千の始まりの葉
年下×年上(侯輝×天理)
1P 三人称
2P 候輝視点 R18(侯輝×天理)
3P 候輝視点 R18(侯輝×天理×候輝)
4P 三人称
元々土台にはあったのですが、風呂敷を広げてしまいました。
あと、設定上一番のイケメンを出したんですが表現力の問題でお伝えしきれておりません。まぁ万人がキラキラ好きとも限りませんしね(言い訳コーナー)
始まりは二人だった。空の神と大地の神が二人。二人は少しずついろんな子を産み出した。その中には微かに光る者はいたが、今の夜空の星の様に小さく瞬くのみだった。光と闇といった境はなく、まだ混沌としたモノクロの世界だったが、それは当たり前で、穏やかに平穏に暮らしていた。
そんな穏やかな暮らしが好きな空の神と大地の神だったが、少しだけ退屈した二人は「ちょっとだけ賑やかなのもいいかもな」と、やはり穏やかに話しながら交わると太陽の神が生まれた。太陽の神は空の神の懐で燦然と駆け回るとモノクロの世界を無限の彩りで満たし、活気と喜びをもたらした。空の神と大地の神は喜び太陽の神に感謝した。
だが光が強くなると同時にモノクロの世界の暗さよりも更に深く重い闇が強くなる事を知る事となった。太陽の神は光であり闇でもあった。世界の怒りや悲しみも強くなると空の神と大地の神も心を痛めた。空の神と大地の神は少しだけ光を弱めて欲しいと太陽の神にお願いした。喜んで欲しかった太陽の神はそんな二人に衝撃を受ける。太陽の神は争いや不幸の原因となった自らの半身たる闇の部分を忌み嫌い箱を用意すると、闇の部分を切り離して箱の中に封じ込めた。
こうして太陽の神は光だけの存在となり世界に喜びと活気だけを与える存在になるはずだった。だが空の神と大地の神は太陽の神の闇の部分も等しく愛していた。二人の神は太陽の神の行いを悲しく思い、闇の半身を取り戻す様に伝えた。「何が悪いのですか?世界から争いも悲しみも無くなり、喜びに満ちた世界になったんだからこれでいいじゃないですか」太陽の神は二人の悲しみが理解できず闇の半身は封じられたままとなった。二人はそれが光を弱めてくれとお願いした事がきっかけとなったであろう事を心から後悔した。闇の半身を哀れに思った二人はひっそりと闇の半身を探し解放しようとしたが太陽の神に見つかり闇の半身が封じられた箱を壊して殺そうとしたので大地の神は懐に闇の半身の箱を隠した。太陽の神から守ることはできたがこれで解放もできなくなってしまった。空の神と大地の神の悲しみは水の神を産み出し雨を降らす事もあったが、光溢れた世界は喜びと平和な日々を続けていた。闇の半身を置き去りにして。
時は流れ世界は人の世に移り変わる。神々の始まりは聖典に残る程度で多くは知られていない。伝承では空の神と大地の神の魂は多くの時間を経てうつろぎその営みを精霊達に任せて魂だけが漂っているとされ、始まりの二人の神の子の神々も神官が祈れば応える程度の存在になったと伝わっている。
[newpage]
天理が遺跡調査の護衛依頼を冒険者ギルドに出す事が分かると俺はスケジュール調整をして俺が担当できるようにした。他の冒険者から「また天理の護衛依頼を侯輝が独り占めしてるー!」とブーイングが聞こえたが気にせず引き受けた。何がなんでも付いて行きたかった。俺の担当なら一緒にいれるから。「あんまり他の連中の顰蹙買うなよ?まあお前が護衛してくれた方が俺も気楽だけどな」天理に苦笑気味に言われたが、俺を心配してくれてありがとなと付け加えられると、分かって貰えてくれている事が嬉しくて抱き付こうとしたら流石に止めろと拒否られたけど。
今回は学院からの依頼ではなく、とある貴族が古代語に精通した人物に遺跡調査を依頼したいと学院への依頼があり、それを天理が担当する事になった為で、その為の護衛の調整も依頼に含まれていたらしい。
遺跡はその貴族の領地で最近発見され、先遣調査隊によりモンスターはおおよそ駆逐されていたが、古代語による扉や遺物が進路を阻み調査が進んでいない場所が多くあるのだという。
遺跡に辿り着き調査を開始する。情報通り特に大きな障害もなく天理と調査済みのマップを片手に進めなかったと問題とされている古代語の書かれた扉にたどり着いた。押しても引いても開かず鍵穴もなくカラクリの類いでもなさそうだ。
「で、何て書いてあるの天理、合言葉を言えとか?」
「『統治者選定の間』とあるな。ここはかつて治めるものを議論なり儀式なりして決定する場所だったのかもな。しかしこれだけだと入り方は分からんな」
手がかりがないか他の部屋を探索する事にする。先遣隊の調査では書庫らしきものがあるがあると記されていたのでそちらを目指した。扉を開けるとそこには確かに古びた書物があった。この遺跡が棄てられてから想定される年月の割に保存状態が良く、情報が集められそうだ。
「おおっ!これはなかなか……」
「嬉しそうだね天理」
書物を見て少しだけテンションが上がった天理にクスクスと指摘するとハッとした表情で恥ずかしそうに一つ咳払いすると早速天理はこの施設に関する資料を探し始めた。
「じゃあ俺は周囲の警戒をしておくね」
「頼んだ侯輝」
古代語が読めない俺はこういった時、手持ち無沙汰になる。先遣隊の調査で粗方片付いている事は分かっているが未調査区域から何か出てくるかもしれない。万一の事があれば天理を守る事ができるのは自分だけなのだから警戒は厳重にする。天理が棚から資料をいくつか集めると机に広げ、ぱらぱらと読み進めていく。ブツブツと独り言を言っている間は集中しているので俺は邪魔しないようにしつつ無防備な天理を守るべく集中して警戒する。
しばらくすると天理は調査の結果を唐突に話し始めた。
「この遺跡はここいらの土地の神の神殿だったらしい。少し特殊なのは統治者との契約儀式が行われていて、人間側が幾人か候補者を推挙しこの遺跡で土地の神に選定して貰い統治者を決定していたんだと。『統治者選定の間』はその為の部屋だな。土地の神に選ばれた統治者が治めている間は豊作になったり災害が少なくなったりしたんだとさ」
「へぇ~いい事なんじゃない?そういうの見返りに生贄捧げさせる神様とかもいるってのにさ」
「ああ。祭りで作物を供えたりはしてたみたいだがな。だが大規模な戦争を境に記録は途絶え、土地の神の事も選定の儀式の事も忘れられ今に至る訳だ。ちなみに土地神が守護していたのは現在ここの領主である貴族の領地より内側だな」
「じゃあさ、ここに領主連れてきて儀式して選定されたらここの土地潤っちゃう?」
「土地神がまだ居れば可能性はあるが、信仰するものもいないだろうし存在できているか怪しいな。残滓でも残っていれば今から信仰しますって誓ったら復活するかもしれんが」
俺も天理も神官じゃないし信仰心ともあまり縁がないから神の力は感じ取れない。天理によれば大地の精霊は少しだけ強いらしい。少しは可能性があるのかもしれない。
「でも試したら面白そうだよね。それであの扉の開け方は?」
「なんでもこの土地で栽培されたコメからできた酒を掲げて統治者の選定を受けに来た事を宣言すれば開くらしい」
「領主に相談かな?ダメ元だけど、もし土地の神様から恩恵受けられるならラッキーだよね」
俺達は一通り調査を終え依頼主である領主の館に戻ると、天理から調査結果レポートを渡し土地神の件を従者に伝え、更に遺跡で得た資料をいくつか渡した。従者は一旦領主の元に報告に行きしばらくすると戻ってきた。
「お待たせしました。主は興味を持たれてぜひその遺跡に伺いたいとの事です。儀式に必要なコメの酒はこちらで用意致しますので、また後日ご同行して頂く事を追加の依頼とさせてください」
天理は今日の調査分の達成報酬と完了証を貰うと学院に戻り追加依頼の件を報告、冒険者ギルドへも俺への報酬と追加依頼の手続きをした。そして後日改めて出発することになった。
従者から連絡があった日に再び領主の館を訪れると、従者の横に男が立っていた。身なりからすると依頼主である領主だろうか。随分と若い。そして何よりも外見が稀に見る程の美しさで、華やかな顔立ち、整えられたプラチナの髪、優美な所作がさぞやモテる事だろうと思わせた。俺の好みじゃないけど。
「はじめまして、私はこの領地を治める[[rb:公金 > きみがね]]と申します。先日は遺跡の調査ありがとうございました。件の儀式の件について興味が沸き是非とも試してみたくなりまたご足労いただきました。本日はよろしくお願いいたします」
丁寧すぎる挨拶だったが貴族の儀礼的なものだろうと納得し、俺達は軽く自己紹介を済ませるとすぐに出発した。今回は領主が向かう事もあり現地までは馬車で向かった。てっきりこの公金に似合う派手な馬車でも出てくるのかと思ったが、割と簡素な普通の馬車だった。造りや乗り心地が良く天理が歓心していた。
「普通の馬車なんだね!てっきり派手派手なのが出てくるのかと思ったんだけど」
「おいこら、侯輝っ」
天理は俺を窘めつつも少しだけ笑っていた所を見ると案外似たようなことを思っていたのだろう。だが公金は気にも留めず笑顔で返した。
「あはははそう思っていたんだね。私の好みじゃないから地味なんだ。馬はいい子達だけどね?」
そう言いながら馬を操る姿も様になっていた。どうやら公金は天理よりも一つ年上でしか無いらしく実際に若い様だ。代々短命な家系らしく先代も老齢となる前に亡くなり、領地を継いだらしい。話好きらしく興味深そうに俺達に様々な事を聞いてきて会話を楽しんだ。
「ところで君たち結婚しているのかい?それとも恋人?」
「結婚してるよ!」
「俺達男同士なのによくいきなり気づけましたね」
天理は少し照れた様子で公金の観察眼に少し驚きながらも答えていた。
「君たちの仲の良さとお互いへの想いの強さを感じたからかな?」
「まあ俺と天理を見てたら当然そう思うよね!」
ふふんと胸を張ると「俺のどこを見てたらそうなんだよ」呆れ気味に言う天理。
「天理君は言葉はちょっと乱暴そうにしていても侯輝君に向ける目線がとても暖かい。侯輝君はフレンドリーにお話してくれるけど私に凄く警戒して天理君に近づけまいとさりげなく牽制しているよね?だからかな」
「悪いけどこればっかりはね。牽制だって分かって貰えた方がいいし」と不敵に笑うと「肝に銘じておくよ」とやはり手強そうに笑って返された。実際控えてくれてるみたいだけど、少ーしだけ天理に向ける視線に嗜好的な好意が混じってるんだよね。天理はその辺意外とガードが緩い、緩いっていうかノーガードだ。ノーガードの癖に気づくと相手の懐に突っ込んでKOさせてる時がある。油断はしないよ。
「侯輝……俺ってそんなにわかりやすいか?」
「うん。天理のはすぐわかるよ」
二人して笑うと天理はしょっぱい顔をした。うんうん、肝に命じてね。難しそうだけど。
「実は天理君は以前学院で見た事があってね。私も生徒だったんだ。学科は違うけどね」
「え、10年も前でよく覚えてますね」
「当時有名だったんだよ。精霊適性4つのレアスキル持ちにもかかわらず精霊科ではなく古代史科に入った変わり者がいるってね。面白そうだったから見に行ったんだ。声は聴けなかったけど外見や雰囲気は今でも覚えているよ」
「流石に10年前と同じではないのでは」
天理は物好きな人も居るものだと呆れていたけど、もし俺も学院に居たら見に行っちゃうけどね。天理はもうちょっとその辺自覚して欲しいな。
「確かに外見は大人になっていたんだけどね。それでも明らかに雰囲気が違っていたから。一見薄氷の様な瞳の君に春告げ鳥が現れて溶かしていったんだとね」
ずいぶんと詩的な表現をするものだと思ったが、この美しい男の口から出てくると違和感がない。
「それは…また…なんというか」
天理は困ったように笑っているが靡く気配はない。うんうん。
「つまり俺は天理の運命の相手ってことだよね!」
その薄氷を溶かすのに随分時間がかかったけれども。
「はいはい」
天理が恥ずかしそうに目線を明後日に向けながら手をひらひらさせるのを見て俺は勝ち誇った気分になった。
「お熱い事で何よりだね」
馬車は同中トラブルも無く再び遺跡に辿り着いた。公金自身は型通りの剣術や精霊魔法は学び鍛練もしていても実践はほぼ無いとの事だったが、いる気配を感じさせない程の従者がその点をカバーする為、護衛は基本は考える必要は無く案内に専念して欲しいとの事だった。
『統治者選定の間』の扉の前に辿り着く。従者が儀式に必要なコメの酒が入った徳利とおちょこが入った盆に乗せ、公金に渡す。先ほどまで朗らかに話していた公金が領主の顔に戻りそれを受け取ると扉の前で恭しく捧げもちながら宣言した。
「私は現在この地を治める者、土地の神よ貴方にそれを認めて貰う為にここに参上した。どうかこの扉を開けて私を招き入れて欲しい」
公金がそう言うと重厚な音を立てて重々しい観音開きの扉がゆっくりと開かれ二人くらいは通れそうな通路が見えた。何かが飛び出てくる事もない。おおと一同から小さな歓声が上がる。
「やったね天理。調査通りだ」
念のため警戒しつつも小さな声で天理に声をかける。
「これで何も無かったら茶番だったからヒヤヒヤしてたけどな。さてここから先は未調査区域だ」
天理もほっとしつつ嬉しそうだったがすぐに引き締めた。
「了解」
前に立ち万一の戦闘に備えると従者も横についた。
「まあ伝承の通りなら神の領域にモンスターの類がいるとも思えないが…」
「その辺りは私が土地の神に認められるかどうかにもかかっているだろうね。さ、先に進もう」
俺、従者、公金、天理が扉に入ると扉はまた静かに閉じる。天理がランタンを持ち照らしながら通路を進むと10畳ほどの広い部屋に辿りついた。そこは部屋を仕切る様な大きな薄紙の戸が閉まる部屋の中に日が薄っすらと差し込む程度なれど不思議と暗さを感じない部屋だった。板張りの部屋の中央には草を編んだ絨毯…畳が敷いてあり、そこに2畳近い足の短い卓があった。
「これうちと同じワ式ってやつかな?靴脱いだ方がいい?」
「君たちも知っているんだね。マナーに従いそうする事にしよう」
一同は靴を脱ぎ畳に上がる。公金が卓にコメの酒の徳利を置き座ると後ろに控える様に座った。公金が姿勢を正す。
「土地の神よ、我が名、公金の名の元に貴方にこの地の統治者たることを認めて頂きたい」
公金がそう言うと部屋の中の雰囲気が変わる。天理は精霊達が静かにざわめいているのを感じている様だ。精霊達にとってこの場所は居心地が良いらく敵意は感じられないらしい。公金の後ろにいた従者が何かを感じ取り剣に手をかけるが公金の制止により抜く事はなかった。公金の正面の卓が朧気に揺れると次第に真っ白な髭を蓄えた老人の姿が浮かび上がってくる。服は希守が着ている着物に近い。その姿は薄っすらと透き通っており向こう側が見えた。
「わしを呼んだか人の子よ。わしはこの地を守護する神。よもや再び人と交える機会が訪れようとはな。礼もわきまえておる。感心じゃ。折角じゃ、一つ頂こうか」
土地神は手を招く様に動かすと公金が用意したコメの酒を引き寄せるとおちょこに注ぎ飲み干す。
「ふむ大分味が変わったの。しかし美味い酒じゃ。さすがはこの地の酒よ。さて、公金、お主がこの土地を治めるというのか?」
土地神はコメの酒に満足しながら公金を見つめる。
「はい、貴方様に認めて頂きたく参上致しました」
「ふむ、では早速だがわしの問いに答えよ。この地を治める者よ。この地に何を望む」
「この地を治めるものとして、貴方にこの地の繁栄を望みます」
「ならばわしに何を捧げる」
「貴方様にこの土地に住まう者達の、安寧よりもたらされたこの酒を、実りの時期に捧げましょう」
「ほっほっほっそれは豊かにせねばならぬな」
「どうかこの土地を私と共に守って下さい」
「良いだろう。その願い聞き届けよう。そなたをこの地を統べる者として認めよう」
土地神と公金の契約の儀式は、穏やかに、謡うように、流れ、結ばれた。土地神の認める言葉で天理は部屋の中の精霊達が喜びの声を上げているのを感じ取っている様だった。
「それにしても、公金、そなた、神の力が借りたいならわしに頼まんでもそっちの二人に頼めばよかろうに。わしは下っ端じゃからどちらの御方かはわからんが」
土地神が俺と天理を交互にみやる。
「え?」
「は?」
その言葉に判然としない風に驚く公金と天理をよそに、俺の心臓がドキリと跳ねる。忘れていた。神であるならば俺の魂に神の力が継がれている事もわかるのかもしれない。どうやら闇の半身である事までは分からないようだけれど。災いをもたらす闇の半身を継いでいる事など知られたくない。特に……天理には。この場に通用するか分からないがしらばっくれるしかない。
「えっ…何のこと?」
「ふむ……見間違えかの。しばらく神として扱われとらんかったから鈍ったかのう」
ほっほっほっと笑いながら酒をあおる。一瞬俺の方を意味ありげに見ていたがすぐに視線を外した。気づかれていたかもしれないが、流してくれた様だ。土地神に心の隅で感謝しておく。ただ一点気になったの土地神が『二人に』と言った事だ。俺はともかく天理にも。もしかして天理も何か神の魂を継いでいる?天理の反応を見た感じ本人はそう思っていない様だけども。俺も神としての記憶は最近思い出したばかりだし断片的にしか無いから、天理も思い出してないのかもしれない。一体どの神の魂を継いでいるのか…万一太陽神の生まれ変わりなら俺を消しにくるかもしれない。天理に殺されるのはいいけど、天理に憎しみの目で見られるのは嫌だ。忘れもしない、太陽神が半身である俺を忌み嫌い箱に閉じ込めた時の表情を、殺そうとした時のあの表情を。
「侯輝?どうした?」
気づくと土地神と公金の儀式は終わり、天理が心配そうに覗き込んでいた。
「ん?なんでも無いよ神様とかはじめて見るしいろいろびっくりしてただけ」
慌てて取り繕う俺を天理は少しだけ怪訝にしながらも「そうだな」と一応納得してくれた。
「では、私はこれで失礼します。ではまた実りの時期に」
土地神と挨拶を交わし、公金が立ち上がると従者も立ち上がり公金についていく。
「すまない、公金さん、もう少し残っていいだろうか。少し土地神に聞きたい事があるんだ」
古代史に興味のある天理の事だ、おそらく過去を知る土地神の話を聞きたいのだろう。だが天理が何の神の魂を継いでいるか分からないが、天理に記憶を取り戻して欲しくない俺は表面上また始まったよと言う体で帰りたい意思を示してみるが、「少しだけだから、な?」と天理に請われてしまうと了承するしかなかった。
「それは興味深い話が聞けそうだね、私も是非同席させて…」「公金様、本日の公務のご予定に無理やりこの儀式を入れております。御用が住んだのでしたら速やかに館にお帰り頂きたいのですが」
公金が残って天理と土地神の話を聞きたがるも従者にすかさず引き戻された。従者は帰りの護衛は一人でも問題無いと続け、天理は帰りは俺達が徒歩になるのは問題ないと告げる。公金は残念そうにしていたが従者に促され帰っていった。帰りがけに今回の依頼の完了証を従者より天理が預かる。思いがけない収穫があったと報酬は2倍にもはずんでくれた上、公金は何か力になれる事があればいつでも頼って欲しいと言ってくれて、天理は嬉しそうだった。公金が帰った後、天理は早速土地神と話を始めた。
「さて、何用かの。用があるならコメの酒の一つも貰いたい所じゃが、そなたは久しぶりにこの地を治める者をここに導いてくれた上にコメの酒も飲む事ができた。その感謝として今回はタダにしてやろうぞ。ふぉっほっほ!」
神らしくこれまでのあらましは見ていたらしい。土地神は大分機嫌が良く天理に話を促す、俺は土地神と接触を持つ事で天理が神の記憶を思い出さないかヒヤヒヤしていたが、天理はいつも通り研究対象である古代の事を目をキラキラさせながら聞いている。なんでもこの辺りは元々狩猟が主体の生活がなされていたが、東より伝わったコメと優れた統治者の出現により安定した農業が盛んとなり土地神の好きな酒の原料であるコメの名産地だったらしい。人間の文明の事は良く分からないらしくその辺りの話は聞き出せないようだったが、酒の話だけは饒舌に語った。戦乱により交流が途絶えてしまった事を本当に残念そうにしていた。一通り聞き終わると最後は土地神から天理に質問した。
「天理よ、お前さん本当に何も覚えてらんのかの?わしにはお前さんが土地神や大地に属する神では無い事くらいしか分からんが」
天理はやはり判然としない風にして首を傾げている。俺も分からないフリをしていたが、内心がっかりしていた。土地神の話から、天理が大地の神の分体である下位神である線は消えた。天理が太陽の神だけはあって欲しくない。太陽の神でなくとも闇の半身は忌むべき対象ではあろうが、太陽の神以外である事が確定すれば少しはマシだったのに。
「?先ほども俺と侯輝を見て何か言っていましたがどういう意味ですか?俺は俺自身ただの人間としか認識してませんが」
まるで別の何者かみたいじゃないか、なあ?と天理はちらりと俺も見ながら土地神にそう返した。お願い天理、思い出さないで。できるだけ興味がないフリをして頷いておく。
「俺は俺だよ、天理。神とか言われても困っちゃうよね」
天理はどうやら自分の事が神だとか言われたところで実感がないらしく、特に気にもしていないようだ。俺は少しほっとした。しかし土地神の方は何か考え込んでいる様子だ。
「ふぉっほっほ、そうじゃな。すまんかったのう。ただの人間という割には精霊には大分好かれとるようじゃがの。そうか、覚えておらんか。久しぶりに他のと話せると思ったがまぁ良いじゃろう。公金やお前さんの話も面白かったしな」
土地神は残念そうな顔を一瞬チラリとこちらを見つつ少し笑って言った。俺が黙っているのを黙認してくれるらしい。
「ま、知らんでもええ事なんじゃろうよ。お前さん達はこれからも仲良く暮らすと良かろうて」
土地神はそう言って俺達を送り出そうとしたが、俺はどうしても聞きたい事があった。天理程ではないとしても、俺の神としての記憶もほとんどないから、神の情報が欲しい。闇の半身としての俺は自分を封じた太陽の神がその後どうなったのか知らないのだ。神として存在しているなら、とうの昔に自分を再封印なり殺しに来そうなのにまだ来ていない。太陽の神は神官達の伝承にかつて存在していたと残される程度で詳細が分からなかった。太陽自体は存在しているから神の力自体は機能しているようだが、祈っても力を貸してくれない為、神としては存在しておらず自分と同じように人に魂を移してどこかに存在しているのでは?と思うのだ。できれば天理がそうでない確証が欲しい。
「ねぇ、土地神様、ここっていつでも土地神様に会えるの?」
「そうさのう、そうそう会う事は出来ぬが、呼べば来るぞ」
実のところ神としての力が弱く実体化できる時間が少ないから力を付ける為にコメの酒を持ってきて欲しいと付け加えられる。ただ単にお酒が好きだからという訳ではない様だ。
「そっかありがとう」
「なんだお前、神に興味が無いんじゃ無かったのか?」
「え、ほら天理がまた何か教えて欲しい時にいつでも聞けるかなと思ってさ」
もちろん自分一人で聞きに来る為だ。天理には聞かれたくない。
「ああ、そうだな、ありがとな」
天理は気を使ってくれたのかと純粋に嬉しそうに笑った。嘘ではないが騙しているかと思うと心がチクりと痛む。
「ほっほっほ、仲良きことは良いことじゃな」
土地神は俺達を微笑ましそうに見つめながら言った。
「ではな、コメの酒楽しみにしておるでの」
土地神はそう言って俺達を送り出した。
俺達は来た道を戻り、都の自宅に戻る。道中、天理が少し興奮しながら「下級と言ったって神官でもないのに神と会話できるなんて貴重な機会を得られてとても有意義だった。コネもできたしな」と喜んでいた。俺はいっそ知らなきゃ良かったとも思いつつも貴重な情報源が得られた事はありがたかったので「良かったね天理」と返しておいた。
自宅に戻り、風呂に入って汗を流してから二人で夕食を取る。食事中、天理は終始上機嫌で、俺が「天理、いつもよりご機嫌だね。そんなに嬉しかった?」と聞くと「いや、お前とこうやって一緒に生活できて幸せだなってふと思ってさ」と微笑んだ。俺はその笑顔が眩しくて思わず目を逸らしてしまった。俺は天理と一緒ならそれでいい。だからどうか、この日常が続きますようにと願わずにはいられなかった。
俺達はベッドに入り、寝間着姿になって就寝の準備をする。俺は天理を抱き寄せてキスをすると、いつも通り愛おしそうに見つめ返してくれる事に安堵する。絶対に離れたくない、そう思いながら自分でも気付かない内に少し強引気味に強く口付けをし、性急に服を脱がすと天理の素肌をろくに観賞することもなく手を進めてしまう。
「侯、輝?」
愛おしそうな瞳はそのままにでも戸惑い気味な声を小さく上げる天理を尻目に、自分の欲望のままに体をまさぐりながら耳元で囁く。
「好きだよ天理」
「ぁ……っ!」
俺の言葉にビクリと反応して、そして少し恥ずかしそうに「ああ、俺もだ」と言ってくれた。そのまま首筋に舌を這わせて胸の突起を摘んで弄ると、小さな吐息が漏れて、もっと聞きたくて、夢中で責め立てる。
「可愛いよ、天理」
「ぁっ!ふぅ……、ん」
次第に大きくなる喘ぎに煽られ、更に強く刺激を与えていくと、その度に恥ずかしそうに可愛い声で鳴いて、俺の理性を奪っていく。
「っ、あ、侯輝っ侯輝」
天理を突き上げていると、ただ切なげに俺の名を呼ぶその表情にたまらなく愛おしくなって、いつもより激しく求めると天理は一層大きく鳴いた。それでも強く抱き締められナカに受け入れて貰えると、抱いているのに包まれている様な感覚になり、なんだか自分が赦されたような気がしてしまった。
俺が俺である為に、天理を愛し続ける為に、俺は、俺自身を封じなければならない。そうしないと俺は、天理に酷いことをしてしまうかもしれないから。
だから、俺は天理を傷付けないように、 闇の力を完全に制御しなければならない。
「侯輝?大丈夫か?」
俺はハッとなって天理の顔を見る。天理はまだ余韻に浸りながらも、いつの間にか出ていた俺の涙を拭ってくれた様だ。
「ごめんね、なんかちょっと幸せ過ぎて逆に不安になっちゃったかな」
えへへと俺は慌てて目元を擦って誤魔化す。
「……俺はずっとお前の傍にいるからな?」
そう言って優しく抱きしめてくれた。
「うん、ありがと」
俺は天理に礼を言いながら、心の中で自分に言い聞かせる。俺は、闇の半身を抑え込み、天理を愛する事ができる強い自分になるんだ。ギュッと天理を抱き締め、抱き締め返されると、俺達はそのまま眠りについた。
目覚める前に夢を見た。でもしばらくしてそれはすぐに夢ではなく、自らに宿る闇の半身の記憶だと気づく。そこは光輝く世界だった。闇の半身としての記憶は太陽の神から切り離された後、すぐに封じられたから、視界的な記憶のほとんどが闇だ。だからこの記憶は太陽の神から切り離される前、一つだった頃の太陽の神としての記憶だろう。
空を飛んでいた。どこまでも無限に続く空。その世界を自分が照らしていた。大地には母である大地の神が、空では父である空の神がそれぞれ温かく見守ってくれていた。空を駆け巡るのは大好きだった。皆を照らせば世界が活気に満ちて二人が喜んでくれたから。でも強い光の影でできた深い闇が争いを招くと、他の神々から疎まれるようになった。自分のおかげで活気に満ちた世界でいられるのに!自分の闇の部分は嫌だったけど、それでも空の神と大地の神は困った様な顔をしながらもそれでも好きでいてくれた。他の神に何と言われようと二人にだけ認めて貰えればそれでいいのだ。
だが少しずつ争いが増えてきて文句が聞こえてくる様になると、ある日、空の神と大地の神は困った顔をしながらそっと告げてきた。
「太陽の神よ、ほんの少しだけでいい、お前の光を弱めてくれないか?そうすれば闇が少し薄くなるだろうから」
視界が真っ黒になった。二人に否定されてしまった!闇が、自分に闇の部分さえ無ければ!二人の前から逃げ出す様に駆け出す。遠くで空の神が何か言っていたけど聞こえなかった。十分に離れた所に来ると箱を作り出す。
「俺に闇の力さえなければ!」
そこで意識が途切れた。
「うわあああ!!」
目を覚ます。夢の中の俺は泣きながら叫んでいた。隣に愛している人の温もりを感じてほっと息をつく。少し無理させてしまった天理を起こしてしまわないか心配になったが疲れて起きる事は無さそうだ。起こさない様にもう少し眠ろうとすると天理が何やら寝言を言い始めた。
「ま……だ……太…陽……神………はお前が………らわ…………まう…だから…」
悲しそうに呟いている。太陽の神?もしかして天理も神の頃の記憶を夢見ている?!悲しそうな夢から早く覚めさせてあげたかったけど、もう少し聞いていれば天理が何の神の魂を継いでいるのか分かるかもしれない。
「ごめ…んな……」
涙が一筋流れた。誰に対して泣いているのか分からないけれど、思わず抱きしめて頭を撫でて慰めてあげると、少しだけ安心したように落ち着くとまた眠りについた。太陽の神で何か悲しい思いをした神だったんだろうか。呼びかけているなら天理が太陽の神では無いと思いたいけれど…
翌朝寝言についてそれとなく聞いてみるも、天理はさっぱり覚えておらず記憶が戻る様子もなかった。
数日後、俺は天理には仕事に出かけると言いながら一人でまた土地神のところへ赴いた。情報をできるだけ引き出せるよう、少しだけ奮発したコメの酒を持ち土地神を尋ねる。前回と同じ様に俺の来訪を歓迎してくれた。
「おお、これは良い物を持って来たのう」
持ってきた[[rb:コメの酒 > マルメカヤ]]を差し出すと嬉しそうに笑って早速開けて飲んでいる。
「いろいろ聞きたい事があって」
「お前さん一人で来たという事はお前さんの伴侶に聞かれたくない事かの?」
前回も俺がしらばっくれていた事を黙認してくれた様に今回も察しが良いようだ。話が早くて助かる。
「うん天理には知られたくない。だから、教えて欲しい」
俺が真剣に頼んでいるのが伝わったのかお猪口を卓に置いて聞いてくれた。
「お前さんは自分が何の神なのかは分かっておるのかの?」
「うん、でもごめん、それはちょっと言えない。でも危害は加えないから」
少なくとも自分の意思ではそう思っている。闇の半身の力を制御できる自信はまだないけど、できるようにならなければならない。
「天理の方は分かっとらんようじゃの」
「そうみたい。天理は俺の前で嘘ついたりしないから。天理が何の神かを知りたかったけど、できれば、そのまま神としての記憶は思い出さずにいて欲しいかな」
そうすれば俺だけの問題で済むから。
「ワシより上位の神が見れば誰だか分かりそうじゃがの。それにしても二人ともワシより力の強い神の魂を宿しておりそうなのに、何やら複雑な事情がありそうじゃのう。それで何を聞きたいんじゃ?」
「俺は人として天理とずっと一緒に居られる方法を探しているんだ。その…万一、万一神の力が暴走とかして天理を傷つける事になるのは嫌だから何か制御できそうな方法がないか聞きたくて」
この気のいい土地神に自分が闇の半身である事を隠しているのは気が引けたが、それを伝えてもきっと迷惑だろし、拒絶されるのも辛かったので、伏せたまま藁をもすがる思いで尋ねてしまった。
土地神はそんな俺の心情を汲んでくれたのか真剣に考え答えてくれた。
「そうさのワシも人の身に宿した神の力をどう制御するのかは分からんが、まずは己の力と向き合う事かの。ワシら神は大自然の中から生まれ出でたる存在、自然と同一視される事が多いが、その力の行使は心より出でたるものじゃ。ワシら土地神であれば豊穣を願い大地を潤わせ、戒めが必要であれば地を揺らす事もある。単に機嫌が良かったり悪かったりもするがの。己が何の神か分かっておるのなら、何を司っておるか見直しその心を制御できるようになれば、自ずと力の暴走も無くなろう」
随分と難しい事を言われた。闇の半身の力は太陽の神が忌み嫌い棄てた部分の集合体だ。自分だって棄てたい位だ。そんな心とどうやって向き合えばいいんだ?俺は途方に暮れてしまい逃げ出したくなった。土地神は俺が考え込んでいる間にちょっとすまんのと言いながら狐の様な大地の精霊?を呼び出し何か用事を頼んでいた。
「……神の力って捨てられないのかな」
かつての太陽の神と同じ事を考えてしまっていて思わず口にしてしまった俺に土地神は呆れた顔をした。
「こりゃまた随分早く逃げ出したもんじゃの。お前さんが何の神か知らんが悪い所ばかり見えておるのかの。何にでも裏表はある。例えば火の神は破壊をつかさどるが、凍える人に暖かさを与える事もできるようにの。もう少し向き直って見るのじゃ。お前さんポジティブに見えて意外と自分の事が嫌いかの?もうお前さんを好いてくれる者がおるんじゃろ?」
そう言って笑った。
「うん…」
確かに天理は俺の事を心から愛してくれている。でも俺の本当の、闇の半身の事を知らないだけだからじゃないのか?知ったら…もしかしたら…と思うと心が張り裂けそうだ。以前おかしくなって天理を襲ってしまった時の恐怖の泣き顔と拒絶の言葉は忘れられない。
「いい返事じゃないのう。お前さん今、神の力を隠しとるから振るってないから、自分は今そうじゃない、天理は知らないだけとか思っとるかの。神の魂はお前さんが生まれてからずっと共にあり一部じゃ。切り離す事はできん。怒ったり喧嘩することもそれなりにあるんじゃろ?それでも天理は一緒に居って受け入れてくれとるなら、そんな自分を受け入れてやったらどうじゃ?」
「俺は、俺は、天理に嫌われたくない……」
「そんな事じゃあ、いつまでたっても神の力の制御はできぬぞ。自分の心を受け入れ手中に納めるとこがそのまま力の制御になるでな。投げ出したなら制御は当然できん」
「……」
果たして受け入れられるだろうか。天理を傷つけるのなんて耐えられないのに。
「そうさな。天理に聞いてみたらどうだ?自分がどんな存在なのか」
「えっ」
天理の言葉を思い出す『大好きだぞ?太陽みたいでキラキラだぞ?かっこいいぞ?』俺に抱かれながらふわふわと微笑し自分をまるで太陽の神かのように言ってくれた。俺を忌み嫌い棄てたはずの太陽の神にだ。太陽の様な存在になりたいとか特に目指した訳でも無いがかつては1つの存在だったから、そう思う事もできるのかもしれない。でも俺にはそうは思えないよ天理。あの時はまだ自分が闇の半身なんて知らなかった、だから純粋に嬉しかった。今、それがこんなに苦しい。
「でも、でも」
「でもじゃない。天理がお前さんを愛してくれてるのなら、お前さんも応えてやらんといかん。お前さんだって天理を愛しておるじゃろ?その気持ちに偽りはないじゃろ?」
「うん」
「じゃあそれをそのまま受け入れてやるのじゃ。大丈夫、天理はお前さんを受け止めてくれるじゃろ。ワシもお前さん達を見守っておるからの。何かあったら助けてやろうぞ」
「ありがとう土地神様」
「ふぉっほっほ。気にせんでいい。お前さん達が幸せになってくれればそれでいいんじゃ。さて、ワシはそろそろ帰ろうかの」
「うん、またね!」
俺が土地神の部屋の扉を抜ける寸前、土地神から声がかかった。
「ワシが呼んだ訳じゃないからの!」
「え?」
「お、何か掴めたか?」
扉が閉まると今一番声が聞きたいけど、会うのが怖い、愛する人の声がすぐ斜め下から聞こえてきた。
声をする方に目を向けると天理が地べたに座り大地の精霊をまるで犬か猫をあやすかのように撫でていた。さっき土地神が呼んでいた狐の様な大地の精霊が撫でられて気持ち良さそうにしている。驚き固まる俺を尻目に天理が大地の精に暇潰しに付き合ってくれた礼と今度はお前にもアブラアゲ?持ってくるなと言いながら土産の酒を手渡すと大地の精は嬉しそうに酒と共に消えた。
「天理!なんでここに?」
仕事は?!やっと動く事を慌てて思い出した俺に天理はゆっくりと立ち上がるとのんびりと答えた。
「んー?お前前回ここに着たあの日から…まあもうちょい前からもだけど様子おかしかったからな。前回の帰り際に土地神にまた会えるか聞いてたからまた行くんだろなと思ったんだよ。でスケジュール確認してこっそり行きそうな日に監視つけて追いかけてきた」
あの日なんてお前、少し雑に抱きやがってと愚痴もいいつつ、[[rb:風の精霊 > シア]]を監視につけていた事を話す。
「黙っててごめん…え、でも一人で?」
比較的安全な道程だとは思うし精霊魔法が使えるとは言え、護衛も無しで天理一人で来るのは危険だ。
「謝らなくていい。大事な事なんだろ?ここへは護衛雇った。他の奴雇うとお前怒るだろうけど、それで俺が怪我したらもっと怒るだろうしな。だからちゃんと雇ってここまで護衛して貰った。先に帰って貰ったよ。とんだ出費だ」
天理は苦笑しながら俺に言う。
「天理……でもだからって追って来なくても」
家で待っていても良かったのに。
「俺な、お前が悩み、話してくれるまで待ってるつもりだったんだよ。年上らしくさ、ドーンと」天理はそう言って笑う。「でもお前が一人でずっと苦しそうにしてるの耐えられなかった。で、堪え性の無かった俺はいい歳して仕事も放ってお前を追っかけてきた揚げ句、お前が話すまで帰らないとここでダダをこねるつもりだった。護衛は返しちまったから俺一人じゃ帰れないし?こんな所に俺一人置いて帰ってしまう様な薄情な男じゃないだろうから無理やり話させられるだろうという打算もあった。酷い奴だよな」自嘲気味に呟くと、「待ってなくてごめんな」と言い切る前に抱き締めた。そっと抱きしめ返してくれる。天理の全てが愛おしかった。今まで待っててくれた、俺の為になりふり構わず来てくれた、その事が嬉しくて涙が出た。
「ほら、そんな顔すんな。土地神からお前の悩みが解決しそうな何かが得られたんじゃないのか?やっぱりまだ…話せないか?」
出てきた瞬間の顔振りからすると少しは何かあったんだろ?と言いつつも微笑しながらも俺の返事を待っている。
「……天理、俺…怖いんだ」
「うん」
話そうとすると震える体を天理は抱きしめた腕で背中を擦ってくれる。温かい手が俺の心も温めてくれると少しずつ力が沸いてきた。
「あのね……」
俺は今までの事を全て話した。俺が太陽の神から忌み嫌われ切り離された闇の半身の魂を継いで生まれてきて、記憶が断片的にある事。闇の半身である事で天理を傷つけてしまうのではないか、嫌われてしまうかもしれないという不安。そして天理がもし太陽の神だったら天理と破滅的な別れが待っているのではないかという恐怖。暴走しないように力を制御するには闇の半身としての心と向き合う必要があると土地神に言われた事を話した。
天理は時折相槌を打ちながら黙って俺の話を聞いていた。
「…途方もない話だな、辛かったな侯輝、話してくれてありがとうな」
天理はまるで自分の事のように辛そうにしながらも少しだけ嬉しそうに笑うと俺の頭を撫でながら優しく言った。撫でながら言われた事を整理しようとしているのか少し考えている。
「あの、天理、俺の事怖く、ない?嫌わない?俺が、闇の半身で…」
「ん?お前、俺の嫌なとことかダメなとこ言ってみろ怒らないから」
天理はそう言うと俺の顔を覗き込む。
「えっと、すぐ怒るとこ、あと、時々意地悪、天然で危なっかしいとこ、遺物見ると俺の事放って構ってくれない、あと隠してるけど怖がり、あと…」指折り数えていると「覚悟してたよりゾロゾロ出てくるなおい!」「ほら怒るー」でも天理が口調の割に全然怒ってない事はもう知ってる。というか天理滅多に本気で怒らない。
「だから怒ってないって、やっぱり嫌なとこ言われると落ち着かないもんだ。でもお前はもっと不安なもん抱えさせられてるんだよな…なあ侯輝、お前はこんな俺でも好きでいてくれるか?」
俺の頬を両手で包んで目を合わせてくる。その瞳には俺が映っていた。
「うん、好き、大好きだよ」
俺は泣きじゃくりながらも答えた。
「ありがとな。お前が好きだって言ってくれるならそれで良いって思えるんだ。まぁそれじゃダメだろってのも分かるけどな。俺も同じだよ、お前のダメなとこもいいとこも引っくるめてお前を愛してる。それじゃダメか?」
「ううっでも天理俺の事全部知らないだけかもしれないし。俺、天理の太陽じゃないよ…俺闇の半身の魂捨てちゃいたい」
天理はぐずる俺を困った様にあやし撫でながらいう。
「ああ、お前に何度か言ったっけな。素じゃなかなか言えないけど。お前の魂が何だろうがお前は俺の太陽だよ」やはり恥ずかしいのか照れながらそれでも真剣に伝えてくる。「それに…それを覚えてるなら他にも言ったろ…その」言いにくそうに口ごもる。沢山愛してるって言ってくれてるけどどれだろうと思い出していると「だから…お前になら食われてもいいとか何されてもいい的なその…お前が俺に対してやらかしてると多分思っている部分も…結構…好き…というか、お前がお前自身を嫌がってても俺はそうじゃないんだよ。だから嫌わないでやってくれよ」と耳まで真っ赤にして俯いている。俺は思わず抱きついた。
「天理、俺、俺も天理にだったらいつ食べられても良いって思ってるからね!?」
ああ俺を受け入れてくれる天理がこの心のまま太陽の神なら良いのに。そうすれば名実ともに1つになれるかな、なんて。
「お、おう」
自分が先に言ったのに言われたら恥ずかしかったのか更にこれ以上無いくらい赤くなりながら続けた。
「お前が今まで心が不安定な感じになってたのって俺絡みだったと思うけど他にはあったか?」
「無い、と思う、俺の中心は天理だったから」
重いと言われたって構わない。土護兄や姉達の前ではちょっとやんちゃしてたと思うけど他は明るくそれこそ太陽の様なキャラでいてたはずだ。特段演技していたつもりもなく。天理の前だけ心が揺れた。
「力の暴走は心の暴走だって土地神は言っていたんだろ?いくら記憶が無かったからって今まで大丈夫だったならお前は大丈夫なんじゃないかって思ったんだよ。だから…俺さえお前の側を離れたらお前の力の制御も安定するんじゃないかって…」
「ヤダ!絶対離れたくない!」
天理から離れたらよく分からないけどきっと爆発しちゃうよ俺。
「だよな。俺も嫌だ。だからそれは無し。これは自惚れだけど…お前が不安になった時俺それなりにお前を安心させてやれてたんだと思うんだよ。だから、お前は俺と一緒にいさえすれば闇の半身だろうが何だろうがずっと大丈夫って思うようにしないか?」
単に俺が側にいたいだけってのが本音でもあるけどなと照れくさそうに笑う。
「うん!うん、そうする一緒に居よ」
俺は泣きながら答えていた。天理と一緒になら闇の半身の心と向き合える気がする。俺にはもうこれ以上ない味方がいるのだから。俺が泣き止むまで天理は撫でてくれていた。
「天理が俺を受け入れてくれるなら、俺、好きになれるかも」
「そうか、ありがとよ」
天理は嬉しげに微笑んでくれた。
「俺、天理の太陽になりたい」
「お前はもう俺にとって太陽だよ」
天理は少し笑って愛おしいものを慈しむような目で俺を見つめながらそう言った。
闇の半身を受け入れたら、そしたら俺はもっと強くなれるかな?そうすれば、俺は本当に天理の太陽の様な存在になれるのだろうか。
俺の心の整理がついたので俺達は日が暮れない内に都の俺達の家へと帰る事にした。急げば夕方前には都に戻れるだろう。道すがら結局天理は何の神の魂を継いでいるのか話ながら帰る。今まで知らなかったし記憶無いし生活に支障は無いけど何も知らないのは目覚めが悪い!と、自分が何者なのか不安と言うよりは、どちらかと言うと天理のいつもの探究心の方が強そうだ。が、いかんせん手がかりが無さ過ぎて考える手はすぐ尽きた。後日魔術学院の図書館や、大地の神の神殿に天理が訪れてみる事になった。
「俺が何の神の魂を継いでるのか知らないが、どうせならお前の悩みとかさっさっと解決できる神様だったら良かったのにな。そしたらお前が苦しまずにすんだかもしれないのに」
ため息をつきながら天理はすまなそうにそう言った。
「ありがと、天理。俺の事心配してくれて。もう大丈夫だから。でも天理が太陽の神だったらいいな。そしたら何も怖くないって今なら思えるのに」
だって天理ならかつての太陽の神の様に俺を拒絶しないって思えるから。そしたら怯える事はなくなる。
「俺が太陽の神なぁ……お前ならまだしも俺は無くないか。キャラ的に。こう…太っ陽っ!て感じじゃないだろ。俺」
夏の太陽とか俺苦手だしと天理は苦笑しながらそう言った。
「うーん。そだね残念」
天理、基本インドアだし、探索行っても大体遺跡の中だから日に当たらなくて肌真っ白だし。好きだけど。
「何の神様だろね」
「神官に祈って貰えてない様な忘れられた小神あたりじゃないか?そういう意味だと半身とは言えお前のはメジャーだな」
「そうとは言えるけど…メジャーでもみんなに好かれる神様がいいなぁ」
「なんだよ俺に好かれてれば良いんじゃなかったか?」
クスクス笑いながら意地悪な事を言ってる癖に少し照れくさそうに言う天理が可愛い。
「そうだけど!天理にだけ好かれてればいいけど!もう、天理のは絶対意地悪な神様だ!」
俺が拗ねる様にいい放つと「はいはいそーだな」と頭を撫でてくれる。
「意地悪だけど…きっと照れ屋で優しい神様だよ」
にこと笑いながら言うと天理はやっばり少し顔を紅くしてそうかぁ?といいながらそっぽを向いていた。
日が傾き夕日が空と天理を紅く染める。俺が天理を照れされて紅くしたのになんだか夕日が天理を染めてるみたいで少し悔しかった。こう思うのは俺が闇の半身で太陽の神の光の部分に嫉妬してるからかな?む。
「天理は俺のだからね!」
天理を紅くしていいのは俺だけなんだから。そう夕日を指差し叫んでいるとさすがに唐突すぎて「な、なんか見えてんのか?!」天理にぎょっとされた。
「あ、ごめんね。ちょっと太陽に宣戦布告したい気分になっちゃって」
「えぇ……」
なんだよそれとか、てっきりいつもの調子で突っ込まれるのかと思っていたら「まぁそういう時もあるよな」と優しく笑って頭をぽんと叩かれた。やっぱり俺の神様は優しいや。
都に辿り着き家に帰り着く頃にはすっかり暗くなっていた。
夕食やら風呂やら各々明日の支度やらを済ませベッドに潜り込み天理を抱きしめながら俺は天理の匂いを嗅ぐ。小さく笑いながらくすぐったそうにしていた天理が俺の頭を撫でてくれるのが嬉しい。
「この間、丁寧にしなくてごめんね」
昼間天理がポロっと漏らしていた『雑に抱きやがって』発言に謝罪する。天理は一瞬何の事だと首を傾げたがすぐに思い出して顔を赤くした。
「いいって、お前もあの日いっぱいいっぱいだったんだろ?」
「怒ってない?」
「……まぁ何があったか知らんが俺が黙ってりゃ多少強引に抱いても平気だと思ってんのか馬鹿。とは思ったな」
「やっぱり怒ってたー!ごめんね。天理激しく抱かれるのも好きだからって甘えちゃったね」
俺の言葉に天理は顔を赤くして「ばっ!か!お前なぁ……!同じ激しさでも、どっか上の空で雑にやられるのと、俺が欲しくて堪らないって眼ぇしながらがっついてくんのとじゃ違うんだよ!」
それくらい分かるわと言いながら更に赤くなった天理が可愛くて思わずキスしてしまう。この雪のように白い肌を赤くできるのはやっぱり俺なんだからとまた強く思う。
「じゃあ今日は挽回させて?優しくするね?」
ちょっとだけ天理の天の邪鬼に期待した言葉をかけ優しく天理の頬に触れる。
「……馬鹿。そこはちゃんと俺が欲しくて堪らないって眼ぇしながらがっついてくるのが挽回だろよ…」
やった。期待通り。顔が赤いまま手で口を覆いながら目線をそらしている天理を見ていると意地悪したくなっちゃう。
「えへへ、じゃあ、遠慮無くがっついちゃうね♡」
今度はちゃんと天理の事しか考えないから安心して俺に翻弄されて?
「お前!今、誘導したろ!」
ハッとして抗議してももう遅い。
「がっついて♡滅茶苦茶にして♡って今言ったじゃん」
天理の夜着を剥がしながら言うと「そこまで言ってねぇ!!ちょっ!待っ!」と慌てていたけどもう待たない。
「ほら俺、闇の半身だからさ、天理に意地悪しちゃうの。イテっ」
上着のボタンを外し終わり天理の胸を露にして手を這わせているとゲンコツを貰った。
「こら!そういうのを魂のせいとか誰かのせいにすんな。自分が悪いもんだと思ってんなら、だからこそ自分を律すんだよ」
いい本があるから今度読ませてやる、とこの状況で説教が始まった。冗談半分で言った事だけど、そういうトコロからだ!と譲らない。俺の愛しい人は俺の闇の半身とトコトン付き合ってくれるらしい。
「うん、闇の半身の魂が宿ってるからって俺が悪い事していい理由にはならないよね」
そんな事してたら自分が嫌になっちゃうし向き合うってこういう事からかな。
「分かってくれるならいいんだ……で、その、お前が…”侯輝”が俺をどうこうその、意地悪したいなら、好きにすればというか」
中断させてスマンと律儀に謝りながら、恥ずかしい事を言って居心地が悪そうな顔で天理が呟いている。ああ、本当に愛おしい。
「うん、ありがとお詫びに滅茶苦茶に気持ちよくするね♡」
「滅茶…っん!」
抗議の声が上がる前に口を塞ぐ。舌を絡め、口内を蹂躙して、息を荒げながら何度も角度を変えて貪る。キスだけですっかり息が上がる頃には天理の瞳は蕩けていて、俺はそのまま首筋や鎖骨に唇を落としては痕を残していく。
「はっ、あ、もう馬鹿、ったく、跡つけて…明日仕事だっての」
文句を言いながらも俺の頭を抱き寄せてくれてるのが嬉しい。
「大丈夫だよ、俺がちゃんと隠せるように付けてあげるから」
そう言いながら服を脱がせて、俺も脱いで、素肌を合わせて抱きしめると、俺の心臓の音と天理の鼓動が同じリズムで鳴っているのが分かった。ただこうしてるだけでも気持ちいい。
「ふっ、はは、なんか、凄いな俺達、何度も重ねてるのに、まだドキドキする」
俺の腕の中で小さく笑いながら言う天理に俺も笑う。
「そうだね。俺もずっと、ドキドキしてるよ」
俺の言葉にまた小さく笑いながら
「じゃあもっとドキドキさせてくれ」
少し目を細め赤くなりながら腕を首に回してきた。
「うん、いっぱいいっぱい、ドキドキしてね」
そう言って俺はキスをした。
「んっ…はっ…あ…ん…」
俺が天理の弱いところに触れる度にピクっと反応して小さく声を上げる。白い肌が俺が与える刺激でどんどん赤くなっていく身体が綺麗で、愛おしくて、もっともっと感じさせたくなる。胸元に赤い花びらを散らす。
「あっ!」
ドキドキ鳴る心臓に吸い付くと高い声で嬉しそうに鳴いた。
「は…あ、んっ!そこ、だめ、だ」
胸の突起を指先で転がすと漏れる声に艶が増す。
「駄目じゃないよね?ここ、好きだもんね?」
「っあ!んっ、も、そう、じゃ、なっ」
弄る度に脚がひっきりなしに動き時折腰が揺れる。俺の頭に手を添えていた天理が震える手でソロリと俺の項を撫で上げた。
「…っ」
ゾクゾクと震えを感じていると天理が挑発する様に薄っすらと笑っているのが見える。
「なぁに?そんなに煽って。どうなっても、しらないよ?」
俺は天理の胸の突起を甘噛みし、もう片方は強く摘まんだ。
「んああっ!!」
強い快楽に悲鳴の様な声で鳴く。そのまま胸に舌を這わせて舐める。
「んっ!く!あ!」
俺の頭を抱きしめて喘ぐ姿はとても可愛い。瞳には薄く涙を浮かべて、頬は紅潮していて、とても扇情的だった。
「も、さっきから、そこばっか、しつこいぞ!」
「だって、美味しいし」
「んな訳あるかっ!あっ!」
ご要望に応えてすっかり立ち上がっていた中心に手を添えるとビクンと跳ねて甘い吐息が零れる。
「んっ!あ!そこ、じゃな!あっ」
上下に手を動かすと、その度に大きく体を震わせた。
「ねぇ、じゃあ、どこを虐めて欲しいの?」
「っ」
耳元で囁いてあげるとそれだけで少し震えているのを見ていると可愛くてもっと意地悪したくなってしまう。
「ねぇ、教えて」
わざと音を立てて耳にキスをして息を吹きかけると首をすくめて「っぅ」と恥ずかしそうにする。もっともっと見せて天理。
「ほら、言わないとこのままだよ」
そう言いながら先端を強く擦り上げる。
「ああ!!や、言うから……早く後ろを……おまえので…虐めてくれ…」
真っ赤にしながら途切れがちに告げられた言葉に俺の中心が熱くなった。
「うん、いっぱい虐めてあげる。天理、入れるよ?力抜いてね」
「ん。」
ゆっくりと挿入していく。
「あ……あ…」
中は狭く、そして熱い。俺のモノを離さないとばかりに強く締め付けてくる。
「っつ」
あまりの快感に思わず声が漏れてしまう。それを聞いた天理がフッと笑って、俺の首に両腕を巻きつけて引き寄せてきた。そのまま導かれた様にキスをする。天理の熱い中が俺で馴染むのを待つ間、舌を絡ませ合う。天理の喉が鳴り俺の唾液が飲み込まれているのを感じ取ると俺の中心がドクリと跳ねた。また天理がクスリと笑う。
「侯輝、も、いいぞ。お前が思うがままにその大きくなったやつで俺を虐めてくれ」
赤くなりながらそう微笑する様が凄く色っぽくて、俺の理性は簡単に焼き切れてしまった。
「っ、もう、滅茶苦茶にしちゃうからね!」
そう宣言すると天理の腰を持ち上げると大きく脚を開かせ上から一度ギリギリまで引き抜くと突き刺すように激しく打ち付けた。
「ああ!あ!あ!っあ!」
パンパンという音が響く程の激しい抽送に合わせて天理があられもなく声を上げる。その姿があまりにも扇情的で、俺の欲望は止まらない。
「あっ!侯輝!っ!侯!」
激しく翻弄されながら俺の名を呼ぶ。まるで振りほどかれまいと必死で肩を掴む腕に力が込められる。動きに合わせて揺れる天理の中心から前走りが天理の腹を濡らしていた。
「はぁっ、天理、愛してる」
そう言ってキスをすると、天理の中が強く締まった。
「っ、あ、こ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁっ!!!」
一際大きな声を上げて達すると白濁が更に天理の腹を濡らした。
「っ、くっ」
俺も達してしまいそうになるがまだだ。まだ足りない。
「ああっ!あっ!うあ、あ、っあ!も、やぁ、あ!ああっ!」
達したばかりの敏感になった身体に容赦なく攻め立てられ、全身真っ赤になりながら過ぎた快楽に涙を流し、開けっ放しになった口の端からはだ液が流れ落ちる様が酷く淫靡だ。組み敷かれ与えられる快楽をどうにか逃がしたいのか動かせる足先が跳ね、首を左右に振り乱すと汗に濡れた黒髪がバサパサと揺れる。まるで真っ赤に熟れた果実が汁を滴らせ俺に食べられるその時を待ってるようだと思うと、知らず口から笑みが溢れ涎を垂らしていた。ああ、なんて美味しそうなんだろう、食らいつくしたい!
「天理!天理!天理ぃ!」
獣の様に吠えながら愛する人の名を呼ぶとうっすらと開けた瞳と目があった。食えと言わんばかりのその目に俺は迷わず肩口に噛みついた。
「あああ!!!」
俺の牙が食い込んだ瞬間、天理が悲鳴にも似た叫びを上げながら、俺の精を搾り取るように強く収縮すると天理の中心から透明な液体が勢いよく吹き出す。
「ぐっあああ!!」
その衝撃で俺も中に吐き出した。
「あ……あ……あ……ああ……っ」
俺が出した精を受け止めた天理がビクビクと痙攣しながらまた軽くイッている。真っ赤な顔も腹も天理の体液でぐちゃぐちゃで、また鏡に映して見せたら天理はきっと卒倒するだろう。その壮絶な色気で自分の中心がまたピクリと反応してしまったので少し目線をずらしながら震える天理を刺激しないよう腹の体液を拭い、顔の体液を吸い取って綺麗にしてあげた。
「は……んっ……はっ」
少しずつ呼吸を整えつつもまだ焦点の合わない瞳でぼんやりと宙を見つめる姿は普段の毅然とした天理からかけ離れてとても可愛い。こんな時天理はとても素直になるから本音を聞くチャンスだ。
「ねぇ天理、激しくしちゃったけど気持ちよかった?痛くなかった?」
「ちょっと痛いけど…気持ちよかった…」
俺に噛まれた肩口にそっと触れながら恥ずかしそうにコクンと小さくうなずく。うぅ可愛い…
「そっか、良かった」そう言いながら頭を撫でると「侯輝」と掠れた声で呟いて抱きついて来た。
「うん、なーに?」
「もう1回…」
そう言うと俺の唇にキスをして舌を差し入れて来る。
「ん、ぁ…いいの?」
「ん。いい、侯輝のまた大きくなってるし…」
そう言うと俺の背中に手を回し、足を絡めて俺の腰に回すと、緩く動かし始めた。
「ちょ、待って、俺今イッタばっかりだからさっきより感じやすくてヤバイんだけど……」
慌てて離れようとするが、俺の腰に回った足の力は強い。
「…ヤバく、なればいいだろ…もっとくれよ、俺を滅茶苦茶にしてくれるんじゃないのか?」
涙を薄っすらたたえた目でほんの少しだけむくれる天理が可愛いすぎて困る。
「あ、明日仕事でしょ?困るの天理でしょ?」
むーと不機嫌になったと思ったら体の上下を反転されると騎乗位になった。
「あぁっ!」
「っ!」
自重で深い所に当たったのか一声鳴くと見下ろしてきた
「何…気づかってんだよ、俺でまたこんなに硬くしてんだろ?ならさっきの獣みたいにがっついてこいよ…欲しく…無いのか?」
挑発的に見下ろしてる癖に恥ずかしそうに顔を赤く染めながら言ってるのが可愛くて仕方がない。
「欲しい、めちゃくちゃにしたい」
「だったら来いよ、全部……受け止めるから」
な?と微笑まれ、俺の理性が弾け飛んだ。
翌朝、俺達は仲良く寝坊する事になった。
[newpage]
「ほんとに明け方近くまでやるやつがあるか!馬鹿!」
天理が顔を赤くしながら大急ぎで出勤の支度を済ませ、怒鳴りながら玄関を出て行くのを見送りながら俺はニヤリと笑みを浮かべる。
「だって、昨日の天理すっごく可愛かったし、天理が焚き付けたんでしょー?腰大丈夫?抱っこしてく?」
「うるさい!行ってくる!」
「待って、いってらしゃいのちゅー」
「ああもう!」
そう言ってキスすると真っ赤になりながら出ていった。さて、俺もギルドに仕事の依頼を確認しに行かないと。
神様絡みの情報について、魔術学院での調査は天理に任せるしかないけど、神殿関係はこっちでも仕事の合間に調べとかないとね。土護兄がこっちにいれば大地の神の神殿のツテには困らなかったんだけど。何か神殿絡みの仕事ないかな。神官の知り合いもいるけど、神官の冒険者って大体忙しくてなかなか捕まらない。仕事で仲良くなった神殿の人もいるけどこのの件はかなり信用のおける人でないと相談できないから難しい。
そんな事を考えながら冒険者ギルドにたどり着くと、ギルマスの奥さん…パルマが今日は依頼受付をしていた。
「おはよーございまーす!お仕事なんかある?」
「おはようにしちゃちょっと遅いけどね、侯輝、アンタまた”徹夜明け”かい?」
そう言いながらパルマが呆れたような視線を送ってくる。
「えへへ」頭をかきながら笑う俺に「アンタの嫁、学者なんだろ、ほどほどにすんだよ」いつまで新婚気分なんだいとため息をつくがすぐに笑顔になった。
「はい、これ」と言ってパルマに一枚の紙を手渡される。
「護衛依頼?しかも俺指名?」
「そう。極東から人探しで旅して来た巫女さんがアンタの故郷の街までの護衛を頼みたいんだってさ。ついでにその街の街案内も欲しいらしいからアンタにぴったりってわけさ」
「ミコさんって東国の神官の女の人の事だっけ。へぇ面白い話聞けるかなぁ」
「どうだろうねぇ。見た事無い服だったけどね。ま、とりあえず受けてみなよ。報酬も悪くないしね」
「そうだね、じゃあ受けるよ」
「はいよ、確かに承ったよ。ところでアンタ、最近嫁さんの事で何かあったかい?」
「え?なんで?」
「いや、ここのところ何だか浮かない顔をしてる気がしてね。何か悩み事があったら相談に乗るよ?」
流石によく見てるな。心配させちゃったかな。
「んーありがと。解決してないけど、解決しちゃったようなものかな」
天理と共にあればもう闇の半身の魂をただ怖がらなくていい、受け入れられるって思えるから。それで昨晩は盛り上がっちゃったけど。えへへと笑う俺に「そっか、ならいいけどさ」とパルマは苦笑した。
パルマに依頼者と明日会う約束をして、今日はギルドの小用をこなした。新人冒険者訓練所の卒業試験のリハーサル手伝いをする。精霊適性を視る事ができる人が今手が空きそうに無くてギルマスが頭を抱えていた。天理なら視られそうだけど天理も仕事あるしなー…と呟いたら報酬は出すからダメ元で頼んでおいてくれと懇願された。まだ時間があったので新人達の訓練に付き合っていると日が暮れていた。
帰宅途中晩飯食材の調達をしようと市場に寄ると丁度天理も買い物に来ていた。
「今日は疲れてるだろうから俺が作るよ」
昨晩疲れさせちゃったしね。
「それじゃ遠慮なくそうさせて貰う。今日はお陰で眠かったし、部長にまで『仲が良いのは良い事ですね』って笑顔で突っ込まれたしな」
「ゴメンね。あ、俺、明日から仕事でまた家空けるから。故郷までの護衛と街で人探し。人探しがどれくらいかかるか分からないけど…5日位の拘束報酬は提示されてるからそれくらいはかかるかも」
「そうか…じゃあ実家で寝泊まりか」
「そだね、宿賃浮くし♪」
「で、土護に手紙書いたか?お前」
「!」忘れてた…
「こっぴどく説教されてこい」
「うわぁん土護兄の説教やだよー!ついて来て天理ー!」
抱きついて懇願するが「知らん。いきなり5日も仕事休めるか。反省してこい」街中でやめろと容赦なく頭をはたかれた。
食材を買い込みちょっとトボトボと一緒に家路につく。
「5日か…」
ボソリと寂しげに天理が呟く。
「ごめんね、できるだけ早く完了させて帰るからね!」
「まだ何も言ってないだろ…ちゃんと仕事済ませてこい」でもありがとなと頭を撫でられる。
「うん…あ、やっぱり昨日頑張り過ぎない方が良かったね。天理今日はゆっくりしとく?」
そう耳打すると顔を赤くしながら「一回…位…なら」と返ってきた。やっぱり寂しくなっちゃうのかな。
「えへへ、じゃあ今夜はサービスしてあげるね♡」
「お前だって仕事あんだから無理しなくていいからな」
とそっぽを向き言いつつも少し嬉しそうにしていた。
帰宅すると現れた希守に明日から天理の事を頼み、料理の腕を振るい、夜はエッチな腕を振るった。俺も5日天理に触れられないのは辛いから一回とは言え存分に天理成分をチャージして天理にもチャージした。昨日と違い穏やかに抱いてもそれはそれで嬉しそうにする天理が可愛くて仕方なかった。
翌朝、朝早めに起きて旅支度を済せる。今日は天理より早く家を出る俺は玄関で行ってきますのキスをして愛する人に「気をつけて行ってこい」と見送られて出発した。こんな時いつも天理の言葉を思い出す。『職業柄いつ何時何があるか分からないから覚悟して見送っている』と。気を引き締めて行こう。
ギルドにたどり着くと今日も受付をしていたパルマから依頼主に引き合わされる。東国の神官…巫女というらしい彼女は二十代半ば程であろうか、腰ほどにまである黒髪を一つに束ね涼やかな瞳をした神秘的な女性だった。異国の衣装は希守が着ている物に近い。
「こんにちは!護衛依頼を受けた侯輝だよ。行き先は俺の故郷の街だから街案内も任せてね!」
いつも通り元気よく挨拶をするとその依頼主である巫女は一瞬大きく眼を見開くと「貴方…は…」と外見通りの静かな声で、されど驚いた様に呟いた。
「あの?」
「あ!失礼致しました。わたくし、[[rb:神我見 > かがみ]]と申します。お引き受け下さりありがとうごさいます。よろしくお願い致します」
神我見は一瞬慌てつつもすぐに丁寧な口調で頭を下げてきた。
「こちらこそ!早速出発でいいのかな?」
「はい。…あの…いえ、道々お話させてください」
やはり何か言いたげだったがひとまず俺の故郷へ出発した。
護衛付きの商隊の一団などがあればついでに混ざって行けば安全度が増したのだが丁度無く、神我見もできれば大勢と一緒では無い方が良かったらしく二人で行く事になった。静かな人だったが質問すれば答えてくれたし何か聞きたそうな雰囲気だ。歩きながら会話する。
「神我見さんは巫女っていう神官みたいに神に使えてる人なんだよね、何の神様なの?」
「わたくしは月の女神にお仕えしております」
「えっと太陽の神の妹神だっけ」
「はい、太陽の神は今や伝承に残る程度の[[rb:無祈 > むき]]の神ですがよくご存知ですね」
「えっあ、うんちょっと最近知る機会があってね。無祈の神って?」
流石に自分がその半身である闇の半身の魂を継いでいる事は言わないでおく。神我見はじっと見つめつつも特に追及もせず頷いた。月の神の巫女ならば神の伝承も詳しいかもしれないと質問してみる事にした。
「無祈の神とは神への祈り手がいない神…皆様に分かりやすく言うと太陽の神の様に神官が存在しない神の事です。そこに存在はしていますが、力を振るう事はありません。静かに見守るのみです。……古い伝承によると魂を人の身に移した為、振るう事ができなくなったとも言われています」
その言葉にドキッとしていると、神我見はじっと俺を見つめてきた。彼女特有なのか、巫女として普通なのか見透かす様な瞳に思わず目を逸らしそうになるのを堪え誤魔化すように続けて質問した。
「無祈の神って太陽の神以外にもいるのかな?」
天理が何の神を継いでいるのか手がかりが得られるかもしれない。すると彼女は少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
「……そうですね、太陽の神と同じく他の方々にもいらっしゃいますよ。例えば大地の神の夫神である空の神様、他は水の神様や風の神様、土の神様や火の神様、時の神様など、名も知れぬ神様もいらしたかもですね……」
「そうなんだ……」
今の話からすると天理の精霊適性が四つ…は寧ろ手がかりにし辛い。
「……貴方は、何か特別な事情がおありのようですね」
「え?」
「いえ、わたくしは神に仕える者でございます故。貴方からは強い想いを感じます」
神我見はそう言うと微笑んだ。
「あの、わたくしからも質問宜しいでしょうか?」
「うん、いいけど」
「侯輝さんはこれから向かう街のご出身との事でしたね、失礼でしたらすみません、ご家族は…?」
俺の故郷は八年前、病魔となったエルブの疫病によって甚大な被害を被っている。生き残っていても家族が亡くなっている者も多い。俺の両親もそうだ。遠慮がちに聞く神我見に俺は努めて普通に両親は亡くなっている事、兄と姉二人は健在である事を話した。神我見は想定よりも大きく衝撃を受けながら悲痛な表情を浮かべた。
場を和まそうと「あとね、俺、結婚してるんだ!都で一緒に暮らしてるよ。男の人だけど凄く可愛いんだ」と天理が居たら確実に突っ込まれるだろうが事実なのでそのまま伝えた。
「まあ!侯輝さんまだお若いのに結婚されているのですね」
俺の左手の指輪を見て納得しつつ神我見は驚きつつもにこりと微笑むと俺もなんだかほっと和んだ。
「先月結婚したばかりで今…っていうかこれからもずっと幸せな気分なんだ」
神我見はそんな俺を見て嬉しそうに笑った。
「それは何よりです」
それから暫くして俺達は無事目的地である俺の故郷の街へと到着した。
「さて次は人探しだっけ」
「はい、あの…」
神我見は少し言いにくそうにしながら探し人の名を伝えた。それは亡くなった父さんと母さんの名だった。
「侯輝さん、ご両親から何か貴方の出生について聞いておりませんか?」
「え?俺の?いや……特には……」
そういえば俺が生まれた時の事って聞いたこと無かったかも。突然なんだろう?
「それでは…侯輝さんのお兄様でしたでしょうか、その方にお会いしたいのですが」
「うん…いいよ」
俺はモヤモヤとした想いを抱えながら土護兄が昼間は勤めているであろう、大地の神の神殿へと神我見を連れていった。神殿にたどり着くとちょうど兄貴が同僚らしき人と話をしている所だったので声をかけた。
「土護兄!久しぶり、ちょっとお客さんなんだけど、今時間大丈夫かな?」
神我見は俺の横に立ち土護兄へ一礼した。
「ああ、侯輝じゃないか!帰ってきていたのか。仕事かな?ふふ、手紙を書くより自分が来る方が早かったね」
土護兄は同僚に一声かけ離れると俺と横に立つ神我見を見つつ再会を喜んだ。
「ううっそのお説教は後で受けるからさ、父さんと母さん…っていうか土護兄に会いたいって人を依頼で連れてきたんだ」
神我見と土護は互いに挨拶を交わすと、土護兄は神殿の一室へと案内した。土護兄はテーブルに茶を出しつつ神我見に話を促した。
「それで俺にお話というのは…」
「土護さんは侯輝さんの出生についてお父様からお聞きになっていないでしょうか?わたくしは母がこの地で生んだ生き別れの弟を探しているのです」
え?何の…話?俺が混乱し始めている中、神我見が更にその母の名を伝えると土護兄は決意したように話始めた。
「侯輝、落ち着いて聞いてくれ、お前は俺や土実、土花と血が繋がっていない…義兄弟なんだ…お前は20年前東国からここを訪れた旅人の一行の女性が命懸けで産み、俺達両親に託していった子なんだよ」
俺が話を飲み込めずぽかんとしていると続けて言った。
「侯輝、俺は、土実も土花もお前の事を本当の兄弟だと思っているよ、だけど…おそらく血の繋がりのあるのは、神我見さん貴女ですね?探している弟はおそらく侯輝の事だ」
土護兄は神我見に問いかけると神我見は静かにうなづいた。
「一目見た時からそうなのではないかと思っていました。侯輝さん、突然の事で驚かれると思いますがわたくしは貴方の姉です。20年前母はこの街で貴方を産みそして亡くなりました」
神我見は静かに涙した。
「そして俺達の父さんと母さんにお前を託したと俺は聞いている」と土護は続けた。
「…えっと、え、俺姉貴が増えた?」
流石に驚いて答えが突飛になってしまった。俺の実の母は俺を生んですぐ亡くなり俺は俺の知る父さん母さんの家族に育てられ、今、実の姉が現れた。と。まだ血の繋がりと言われても実感がない。土護兄が言う通り、土護兄達の事は本当の兄弟だと思っているし育ててくれた両親もそうだと思っている。でもこうして目の前で涙している神我見の事も突っぱねる気にもならなかった。結論として姉が増えた。になった。
「っ…侯輝、お前って奴は」
ぽかんと言い放つ侯輝に土護兄は吹き出しそうになるのを堪えていた。神我見はそんな俺達を見て微笑んだ。
「いえ、それで結構です。侯輝さん。突然そう言われても困りますものね。こうして否定されずに受け入れて頂けただけでもわたくしは嬉しいです。道すがら色んな話を聞けましたし元気に育ってくれて良かった。結婚までしていたのは驚きましたけど」
目端にまだ涙を貯めつつも嬉しそうに笑うが
「ですが…一つ気掛かりなことがあるのです」
と声を落として話した。
「遠路東国から参られた理由は別にあるのですか?」
「はい。土護さんはそれ以外には話は伺っておられますか?」
「いえ…ただ亡くなられた母君が一族でも大事な御子を授かっていた…と言う事しか」
「ではわたくしの一族と母の話をしますね」
そう言って神我見は彼女の一族の話を始めた。
東国の隠れ里に住む神我見のいる一族は代々月の神を奉っており、祭事を取り仕切る一族だった。神我見と侯輝の母も力のある巫女として神の声を聞き人々が安寧に暮らせるよう働いていた。神我見の母は結婚し、やがて神我見を授かり、数年後に侯輝もお腹に宿した頃、神我見の母は月の神に夢で啓示を受けた。『その子は太陽の神の魂を宿して産まれてくるでしょう。ですがそのまま産まれればやがてその子は世界に争いをもたらし、やがて悲劇の運命を辿り短き命を終えるでしょう』神我見の母は嘆いた。
「ちょっと待って。今なんて…」
俺は今、闇の半身の魂を継いでいたと思っていたのに太陽の神の魂を継いで生まれてた?!
「ええ、侯輝さん、貴方は太陽の神の魂を継いでいるはずです。わたくしの一族は古より太陽の神の魂を持つ御子を授かり御守りしてきた一族なのです」
「なんと侯輝がその様な……しかし月の神は侯輝がその様な運命を辿ると仰ったのですか?!」
「はい、お告げ通りそのまま生まれていればいずれ侯輝さんは戦乱の果てに悲しき運命を辿るはずでした。ですがお話には続きがあるのです」
俺と土護兄がにわかに信じがたいと愕然としつつ様子を抑える様に神我見は話を続けた。
信仰する月の神の兄神である太陽の神の魂を持つ子がこの世に誕生する事は喜ばしい事だけれど、神我見の母は大事な我が子がその様な運命を辿るのは耐えられなかった。神我見の母は神に祈った。どうか我が子をお救い下さいと。そして神は答えた。『一つだけ可能性があります。それはあなたの命と引き換えになるでしょう』神我見の母は迷わずその方法を尋ねた。『この地より遥か西国の国、太陽の神の母たる大地の神の加護が厚いその地にて産み育てればその子は太陽の神の魂に縛られず健やかに生きて行けるかもしれない。だがそれも奇跡に近い…それでも是とするなら行きなさい』神我見の母はまだ幼い神我見と病弱気味だった神我見の父に別れを告げ、身重の身をおして僅かな従者を連れ西国へと旅立った。大地の神の神殿にたどり着くとその頃神殿を一時預かっていた副神殿長の土護の父に頼み土護の母のフォローの元、神殿で出産する事となった。
子が産まれる時、周囲に異変が起きた。何処からか漆黒の闇の様な魂が瘴気を纏い現れ、周囲にいた土護の父や神我見の母の従者の守りをものともせず神我見の母の胎に近づいた。その時、神我見の母はお産に苦しみながらも、その漆黒の魂を視るとおいでと呼んだという。すると神我見の母の胎の中から出でた輝く魂と激しく争う様に絡み合うと瘴気は祓われたが二つの魂は混ざり合う事無くそのまま胎の赤子に吸い込まれていった。なんとか赤子は無事に生まれてきたが神我見の母はその二つの魂を受け入れるべく身を挺し、赤子が生まれると共に命を落としてしまった。万が一の時はと託されていた土護の両親は、生まれたばかりの光と闇の魂を宿した赤子を大地の神の加護の元で我が子とし育てる事にした。この事実は従者によって東国に伝えられた。
「なんと…お母様がその様な…では侯輝は太陽の神とその…闇の魂?とを併せ持って生まれてきているのですか。しかし闇の魂は一体……」
土護兄も俺が闇の半身の魂を宿している事は知らなかったのか…。
「謎の闇の魂についてはわたくし達にも分からず…母が自ら受け入れたとはいえ、太陽の神と拮抗できる程の強力なものとなると余程のものかと侯輝さんの事を心配していたのですが」
ここまで話して二人は俺を恐れよりもただ心配そうにしてくれるのが嬉しかった。だから俺は二人には隠さずに話そうと思った。
「そこについては俺から話しておくね」
神我見の話を引き継ぎ、俺は二人に自分に太陽の神が忌み嫌い分かたれた闇の半身の魂が宿っており、記憶が断片的に存在している事、時折おかしくなる事があり天理に迷惑をかけている事を告げた。記憶が蘇ってくる様になったのは天理と結婚してからしばらくしてからで、天理には先日伝えた事を話した。神我見は驚くと祈る様に手を組むと悲痛な表情で俺を見、土護兄は俺を抱きしめていた。
「侯輝!辛かっただろうに…何の魂を宿していようとお前は俺の大事な家族だからな!」
土護兄が強くそう言い放つと神我見は感極まった様に微笑んだ。
「ありがと、土護兄。俺もホントはね、凄く怖かったんだ。闇の半身の力が暴れるんじゃないかって、でも闇の半身の心はもう俺の心でもあって切り離せるものじゃないみたいなんだ。それでも天理はそんな俺でも好きだって一緒にいてくれるって言ってくれたんだ。俺、自分の嫌な所嫌いだったけど、天理が好きだって言ってくれるなら受け入れられる気がするんだ。だから大丈夫だと思う」
「そうか…そうか…俺も土実も土花も侯輝の事が大好きだからな。どうか忘れないでくれ」
土護兄は天理にもまた礼を言わないとなと呟きながら再度強く抱きしめてくれた。
「うん。俺も土護兄も土実姉も土花姉も大好きだよ」と抱きしめ返した。
「土護さんありがとうございます。天理さんにもお礼を言わなくてはなりませんね。…ああ、これが月の神の仰られていた奇跡なのでしょうか…」
涙を流しながらそうつぶやいた。
「神我見さんも心配してくれてありがとね。」
「いいえ…もっと早く会いに来られなくてごめんなさい。元々病弱だった父が母と貴方の報せを受けて完全に臥せってしまい、巫女の務めや里の掟もあり来られなかったのです。」
「お父上はよろしかったのですか?」
「それが…1年程前に亡くなり、それでようやく里の長に許しを得てこの地を訪れたのです。母が命懸けで守ったわたくしの弟がどの様に成長しているのか……一目見たかったのです。父も最期まで気に留めておりました」
そう言って神我見は寂しげに微笑んだ。
「そうでしたか…神我見さんも大変だったのですね」
土護兄がそう言うと神我見さんは小さく首を振って微笑んだ。
「いいえ、わたくしも母も、そして父も、侯輝さんが幸せになってくれる事が何よりの望みです。並ならぬ神の魂をより複雑な形で継いだ事で心配しましたが、こうして侯輝さんが無事成長できている事、大地の神と何より土護様のご両親に父に代わり感謝申し上げたかったです」
「そう言って頂けるとありがたいです。よろしければ両親の墓参りをしてやってください。お母様の墓もご案内します」
「はい。必ず。母の事もありがとうございます」
「ところで俺、太陽の神の魂どころか闇の半身の魂まで受け継いで多分元通りの太陽の神の魂になってるんだよね?何かしなくちゃならない事とかあるのかな?俺、闇の半身の記憶はちょっとあるんだけど、太陽の神が闇の半身と切り離された以降の記憶全然無いんだけど」
俺、天理とただ仲良く暮らしてたいなぁ。
「何も…記憶無いのか?何か太陽の神がしたくて人の身として生まれてきた理由とか。何かしたくてたまらない衝動があるとか」
「無いよ?今知ったくらいだし。闇の半身の方は…ずっと閉じ込められてたから早く出して欲しかったとか、しんどかったー。くらい?あと封印から解放してくれた人に憧れみたいな感情があるけど。あとはその内何か思い出すのかな?」
土護兄と俺は神我見を見ると神我見も焦った様子だった。
「えっと…わたくしも…太陽の神のご意志までは…てっきり侯輝さんが何か覚えていて、その神の意志で働きかけがあるのであれば、お助けしようと思っていたくらいで…」
「侯輝、おまえが今、心から一番したい事を思い浮かべてごらん?」
土護兄は両手を俺の肩に置くと真剣な表情でそう言った。それはもちろんただ一つ。
「天理とずっと一緒にいたい!」
「うーん、太陽の神が世界の浄化を!とか闇の魂が世界の破壊を!とかじゃ、ないんだな?」
「うん。全然」
そういう凄そうなのは無いかな。闇の半身を意識してから闇の部分嫌だなって思う事はあったけど、天理のおかげでもう切り離したいとかは全然無いし、太陽の神に消されるかもって恐怖する事はあっても破壊したいとか無かったし。太陽の神の記憶戻ったら何かしないとならないのかなぁ。なんか嫌なんだけど。天理とのんびりできなさそうだし。
土護兄も神我見さんも唖然としていたが、すぐに納得した様に微笑んだ。
「そうか…まあ、おまえがそれを望むならそれでいいんじゃないか」
「そうですね。わたくしもなんだかそう思えてきました。侯輝さんがそこまで言う天理さんに会ってみたいです」
「いいよ!俺の自慢のパートナーだからね!その天理なんだけど天理も何かの神の魂を継いでいるらしいんだよね」
これにも二人とも驚いていたが天理の方は詳細不明な為、土護兄が調べておいてくれる事になった。
「侯輝、手紙を書くからまた天理に渡しておいてくれ」ギクッ「おまえが手紙書いてなかった事は今回はお小言なしにするから」
土護兄の説教が始まるかと一瞬構えたが土護兄は苦笑するだけにしてくれた。
「そだ、神我見さん俺の事呼び捨てでいーよ?俺の姉貴だったんだから」
「ええっとわたくしは、このままの方が…」
「そーなの?俺は神我見姉って呼んでいい?」
「神我見姉……」
「ダメだった?」
「いえっ姉と認識して貰えるかどうかも分からなかったですし、とても響きが新鮮で嬉しいです」
神我見姉は両手を頬に当てると少し頬を染めながら微笑む。涼しげな印象だけどこうしているとちょっと可愛らしい感じになるなと思っているとなんだか天理を思い出した。
「神我見姉はこの後どうするの?」
もう身寄りが居ないならこちらに住んでもいいんじゃないかと思ったんだけど。
「少し滞在したのち、また里に帰ります。巫女の役目もある中、無理を言って出てきているので…」
そう、残念そうにしていた。
それから俺と神我見姉は土護兄に連れられてこの地で亡くなった本当の母さんの墓参りをした。小さい頃から知らずに連れられてお参りしていた意味を、俺は漸く知ることになった。土護兄と神我見姉がそれぞれ信仰する神に祈りを捧げるのを聞きながら、命がけで生んでくれた母さんに心からお祈りした。
そのあと、神我見姉と育ててくれた両親の墓参りをし、病魔の被害者慰霊碑や制作中のエルブの碑、大地の神の神殿への礼拝、病魔の危険が完全に拭い去られた事により急速に復興しつつある街を案内して回ると、夜は実家に泊まり土護兄や土花姉、土実姉達にささやかな宴を開いて貰って一晩過ごした。
翌朝土護兄から天理への手紙を預かりながらお小言ついでにまた熱烈な別れの挨拶をされると俺と神我見姉は都へと旅立った。
都にたどり着き冒険者ギルドで完了報告をすると、あまりの早さにパルマに「あんた嫁の所に早く帰りたくて案内手ぇ抜いて無いだろうね?」と驚かれたが、笑顔の神我見姉に簡単に説明されると「じゃ早く上がった分はこの都の案内でもしてやるんだね」と神我見姉に気を使ってくれていた。
話しながら家に戻ろうとすると神我見姉がおや?と空を見たのでそちらを見上げると天理の[[rb:風の精霊 > シア]]が飛んでいた。
「あれ?シアだ。なんで飛んでんだろ。あ、あれね天理の契約精霊なんだー」
「天理さんは精霊使いなのでしたね。何か慌てて飛んで行ってしまわれましたが……」
シアはこちらは確認すると家の方に急いで帰っていった。天理と情報共有しているから、天理にはもう俺が帰ってくる事が伝わったはずだ。
家にたどり着くと、俺は玄関で出迎えてくれた天理に抱きついた。
「ただいま!天理」
「お、おかえり、侯輝。かなり早かったな。えっとそちらさんは……」
人前なるとちょっと慌てつつ恥ずかしそうにするもちゃんと抱き返してくれた天理の匂いを吸収する。1日半程度しか離れてなかったけどそれはそれだ。神我見姉は俺が道中ずっと言っていた”可愛いパートナー”天理の姿を見て目を見開いてまあ!と驚いていたが、微笑むと丁寧にご挨拶してくれた。
「天理です。はじめまして…姉?え、なあ侯輝、土護結婚したのか?何の連絡も無かったぞ?不知火は?」と慌て出す天理に故郷で話された俺の出生について説明すると漸く落ち着いてくれた。天理は俺が太陽の神の魂まで継いでいた事については驚いていたが、俺と土護兄に血の繋がりが無かったことにそこまで驚いた様子は無かった。
玄関から居間に移動し天理が出してくれたお茶でゆっくりと話をする事にした。
「天理は知ってたの?俺が土護兄達と血が繋がってない事」
「ああ、お前と結婚する前に土護に聞かされたよ。前々からそう思われるとこはあったけどな。でも土護達家族は誰もそんなこと気にしないでお前を家族として扱っていたから、俺がわざわざ話す事も無いと思ったよ」
結婚式でのあいつのスピーチ、親でもなかなか出来ないだろ?と言う天理に同意する。
「うん、俺も何も変わらないよ。あ、土護兄から手紙預かってきたよ」
ゴソゴソと荷物から手渡すと「だよな。お、説教されたか?」クスクスと笑う天理に「神我見姉のお陰でちょっとだけで勘弁して貰えた」と拗ねた様に言っていると天理が「いい姉ちゃん増えて良かったな」と笑うと神我見姉も笑っていた。とても安心している様に見えた。
神我見姉は清らかそうな見た目だが意外と恋愛話にも興味があるらしく、俺達の馴れ初めなどを質問した。とても恥ずかしそうにしながらも夜はどちらが上なのかと聞かれたので、俺が上だけど時々下になるよと伝えたら赤くなってかなり驚かれた。
こうして居ると神我見姉は都では珍しい俺達のワ式の家が里の物に近くて居心地がいいらしく、なんだか馴染んで見えた。天理は好奇心がそそられてワ式についていくつか質問して神我見姉が丁寧に受け答えしているとふと希守が覗き込んでいた。
「えっ!このお家には座敷童子がいるのですか?!」
神我見姉が驚くと希守はいつもの様にびっくりして引っ込んでしまった。
「ザシキワラシ?ブラウニーじゃないの?」
「ごめんなさい、驚かしてしまいました。こちらの都では家人に富をもたらす怪し…座敷童子の事をブラウニーと呼ぶのでしたね。わたくしの里ではそう呼ぶのです。滅多に会える存在ではないので驚きました」
神我見姉が頬に手を当て少し嬉しそうにしながらそう話していると天理が希守が消えた辺りに呼び掛けた。
「希守、大丈夫だから出ておいで」
希守が恐る恐ると出てくると神我見姉は「まあ可愛らしい!」と微笑むと希守はやはり壁に隠れた。
「ああ…嫌われてしまったでしょうか…」
「好奇心はあるんだけど恥ずかしがり屋さんなんだよ」
しょんぼりとする神我見姉ににこにことそう言うとはほっとした様にしていた。
しばらくして、希守はまたおずおずと出てくると天理の後ろへ隠れた。
「こうして見ると天理さんに少し似ていますね…あら?侯輝さんにも…」神我見姉は天理と希守と俺を見比べて顔を真っ赤にした。
「まさかお二人の子供…!!どうやって…」
「うん!そうだね!性格は天理似かな!」
「ちょっと違う!!…ああっ希守ごめんな驚かせたな」
神我見姉の天然ボケっぷりに俺が乗っかると突っ込んだ天理に驚いた希守を天理が撫でながらあやした。
「ね?天理、お母さんみたいでしょ」
「誰がお母さんだっ」
「すっかり仲良しですわね」
天理がこのボケ倒し姉弟が…と呟きながら、希守は中古のこの家に元々居て俺達が住み始めたらいつの間にかこの外見になっていた事を説明をすると神我見姉は少し考えてから話した。
「座敷童子が家人に似るという話は聞いた事がありません。ひょっとしたらお二人が神の魂を継いでいるのが関係しているのでしょうか……」
希守が特殊なブラウニーではなく座敷童子という事は分かったが、それで似るという事がないなら原因は確かにそこになるのかもしれない。天理は希守を撫でながら少し思い詰めたように考えている様だった。
「あ、じゃあ座敷童子がいるのにこの家がお金持ちにならないのって神の魂の影響だったりするのかな?」
「それは……」
「そこは叶ってるよ侯輝」そうはっきりといい放つ天理を見ると穏やかな微笑を浮かべて続けた「希守そのものがもう金には変えられない俺達の宝物だからな」
天理の言葉に嬉しそうにする希守と微笑を浮かべる天理を見ているともう親子にしか見えなかった。心の中が守りたいという暖かい気持ちで満たされる。
「うん!そうだね!希守は俺達にとって大事な家族だもんね」
希守は俺と天理を交互に見てはにこにことしていた。神我見姉はちょっとウルウルと感激していた。
「そうだ神我見さん、俺も何か神の魂を継いでいるらしいんだが貴女なら分かりそうか?」
「それが…侯輝さんの事はすぐに月の神を通じて太陽の神の魂と感じられたのですが貴方の事は分からなくて…天理さんから多くの精霊の加護と、とても澄んだ気は感じ取れるのですが…お力になれず申し訳ないです」
「いや、ありがとう。邪神やそれこそ貧乏神の類いでなければいい程度だったから気にしないでくれ」
土地神ですら分からない事だったがそれと同程度以上に見られる神我見姉の力の強さを垣間見た気がした。
それからうちの客間に泊まって貰いながら、俺と天理で都を簡単に案内して回った。都に興味深そうにしている神我見姉にやはり都に来られないかと神我見姉を誘ってみるもお役目の為と残念そうにしていた。お役目について確認した天理が「里での月の巫女の役割が本来太陽の御子を守る事であったなら、それを理由にこちらに居られるんじゃないか?」と助言を得るとそれならばもしかしたら…と神我見姉は少し顔を明るくしていた。
神我見姉はそれでも父の墓を放っておくことは出来ないのでと一旦里に帰る事になった。天理の助言によりお前も一筆書けと言われたので天理の監視の元、頑張って思いの丈を書いて神我見姉に渡すと大事そうに受け取ってくれた。
翌朝、都の外れから出発する商隊に混ざりながら里に戻る神我見姉を見送る。
「侯輝さん、天理さんお世話になりました。父と母を同じ墓に入れてあげたいですし、必ずまた戻ります。頑張って吉報を持ってきますね」
「うん!待ってるね!神我見姉」
「気をつけてな」
神我見姉は一礼して微笑むと商隊の出発に合わせて旅立っていった。
「神我見姉来れるといいな」「東の国も一度行ってみたいな」「今回は何だかんだで早く仕事終わって天理のとこに戻れて良かったー」なんて言いつつせっかく街中に出てきたのでランチを食べたり買い物したりデートしながら家路につく。ふとそよぐ風に先日家に帰る時に天理の風の精霊シアが飛んでいたのを思い出した。
「そういえば故郷から家に帰る時にさ、家の周りにシア飛んでたんだけど天理何してたの?」
天理はギクッとした表情を浮かべると逃げるように顔をそらした。そう、シアもこんな感じで俺を見た後なんか慌ててた。
「えっと…天気確認させてたんだよ」
「天気の為だけにシアをあんなに家の周りウロウロさせる必要ないよね?なんか他に理由あるでしょ」
ちょっと顔が赤い。絶対何か恥ずかしい事隠してるね?俺が居ない間に[[rb:風の精霊 > シア]]ウロウロさせる恥ずかしい理由って何?うーん分からないから本人に言って貰おう。じーっと見つめてみる。
「ぅ…ぃゃ…だからその、ぅ……あーお前がホントにそんなに早く帰って来るとは思わなかったんだ…油断して隠れ損ねた…」
なんだかぶつぶつと先に反省会し始めた。そういえば前も俺がこっそり土地神の所に行くのシアに尾行させてた事を思い出した。シアに俺探させてた?まさか。俺5日の仕事の予定だったし、そりゃ最短で終われば帰ってこれるけど。まさかまさか。ちょっと顔が緩みそうになる。
「えへ……えへへ~……ねぇ俺探しててくれた?」
「な、なんでもう笑ってんだよ。て、まだ何も言ってないだろ!」
よし、否定しないね?
「そうだね天理、5日の予定だったのに流石にまだ旅立って二日目ででは帰って来ないと思うよね。油断しちゃうよね」
みるみる顔を赤くする天理が可愛いくて仕方がない。寂しくて二日目で俺探しちゃう俺の嫁、往来だけど抱き締めていいよね?
「ああっくっそ把握したんならもういいだろ…」
いいや。ギュッ。
「寂しい思いさせちゃってごめんね。俺も早く会いたかったよ」
「な、おい、昼、ここ」
抱きしめると真っ赤になって固まってしまった。
「寂しくて普通ならまだ帰ってくるはずもない俺をシアで探してたんだよね?」
耳元に囁くとビクッと体を震わせて、恥ずかしそうに俯むいた。
「ほんのちょっとのつもりで気晴らしというか冗談で……ぅぅ……そう、だよ」
やっと観念して小さく肯定した。可愛い可愛い。ああもうキスしていいよね?いい!と天理に口付けようとするとやっぱり止められた。泣きそうになってきたので離してあげると天理はさっさと帰るぞと歩き出す。
「やっぱり探してたの恥ずかしかったから慌ててシア戻したの?」
「……それもあるけど、お前美人と楽しそうに歩いてるし。見ちゃいけないもん見た気がして」
まだその話続けるのかよと恥ずかしそうにする天理が可愛くて仕方ない。それで帰ってきた時少し様子がおかしかったんだね。
「やったぁ天理が嫉妬してくれた♪安心して?天理以外目に入らないからね♡ああ、待って待って置いてかないで。ゆっくり歩こーよ」
「早く帰りたいんだよ。……お前ねーちゃんねーちゃん言いっぱだし、そりゃ生き別れの家族なんだからそうだろけどよ。分かってるけどよ。あーっ」
わぁどうしよう天理が嫉妬で拗らせてる。どうしよう可愛い。自分自身に苛立っているのか拗ねたように歩く天理の手を握る。一瞬びくっとしたけど振り払われる事は無かった。
「天理、あのね、旅の間、俺、神我見姉の事、天理に似てるなって思ってたよ」
「えっ……失礼だろあんな美人に」
振り向いて本気で分かっていない目をする。
「もー、結構似てるんだよ。色白で黒髪のクール美人。恥ずかしがると可愛い」
「後半おかしいだろ……」
「だからねぇ旅の間早く帰りたいなーっって思ってたよ」
だから拗ねないで、ね?と覗き込むと、うぅと怯んでまたもスタスタと家に向かって早足になった。俺の手は握ったまま。待ってってば。
「せっかく街中来たんだしついでにゆっくり見てかないの?デートしよーよ」
「さっきから言ってるだろ……早くゆっくり二人きりになりたいんだよ」
スタスタと歩きながら顔を赤くする。
「!!そうだね!うん!帰ろう!」
「お、おう」
今日はデレの日かな。神我見姉効果凄い。ありがとう神我見姉。
手を繋いで家に辿り着き、家の門をくぐり数奇屋門をガラガラと閉めた瞬間天理が抱きついてきた。人通りもまばらな地域だが門の隙間から向こう側が半分透けて見えるし普段の天理なら考えられない事だ。家の中に入ってしまうと希守がお出迎えしてしまうからだろう。天理の可愛い行動が嬉しくて抱きしめ返す。
「改めて、ただいま、天理」
「おかえり、侯輝」
愛おしげに見つめてくる天理にキスをする。
「んっ……ふぅ……っ」
舌を差し入れて絡めると、恥ずかしそうにしながらも出迎えられた。
「っ……ぅ……っ……ぁ……」
しばらく絡め吸ったりしていると、息苦しくなったのか、背中を叩かれたので離してあげる。
「……はぁ……ふぅ。」
「はぁはぁはぁはぁ……お前少し加減しろよ」
恥ずかしそうに睨んでくるが、むしろ可愛い。
「もうデレモード終わり?」
「……夜まで待て」
「……っ!あーっ可愛いっ!可愛いよぉっ!大好き!あーっ!!」
「近所迷惑っ」
「ごめんねっ」
今夜は頑張るぞぉ!!
夕御飯は神我見姉に教えて貰った和食に二人でチャレンジしてみた。二人して初めて買った醤油の万能っぷりに感動しながら作った肉じゃかは美味しかった。まだそんなに気にしなくて良さそうなのに天理はヘルシーでいいなと気に入っていた。俺仕事の時はもうちょっとがっつり食べたいけどたまにはいいかな。
夕御飯を片付けて居間のソファでゴロゴロする。
「お前結局太陽の神の魂も継いでいたんだよな。俺の方はイマイチ進展無いけど」
「そうみたい、俺も太陽の神の方は全然記憶ないんだけどね」
「まあでもこれで誰が太陽の神だーとか恐れずに済んでよかったな。何せ自分自身だったんだから」
天理が自分の事の様にほっとして笑う。
「心配かけちゃってごめんね。それはそうなんだけど…なんか複雑な気分なんだよね。自分の中でせめぎあってる感があって。」
「まあ誰しも自分自身の中で葛藤があったりするもんだけど、お前の場合ホントに魂分かれてた上にケンカ別れな訳だろ?それでその気持ちが大きいんじゃないか?」
「そうかも……なんかさ、自分の中にもう一人の自分が居るって感覚で、でもそいつも俺なんだよね。」
「お前が時々不安定になる理由もその辺が原因なのかもな。ま、今更だ付き合うよ」
天理が慈しむように撫でてくれると俺の心の中の二つの魂も揃って喜んでる気がした。ただそうして認識しているとそれぞれの魂が少しずつ主張を始めた気がしてきた。俺が天理を一人占めしたい。と。
「ありがとね。……ねぇ天理、俺の光の部分と闇の部分どっちが好き?」
「…おい、なんか急に彼女キャラが二人出てきて選ばせるみたいな事を聞いて来たなお前」
どうせならセクシーかキュートとか可愛らしい二択にしてくれとぶつぶつ主張する天理にさらに詰め寄る。
「ねぇどっち?!」
「どっちもお前だろ。お前一人しかいないんだから両方好きでいいだろ」
「そうだけど!選んでよー。もし2人いたらの話!」
「どっちも何もお前が分裂した事がある訳でなし、俺はお前しか知らないし…」
天理が徐々に圧されて困った顔をし始めたその時、俺は視界が大きくブレるのを感じた。次に瞬きした瞬間、目の前で驚愕しているしている天理と……そっくりな俺が見えた。
「「俺が2人?!」」
片方の俺は金髪に白い肌、片方の俺は黒髪に小麦色の肌だ。天理はしばし唖然としたあと真っ青な顔をした。
「おい…え、と、侯輝、大、丈夫なのか?ええとひとまず白い方を光侯輝、黒い方を闇侯輝と呼ぶぞ」
「おっけー。よし、これで天理がどっちの俺が好きか選べるね!」
「え」
「そうだね。ねぇ天理、俺と光の方どっちが好き?」
「どっちかなんて選べねえよ。まず自分の事心配しろ!戻れなくなったらどうする!」
「天理が俺か闇侯輝のどちらかを選んでくれたら元に戻れる気がする!」
「待て、選ばれなかった方はどうなるんだ?」
「分かんないけど悲しいかな…消えちゃいたいかも」
「お前……そんな責任重大な事できるか。早く元に戻れ!」
「だって俺も戻り方わからないんだもん!でもさ……俺が消えたら……きっと天理は俺の事ずっと気にしてくれるよね?」
「お前……光とは思えない様な闇発想だな」
「甘いね!光侯輝!消えたら天理は俺が心も体も独り占めだよ!」
「お前はストレートだなぁ…色逆だったんじゃないか?」
「ねぇ天理は俺の方が好きだよね?」「俺の方が好きだよね?天理」
「どっちも侯輝だろ?!」
「そうだけど!ほら!俺キラキラな王子様だよ!天理、俺の事、太陽みたいでキラキラで好きだって言ってくれたよね!」
「言…ったけど」
光侯輝は天理の手を取りキザな仕草でその手にキスをすると満面の笑みで天理を見つめた。戸惑いながらも嬉しそうにする天理が可愛い。
「ず、ずるい俺だって天理ー…ぐすん」
「あーよしよし泣くな泣くな。お、お前の小麦色の肌も結構その、好きだから」
闇侯輝は丸まってしょんぼりとする。天理は恥ずかしそうに俺の肌を撫でながら慰めてくれた。俺が弱ってたり困ってたら心配したり甘やかしてくれる天理も好きだ。
「ずるいぞ!そうやって天理の気を引いて!カッコよくしといてよ!天理はカッコいい俺が好きなんだから!」
「なんだよ!そうやって見栄張ってたからいつまで経っても天理に手だせずにいた癖に!天理は甘えられたり、ちょっと強引な俺が好きなんだから!」
「なっ…」
光侯輝と闇侯輝が自分の好みを赤裸々に挙げられながら喧嘩し始めた天理は、顔を赤くして絶句した。
「強引が良い訳が無いだろ!強引にやろうとして天理を怖がらせて傷つけた事あったの闇だろ!」
「変にカッコつけて我慢して、ちょっとした嫉妬で耐えられなかったから光が萎んで俺が出てくしか無かったんじゃん!」
「……あーあの時のな」
天理が遠い目をしながら呟く。天理と恋人になり立ての頃、天理が他の冒険者と遺跡に行ってしまった事で嫉妬して強引に犯そうとした事があった。天理にとても怖い思いをさせてしまっている。
「あの時のはもう気にしてないぞ。お前のせいばかりでも無かったし、いい機会だった」
「ほらぁ!」得意げに指を指す。
「でも!あの時、天理震えて泣いてたじゃん!そんなの良い訳ない!」
天理は隠しているけど実は怖がりだ。でも一生懸命それを克服しようとしているのも知っているからそれを無碍にしてわざわざ怖がらせるなんてできない!
「う…まぁそうだけど、気使ってくれていつもありがとな」
天理はあははと力ない笑いをするも嬉しそうに礼を言い微笑むと、光侯輝はほらねとばかりに胸を張った。
「やっぱり天理の事を一番に考えてカッコよくする俺のがいいんだよ!」
「俺だって天理を一番に考えてるよ!」
「えー本当にそう?闇はさ、闇の半身の記憶の頃にあった、封印から解放してくれた人の事が忘れられないんじゃないの?」
「えっそれはちょっといいなっていうか憧れみたいな感じで、天理への想いとはまた違うよ!」
光侯輝がじーっと見つめてくる中、天理に誤解されないように必死で弁解する闇侯輝だったが天理が特に気に止めた風ではなかったのでひとまず安心していた。
「そういえば闇の半身は封じられていたのに、そいつがいたから開放されたんだよな。まがりなりにも神の封印を解いたんだろ?どんな人だったんだ?てかどこに封印されてたんだ?」
天理はどちらかというと好奇心の方が強そうに聞いてきた。
「えーっと俺も記憶が断片的なんだけど…凄く綺麗な幼い魂の人で…ていうか実際子供だったような気がする。あれ?大人だったかな?場所は故郷の街の大地の神の霊銅の地下あたり?そこからふらふら出てきたような」
それを聞いた天理は随分近所に封印されてたんだなと呟きながら何か思い出すように虚空を見つめると、ふと何かに思い当たったように重ねて聞いてきた。
「……なあ解放されたのお前が侯輝として生まれる直前?」
「そうだと思う。記憶ぼんやりだけど」
天理は口許に手を置きながらちょっと気まずそうに目を彷徨わせ始めた。
「どうしたの?天理。そういえば天理はその頃8歳位?なんか覚えてるの?」
天理は光侯輝と闇侯輝をそれぞれ見ると、お前が勇気だして言ってくれたのに俺がそれを違えるのはダメだよなと意を決した様に二人に向き直った。
「すまん!侯輝、闇の封印解放したの俺…かもしれない。20年前のお前が生まれた夏ごろ大地の神の霊銅に…その、遊びがてら探検しに行ってなんかそれっぽい遺物を見て何かと話した記憶がある。俺も何かの神の魂を継いでいるなら封印解除はできない事は無いのかもしれない。ガキだったから具体的にどうやったかは覚えてないんだが…」
「「ええっ!!」」
驚く俺達を前に天理は思い詰めた様に頭垂れると話を続けた。
「お前が闇の半身の魂を継いで生まれてきた事で辛い思いをしてるのはよく知ってるつもりだ。俺を恨んでくれて構わない、償いもする……っ、すまなかった」
拳を固め、涙声になりそうなのを必死で堪えている天理。
「ちょっ!そんな事言わないでよ子供の時の話なんでしょ?謝らなくていいよ天理!」
光侯輝は天理が苦しむような事はしたくない!と思ってもどうしたらいいかわからず慌てた。
一方闇侯輝はやはり自分の存在が天理を苦しめてしまった事を辛く思うのと同時に、自分の中の闇の半身の魂が感動に震えている事を自覚していた。あの時自分を解放してくれた憧れの人が今、心から愛している天理だった事に!考えるより先に懺悔の為に項垂れる天理の手を取ると涙を堪える天理を見つめた。
「じゃあ俺達運命で結ばれてるみたいだね♡」
「へ?え?」
天理は嫌われるのもやむ無しと覚悟していたところに目をキラキラさせてそう言われ、思わず間の抜けた声をあげてしまうと、闇侯輝は少し身を乗り出して続けた。
「天理にも辛い思いさせちゃってるし、償いと言うなら俺も一緒にだよ天理、だからそんなに自分を責めないで。だって俺の魂はこんなにも喜んでいるんだから」
そんな闇侯輝に光侯輝が割って入る。
「ちょっと待ってよ、それじゃ俺が天理の事好きなんじゃなくて闇の半身の魂が好きだったから好きになったみたいじゃん。俺は魂とか関係なく天理の事が好きだからね?ね?天理!」
分かって!とばかりに光侯輝も天理の片手を手に詰めよった。天理はまたも呆気に取られた後やっとホッとしたように微笑んだ。
「うん、ありがとな。何があってもお前に嫌われるのだけが辛かったから、お前にそう言って貰えて良かった。なら俺も一緒に、償わせてくれ侯輝」
「違うよ天理」
「一緒に幸せになろう。だよ」
「っ。ああ、一緒に幸せになろう。だな」
そう二人に向かって言うと二人に握られた手を離さないまま涙を交互に拭うと「えっと、そろそろ侯輝に戻らないか?なんかお前が2倍で落ち着かないんだよ」と照れながら呟いた。
「そうだ!まだ決着がついてないよ!」
「え」
「そうだね!天理がどっちの俺のが好きなのか!」
「いや、今いい感じにおさまろうとしてたろ。早く元に戻れ」
俺達は再び口論を開始すると天理がブルブルと震え始めた。
「……あーもう!うるさい!自分同士で喧嘩すんな!どっちか選べって言われても選べんわ!」
「じゃあ天理をより気持ちよくした方が勝ちってことで」
「いいね。受けてたつよ」
「は?はあ?!!ちょっと待て!!どうしてそうなった!や、ちょ」
光侯輝と闇侯輝は天理をがっちりホールドすると素早く天理の服を脱がせ始める。
「ホント待て!俺まだ風呂!準備してない!」
天理の主張に光侯輝と闇侯輝は顔を見合わせると、ならばと天理を風呂場に搬送する。
サシでも敵わない俺に天理の抵抗など無いようなもので、2人がかりで天理をあっという間に脱がすと自らも素早く脱ぎ去り、互いに風呂場でどこもかしこも洗い拭うと、あれよあれよと寝室のベッドの上へと運び、なすがままになっている天理を2人で愛撫し始めた。
「俺はこっち」「じゃあ俺そっち」
「んっ、ちょ!待て!待てって!」
「待たないよ」「待てない」
光侯輝は天理の胸の突起を口に含み舌先で転がし、闇侯輝は天理の下半身に手を伸ばし、天理のモノを手で扱く。
「んんっあっ、やっ馬鹿待っ」
「ねぇ、俺の方が気持ちいいよね?」「俺だよね?」
天理はなんとか一旦止めようと自分に伸ばされる手やらをそれぞれ掴むも徐々に力が入らず、与えられた体の震えを伝えるものにしかなっていなかった。
「んっ!ちょやめ!あっ、もっどっちも気持ちいいっから、もうっやめっあっ!」
「どっちも気持ちいいって事は、まだどっちが好きなのかわからないって事だよね?」「それじゃもっといくよ!」
「おいちょっとお前あっ!ぅあ!」
光侯輝が天理の乳首を舌で苛めると闇侯輝は天理の背筋を舌で嘗めあげる。天理の吐息があっと言う間に上ずってくると、2人は天理の中心を争うように嘗め始めた。
「あっそこや、やめ…」
光侯輝と闇侯輝は二人同時に、天理は前より後ろを弄られる方が好き!と思い直すと後孔に手を伸ばす。が、さすがにその手がかち合ってしまう。
「「天理の後ろは俺のだ!」」
一触即発でにらみ会う2人。
「も…ジャンケンでいいだろ…」
赤い顔をし、はふはふと息をしながらも、とりあえず仲裁をしてしまう天理の手前やむ無くジャンケンで決める。
「勝ったあ!天理の後ろは俺のね!」
「ううっ天理ぃ…..」
「あーはいはい、俺がもつか分からんけどちゃんと後で相手するから待ってろ…」
天理は少し起き上がって闇侯輝を撫でてくれる。
「そうだ!天理、俺に入れてよ!」
「は?え、お前、準備は」
「してあるよ!俺は天理の前を気持ち良くさせるよ。さっ俺に入れて天理」
「いいんじゃない?俺は天理の後ろを気持ちよくさせるよ」
闇侯輝は躊躇なくさっと天理の前で脚を広げ後ろを慣らし始める。
「んっあっ天理ぃ…」
「お、前…ちょ…」
そんな闇侯輝の姿を見て顔を赤くし始めていると光侯輝が後ろから覆い被さる。
「そっち見てるのもいいけど天理も慣らさないとね」
光侯輝は天理の後孔に手を沿わし慣らし始めた。
「っ…ぁ…」
「ふふ、気持ちいい?ここ好きだよね?」
天理は光侯輝に後孔を慣らされながら、目の前では闇侯輝が自分に入れられる準備をしている光景を見て興奮し、更に後孔を慣らされている指が前立腺をかすめる度に身体が跳ねた。
「あっ……んっ、ぁあっ」
「天理ぃ、も、俺入れていいよ?早く来て…」
「こっちももう大丈夫そうだね、入れていいよね?天理」
「あっも、分かっ、たから」
天理はこの倒錯的な状況に浮かされながら、もうどうにでもなれと闇侯輝に覆い被さると入れるぞ?とゆっくりと闇侯輝の中に挿入した。
「あ、天理のが…んっ……あっ、入って……くるっ」
天理がゆっくりと動き出すと闇侯輝は後ろで天理の中心を締め付け、天理の背中に手を回し抱きつく。
「っく…ぁ…っ…」
「ああっ気持ちいいよ…天理♡」
「ちょっと勝手に始めないでよ。俺も入れるよ天理…」
光侯輝の中心を天理に入れる。これで光侯輝と闇侯輝で天理をサンドイッチする形になった。
「あぁっ、ぁっ!ぁ、ぅ」
「ぁ♡天理のビクッてなったぁ…」
腰を動かすと天理は前と後ろに同時に刺激を受ける。その強い刺激に動きが緩慢になりそうになると光侯輝によって動きを支えられ前にも後ろにも逃れる事ができない快楽を与えられた。
「待っ、あっ!これ強っ、んっ!ぁっ!んっあぁ!あっ!」
「ふっ、んっ、くっ、気持ちいいよ、天理」
「あっ、あっ、あっ、あっ、気持ちいいよ♡天理ぃ」
天理を光侯輝が腰の動きをサポートして前と後ろから快楽を与えると天理は抑える事が出来ない声をあげた。
「ふふっ、可愛いよ、天理」
「あっあっ天理!ちゅーして」
「ん、むぅ、んん!んっ!」
「そっちズルい!天理、俺ともちゅー」
「んっ、あっ、もぅん!」
天理は2人の侯輝とキスを交互に絡めながら前と後ろを苛められつつ、更には乳首に背中に首筋にと競うように愛撫を受け快楽でどんどん蕩けていった。
「ぁあっ!もっゆっ!くり!あっ!同時、うっあ!ひっ!んあっ!あっうっ!あぁっ!」
「あぁっ!あぁっ!気持ちいい♡あぁっ!天理の、俺の中でビクビクする♡気持ちいいよぅ♡!」
「あ¨ぁっ!あ¨ぁっ!凄いよ!天理のお尻、キュウキュウして気持ちイい!」
天理の前では、天理に後孔を責められる度にビクビク身体を跳ねさせ天理の中心を締め付ける闇侯輝。
天理の後ろでは光侯輝が天理の腰を動かしながら時折天理の背中に吸い付き痕を遺す。
天理は引いても押しても際限無く与えられる快楽に声を上げるタイミングがもう分からなくなりひたすら嬌声を上げ続けていた。
「あぁっ♡天理ぃ!俺のっお尻気持ちいい!?」
「あ¨ぁっ!俺の方が天理のお尻気持ちよくしてるよね?!」
「あっぁっあっ!んあっ!もっ!あぅっ!あああっ!やっ!ぃっ!」
蕩けながらも必死で快楽に堪える天理の口は閉じる事ができず、ただただ喘ぎ声と涎を溢していた。
光侯輝と闇侯輝は天理の淫れた姿に溺れながら、天理がもう答える余裕も無いことにも気づかないまま2人で競うように天理を淫らに苛めたてた。
「ぐっ!あっ!あ”っ!俺の方が気持ち良いって言って天理!」
「あっ♡あっ!ああ♡俺の方が気持ちいいよね♡?天理?!」
「あああ!あああ!もっ!やっ!ば、だめ!だ、いっあ、いっ!あああああ!!!」
「っぐあ”っ!天理ぃ!」
「あああっ♡天理ぃ♡♡」
天理は2人がかりで身体中に刺激を与えられ快楽でめちゃくちゃになりながら果てると光侯輝と闇侯輝も同時に果てた。
「はぁはぁはぁ…気持ち良かった…。ね、天理」
「はぁ♡はぁはぁ気持ちよかったね天理♡」
「はぁっはぁっはぁっ、ん…っはぁっ、はぁっ」
「はぁ、ねぇ、どっちが良かった?」
「はぁはぁ、俺の方が気持ちよかったよね?ね?!」
「っは….ん..ぁ…い……いい加減にしろ!!!もう2人とも大っ嫌いだ!!そんなにシたけりゃ自分同士でやってろ!」
「「ヤダー!」」
「もうお前とは口聞かん!」
「ごめんなさい!」
分裂していた光侯輝と闇侯輝はショックで侯輝一人に戻ると天理の横で土下座した。天理は戻った一瞬ホッとした顔をするもすぐに腕を組みぷいと横を向いてしまう。
「天理、機嫌直してよ…」
「嫌だ。お前、光だろうが闇だろうが人の話全然聞かないし、どっちも強引だし。俺の気持ちとか考えてないし…」
「それは、だって……俺、もっと天理が好きな俺になりたくて…もうどっちが好きとか聞かないから嫌いにならないで……」
天理を後ろから抱き締めて半泣きで懇願する。嫌われたら生きてけない。
「……二つに別れてホントにもしもの事があったら俺どうすりゃいいんだよ馬鹿」
「心配させてごめんなさい」
俺だって、もし天理を失う事になったら……と思うと怖い。
「……どっちもお前なんだから、どっちが好きかとか聞くなよ馬鹿……全部ひっくるめたお前を…好きんなって結婚したんだよ俺は」
「うん…ごめんね」
「キスだって俺は一人しかいないんだから一人としか出来ないし…」
「うん…ホントは半分寂しかった」
確かに片方は満たされてるのに片方は寂しい気持ちで自分自身に嫉妬してるなんてごちゃごちゃした感情はちょっとだけ嫌だった。
「ちなみに…さっき一番嫌だったのは、その、最中にだなお前…」
まだちょっとだけ怒りつつも恥ずかしそうに言う天理に首を傾げる。
「悪いトコは直すよっ」
「いやその、俺のこと気持ち良くさせるばっかで…いやそれは悪くはないけど…その、お前さっきは……一度も好きって言ってないだろ……」
「!!ごめんね!そりゃ嫌われちゃうよね。大好きだよ。天理」
俺は大事なことを忘れていた。最後の方小さくボソリと言って俯いてしまった天理をぎゅっと抱き締めて後ろからそう囁くと、天理は真っ赤になって固まりボソボソと呟き始めた。
「ぁぁ……何言ってんだ俺……自分だって普段ろくに言えない癖に人に言わせるとか、ぅぁぁ……」
「ごめんね不安になっちゃうよね。天理の気持ち考えてなかった。お願い、天理こっち向いて?キスしよう?今からいっぱい言うから、ね?」
「っ……ぉぅ…..ん……」
まだ恥ずかしそうに顔を赤くしながら振り返る天理に口づけをする。
「俺も大嫌いとか言って悪かった……」
「ううん、俺が先に馬鹿やったんだから天理は悪くないよ。挽回させて?」
天理を抱きしめる手をお伺いを立てる様に少しだけ体を撫でる。
「ぅぅ…さっきみたいのは無しだぞ?」
「もちろん!今度は身も心もトロトロにしちゃうよ!」
「ふはっ、ほんと馬鹿だな」
俺は苦笑しながら体の向きを変えて抱きついてきてくれた天理をゆっくりと押し倒すと、深くキスをする。好きだよと何度も言いながら優しく抱くと、天理は抱かれながら愛おしそうな目で好きだと返してくれた。熱に浮かされながら愛していると呟けば天理はそれだけで体を震わせ幸せそうに微笑んで俺の名を何度も呼んだ。全身で、言葉以上に雄弁に、俺への愛を語るその様は本当に綺麗で……俺の心を掴んで離さない。
俺達はそれから何度と体を重ね、天理は俺の腕の中で幸せそうにウトウトしながら呟いた。
「魂が何だろうが…お前も俺も…これから何に変わっても…愛しているよ…侯輝」
「うん……俺も……永遠に……愛してる……」
俺はそう言って眠る天理を抱きしめて眠りにつく。
自分自身でもある太陽の神がなぜ生まれ変わろうとしたのかは分からないが、闇を自らに受け入れた俺が、天理と愛し愛される事で、ようやく本当の意味で生まれ変われた気がしていた。
[newpage]
太陽の神が自分自身から闇を切り離して封印し、世界が光溢れる喜びと平和な日々が続く中、確かに太陽の神は再び皆に称賛され疎まれる事は無くなった。だが今度は闇に安らぎを求めていた一部の者達から疎まれる様になったが、光の恩恵を知っていた為、表立って非難されないだけでやはり太陽の神を嫌う者はいた。太陽の神はそんな勝手な神々に辟易としていたが、父と母である空の神と大地の神の手前では心配させまいと笑顔で過ごしていた。
だが空の神と大地の神はそんな太陽の神の心を見抜き哀れんだ。空の神と大地の神の悲しみから生まれた水の神は雲を生み出し雨となった。雲は太陽の光を少し和らげ、強すぎる光を嫌悪していた者達の不安を図らずも和らげたが、太陽の神との溝はあまり埋まらなかった。空の神と大地の神は太陽の神が折角世界を光で溢れさせても、このままでは肝心な太陽の神自身は誰も愛せないのではないかと心配した。
いつもの様に空の神の懐である天を、太陽の神が楽しそうに駆けているのを空の神は眺めていたが、ふと視線をそらすとそこに大地の神がいた。大地の神が空の神に何か言いたそうにしていたので空の神が話しかけようとしたが大地の神は困ったように微笑むだけだった。
ある時の事、空の神は太陽の神が一人で森の奥深くへと入っていくのを見かけたので後を追った。太陽の神は木漏れ日の降り注ぐ森の中、泉のほとりで膝を抱えて座っている。光輝く表情は鳴りを潜めその表情はどこか寂しげだった。
「どうしたのだ?太陽の神。こんな所で……また、辛い事があったのか?」
「父さん!……ううん違うよ。ちょっと休憩してただけです」
空の神は太陽の神が自身の闇を封印してから自分の前ですら弱音を吐こうとしなくなってしまった事を心配していた。
「そうか……無理はするんじゃないぞ」
空の神はそう言って太陽の神に微笑むと、せめて気持ちが和らぐ様にとそっと頭を撫でる。太陽の神は嬉しそうに微笑んで空の神に抱きついた。空の神は一瞬驚くも以前の様に甘えてきてくれたと喜び、太陽の神を抱きしめ返すと、太陽の神は空の神の胸に頬を擦り寄せて甘えた。空の神はそんな太陽の神を優しく抱きしめて、愛おしそうに見つめる。
「ああ、お前にも共に過ごしてくれる愛する人ができたらいいのにな」
空の神の言葉に太陽の神は空の神の背中に回した手に力を込める。
「父さん……俺は……好きな人がいます。その人は……とても綺麗で……優しくて……強くて……そして誰よりも愛しい……けどその人はもう愛している人がいて……だから……その人の幸せを邪魔したくなくて……」
なんと、空の神が危惧していたよりも太陽の神はちゃんと誰かを愛している様だった。ほっと一安心したが、それは叶わぬ恋らしい。
「それで落ち込んでいたのか?お前程の者でも叶わぬ事があるというのだな。私で悩みが解決できれば助けたかったのだが、難しそうだな」
空の神は慰める様に太陽の神を撫でた。太陽の神は少し考えた後、意を決した様に空の神を見つめながら口を開く。空の神はその瞳に我が子ながら少しドキリとした。一体これ程までに焦がれている相手とは誰なのだろうかと。
「俺がこの想いを告げても迷惑になるだけだと思うし、何より今の関係が壊れるのが嫌なんです。大好きだから……せめて家族として側に居たい」
空の神は太陽の神の言葉になんと切ない恋をしているのだろうと胸が締め付けられる思いがした。太陽の神は良くも悪くも真っ直ぐだ。その太陽の神がここまで悩むのは余程その相手が大切だという事なのだろうと空の神は察した。家族というと仲の良い妹の月の神辺りだろうか、しかし月の神が兄である太陽の神を敬愛しているのは周知の事実だから、太陽の神の他に愛している人がいるという条件には当てはまらない。まさか大地の神と言われると流石に立場上困った。大地の神の事は愛しているし、太陽の神の事も愛する大事な息子だと思っているからだ。
「そうか……お前がその様に想う相手ならばきっと素晴らしい人なんだろうね」
「うん!父さんはいつも優しいけど、そんな風に笑う時はもっと優しくて綺麗です」
空の神はそれでも息子の切なくも一途な愛に喜び微笑み返したが、何か話が噛み合っていない気がし、言葉を勘違いされただろうかと思った。太陽の神の想い人の話をしたかったのだ。
「そうなのか?自分では良く分からないがお前が良く思ってくれるなら良かったよ」
「父さんは綺麗だし、優しくて強いです!」
太陽の神が少し顔を赤らめながら重ねて言うと、そこで空の神はようやく太陽の神の想い人と太陽の神が自分に抱くイメージとが一致している事に気づいた。
「そうか……お前の想い人は私に似ているのだな」
空の神は自分が好きだと言われた様な気がして嬉しそうに微笑んだ。
だが太陽の神は意を決して告げた告白が、子から父へのお父さん大好き程度にしか通じていない事を知ると焦りの余り考えるより早く体を動かしてしまった。
「父さんごめんっ!」
太陽の神は空の神に一瞬口付けた。空の神は一瞬唖然としたが困ったような顔をするだけだった。
「太陽の神……いくら似ていても私は変わりにはなれないんだぞ?」
太陽の神はまたも通じていない事に唖然としたがめげずに貫き通す事に決めた。
「父さん!俺が好きな人は父さんなんだ!」
「…………私が?え、お前の父の私?」
太陽の神が顔を赤らめながらはっきりと頷くと空の神は困惑した。
「俺は父さんも母さんも好きです。でも父さんを愛してしまったんだ」
空の神は苦しそうにその想いに応えられない事を告げると太陽の神は泣きそうな顔をした。空の神はその時、空気がほんの僅かに重く切ないように変わるのを感じとると自分が思いの外、息子の言葉に動揺しているのを知り、神としてその場を納めなければならないと気を引き締めた。空の神は泣いてしまった太陽の神を根気よく慰めるとひとまず太陽の神は落ち着きを取り戻した。
その時諦めたかに見えた太陽の神はその日を境にはっきりと空の神に好意を示す様になった。都度、空の神がやんわりと断るも太陽の神はめげずに空の神に想いを伝え続けた。永い永い月日を経て少しづつ空の神も太陽の神への想いが芽生え親子の情から変化するのを自覚した。しかし妻である大地の神の事を想うとどうしても応える訳にはいかなかった。空の神が悩む日が続くと天が荒れた。空の神が慌てて天を鎮める為に祈り始めるとその声を聞いた大地の神が現れた。
「空の神、あの子を…太陽の神を愛してあげてください」
「私にはお前を裏切るような事は出来ない。すまない私が不甲斐ないばかりに……このままでは天が荒れてしまう」
空の神は悲しそうに言うと、大地の神は空の神を抱きしめた。
「いいえ、私こそ……あなたを一人悩ませて苦しめてしまって……ごめんなさい」
「お前が謝る事ではないよ」
空の神はそう言うと、そっと大地の神を抱きしめ返した。
「太陽の神がこのまま誰も愛し愛されないのは母として辛いのです。私はもう十分に貴方から愛を頂きました。どうかあの子を愛してあげて」
「しかし、私はお前を放って誰かを愛することは出来ない」
「永い間私を想ってくれてありがとう空の神。私は貴方を愛しています。でももうそれは母としての愛なのかもしれません。私をどうしても想ってしまうというのであれば……」
大地の神は空の神に太陽の神と共に神としての記憶を消し人として生まれ変わる事で愛し合えるようにする事を提案した。しかし生まれ変われたとしても出会い、結ばれるようになるのは奇跡にも等しい確率だった。苦渋の末、空の神は愛する太陽の為に大地の神の提案を受け入れた。太陽の神にその話をすると、太陽の神は喜び、二つ返事で承諾した。それは空の神が自分を受け入れてくれた事と等しかったから。
「ありがとう父さん!そして…母さんもごめんなさい……俺は父さんを愛してるんです」
「分かっていますよ太陽の神。私は貴方の母ですもの」
大地の神は優しく微笑むと太陽の神を抱き寄せた。
「父さん、母さん、俺は……俺は二人とも大好きだ!」
三人は抱き締め合うと、太陽の神は泣きながら笑った。
それから魂を移す為に空の神と太陽の神は自分の力を他の神々や精霊達に分け与え、人として生まれ変わった自分達をフォローするために様々な道具を地上に点在させた。後に人間達からはそれらは神器として崇められたり、用途不明のガラクタとして放置されたりした。
太陽の神が封印した闇の半身も解放し共に移そうとしたが、太陽の神が頑なに拒んだ為、そのまま大地の神が預かる事になった。
様々な準備を済ませると、ついに神の身を捨て生まれ変わる為の儀式を行う日が来た。それは大地の神との別れの日でもある。
「空の神、他の誰かを愛するのに全て忘れなければならない程愛してくれてありがとう。太陽の神、私の愛おしい子、私は貴方が幸せになれる事を心から祈っています。……二人とも愛しています、私はずっと貴方達の事を見守っていますよ」
大地の神に見送られながら儀式の為に作られた部屋に空の神と太陽の神が入る。
「父さん、いや……空の、神、儀式の前に一つだけお願いがあります」
「なんだい?太陽の神」
「一瞬、で、いいから、今、俺を愛して欲しい」
太陽の神は熱い視線で空の神を見つめた。空の神はまだ大地の神に罪悪感を覚えつつもそれでも愛おしいと思ってしまった。そしてどうしても心残りだった事を告げた。
「……条件がある。太陽の神。お前が封印したお前の半身、闇の半身を開放して一つに戻りなさい。私はそのお前を愛したい」
「それ、は、嫌だ…俺は闇を解放したく無い。闇と一つに戻った俺が愛される自信が無いよ……」
「私を信じてくれないのか?私はお前が闇を切り離す前から変わらず愛しているよ」
「父さん……俺は、父さんが愛してくれるのなら……でも……」
つい先ほど愛して欲しいと請うた太陽の神がまた子供の様に自信無さげになってしまうのを見て空の神はそれでも愛おしいく思いながら太陽の神を抱き寄せた。
「ふふ、父さん呼びに戻っているぞ。太陽の神。じゃあ生まれ変わったら記憶が無くてもきっともう一人のお前を見つけ出して迎えに行こう。その時はちゃんと戻るんだぞ?」
「父さん……うん!俺頑張るよ!父…空の神!」
「さあ、おいで」
空の神はそう言うと両手を広げて太陽の神を愛おしそうに抱きしめる。太陽の神は空の神の鼓動が自分と確かに同じくらいに鳴っているのを確かめると歓喜し涙した。
「空の、神……愛しています」
「私も…愛しているよ。太陽の神」
空の神と太陽の神は互いに抱きしめ合い愛おしそうに見つめ合うと口付けをした。
その頃、太陽が空を一際紅く染めていた。切なくも美しい夕空だった。
空の神と太陽の神が神の身を捨て何千年と時が過ぎた。人類は繁栄と幾度か滅びかけもしたがその歴史を粛々と刻んでいた。
人の身に魂を移した二人は知らぬ間に大地の神に見守られながら、ある時はまったく出会う事も無く人生を終え、ある時は出会い、友となり恋人となる事もあったが悲恋に終わる事もあった。永い永い時を経て大地の神は魂が希薄となりつつも、二人が生まれ変わる都度どんな結果でも二人の魂をただ見守り続けた。
そしてまた、とある学者夫婦の元に男子が生まれた。大地の神が空の神の魂が宿るその子を見守っていると、ほどなくして太陽の神の魂が遥か東の地で月の神の加護の元、巫女の胎に宿るのを確認する。人の身では少し離れているが大地の神は今度こそ二人が結ばれます様にと何度目かの祈りを捧げた。