闇はまだ暗がりの中(初夜設定変更。唐突な影をどうするか、ラストを足すか)
侯輝×天理。王様×文官。共に28歳。
!注意! メリーバットエンド です。これからって所でばっさり終演に向かっています。
世界観:適当中華風?魔法有り。いろいろ無知なので突っ込みご容赦。
1P:出会い R18
2P:お友達になろう
3P:友達以上恋人未満 R18
4P:終演焉 R18
気が向いたら終演までの間を引き延ばしてきもちハッピー度がましになりますが、ラストは変わりません。
シリーズの登場人物がいますが設定が異なっております。
普の王国の都で考古学者になりたかった俺はなんとか奨学金を勝ち取り大学に入学した…までは良かったが政況の変化により考古学科は廃止、奨学金のために仕方なく違う学科を卒業すると返済の為少しでも安定した職に就きたくて公務員になった。蛮族の国…豫の進行も噂されていたというのにろくに仕事もせず呑気な貴族上官の元、せっせと職務をこなしていた俺は使い勝手は良かったらしく主席秘書官として日々こき使われ、いつしか夢や希望は忘れてしまっていた。
が、ある日、豫の侵略によって普はあっさり滅んだ。遊び呆けていた普の国王は首をはねられ豫の王の青年が新しい王となった。そしてその日の内に上官が呼び出され内務状況を詰問されていたが上官がろくに把握していなかった為俺に呼び出しがかかり、今、上官と共に豫の王の前にいた。今日から無職かと思っていたらまだ働かなければならないらしい。
豫の王の青年、夏侯輝は蛮族と呼ばれていた国の者とは程遠い容姿の持ち主で服装こそ蛮族…というか戦士として実践向きのほどほどに装飾された皮鎧や剣を下げていたが、快活そうな顔立ちと金髪を清潔感あるツーブロックにセットしており、そのせいもあってか蛮族の王というよりは好青年に見えた。そんな彼が呼び出され到着した俺に口を開く。
「お前がこの元大臣の秘書官だな?俺は新しくこの国の王となった夏侯輝だ。この男は自分の国の事だというのにろくに把握しておらず話にならない。包み隠さず質問に答えろ」
夏侯輝は楽しげに俺を眺めた。
「清水、決して無礼の無いようにな」
上官が怯えながら横で俺に釘を刺す。あんたが把握してればこんな事にはならなかったんだよ!と内心毒づきながらも表面上は恭しく頭を下げる。
「はい。私めが主席秘書官を務めております清水と申します。どうぞお聞きくださいませ」
「ではまず、この国の兵站に不備がある事は知っているか?」
「はい。存じております。補給物資が滞り、前線で孤立、撤退を余儀なくされている部隊もあると聞いております。また、食料が不足しているため、現地調達に頼った結果、現地で略奪行為が横行し、治安の悪化を招いているとも聞き及んでおります」
ツラツラと元自国の恥を並べると横で上官が不機嫌オーラを出していたがスルーした。俺の言葉に満足そうにうなずくと、豫の王は話を続けた。
「そうだ、我が国はその不備に乗じこの国を侵略した。知っているか?占領した村々に食料を配給したら解放者として英雄扱いされた事を」
想像に容易い話だ。事なかれ主義の俺でさえ兵站の不備を指摘したが一切状況は変わることなく、今この有り様だ。そりゃそうだろと心の中で毒づいていると上官は慌てた様に答える。
「そっそれは新国王の輝きに感服したのでありましょう」
明らかにゴマすりだとわかる口調だったが、夏侯輝は一瞥しただけで鼻で笑った。
「ふんっ。まあ良い。次は貴様らの管理体制について聞かせてもらおうか。この国は今まで何をしていたんだ?まさかとは思うが怠慢ではないだろうな?」
「いえ、滅相もございません。ただ、我が軍は精強ですので、蛮族どもに遅れを取るはずもなく……」
今、蛮族呼びはまずいだろ。
「貴様はまだ寝ぼけているのか?おい、清水だったか?お前の所見を述べよ」
上官をチラリと見ながら、そういやもうこいつも上司じゃなくなるなと思うともう忌憚なく答える事にした。
「はい、残念ながら勤勉とは言い難かった状況ではありました…」
俺は包み隠さず貴族の怠慢と杜撰な管理体制について述べた。
「ふむ。それで、この有様か。」
夏侯輝は呆れたような表情を浮かべると、俺に資材、役務、施設、人員諸々について質問し諸々置き土産だとばかりに全部話してやった。この新王がまともに政をやるなら、俺も少しくらいは報われるだろう。一通り聞き終わると夏侯輝は満足した様に頷く。
「さて、俺は侵略者だが有能な人材であれば歓迎しよう」
そこですかさず上官が割って入る。
「夏侯輝様、どうかこの男だけは御容赦下さい。この者は文官として使えぬばかりか、私に恥をかかせ、挙句の果てには私の婚約者まで奪おうとしたのです!本来なら平民上がりのこの男は極刑にかけられているはずの所を私が許し側に置いていただけなのです!」
は?なんて?あまりの事実無根ぶりに流石に呆れていると夏侯輝は面白そうに俺を見ながら剣を抜いた。
「それは良くないな、なら変わりに俺がその刑を執行しよう」
おいおいおい待ってくれあんたそんなあっさり信じるのか。くそ…いざとなったら奥の手はあるが実践経験も豊富そうなこの新王相手にデスクワーク主体の俺がどの程度やれるだろうかと精霊を呼ぶ為に精神を集中する。だが剣が舞う軌道は俺に向かわずまっすぐ上官の首をはねた。
「え……?」
俺は一瞬なにが起きたかわからず、上官の頭が地面に転がっていくのを見ていた。
「さて、この国を統べるには残っている膿を全て出さなければならない。お前も協力してくれるな?清水」
正直糞程にしか思っていなかった上司だったがここまでしなくてもと眉を潜めていた俺に夏侯輝は笑いかけると、俺の肩に手を置いた。
「は、い。」としか言いようがない。どうやら再就職先が決まったようだった。
「さっそく仕事だ清水、今晩、俺の部屋に来い。」
今晩?俺の部屋?まさか。
「はい……あの無礼をお許しください夏侯王、それはその、夜のお相手という事でよろしいのでしょうか」
最悪俺も首が飛ぶなと覚悟しつつも確認する。この国にもそういった嗜好の者もおり、一部上司の相手をさせられているものもいたが幸い俺の上司はそれはなく俺のバックバージンは守られていた。
「ん?ああそうだが。お前は同性相手に経験はないのか?」
あっけらかんと答えられ、俺にとはなんて物好きな、ああ、さらば俺の純血…などと思いながら答える。
「はい…生憎と…知識はありますので準備だけして参上致します」
「そうか!では待っているぞ」
一瞬見た目通りの好青年風な笑顔が出た気がしたがすぐに蛮族の王らしい不敵な笑みに変わると俺に背を向けた。
「はい、それでは失礼いたします」
俺は深々と頭を下げるとその場を後にした。
「はぁ……」
部屋に戻るとため息が出る。俺の人生これからどうなるんだろうな。ひとまず飯には困らなさそうだが、夜なぁ…。まだ若いし見た目も良いし鍛えられた肉体は相手は例え男だろうが困らなさそうなのに何で俺。新しい部下みんな抱いてるとかないよな?そう思いながら宿舎に戻ると僅かにあった同性同士の手順を本でおさらいし、うーわうーわ言いながら風呂で準備すると宿舎を出て王城に向かう。帰りがけに新王の従者に言われた裏門に着くと、従者に手引きされ王の寝室に通された。薄明かるいその部屋には新王…夏侯輝が待ち構えていたようにわざわざ迎えてくれた。昼のいでたちとは異なり全身清潔感溢れる衣服に着替えており、本当にただの好青年風な風貌になっていた。
「良くきたね清水。ま、座ってよ」
口調が昼間とはだいぶ異なり、広々としたまさにキングサイズのベッドの端に座ると横をバンバンと叩く。子供か。あれ?これ同一人物か?だが気を引き締めて近づき、命に従いやや離れて座った。
「失礼致します」
「もうちょっとリラックスしてよ、ねぇ清水、下の名前は?」
「天理…です」
すっかり見た目も言葉も若返ってしまった夏侯輝に戸惑いながらもそう答える。リラックスと言われても。昼間のあれをみてどうリラックスしろと。あとこの後俺抱かれるらしいし。
「天理ね♪じゃあ、俺の事、輝って呼んでもいいし、何かニックネームつけてくれてもいいよ。敬語も無しでいいし」
なんだろうこのお友達になりたそうな導入は。さっさと抱かないのか?
「では…輝…様で…敬語は流石に無しという訳には…」
「ちぇー天理堅いなあ。じゃあ天理、彼女とかはいたことあるの?」
「一応おりました。フラれてしまいましたが」
「へぇモテそうなのに勿体ない。セックスは?」
本当に明け透けに質問してくる。
「経験しました」
「そっかぁ童貞ではないんだね。で、男性は無しと」「はい」
先程から俺の身体をスルスルと撫でながら、何やら考え込んでいる。
「ふぅん。じゃあ、俺が初めての男になるんだ」
またあの嬉しそうな笑顔を顔に浮かべると俺の唇を奪った。
「ん!?」
「最初は慣れないだろうけど優しくしてあげるからね?」
ああ、何もかも冗談か夢であって欲しかったがやはり現実なのか。優しいというならできればやめて欲しいものだが、これも仕事の内か。しかし無防備な事だ、余程実力があるのか知らないが、今日あったばかりの男と仮にも王がサシで会うとは…やろうと思えば奥の手(精霊魔法)で多少は傷つける事ぐらいできそうなのだが。さすがに護衛が近くにいて何かあればすっ飛んでくるのだろう。大人しくしておくのが無難か。
「わかりました。不束者ですがよろしくお願いします」
俺は諦めて上着を脱ぐと、寝台に腰掛けて夏侯輝を待つ。
「うん、もうちょいくだけて欲しかったけどよろしくね」
そりゃ無理だろと思っていると、夏侯輝はバッと自身のシャツを脱ぎ捨てた。小麦色に焼け鍛えられた身体が露になる。少し見え隠れしていたのである程度想像していたがとても見事な筋肉だ。色白で普通というよりやや貧弱な俺のとはえらい違いだ。夏侯輝は俺の服を丁寧に脱がせていく。シャツのボタンを一つずつ外している姿は楽しそうだ。
「あ、の、自分でできますので」
「あはは、照れてるの?可愛い」
仕事、仕事と思いつつもその無邪気な態度にどうにも調子が狂いそうだ。だが侮るなかれ、何かあれば上官の様になるのだから。
「いえ、ですので、」
「わあ、思ってたよりは綺麗な肌してるね。黒髪も昼間より少し整えてきてくれたのかな、嬉しいな。でも少し痩せてるかな?ちょっと心配。天理28だよね」
そりゃどうも、てか何でもうそんなこと知ってんだ…まさかもう素性調査してるのか。となると家族縁者も割れてるかもしれない。これは益々迂闊な事はできないな。
「はい、そうです。ありがとうございます。あまり裕福ではありませんし、ここのところ政務が忙しく…」
「そっかぁ、あいつろくに仕事してなさそうだったもんね。天理が頑張ってたんだ。部下をつける様に指示しておくね。困ったことがあったらどんどん言ってね」
「はい、お心遣い感謝いたします」
あ、やっぱりこの男が昼間の王なんだなと改めて思う。口約束かもしれないが礼を言っても損はしないだろう。
「あ、ごめんねお仕事の話は無し。ちなみに俺も28歳、同い年だね」
「左様ですか」
若いと思っていたがその歳で国王か。開いたシャツの間から手を差し入れ脇腹に触れられるとビクッと体が跳ねてしまう。
「くすぐったい?大丈夫、すぐに気持ちよくするからね」
そう言うと俺の胸を触り始める。やはりくすぐったい。身を捩るのをなんとか堪えていると楽しそうにあちこち触れて反応を試しているようだ。一通り試すと首筋に顔を
埋められ、舌で舐められるとゾワっとした感覚に襲われる。
「っ…」
「ちょっとは感じてる?感度は悪くなさそうだね」
「っ……はい」
「あはは、素直だね。でもまだ余裕ありそう」
首筋から唇を下へ這わせていき、鎖骨を甘噛みされるとピリッとした感覚が走る。思ったより反応する自身に少し驚く。そういえば前カノ以来ご無沙汰だった。オマケに忙しくて自慰すらできていない。きっとそのせいだろう。
「っ……!」
「ん?乳首感じるの?」
「……そ、うかもしれません」
「そっかぁ、普段自分で弄ったりしない?開発すればもっと良くなるよ」
いやいや、俺に新しい扉を開かせようとするのはやめてくれ。
「しない、でイッ!」
「あ、ごめん、まだ噛むのは痛かったね」
喋ってる最中に噛むなよ!
今度は優しく指で摘まれたり、舌で転がし始めた。くすぐったいような痺れに小さな吐息を漏らしながら堪える。
「ちょっとずつ感じてるようだね。良かった」良くねぇよ。「でもまだ手強いかなぁ。もうちょっとくだけて欲しいんだけど。多分だけど天理、頭の中までそんな丁寧に話してる感じじゃなさそうだし」
じっと見透かすように見つめてくる。
「っ……そ、れは」
流石にそうですね、などとは言えず咄嗟にうまく返せず目線をそらせる。そして俺の反応を見て嬉しそうな顔すると再び胸に吸い付いた。さっきよりも強く吸われ思わず声が出そうになるのを必死に我慢した。
「っ、ぅ、」
「声だして欲しいなあ、こうなったら頑張って気持ち良くなって貰うしかないね!」
そう言うと一瞬茶色のその瞳がキラッと金色に見えた。待て、本気出さなくていい!しまった。適当に喘いどきゃ良かった。夏侯輝が手を俺の中心に布越しに沿わせるとまたビクリと反応してしまった。
「あ、少し固くなってるね♪」
嬉しそうな呟きを聞きながら溜まってたんだよ!と叫びたくなったが、グッとこらえた。
「じゃあ、まずは一回イっておこうか」
「え?いやお気遣いは結構ですから」
とっとと突っ込んで終わりにしてくれ。
「ほら、出していいよ」
「まっ、」
止める間もなく下着ごとズボンを脱がされ、既に半勃ちになっているそれを握られ上下に擦られた。ヤバい最近抜いてなかったし、久しぶりの他人からの刺激に直ぐに限界が来てしまった。
「くっ、」
「あれ?早いねぇ。もしかして溜めてた?忙しいって言ってたもんね」
「っ、」
いつもこんな早漏じゃない!恥ずかしさで目をそらすが、夏侯輝は気にせずに続ける。
「ちゃんと優秀な部下をつけてあげるから、ちゃんと休んでね。残業されると困るし」
「は、い。ありがとうございます。」
「じゃあ、次は後ろ解すよ」
「はい」
夏侯輝は寝台横の棚から香油を取り出すと手に垂らす。
「じゃあ、四つ這いになってくれるかな?」
「はい」
言われた通りに寝台にうつ伏せになると腰を高く上げさせられる。流石に恥ずかしい。
「じゃ、まずは指入れるね」
「は、はい」
「あ、でもその前に」
夏侯輝は俺の尻を両手で掴み左右に広げると、後孔に口をつけた。はぁ?!
「な!?何をしてるんですか!」
「んー?気持ち良くする為の準備?」
「いや、それは流石に、汚いですから」
「あー、そういうの気にするタイプかぁ」
気にしない奴いんのか!豫の常識そうなのか?!
「それに綺麗に洗って来てくれてるじゃん。じゃあ、俺がしたいからさせてね」
「ぅ、ぁ…」
構わず後孔に舌を入れられて、ぬめった感触に鳥肌が立つ。
「大丈夫、そのうち慣れるよ」
「そういう、問題では、」
「あ、そうだ。これ使うね」
そういうと何かを取り出したようだ。
「これは媚薬入りの香油だよ。これを塗ればすぐ良くなるから」
「び、」
「大丈夫、麻薬みたいにぶっ飛ぶ様なのじゃないから。最初はやっぱり辛いだろうからさ、これで慣れてね」
そんなもん使った事などない。何もかもが未知数過ぎて不安になる。仕事、これは仕事だと言い聞かせている内に後孔にその香油を塗られる。
「っ……」
「あ、冷たかった?ごめんね」
「いえ、平気、です」
「そっか、なら良いけど」
そう言いつつ、マッサージをしながら塗り終えると今度は指を一本入れられる。
「っ、」
「あ、ごめんね。まだキツいかな」
「いえ、大丈夫です」
「そう?じゃあ、もうちょい奥に入れるね」
香油のビンの音と香油を足される気配を感じながら恐らく慎重に慣らされる。好きにしていいはずなのにご丁寧な事だ。と、指がある一点を掠めるとビクリと反応してしまう。
「あ、ここかな?ここが前立腺だね」
「?!??」
なんだコレ?!未知の感覚に当惑する。
「ここを触られるのはどう?凄く良くなるらしいよ」
「ま、だ、よく、分からない、です」
「あはは、そっかまだダメっぽいね。でも、もう少ししたらきっと良くなるからね。媚薬も入れる頃には効いてくるからね」
そう言うと二本目の指を入れてくる。慣れたら三本目と。本当に慎重に慎重に事を進められると勘違いしそうになるからやめて欲しい。サービス精神旺盛な性分なんだろうか。この調子で福利厚生も充実させてくれ。などと現実逃避している内に慣らすのは十分だと判断されたらしい、指を引き抜かれる事で現実に引き戻された。気づけば自分の息が上がり、中心がまた堅さを取り戻していた。
「っ…は」
「さて、ホントは前からしたいけど初めてだから後ろからね。そろそろ媚薬効いてくると思うけど力抜いててね」
「は、い…」
うう、さらば俺のバックバージン、きたる衝撃に備えて努めて力を抜こうとするが心臓がバクバク鳴って落ち着きを見せない。これは媚薬の効果なのか?夏侯輝の手が俺の腰を掴む。
「いくよ」
つぷ…と後孔に熱くて硬いソレが押し当てられる。そういえば、緊張しててこいつのブツの大きさを確認してなかった。入る大きさなんだろな?てか俺で興奮してるのかすげえ。とか思ってたらゆっっくりと侵入してくる。
「ぐっ……!」
「うわ、きっつい」
「っ……!」
「ごめん、痛いよね。でも、ゆっくりやるから」
「っ……痛、くは。だい、じょぶ、ですっ」
凄い圧迫感はあるが覚悟してたほど痛くはない。ゆっくりやってくれてるからだろうか。教本通り短く息を吐く。
「ごめんだけど、もうちょっと我慢しててね」
そう言うとまたゆっくりと入ってくる。
「っ、はーっ、はーっ、」
「ごめんね、ごめんね」
謝りながら少しずつ入れていく。そんなに謝るなら今すぐ止めてくれ。痛くなくても苦しいには苦しいんだ。丁寧にやらなくていいから早く終わらせて欲しい。ジリジリと驚異的な忍耐力で俺の中に進行を進めるとやっと全部入ったらしく、夏侯輝は動きを止めてしばらくじっとしていた。
「はぁっ、はぁっ、」
「大丈夫?俺の形に慣らすまでちょっと待ってるからね」
「あの、そんなに、お気遣いして、頂かなく、ても、好きに、動いて頂いて、結構です、ので」
「あはは、そう言う訳にもいかないよ。俺がしたいからやってるだけだからね」
そう言ってまた俺の髪を撫ぜる。この人はなんだってこんなに丁寧に俺を抱くのか。さぞモテるのだろうな。嫁や妾は何人居るやら。豫の国からの侵攻には連れてこなかったんだろうが何もその日ぐらい我慢しときゃいいのに。少しだけこの若き王に興味が湧いた。決して勘違いしたわけではない。だとしてもきっと仕込まれた媚薬のせいだ。少しずつなんだか後孔が馴染んできた気がする。後ろから少し荒い呼吸聞こえてきた。
「も、いいかな?じゃ、動くね」
「はい……」
夏侯輝が腰を動かすとずるっと抜けていってしまう。そして、またゆっくりと挿れられる。それを何度か繰り返すうちに痛み以外の感覚に気付く。なんだこれ。喉奥から高い音を出しそうになるのを堪える。
「っ…んぁ、ん…んっ」
「ね、感じてきた?良かった、気持ちいい?声我慢しないで聞かせてよ」
「んっ…んっ、あっ、んんっ」
「あー、可愛い声。もっと聞きたいな」
「んっ!んんっ!」
ヤバい。こんなの知らない。堪えても少しだけ声が漏れてしまう。こんなに気持ち良いなんて聞いていない。しかも相手は男だ。何でこんなに気持ちいい?!これが媚薬の効果なのか?!
「あ、イイトコ当たった?」
「んっ!ふっ!んんっ!」
首を振って違う違うこんなの俺じゃない!と抵抗するも、下の疼きはどんどん高まっていく。
「素直に感じた方が気持ちいいよ?ほら、ここでしょ?」
「っぁ!やっ!めっくだっ」
腰を強く打ち付けられて、聞いたことが無いような自分の声が聞こえた。慌てて口を塞ごうとすると腕を掴まれる。
「あっダメだよ口塞いだりしたら可愛い声聞かせてよ」
両腕とも掴まれると後ろ手で掴まれたまま、繰り返し激しく揺すられる。
「や!あっ!あぁっ!」
ああ、クソ、腹の底から生まれて初めて感じる刺激に頭の天辺から爪先まで痺れが走り、どうしようもない感覚でおかしくなりそうだ。俺何やってんだろう。後ろから聞こえる荒い吐息を聞きながら、まるで伴奏する様に嬌声を漏らす。
「そろそろいくよっ!?」
一際強く打ち付けられた瞬間、一番強い痺れが走ると俺は生まれて初めて後ろだけで達してしまった。
「あ!あぁっ!だっ!ぁあぁぁぁぁぁ!」「ああっ凄っ!っぐ!!」
と同時に俺の腹の中に熱いものが注ぎ込まれるのを感じた。嘘だろナカに出されたのか俺…
「っ…ぅ」
「ああ…凄いよ天理…最初から後ろだけでイケるなんて…気持ち良かった?…あれ?天理泣いてるの?」
「ぇ…?」
夏侯輝のソレが俺の中からズルリと抜けていく。初めての余韻の感覚に浸されている俺に慌てた様に俺の様子を確かめる。あれ?俺泣いてんのか。強姦された処女かよ。解放された手で慌てて涙を拭う。
「あの、ごめんね、大丈夫?苦しかった?ごめんね、ごめんね」
「いえ、大丈夫、です……」
涙声になってしまう。処女はともかく合意だろしっかりしろ俺。深呼吸をして気持ちを抑えていると後ろから抱き締められた。
「ごめんね、思ってたより気持ち良かったから中に出しちゃった。後始末するね」
「いえ、平気です、から」
「お腹壊しちゃうでしょ。お風呂連れてくよ」
抱き抱えられると湯殿に連れて行かれる。俺、男で小柄でもないんだが?!ちょっと最近痩せたけど。
「まっ降ろしてください、王、歩けますからっ!」
「嫌だ。もう離さないって決めたもん。あと輝って呼んでってば」
「え、ちょ、はあ?」
しまった素で返してしまった。
「今まで媚びて来る女しか居なかったけど、天理の媚びない所が良いと思った。態度は恭しくしてるけど腹の中では凄くフラットに俺を見てくれてそうなとこととか。しっかりしてそうだけど実は繊細で健気そうなところもキュンときたよ。早く素がみたいなぁ♪」
そういい放つ夏侯輝に俺は段々腹が立ってきた。もう俺のもの気取りか。この野郎、大人しくしてりゃ調子に乗りやがって。28歳にもなる男で貧弱な男を抱こうななんて物好きの相手くらい仕事だと思えば構わないと思ったさ。誰もが羨む好青年で?お優しくセックスして?仕舞には君の事を認めますよって?だから俺に惚れるのは当然みたいなその態度が腹が立つ。それで沢山落としてきたんだろうなお前さんはよ!
「帰ります。降ろしてください」
「だから俺の……え?」
正直無謀な事をしているとは思った。相手は一刀で首を跳ねられる力量の持ち主だ。今は帯刀していないようだが、徒手でもいけそうだし、曲がりなりにも国王だ。ああ職失ったぞ自分、と思いながら続けた。
「降ろしてください。帰ります。今すぐ。」
「え、あれ?ああ、うん」
かなり驚いたのか大人しく俺を降ろしてくれると、スタスタと帰り支度を始める俺の顔を覗き込んでくる。
「あのさ、俺何か変な事言った?そんなに怒らせるつもり無かったんだけど」
「……」
「ねえ、天理何とか言ってよ」
「貴方が俺に何を求めているのか存じませんが、順番ぐらいあるでしょう。貴方、モテるかもしれませんが肝心な相手にはモテ無いでしょう?」
帰り支度を淡々と続けながら、頭の隅っこでこれ無事帰れるのか?と思いながら思った事をいい放ってやる。ぽかーんと口を開けたまま固まっていた夏侯輝に今がチャンスとばかりに支度を終え礼をした。
「本日は重なるお心遣いありがとうございました。ですが明日辞表を提出致します。できればそれで寛大なご処置を頂けますよう。それでは失礼致します」
くるっと身を翻しさっさと部屋を出た。後ろでなんか喚いているが無視だ。護衛が出てこなかったけどいいんだろうか。
「はぁ」
帰路を歩きながら溜め息をつく。両親は他国にいて良かった。縁者となると幼なじみの親友がいるがあいつに迷惑かからない様にしないと…あと宿舎から引き払う準備と…あと就職先あるかな…。感情的に頭がごちゃごちゃになりそうなのをそんな事を無理やり考える事で落ち着かせる。宿舎にたどり着くと風呂に入り無心で後ろを洗うと辞表を書いてそこでやっとまだ残る異物感に気付きながらこれからの事を考えて眠れるだろうかと思いつつ疲れはてて眠りについた。
[newpage]
翌朝覚悟して王城に出勤すると豫の人間と思われる小柄な戦士?の男にいきなりでかい声をかけられた。帯刀し、小柄ながら鍛えられた筋肉が見える。ああこりゃ退職だけで済まないか?
「自分か?王を振ったちゅう奴は」
「は、?」
「自分やろ?黒髪のー、色白のー、ちょい背の高い都のやつ。昨晩、王とヤったんやろ?」
ここ、人通り多いんですが。その指のゼスチャーやめて貰っていいですか。
「え、まあ。はい」
「合ってるやん!何してくれんねん、さっさと来いや!仕事にならんねん!」
その訛りの強い小男に腕を引かれて連れていかれる。廊下の道すがら豫の兵士がその小男に敬礼や名を呼び挨拶をしている。葉金(はがね)という名らしい。都度おはようさんと返すこの小男は豫でもそれなりの地位にあるのだろうか。
王の執務室の前に立つ。やはり昨晩の咎めか。葉金はドアを乱暴にノックすると返事も待たずに入った。どうやら葉金は相当の地位らしい。
「明鳴!いつまでしょぼくれとんねん!嫁連れてきたで!」
は?
執務机にぐったりと臥せっている夏侯輝に向かって明鳴と呼ぶ。愛称か何かか?しかし、嫁って何だ。申し込まれた覚えも受理した覚えもない。
「あー、葉金、悪いけど帰ってくんない?俺暫く立ち直れないから」
「はぁ?!何言うてんね?!お前の妃になるって言ってくれてるんやで?!何が気に食わんね!」
待て、何の話だ。昨晩の怒りがまた沸々と甦ってくる。が努めて冷静に本日のたった一つの最後の仕事の為に口を開く。
「あの、どういうご用件でしょうか?辞表提出先はこちらでよろしいでしょうか?」
「えっ!?」
「あ!自分何言うてくれてんねん!話合わせろや空気読めへん奴やな」
夏侯輝は顔を上げると一瞬俺の姿に顔を輝かせたが、俺の言葉と葉金の言葉にまた机に突っ伏した。
「わーん!やっぱり天理怒ってるじゃん!辞めるって言ってるじゃん!もうやだー!何もしたくないー!」
冷静に言ったつもりだったが怒りが漏れてたか?それにしても俺は何を見させられているんだろう。護衛兵がいない理由を察した。昨日昼の王としての姿はどこへやら。昨晩の口調のまま子供の様にダダをこねている。
「自分、天理言うたな?まずその辞表取り消せや、お前おらんようになると困んねん。政務が回らんねん」
「あの、俺への御咎めは無いのでしょうか?」
「せやからまずその辞表捨ててくれや」
と言うが早いか返事も待たず俺の手にしていた辞表を素早く取り上げびりっと破り捨てた。おい。流れ的に俺のクビは二つの意味で無くなった様だが、いまいち状況が掴みきれない。葉金は短気そうに見えて意外にもそれを察してくれたのか、説明をしてくれるようだ。
「自分がおらん様になるとこいつがこうなんねん、政務が回らんねん、そこまでは分かるか?」
仮にも王にこいつて。側近らしいが大分距離感が近い。
「そこは察しましたが、俺が居なくなると王がこうなる理由を掴みかねているのですが」
「自分にっぶいのー、まぁ肝心な事を言うとらんこいつも悪いけどな」
「あ、あの、あの、」
夏侯輝は挙動不審になっている。
「ほら!王やろ、しっかりしぃ!」ばしっと背中を叩く。
「痛っ!!もう嫌だ!天理帰っちゃやだ!」
俺の腕にしがみついてくる。いい加減にしろよクソ野郎。そんなに俺を後宮にぶち込みたいか。
「申し訳ありませんが、俺には貴方の妾になるという選択肢はありません。なので貴方のお側に居る事は出来ません」
「えっ違う、待って、待ってちゃんと言うから!」
何をだよ。
葉金が呆れたように「何もいうとらんのかい」と呟きながら夏侯輝を眺めている。
「あのね天理、俺の、俺の」
「ですから妾には…」
「ちがうちがう、俺の、俺の、友達になってください!」
「はぁ?」
隣に帯刀した葉金が居たがやはり素で返してしまった。とたん葉金が爆笑し始める。相当ツボに入った様で腹を抱えていたが部下が下品な笑い方で大爆笑しているにも関わらず夏侯輝は真剣な眼差しで頬を赤くし俺を見つめていた。
「……お友達に、流れで、どういう、俺が?」
若干混乱したので文法が滅茶苦茶になってしまった。
「あと俺、まだ結婚してないから!よろしくね!」
何が?葉金は更に爆笑していた。意味が分からないのでとりあえずスルーする。
「ええとですね」
「うん」
「まず確認したいのですが、先程おっしゃっていた友人とは具体的にどのような事を指すのですか?」
「えーと、一緒に遊んだり、ご飯食べたり、お酒飲んだり、お風呂入ったり、寝たり」
「お風呂入ったり、寝たりの部分、誤解のないの様に具体的にお願いしたいのですが」
「えっとね。一緒に入って泡風呂で身体洗い合いながらイチャイチャするでしょ!抱っこして寝るでしょ!抱き締めてキスして!それでセ」
「それ友人の範疇ではないのでお断りしたいのですが」「待って!えっとお風呂は背中流しあって、パジャマパーティして寝る!だよ!」
女子か?今更言い直されても…そうだとしても、なし崩しでヤる気まんまんじゃねーか。
「…豫では友人とセックスするのが普通なのですか?」
「違うよ!あの、えっとでも最終的にはそうしたいかなって……」
「王、辞表書き直してきてよろしいでしょうか?」
「うわーん!やだー!」
「待てぇやホンマこいつ告白もようでけへんとは思わんかったわ。ちゃんと一から全部言い!」
葉金は呆れた様に夏侯輝に言い放つとばしっとまた叩いていた。仮にも国王に。そういう文化なのか?
「痛い…天理ホント待ってあのね、俺と…俺のお嫁さんになる前提でお付き合いしてください。まずは友達からお願いします!」
は?
「は?」
命令でセックスさせておいてか?
「待って!あの俺と友達になっ」
「結構です」
俺はそれだけ言うと踵を返した。夏侯輝は悲壮な声を上げていたが無視した。葉金は俺を引き留める事もなく、ただ後ろについてきた。
前室に戻ると葉金は俺に椅子を勧めてきた。
「あいつアホやろ?ああ見えて人望はあるんやで、頭も回るしな。ただ恋愛方面だけポンコツやねん」
「はぁ。相当モテそうな容姿してますがね」
セックスも下手とは言い難かったし、とは流石に言わないでおいた。
「そうやねん。女はなんぼでも寄ってくるねんけどな。そのせいで自分から告った事無いねん。それでこのざまや」
はあ。しかしなんだって俺に…え?ガチ恋?昨日会ったばかりで?
「惚れっぽいんですか?王は」
「ん~。どうやろうな。でも今まで好きになった奴は皆身分も家柄も関係なくやったけど、一応全部本気で好いとったみたいやったな。あ、因みに自分は元平民やねん。あと、これは断ってもええんやで。王の言う事は絶対ではないんや。あくまであのバカが言い出したことや」
「はぁ」
とはいえ、初対面で首ちょんぱ見てると、そうなんですねとは言えない。
「あれが王になってから国は変わったんや。だから自分も何とかしてやりたいんやがな。お友達はともかく辞表だけは堪忍してくれんか?優秀な人間には出てって欲しないし、あいつに立ち直って貰わんと困んねん」
そう言ってあわよくばと考えている様な気がしなくもないが。しかしこの人も面倒見の良い事だ。
「…まぁ辞表は取り下げても構わないのですが。俺も平民出身なので行く当てもなく宿舎も職も失うと正直困ってましたので…」
この調子なら命の咎めなどは無さそうなので、最悪幼馴染の家で職探しを進める手は使えそうだったが。
「おお、そうか。それは助かる。ありがとう。何かあったら遠慮せず言うてくれ。あと、あいつに聞いたけど部下付けといたからな。こき使ってええで。天理がおらんかったらそいつに全部任せよ思ってたんやけど」
「来たばかりの国で内務全部やらせるとかドsですか」
「おお、自分結構言うやん!その調子であいつにも話してやってや!喜ぶで!」
なんか本当に面倒見のいい兄ちゃんの様な人だ。年下っぽく見えるが、童顔なだけな様な気がする。
「ま、今日は昨日の今日で疲れとるやろ明日からでええで」
だからその手のジェスチャー止めて貰っていいですか。下ネタ好きなおっさんか。
「いえ、クビにならなかったのであれば職務に戻ります」
「自分、まじめやなー」
「どうせ仕事が溜まる一方なので」
その付けてくれた部下とやらに情報共有しなければならないなら、その時間も必要だろう。忙しい。
「ほなな。これからよろしく頼むわ」
「はい。では失礼します」
「せや。もし良かったら今度うちのカミさんの飯食いに来いや。うまいでー」
部屋を出ていこうとするとそう声がかかった。既婚か。素直に嫁さんの料理を褒める辺り仲の良い夫婦なのだろう。
「はい。機会があれば」
そして俺は辞職するはずだった元の職場に戻っていった。執務室に戻ると早速その部下らしき女性に声をかけられた。
「おはようございます!本日より清水さんの部下として配属されました小早川速水と申します。宜しくお願い致します!」
歳の頃は近そうか、豫の国からというからてっきり夏侯輝や葉金同様ラフなスタイルかと思いきやぴしっとした官服を着た男装だったがきちっと女性らしく髪を結いあげ薄く化粧をしている。
「ああ、丁寧にありがとう、こちらこそよろしく小早川」
快活そうな彼女と共に早速情報の共有化を図る。頭の回転が速く、飲み込みが恐ろしく早い。その上知識量も豊富で質問も多く、かなり有能だ。一人で内務やらせようとさせていたがこれなら可能だろう。こりゃ楽できそうだ。夏侯輝は本気でいい部下を付けてくれたらしい事に感謝した。あくまで上司としてだ。おかげで想定よりも早く終われそうだ。
夕方になり、下城しようとすると王付きの女官の一人が呼びに来た。
「清水様、王が執務室にてお待ちです」
うぇなんだよ。残業無しじゃなかったのか。
「…分かりました、すぐに伺います」
王の命であれば流石に出向かなければならない。また命令にかこつけて躰を要求してこようものなら今度こそ辞めてやる。そう思いながら王の執務室の前に立つ。今日は衛士が扉前に立っていた。やや緊張しながら扉を叩く。
「清水です。お呼びと伺い参上いたしました」
ドアを叩きそう告げると夏侯輝から「入れ」と短い返事があった。
「失礼いたします」
入ると王…夏侯輝は書類に目を通しつつペンを走らせていた。ふぅとため息を小さくつくとペンを置き、鈴を鳴らすと衛士が入ってくる。
「今日はもう下がれ。内密の話がある」
「よろしいのですか?」
衛士は俺をチラリと見て尋ねると、夏侯輝は「構わん。他言無用だ」と短く答えた。すると護衛兵は一礼して退出した。
おい!護衛の前では話せない内容か!まじで帰るぞ!てっきりグダグダなプライベートモードの夏侯輝として話しかけてくると思いきや、やや詰まり気味だが口調はそのままで話しかけてきた。
「清水、その、夕食は済ませたのか?」
「いえ、これからですが」
「なら、一緒にどうかと思ったんだが、どうだろうか?お前も忙しいだろうから無理には誘わないが……」
おい。
「お友達の件でしたらお断りしたはずですが」
「お、王として新しくできた部下と親睦を深めたいと思う事はおかしいことじゃないはずだが」
おい、セックスは親睦深めるやつだったのか?ギリギリ王としての振る舞いは残しつつも、プライベートモードの縋る様な必死さを感じてしまい、思わず呆れそうに表情を変えそうになるのを臣下としてぐっと堪える。まぁ言っていた通りいい部下をちゃんとつけて貰えたしな。少しぐらいと思い歩み寄ってみる事にした。小さくため息をつく。
「お食事のみ、でよろしいですか?」
「もちろん!、だ」
一瞬大喜びしたのを慌てて取り繕いそう答えてきた。ああ、そんな顔部下の前で出したらダメだろ。なんでそんなに嬉しいかな。ああ、惚れてるんだっけか、俺に。未だに信じられないのだが。
「早速用意させる。少し待っていてくれ」
そしてあくまで上司と部下の体で、付けてくれた小早川や、内務の事について話ながら待つ事半刻。豫から連れてきたらしいシェフが作ったという豪華な料理が並ぶテーブルに案内された。多い。この所忙しくて小食だったから多分全部は無理だ。
「遠慮なく食べてくれ」
「は、い、いただきます。あの流石に全部は」
「ああ、無理に食べなくてもいい。だが清水は少し痩せ気味だからな。もっと肉をつけた方がいいんじゃないか?」
「はい。ありがとうございます」
余計なお世話だ!まあ今後は余裕ができそうだからゆっくり飯を食う時間ができるかもしれないが。そう思えばまあ純粋に心配して貰えるものとして素直に頂くとしよう。食事をとりながら、夏侯輝はあくまで王として上司として俺にいくつか質問をしてきた。聞いてはくるが、なんだか既に知っている様な気配がある。腐っても王に近づけさせるのだから葉金が小早川に調査させるなどして知らされているのかもしれない。
「て、清水は武芸の方はどうなのだ?」
下の名前言おうとしたろ。まあスルーしてやろ。
「元々学者志望でしたのでそちらはからっきしです。精霊魔法だけは少々使えますが」
「それは良いな!精霊適性は何なのだ?」
やっぱりそれ聞くか。あまり言いたくないのだが。大学での嫌な思い出が頭をよぎりつい言わなくてもいいことを言ってしまう。
「……王、既に知っておられるのでは?」
夏侯輝は判瞬程の間をあけてから答えた。
「ああ、どうしても立場上事前に聞かされてしまってな。本人から徐々に知る楽しみが無くて仕方がない。でもどうしても本人から聞きたかったのだ」
真っすぐな瞳で、だが少し寂しげな顔で言われてしまった。その立場じゃ知らない苦労も多いだろう。素は活発そうなこの青年が雁字搦めになっているのは辛かろう。どうせ知られているなら正直に答えようと思ってしまった。
「はい、風水火土四つです。魔力が低いので大して使えませんが…器用貧乏な感じですね」
「素晴らしいな!俺の適正は光だけだし魔力も低いから全然だ。少しだけ見せてもらってもいいか?」
「はい。構いませんが」
俺は周りに誰もいない事を確認し指を慣らし契約精霊の名を呼ぶ「シア」小さなそよ風を纏い静かに風の精霊シアは俺の鳴らした指に止まった。
「えっ天、じゃない清水、詠唱は?」
お、ちょっと驚かれた。城の台帳には適性の事は記載されていただろうが、無詠唱可はおそらく記載が無いだろうと試してみたらやはり無かった様だ。この青年をちょっと驚かせてやったのがなぜだか少し嬉しかった。
「はい、俺は適性だけはどの属性を高いらしく、簡単なものなら詠唱無しでも可能です。先にも言いましたが魔力は低いので大した事はできませんが」
すると夏侯輝は目を丸くしてから微笑んだ。ふぅん、そんな顔もするのか。でもこれが年本来の彼なのだろう。プライベートの時間であるはずの彼がその時間までも王のままでいさせるのは少し可愛そうな事をさせているなと少し思った。今、自分がちょっと許してあげればその枷は解くことができる。友人、となる事を受け入れてあげれば。そう思うと少し胸が痛む。…だが今朝の今で何コロコロ意見変えてんだって話じゃないか。
「では、他の精霊も見せて貰えるか?」
「よろしいですよ」
そんな事を考えていたからか少しお願いくらい聞いてやろうと微笑していたらしい。夏侯輝が驚きと嬉しさを混ぜた様な顔をする。
「わ、待って今のもう一回!」
「え?」
シアをもう一回?まだいるんだが。というか素が出てるぞ。
「今、ちょっと笑った顔!もう一回見せて!天理!」
おいこらああもう。
「夏侯王」
決意して真剣に見つめ返す。
「あ、ごめ、じゃない、今のは忘れ、よ」
王としての顔は戻したがどう見たって落ち込んでいる。仕方ないな。
「昼間の友人の件ですが」
「な、なんだ。受け入れなくてもクビにする事はない。だから安心して政務に…」
「お引き受けいたします」
「えっ」
「友人、いえ友になりましょう。お互いの立場など気にしないで済む関係になりましょう」
「い、いいの!?」
「友人としての関係であれば。ですよ?」
躰の関係は無しだぞと暗に告げておく。
「う、うん。友達になろう!で、お願いがあるんだけど、いいかな」
「なんですか?」
一気に素になった夏侯輝に苦笑しているとそれだけでも嬉しそうにした。面白いな。
「普通に喋ってくれると嬉しいなって。敬語とか無しで。ずるいよ葉金にはもう少し素で喋ってたって聞いてもう居ても立っても居られなかったんだから」
それで夕食か。思い立ったら即行動か。政にも反映されてそうだ。
「……本当によろしいのですか?無礼ですよ俺」
念の為確認してみる。
「もちろん!俺達は対等でしょ」
よし覚悟するか。この友の為に。すぅと深呼吸する。
「はーーっ。では遠慮なく。よろしく夏侯。お前その葉金さんだけど、あまり迷惑かけるなよ、あんなに面倒みてくれてるんだから」
驚く夏侯にこれでもいいんだな?という視線を投げかけてやる。だがすぐに破顔して答えた。
「わーい♪よろしくね天理!ねぇっ性呼びもやめてよ!名でも字でもニックネームでもいいからさ!」
ニックネームねぇ…空を数瞬眺め字面を頭に浮かべる。
「じゃあ侯輝。でいいか?」
俺で言う所の水天だ。彼の一族の命名だとこの短縮呼びはされる事はあるまい。短縮しても性と名が一字ずつだからだ。だがしかし珍しく性が二文字の夏侯輝なら可能な呼び方だ。夏侯は一瞬?という顔をした後、すぐにその由来に気づくとやはり楽しそうな顔をした。
「えへへ、それでいいよ!うーーやったーー天理と友達だー!」
「はいはい良かったな」
「適当すぎるよ!俺、ずっとこうやって話したいと思ってたんだってば!!」
「わかったから少し静かにしろ。お前声でかい」
「天理、厳しい、葉金みたい」
すぐにシュンとした。浮き沈みでかいな。
「あの人言葉が荒いだけで優しいだろ。なんだ、厳しいなら態度と言葉元に戻そうか、王よ?」
「やだ、戻さないで。でも天理も優しいんじゃないかなって思うよ」
「そうか?」
「だって精霊、俺の知らない方法で呼び出して俺を驚かせようとしてくれたのかなって。なんだかあまり話したくなさそうだったのにさ。それに、あんなに嫌な思いさせちゃったのにこうして友達になってくれたし」
「別に……大した事してないだろ」
「照れてる」
にこにこすんな。全く…調子がいいというか憎めない。こういうとこが葉金が放って置かない理由なんだろな。照れ隠しに話を戻す。
「で、他の精霊も見たいんだよな」
指を鳴らそうとすると「待って」と止められた。
「なんか嫌そうな雰囲気あったから無理にしなくてもいいよ?」
まあ低い魔力のせいでちょっと呼ぶだけで疲れるっちゃ疲れるけどお友達サービスだ。
「まあいいよ、お前なら。ウィン」
指を鳴らし近くの水差しから水の精霊を呼び出す。
『あいよ!呼んだ?』
『あー呼んだ呼んだけど用はないからゴロゴロしとけ』
『そうなのか?じゃゴロゴロー』
水の精霊ウィンはテーブルの空いたスペースの上でゴロゴロし始めた。おい、テーブルクロス濡らすな。
「凄い!凄い!水の精霊?は喋られるんだね!」
「あー。シアは無口なだけだ。喋られる」
同意する様にシアが小さくフワフワと揺れる。
「へーそうなんだー精霊語解ったら俺も話せるかな」
「一応な」
「わー!シア、ウィン、こんにちはーよろしくね!」
通じないと解っていても構わずシアとウィンに話しかける侯輝にウィンは何となく友好的なのは解るのか『なんか解らないけど、おー!』と答え、シアは侯輝の周りをフワリと一週すると帰ってきた。侯輝は嬉しそうに笑った。得体の知れないものだってのに打ち解けるの早いな。
「あの、さ、天理、なんでこんなに楽しそうに精霊呼べるのに精霊の話するの嫌そうだったの?」
「ん…まあ大学でちょっとな。精霊適正4種あるのは極稀なのは分かるか?」
「うん、普通1つか2つだよね」
「ああ、それで何度か無理な実験に付き合わされてた。奨学金で通ってたからあまり逆らえないのもあって。ある日実験中に魔力が足りなくてその、魔術契約させられそうになってその時の事がちょっと…な。ギリ逃げたんだが、逃げられなければそこでロストバージンだったな」
無意識に身体を擦りながらはははと笑うと侯輝は真っ青になった。
「ごめんなさい!」
そして土下座した。
「いや、お前が謝る事じゃないだろ?そん時の貴族の教授ももう都近くにはいないし、もうそんな事にはならないだろうから大丈夫だよ。新しくこの国を統べるお前だから隠さずもう話そうと思ったんだ。何かの役に立つかもしれないしな、魔力低いけど」
「だって俺、結果的に天理にそいつと同じ事しちゃってるじゃん。手出しちゃってるじゃん…」
「んーああ、そっちな。それはまあ…いいって」
「だって俺、無理やりやった事まだちゃんと謝ってない。本当にごめんなさい」
「あれは合意だろ。仕事だと割り切ってたし。正直腹も立っていたけど、もう過ぎた事だ。」
侯輝は仕事…ああうんそうだよね…と呟きながらショックを受けつつも尚返した。
「よ、良くないよ!だって……天理、あの時傷ついてた。泣いてたじゃん」
お前に中出しされた後に泣いてた事か。
「あれは…たまたま涙出たんだろ」
「……天理、気を悪くしたらごめんね、天理は自分で思ってるより繊細だと思う。あの時だって自分でも訳分からないって感じだったし、本当は傷ついてると思う」
「……」
こいつは俺が目を背けていた事に容赦なく踏み込んでくる。まあそうなのかもしれない。だが弱いままじゃ生きていけないから自分自身に知らんフリしてるしかなかった。
「俺、そんな天理見て凄く頑張って生きてるんだって思ったんだ。仕事も勿論、その生き方が健気だなって。弱いって事じゃなくてこれがホントの強さなんじゃないかって。そんな天理の事が好きになっちゃったんだ。守りたいっていうか幸せにしたいって」
顔を赤くしながら真っ直ぐそういい放つ侯輝を俺はああ、本当にこいつは俺の事を好きになったんだなぁ。それが好きになった理由なのかぁと他人事の様に聞いていた。そういえば事後にそれっぽい事を言ってた気がするが俺混乱してたな。今もしてる。それにしても俺こんなこと言われたの初めてかもしれない。一人で生きてきたつもりはないし、助けて貰った人だっている。けど…なんか顔がじわじわ熱い。視界がうっすら滲む。
「ご、ごめんね!また泣かせるつもり無かったんだけど!」
「え?や、違う。これは嬉しいからだ」
つい言ってしまった言葉は本心で嘘ではなかったが何故か恥ずかしかったので顔を伏せた。雑に涙を拭い、深呼吸する。
「……ありがとうな、侯輝」
顔を上げるとまた侯輝がまたぽーっと赤くなった。どうした?
「侯輝?」
「あっ何でもないよ。うん、どういたしまして。あの、ホントに、ごめんね。」
「もう謝るの無しだ。お前との…セックスは本当にもうどうとも思ってないから」
単にお前が悪いとは思っていないと言いたかったが、少し言い方が悪かったらしい、またちょっとショックを受けたようだ。
「う、うん。ありがと。ぅぅ」
「……お前まだ俺の事を好きなままなんだよな?」
「うん。ダメかな?」
「想う事は止められないもんだと思うし、お前の性格だと隠してろって言われても無理なんだろ?想いに相応に応えろって言われると困るんだが」
「天理は俺が天理を好きでいるのは嫌じゃないの?」
「別に。ただお前が俺の事好きだってもう分かってんのに俺が友達付き合いしかする気がないってのは酷くないかって思ったんだが」
「天理は優しいね。全然いいよ!好きである事が嫌じゃないだけで十分!出来れば好きになって欲しいのはあるけど」
「それって辛くないか?」
「辛くなる程まだ何もやってないからね!」
ポジティブだな。
「ただ天理に好きな人できちゃったら辛いけど。ねぇ天理の好きなタイプってどんな人?前彼女いたんだよね」
「どんな…」
今まであまり考えた事なかったので空を見る。
「付き合ってた彼女のタイプは?」
共通点あったかな?外見の共通点は無いな。うーん強いて言うなら
「積極的で物好き?」
「積極的……天理ひょっとして全部相手から告られてる?」
「ああ、そしてフラれてる」
「天理って来るもの拒まず去るもの追わずタイプ?」
「……そーなるのか?」
首を傾げる。
「…じゃなんで俺ダメなの?同性だから?」
「いや?そういう感じでも」
あれ?なんでだ?そしてお前なんでガッツポーズしてる?
「よっし、じゃあ俺は来るもの拒まない天理が初めて拒否った相手な訳だ。よぉぉし!手強そうだけど頑張って惚れさせるぞおおお!」
どういう理屈だ?急に元気になって。
「まあ嫌いでは無いぞ?」
「それじゃダメなの!ちゃんと俺に惚れさせないとダメなの!」
「そうなのか。まあ頑張れ」
「もー!すぐに他人事みたいになるんだからー!早速いくよ!天理!俺に惚れて!付き合って!」
言いながら侯輝はシャツを脱ぐとポージングをした。男でも惚れ惚れできそうな肉体で羨ましい限りだ。だがしかし。
「…いくら俺でもそのアプローチが恋愛ポンコツ過ぎるのは分かるぞ」
「うぅ、い、言ったなー!自分だって告白した事無い癖にー!俺だって今必死なんだよ!何で伝わらないのー!?」
いや必死なのは伝わるんだが。肝心なことが伝わって無いと言うか。残念すぎると言うか。
「まあ、お互い様だな」
「俺達ってひょっとして恋愛初心者同士?肉体関係はもうあるのに?」
「そう聞くと俺も残念な人達だな…事実だけど」
「で、でも、俺の気持ちはもう伝えてるから。絶対惚れさてやるから覚悟してね!」
「はいはい、頑張れ。俺、お前のそういう前向きな所結構好きだよ。」
そう言ってやると侯輝は顔を真っ赤にして固まってしまった。
「あれ?侯輝?」
呼びかけると我に帰ったようで、慌ただしく食事を再開した。
「うわぁぁぁぁん、負けたー!!」
「何が?」
そうして俺達は友達以上恋人未満の関係となりまあまあ楽しく?食事を終えた。
翌朝、いつもの様に登城し執務室に入ろうとすると相変わらずでかい声でそれでいて機嫌の良さそうな葉金に呼び止められた。
「おはようさん!ようやってくれたな!ありがとうな!」
いきなり礼を言われた。何の事だろうか。
「おはようございます…?」
疑問詞を頭の上に浮かべていると
「明鳴と仲良うしてくれる事になったんやろ自分、あいつ朝からきっしょいくらい機嫌良うて政務捗って助かるわ!これからも頼むで!」
「あー……はい」
単に政務が捗って都合が良かったのだろうが、弟かの様に扱っている侯輝が落ち込んでいるところから復活したのが嬉しかったのだろう。
「ああ、それと俺今日から暫く忙しゅうなると思うから、悪いけどまたしばらく来れんようになるかもな」
「それは構いませんが、何かあったんですか?」
「うん、まあ、ちょっとな」
侯輝は豫からの侵攻にあたり、旧国の人材はそのまま活用する姿勢でいたが、血統だけで続いている能力の無い貴族を排除しようとしている。派閥から外れた貴族や平民出の者には支持が高いが、旧国王の首を取り実権を握ったと言え、力のある貴族の反発はある。その制圧なりに出向くのだろう。
「お気をつけて」
心から丁寧に礼をすると侯輝は一瞬驚いた顔をしたが、微笑んで「おう、行って来るわ。明鳴のこと頼むで!」と出立の為去っていった。
とは言ったものの、俺は俺で新体制の中忙しく、侯輝は侯輝で王として多忙であったため公用で会うことはあってもプライベートで合う時間はなかなか取れず痺れを切らしたかの様に公用資料の中に『会いたいよー(>_<)』などメモが挟まっていたので『自重しろ』と返してやったら『(´・ω・`)』『時間ができたらまた食事に誘ってくれ。待ってるから』『(^▽^)』などと学生ばりのメモの応酬をしていた。
そんな数日が過ぎた朝、いつも通り執務室に入ると既に小早川が書類を広げて待っていた。
「おはようございます!清水さん。早速ですがこちらの資料の確認をお願いします」
相変わらず仕事早いな、渡された資料に目を通し、必要事項を確認していく。国が変わろうが俺ら役人のやることは変わらない。ただ名門貴族というだけでろくに管理できていなかった糞ったれな上官の元で働いていた時と比べると大分心は軽い。改革を推し進める侯輝の元、今まで不世出の優秀な人材が集められ、良い方向に変わっていった。俺は俺の仕事をこなして行けばいい。いいんだが。
「……うん。問題無いな。助かるよ。ふぅ。」
「ありがとうございます。どうかされましたか?」
「俺の元上官なんだが、あれはあれで居てくれた方がいい事もあったなと思い直して」
大変気分の悪い野郎だったんだがコネだけはあったので、手回し交渉の類いだけは裏で着服しつつせっせとやっていた奴だったのだが。今俺がそれをやらないとならない。正直苦手だし、何よりめんどくさい。初日の侯輝にこれを聞かれたら怠慢だと言われるのは実は俺もだったのである。まあやるけど、めんどくさいけど。
「輝王に見せしめの為に直接引導渡された清水さんの元上官の方ですね。あまり勤勉な方ではなかったと聞きましたが何か特技が?」
「まあ特技っちゃ特技か。まあ役職上は普通なら当たり前の仕事なんだがな。各省に対しての交渉がコネと家柄に物言わしてゴリ押ししてたから楽だったんだよ。今、空席で俺が代行してんだけど、正直苦手だし、めんどくさい。元上官のせいでうちの印象くっそ悪くなってって当たりが悪い。特に平民出の省長とか。悪い人達じゃないんだが」
「なるほど…お疲れ様です。その分は私、精一杯フォローしますから」
「ありがとう、頼りにしてる。ああ、優秀な上司も降って来んかな、楽したい」
軽くダレていると小早川にクスクスと笑われた。
「清水さん、真面目な方だと思っていましたが意外と適当な所もあるんですね」
「真面目だなんて初めて言われたぞ。会って間もないとそう思えるのか?」
「私この国に侵攻してくる前に豫から内偵に入ってたんですけど、噂に聞いていた通り杜撰な管理体制で実数の把握に苦労するかなーって思ってたら、そういう国の中でも支えてる人達ってやっぱりいるんですよね。で、綺麗に纏まってる資料があったんで凄く助かった覚えがあるんですよ」
にこにこと俺を見られた。おいその資料とやらはここの…俺のやつか。そういえば幾度か保管資料が不自然な時があったが…
「で、その資料の文責に大体、清水って印されてたんで、ああこんな真面目な人もいるんだなって。輝王に侵攻が成功したら清水さん絶対引き入れてくださいねって言ってあったんですよ♪」
いや、もう侵攻終わってるからバレてもいいのかもしれないが内偵が自分で内偵って言うなよ。信用されてんのかバレてもどうとでもなるとでも思ってんのか…。しかし、俺の資料が敵に塩送ってたとかなんとも皮肉な話だな。
「蓋を開けたら適当なやつで悪かったな。その話が本当ならお前さんの推薦で俺は職も命も助かった様なもんなのに」
「いえいえ♪意外性があった方が楽し…好感持てたりしますし」
「なんか楽しそうだな」
「それと清水さんの最終採用は結局、輝王の判断ですよ?それにあの方の目は下手な情報より確かですから」
まあ確かに侯輝は人を見通せる様な所はある。これは喜んで良いところだろうか。
「そうか……ありがとうな」
「お礼でしたら輝王に言って差し上げたらきっと喜びますよ♪」
「いや、お前さんにも。評価してくれたんだろ?」
「……清水さんて、実は女たらしですか?」
俺が首を傾げていると小早川は一瞬目を丸くした後、悪戯っぽくそう言った。
「は?うーん告白された事ならあるが…結局全部別れられてるからやっぱりダメなんじゃないか?」
「あら。天然タラシさんですか…輝王大変そうだなぁ…」
「何が大変なんだ??」
「いえいえ、何でもありません♪」
そんで何で楽しそうなんだ。
「何だよ、気になるじゃないか…」
「是非輝王様に聞いてください♪」
「侯輝に?よく分からんが分かった…時間取れた時に聞いてみる」
小早川は一瞬ん?としたがすぐにやはり楽しそうにしながらもテキパキと業務をこなしていくのを見てハッとなると業務に集中すべく頭と手を動かし始めた。
「それと、上司の方も輝王にご相談されれば付けて頂けるかもしれませんけど、豫も今、人手不足なのですぐには厳しいかもです。清水さんがどなたか良い人材を紹介してくださると助かります」
「そうか、今ならその手が使えるな。心当たりがあるからあたってみる」
かつての恩師の事が頭を過った。豫となった今のこの国なら呼び戻す事が出きるかもしれない。何より俺が楽できるなら、動かない手は無い。
「お知り合いがいるんですか?」
「ああ、もう隠居の歳だし断られるかもしれないけどな」
「楽しみにしてますね」
「お前さんはいつも楽しそうだなぁ」
気苦労くらい有るだろうに良い事だなと思う。
慌ただしく業務をこなしながらも、それでも身分に関係なく真っ当に評価される分かっていると忙しくとも充実しているように感じられるものだ。各所反発が根強い所もまだあるが、少しずつ変わっていく。昼が過ぎ、一段落した辺りで早速行動に移すことにする。
「お出かけですか?どちらへ?」
「あぁ、侯輝……夏侯王に会いに行くつもりなんだが。上司の件で相談しにな」
そういえば侯輝の事を愛称で人前で呼んでしまっていることに今更ながら気づいて恥ずかしくなった。さっきから言ってしまっていたはずだが…妙ににこにこしていると思ったらさてはわざと突っ込まなかったな小早川…!小早川にも大分気が緩んできたものだ。
「ふふ、早速ですね。行ってらっしゃいませ」
王の執務室前まで来ると護衛兵に軽く挨拶をして入室の許可を貰う。在席中で良かった。名を告げ返事があると一礼して入る。侯輝は今は王の顔をして忙しそうに書類仕事をしていた。顔を上げ俺を見ると態度は変えずに本当に一瞬だけ目が嬉しそうにする。こらこら公私混同だぞ。だがちょっと悪くないなと思ってしまう辺り侯輝にも気が緩んできたなと思う。気を引き締める。
「今日は王にお願いがあって参りました」
「なんだ、改まって」
「俺の上官が未だ空席となっている件、補充のお願いに参りました」
「今、うちも人材不足だから難しい。清水が代行できてるし、そのまま省長に任じてもいいぞ。仕事が増えて辛いだろうが」
少しだけ辛そうな顔をした。俺の残業が増えるのは本意ではないのだろう。
「いえ、俺の仕事ぶりが評価されているのはありがたいのですが、どうせなら能力の高い方にやっていただきたく思います。俺では荷が重いです」
勿論楽したいなどとは言わないでおく。
「そうか。出世のチャンスなんだがな、俺はお前も適任だと思うぞ。で、その口ぶりだと誰か推挙したい人物でもいるんだな?」
「はい、元貴族ですが下級の家の出の者になります」
「清水、俺が貴族を撤廃したいのは分かっているな?下級であろうと」
王として、鋭い目で確認してくる。血統、縁故の類いは侯輝が王となってからはまかり通らぬものとなっていた。
「はい、存じております。その人物は派閥に属さず旧王国にて少し…トラブルに巻き込まれ官職を離れています。ですがその人柄で健全なコネクションが豊富にあります。王は現在各省の掌握に奔走されているものの、思うように進んでいない所があるかと思います。彼女はその一助となりうる人材です」
「続けてくれ」
「はい、王の側近の官員が足りていない事も把握しています。彼女ならばその人材の収集も可能です。彼女を召還する事で王は円滑に業務を進められると考えます」
「わかった。……彼女、というのは、どういう」
少しだけつまりながら確認してきた。
「実は王に確認してから、伺う予定だったのでまだ受けて頂けるか分からないのですが、引退間際の老齢の女性です。大変思慮深い俺の学生時代の考古学科の恩師なのですが…その官職を追われる原因を作ったのが俺なので、いつか恩を返したかった…というのが本音です」
仕事を楽したいのは事実だが、これは偽りない本心だった。
「分かった。話を進めてくれ」
「ありがとうございます。それでは」
「待て清水。……この資料を確認してくれ、今」
立ち去ろうとすると、侯輝は何やらサラサラとメモ書きに書き記すと、資料に挟み込んで渡してきた。資料自体はよく見れば破棄寸前の裏紙だ意味がない。となれば本題はメモか。資料を捲る『忙しいだろうけど、理由付けて会いに来てね♡』おいい!ヒクつく顔を全力で抑えながら「分かりました。」と一言言うと、一瞬ニコとしたのを見て足早に部屋を出た。全く…。
俺は早速、恩師の廻先生に連絡を取るべく書状をしたため返事を得ると数日後に恩師の元に訪ね承諾を得ることができた。その後、王からの正式な依頼として王城に招く事になった。ある意味気ままに、かつて俺に教鞭を振るっていた考古学の研究ができなくさせてしまう事は心苦しかったが廻先生は「これも先を行く者の勤めですよ。それに大学に考古学科を復活させられるかもしれないという私情もあるのです。やはり貴方を助けて良かったとすら思っていますよ」微笑みながらそんな事を言われてしまった。またもや頭が下がる思いがする。
侯輝も廻先生を気に入ったらしく、晴れて廻内務省長として就任すると各省との連携がスムーズになった。
こうした事も含め各人の思惑が上手く噛み合った結果、この国は安定していった。
[newpage]
残業が減ってきた頃の夕方、侯輝は机上の書簡を手に取りつつ俺に視線を向ける。
「俺はそろそろあがるが、今日はもう帰りか?」
「はい、お疲れ様でした。この後は帰宅いたします」
「あぁ、そうかご苦労だった」
と侯輝は手元の鈴を慣らし衛兵を呼ぶ。
「今日はもう上がる。下がれ」
衛兵はこちらをチラリと見ると心得た様に頭を下げ退室した。気配が無くなった事を確認すると侯輝は王としての顔を緩め素の顔を見せる。
「天理ー久しぶりにちゃんと話せるよー!晩御飯久しぶりに一緒に食べよう!料理準備させておくから来てよね!」
「分かった分かった。片付けたらすぐ行くから。また裏口でいいんだな?」
「うん!手引きさせておくから!残業しないでね!ね!」
「はいはい」
「じゃあ、後でね!」
侯輝は嬉しそうに執務室を出て行った。俺は内務省の執務室に戻ると少し調べものをと残業していた小早川に「は~いお疲れ様です♪」と言われながら部屋を出た。
城の裏口にいくと既にお付きの女官が待っており、先導されて侯輝の待つ部屋に向かおうとすると、待ちきれなかったのか廊下で待っていた。
「遅いよ!もう用意させてあるから!」
「割とまっすぐ来たんだぞ」
侯輝は苦笑する俺の手を取り部屋へと歩き出す。おいこらお友達とは手を繋ぐもんなのか?だがあまりにも嬉しそうにしているのでまあいいかとそのままにしておいた。ここに来るのも久しぶりだ。王と臣下として人目をはばかり学生の様なメモ書きの応酬ではなくこうして直接会ってはばかりなく言葉を交わせるのは楽しいものだ。
「天理、少しは食が太くなった?まだ忙しいだろうけど以前よりは残業減ったでしょ?」
俺の腰回りを触りながら聞いてくる。
「お陰さまで標準体型になったよ。てかセクハラで訴えるぞ…ってお前王様かよ」
「今は王様じゃないからセクハラじゃないですー」
「上司じゃなくてもハラスメントだ!そうか、上司じゃないなら殴っていいよな」
「酷いっ暴行罪で訴えてやるからっ!」
ベシッとはたけば大袈裟な程痛がる。こけんなじゃれ合いも何時ぶりだろうか。
「さぁ、座って」
俺達はテーブルに向かい合わせで席に着く。今日も城付きのシェフが腕を振るった料理が並ぶ。流石に前回よりは少なかったがまだ多い。
「で、どう?忙しいのは」
「いや、仕事は順調だよ。廻先生…新省長のおかげでだいぶ楽になった。招聘してくれてありがとな」
「ううん、俺の方も助かったからね。廻さんが来てくれて、王としての仕事も捗るし」
「それは良かった」
俺もこいつも良かったならこれ以上の事はない。微笑むと侯輝も嬉しそうに微笑んだ。
「天理ってさ、やっぱりこっちの方に住んで居たい?」
「ん?ああまぁそうだな住み慣れてるのもあるし。それがどうかしたか?」
「俺は今は占領直後だからここにいるんだけど、その内、豫の都に帰らないとならないんだよね。」
「……俺に着いてきて欲しいってか?」
「うん、正直に言うとそうなんだけど」
元々俺の夢はこの都で考古学の研究をしたかった為である。すっかり道が外れてお役人になってしまったが。この都に未練はある様で無いような。
「なぁそういえば聞いて無かったな。豫の都、夏凌ってどんなとこだ?こっちじゃ蛮族蛮族言われていたがそんな事無いんだろ?」
お前や小早川を見てたらそんな事無いのは想像できる。
「えっとね丘陵に出来た都市で、周囲は城壁に囲まれていて、街はがんばって綺麗にしたよ!夏は暑くて冬寒いけど、空気が澄んでいるから凄く星が見えるんだよ!夜になると満天の星空が見れるんだ!」
侯輝は興味を持たれたのが嬉しいのか嬉々として大袈裟な程の手振りを加えながら説明した。
「へぇ…良さそうな所だな。」
「来てみたくならない?ね?ね?」
侯輝はキラキラした目を向けてくる。もう小早川も廻先生もいるし内務の方は安定するだろう。そうなれば俺がいなくても大丈夫そうだし。ってお友達の為についていくのか俺は。
「…まあ一度見ても良いかなくらいには」
「ほんと!?じゃあ今度夏凌に帰る時に連れていくから!いい所案内するからね!」
侯輝はおっしとガッツポーズをし嬉しそうに笑う。
「まぁ命令されればついてくくらいするけどな臣下だし」
「もちろん王としてそれはできちゃうけど、天理についていきたいって思って欲しかったの!あのっほらっ友達だしねっ!」
はいはい友達な。こいつとのこの関係は実の所悪くはないと思っている。最初こそこの勘違いクソ野郎だったが今では良い友人だ。この関係を壊したくないと思う程には。俺はずっと友人でいちゃダメなのかと思っているが、こいつは俺の事が好きだと言って焦れずにせっせと俺にアプローチしてくる。
「はいはい。配慮してくれてありがとな」
「うん!で、どう?来てくれる?来てくれたら嬉しい!ね?ね?」
侯輝は立ち上がり、俺の手を握りぶん回しながら懇願してきた。仮にも王族だろ落ち着いて飯を食え。
「分かったから!ついてくから!興味はあるし」
「ホント!やったー!ありがとう天理!大好き!愛してる!」
侯輝は俺を抱きしめてきた。
「おいこら離せ。って、どさくさに紛れて匂いを嗅ぐな」
くっそホント力強いなこいつ剥がれねぇ。
「だっていい香りなんだもんっ!はぁ~幸せ!」
いい香りって。侯輝は満足するとやっと離れた。
俺と侯輝は食事を終える。
「そうだ、今日は泊まっていって欲しいんだよね」
「あ?なんでだよ」
「明日は休みでしょ?だから一緒に寝ようよ。パジャマパーティしよ?お風呂入ろ?」
「断る」
「手は出さないから!それに…手出しても天理が俺を好きじゃないなら意味無いから……」
寂しそうな顔をしてそんな事を言われては仕方がない。
「分かったよ。夜着は貸せよ?泊まるつもり無かったんだから」
「うん!お風呂の支度させるね!おっきいお風呂なんだよー。あ、お酒飲む?」
「酒は少しなら」
「うん!じゃあ準備させてくるね!あ、着替えも!」
そう言い残し部屋を出ていった。はあ、ほんとエネルギーの塊だな。つきあっているとつられて羽目を外しがちになる。
しばらくして戻ってくると俺達は城の大浴場へと案内された。普の時代に宮仕えしていた頃はよもや王家の風呂に入れる日が来るとは思わなかったが。そういえばここの城も一応歴史的建造物には違い無かった。考古学的に見学できるチャンスと言えなくもない。脱衣所で服を脱いで浴室に入ると、そこは広々とした大理石造りの空間だった。巨大な浴槽は軽く泳げそうなくらい広い。
「うぉ、すげぇな」
俺は思わず声を上げた。
「でしょでしょ!王家だけで独り占めするの勿体ないから庶民に開放しちゃおうかなとか思ってるんだよね。でもその前に二人で入ってみたかったんだ」
侯輝はそう言うと俺の手を取り、洗い場へと向かった。
「さ、座って!」
また子供の様に急かされ俺は言われるまま椅子に腰掛けた。侯輝が俺の背後に回り、俺の髪を洗う。人に頭を触られるのは久々だ。
「おー、気持ちいい」
「でっしょう!でっしょう!もっと褒めていいよ!」
侯輝は嬉しそうな声でそう言った後、俺の頭にお湯をかけ流していく。
「はい終わり!ね、ね、俺の頭もやって?」
「はいはい」
俺は侯輝の後ろへ回る。侯輝の金色の髪の毛はさらりとしていて、指通りが良い。指の腹で丁寧に洗ってやると気持ち良さそうにしている。
「お前ちゃんと手入れしてるんだな。」
「うん、まぁね。俺の自慢の金毛だから。王様だし見た目大事だよね!手入れはばっちりだよ!」
お湯をかけて流してやるとセットされていた髪が垂れ少しだけ幼く見えた。
「確かに綺麗な金色だな」
「でしょでしょ!えへへ。天理の黒髪も綺麗だよね」
俺の濡れた髪に手を伸ばしつつついでに俺の耳を撫でてくる。
「っ、おいこら、耳に触るな。髪なんて別にハゲなきゃどうでもいい」
「あははっ!そうかもね!でも綺麗だよ。」
そう言って俺を見つめてくる。男相手に綺麗って。こいつなりに必死なんだろうが、こうストレートに伝えてくるとさすがに照れる。
「っ……そうかよ」
俺は目を逸らすが、またじっと見てくる気配がする。こいつ本当によく見てくるよな。碌に好意を返す気が無い男なんか見て何が楽しいんだか。
「あー照れてる。もう可愛いなー」
「やめろって」
俺は侯輝の手を払いのけて体を洗う。
「えへへ。ごめんね?もうしないからさ」
侯輝は懲りずに俺の手をのばそうとしたのでぺしっと叩いてやった。それでも尚、懲りている様子もなく隣で体を洗い始めた。
「……お前さ、俺の事好きなんだよな?男同士だぞ。お前は王で世継ぎを作らなきゃならないんじゃないのか?」
俺は侯輝を軽く睨むが怯む様子もない。
「うーん……まあそうだけどさ、国を継ぐのが俺の子じゃなきゃいけないって事ないでしょ。俺は俺のやりたい事やってしたいように生きるよ。」
俺はため息をつく。こいつはいつもそうだ。自分がやりたい事を全力でやるし、それが正しいと信じて疑わないのだ。だからこいつの周りは人が寄ってきてしまう。こいつは人を集めるカリスマ性がある。俺はこいつのそんな所に反感を覚えつつも惹かれてもいる。
「そういえばお前は世襲制を嫌ってたな。お前自身は前王の子なんじゃないのか?」
侯輝はこの地にきてから身分血統ではなく徹底した実力主義を貫いている。それは本国でも同様らしい。身分の低いものには支持を得られるだろうが侯輝自身の王家一族からは反発がありそうだ。何かあったのだろうか。
「前王は俺の爺さんなんだけどね。俺の父さんは前王の爺さんの反対押しきって巫女だった母さんと駆け落ち同然に結婚したんだけど、父さんは俺が物心つく前に死んじゃってさ、俺しか跡継ぎいなかったんだよね。一応姉ちゃんもいるんだけどもう巫女さんになっちゃっててさ。俺も父さんみたいに血筋とか家とか関係なく自由に結婚したかったから最初は王様になるのやだったんだけど、俺が継がないと王家筋なだけでそれこそ蛮族って感じのやつが王様になりそうだったから仕方なくなったんだよね。」
「なるほど、世襲を嫌がるのはその辺りか。」
「うん、で、どうせなるなら俺が住みやすい国にしちゃえって思ってさ、人もいろんな所から集めて安定したと思うよ。国王も皆で決めようって変えようとしてる」
それまでに相当反発があったと思うんだが。
「まあまあ大変だったけど俺の事はみんな認めてくれてるし、むしろ俺のわがまま聞いてくれるしね。」
まあまあ。ね。初対面の事を思い出しながらあまり血塗られてなければいいんだがと思う。
「……お前、世襲制を自分の代でやめさせる為に子供作らないとか思ってないよな?」
俺は体を洗い終わると湯船に浸かりながらそう尋ねた。まさかその為に男と…俺と結婚したがってるなんて事はないだろうか?嫌がってはいても世襲で王位についてしまった侯輝は男と結婚する事で明確に子を残さないと示せる事になる。
「え?違うよ?俺、別に子供が欲しくないわけじゃ無いよ?たださ……」
そう言うと、隣に並んで湯船に浸かると俺の肩に頭を預けてきた。
「おい…」
「……俺はさ、俺の好きな人としか結婚したくない。ただそれだけなんだよね」
「……そうか。ならいい」
その好きな人が俺って言うのがまだ理解できないところだが…。お前にはお前なりの苦労があって無理してんじゃないかと思ったが杞憂だった様だ。俺はそこでやっと湯殿に風雅に浮かぶ花弁を眺めながら湯を掬って顔を洗った。ふぅと一息ついて顔を上げると侯輝が何やらにんまりとして横から俺を覗き込んでいた。なんだよ。
「ねぇねぇ天理、もしかして俺の事心配してくれたの?」
「え?」
「だって俺が無理してると思ってくれたんでしょ?」
「別に心配したって程じゃないと思うが……」
まぁホッとはしてたか?あれ?なんとなく恥ずかしくて横を向いていると、横から抱きしめられた。
「なんだよ」
「えへへ、嬉しいなって」
首元に頭をすり寄せてくる。
「おいこら、ちょーし乗んな」
「あはは、ごめんごめん」
へらりと笑うと侯輝は俺から離れ湯船にざぶんと浸かった。本当にスキンシップ以上には手を出してこないらしい。こいつ俺の事好きなんだよな?よく裸で抱きついて平気だな。辛抱強いというかなんと言うか…もっとこうガンガン来るかと思ったら律儀に俺が惚れるのを待っているらしい。俺がこいつに惚れる事ってあんのかね。ていうか待て…俺誰かに惚れた事、あったか?惚れるって
何だ?あれ?……そう考えると今までの恋愛って何だったんだろうな。例えば俺がこいつに惚れたとして惚れたと誰が判断できるんだ?俺か?あれ?頭ぐるぐる回ってきた。あ…れ…?
「え?!ちょっ!天理!天理ー!」
目が覚めると俺はベッドに寝かされていた。
「……ぅ……ぁ……?」
「あ!良かった!起きた!大丈夫?」
「あー……ああ」
俺は起き上がろうとするが頭がくらりとする。
「まだあまり動かない方がいいよ。お水飲める?」
「ああ。すまん、くれ」
侯輝は俺の体をゆっくり起こし水を飲ませてくれた後またゆっくりと俺を横にさせた。気づけば侯輝と揃いの上物の夜着を着させられていた。
「悪いな……世話かけた。今、何時だ?」
見上げた部屋には一度、少しだけ見覚えがある。侯輝の寝室か。あの時は緊張していたし、最後は俺がブチ切れて帰ってしまったからほとんど記憶は無いけれど。
「いいよ気にしないで。もうすぐ零時かな」
「ありがとな、ここ、お前のベッドだろ?横、空ける…」
横にずれてスペースを空ける。そうは言ってもキングサイズだからもう十分に余裕はあったが。
「じゃお邪魔しまーす」
「お邪魔してるの俺だけどな」
「えへへ、一応ね」
「あー…うまい酒飲みそびれたな」
逆上せた後に飲むのはまずいだろう。
「また今度飲もーね。へへ天理、パジャマパーティしよう」
いい歳した仮にも国王が枕抱えてそんな事を言うなよ。俺が呆れて苦笑していたがそれでも諦めずに引き出しからおやつを引っ張り出してきて俺に食べさせようとする。俺は侯輝にされるがままになりながら、こいつのこの無邪気さが周りを惹きつけるんだなと改めて思う。
「あの…さ…天理、一人の時ってどうやってるの?」
他愛のない話をしていると侯輝が少しだけ照れた様にしながらも興味深々という風に尋ねられた。
「は?何を?」
「ナニを♡」
「寝る」
「わーん。待って待って男子トークだよーねっねっ」
下ネタに走り始めた様なので無視しようと布団を引っ張ると慌てて止められた。ねっねっじゃねーよ。思春期か。
「学生かお前は」
「いいじゃーん。で、どうなの?一人でしてるの?」
「……まあ、そりゃあ、な」
仕事で疲れていた時期はそれどころじゃなかったが。今は少し余裕ができた。枯れる歳でも無いし。
「じゃあどんなの想像してるの?俺の事は考えてくれてたりする?︎」
「するかっ!別に特に何も…普通に処理してるだけだ。……お前はどうなんだよ。まさか女が寄ってくるから自慰した事ないとか言わないよな?」
「以前はそうだったんだけどね。最近覚えたかな」
といいながらじっと俺を見つめてくる。ああ、俺で想像してるってか。寄ってくる女で抜いとけよ俺なんかじゃなくて。少し熱い視線から逃げる様に視線を逸らす。
「そーかよ」
「ね、どうやってるの?座って?寝て?乳首とか弄ってる?後ろとかも使うの?ねえ、教えて?俺、全部知りたい」
侯輝は少し前のめりに興奮気味に聞いてくる。
「近いっあーもう、普通にっ座ってっだよ」
「どんな風に?どこから触るの?ねぇねぇ」
「うるさいっ。普通にだ、普通」
「俺あんまりやった事ないから普通が分かんないし…ねぇやり方見せて?俺のも見せるからさ」
「はぁ?いやだ。絶対いやだ。断る。やめろ」
俺は布団を被って拒絶するが、侯輝は俺の肩を掴んで揺さぶる。
「おねーがーいー!俺も見せたげるから!ね?むしろ見て?」
「い、や、だ」
まったく…何が楽しくて男同士で抜き合いなんてせにゃならんのだ。お前は良くても俺は…背中を向けて拒否すると、侯輝は俺を仰向けにして覆い被さり懇願するような瞳で見下ろした。
「お願い。天理……」
「な、に……」
侯輝は焦る俺の手を握り指を絡めてくる。そしてそのままゆっくりと俺の股間に持っていく。侯輝のそこはもう緩やかに勃ち上がっていて、俺の手に熱を伝えてくる。俺はその感触と、目の前の侯輝の色っぽい姿に思わず息を呑んだ。侯輝は俺の手ごと握って上下に擦るように動かし始める。
「おま、え……」
言いたい事が頭の中をぐるぐると回る。けれど何一つ言葉にできず成り行きを眺めてしまう。拒否しないのかよ俺。と頭の片隅で自分が言った。
「ごめん…天理…俺毎日天理を想ってシてる」
毎日ってお前。俺と笑顔でまた明日なんて言ってた日も、軽く喧嘩した日もか?
「本当に本当に好きなんだ…天理を待つって言ったけどホントはちょっとだけ辛くて…お願い助けて天理」
そんな縋る目で見るなよ馬鹿。断れなくなるだろ。
「……分かったよ。仕方ないな」
「え!?いいの?」
「ああ…一回、だけだぞ?」
そう言うと侯輝が嬉しそうにうん!と答えた後ちゅっと頬にキスしてきたが、俺はそれを咎める事もなく無視して体を起こした。
ベッドの上に胡座を組んで座り直すと、侯輝にも向かい合うように促した。
侯輝は俺の前にぺたりと座る。
さっさとやって満足させてしまえと俺は自分のモノを取り出して手に取るとさっそく扱き始めた。既にほんの少し堅くなっていたのは見なかったことにする。
「あっ待って一緒にやるっ」
慌てたように侯輝も自分の立派に経ちあがったモノを取り出す。ちゃんと勃起時のモノを見るのは始めてだ。あんなモノ俺入れてたのか、よく入ったな…
「んっ……ふぅ……っ」「はっ……はっ……」
吐息を漏らす声だけが部屋に響く。しかしすぐに俺をじっと見つめる侯輝の視線を感じて落ち着かなくなった。
「そんなに見んなよ……」
俺が抗議の声を上げると侯輝は自身のモノに手を添えながらじっと見つめた目をそらさない。そういえば最初のあの日はバックだったから顔はほとんど見られて無かったのか。
「ヤダ。一瞬たりとも見逃したくない。全部みたい」
侯輝のその真剣な眼差しが恥ずかしさを煽る。自分のモノがピクリと反応したのも考えない事にする。
「……っ」
視線から逃れる様に自分のモノへ集中させると侯輝は更に顔を近づけてきた。
「ね、先っぽ、どんな感じ?」
「どうって……」
「こう?」
侯輝は少し掠れた声で聞きながら俺の亀頭に親指の腹を当ててぐりぐりしてくる。
「うぁっ……ばっ触んなっ自分のだけに集中しろっ」
その手を払いのけようとすると侯輝はその手を掴んで自身のモノに触れさせた。
「ちょっ」
「可愛い天理。ね、俺のも触って?」
侯輝が俺の手を掴んだまま、俺の指を使って自分のものを扱いていく。
「やめ、ろっ」「あっ…キモチぃ…天理」
俺が慌てて手を引こうとするが、侯輝はしっかりと掴んで離さなかった。更に少しにじり寄って脚を絡めさせてくると逆の手で俺のもまた弄り始めた。
「うっぁだから、やめ、ろって」
お互いの吐息が届きそうな距離で互いのモノをすき合っていく。何やってんだ俺と思ってるはずなのに抵抗を忘れてしまう。快楽に流されてるだけだ、仕方ないんだと自分に情けない言い訳をする。侯輝はそんな俺を記憶に焼き付ける勢いでガン見しながら手を動かしていた。
「あ、ぁ……っ」「はは、気持ちいい?俺も、はっ、は、は、は、」
俺が声を漏らすと侯輝は嬉しそうに笑う。その笑い方が犬っぽくてちょっと可愛かった。ああもう、なんだよこの俺の感想は。もうどうにでもなれ!
「っ……もう、ちょいこっち」
「!こう?」
自分のイイ所に導いてやると嬉しそうに擦り付けてくる。俺はそれが何だかおかしくて、つい笑ってしまった。
「お前、ホント、に、ワンコだな」
「なにっそれ」
「褒めてんだ、から喜べよ」
野性味がある癖に素直で可愛いようなとこがさ。
「嬉しいけど、俺はわんわんじゃなくて狼だよ」
「知ってるよ」
全く人の言う事聞かないわんわんだよお前は。
「じゃあさ、名前呼んで?」
「……」
名前なんて読んだらまるで…必要ないだろう?無いはずだ。
「っねえ天理」
そんなしおらしく縋る様な目で見てくる癖に手ぇしっかり動かしてんじゃねぇっ
「……っ侯輝」
「もっと、もっと呼んで」
侯輝は嬉しそうに俺の手を握り上下に動かす。俺はされるがままにされるしかない。
「俺も呼ぶ。天理の名前呼びたい」
「好きに、しろよ」
侯輝は俺の耳元に口を寄せると、低い声で囁いた。
「愛してる、天理……」「っ」
ぞくりと背中に何か走る。そんな事言われたって俺は応えられないって言ってるだろ。なのに。侯輝は息を荒らげながら少し嬉しそうな顔をする。ああ、クソ。
「はぁっ……はぁ……天理、今、ココ、ピクってしたよね。もっと呼ぶね?…天理、愛してる、天理」
「んっ…う、ぁっ…」
もう一度耳元で囁かれるとまたゾクゾクと全身が粟立つ。誤魔化すように侯輝のソレを握る手を早めると、侯輝も俺の名を呼びながら、俺のソレをすく速度を上げた。ああ、ダメだ気持ちいい。どんどん流されていく、次第に俺を見つめる侯輝の金色の視線にすら体が疼きはじめた。
「はぁっ、はぁっああ、キモチいいよ、天理、もっと、呼んで天理」
「んぅ、ぁっ、は……ぅ侯、輝」
侯輝は更に近づくと俺の腰を引き寄せ、自分のモノと俺のモノを束ねるとそのまま扱き始めた。
「天理、はあっ、はあっ、あっ」
「うっ、ぁっ、侯、んっ、ああっ」
俺の肩に顔を埋めて侯輝が息を乱していく。熱い吐息と汗ばんできた体から香ってくる侯輝の匂いが俺の思考を奪っていった。一人でシている時とは明らかに異なる熱量が俺の中に渦巻いて暑くて堪らない。侯輝は俺の首筋に顔を寄せると荒れる吐息の合間に大きく息を吸い込んだ。段々早くなる手の動きに俺も翻弄されていく。お互いのモノから溢れる先走りが混ざり合い、更に滑りをよくしていった。俺のモノも限界まで張り詰め、ビクビクと脈打っている。
「うぁっ……も、出そっだ」
「うんっ、俺もっ、ねぇっ天理…」
手の動きはそのままに、俺の首筋に埋めていた顔を上げると侯輝は潤んだ目で俺を見た。その目は情欲に濡れていて、その目に映る俺も同じ顔をしているのに気づくと恥ずかしさが込み上げて目を反らす。
「キスっ、キスしたい……!」
侯輝は甘える様に言うと俺に顔を近づける。
「っ!」
俺はそれを拒否する事が出来ずに目を閉じた。
「んん…っ!!」「っあ!」
侯輝が俺の唇に唇を重ねると互いに握る爆発寸前だったモノがドクンと脈打ち勢い良く白濁が手の中に吐き出された。
「はー……はぁ……はっ」「はっ……ん…は…」
唇が離れただ荒い呼吸を繰り返す。少し落ち着くと思い出したかのように侯輝がちり紙に手を伸ばし互いの手の白濁を拭った。
俺に好意がある侯輝はともかく”お友達”にオナニー見せるばかりに留まらず兜合わせしてキスまでするか?普通。こいつは真剣に俺の事好きで、俺はその想いに応える事もできない癖にただ流されるばっかりで。俺はただの快楽主義かよ。俺は相も変わらず侯輝が俺に送り続ける熱い視線に、恥ずかしさと気まずさで目を反らしていると不意に声をかけられた。
「……ねえ、天理」
俺はその声の方に目を向けると侯輝が真剣な眼差しを向けてきた。俺はそれに戸惑いながらも応える。
「何、だ……」
「俺、これからも天理の事想い続けるからね」
「……お前はいいのかよ、こんな好きでも無いのに流されて、その、平気で抜き合いするような奴でも」
ホントに平気かどうかは俺自身よく分からない…というか俺がお前をどう思ってるか分からないんだよ。いい歳してとんだポンコツだ。俺の言葉を聞いた侯輝は少し考える様な仕草をして答えた。
「俺も……確かに最初は興味本意だったけど、今は違うよ。俺は天理が好きだよ」
「っ」
まっすぐに届けられる言葉に俺は思わず顔を赤らめる。何度も何度も届けられるその言葉。そんな事を言われても俺はどうしたら良いんだろうな。俺はお前に何も返せないって分かってるのに。そんな事を考えながら黙って俯いていると突然抱きしめられてしまった。
「なっ!?ちょっ!侯輝!離れろって」
お前の言葉と態度に高鳴る心臓の音が聞かれたくなくて焦る様に突き放そうと腕に力を入れるが侯輝はびくともしない。俺が諦めて大人しくすると、俺の音を確かめる様にぎゅっと抱き締めた。
「……例えばそんな事にはなって欲しくないけどさ、天理に誰か好きな人ができるまで俺の側にいてよ?今はそれだけでいいから。ね?」
「……分かったよ。こんな俺でもいいって言うなら」
俺はそう呟きながら、この胸のモヤモヤがなんなのか分からず、誤魔化すように侯輝の背中に手を回していた。
「……ありがとう、天理。大好き、愛してる。俺だけの、天理……」
侯輝はそう言うと、やっぱりどうしていいか困惑する俺の頬に手を添え、俺の額にキスをした。
「ぅぅ……」
「ふふっ可愛いなぁ俺の事好きになーれ♪」
「馬鹿、も、寝るぞ」
俺が呆れて横になると、侯輝は俺の頭を撫でながら言った。
「おやすみ、天理」
「……お休み、侯輝」
お前の事、好きになれたら楽しいのかな。そんな事を考えながらそのまま眠りについた。
翌朝、バタバタと慌ただしい気配で目が覚めると火急の報せと伝え来た女官により旧普の貴族の反抗勢力が反乱を起こしたとの報せが入る。せっかく天理と二人きりの休みだったのにといじけそうになりながらも素早く支度を進める侯輝に「これからも側にいるから、きっちり仕事してこい王様」と言うと「うん!」と嬉しそうに侯輝は笑うと王の顔に戻り反乱鎮圧対応の為に部屋から出ていった。
そろそろ顔なじみになってきた女官に手引きされ裏口から下城すると、表から登城し直し、その日は俺も支援の為に休日返上で内務省で対応にあたった。侯輝の指示の元、鎮圧に向かった葉金により、反乱はほどなくして収まった。
[newpage]
それから一月程が経ち情勢が落ち着いてくると、侯輝はかねてより予定していた豫の本国、夏凌に一旦戻る事になった。王の執務室に呼ばれると侯輝より豫への同行の内示を受ける。
「承知致しました。お供させて頂きます」
情勢は落ち着いてきてはおり道中も護衛はつけるが、念の為、戦えるような支度をしておけ。あとこっちは先日の稟議書だ進めてくれていい」
「支度の件、心得ました。稟議の件、ありがとうございます」書類を受け取ると、今すぐ見てというオーラを感じたのでぴらりと捲るといつも通りメモが挟んである事に気づく。『天理の事は俺が命に代えても守るからね!』王が臣下を守ってどーする。武芸はからっきしだが精霊でちょっとくらい自分の身は守れるってのに過保護な王だ。俺は苦笑いをしつつ、侯輝の気持ちをありがたく受け取ることにした。
「……分かりました。お心遣い感謝します。」そう一礼すると侯輝は満足した様に笑った。
「それではまた後日な」
「はい」
俺はそう返事をすると、執務室を後にした。内務省の官舎に戻ると、さて、と気合を入れ、早速今日の分の業務に取り掛かった。豫の国への出張の為、小早川に引き継ぎ連絡事項を纏めていく。豫の出身でもある小早川から豫の情報を聞き出しておく事にした。
「豫の本国で今、内政預かってる宰相の金公ってどんな人だ?」内務書類でいくらか文書でのやり取りはしているが、直接合うのははじめてになる。文書から見て取れるのはまず、筆跡が優美で美しい。そして文章からも伝わるその知性、思慮深さ、それでいて親しみやすい人柄が滲み出ている。
「金公様ですか。眉目秀麗、スマートさが人の形して歩いてる様な方で社交界でも華と謳われる方です。一夜限りの噂も絶えない方ですが実は本命がいるとかどうとか」
「ほぉ」やっぱり蛮族蛮族言ってたのは普の方だけだったか。
「またその外見と、明晰な頭脳により近年豫が安定した発展を遂げているのは金公様のお陰ですね。輝王の信任も厚いですよ」
「ふぅん」まあこれだけの間、侯輝が本国離れられるくらいだしな。
「ただその物腰の柔らかさに嘗めてかかった方が返り討ちにあって気づいたら中央から外されてたり、言う事を聞かざるを得なくなったりしますね」
「一筋縄ではいかない感じか。お手柔らかに願いたいところだな。前のやる気の無い上司も困りもんだがサボれない上司も困る」苦笑しながら言うと、小早川はクスリと笑って言った。
「大丈夫です。清水さんはサボる為には頑張る方ですから、きっと気に入られますよ♪オススメのお店リストアップしときましたので楽しんできてください♪」
「それもどうなんだ、まぁありがとな」手渡されたリストを出張資料の脇に入れておく。
日が暮れてその日の業務を終わらせると宿舎に戻り出張の旅支度をすると、その日は早めに就寝した。
翌朝、朝鳥の鳴き声と共に起き朝食を取り身支度を整えると、宿舎を出る。
城門に向かうと侯輝と王の護衛の一団が出立の準備を進めていた。ガチャガチャと旅用の軽鎧の音が響く中、侯輝がシャキッと王の顔をして指示を飛ばしていた。ああしていれば、それなりに年相応な王なのだが、なにゆえ俺の前だとデレデレなのか。
「おはよう、清水」
「おはようございます、夏侯王。本日よりよろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく頼む」
侯輝の側に控える護衛の1人が俺を見て言った。
「あれ?もしかして噂の内務の姫様?」
「ん?」誰か他にいるのか?俺が首を傾げてキョロキョロしていると、侯輝が笑いを堪えながら答えてくれた。
「あー、そうだな。そう呼ばれてるみたいだな」
「んなっ……!」俺が?!全っ然姫って感じじゃないだろ俺は!なんだってそんな呼称ついてんだ!豫の感覚おかしいだろ!
「ははは、天…清水は美人だからな」
「いりませんよ、そんな二つ名」
誰が美人だ。てかお前がちょいちょい俺に対する感情を公で洩らしてるからじゃないのか?!
「まあまあ、そう言うな。似合ってるぞ、じゃ、出立するぞ」
似合ってねぇよ。王に乗る馬車に王付きの者として同乗できるのはありがたいがそれもそう呼ばれる理由か!?表面上平静にしつつ憤慨していると、先に馬車に乗った侯輝が手を差し出してくる。なんだその手は?
「さ、お手をどうぞ、姫?」ぶっとばすぞ?「お戯れも程々に」
「ははは、悪い」
そう言いつつも悪びれない侯輝に俺はため息をつくしかない。しぶしぶ俺は差し出された手を取ると馬車に乗り込んだ。
「それでは出発します」
護衛達が馬に鞭をいれると、ゆっくりと馬車が進み出す。
「今日は天気も良いし、気持ちいい旅になりそうだ」
「そうですね。万一に備えて動ける格好にはしてきましたが、私は戦闘は不得手です。基本は護衛にお任せと考えておいてよろしいですか?」
万一の時は王の盾くらいなっておきたい所だが自分自身で戦う事も得意な侯輝には俺は邪魔だろう。
「ああ、それでいい。まあその時は俺が守ってやるからな。姫?」
お戯れも程々になさって下さいね。「ホントにぶっとばすぞ?」
「今本音と建前逆じゃなかったか清水(汗)」
「冗談ですよ、半分くらい」
「おいこら」
ふっと笑うと俺は窓の外を見た。侯輝も同じように外を見る。窓から見える風景は草原と森と山と川。この辺りはまだ平和だなと思う。
「清水、そっちの森は妖怪の類いが出るらしいな」
指す方向を見ると確かに薄気味悪そうな森が広がっていた。目を凝らすと少し闇の精霊が漂っているように見える。何かがこちらをじっと見ている気がする…微かに未知の恐怖を覚えて視線を侯輝に戻した。
「さしもの王も妖術は不得手でしょう?出てきても大人しくしてくださいね」
喜び勇んで出ていこうとする姿が目に浮かんだ。
「あ、うん、分かっているぞ」ホントかよ。
道中は遠巻きに野犬がチラホラと見かけられたが流石にこの集団に襲いかかってくるほど愚かではなかったようだ。小さな声でせっかくカッコいいとこ見せようと思ったのに…と呟く侯輝に思わず吹き出しそうになる。馬車から声は漏れても姿は見えないだろうからだろう、そっと横に座る俺の手を握ると耳元に口を寄せて囁いた。
「天理、着いたらお忍びデートしよ?俺の国をいっぱい紹介するよ」
お前な…本国の方がお前の顔知れ渡ってるだろうが!忍べるか!そうでなくても目立つんだよお前。だがしかしまぁ「……被り物をして大人しくして頂けるのならば」そう言うと侯輝は無言で顔を輝かせると握る手を小さくブンブンと振った。ホントにガキだなぁ。
しばらくして森を抜けるとまだ新しい城壁に囲まれた夏凌の街が見えてきた。街に近づくと道も整備されて行き交う人も増えた。ここからでも活気がありそうな気配がする。城門まで辿り着くと、門番が王の馬車に敬礼し門が開かれると馬車の窓の隙間から街並みが見えた。
「ここが俺の生まれ育った故郷、豫の王都、夏凌だ」
城門を潜ると、そこは賑やかな城下町だった。
「これは……思っていた以上に栄えていますね」
「ああ、俺が即位した時はまだ荒れていた街に人を集めて商売も盛んにしてな。俺が王に即位してからは、どんどん良くなっているぞ」
得意気に話す侯輝を尻目に興味深く眺める。まだ古い家も残っていたが着々と取り壊しと再建築が進められており区画も整備され、人の往来も多く、店も多い。何より人々が活き活きとしている。
「なるほど、良い王様のようですね」
「ああ、俺の自慢だ」
侯輝が誇らしげに胸を張る。
「さ、このまま王城に向かう、宰相が手ぐすね引いて待っているはずだ。お前にも引き合わせよう」
「金公殿ですよね。なかなかのやり手と伺いました」
「ああ、そうだな。この国の内政が上手く回っているのも、あいつがいるからだな」
「それは楽しみです」
「おう、会えば分かるぞ」
馬車は街中を通り抜け、城の前の広場に停まった。
「さ、着いたぞ」
馬車から降りると、目の前に巨大な王城の門が聳え立っている。
衛兵が門が開くと、侯輝に連れられ城内に進んだ。通りすがる衛兵達が侯輝に敬礼していく。
「随分慕われてるんですね」
「まあな、俺の事を慕ってくれる奴らがいて、俺が王になって良かったと思って貰えるように頑張って来たからな」
「そうですか」なるの嫌だって言ってたけど頑張ったんだな侯輝。そんな侯輝を見て少し嬉しくなった。
「ん?どうした?」
「いえ、何でもありませんよ」
「帰ったぞ!金公!」
王の間にたどり着くと侯輝はそう扉を開けながら叫んだ。
すると奥から一人の男が歩いてくる。一目見てその人が豫の宰相、金公だと察しがついた。まず規格外の優男であるその容姿はプラチナブロンドの髪と切れ長の目、整った鼻梁に薄い形のいい口。まるで彫刻の様な美貌に均整の取れた体格の上に優美に纏った宰相服は凡人が切れば豪奢にも見えようが彼が纏えば引き立て役だ。俺は小早川の言葉を思い出しうっかり、うわぁスマートが人の形をして歩いてる…と呟きそうになるのを全力で抑えた。
「お帰りなさいませ、夏侯王。道中ご無事で何よりです」
金公はその姿に見合う仕草で侯輝に挨拶をした。
「ああ、ただいま。変わりないか?」
「はい、滞りなく」
「そうか良かった。金公、紹介する。あっちの内務ナンバー2の清水だ。今回は俺の帰国に同行させた。」
「初めまして、清水です。いつも文でのやり取りばかりでしたので、こうして直接会うのは初めてですね。お会いできて嬉しいです」
「こちらこそお会いできて光栄です。私は宰相の金公と申します」
金公は俺を少しだけじっと見ると微笑んで会釈を返した。と、侯輝が微妙に割って入る。
「さて二人とも積もる話は俺の執務室へ行ってからしようか!」
侯輝が俺の肩を押して別室へと移ろうとするのを内心おい!と思っていると金公がクスりと笑っているのが見えた。
聞かれても問題ないレベルの政況の話をしながら衛兵を伴って王の執務室に辿り着くと侯輝が金公にいつも通り頼むと言うと金公がおもむろに魅了の魔法と思われる精霊魔法を衛兵に唱え始めた。
『汝は我が親友也、汝我の願いを聞き給え』
「はい…何なりとお申し付けください…」
『今からこの部屋に人を近づけさせないように。それとこれから聞こえた事は次に私に会った瞬間に忘れる様に』
「わかりました…」
衛兵達は術の最中夢見心地でいたが金公が執務室に入るといつも通りの顔に戻り扉の前に立った。なるほど精神系の精霊魔法の使い手でもあるのか。こりゃ的に回したら厄介だ。人払いをさせつつ秘密の会話をできる様にさせてるのか。3人が部屋に入ると侯輝が素に戻って大きく伸びをした。
「あーー!帰ってきたー!じゃあ改めて紹介するね公!この清水こと天理が俺のお嫁さんだよ!」
そしておもむろに金公に俺を再紹介しはじめた。が
「ちょっと待てぇ!」恋人ですら無い前に誰が嫁だ!しまったつい素で反射的に突っ込んでしまう。
「やはりそうなのかい?輝君」
おい、あんたも乗っかるな宰相。
「ああ、そうだよ!公!とっても可愛いでしょ!あげないからね!」
可愛いはないだろ、あとお前のものになった覚えはない。俺を無視して話を進めるな。
「ああ、なかなか綺麗なお嫁さんを捕まえてきたね。分かっているよ輝君。そんな無粋な事はしないさ」
おい、あんた分かってて乗っかってるだろ。絶対そうだろ。
「公ならそう言ってくれると思った!天理とはもうラブラブなんだ!」
お前は素で願望を垂れ流してるだけだな!そうだな!
「よし黙れ侯輝」げしっと侯輝の足を蹴る。
「いたーい、酷いよ天理」
「初対面の相手に誤った情報を植え付けるな」
「ふむ、なるほど仲が良さそうだね」
「うん!俺と天理は愛し合ってるからね!」
金公が俺達を微笑ましそうに見ているのを見て俺は慌てて否定する!
「違いますので!というか、あんたも分かってて乗っかっているだろ」
もう面倒なのでそのままのノリで話すことにした。
金公はクスクスと笑う。
「いやいや天理君も見ていて楽しいからつい、ね。でもお似合いだと思うけれど、実際はどこまで進んでいるんだい?」
「う、そ、れは」
友人以上…だと思うが、体の関係は持ってしまっている……あれは命令扱いだったからノーカウントなのか?ああでもキスと抜き合いは合意でやったな俺。うわ、他人に話せる状態じゃない…恥ずかしくて回答に逡巡していると侯輝がチラリとこちらを見る。そして口を開く
「それは内緒だよ!ね!天理!」
「あ、ああ」
フォローすまん、侯輝。侯輝がそう言うと金公は少し複雑な状況であることをプライベートでもその頭脳を遺憾なく発揮できるらしく察してくれた様子だった。
「ふふ、そうかい?でも仲が良さそうで良かったよ。輝君にやっと伴侶ができそうだからね」
他人にはそう見えるのか…俺はまだ侯輝をどう思ってるのか整理がついていないのに。
「でも俺はもうお嫁さんにするつもりでいるけどね」
おい侯輝。お前は何を言っているんだ。金公が微笑みながら俺に話しかけてくる。
「ふふふ、式が楽しみですね」
「ありがとう公!」
おいおいおいおいおい!待ってくれ!俺に拒否権は無いのか?!
「ところで、仕事の話なのですが……」
金公は侯輝の言葉をさらりと流して仕事の話を始めたので俺はほっとしつつ、気を取り直して政務について金公とのやり取りを交わした。こちらの内務状況は人材不足による滞りが廻先生の召還により解消に向かいつつあるものの、依然として旧体制が根強い部分も多く難航する案件が多い為金公に助言を求め、金公は俺の質問に対応指示を出していく。昼食を挟みつつ政務を進めた。決済が必要な問題も目の前に国王の侯輝がいるのでスムーズに進む。普時代の稟議がいつまでも返ってこない頃を思うと涙がでそうだ。
「さて、こんなところですかね」
「はい。金宰相のおかげで大分進みました。噂通りのご手腕でした。助かりました。」
これはこっちに来て良かったな。連れてきてくれた侯輝に心の中で感謝しておく。
「ふふ、そうですか。私もそちらに貴方が居てくださるおかげで随分と楽が出来ていますよ。さて、今晩は夏侯王の帰還と未来のお妃……もとい清水さんをお迎えする宴を催す予定です。それまで時間があるので、よろしければ城内を案内されては?輝君」
「うん!そうだね!俺も見回りたいし、じゃあ行こうか天理!」
「あ、ああ」
三人揃って公用の顔に戻り王の執務室を出ると宰相の執務室の前で金公に見送られ、俺は侯輝に城内をあちこちと案内された。
お気に入りの場所などを自慢げに話ながら城内の役人や侍女達にも挨拶を交わしていく。気のせいか侍女達の俺に向ける視線が興味津々だし、侯輝の俺の紹介の仕方が恋人のそれっぽい。待ってくれまだ恋人じゃないんだ!俺と侯輝の寝所の支度を進めないでくれ!これ外堀を埋められてないか?! そんな俺の内心を知らずに侯輝は俺に話しかけてくる。
「どうだ清水、良いところだろう?」
「そうですね…城も美しいですし、皆さん朗らかで優秀な方達ばかりですし」
本当に良い所だ。侍女の察しが良すぎてまだ臣下でしかない俺の寝床がなぜか王の寝所になりそうなんだがな!
「そうか?そう言って貰えると嬉しいぞ」
嬉しそうに笑う侯輝。
「ええ」
この笑顔を曇らせるわけにはいかないな…… そう思っているとふと美しい弦楽器の音が聴こえた。
「ああ、これは育海だな。宮廷楽士だ。今晩の晩餐会で演奏してくれるはずだ」
「へぇ、それは楽しみですね」
美しい音だったのだが、なぜか…少しだけ悲しみを帯びた音色に感じられた。
その音に近づくと人気の無い庭に辿り着く。そこには琵琶を爪弾く濡れた様な青髪の女性が居た。
「育海!久しぶりだな!」
「夏侯王、お帰りなさいませ」
演奏を止めて振り返った育海という女性は侯輝の知り合いのようだ。
「ああ!ただいま!相変わらず良い腕してるな!」
「ありがと、うございます……」
彼女は礼を言うとまた弦を弾き始めた。なんだか俺を見ようとしないのは気のせいか?侯輝はキョロキョロと辺りを見回して人気が無いのを確認すると少し声音を下げ素で話し始めた。
「ねえ育海、天理は俺のプライベート知ってるから普通に話しても大丈夫だよ?あ、天理、彼女は育海、幼なじみなんだ」
侯輝にそう言われると俺を見て少しだけ複雑そうな顔をしたあと、それでも侯輝を見て嬉しそうな顔をした。
「そ、そう?じゃあ遠慮なく……」
「初めまして、俺は清水天理と言います。元普の役人でしたが今は…夏侯王に使えさせてもらってます」
「清水…さんね、私は宮廷楽士の五十嵐育海って言うの。よろしくね」
「こちらこそ」
「ふふ、良かったら私の演奏聴いていって?」
「ありがとう」
そう言って彼女が琵琶を爪弾くと美しい音色に合わせて静かにでも心が揺さぶられるような歌声が響いた。異国語による歌唱に大学の頃少しだけ覚えたその単語の意味を当てはめていく。これは……失恋の唄では……!幼なじみ(侯輝)が帰ってきた時にわざわざ歌う歌じゃないだろう。侯輝は歌詞が分からないのか旋律だけ聞き入っている。先程からの彼女の侯輝への態度から察するにもしや…侯輝は気づいてないのか?俺はとたんに居心地が悪くなった。
「ふふ、どうだった?私の演奏」
「うん!やっぱり育海の奏でる音が一番好きだな!」
無邪気に笑う侯輝。
「明鳴……!もう!またそんな事ばっかり!」
顔を少し赤らめて侯輝に笑いかける彼女を見ていると、ああ本当に好きなんだろうなぁと思う。こうして並んでいると美しい彼女は侯輝にお似合いだ、彼女の一途な思いが侯輝に通じていたなら侯輝の横に立つのは…そう思っていたらチクチクと心が痛んだ気がした。おい俺は何を考えてんだ?彼女の様に侯輝への想いも定めて無い癖に。侯輝からの好意に呑気に胡座をかきすぎじゃないのか俺。冷水をぶっかけられた気分にさせられた。
「明鳴、その、良ければ今晩の宴で一緒に演奏しない?」
「お!いいね!じゃあ俺も演奏しようかな!」
「やったー!!じゃあ今夜はよろしくね!じゃあ私はこれで失礼するわ」
そう言って彼女は琵琶を片手に去っていった。俺は一連のやり取りが堪らなくなって侯輝に話しかけた。
「なあ、侯輝」
「ん?なあに?」
「あ、いや、なんでもない」
彼女の事どう思ってんだとか、彼女の想いに気づいているのか?なんて恋人ですらない俺が聞いてどうするってんだ。
「そっか、何かあったら言ってね」
「ああ、ありがとう」
そう言って微笑む侯輝に俺は上手く笑えていただろうか?
侯輝に城内を一通り案内してもらうと宴の時刻に近づいていたらしい。
「そろそろ戻らなきゃな」
「そうですね」
俺達は宴の会場である大広間に向かうと既に大勢の人が来ていて賑わっていた。宰相の金公がこちらに気がつき、手を振ってきた。侯輝が上座へと座り、俺は侯輝の後ろに控えようとすると金公がすぐ横の席を勧めてきた。
「貴方も歓迎される側ですからこちらですよ。清水さん」
そう言われて俺は少しだけ迷ったが結局隣に座っていた。
「ありがとうございます」
そう言って俺が座ると侯輝が立ち上がり良く通る声で酒宴の開幕を告げる。
「皆、今日は良く集まってくれた!金公、そして皆、俺が留守の間よく国を守ってくれていた!本当にありがとう!感謝する!これからもこの国が平和であり続けるように、共に頑張ってくれ!乾杯!」
「「「「「乾杯!!!!」」」」」
皆で乾杯をすると、各々食事や酒を楽しみ始めた。久しぶり帰ってきた王と留守を預かっていた臣下達が次々と挨拶に来る。昼間もそう感じていたが侯輝は随分慕われているようだ。俺も内務絡みで金公や何人かと会話を交わすと、俺にも気さくに話しかけてくれる人達ばかりでほっと胸をなでおろした。本当に良い国にできてるんだな侯輝。嬉しく思いながら郷土料理に舌鼓を打っていると、琵琶の音と共に踊り子達が舞を披露してくれた。琵琶の弾き手は育海、さすがに今は楽しげな曲だ。
「お、じゃあ俺も久々に弾くか!」
「明鳴!」
侯輝が弦楽器を手に取り育海の曲に合わせて弾き始めると場は更に盛り上がった。酔っぱらって一緒に踊り出す者もいる。楽しそうに弾く二人を俺は何とも言えない気持ちで眺めた。
「二人は仲が良いんですね」
「ええ、そうですね。夏侯王と育海さんは幼なじみだそうですから。……羨ましいですか?」
「え?」
「お二人の関係ですよ」
「いや…私は…王が誰かと仲が良いことは良いことだと…」
俺と侯輝は体の関係があり、侯輝から好意を告げられていても、まだはっきりしない俺のせいで恋人同士ではないのだ。そんな俺が羨ましいだとか、どうこう言う事はできない。
「おや?…そうですね。私もお二人がお似合いだと思いましたよ。夏侯王は良い王になるでしょう。そして彼を一途に思う幼なじみの彼女と結ばれ良い夫婦になれば皆に祝福されこの国は更なる繁栄を遂げるでしょうね。しかし夏侯王はそのつもりは無い様です。もし貴方が夏侯王の気持ちに応えるつもりがないなら、貴方はどうして夏侯王を振らないのです?」
金公は侯輝の前では言わなかったが流石に痛い所を突いてくる。宰相としてこの国を預かる立場もあるのだろう。そうだ、さっさと振ればいい、なのに俺はぐだぐだと侯輝の好意を手放す事ができないでいる。侯輝に好かれているのは嬉しいのだ、だが例えば育海の様にまっすぐに侯輝を好きになる自信がない。ああそうか、俺は彼女が…
「前言撤回します、やはり羨ましい様です。すみません、優柔不断で」
「いえ、良いんですよ。王の恋心がもし弄ばれているようなら臣下としても放っておけませんでしたが、貴方は思いの外真面目に考えすぎてるようです」そう言って金公は笑った。「まあ、でも、私は貴方と夏侯王の関係は上手くいくと思いますけどね」
「そう…でしょうか」
侯輝の横なら彼女の方が似合うと思うんだが。そう思いながら二人を眺めていると、ふ…と金公が髪に触れてきた。え?
「貴方はもう少し自信を持っていいですよ?白い肌と黒髪、整った顔立ちは美しいですし、その瞳は深い知性を感じます。貴方は魅力的だ」
俺の髪に触れられながら、じっと見つめてそう言われると近くに居た女官から黄色い悲鳴が上がる。何やってんだあんた。だが良く分からないが褒めてくれてるらしい
「ありがとうございます?」
「ふふふっここまで無反応だと私も自信なくしそうです。どうです?夏侯王と比べてみて心の動きは」
「え?ええと」
あいつに迫られた時?やたら恥ずかしいような。あれ?あれ?俺がまごついていると金公はふふっと笑って言った。
「まあ、今はそれで良いでしょう。心でよく感じてみてください。きっと答えが見えてきますよ」
金公はそう言って俺から離れていった。心でか……。
宴もたけなわとなり、皆それぞれ思い思いに楽しんでいると、金公が立ち上がった。金公は皆の見て言う。
「さあ、宴は終わりです!皆さん!お疲れ様でした!明日は休みなのでゆっくり休んでくださいね!さ、お開きにしましょう!」
そう言うと、女官達が酒瓶を回収し始めた。皆もそれに習って帰り支度を始める。
侯輝が帰ろうとすると育海が名残惜しそうに侯輝に話しかけているのが見えた。また少しチクチクと心がするのを感じながらも久々の幼なじみ同士だしなと先に戻る事にする。
俺、このまま侯輝の寝所に行っていいのか?今からどこか別の寝床を探した方が…そんな事を考えて一人広間を出る。とは言えもう夜も更けて今から城内の者に手を煩わせるわけにもいかず、土地勘のない城外で今から宿も…と考えながら結局王の寝所まできてしまった。なんだかベッドで寝る気になれなかったので居間の長椅子で横になることにしたのだが、やはり落ち着かない。俺、ここにいて良いんだろうか?俺は…侯輝の事が…そんな事を考えながら目を瞑っているといつの間にか眠っていた。未明、ふと気配がして目が覚める。侯輝か?起き上がろうとした瞬間鈍器で殴られた様な衝撃が頭に走り、そのまま意識を失った。
「ねぇ、目を覚まして?」
「う…」
俺は顔に衝撃を受けると覚醒された。ここはどこだ?薄暗い部屋に篝火の光がいくつか見える。俺は頭がガンガン痛むのを感じて顔をしかめた。手足は拘束されて動けない。俺は何をしていたんだっけ?そうだ俺は確か王城の侯輝の寝室に……。俺は自分の置かれた状況を確認しようと辺りを見回そうとすると目の前に誰かが立っているのに気付いた。そしてその姿に安心した瞬間違和感を覚える。
「起きた?」
「お前は……」
「俺は侯輝だよ」
侯輝?侯輝はこんなに冷たい目で俺を見たりしない。
「侯輝?お前は誰だ」
「俺は俺だよ」
声も姿はそっくりだが俺はこいつが偽物だと分かる。だが、【侯輝】の名は俺が夏侯輝に付けた愛称だ。ごくごく一部の人間にしか知られていないその名を名乗るこいつは一体何なんだ?
「まだ知らないんだね、俺の事。まあ、これから知ればいいよ」
そう言うとそいつは俺に近づいてきた。
「やめろ」
俺は逃げようとするが縛られているせいで上手く動けない。そしてそのまま押し倒される。
「俺は侯輝の捨てられた影…のような者だよ。俺はずっと見ていたよ。出会ったあの日からずっと。俺は天理が欲しい」
俺の名も知っている。本当にお前は誰なんだ?
「俺は……俺はお前なんか欲しくない!」
「そうなんだね…残念だよ」
そう悲しそうな顔をすると男は俺の服に手をかけた。
「俺は天理が好きだ。全部俺のものにしたい、閉じ込めておきたい」
そう言いながら俺の衣服を脱がせると俺の首筋を舐める。俺は怖くて震えていた。
「いやだ、やめろ!」
「ああ、可愛いな。大丈夫、優しくしてやるよ」
そう言って俺の胸元に吸い付いてきた。俺が抵抗しようとすると?
「大人しくして」と言って俺の頬を思い切り叩いた。
「痛っ」俺が痛がると「痛い?じゃあもっと痛みあげるね」そう言って今度は腹を殴ってきた。
「ぐっ」俺は苦しさに咳き込む。なんなんだこいつは!
「ああ、やっぱり綺麗だ。白い肌、黒い髪、瞳も美しい……俺だけのものだ」
そう言うと俺の身体中に口付けてくる。
「嫌だ、触るな、離せ!」俺が暴れるのを押さえつけるように「うるさいな黙って」と俺の口に布を押し込んできた。
「んー!うううう」
「はははっ大人しく俺を受け入れてくれれば優しくしてやったのに可愛そうな天理」
黙れと言いたい言葉はもう塞がれて紡げなかった。
「やっと手に入れた。俺のものになった。もう誰にも渡さない。俺が守ってあげるから」
そう言うと侯輝の姿の男?が覆い被さってくる。
「さあ、愛してあげるからね」
助けてくれ侯輝!俺は心の中で叫んだ。下腹部に伸ばされた手の感触に俺の全身は粟立つ。
「恥ずかしがらないで」
そう言うと俺の下半身に手を這わせてきた。後孔に指を入れられて俺は声にならない悲鳴を上げる。
「ここ、気持ちいい?」
そう言うと中でバラバラと動かされた。
「うう」
「ほら、だんだん柔らかくなってきた。感じてるんだね。嬉しいよ」
そう言うとさらに激しく動かし始めた。俺は必死に首を振って否定する。
「嘘は良くないなぁ」
そう言って俺の陰茎を掴むと上下に擦り始めた。
「うー!うう」
「ふふ、感じているんでしょ?正直になって?」
そう言って扱く速度を上げていく。
「うううう」俺は涙を流しながら首を横に振る。
「強情だな…虐め甲斐がありそう」
そう言って俺の口から布を取ると「さあ、認めて」と耳元で囁かれる。
「誰、が!」
「へぇ、まだそんな余裕があるんだ」
睨み付けても楽しそうにそう言って俺の亀頭を強く握る。
「ああっ」
「痛い?でもすぐに良くなるさ」
俺の竿を握りしめて上下にしごき始める。抵抗する素振りを見せると更に強くしごく。俺が反応すると「ふふ可愛い」と笑った。
涙で視界が霞む。俺の乳首に吸い付いてビクッと反応すると舌で転がす様に舐めた。
「うう……」
俺は身を捩る。
「敏感なんだね」
そう言うと俺の腰を掴み、自分の股間を俺の尻に押し付ける。
「ねえ、俺もこんなになって辛いんだ。もういいよね?挿れるよ」
そう言うと俺の足を持ち上げ、自分のモノを俺の後孔に押し付けてくる。俺は血の気が引くのを覚えながら必死で懇願した。
「頼む!やめてくれ!ほかの事ならするからそれだけは!」
嫌だ!嫌だ!俺は恐怖に震えていた。抵抗しないと!精霊!どうするんだっけ?誰か、助けて!嫌だ!頭の中で必死に侯輝の顔を声を思い出す。
「大丈夫、優しくしてあげるから」
俺がパニックに陥っているとそう言って一気に突き刺してきた。
「ああああ!!!」
俺は絶叫した。あまりの痛みと悲しみに涙が溢れ出す。
「ああ、可愛いよ」
そう言って俺の頬にキスしてくるとゆっくりと動き出した。
「痛いっ嫌だ!助けてくれ侯輝!」俺は泣き叫ぶ。
「俺も侯輝だってば、大丈夫、すぐ慣れるよ」そう言うと激しく出し入れを始めた。
「嫌だ!やめてくれ!お願いだからやめてくれ!」
俺は狂ったように叫んだが男は止まらなかった。
「ああ、可愛いな、可愛いよ」
そう言って俺の首筋を舐める。俺は怖くて震えていた。何もかもそっくりだったが俺はこの男を侯輝だと思えなかった。
俺は……あの侯輝でないとダメだった。
「大丈夫、大丈夫、優しくしてやるからね」
そう言うと俺の下腹部に手を伸ばして陰茎を掴んで上下に擦り始めた。そしてそのまま扱かれ続けた。やがて絶頂に達しそうになる。
「イっちゃいなよ」
そう言われると同時に亀頭を爪で引っ掻かれた。その瞬間頭が真っ白になる程の快楽に襲われ達してしまった。
「ふふっ気持ち良かった?」
そう言いながらまた動かし始める。繰り返し繰り返し侯輝の名を叫びながら助けを求めたが悪夢は終わらなかった。何を言われても心に響かず、長い長い悪夢がようやく終わるとようやく後孔から引き抜かれる。痛みが走り血が流れ出たのを感じた。
「綺麗だよ、とても可愛くて美しかった……次はもっと可愛くしてあげるからね」
そういうと俺の髪を撫でてきた。そしてそのまま意識を失った。
それから何日も何度も犯されて涙も枯れてきた頃、碌に食事も喉が通らず衰弱し朦朧とする中、遠くで戦いの声が聴こえてくるのをぼんやりと聞いていた。
「ああ、やっと来たんだね、間抜けな半身は」
そう言うと俺の頬に手を添えてきた。俺はビクッとする。
「ああ、そんなに怯えないで。大丈夫、何もしないよ」そう言うと俺の頬に口付けをした。
「さあ、一緒にいこうか」
そう言って俺を抱きかかえると数日ぶりに捕らわれていた部屋を出て歩き始めた。環境が変わったからか少しだけ回った頭でこのそっくりな男はなぜここまで執着するんだろうと考えたが結論は出なかった。俺はもう抵抗もせずぐったりと抱えられていた。しばらく歩くと広い場所に出た。そこでは二つの軍が戦っているのが見えた。向かってくるのは豫の軍勢、もう守り手は滅んだ筈の普の旗を掲げている。
「ちょっと普の残党に力を貸してあげたんだ。見てごらん間抜けな豫の国王がようやくおでましだよ」
示した方向を見ると侯輝がいた。
「侯輝!」俺は掠れる声で叫んでいた。
「天理ぃ!!!」
侯輝は俺に気がつくと目を見開いて一直線にかけてくる。
「さてちょっと待っててね決着をつけるから」
侯輝に似た男は俺を地に下ろすと侯輝に向き直る。
「お前は誰だ!天理を返せえええ!!!」問答無用で斬りかかるが「なぁにそれ?」と闇を纏った剣で受け流して蹴りを入れ侯輝はいとも簡単に吹っ飛んだ。
「ほら、早くしないと天理が死んじゃうよ」
そう言って俺を指差す。俺はもう起き上がる力も残されておらず顔をなんとか傾ける程度しかできなかった。
「おまえ!天理に何をしたあ!!」
俺に駆け寄ろうとする侯輝の前に侯輝そっくりな男は立ち塞がり幾合をも剣を交える。
「あんたこそ何してんの?天理は俺のものにしちゃうからね?まあ、もう俺のものだけどね」
侯輝はそれに激昂する。
「そこをどけえ!!」
「そうやってさ、真っ直ぐに天理だけ見てないから間抜けにも俺にさらわれちゃうんだよ?半身の俺」
そう言うと侯輝の目の前に一瞬にして現れ、闇纏う剣で腹に一撃入れると侯輝はどさりと倒れた。
「うわああっ!」
俺は思わず目を瞑っていた。侯輝、侯輝、侯輝!すまない俺が不甲斐ないばかりに。お前の足をひっぱった。
「さあ、これで邪魔者はいなくなったよ。行こうか、愛しい俺の天理」
そう言って俺を抱えようとするが俺は最後の力をふりしぼり、精神を集中して心の中で精霊に呼び掛けた。俺の周囲に風水炎土の精霊が浮かび上がる。精霊達でそっくりなその男を囲むと閃光の円柱を作り出し内部で爆発させた。内部から言葉に鳴らないそっくりな男の叫びが聞こえる。精霊に拘束を解かせると侯輝に這う這うの体で倒れる侯輝に這い寄った。
「侯輝、侯輝、目を覚ましてくれ」
俺は泣きながら血塗れの侯輝にすがりつく。
「天……理……」
並外れた生命力でまだ息のあった侯輝はそう言うと力の無い手で俺を抱きしめる。だが俺が行方不明だった間まともに寝食していないのだろう、いきいきとしていた肌にはクマが浮かんでおり、頬がこけてきていた。
「侯輝、ごめん侯輝、俺はお前の事が好きだったんだ。やっと気づけたんだ俺は馬鹿だ。俺のせいでこんなにしてしまった」
俺は泣き崩れていた。
「嬉しいな、やっと…両想いになれたね天理」
そう言うと俺を優しく抱き締める。俺は侯輝を優しく抱きしめ返すと俺は侯輝にキスをした。
「ちょっと…間抜けな半身の癖して俺の天理と何してんの?ねえ天理、俺の相手してよ」
ほとんど黒焦げに近い傷を負った侯輝そっくりな男は侯輝の足に剣を突き立てた。
「ぐああっ」
悲鳴をあげる侯輝に構わず踏みつけようとする。
「やめろ!」
俺は魔力が尽きかけていたが、もう一度精霊に呼び掛けるとそっくりな男を切り裂き燃やしズタズタにする。
「ぐぁ…ぁ…..まだこんな力が….いい、のか?天理、俺を殺せば、その間抜けな半身も死ぬ、ぞ?」
「……どういう事だ?」
「やっぱり天理も…何も知らないんだね。もういいや、さあ俺を殺してよ…その間抜けがこれ以上愛されなくなるし、天理に殺されるなら本望だ」
このそっくりな男が悪あがきで嘘をついているのではないのは、この数日の悪夢の中で少しだけ分かるようになってしまっていた。だが、どんなにそっくりでも俺はこいつは愛せない。俺には侯輝だけだ。しかし侯輝の傷は浅くない。俺も衰弱しきった体で無理やり使った魔法で生命力が削られていた。ならば。
「侯輝」俺は侯輝に向き直り見つめた。
「天理…」俺達は見つめ合うと口付けを交わす。
「一緒に逝ってくれるか?」
「うん、一緒だよ」侯輝は力なくも嬉しそうににこりと笑った。
「あ”ああ、やっと手に入れたのに……俺だって天理を愛せるのに!俺の方が愛してるのに!俺が!俺が!…あああ!!あ”あ”あああああ!!!」
倒れていたそっくりな男は真っ黒なモヤを纏い足から奇怪な立ち上がり方をすると闇の剣で俺ごと侯輝を貫いた。
「ぐ…愛してる、侯、輝、今度…生まれてこれたら…その時は…お前と」
「俺、も愛してるよ…目が…覚めたら…生まれた時には…天理が居て欲しいな…」
「わ、がまま…言う…な…馬鹿」
「え、へ…..それで…結婚して…ずっと…一緒に…」
触れる侯輝の感触がどんどん分からなくなる。
「あ”ぁ…天理…だけ…気づ……のに」
近くの闇も気配が消える。意識が遠退く。今度生まれ変わったら最初からやり直せるだろうか。
今度はお前と一生を共に。
そう思いながら俺は意識を失い、その生を終えた。精霊が俺達の魂をどこかに運ぶ気がした。
俺は夢を見た。見たことないキラキラとした街に俺と侯輝が一緒にいる。見慣れない少しだけオシャレな装束で手を繋ぎどこかをゆっくりと歩いている。左手には揃いの指輪。ああ、幸せそうだ。いつか…