類の束は……」
「勿論決済書類は無いですよ、報告やインシデントの読み終わった書類なのですがデータ入力が億く……追い付かず溜め込んでいたのです。空いている棚にひとまず移動させて……」
「昨年新規システム導入しましたよね?」
ゆらぁと静かに怒りのオーラを立ち上げながら詰め寄ろうとしてくる天理に、公金は天理が内勤にいた頃、例え相手が上司だろうが何だろうが容赦なく書類不備を指摘し陰で"氷の貴公子""次期軍務尚書"等と呼ばれ、隊員から総務部長の懐刀として畏れられていた事を思い出しひっそりと冷や汗を流す。
「スミマセンでした……」
素直に謝罪する公金に天理は仕方ないなという表情をすると早速机上の整理を始めた。
「多忙でしょうから俺がやります。これからは……」
責めつつも気遣わしげに言う天理に公金は思わず笑みを浮かべそうになるが、天理が当人は隠しているつもりかもしれないが明らかにまだ消沈している様子に留まった。
「えぇ、今後は私の補佐をしながら隊長職の仕事を覚えて下さい」
「はい……」
(バディ解消は侯輝の為なんだ。なんだが……俺は侯輝の想いを裏切っていないだろうか。あいつの意志も確認していないのに……)
「……天理君、大丈夫ですか?」
天理が手を凄い速度で動かしつつもやはり心ここにあらずといった雰囲気なのを見て、公金が声をかけると、天理はハッとしたように公金を見た。
「すみません。集中します…………あ、あの……」
言い淀む天理の様子に公金は穏やかに言葉を待つ。
「侯輝、とのバディ解消の件なんですが、やはり侯輝の了承を……」
天理が侯輝とのバディ解消の保留願いをしようとした瞬間、部屋の外からとても賑やかな足音が聞こえてくると思えば隊長室のドアがノックもせず勢いよく開け放たれた。侯輝は許可も無しに机の前まで近づくとバンっと手を叩く様に置く。
「公金さん!どういうことですか?!俺天理とのバディ解消は嫌です!」
「侯輝……!」
入るなり公金に不満を叩きつける侯輝に、天理は想定できていたはずの侯輝の反応を目の当たりにして、自分が侯輝を裏切ったような気持ちになる。
後ろから付いてきたらしい葉金が何が楽しいのか声も立てずに腹を抱えて笑っていたが公金がちらりと見た以外はスルーされた。
「おはようございます、できれば君もノックを覚えてくださいね?バディの件は君の育成方針として当初から決められていた事です。より侯輝君の成長を促す為に必要な事なのです」
公金は辛そうにする天理を横目に見つつ、侯輝の無礼な態度をものともせず、いつも通り落ち着いた涼しげな様子で微笑んでいた。
「俺は天理の元でも十分に成長できます!」
「そうでしょうか?君は精霊適正を持たず武術だけで入隊資格を得た素晴らしい才能の持ち主です。天理君が決して武術を怠けている訳ではありませんが精霊術を得意とする天理君は武術方面を活かす才は葉金に劣ります。その才能を伸ばすには天理君の元では不十分ではないですか?」
「それは……」
仕事である以上恋人だからでは通らない事は分かっていた。侯輝は自分に精霊適正がある事を公開し、魔法戦士の指導役として天理こそ適任であると訴えるべきか悩む。だがそれは即ち自分に闇の適正がある事を天理以外に公開するという事で、それを恐れ反論する言葉を失う。天理はそんな侯輝の心中を察し口を挟むべきか悩んだ。そんな二人の様子を見つつ、追い討ちとばかりに公金は畳み掛ける。
「それに天理君には私の副官兼バディとして活躍して欲しい、天理君のキャリアアップを計りたいという私の願いもあるのです」
「ぃゃ……だ……」
(嫌だ!天理が俺から離れるだけでなく、俺以外の誰かの横にいるなんて!俺の出世なんてどうでもいい!……けど天理にだって選ぶ権利がある……)
小さな声でしか反論できず俯き葛藤する侯輝に天理が覚悟を決め侯輝に近づくと手を取った。
「侯輝、俺はお前の気持ちを尊重したい……いや、正直に言う。俺もお前と一緒に居たい」
「天、理……」
侯輝は天理の言葉に驚き、思わず顔を上げるとそこには優しい微笑みを浮かべた天理がいた。
「ただ、このままだと理由もなくバディでいるのは難しい……侯輝、俺達がバディでいられる条件はもう分かってるな?」
「……うん」
握る侯輝の手が震える、天理はその手を力強く握り、与えられるものなら侯輝に勇気を与えたいと願う。
「後はお前が決断できるかだ。もしお前がそれで不当に扱われるなら、俺も一緒にここを辞めたっていいから」
「っ…………う"ん」
「……」
侯輝は天理の優しく決意を秘めた表情と言葉に涙ぐむが、意を決し頷くと、真っ直ぐに公金を見つめる。公金は天理の言葉に一瞬眉を動かしたが二人は気付かなかった。
「天理が俺の教育係として適任である理由があります。俺……精霊適正があります。天理のバディとして、魔法戦士として成長したいです」
「君に精霊適正?それは初耳ですね。公表すれば有利なはずのものをなぜ今まで公開しなかったのでしょうか?」
公金は驚いた風ではあったがさほど動じずに淡々と問い返す。侯輝は一つ息を吸って吐き天理の手をギュッと握ると真っ直ぐに返した。
「俺の適正は光と……闇です。入隊が不利になるかと思い隠していました」
その言葉に公金は少しだけ目を見開き驚きを示す。そして納得したかの様に頷いた。
「成る程……確かに、君の精霊適正は公表すればマイナス評価を受けるでしょうね。闇の精霊は不安定で未知数、隊の中に置いておくのは不安がある。さて、それはそれで困りましたね。今までは大丈夫だったかもしれませんが万が一という事があります」
「……」
侯輝が俯き裁定を待っていると天理が公金に口を開く。
「俺の精霊術と能力自体は信用して頂いていると思っていいですか?」
「えぇ、勿論です。君が今までにどれだけの成果を上げてきたのか私は知っていますよ」
天理の問いに公金は穏やかに微笑し答える。
「ありがとうございます。では、俺が侯輝を保証します。侯輝の闇の精霊で万が一があっても俺が止めます。実績も既にありますし、そもそも侯輝の心は強く容易に暴走などしません。それは普段の侯輝を見ていればご理解頂けると思います」
そして天理は上着のボタンを外しつつ侯輝に声をかける。
「侯輝、お前も見せろ」
「あ!うん!」
胸を晒し侯輝との契約陣を見せる。侯輝もその意図に気づきそれに倣い続くと揃いの契約陣を見せた。これにはさすがの公金も驚きを露にする。
「これは……!契約まで交わしていたとは……まさか、こんな形で証明されるとは思いませんでした」
「報告していませんでしたが契約を利用した実績も上げています。俺が侯輝のバディとして最も適任であると考えます。如何でしょうか。バディの件、再検討お願いします」
「お願いします!!天理とバディでいたいです!!」
二人揃って頭を下げる。
「ふむ……わかりました。これは上も納得するしかありませんね。バディ変更の件は白紙としましょう。私個人としては残念ですが……」
公金は渋々といった様子で答え、二人はホッと息をつく。
「評価していただいていたのに申し訳ありません」
「いいえ、それに認めないなら辞めてやるとまで事前に脅され……いえ、宣言されては認めざるを得ないといいますか……」
「あれは……そういうつもりでは……」
公金の言いように天理は焦り、侯輝は自分の為にそこまで言ってくれた事に今更ながらニコニコと嬉しげな笑みを浮かべた。すると突如、突入してきた侯輝にくっついて入ってきた後、空気のように入り口近くに佇んでいた葉金が一件落着を確認したのか発言してきた。
「何を後輩に嫌味言うとんねん!公金、お前はなっからコイツらのバディ解散させるつもり無かったやろ?!この腹黒!」
「ぇぇー?何それーぶーぶー」
(この人ならやりかねないんだよなぁ……目的……今回得られたもの……まさか?)
侯輝が流石に小さな声でだったが文句を言い、天理が呆れたような表情をしながら公金の思惑を思考していると、公金は苦笑いした。
「まあまあ、落ち着いて下さい。確かに最初はこれを機会に天理君に侯輝君が隠している精霊適正能力を問い詰めた後さっさとバディ解消を白紙に戻すつもりだったのですが、想定以上に落ち込んでしまった天理君に、とてもじゃないけど聞ける雰囲気じゃなくてですね……」
「天理……俺の事そこまで♡」
「っ……やっぱり。以前俺の魔力回復できた件の報告、誤魔化せてなかったか……?」
明後日の方角を見ながら照れ隠しにブツブツと推測が合っていた事を分析する天理を侯輝は頬を染めて見つめる。そんな二人を公金が「ふふふ」と眺めていたがすぐにその優美な顔を少し歪める事になる。
「ごちゃごちゃ言い訳すんなや公金!後輩苛めんな!」
「痛っ!苛めてないよ、って、僕上官なんだよ?分かってる?」
容赦無くその美麗な額に突っ込みを入れる葉金に公金が不満げに答える。「知るか!」と追加突っ込みする葉金に、天理と侯輝は(頼もしい先輩だなぁ)と微笑ましく思った。
「と、ともかく、侯輝君の精霊適正は一度S.G正規の鑑定士が正式に鑑定後、光のみが確認された事を公表し、闇の適正の事は部長クラス以上の特秘事項となるでしょうね。一度部長会に呼ばれると思います。難色は示されるでしようが、侯輝君の扱いは現状をもって保留、天理君とのバディは継続となるでしょう。私個人としては天理君、侯輝君を信頼し、闇の適正を否定するつもりはありません。そこはどうか誤解なきよう」
公金はそう言って二人に頭を下げる。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「はい!ありがとうございます!」
「俺も流れで知ってもうたけどな。俺も口外はせんし、何も変わらんで!」
ほっと安心する二人に一件落着やなとうんうんと嬉しそうに頷く葉金に公金も笑顔になる。
「そこは大丈夫葉金、明日から私の副官だから。知ってても問題ないんだよね。兼、久々のバディ、よろしく頼むね」
「f~~~!!」
公金が笑顔でそう辞令を言い渡すと葉金は声にならない驚愕の声を上げる。
「私が副官探してたのも本当だよ?君、父親になったんだし、いい加減昇級して落ち着きなよ。指導するからさ」
「なんやてーーーー!!!!!」
公金の隊長室に今日イチの声が響き渡っていた。
「それでは俺達は失礼します。あ、公金さん、餞別と言っては何ですがこの書類の束は俺が処理しておきますので以後きちんとシステムに登録してください」
「あ、ああうん、スミマセンでした」
「失礼しましたー!葉金さん昇級がんばってね!」
「お、おう!任せてけ!」
葉金はそう言ってヤケクソ気味に親指を立てる。
「じゃ、侯輝行こうか」
「うん!」
天理と侯輝はもう用は済んだとばかりに挨拶を済ますと二人仲良く部屋を出て行った。

公金は二人が出て行った扉を見つめ、階級は違えど昔馴染みの葉金と二人きりになった事で姿勢を崩すと、改めて葉金と情報共有を計る。天理と侯輝のバディとしての好調な実績、天理がエレリウスとの魔術契約から解放された事などを聞くと葉金は安堵の笑みを浮かべた。
「あの二人、すっかり良い感じだなぁ。はぁ、僕も早く結婚したいなぁ。」
「何言うとんねん。腹黒い事しとるからフラれとるんやろが。お前、あわよくば本気で天理部下にするつもりやったろ?」
葉金は公金が天理と侯輝へ下したバディ解消命令は偽りだと見抜きつつも、天理を副官にしたいという思い自体は本物だと見抜いていた。
「だってさ、天理君、絶対将来有望だよ?侯輝君もそうだけどさ、僕の予想では今の時点でもう既に副隊長レベルだと思うんだよねぇ」
「まあなあ、天理フリーなったら最低でも総務部長は取り返しに来るやろし先にツバ付けときたいのは分かるけどな」
葉金は侯輝の臨時バディとして人手不足のため天理を宛がおうとした時、総務部長が可愛い娘が嫁に行ってしまうレベルで泣く泣く天理を送り出していた事を思い出し苦笑いする。臨時で無くなった事を聞いたら総務部長は軽く卒倒するかもしれない。
「それにしても、まさか侯輝君が闇の適正を持ってるとはね。驚いたけど納得もいったかな」
公金はそう言って苦笑する。
「なんや、知ってたんか」
「うん、ちょっとね。彼、僕が本気めで打った精霊術が効かなかった事があってね。精霊の加護の厚い天理君ならまだしも滅多に無い事だったから」
「ホンマか!なるほどなぁ……ってお前侯輝に何してん?」
葉金は侯輝がS.G屈指の精神操作術を行使する公金の術を抵抗した事に、闇の適正者には術が入りにくい事に思い当たると納得した。そして驚くと同時に呆れた顔をする。
「天理君が例の奥の手を使った後だったから侯輝君にはちょっと引いて貰おうとしたんだけど。侯輝君精霊適正無しと聞いていたし、その時まだ天理君とはそういう仲では無かったからね」
「ああ、学院のおっさんとの契約のやつか。ん?という事は天理の魔力供給は」
「そう、天理君の報告では魔力は自然回復させたと聞いてるけどちょっと不自然な所があってね。実は精霊適正があった侯輝君が供給してたと考えた方が妥当なんだよね……」
「あー、あいつらそれきっかけかー」
「行為をしたからって訳ではないんじゃないかな。天理君、行為好きじゃなさそうだったし。闇適正ありで恋仲なんて僕には中々想像できないよ。思うにもっと前から想い合う所はあったんじゃないかな」
公金が少し寂しそうに苦笑すると、公金の心中を察する葉金は少し困った様な複雑そうな表情で公金を見やった。
「ま、とにかく!正直闇の適正者は手に負えないかと思ってたけど天理君のお陰で何とかなりそうだし、助かったよ。侯輝君が優秀なのも間違いないから手放せないしね」
「そら良かったな」
「……それだけに欲しかったなぁ……闇の適正者さえ手懐けられる天理君」
机に突っ伏して残念そうにする公金を葉金は呆れて見下ろした。
「天理が特殊なんは間違いないやろけど、アイツらは特別なんやろ?契約までして。もうラブラブやん。びっくりしたわ、あの天理が」
「だよねぇ。あの時からずっと辛そうだったから、今の様子を見ていると良かったとは思うんだけどね」
「せやな……」
二人がまだ新人を抜け出しバディ出来立ての頃、遺跡裏で魔物から精霊術だけで逃げ惑うまだ一般人の天理を保護してから約八年。生きる希望を無くしかけていた天理が苦労してS.Gに入隊し、少しずつ目に輝きを取り戻しつつも、憂いがつきまとっていたが漸く晴れて恋人と幸せそうに笑い合っている。
「あの時助けて良かったな」
「そうだね……」
「ほれ、いつまでグダってんね。まだ天理に未練あるんか?お前の初恋の大和撫子に似てるもんなぁ」
「感のいい同期は嫌いだよ……それに僕は馬に蹴られる程野暮じゃないよ」
かつての思い人を天理に重ね公金はため息をつく。見かねた同期に葉金は頭にぽんと手を置く。
「はよ次の相手見つけや?公金隊長?」
「わかっているさ……よし、仕事しよう!葉金、早速だけど君を昇級させる為に厳しくいくからね!そこ座って!」
「なんでや!俺復帰明日からや!今日は顔見せに来ただけやねんけど!?」
ガバッと起き上がった公金はやる気満々で先ほど天理が片付けてくれたばかりの机の上にまた書類を広げる。葉金は天才と呼ばれたこの男にも、少しは思いを溢し、息抜きできる相手が必要なのだろうと思うもそれはそれ、これはこれであった。
「あっ、逃げる気かい?!」
「ほな、また明日からよろしゅうなー」
公金の叫び声を背にして葉金は颯爽と部屋を出ていった。


天理と侯輝はなんとかバディ解消の危機?を乗り越え安堵しつつ隊員室へ戻った。昼近くになった隊員室には皆外回りに出て人気がほとんど無くなっていた。調整してくれていた隊員に礼をいいつつ、代替として与えられた内務作業の書類を手に取ると、二人で作業をこなす。天理の机上には公金の副長机の上にあった書類まで乗っていたが、既に天理の手により仕分けが終わり侯輝には訳の分からないスピードで処理されていた。侯輝の見立てでは半日もかからないだろうと踏んでいる。自分が処理した場合、おそらく残業しても終わるまい。
「ふぅ……完全に公金さんに一杯食わされたな……」
「だよね。なんか悔しいなー流石敏腕隊長って感じだけど……むぅ」
侯輝が拗ねたように口を尖らせる。その様子に天理は作業の手を緩めすまなそうな顔をした。
「辛い想いさせてごめんな。俺が最初から断固拒否するなりしてれば、お前の精霊適正公開させる事も無かったろうに……」
「ううん、いつかバレて言わなきゃならなかった事だと思うしさ。それだって天理が居てくれたから出来たし。それより俺は天理が俺の為に一杯想ってくれてた事の方がずっと嬉しかったな♡」
「ぅ……そうか……良かった」
侯輝は公金が天理に送る視線に自分と同じものを感じ危機感を覚え拗ねようとしていたのだが、当の天理が公金からの愁波に全く気づく気配が無い上に自分の事ばかりを気にかけてくれている事であっという間に機嫌が良くなると、天理を愛でる事に全力を注ぐ事にした。
結果、にこにこ愛おしそうに笑う侯輝の言葉に、微かに頬を染め視線を無意味に書類とモニターを往復させる可愛い天理を眺める事が叶ったのだ。
「お前らホンマ仲良うなったな!どこまで進んでるん?ちゅーはしたのか?!」
と、隊長室から逃げてきた体の葉金がニヤリと笑いながら二人の間に割って入る。
「っ!げほげほっ!」
「ちょっとぉ、葉金さん邪魔しないでよ!折角イチャイチャしてたのに!天理二人っきりでないとなかなかデレてくれないんだからね!ちなみにちゅーどころか最後までしたよ!」
突如現れ冷やかし始めた葉金に、イチャイチャしていた自覚など全く無い天理は真っ赤になってむせ、侯輝は邪魔された事を抗議する。
「言わなくていいっ!」
「えー?俺自慢したーい」
「仲良うしろとは言うたけど、そこまで仲良うなるとは思わんかったわー。で、普段どないなん?どんなプレイしてん?」
「葉金さんその指止めてください」
「ふふーん♪聞きたい?聞きたい?」
「ばっ、やめろっ」
得意げに話そうとする侯輝に慌てて天理が制止をかけるが侯輝は満面の笑みで話し出す。
「まずね、お風呂で洗いっこして、ベッドでぎゅうって抱き合ってちゅーするよ。天理凄く嬉しそうな顔するのが好き!この間は自分から上に乗って動いてくれてね、すんごいエロいのに恥ずかしそうにしてて凄い可愛いかった!あとね……」
「っ……侯ぉ輝ぃ……、無駄口叩いて残業しても俺定時で一人で帰るからなっ」
顔を赤くしながらも止めるのは無駄だと悟った天理は諦めてモニターに向き直ると仕事に集中する事にした。しかし、内心の羞恥を表すようにキーボードを打つ指先が震えている事に本人は気がついていない。
「えぇー!やだー!一緒に帰るー」
「ええやん少し位、それ明日やってもええやつやないの?相変わらず堅いやっちゃなー」
そんな天理と慌てて仕事の手を動かす侯輝を葉金はニヤニヤしながら眺めていたが天理は呆れた様に目線だけで軽く睨むと先ほど公金の部屋から持ってきた書類の束を手にする。
「これ公金さんとこの副長机にあった未処理書類なんですが見かねて俺が処理してるんですよね……今俺サボって明日でいいなら、明日から公金さんの副長になる葉金さんに処理お願いしてよろしいんですよね?」
にっこり笑って書類の束を差し出す天理に葉金は慌てる。葉金の脳内に天理内勤時代の二つ名"影の軍務尚書"という言葉が浮かびまだ健在であった事を認識する。
「や、仕事は大事やな!サボたらあかんな!」
「ですよね、これは俺が責任持って処理しておきますので」
汗々とし始めた葉金に天理は笑顔のまま書類を引っ込めるとモニターに向き直った。
「た、頼むな?ほな、俺そろそろ帰るわ!明日からまたよろしゅぅな!」
「お疲れさまーっ!」
「はい、お疲れさまです、あ、忘れてました」
天理はそそくさと帰ろうとした葉金に苦笑しながら、思い出した様に声を上げると葉金は「?」と留まった。
「お帰りなさい。葉金さん」
「ふははっ、おう!ほな、お先ー」
穏やかに微笑する天理に葉金は一瞬面食らった顔をしたが、すぐに嬉しそうにニカッと笑うと手を振って帰って行った。

「いいなぁ、さっきの」
侯輝は「お帰りなさい会やろうね!」と葉金に軽く手を振り天理と共に葉金を見送ったのち、仕事を進めつつも何やら羨ましそうに呟く。
「ん?何がだ?」
「お帰りなさい♡ってやつ。俺も言われてみたーい」
「おい、それさっき俺が言ったやつとニュアンスが違うだろ。久々に帰ってきた先輩を労う感じじゃないだろそれ」
きゃっきゃっと騒ぐ侯輝をジト目で見やる天理に、しかし侯輝はめげずに食い下がる。
「だってぇ……俺も言われたいよぉ……お帰りなさい♡侯輝、お風呂にする?ご飯にする?それともオ・レ♡?ってぇ……」
「お前、どんどんニュアンス違いどころか遠ざかってるぞ…………仕方ないな…………ほら」
「え?」
天理はきょろきょろと辺りを見回し誰も居ない事を確認した後自席を立つと、座る侯輝の横に立つ。そしてその頭を抱え込むように抱きしめ優しく頭を撫でた。
「おかえり、侯輝。今日も頑張ったな?」
「あ……うん……ただいま。天理……」
てっきりまた真面目にやれと怒られると思っていた侯輝は、予想外すぎる展開に驚きながらも嬉しさに頬を染め、天理の細腰に腕を回して甘える様に抱きついた。天理は侯輝にされるがままになっている。
「えへへ、ありがと天理。そうだ!引っ越しして同棲するようになったら毎日これやって貰えるかなぁ?!エプロンしてお出迎えとか」
天理:「出迎え無理だぞ?お前と俺バディで出勤日一緒なんだから。片方だけ出張とかそう無いだろうし」
侯輝:「うっ、そうだったぁ残念……でも、えへへ引っ越したら一日中一緒だぁ……」
天理:「ぅ……そ、そうだな」
嬉しそうに天理の胸に頭をぐりぐりと埋める侯輝の言葉に今更ながらその事実に恥ずかしくなりたじろぎ顔を赤くしながら天理は答える。その内慣れるだろうか、いや絶対に慣れないなと思いつつ、しかしそれでもこの温もりを手放したくないなと天理は思った。

数日後、侯輝は正規の精霊適正鑑定士による正式な結果を受け、公金の想定通り、光属性のみと公表される事となった。侯輝は部長会に呼ばれS.G上層部に説明を求められたが、真摯に堂々と闇の適正についての説明を行い、公金のさりげないフォローもあり、天理との正規のバディとして認められた。

そして数週間後、天理と侯輝は無事に引っ越しを済ませると晴れて二人暮らしを始める事になった。
書斎という名のほぼ天理の遺物コレクション置き場、広い居間やキッチンは侯輝の多彩な趣向が反映され、そして寝室は同じにし就寝を共にする。
共に暮らす様になると互いの知らなかった点が浮き彫りになり、良い点悪い点を知るがそれは互いをより理解し補完し合う事になり愛情を深める事となった。
侯輝の趣味はキャンプ・スポーツ等のアウトドア、音楽・筋トレ・ゲーム・料理等インドアと多岐に渡る。天理は侯輝に新しい遊びに連れられる度に目を丸くし、やがて侯輝はなんのかんので楽しそうに笑う天理を見るのが趣味と化していた。
天理は考古学を志していただけあって遺跡の学術研究や侯輝を伴ってデート兼遺跡探索に出かけた。時折書斎で趣味に没頭し過ぎ、構って欲しい侯輝にイタズラされては、なし崩し的に愛を育む。なし崩しされてしまう程に天理は己の優先順位が侯輝になっている事に心中で驚いた。

こうして端から見れば甘ったるく幸せそのものの日々を過ごしたのだった。

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