13.二人で通る通過点
侯輝と天理は無事家族だけで挙式をあげると、一行は再び都に戻り、冒険者ギルド兼酒場に場所を移した。借り切っての結婚披露宴を行う。
まずは新郎二人の入場なのだが。
「抱っこして入場したい!」
「絶対嫌だ!」
既に揉めていた。
「挙式ではやってくれたじゃん!」
「身内しかいなかったから我慢できたんだよ!大勢の前とか嫌だ!」
天理も仕事仲間や知人を呼んでいたがそれ以上に侯輝の顔の広さから参加人数が多すぎた。また天理の護衛依頼をほぼ侯輝が独占していた為、天理が知る冒険者はそう多くなかった。なんにしろ恥ずかしいもんは恥ずかしい。
「説得しろ。俺を」
「また他人事みたいな事言うんだから」
下を向いて天理が言う。侯輝は天理が頭で侯輝の望みを叶えたいのは分かっていた。人前で抱っこされる勇気がないから侯輝にどうにかしろと言っているのだ。このまま抱っこされて出ていったら自分は確実に固まってしまう。手を繋いだだけで固まっていた記憶はまだ記憶に遠くない。
天理の肩を抱き寄せて耳元で囁く。
「大丈夫だよ。皆、祝福してくれるよ、それに、ほら、俺達もう夫婦だし、一緒に行こう?ね?」
天理が真っ赤になって俯きながら小さく呟く。
「……分かった。やるなら早くしてくれ。恥ずかしくて死にそうだ」
侯輝が満面の笑みで答える。
「うん。じゃあ行こうか」
天理が差し出された腕を取り、その胸に体を預ける様に寄り添うと、そのまま抱き上げられた。
「まて侯輝。もうひと押しくれ」
天理は腕を伸ばし侯輝の頭を引き寄せると、そっと唇を重ねる。
「ありがとな」
「いいよ、俺の我が儘だもん」
「そうだった」
やっとくすりと笑った天理に侯輝は笑顔を返すと歩を進めた。
扉が開かれると、そこにはおもいおもいの服装の人々がいた。きっちりドレスやスーツを着こんだ者、冒険帰りの者、既にお酒片手の仲間と談笑する者がテーブルについていた、バラバラだったが全て今日この日に二人の門出を祝いに集ってきた人々である事は疑いようがなかった。
天理を抱き上げた侯輝が入ってくると歓声が上がる。
顔を赤くしながら黙って運ばれていく天理と満面の笑みの侯輝に会場中は歓声と拍手と口笛が鳴り響き、祝福の言葉がかけられた。
会場の中心には二人の為の簡単に飾り付けられたテーブルがあり、侯輝は天理を抱いたまま用意された二人の席に辿り着くと天理を椅子に座らせる。天理の顔はどうしても赤くなってしまったがヤケクソ気味とは言え緊張しすぎないで席に着くことができた。
土花と土実は近くの席に着き親代わりの土護は既に涙目で二人を見つめている。
司会を任されたギルドマスターが進行を始める。
「それでは只今より!侯輝と天理の結婚披露宴を始めるぜ!まずは新郎侯輝から挨拶だ!」
侯輝が高らかに挨拶を始める。
「みんな今日は忙しい中出席してくれてありがとう!俺は天理と出会ってからずっと幸せで、この先も一緒に居たいと心の底から思っています!天理、俺を選んでくれてありがとう!これからも天理と一緒に幸せな家庭を築いていくから、どうか見守っていてください!」
会場内から歓声が沸き起こる。
天理は自分でも顔が赤くなるのを感じた。
「次はこっちも新郎!天理から挨拶だ!」
天理が立ち上がる。ちらりと侯輝を見ると笑顔でこちらを見ていて、少しだけ気持ちが落ちついた。
「本日はお集まりいただき有難うございます。私は侯輝と出会い、彼に幾度も救われました。彼は私にとって太陽の様な存在であり、隣にいるととても安心できます。そして、そんな彼を好きになり、共に生きていきたいと思うようになり、結婚を決意しました。..ぇぇと」
天理は言いながらもどうにもこの自由な酒場にそぐわない堅苦しい様な気がしてきた。すぅと息を吸い腹に力を込める。
「堅苦しい挨拶となってしまいましたが!皆さんのご期待に応えれるように頑張りますので、侯輝共々よろしくお願いします!!」
そう言って頭を下げると、またもや大きな歓声と拍手が湧き上がった。
顔を上げると侯輝が笑顔でサムズアップしていて天理も思わず笑ってしまう。
「さあ続いて!親族からどーしても挨拶したいってんで侯輝の兄貴から挨拶だ!」
侯輝「え」
天理「やばい長いぞ」
土花「土護兄さん巻きでお願い」
土実「何を言っているの土護兄さんのありがたいお話をちゃんと聞きなさい」
侯輝・土花(出たよ土護兄絶対主義)
「えーご紹介に預かりました侯輝の兄です。皆様には日頃から弟の侯輝が大変お世話に成っておりまして、本当に感謝しております。5年前、人より成長が遅くまだ小さかった侯輝が冒険者になると勝手に家を飛び出し、上京した時は正直心配で夜も眠れぬ日々が続きましたが、今では立派に成長し、一人前の冒険者として日々頑張っておられるのは皆様とそして一緒になってくれた天理の支えがあってこそだと感じています。まだ小さかったあの頃を思い出……」
「やめてー昔の俺の話をするのはやめてー」
(親族の挨拶ってこういう形で新郎泣かすもんだっけか)
両手で顔を覆い半泣きの侯輝の頭を無言で撫でてやる天理。
「…また、そんな侯輝が私の幼なじみであり親友の天理と結婚までしてくれた事には深く、それはもう深い感動を覚えており、これからも末永く仲良くして頂ければ幸いに思います。では、最後に一言、我が弟、侯輝を今後とも宜しく頼みます!!!以上、ありがとうございましたっ!!」
土実と最後まで辛うじて聞いていた人々からぱらぱらと拍手が起きた。土花は近場の冒険者と小声で談笑しながら料理を食べていた。
「大丈夫か?侯輝」
「なんとか…」
「流石大地の神殿長の話だったな!俺も(長くて)涙が出そうだったぜ!さて次は…え?まだあるのかい?お兄さんよ」
「待ってくれ天理の親御さんから手紙を預かっているんだ!読ませてくれ!」
「……忘れていれば良かったのに」
天理の両親は遠い他国で研究員として働いていた為、参列できず、土護が手紙だけを預かっていた。両親との仲は疎遠になりがちで、仲が悪いという訳ではなかったがお互い好き勝手やっているという感じだった。侯輝が生まれるよりも前の小さい頃は親の研究室で遊んでいた事もあるが、成長するにつれ距離が開きがちになっていた。
(どうせ大したこと書いてないだろ)
天理が小さくため息をつく中、土護が読み上げる。
『拝啓 天理へ この度は結婚の報告ありがとう。とても嬉しい気持ちでいっぱいです。
小さい頃から手のかからない子供でしたがそんな貴方に私たちは甘えてしまって寂しい思いをさせてきてしまったかもしれません。
しかし、こうして結婚報告の手紙を送ってくれるくらいに成長した事に安心しました。相手がご近所のあの侯輝君だと知った時は驚きましたが、きっと今頃幸せ一杯なのだろうと思います。
さて、天理は小さな頃、私達が見つけてきた遺物に興味もってくれて、いつか学者になって世界中の遺跡を旅してみたいと言っていましたね。貴方の研究結果がこちらに伝わってくると貴方の夢が少しずつ叶っているようで嬉しさを感じています。
その知識と経験を活かして是非新しい発見をして下さい。侯輝君という素晴らしいパートナーもいるのです。二人で協力すればどんな困難にも打ち勝てると信じています。私達は残念ながらそちらに行く事はできませんでしたが、天理の活躍と活躍後の笑顔を見れることを楽しみにしています。結婚おめでとう。 』
しんみりとする会場。下を向いて黙り込んでしまう天理。
(な、んだよそれ。好き勝手やってんなら手紙ももっと適当でいいだろ…ああクソ。馬鹿だな俺、俺が知らないだけでちゃんと俺の事考えてんじゃねぇか)
侯輝は天理が感情が大きく振れた時、耐える様に1点を見つめ表情を固めたまま動かなくなる癖があるのを知っていた。薄っすら涙が張っている。ほとんど天理の両親の事は覚えていないが、天理が愛されている事だけは分かった。天理は冷淡そうに見えてその実、情が深いのは結局親譲りなのだ。侯輝は天理の夢を支えていこうと決意を新たにする。
「天理!!」
「ぅわ!なんだ!」
泣く寸前だったところで突如侯輝に大きく呼ばれぎゅうと抱きしめられ驚く天理。
「良かったね!俺ずっと天理の事支えていくからね!」
「ちょ!わ!おい!」
赤くなって慌てふためく天理。会場内からヒューヒューと冷やかす声が飛ぶ。
(ああもう泣いてる暇もありゃしない…いやここで泣かずにすんだ、か。かなわんなぁ…)
天理は涙を瞳の端に残しながら、恥ずかしさと照れ臭さを誤魔化すように侯輝の腕の中で暴れた。
「はっはっはっ!いい話だったな!二人ともいちゃつくのは後にしとけ!じゃあ続いて乾杯に移るぞー!!皆グラスを持て!」
会場中から歓声が上がる。
「侯輝と天理の結婚を祝して!カンパーイ!!!」
『かんぱ~い!!』
[newpage]
その後は大騒ぎである。酒を飲み料理を食べ騒ぐ。
そんな中、天理は皆に囲まれ、質問攻めにあっている。侯輝が普段酒の席で自慢している『嫁』を間近で見る機会を得られたので、冒険者達は遠慮なく質問をぶつけていた。
天理からの依頼を受け共に冒険した事があった者を居たが、天理が男だと今日知った者、見た事はあったがそうだと知らなかった者もいくらかいて驚いていたりした。
皆が侯輝から聞かされていた天理像は、年上の黒髪の美人で眉は凛々しく瞳は理知的で背は平均的より少し高め、色白だが華奢ではなく引締まったナイスボディの持ち主。普段はクールだが時々見せてくれるデレが可愛いとかだったので、女だと思っていた連中がイメージしていたのはクールな年上秘書お姉さんタイプであった。
しかし実際に会ってみた天理は男で、確かに整った凛々しい顔立ちで特徴も間違っちゃいない。細身に見えるが白のモーニングコートの下は侯輝の言う通りならそれなりに鍛えられてはいるのだろう。
口が少し引き結ばれている為、やや近寄り難い雰囲気はあったが、話すと知的な雰囲気はあるが基本は気さくな男であった。
尚、侯輝を狙っていた一部の女性冒険者はどんな美女に侯輝を取られたのかと値踏みする勢いで参加していたらそれが男のイケメンだった為二重に落胆した。ごく一部の腐った女子は片隅で喜び狂っていたりしたが、殆どの女性陣はその辺のマナーはわきまえていたので騒ぎにはなっていない。
侯輝は顔が広く挨拶する人間が絶えない。天理は自身への質問責めが一区切りすると天理はようやく知り合い達との会話ができる様になった
CASE:天理と速水
「先輩ご結婚おめでとうございます♪」
「よ、よくきてくれたな速水…」
速水はかつての彼女だ、八年前に別れている。今は友人なのだが…来てくれるか心配していた。ネイビーを基調としレースをあしらったスタイリッシュなパンツドレスは知的で活動的な彼女によく似合っている。
「折角ですので♪侯輝君よく私呼ぶの許してくれましたね」
「いや、呼ぼうって言ったのあいつでな…お前さんに世話になったからって」
「私何もしてませんよ~」
速水はそういうが、侯輝と以前酷い喧嘩をした時に侯輝に対して何らかの仲裁をしてくれた事を天理は知っている。当時侯輝はまだ速水を目の敵にしていたから、それは難しい事だったはずなのだ。それが無ければ今、こうして侯輝と結婚できていなかったかもしれない。
「速水、その、ありがとうな」
「いえいえ、私はただあの時はああするのが一番良いと思っただけですし。それに結局私が何かするまでもなく二人は仲直りしてたと思いますよ?だから私のやった事は大したことじゃありません。それより本当に良かったですね!先輩綺麗ですよ~、幸せそうで何よりです!」
天理は仲裁無しでは実際仲直りは難しかったと思うぞと思ったが笑顔でそう言われては何も言えない。
「…あーとせめてカッコいいとかにならんか?いやカッコ良くないなら無理にとは言わんが…」
「先輩綺麗ですよ?」
「…まぁ褒め言葉として受け取っておく」
天理は苦笑しながら答える。
「そういえば先輩、侯輝君まだ若いですけど、結婚早くないですか?」
「俺もそう思ったんだけどな、けど侯輝がどうしても結婚したいって…なんか焦ってんだよ。俺の方もいろいろあったから俺を心配してるのもあるだろうし。だからあいつを安心させてやりたいんだ。子供もできないから結婚する区切りなんて分からないし、もう俺はあいつと一生一緒にいるつもりだったから、いつやっても一緒なら早い方がいいだろうって」
「結局侯輝君の為なんですね。ふふっ先輩本当に侯輝君の事好きなんですね~♪」
「…まぁそうだよ。ごちゃごちゃ言ったけど俺もあいつと一緒になれるのは嬉しいし…」
結婚までして今更否定する事でもないがやはり顔が赤くなるのは止められなかった。恥ずかしさを誤魔化す為話を逸らす。
「ああそうだ一つ頼みがある速水…あちらの片隅でスケッチブック片手に俺を見ないふりしながら、何かを一生懸命描いているお嬢さん方がちょっと怖いんだが、どう対処したらいいか教えてくれ。情報量払ってもいいから」
部屋の片隅では女子達が天理と侯輝の絵を描いていた。彼女らは当事者おさわり厳禁の鉄の掟を忠実に守っていたが、接する機会が無い天理としてはちょっと怖い。実は天理の同僚に居るのだが彼女は古代創作物の二次専門でナマモノは範疇外だったのだ。
そしてそんな彼女達にとって、この結婚披露宴はある意味最高級のご馳走であり、最高のイベントでもあった。
「あ~、隠してますけど堂々と描いてますねぇ」
「彼女達は噂によるとその……俺は恥ずかしくて死にそうなんだが」
「あ、だめですよ先輩涙目なんてしてたら。堂々としてれば大丈夫です。でも彼女達話せば分かるコ達ですよ」
片隅では涙目頂きましたとばかりに筆が走る音がする。天理は無になる様必死で務めた。
「そうか……分かった。すまない礼はまた後で」
「いいですよ♪これくらいでお礼なんて」
「いつもすまないな、今日は会費代くらいは稼いでってくれ」
「そうさせて貰います♪侯輝君のお陰でいろんな人来てますしお釣りが出るくらいですよ♪」
結婚披露宴という場は様々な人々が集まる。顔の広い侯輝の披露宴は情報屋の速水としては絶好の稼ぎ場所だった。
「速水。本当にありがとな」
天理は様々な想いを込めて礼を言う
「いえいえ、私も楽しかったですから♪今後ともよろしくです♪」
(楽しかった。か。どこを指してるんだろうな。せめて誠実な友人でいさせてくれ速水)
彼女は純粋に楽しみ心から天理を祝福していた。情報屋である身はあるやもすれば胡散臭がられる事が多く、増して天理は元恋人だという立場もあるのに変わらず真摯に接してくれる天理は大切な友であったのだ。速水は天理との交際の思い出に誰にも分からない程一瞬浸るとすぐに楽し気に歩を進め、人々の渦に飛び込んで行った。
CASE:天理とアナスタシア
「ご結婚おめでとうMr.天理」
天理が勤める学院の古代研究科の科長を勤めるアナスタシアは品のあるブラックとベージュのフォーマルドレスに身を包み淑女然とした笑顔を浮かべて祝いの言葉を述べる。
「ありがとうございます。アナスタシア科長。すみません、騒がしすぎる席で」
「いいえ結構ですよ。私は貴方達の幸せを祝福します。それに今日はこの騒ぎが心地よいのです。貴方達が触れ合った時間の長さを感じられますからね」
「はい…そう言ってもらえると助かります」
歴史の大切さを知る彼女にとってこの時間は貴重であり愛しいものなのだ。それは同じ道を歩もうとしている天理にとっても共感できるものだった。
「そういえばご紹介したお宅の方はいかがですか?」
「侯輝共々気に入っています。やはり二人では少し広すぎましたが、俺の趣味の遺物置き場としては丁度いいですね」
男同士ではどうやっても家族は増えない。養子でも取らない限り。
「Mr.侯輝は冒険で少し留守が多かったですね…ごめんなさい少し広すぎましたね」
一人待つ天理には寂しさがあった。が。
「それが…あの家ちょっと面白いのが居まして…」
天理は購入した中古物件にブラウニーが住み着いており、時折姿を表しては家事を手伝ってくれる事を話す。
「あらあらまぁ!私も是非会ってみたいわ」
アナスタシアが目を輝かせて言う
「是非いらしてください。ちょっと引っ込み思案ですが、穏やかな科長なら大丈夫だと思いますので」
「あら、もしかしてMr.侯輝とは?」
「騒がしい侯輝相手だとすぐ逃げてしまって。嫌っている訳ではないんで段々慣れてきてはいるんですが会える機会も少ないのでなかなか…そんな訳で希守…えっとブラウニーのお陰で、寂しさの方はなんとか」
苦笑しながら天理が答える。
「そのブラウニーに希守…と名付けたのね。ふふふ、もう二人の子供みたいなものですね」
勝手に呼ぶのは自由だが、一般的な契約精霊と異なり家付きのブラウニーと精霊使いが契約して名を与える事はない。
「その、見た目がちょっと変わってしまって、呼びにくかったので二人で」
天理は住み始めたらそのブラウニーの姿が侯輝と自分を足して割ったような子供の姿になった事を説明した。
「まあ!!素敵ね。ブラウニーにそんな事例が?貴方のレアスキルが影響したのかしら?」
「え!!えぇっとその辺のについては判明してないんですが!」
天理はその時の事を思い出して顔を赤くした。
原因は確かに判明していない。認めるのが恥ずかしいが侯輝と子供欲しいなと思いながらSEXしたら、次見た時にはブラウニーがあの姿になってたなんて言えない。
「あら、どうしましたMr.天理」
「いっいえっなんでも!」
(何かあったのでしょうねぇ)
アナスタシアは微笑みながらそう思い、片隅の女子達は赤面キタコレと感謝し筆を走らせた。
「精霊絡みであれば…彼がいればお話が聞けたかもしれませんが、今言っても仕方がありませんね。お話を聞ける機会があれば聞いてみますね」
彼…エレリウス元精霊科長は精霊については第一人者だった。天理を襲った事がきっかけで地方に左遷されてからは音信不通だ。後任の精霊科長との関係は普通といったところだが、実力は間違いなくエレリウスの方が上だった。
「お気遣いありがとうございます。まぁ希守は大人しいですし、気配自体は確かにブラウニーなので様子見しておきます」
「そうですか、貴方達の幸運となると良いですね」
「はい…何から何までありがとうございます」
アナスタシアは天理が学生として学院に入ってから10年もの付き合いになる。
天理は4属性精霊適性というレアスキルを持ちながら精霊科ではなく古代研究科に入り、アナスタシアに教えを請うていた。
アナスタシアは天理の熱心に学ぶ姿に我が子の様に教え導き、天理が学者となった後は上司と部下として古代研究に打ち込む姿を見守ってきた。こうして新しい門出を迎える天理を心から祝福した。
「いえいえ、お幸せに、これからもよろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします」
天理は深く礼をした。
CASE:天理と不知火
「結婚おめでとう!天理!」
「ありがとう不知火。こっちに来ていたんだな」
「ああ、その、兄に呼ばれてこっちに」
不知火は侯輝や土護のツテとして不知火の兄とも繋がりがあり、先日戦いを共にし知らぬ間でも無かった為、兄の名代を兼ねて参加していた。彼女は騎士の儀礼用礼服に身を包み、小柄ながら男装の麗人と言った風情で、凛々しい立ち振舞いと相まってとても似合っていると天理は感じながら微笑を不知火に向けた。
天理は普段地方を中心に活動しているという彼女が少しだけしどろもどろになっているのをなんとなく察した。
不知火は侯輝の兄であり天理の親友たる土護に淡い恋心を抱いていた。侯輝と天理の結婚式に参加すれば侯輝の親族である土護に会えるかもしれないと兄の名代役を二つ返事で承諾し参加していたのだった。
「不知火、土護には会えたか?あいつは侯輝の親代わりばりに張り切ってあっちこっち挨拶してるから、なかなか捕まらないかもしれないが」
顔の広い侯輝の全て関係者にご挨拶せねばと真面目な土護はあちこちに忙しく回っていた。土護自身、地方とはいえ若くして神殿長を任される程の徳のある神官であり大地の神の神官が土護と話そうと近づく為多忙であった。
「いや、まだ……、でも向こうでだって会えるし」
不知火は普段は凛とした顔を少しだけ顔を赤らめて恥ずかしそうにもじもじしていた。天理はこれは後退こそしていないがまだ進展もしてないなと思いつつ微笑ましいものをみるように笑った。
「ご兄弟の名代も兼ねてるんだろう?なら、そのうち土護から来るさ。その時たっぷり捕まえたらいい」
「うん……あ!そうだ天理は速水と友人だったんだな!」
「えっ!そ、そうだが、お前さん速水の知り合いだったか?」
「ああ、速水は私の友人なんだ。以前、速水に4属性のレアスキル持ちの友人がいると聞いていてすっかり忘れていたんだが天理の事だったんだな!」
友人、友人な。と天理は少しだけほっとしつつ少しだけ焦る。清廉とした不知火にとって友人の元カレというのはどう映るのだろうかとちょっと心配になった。もっともその速水は自分と別れた後、渡り鳥の様に恋人をとっかえひっかえしているのだが。
「ああ、そうなのか世界は狭いな!」
自分でも何を言っているのかよくわからないまま天理が答えるが不知火もどこか緊張していた為気にされなかった。
「その…天理とも今後お付き合いしていけたらいいなって思うからよろしくお願いします!」
「あ、ああ、そうだな今後ともよろしく頼む。そうだ土実と土花なら相手できそうだからそちらと話しておくのも良いかもな」
「妹さん達ともゆっくり話してみたかったんだ。そうするよ!」
もし彼女が土護と一緒になる事になるなら、義理の兄嫁である。天理個人としても実直な彼女の事は気に入っていたので彼女の恋路を応援するつもりであった。問題は土護の方が彼女の事を妹扱いから恋愛対象としていつ見られる様になるかである。天理は根回しさせるつもりで双子妹との懇談を勧めてみたのだった。
天理は不知火を見送りながらその険しい恋路に心中でエールを送った。
CASE:天理と水緒と葉金
「おめでとうございます天理さん」
「おめでとさん!天理!」
「ありがとう、水緒。葉金さん、忙しい所出席くださってありがとうございます」
街の衛兵たる葉金とその妻水緒は夫婦仲良く二人の式を祝福してくれた。水緒は落ち着いたサーモンピンクのパーティドレスでいつも通りの優しげな印象の延長であったが、葉金は蝶ネクタイにフォーマルスーツで、”下町の番犬”というイメージからは大分かけ離れている。
普段の葉金の、衛兵だと言うのにそこらのゴロツキなのか区別がつかない程のガラの悪さを知る冒険者達はその姿を冷やかそうとし、”瞬間湯沸かし器”とも異名を取る葉金の血管を浮かべた満面の笑顔に一瞬で恐怖に凍り付き黙らせられていた。
「ええねん天理には水緒が世話になっとるからな!侯輝もいい仕事してくれてるし。助かってるで!」
「侯輝はともかく、水緒に世話になってるのは俺の方ですけどね」
天理は不定休の葉金を気遣うが葉金はカラカラと笑いながら水緒と視線を交わし微笑む。
されど天理は、侯輝が褒めて貰えて内心嬉しいと思うも、自身は時折水緒に料理を教えて貰っており謙遜して返した。
「ふふふ、お世話なんて事ないですよ。天理さんにしてるのは以前助けて貰ったお礼ですから。それに私も楽しいですし」
「せやな!お互い様ちゅうことや!」
「そう言って貰えると助かります」
だがそれも水緒にしてみれば先に天理と侯輝に不埒な冒険者から助けて貰った礼であり、二人の円満な生活の一助となる事を喜んでやっていた事であった。一見クールな天理が侯輝の為に料理を習いたいと真剣に学ぶ姿は微笑ましく、時折天理からその成果を聞くのは楽しませて貰っていたのだった。
そんな優しいおしどり夫婦に天理は心温まりつつもやはり謙遜した態度は崩しきれないのであった。
実は水緒には陰で噂される二つ名”番犬使い”がある。
それはある日天理が仕事帰りに水緒と商店街で偶然遭遇、そのまま食材を買い、水緒と共に葉金と水緒の家に料理を教えて貰いに向かった。それを見たご近所の奥様方が水緒とイケメン(天理)が葉金の留守中に仲良く家に入った事で、すわおしどり夫婦の危機か?!と誤解、丁度巡回していた葉金が奥様方に捕まりその情報を聞いてどこの馬の骨かと自宅に鬼神の如く怒鳴り込んで突入するという事件が発生した。水緒と和気あいあいと料理を作っていた天理は既に見知っていたはずの葉金相手に一瞬死を覚悟したが、水緒は不貞など働くはずがないと葉金に静かに強く説教し、即勤務に復帰させた。その日、嫁を怒らせたと意気消沈した葉金を見、かの番犬を鎮める者として本来穏やかな印象である水緒にその二つ名が付いてしまったのだった。天理は誤解とは言え誤解を招く不用意な行動をしてしまったと反省し、この夫婦には頭が上がらぬ思いをしていたのだった。尚、侯輝曰く「気にし過ぎだよぉ実際あの夫婦そんな感じだし!」とケラケラ笑っていたが根が真面目な天理にはそれは無理だった。
「ダハハ、相変わらず侯輝と逆で真面目なやっちゃなぁ。似合いやで。困った事があったら公私問わず何でも相談しぃや?いつでも相談乗ったるで!」
「ええ、俺もです。俺の力が及ぶ限り助けさせて貰います」
「私も力になりますから。何かあればすぐ言って下さいね!」
葉金と水緒の二人には頼もしさを感じつつもこの夫婦がいるならば本当に困った時に迷わず相談できそうだと思うのだった。
天理も自分の結婚を改めて祝い、祝意と友情を示してくれる二人の優しさに心から感謝した。
CASE:侯輝と速水
「結婚おめでとう♪侯輝君」
「ありがとう!速水!来てくれて嬉しいよ!!来てくれないんじゃないかって天理心配してたけど」
「呼んでくれてありがとう。先輩は心配性だから。私が振ったんだから先輩の方が怒って私を追い出してもいい立場なのにね」
速水は八年前天理と恋仲にあった。仲はお互い良好だったが天理の中に天理さえ無自覚だったが俺がいる事を察した速水の方から別れを切り出した。
「それはもう天理の性格だから」
「侯輝君も大変だ」
「そうなんだよねぇ。ところでさっき天理と何話してたの?」
(あーやっぱり見てたんだねぇ。侯輝君あっちこっち移動してるけど絶対先輩を視界内においてたし)「ん?内緒♪あーでも、場合によっては先輩ガードした方がいいかも?」
(むぅ。相変わらずガード固いなぁ。まあいいや。後で聞き出そうっと)「え!天理が何?!不審者いた?!」
早見の言葉に遠くにいる天理の周りをチェックする侯輝。
「直接危害は加えてこないと思うんだけどね」
と速水はスケッチブック片手に天理や侯輝を描写しまくっている片隅集団の事を話した。天理は全否定こそしないが難色を示していており、てっきり独占欲が強い侯輝も嫌がるものだと速水は思っていたのだが。
「あーあの絵の上手い女子達ね。さっきお話したよ」
「流石侯輝君。怖いもの知らずね」
「俺をかっこよく描いてくれるなら大歓迎!天理は俺だけのにしたいけど、どうせ放っておいても描いちゃうならもう仕方ないかなって。後でよく描けてるやつを俺と天理の一枚ずつ貰う約束したよ!冒険の時持って行って眺める用にする。俺もう何も見なくても天理のあんなこんなを思い出せるけど絵があるとやっぱり違うよね」
(うわ。侯輝君、本当に怖がらない)
「俺のかっこいい絵も天理に渡しておいて、天理が不安になった時に俺の絵を見て安心してくれたら良いと思って」(寂しい夜に使ってもいいし)
「侯輝君はロマンチストだねー。先輩いらないっていいながらこっそり眺めてそう」
「だから彼女達には天理は俺のだから直接接触しない分にはOKって言ってあるよ!」
(俺のだなんて言ったら妄想燃料としては最高だろうなぁ)「あ、先輩が自主的に近づいちゃった場合はどうするの?」
と、遠くでその天理が片隅集団に近づいていっているのが見えた。
(何やってんの天理!)
「侯輝君、行っちゃダメだよ~。多分大丈夫だと思うから」
速水は慌てて追いかけようとする侯輝を、寸で止めに入る。
「ほら、見てて。先輩はきっと何かあっても自分で解決できるから」
(そんな事言われても心配なんだけど)
どんな形でも天理が傷つく事があるなら耐えられない侯輝だったが速水の制止になんとか踏みとどまった。
天理が片隅女子達に話しかけている。
「えーっと、ちょっといいかお嬢さん方」
「な、なんでしょうか!すみません!すみません!勝手に描いてすみません!」
天理が彼女達に緊張しながら話しかけると、彼女達は描写対象に突如話しかけられ緊張しながら謝った。
(あーうん、やっぱり俺描いてんのか。侯輝も?)
「ああ、別に怒ってないからそう謝らんでくれ。俺は人の思想にケチつけるのは好きじゃないから勝手にしてくれていい。ただ、それ配布はしないで貰えるとありがたいんだが…」(恥ずかしいし)
数年前、高精度の複写機能のある遺物が発見され、複写技術が広まった。それにより、今までの写本では不可能な精緻さの絵画が量産されるようになっていた。
「はい!わかりました!我々の鉄の掟として内々でのみ楽しむ事にしております!何卒ご容赦くださいませ!」
(掟。結社か何かなのか?)「分かってくれればいいんだ…あ、と、配布するなって言った矢先にすまないがそれ貰えるか?お金なら払うから」
天理は土下座する勢いで再度謝られると、チラッと見えた美化されず素朴に笑っているだけの侯輝の絵を指さした。
「えっ!あのっ侯輝さんからも『俺の派手でかっこいい絵を1枚頂戴』とお願いされているんですが、こっちの地味な絵でいいんですか?」
(あいつ怖いもん知らずか?)「あ、ああ、俺は…そっちのがいいな」
片隅女子達は天理が素朴に笑う侯輝の絵をぽやぽやと眺める様子をみて、更に萌え上がった。
「ではこちらの絵の方でよろしければ差し上げさせていただきますが、こんな拙作ですみません」
「え、いいのか?ありがとう。…拙作とか言わなくていいんじゃないか?俺は良いと思う」
天理は微笑しながら礼を言い、受け取った絵を眺めながらぽろっと一言付け加えた。雪解けの様な微笑と世辞ではないと分かる一言の破壊力に、その場にいた全員が息を飲む音が聞こえた気がした。離れて見守っていた侯輝は天理の天然タラシが発動した事を悟り、額を押さえてため息をついた。
「いえ、そんな、滅相もないですっ!お褒めの言葉、ありがたく賜ります!」
と、天理の背後からツカツカと侯輝が片隅女子達との会話に割って入ってきた。侯輝的にはこれ以上天理の天然タラシを発動させる訳にはいかない。
「はい!もうお話いいね天理?土護兄が呼んでるよ!行って行って」
「ん、そうか。じゃ、絵、頑張ってくれ」(また頼むかもしれんし)
天理は貰った侯輝の肖像画を素早く隠しながら、天理は足早にその場を離れ土護を探した。残された者達に動揺が広がる。
「あれ!?天理さん行っちゃうんですか?」
「もっとお話しさせてください~」
等々、口々に引き留めようとする声が上がるが、侯輝がそれを制止する様に手をかざす。
「天理は忙しいから悪いけど引き止めないでやってね。今日は俺達の結婚式に来てくれてありがとう。これからもよろしく。さっき頼んだ絵はまた後でよろしくね」
にっこりと有無を言わせぬ笑顔で言い切り独占欲全開で天理をガードしようとする侯輝に、女子達が黄色い悲鳴を上げた。
天理が土護の元に向かった事を確認し、速水の所に戻る侯輝
「ね?天理先輩一人でも大丈夫だったでしょ?」
「俺的にはあんまり大丈夫じゃないんだけど!」
侯輝は天理があの手の手合いが苦手だと思っていたから助け船を出さねばならないと構えていたら、それどころかすっかり自力で女子達を虜にしてしまった。まあ牽制する必要はないだろうが一人占めしたい侯輝としては面白くなかった。
「天理先輩だって大人なんだし、自分の事は自分で出来るよ。まぁああやって天然タラシなとこ見ちゃうと旦那様の侯輝君としては面白くないかもだけど。先輩が他の人に好かれるのは嫌?」
「嫌じゃないけど、万が一変なのに好かれて天理が傷ついたらって思うと心配でさ…」
実際天理は既に被害にあっているのだ。二度と天理のあんな泣き顔見たくない。ずっと守ると誓ったのだ。
「でも俺天理に過保護過ぎるのかなぁ。天理だって頑張ってるの知ってるのに俺…そんなに頼りないかって天理に呆れられちゃうの嫌だな。うわどうしよう、こんな状態で結婚してたらダメじゃん。俺まだガキじゃんか」
他にも天理は精一杯愛情をくれているのに未だに嫉妬して暴走してその度に天理に慰められているのだ。
ただ天理を守りたくてがむしゃらに結婚まで進めてしまった。天理が受け入れてくれたから甘えてしまって、今更ながら自分が情けなく思えてきた。
まだ天理と結婚するのに相応しくなかったのかと落ち込む侯輝に、速水が慰めの言葉をかける。
「そんな事ないんじゃないかな。結婚は通過点でしかないよ、完璧だから結婚するって訳でもないと思う。だってそんな今の侯輝君を天理先輩は受け入れてくれたんでしょ?侯輝君も先輩も頑張ってるならお互い支え合っていけばいいんだと思う。上手くいかない事もあるかもしれないけど二人で一緒に頑張ればきっと幸せになれるよ。自信持って!」
侯輝は少し救われた気がした。確かに結婚とはゴールではない。これから先長い人生を共に歩むためにスタートラインに立ったに過ぎない。
そして何より、自分は天理に愛されている。その事実が侯輝にとって一番大事なことだった。
「うん…よし!俺もっとしっかりする。天理が心から安心できるように」
そう気合を入れ決意を新たにし微笑んだ侯輝の顔はとても晴れやかだった。
「その意気だよ。じゃあ私そろそろ行くね」
「速水!また助けられちゃった。ありがとね!」
速水は笑顔で手を振り去って行った。
(今度ちゃんとお礼させてよね)
CASE:侯輝とアナスタシア
「ご結婚おめでとうMr.侯輝」
アナスタシアは淑女然とした笑顔に孫を見るような暖かな眼差しで、侯輝に祝いの言葉を述べた。
「ありがとう!アナスタシアさん!綺麗なドレスで来てくれたのに汚しそうなとこでごめんね!」
天理の関係者は学院関係者の大人しめの人が多く、冒険者共と違い比較的フォーマルな衣装で参列してくれた為、場を仕切るギルドマスターが気を利かせて酒場の一角にテーブル席を作ってくれた。
「気にしないで。今日はお招きありがとう。楽しんでいますよ」
「良かったぁ!いつも天理がお世話になってるし、家も紹介してもらったから、ちゃんと挨拶しておきたかったんだ。本当に来て貰えて嬉しいよ!ありがとうございます!」
アナスタシアは天理が学生として学院に入ってから10年もの付き合いになり、天理の恩師でもあり、今は職場の上司で、やもすれば侯輝より長い時間を共に過ごしている相手だ。天理が学院内での事件に巻き込まれクビになりかけた時は奔走して助けてくれている。
「こちらこそ、Mr.天理には感謝していますよ、研究熱心で優秀ですが少し危うい所のある子だったので心配していたけれど、貴方の様な素敵な方と結婚して安心しました。とても幸せそうだわ。これからもあの子をどうか助けてあげてくださいね」
「もちろん!任せておいて!俺が必ず守るから!!」
「ふふっ頼もしいわ。私にも何か手伝える事があれば言ってくださいね」
侯輝はブラウニーの希守のことを思い出した。天理には懐いているのに自分には恥ずかしがってなかなか懐いてくれない。仲良くしたいのに。
侯輝の知り合いは比較的未婚で若い者が多く、相談できる相手がいなかった。
人生経験豊富なアナスタシアならアドバイスを貰えるかもしれない。
「じゃあ早速、アナスタシアさんに相談があるんだけど…」
侯輝が話し出すと周りの冒険者たちが聞き耳を立て始める。
酒が入っている事もあり、興味津々といった様子で皆話を聞きたがっている。
「あら?何かしら?」
「うちにブラウニーが居るのは天理から聞いてる?」
「ええ先ほど。希守と名付けられたそうね。私も是非会ってみたいと思っているのだけれど。どうしたのかしら?」
希守はその顔が侯輝と天理と足して割った様な子供の姿で、侯輝と天理は二人の間にできた子供の様な感覚になっていた。男同士で子供ができないと思っていた二人には奇跡の様な存在である。希守は性格は天理に似たのか恥ずかしがり屋で嫌われている訳では無い様なのだが侯輝が触れるとすぐにびっくりして逃げ出してしまう。
「それがさ、希守は天理には懐いてるのに、俺には恥ずかしがっちゃってなかなか懐いてくれなくてさ。仲良くしたいんだけど、どうにかならないかな?」
アナスタシアは顎に手を当て考える仕草をする。まるで子供が懐いてくれなくて悩む父親の悩みですねと微笑ましく思いながら。
「あらあら、それは大変ですね。でも嫌われていないのなら時間が解決してくれるのではないかしら」
「それ天理も言うんだよね…自分は懐かれてるからって呑気にー」
侯輝は希守が天理の寂しさを紛らわせられる存在になればいいと思っていたので、天理と希守の仲が良い事自体は喜んではいた。でも自分とも仲良くして欲しい。天理が取られたようでちょっと寂しい。もうまんま子供に嫁を取られた夫の気分である。
「希守の性格はMr.天理に似ているのよね?」
「うん」
「それならこれから楽しみね」
「え?どうして?」
「Mr.天理はMr.侯輝を生まれた時から知っているから警戒する事なく自然にお話できているでしょう?でももし他人としてMr.天理がMr.侯輝と出会っていたらどうかしら?それが今の希守の状態なのではないのかしらね」
「あ…」
侯輝は想像した。例えば天理が赤の他人として出会っていたら。天理は最初から心を開いて自分と接してくれていただろうか。自分達は基本正反対の性格なのだ。天理は基本は穏やかな土護兄と仲が良い。子供の頃に同い年で天理と出会っていたら希守みたいな反応をされてただろうか。
「たしかにそうかも」
「そんなもしもの存在と1から仲良くなれるかもしれないと思ったら楽しくないかしら?」
「うん!楽しそう、希守とは焦らないでゆっくり仲良くしていく事にするね」
そんな1から出会えてた天理を攻略していけばいいのだ。
「ふふふ、Mr.天理が嫉妬してしまうかもしれませんね」
「だといいなー天理俺には全然嫉妬してくれないんだよね。あ、でも俺は天理が一番だから嫉妬する必要なんてないけどね!」
「ご馳走様ですね。これからも仲良くお幸せに」
「ありがとう!アナスタシアさん!今度希守に会いに来てね!」
CASE:侯輝と不知火
「結婚おめでとう!侯輝!」
「ありがとう不知火!その礼服すっごく格好いいね!どうしたの?」
彼女は騎士ではないと聞いていたので素直に聞いてみる。
「ありがとう!兄さんのお古を仕立て直して貰ったんだ。私も気に入ってて着られてちょっと嬉しいんだ」
不知火は照れ照れと嬉しそうに答えた。
「うん、凄く似合ってるよ!そうだ、土護兄とはお話できた?」
土護の名を出されて顔を赤くする不知火
「え!えっと、さっき少しだけ挨拶できたんだ。だけど忙しそうであまりお話できなかったよ。今日は兄の名代として参加しただけだから会えただけでも良かったかな」
「そっかぁ。残念だったね」
「あ、あのその代わりにお姉さん達となら沢山お話できたんだけど……」
「え!大丈夫?!土実姉と土花姉に怖い事とか変な事言われなかった!?」
以前、不知火は侯輝の双子の姉、土実と土花の窮地を共に救出に行ってくれていたが、その時は土実と土花は倒れてほとんどまともに話せる状況ではなかった為、今日ははじめてきちんと話ができた事になる。真面目な土実は兄の土護の事を敬愛して結婚せず神職に殉じる覚悟でおり、土護と一緒になるなら不知火にとって未来の小姑になる可能性が高い。土花の方は無遠慮な性格で真面目な土護にはじめてできそうな彼女を弄るのは目に見えていた。
「ええと特に怖い事はなかったかな。土花さんはお話沢山聞いてくれて面白いお話も沢山してくれて楽しかった。土実さんは土護さんと同じで真面目な人だね。熱心に土護さんのお話聞かせてくれて良かったな。私の事は気にしないでって言われたんだけど、どういう意味なんだろうか」
「そ、そうなんだ良かったね!土実姉の方は、うん、気にしなくていいんじゃないかな!」
侯輝は懸念していた不知火と二人の姉との接触がひとまず良好である事に安堵した。後は当人同士の問題なのだがそれはそれでハードルが高いのである。
「ともかく頑張ってね!困った事があったら相談に乗るからいつでも言ってよね!土護兄にはがつん!だからね!」
「ありがとう!わ、分かった!がんばる!」
こうして侯輝と天理の結婚を祝う披露宴パーティは賑やかに進んで行った。もはや式にかこつけてただ飲んでいる冒険者もいたが、二人を祝福する気持ちだけは本物だった。
ギルドマスターがお開きを告げ、締めの挨拶をする頃にはもうすっかり日が落ちていた。
侯輝と天理は引き続き飲んだくれている冒険者以外のゲストを見送り、ギルマスや土護達に後を任せ、衣装から私服に着替えるとただの飲んだくれと化した者達に捕まらない様にギルドマスターに手引きされながらこっそりギルドの裏口から脱出した。
[newpage]
そのまま俺と天理は夜の街へと繰り出す。夜空にはチカチカと星が瞬き始めていた。天理の手を引きながらウキウキと繁華街を進む。
「侯輝、どこへ行くつもりだ、うちは逆方向だぞ?」
「内緒♪」
「お前はいいかもしれないが俺結構クタクタだぞ?」
「大丈夫。疲れたら俺がまた抱っこするから♪」
「ふふっ、ばぁか」
天理は困った様にしながらもくすくすと笑いながら大人しくついて来てくれていた。式が終わり、幸せな疲労感が体を包む中、仄かに街頭が灯る街路時を歩く俺達の足取りはどこかふわふわと浮いていた。
天理を連れ予約しておいた都でも有数の高級ホテルに入る。煌びやかなエントランスを通り受付を済ませると恭しく頭を下げるフロントマンに部屋へと案内させた。最上階のスイートルームに入ると、部屋の奥の夜景の見えるテーブルセットに天理を座らせ、自らも対面に座る。手元のベルを鳴らすとすぐにドアがノックされ、食事の好みを聞かれると順番にディナーが運ばれてきた。テーブルの上に並べられる豪華な料理に天理は美味しいと評しながらもやはり苦笑気味だった。
「金欠で泣いても知らんぞ?」
「大丈夫!今日のために頑張って貯めたんだから!」
ドヤァっと胸を張る俺を見て、天理はちょっと相談しろと軽く足で小突く。
「まったく…でも、ありがとな」
「えへへ、それじゃかんぱーい!」
苦笑気味ではあったが微笑んでくれた天理に嬉々としてワイングラスを傾け乾杯する。そして次々と現れる見たことも無い料理に舌を打ちつつ、昼間の式を振り返り笑い合いながら食事を楽しんだ。
「お風呂入ろ♪楽しみだね」
「ああ…あ。俺アレ持ってきて無い」
「大丈夫!準備万端だよ!」
デザートまでしっかり堪能して満足げに腹をさする天理をお風呂に誘う。ここで天理はやっと洗浄器具の不所持に気づいたが、当然荷物に忍ばせてある事を伝えると、呆れながらも歓心していた。
いそいそと給湯装置を操作しバスタブの中にお湯を入れ始める。天理にその手慣れた様子を指摘されたので商人の護衛で面白そうだったからと覚えていた事を話した。
「お前は本当に勤勉だよな…筆不精以外は…ん?これは!」
「あ、やっぱり気になっちゃうよねー」
またも歓心され得意げになっていると天理は壁のパネルを見て目の色が変わった。天理曰く、その給湯装置は古代遺物から修復改良された魔力稼働型で、魔力は外部供給、使用者には魔力を消費させない高額装置であるらしい。テンションの上がった天理は食い入る様に装置を観察し始めた。
部屋も夜景も食事もそれなりに嬉しそうに楽しみつつも苦笑していた天理がここにきて一番テンション上がってる見て、相変わらずのパートナーの様子に今度は自分が苦笑してしまいつつも連れてきて良かったと思う。だがしかし今それはちょっと悪い癖じゃない?と後ろから抱き締めた。
「ねぇ俺の事忘れられちゃうと拗ねちゃうよ?」
そう天理の耳元で囁くと、天理はビクッとして慌てて振り返った。いたずらっ子の様な顔でにやっと笑うと天理は顔を赤くする。
「忘れてないって」
恥ずかしそうに俯きつつ少しだけ俺に体を預けてくる様子が可愛らしく、大好きなソレより俺なのだと示している様で嬉しさに抱きしめる腕に力を込める。頬に手を添え唇を近づけると天理も応えてくれた。
一旦離れ天理は赤くなりながら準備するからちょっと待ってろと浴室から追い出される。タオルや着替えをちょこっと細工しつつ用意していると、ほどなくして浴室に招かれた。
体を洗い合い、ジャグジー付きの風呂に並んで入って楽しむ。いつもは慎重で止める側だがやっぱり遺物を見ると童心に返った様にはしゃぎ始めてしまう天理と一緒になって浴槽脇の給湯装置パネルを端から試していると、壁だと思っていた壁面が開き、ガラス張りとなると夜景が視界に飛び込んできた。天理は羞恥で顔を真っ赤にしあわてて解除しようとするが、その手を止める。
「誰も見てないよ。一緒に夜景見よ」
「そう、だな」
ね?と優しく微笑むと天理は恥ずかしがりながらも寄り添ってくれた。
手を握り合い、肩を寄せ合ってしばらく景色を楽しんだ後、浴室を出る。天理は着替えが新しい下着はあるものの、なぜか夜着ではなく結婚式で着た白のフロックコート一式が置いてある事に気づいた。
「侯輝、置くもん間違えてないか?」
「間違えてないよ♪あのね、もう一回着て欲しいんだけど。ダメ?」
これを着られるのは今日しかない。もう一度自分だけの目で見たかったのだった。強請る様な目線を送ると天理は仕方がないなと再びその衣装を着始める。
「ただし、お前も着ろ」
ニヤリと笑い悪戯っぽい瞳で己の意図に付き合ってくれる天理に歓喜しながらいそいそと寝室に戻ると俺も衣装を着直した。
「整髪剤ないから髪はセットできないぞ」
前髪を気にしながら脱衣所から寝室に出てきた天理を抱き寄せる様に腕の中に迎え入れ、その前髪を手櫛で後ろに撫で付けてやる。挙式でも披露宴でも散々見たが天理の白のフロックコート姿はとても美しかった。昼、皆の羨望を受けていたその姿は今、己一人だけのものだと思うと優越感が込み上げてくる。
「綺麗だよ」
そして微笑を浮かべながらそう囁きそのまま口づけをした。そう表現される事にいつも抵抗がある天理だったがもう突っ込むのも止めたのか苦笑する。そして腕を伸ばすとお返しとばかりに俺の前髪を後ろに撫で付けてきた。
「お前も世界一可愛くて、かっこいいぞ」
微笑しながらそう言うと今度は天理から口づけてくれた。挙式でも口づけを交わしたがやはり天理は二人きりの時の方が素直になる。世界で俺一人だけだという瞳で見つめてくれる。愛おしくて堪らない。改めて愛しい人を抱き締めた。
豪華な装飾が施されたキングサイズのベッド上に移動し、上質なマットレスに二人で驚きつつ、ベッドの上で向かい合いお互いの衣装を脱がせ合う。
「さっき着たばかりなのにな」
「だってこの衣装を脱がせる事ができるのも今日だけだもん」
くすくす笑いながら俺の服を脱がしてくる天理に、じゃれる様にキスを挟みながらフロックコートとベストを一枚ずつゆっくりと脱がしていく。
「おまえそっちが本当の目的だろ」
「バレちゃった」
笑い合いながらまた口づけた。
脱がしているうちに天理のフロックコートのポケットに一枚の紙が入っているのが見えた。特に気にしないでいたら天理が慌てて隠そうとしたので取り上げてみる。開くと穏やかに笑う俺の絵だった。その目的を思うと顔がにやけてきた。
「ねね、これなんで持ってるの?」
「もらったんだよ」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く天理。式の最中に自分達を描いていた絵師から貰ったらしい。もっとかっこいいのもあったのにとにやにやしている隙に取り返された。大事そうにしまっているのを見て更に顔が緩んでしまう。
「ねえねえ、それ見て俺思い出したりするの?」
「いいだろ俺が何に使おうと」
「いつも寂しい思いさせてごめんね」
可愛くてつい揶揄ってしまい、恥ずかしさからからか少し拗ね始めた天理をぎゅうと抱きしめて謝罪する。
「別に怒ってないって…」
実は寂しがり屋の天理はきっとその絵を見て慰めるんだろうと思うと愛おしくて嬉しくて堪らなくなった。厚めのふかふかのクッションが敷かれていたヘッドボードにそっと押し倒すと優しく唇を重ねる。舌を差し入れ絡め合うと、んっ…と甘い吐息が漏れた。
ボタンを外し、はだけたシャツの合間から見える白い肌に誘われる様に手を差し入れると天理は吐息を漏らす。前を完全にはだけさせると風呂上りの艶めかしい肢体が露になった。相変わらず少し恥ずかしげに見上げてくる天理を見ながら、これがもう自分の物になったのかと少しぽーっとしながら感慨深くなった。
「もう我慢できませんって顔してるぞ?」
そうしていると悪戯っぽく笑う。しかしそんな天理とて顔は赤い。今日はなんだか強気で積極的で、天理も特別な日だと思ってくれているのだろうか?と思うと笑みが溢れた。
「うん、我慢できないや」
「おまえは俺と違って素直だよな」
天理はふっと笑って頭を撫でてくれる。慈しむ様なその手が心地好くて甘えるように天理の首筋にすり寄ると、そのまま吸い付き跡を残していく。いつもの痕を残すなと叱る声は降って来ず寧ろちょっと嬉しそうに見えた。
「今日は怒らないの?」
「…今日くらい、いいだろ?」
聞けば天理はもごもごと口籠った後にぼそりと言った。
やっぱり今日は可愛い。いつも可愛いけど、俺と同じで幸せだからかな?想いを込めながら痕をつけていると、天理は俺の前をはだけさせ胸や腹、腰に手を這わせ、時々俺がびくりと反応してしまうのを楽しんでいる様だった。
反撃する様に首筋から下へ下がると胸元にもキスマークを付け、胸の飾りを弄ると脚がびくりと動いた。舌や指先で転がしたり摘んだりしていると可愛らしいそれが段々硬くなり主張してきて控えめな吐息が漏れ始める。あえていつも天理が痕を付けて欲しがっている心臓を外していると、俺の顔を両手でそっと挟まれ心臓へ誘導された。
「意地悪してないで付けてくれよ…」
恥ずかしそうにしながらも拗ねた様な表情でいつになくおねだりされてしまう。そんな姿に俺は意地悪している余裕など吹き飛んで、どくどくと打つ鼓動へと真っすぐに向かい強く吸い付いた。
「んっ♡」
満足そうな声が聞こえてきた。ちゅっ、という音を立てて唇を離すと綺麗に付いた赤い花。身も心も俺のモノである印。悦ぶ顔と白い肌に映えるその赤を見るとぞくりと背中に快感が走る。
「…お前にも付けさせろ」
「わーい♡」
どこか照れ隠す様に体を起こした天理に押されるままに上下を入れ替わる。まずは鎖骨の下辺りに強く吸われ、ぴりっとした痛みが走り思わず声が出ると、ふふと笑われた。天理の手はまるでこれから俺を抱くかの様に俺の身体の上を艶めかしく辿り刺激し、唇で痕を付けると俺を震わせ声を上げさせる。最後に心の臓へ強く吸い付き俺が天理のモノである印を付けてくれた。俺のどきどきも聞こえているだろうか。天理は満足げにしながら上体を起こすと愛おしげな瞳で俺を見下ろした。いつになく情欲的な姿に思わずごくりと唾を飲み込む。
天理はそんな俺を見て嬉しそうに少し笑い小首を傾げた。
「今日はちょっとはエロく見えてるか?」
何度も交わってるのにまだそんな事を言う。確かに今日の天理はいつもより艶やかだけど、もうちょっと分からせないと思うばかりだ。
「今日も、すっごい、えっちだよ?もう。いつも俺我慢してるの知ってるでしょ?」
さわ…と脇腹を擦ってやりながら抗議してやると、天理はわずかにびくりと震え、怯んだのか少し目を剃らし顔を赤くしながら反論する。
「ぅ、仕方ないだろ、いつも余裕ほぼないしだな…」
さっきまであれだけ強気でいたのに、どうしても俺に弱くなってしまう天理を見ているともっと甘えてみたくなる。
「今日は特別、だね。じゃあもっと凄い天理見たいな♡」
「…っ、ああクソ。?…って何だよ」
「それは着たままでお願い♡」
俺のおねだりに天理が一瞬怯みつつもどこに向かってか悪態をつきながらシャツを脱ごうとしたので引き留める。その今日だけの特別な衣装を目に焼き付けたかったのだ。
「…ま、コレ今日だけだもんな」
呆れた様にジト目をされたがすぐに同意してくれた様でお願いを聞いてくれた。そして自ら下を全部脱ぐと、さあどうだとヤケクソ気味に俺の腰の上に跨がった。全裸に前を大きくはだけたシャツ一枚、少し湿った胸の飾りは慎ましやかにピンと立ち上がり、辺りは紅い所有印で飾られている。触れてもいなかった天理の雄自身はもう十分に立ち上がっており、先端が少し濡れてさえいて興奮している事を伝えていた。少し前なら卒倒しそうな大胆なその姿はやはり恥ずかしいのか顔を赤らめていて、もうすぐにでも襲いたくなる気持ちを堪え、更にお願いする。
「もっと特別見たいな♡」
「な…!そんな緩みっぱなしの顔して、こんなにかったくしてんのに余裕こきやがって…見とけよ…」
いつもなら、とうに天理をひっくり返している俺が堪えている事に天理は驚きつつも負けじとまたお願いを聞いてくれた。天理は俺のベルトを外しファスナーを下ろすとそのまま一気にパンツごとズボンを引き下ろした。そしてはち切れんばかりに飛び出した俺の雄を微笑しながら手に取るとそれに一度キスをする。その姿につい自分の息子に嫉妬しているとその間に躊躇無く口に含まれた。
「んむっ……」
「ぁぁ…♡」
生暖かい口内に包まれ思わず声が出る。天理が口に含んでいるだけでも興奮が止まらないのに、俺のイイところとコツを覚えるのが上手だった天理の口淫にすぐにでもイキそうになるのを何とか堪える。しかしそんな俺の様子を見て気をよくしたのか、天理の動きが激しくなった。舌を絡め唾液が絡まる音が耳を犯し呼吸が荒くなってくる。
「あ♡あ♡天理……凄く、気持ちい、よ♡」
俺は我慢しつつもつい手を出してしまう癖が出て身を起こし、奉仕してくれる天理の頭を撫でながら耳元近くで囁く。すると天理は嬉しそうにしながら耳を可愛らしく赤くし小さくぴくぴくと反応していた。
天理は口を離すと今度は手を使って上下にしごく。自分でするのとは違う快感が走りとうとう堪えきれなくなってきた。
「んあっ♡天理それダメ♡出ちゃう!」
「出していいぞ?」
むしろ出せと言わんばかりに手はそのままで先端に吸い付かれ強く刺激される。絶妙なタイミングで舌を動かし吸われるともう無理だった。
「ああっ♡…!」
天理は出したモノを少し眉を潜めながらもごくりと飲み込んでくれた。そしてどこか嬉しそうに俺の雄を丁寧に舐めとる姿を見ているとそれだけでまた興奮を覚える。俺の欲はまだまだ止まる気配はない。
俺が息を整えている内に、天理は近くの水差しで水を一口飲み、俺に跨がり上の方に移動してくると俺の腰の位置で腰を下ろした。天理の昂ぶった熱い雄が俺の少し大人しくなった雄に触れると、出したばかりだというのにまた熱が集まるのを感じる。そしてどこで覚えてきたのか、俺の肩に手を添えるとゆるゆると腰を前後させ自らの雄で俺の雄を昂らせようとする。
「わぁ…♡上でしてくれるの?」
「特別、見たいんだろ?」
やってる事は凄く卑猥なのに本人は凄く恥ずかしそうなのが可愛い。きっとまたどこかで聞きかじったのをやってみたがやっぱり恥ずかしかったんだろう。そうやって一生懸命興奮させてくれようとするところも愛おしく、例え拙くとも俺には視覚的にも感覚的にも興奮しないはずが無かった。欲望のまま手を天理のお尻の方へ持っていくと指先で割れ目をなぞり秘所と進める。中を探るように動かすとくちゅりと音がした。準備されていたそこは柔らかく、俺の指を受け入れてくれる。しばし慣らすと指を増やしかき混ぜるように動かした。
「ふっ……ん」
天理が嬉しそうに表情を緩めながら小さく声を漏らす。天理は俺の雄が再び十分に昂ったのを確認すると腰の動きを止め、俺の指の動きに体を震わせ吐息を漏らしながら掠れてきた声で呟いた。
「そ、れに…今日は、一回で終わらせるつもり、ないだろ?」
だから体力的に最初に動ける騎乗位をやっておきたかったのだと伝えられる。悦ばせようとしてくれる事にまた喜びを感じた。俺は天理から指を引き抜くと支えるようにシャツの下から腰に手を添えた。
「うん。じゃあまずはお願いするね♡」
「ん。」
天理は恥ずかしそうに脚をM字に開き俺の肩に置くと息を吐きながらゆっくりとぬちぬちと音を立てながら腰を落としていく。そして俺の雄が全部入った所で一度動きを止めた。目を瞑り大きく呼吸をする天理が落ち着くまでしばらく腰を撫でると、天理は小さく微笑む。ほどなくして落ち着くとゆっくり腰を動かし始めた。
「んっ…ふっ…んっ…」
「ぁぁ…♡気持ちいいよ♡…天理…♡」
うっとりとそう呟くと、天理は顔を赤くしながら微笑む。慣れてくると徐々に腰の動きを早めていった。
誓いの日の印であるウイングカラーシャツと指輪だけを身に纏い俺の上に大胆に跨がっている天理。その無垢な純白のシャツの中から覗くのは俺が散らした赤い所有印、下は俺に貫かれながら天理の雄が自身の動きに合わせ汁を滴しながら踊り、熱い吐息を吐いている姿は酷く淫靡だった。ここまでもう淫靡な姿を晒しているのに天理は理性が手放しきれないのか羞恥に顔を赤らめ凛々しい眉を潜める。だがその理知的な瞳も自ら動かす度にに情欲と涙で満たされていった。
「んっ、は、あっ♡んっ♡」
「あ♡あ♡凄い、よぉっ♡天理♡」
更に天理は片方の手で俺の胸の飾りまで弄び始めると快楽が背筋を走り俺の雄をびくびくと震わせる。まるで抱かれているかの様な気分だ。恍惚とし、止めどなく声と吐息を漏らし俺の雄が反応している様子をその身で感じ取っているらしい天理は嬉しそうに艶っぽく笑う。
「あ♡はぁっ、可愛い、ぞ」
「ぁあっ♡天理も、可愛い♡からね?」
そう言うと天理の後ろがキュウと締まり俺を更に刺激する。お返しとばかりに天理の動きが早くなり、俺も合わせる様に腰を突き上げた。お互いがお互いを昂らせ二人で上り詰めていく。
「あっ♡あっ♡候っ!」
達しようとする頃、天理が俺の名を呼びながら手を伸ばす。その手を掴むと恋人繋ぎで絡ませた。ギュッと握りしめ下から支えると天理が安心した様に微笑み、瞳から溜まっていた涙が零れ落ちた。その光景に、挙式の誓いの口づけが思い出され、情欲にまみれた行為が一気に神聖な行為に思えてくる。見つめ合いどちらともなく口づけると共に腰を強く打ち同時に果てた。
「「んんんっ……!」」
天理は荒い息のままぐったりと俺にもたれ掛かる。俺はその愛おしい身体を抱き締めた。これは俺達だけのもう一つの挙式なのだと思うと俺はその腕の中の人にもう一度愛を誓った。
天理は顔を上げまだ少し息を乱しつつも俺を見つめるとはっきりと俺だけに誓いの言葉を告げてくれた。
「愛しているぞ、侯輝」
「俺もだよ。天理」
俺の言葉に幸せそうな笑みを浮かべる天理ともう一度誓いのキスをした。
[newpage]
「いっぱいいっぱい愛し合おうね♡」
それから一呼吸つくと、まだまだやる気満々の侯輝が幸せいっぱい元気いっぱいの笑みで次は俺の番とばかりに覆い被さって来た。
結果を要約すると俺も今日という日は精根尽きるまで愛し合いたいと思っていたので受けて立った。だが先ほどの俺なりに頑張った騎乗位はウォーミングアップでしかなかったらしく、侯輝に心身共に全力で愛されるとはどういう事なのかを心身共に思い知らされた。大好き、幸せだ、離さない、食らい尽くしたい、愛してる、愛してる、愛してる。言葉と体全てでそう訴えられるともう胸がいっぱいで気持ちいいやら嬉しいやら、返し切れない想いでまた泣きつくして意識が途絶え、結婚式の1日は終えた。
ベッドの上で侯輝に組敷かれ、俺達は一心同体なのだとばかりに抜かれる事が無いソレで俺はもう吐き出す事無く後ろだけで何度も震えていた。愛情と快楽を素直に表し恍惚とした表情で俺を見下ろす侯輝をぼんやりとしてきた頭で見上げる。頭が、心が、体が想いが溢れていっぱいでふわふわする。
侯輝、この想いを…ちゃんと伝えたいんだ…
「ん…?」
大好きだ…愛してる…お前に愛して貰えて結婚できて、どれだけ嬉しいか、幸せか…
「俺も幸せだよ♡今日はありがとね、天理」
良かった…ふふ、お前のハグ、温かくて心地いい…いつも照れてしまうけど、ほんとは大好きだ。いつも恥ずかしくて、お前に勇気貰って、やっと想いを伝えられてるんだ。もう心ごと渡してしまいたい。勝手に読んどけなんて言ったらまた怒るか?ああでもそれで嫌われたら嫌だな…
「えへへ…♡俺はとっても嬉しいよ」
侯輝、顔赤い、可愛いな。もしかして俺また凄い事になってるのか?恥ずかしい…でも俺がそうさせてるなら悪くないか…
「…天理?」
まだお前にドキドキするんだ。バレると恥ずかしいからやっぱり心渡すのは無し。はは。
あ…お前がまた元気になった…嬉しい。侯輝、首まで真っ赤だ、震えてる、我慢してるのか?我慢しないで愛してくれ、恥ずかしいけど腰だけちょっと動かしてみようか…
「っっ!!違う。天理、多分思ってる事喋っちゃってるってば!」
どうした?珍しく照れてる侯輝、可愛いなぁ…ふふ。
「だから!天理の俺大好きな思考とか感情がダダ漏れなんだってば!」
…俺の気持ち伝わってるのか、嬉しいなぁ。
「ぁあもう!その笑顔反則だよぉ…嬉しいけど大丈夫かな?天理?」
手ヒラヒラさせなくてもお前の事ちゃんと見えてるぞ?あと笑顔ならお前のがカッコいいぞ。大好きだ。
「えへへー♡……ねえねえ天理、今どんな気持ち?」
今…?お前と繋がれている事が嬉しくてたまらないな…気持ちいいし。
「俺も同じだよ♡えへへ♡天理正直だし見てたら分かるけどいつも照れちゃうから嬉しいな。俺への好きも、もっと聞かせて?」
はにかんで笑う侯輝の顔も可愛いくて好きだ。金髪も綺麗で好きだな。キラキラしててお前みたいだ。
「えへへ♡そ、そんなにかな?」
お前の事太陽みたいだって言っただろ…俺嘘言わないぞ…キラキラだぞ。珍しいな…いつも自信たっぷりのお前がそんなに照れるの。可愛い。
「えへへへ♡天理に言われると嬉しすぎちゃうんだよね」
あとこのツーブロックの髪も、この感触が二度おいしい…気持ちいい。お前撫でるの大好きだ…もっと撫でたい。
「うひゃ!項くすぐったいよぉ」
可愛いなぁ…でも利発で気も利くし何でもできて凄く勇敢でかっこいい。こんな男が俺の伴侶なんだって思うと誇らしい…お前に見合う男でいたいんだ…
「ありがと。天理はね、俺のとびきりの自慢なんだよ。聡明でかっこよくて優しい。何に変えても守りたいと思うのは天理だけだからね」
お前にそう言って貰えると嬉しい。でも守られてばっかりの存在だとは思ってて欲しくないな…。俺だってお前の笑顔を守りたい…
「俺は天理が隣に居てくれるだけで十分幸せだから無理しないでね。天理、時々俺よりずっと無理するから」
ありがとう、わかっているつもりだけど心配なんだ…
「大丈夫、ちゃんと分かってるから。俺も天理に何かあったら嫌だもん。お互い様だよね」
ああ、お互いに守り合っていこう。そしてずっと傍にいて欲しい…
「俺もだよ天理。これからもずっと一緒だよ」
ああ、本当に良かった。嬉しいなお前と一緒になれて幸せだ…
「ああ泣かないで…俺もすごい幸せだよ。ありがと天理。俺と一緒に生きててくれて」
こちらこそ、俺を愛してくれて、ありがとう。ああ抱きしめて、キスしたい…
「うん、俺も!大好き天理♡」
ん…ああ落ち着く…キス気持ちいい…あと下も動いて欲しいな。よし、たまにはちゃんと言うぞ
「ん、動くね♡」
ああっ…♡気持ちいい…♡ああ♡その眼も好き♡だ…俺を抱く♡時の…開き♡きって金色♡になる瞳…あ♡ガン見してく♡るお前も好き♡だ…
「俺も…天理の濡れたヘーゼルの瞳も…愛してるよっ言ってるみたいで…大好きだよ♡」
んっ…♡俺は…なんか食われ♡そうでゾクゾクする…お前♡なら食われてもい、んっ♡!今、凄く大きく。どうした?動いてくれ侯輝…
「うそでしょ…はぁ…そんな事思ってたんだ天理、うん、守りたいけど、食べちゃいたいのもホント。ごめんね、ちょっと激しくなるかも」
「全部、食べさせて?♡」
「あああっ!!♡♡」
途端、後ろを晒すように脚を大きく広げられ、上から突き刺されるように深く突かれる。意識が曖昧になっていた俺に、あられもなく嬌声をあげていた事を考える余裕はもう無かった。もう何度果てたかわからない程なのに、まだ足りないと身体が求めているみたいに奥まで届いて、頭が真っ白になる様な快感が押し寄せてくる。
俺をベッドに縫い付ける、侯輝のいつにない金色の瞳。その瞳の奥の深い闇が金色を一層美しくさせて見え、背筋にぞくりとしたものが走ると全てを投げ出したい程に心奪われた。
もっと激しく奥まで突け、滅茶苦茶にして、壊すくらいに抱いてくれ、お前の事しか考えられないように、喰らい尽くせ。
俺を全部くれやるから、お前も全部寄越せ。
「気持っ♡いっ♡もっ♡めっ♡だっ♡せっ♡」
俺の想いはまた届いたのだろうか、侯輝は瞳をまた一段輝かさせるとガツンと強く穿ち、目の前に星が飛ぶ。
何もかも支配されている中で、唯一自分に差し出されている侯輝の急所を搾り取らんとなけなしの体力で腰を動かし、もっと食わせろと強く締め付けてやる。侯輝は眉を潜めて獣の様な声で喘ぎ、牙を剥く様に口角を上げ笑うと更に強く穿たれた。
「あ¨あ¨っ!♡天理♡天理♡!」
ああそうだ。骨の髄まで残さず食い散らかせ。
堪らない、普段太陽の様な男が自分だけに見せるこの表情も愛しくて仕方がない。俺は今最高に幸せだ。全部愛してるよ侯輝。
「あっ♡あー♡!侯♡侯輝♡全っ♡愛し♡侯♡侯♡♡侯♡♡侯♡♡!」
「あ¨あっ♡あ¨あっ♡あ¨あっ♡!愛してる♡天理♡天理♡天理♡!」
互いの嬌声と荒い息遣いが入り混じり脳を溶かし、汗は媚薬となって体を溶かしていく。快楽と愛と、幸福感で心も身体も満された。
「侯輝♡イッ♡あっあ♡!あああっ~♡♡♡!!」
「っぐ!ぅあ”あ……っ!♡♡」
その獣の様な猛烈な交わり合いの果てに俺はまた頭が真っ白になるかと思う程の快楽に襲われまた果てた。侯輝のソレはビクビクと熱を放ちながらも収まっておらず余韻に震える俺をソコに在るだけで刺激していた。
「…っは♡あ♡あ♡気持ち♡い…♡は…♡は…♡あ…♡」
「はーっ♡はーっ♡はーっ♡天理…♡天理…♡」
「ん……♡……♡♡♡…侯?あっ♡待っ♡まだ♡イッ♡あっ♡」
愛おしそうに俺の名を呼びながらグリグリと腰を押し付ける侯輝に、頭の隅で今度こそ限界だと思いながら余韻に浸っていると、それはまだ限界ではない事を思い知らされる。侯輝は荒い息を一息つく間もなく再び激しく攻め立てはじめたのだ。達したばかりの体に強すぎる刺激で、目の前がチカチカと明滅する。
「ひっ♡止まっ、ダメっ♡だっやめっ♡あ♡またっ♡やだ♡やっ♡くる♡、怖い、侯♡侯輝♡助♡ああっ♡ああっ♡」
激しい未知の快楽に恐怖を感じた俺は泣きながら首を激しく振り、汗に濡れた髪を乱し、助けを求めた。
「あ¨あっ♡もっと♡もっと♡見せて♡お願い♡天理♡天理♡♡天理ぃ♡♡」
だが侯輝は止まる事無く、容赦無く俺を更なる限界へと突き進ませる。刹那涙に滲む先に見えた侯輝の闇を纏う金の瞳孔は開き切り、恍惚とした表情で正気を失ったのかと見紛う程だった。だが、その声音と瞳の最奥に沈む闇が懇願しているのは、紛れもなく俺に対しての慈愛と愛情。
ーーどうか俺の全てを愛して。
聞こえるはずの無い声が、聞こえた気がした。
「天理♡大好き♡」
「っ……♡♡!♡♡♡」
俺はそんな侯輝に恐怖を感じるどころか、愛しく、歓喜する程に完全に侯輝に溶けていた。
未知の快楽と恐怖を与えてくる男が同時に与えてくる一筋の、でも力強い愛情に必死にすがり付きながら限界を超える覚悟を決める。でもやっぱり怖いんだと手を彷徨わせると力強く、そしてどこか縋る様に捕まえられ指を絡められ俺は共に超えようとぎゅうと握り返す。俺は強すぎる快楽にイヤイヤと逃げを打つ己の身体をその手の繋がりでその身に受け入れ、この愛に溺れる覚悟をもう一度固めると、侯輝の動きに合わせて腰を揺らした。
「あ♡あっ♡っんは♡あ、愛してる♡♡侯輝♡♡♡」
俺がそう応えると俺のナカの熱い雄が歓喜に震え更に大きさを増し、最奥を強く穿つ。その動きは侯輝の想いの大きさの様に思えて俺は言い様のない幸福感に包まれた瞬間、呑まれていった。
「侯♡侯♡侯っ♡アァッ♡♡♡ンンゥウウウウッ♡♡♡♡♡!!!」
「天理♡天理♡あ¨あ♡♡っっあ¨あああ♡♡♡♡♡!!!」
俺はガクガクと震え、触れる事無く踊っていた俺の雄からプシャッと透明な液体が吹き出し俺の腹を濡らす。侯輝はその声音だけで達した俺を更に震わせる様に吠えると最奥に熱い飛沫を叩きつけた。
「天、理♡天、理♡天理…♡」
「ヒッ♡アっ♡あぁ…♡んぅ……♡」
侯輝は全身びしょびしょにして泣きながらビクビクと痙攣する俺の身体を強く強く抱き締め、息を荒らげながらも俺の名を呼び続ける。俺はその熱と声に溺れる。俺の全てが侯輝への愛だけになっていた。
「こうき♡こうき…♡こうき……♡」
「てんり…♡てんり…♡あいしてるよ…♡」
俺は侯輝の愛おしそうな声を聞きながらそのまま気を失う様に眠りについた。
ぼんやりと目を覚ますと隣で侯輝がむにゃむにゃと寝息を立てていた。家の物より上質なベッドの感触と広々とした天井でここがホテルで昨夜が新婚初夜だったと思い出す。部屋はカーテン越しにも明るく日はとうに登っていそうだ。もう全く記憶に無いが侯輝が俺にナイトガウンだけは着させてくれていた。
頭の中に昨晩の記憶がどんどん鮮明になってきた。侯輝の甘い声、請い焦がれる表情、力強い感触、酩酊させる匂い、全開で叩きつけられた欲と想い全て。そしてそれに身も心も全てさらけ出し全力で応えた俺。全身が熱くなる。
全部喋ってたし、あまつさえ漏らし…た?死ぬ。
「ぅわぁ!っ!ゲホッゲホッ!」
恥ずかしさのあまり頭を抱えて叫ぼうとしたら、声も掠れてろくに出ない。恥ずかしくて身を捩ろうにも体が、主に腰が重くてダル過ぎる。咳をしながらじたもたしていると侯輝が目を覚ました。
「大丈夫?!」
侯輝は野営さながらに素早く起床し水差しを取りに行くと、少し大袈裟な位心配そうな顔しながら俺の体を抱き起こし、慎重に水を飲ませてくれた。
「ん…ありがと、な」
まだ掠れる声で礼を言い、落ち着いたところでまた恥ずかしさがぶり返してきた。顔が熱い。穴があったら入りたい。だが不安そうな侯輝から逃げてはいけないと思い、大丈夫だと伝える様に俺を支える手をそっと擦ると侯輝はホッとした様に表情を緩めた。
「んーん。体辛いでしょ、無理させてごめんね…俺、想いも体も全然止められなかった」
侯輝は叱られた時の様にしょぼんとしながら俺のまだ少し赤いだろう目元を労るように触れる。優しく撫でられるとほんのり冷たくて心地よい。
「ん…いい。お前に本気で愛して貰えてたなら、嬉しい。まあ、ちょっと体はキツかったけど、気持ちよかったし、な?」
何者も恐れない侯輝だったが時折、自身の闇が制御できず俺を傷つけてしまう事を恐れているようだったから、俺はお前の全てが嬉しかったのだという気持ちだけははっきりと伝えた。安心させる為に少しおどけてみせようともして、やっぱり恥ずかしくて最後の方は小声になってしまったが。それでも侯輝は少し顔を紅くしぱぁっと顔を輝かせると嬉しそうに俺を抱き締めた。
「ありがと!ありがとね、天理」
俺は抱き締め返すと改めてその幸せそうなその笑顔を生涯護ろうと誓った。
ギリギリ朝食の時間には間に合いそうだったが急いで食堂には行けそうになかったのでルームサービスを呼び部屋で朝食をとる事にした。シャワーを浴び元の私服に着替えると昨晩同様見晴らしの良い窓際の席につく。すっかりご機嫌に戻り、運ばれてきた香ばしくフワトロのフレンチトーストを頬張りながらニコニコと話す侯輝の笑顔は、晴れ渡る外の景色より眩しい。
「天理、歩いて帰れそう?抱っこしていく?♡」
「ばか。魔法で軽くしてゆっくり歩けばなんとかなる。白昼堂々抱っこされてたまるか」
まだ腰はダルい俺を気遣いそう提案する侯輝に、家まで距離があるが魔法で重力軽減すれば帰れない事は無いはずだと主張すると侯輝は不満げにぶーぶーとアヒル口をした。その顔も可愛いがダメなものはダメだ。恥ずかしい。
「ちぇー昨晩はあんなに可愛かったのに」
「っ…昨晩の俺の話はすんな、あれは俺じゃない何かだ。忘れろ」
冷静に取り繕い食事を続けようとするも、思い出すとどうしても顔が赤くなってしまうと侯輝は楽しそうにクスクスと笑った。
「えーやだよ。俺一生の思い出にするんだから。普段照れてなかなか言ってくれない天理の赤裸々な愛の言葉とか、はじめての…キャー♡」
「~~っ!チェックアウトまで時間無いんだぞ、さっさと食え!」
きゃーきゃーと一人盛り上がる侯輝を恥ずかしさを隠す様に叱りつける。恥ずかしくはあったが俺にとっても忘れられない幸せな思い出になるだろうと密かに頬を緩めて俺もまたフレンチトーストを口に運んだ。だがしっかりと気づかれていたのか、表情だけで俺も幸せだよと主張され、俺は言葉も無いのにやっぱり照れさせられていた。お互い無言でもくもくと食べているのに俺達の食卓は見えないお花畑に包まれていた。
食事を済ませると折角のスイートルームからの景色を時間ギリギリまで堪能した。チェックアウトしようとフロントに行くと請求金額に侯輝がちょっと泣きそうになっていた。請求欄を覗くと室内施設使用料に昨晩俺達が散々遊んだ魔力稼働型給湯器の操作回数分が上乗せされていた。別料金だったらしい。そういえば俺も確認してなかった事を反省しフォローする事にした。
「泣くな!その分は俺が払うから」
「ぐす……ありがと天理……。うわーんカッコ悪いぃ〜」
支払いを済ませたが、スマートに支払いたかったのだろう侯輝がまだしょんぼりしていたので追加で慰める。
「ほれこれからは二人で協力すんだろ。お前はいつもカッコいいぞ」
「うん頑張る……。ありがと天理大好き愛してる♡」
撫でてやると調子に乗って抱きついてきた。切り替えの早さに呆れているとフロントマンが生暖かい笑みで見送り始めたので慌てて重ダルい腰から何とか侯輝を引き剥がし、ホテルを後にした。
俺はまずガノを呼び俺にかかる重力軽減を頼む。そして侯輝と手を繋ぐと並んでゆっくりと都の街並みを歩いて帰路についた。腰はダルかったが心はとても満たされていた。
歩きながら自分からぶり返すのは気が引けたがどうしても昨夜の事が気になっていたので確認してみる。夜の営みの相談は早い方がきっと良いのだと自分に言い聞かせながら。
「なあ、昨晩はその、粗相して悪かったな。片付けとか…次はちゃんと我慢するからな」
「?あ!ふふっ♡」
気持ち良すぎて吐き出す代わりに漏らしてしまったことをどうか呆れないでくれと思いを込めて小声で謝罪する。侯輝は一瞬キョトンとすると愛おしそうに笑い、立ち止まると俺の耳に近づき小声で話した。
「お潮吹いちゃってた事?あれはね、お漏らしじゃないから我慢しなくて大丈夫♡男も女の子みたいに凄くキモチイイとなるんだって♡はじめての潮吹き可愛いかったよ♡」
「な?!」
粗相をしてしまった訳では無いらしいが、俺は昨夜の痴態を思い出して羞恥に震える。しかし侯輝は愛おしそうに俺を見つめていて、嬉しそうだった。侯輝はまだ若いしやはり激しい交合いを望むのだろうか。毎回昨晩の様な交わりだと少し辛いのだが、侯輝が喜ぶなら頑張ってみようかと、決意を固めていると侯輝は少しだけ遠くを見ながら言った。
「俺達ってまだやってないこと沢山あるよね」
「ん…まぁそうだな。お前正常位ばかりだったし、俺もようやく少しは動ける様になったし…」
「え、あ、ごめんね、えっちの事だけじゃなくて。どこか遠いとこに旅に行くとか。天理の両親が住んでいる国に挨拶にも行きたいな」
「っ!話の流れでそうじゃないのかよ!いきなり広義の話しやがって……まぁそうだな」
急に話を飛ばしてきた侯輝に、俺ばかり卑猥な事を考えていた気にさせられてしまい、怒りと恥ずかしさで思わず声を張り上げてしまう。しかしすぐに同意すると侯輝はクスクスと笑いながら続けた。
「えへへ♡あ、でも!俺が正常位好きなのは天理の顔見たいからだから!決してバリエーションがない訳じゃないんだからね!えっちも頑張るからね!」
俺の先程のが言い方が悪かったのか、少し焦った様に弁解する侯輝に、愛おしさを感じる。侯輝は冒険者仲間とそういったシモの話もして知識は豊富の様だし女にも男にもモテるのに、実技は俺しか知らないでいてくれるのが嬉しかった。だから快楽に乱れる顔を見られるのは恥ずかしいが侯輝のしたい様にさせてやりたかった。それに今更ながら俺も侯輝の愛おしそうに悦ぶ顔を見ながらスるのが好きだったなと気づく。
「いや、責めていた訳じゃないんだ。俺も前から抱かれる方が安心するというか…好き…だし。でもお前が試したい事は、何だって構わないぞ」
この先の未来、お前が相手なら、お前と一緒ならそれこそ何だっていいのだと心の中で付け足す。それは本心だ。ただそれを口にするのは恥ずかしくて言い淀んでしまったが伝わっただろうか。
「うん!二人で色んな事しようね。昼も♪夜も♡これからずっと。楽しみだね♪」
「……うん。そうだな。楽しみだ」
どうやら広義の意味の方でもちゃんと伝わったらしい。同じ未来を描ける幸せに頬を綻ばせていると侯輝もまた嬉しそうに笑ったのだった。
それから俺達は手を繋いでまたゆっくりと歩き出す。
侯輝と一緒ならなんだって乗り越えられるだろう、楽しさも幸せも一緒にいれば何倍にも膨れ上がる。
俺達はこれからもずっと一緒に歩いて行くのだ。