9.一緒に住むよ!

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天理が襲われる件から数日が過ぎ、侯輝と天理二人の休みが重なると、天理の上司であるアナスタシアの知人という不動産屋から鍵を受け取り、少しだけ郊外の指定された場所にたどり着く。二人の新居予定となるその場所は、二人の身の丈程の高い土塀に囲まれており、数奇屋門の横開きの扉をガラガラと開けると、そこは小さな庭付きの古風な木造の平屋立てだった。天理は先日見た日の国の雰囲気を思い出す。ドアに張ったクモの巣を軽く払い鍵を開け家に入るとそこはある意味戦場だった。
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「なるほど。要るな[[rb:清掃道具一式 > これ]]」
天理は不動産屋から渡された様々な清掃道具を見つめながら、まだ雨戸が閉まり真っ暗な室内に、玄関から薄っすらと入る明かりだけでも分かる埃だらけの屋内を確認した。
「思ってたより広いね!!天理!蔵ある!蔵!でっかい木生えてる!」
外を見て回ってから家に入ってきた侯輝のテンションが高い。
「はいはい。また後でな。…オーナーが言うには事故物件なのは否定されてたが…」
規模の割に格安な条件を提示されていたその家は、まだ薄暗く続く廊下の雰囲気からいかにも出ますといった感じではあった。
「俺アンデッドなら得意だよ!」
比較的レアな光属性持ちの侯輝は冒険者間で歩くターンアンデッドとか呼ばれていた。実態持たぬ低級霊なら寄っただけで消える事もあるという。ちなみに侯輝のもう一つの精霊適性である闇属性に惹かれて近づいてきてそれだからアンデッドにしてみれば[[rb:理不尽極まりない存在 > アンデッドホイホイ]]である。
「武器は[[rb:清掃道具 > コレ]]しか無いけどな。」
流石に侯輝は愛用の[[rb:ツーハンドソード > 武器]]は持ってきていなかった。オーナーの情報を信用するならアンデッドの類は居らず不要であろう。
天理は入り口の土間の辺りにわずかな精霊の気配を感じ目を凝らす。
「どうしたの天理?」
「そこにブラウニーっぽいのが居る」
土間の上がり[[rb:框 > かまち]]に腰掛け、薄ぼんやりしたブラウニーらしきものが蹲っていた。だがいくら実体を持たない場合もある精霊とは言え集中しないと見えない程、力なくほとんど消えかかっていた。
「え!?どこどこ?見たい!……なんか…いる様な?」
話には聞いたことがあるその珍しい精霊を興味津々で天理の見ている方に目を凝らすも、見つける事はできず侯輝は精霊をカンでなんとか捉えていた。
「ブラウニーが住むくらいには由緒ある家だったんだろうが、これだけ家が酷い状態だからな。大分弱ってしまったんだろう。」
天理はブラウニーの頭らしき場所をよしよしと撫でてみる。ぴくりと動いた気がしたが反応は無かった。その天理の行動に侯輝が少しだけ複雑な顔をするもすぐに切り替え労わる様に言う。
「…かわいそうだよ。どうにかならないの?」
「コイツの場合、家を綺麗にしてちゃんと住んでやれば元気になるだろ」
「じゃがんばらないとだね!」
侯輝は[[rb:清掃道具 > 得物]]を握りしめた。
「そうなるな。しばらく待ってなブラウニー。お前の力になれるかもしれん」
もう一度撫でるとブラウニーが少しだけ揺れた。
靴は脱いで入るものらしく、同じく渡されていた上履きに履き替え二人は早速掃除に取り掛かる。家じゅうの雨戸を開け、家の中に光を入れる。
二人はタオルで鼻口元を覆い一斉にはたきをかけると、埃が光に照らされ雪の様に舞い散った。天理が[[rb:風の精霊 > シア]]を呼び出すと埃を一気に外に追い出す。部屋の空気が軽くなったように感じた。
侯輝は天理が戦闘より、こういう生活に役に立つ時に楽しげに精霊を呼んでるのを見るのが好きだった。
「さっすが天理、すっきりしたね!でも張り切り過ぎて魔力切れで倒れないでね。俺一人で掃除になっちゃう」
「その手があったな…」
「もー!グッドアイデアみたいな顔しないの!どんどんやるよ!」
雑巾付きモップを天理に押し付ける。
「冗談だって。しつこそうな所は[[rb:水の精霊 > ウィン]]呼ぶから言えよ」
「天理をサボらせない様に最低限しか呼ばないからね!」
侯輝がモップを武器の様に振りかざすと、そんな姿さえサマになって見えると思うのは惚れた弱みなのかと天理は内心思うも
(モップでもそれなりにカッコよく見えるから腹立つなこいつは)
などと誰に聞かれる訳でも無いのに言い訳じみた事を考え、だが実際はしっかり聞いていた周囲にうっすらと漂う[[rb:自身の契約精霊 > ウィン]]に『これが人間のつんでれってやつ?』などとからかわれていた。
「わかったよ、お掃除隊長。頑張るか」

まず井戸が枯れかけていたので早速[[rb:水の精 > ウィン]]に頼んで復活させる。その後は二人で力を合わせて家中の床、窓拭き等を進めていった。分担して掃除していると侯輝は押し入れから古風かつ綺麗に装飾された兜を見つけた。埃まみれだったが適当にはたいて被ってみる。早速天理に見せようとするも蔵の空気だけ入れ換えると言ってなかなか帰ってこない天理を探しに蔵に向かった。
開け放たれた蔵の中では[[rb:風の精霊 > シア]]がせっせと仕事をする中、侯輝にはどう読んで良いのか分からない古代文字が書かれた紙をなんだか楽しげに読んでいる天理が居た。
「天理!何やってんの?」
ビクッとして振り返った天理が侯輝の姿を見て吹き出した。
「ってお前何遊んでんだ!」
「そういう天理もシアにだけ仕事させてサボってる風に見えたけど?!」
「こ、れはだな空気入れ換えてたら剥がれて落ちてきたから、何かやばい封印でもあったのかと念のためにだな」
侯輝は天理は嘘は言わないのでここまで言っている事自体は真実なのだろうと思うし、実際言った通りの代物であれば確認は必要だろうと同意するものの、来た時の天理の様子とチラリと見えた文字の雰囲気から怪しげな類のものでは無いと踏んでいた。
「それ全然そんな感じじゃないじゃん!健康第一とか家内安全とかじゃん!」
「残念だったな。五穀豊穣とその祝詞だ!」
侯輝の指摘に天理は紙を見せつけながらドヤ顔で言う。さしずめ古代文明が好きな天理にとって面白そうな紙を見つけたので読み始めてしまったという所だろうと侯輝は推測した。天理は昔から部屋の掃除は脱線しがちになるので侯輝がお掃除隊長になって天理を監視しているのだった。空き家の掃除だから大丈夫だろうと少し油断した事を侯輝は反省する。
「やっぱ遊んでんじゃん!」
「お前が言うな!」
掃除中に明らかに兜を被る必要は無いはずだと天理も反論する。昔から、侯輝がお掃除隊長になるも一緒に遊びだし、様子を見に来た侯輝の兄に二人揃って説教される事もまたある事だった。
お互い指さしながら沈黙して見つめ合う二人。[[rb:風の精霊 > シア]]だけが黙って仕事をしていた。
「仕事しよう?」
「そうだな。…お前もその兜呪われてるとかないよな?」
天理が[[rb:風の精霊 > シア]]を労い、蔵の鍵をかけ直し、二人屋内へ戻る。歩きながら侯輝が兜を外すと埃が落ちてきた。
「そんな感じは無さそうかな。というか、これ実践向けじゃないみたいんだよね」
「意匠も精巧に作られてるし装飾品だろうな。科長に見せたら喜ぶかもしれん…あー停まれ入る前に掃ってけ」
天理は侯輝の頭から優しくぱたぱたと埃玉を落とす。そのちょっとした事に侯輝は頬を緩めた。
「えへへ」
「何ニヤついてんだ。」
「夫婦っぽいなーって」
「!…二人して遊ぶ夫婦とかダメだろ。あとどこ残ってんだ?」
そう言いながら足早に少し先に進む天理が照れているのを察すると侯輝はニコニコとあとに続いた。

夕方前までには概ね綺麗にする事ができた。縁側で休憩しながら部屋割りや家具配置をああだこうだと相談していると、ブラウニーらしき精霊が物陰から興味深めに二人を覗いているのを侯輝が見つけて目を輝かせた。
「ねぇ!天理!なんか見える!ぼんやりだけど今度はちゃんと見える!ブラウニーって子供みたいなんだね。珍しい服着てる!」
「おー。かなり見えてきたな。」
天理が知る外観と異なり、黒髪で服装がなんだか以前見た日の国の装束に近く、所謂[[rb:ブラウニー > 茶色]]っぽくない。が、気配はそれっぽいし敵意も無さそうだ。
「こんにちは!こっちおいでよブラウニー!お菓子食べる?…あれ?」
はじめてブラウニーに会えた侯輝は興奮ぎみにブラウニーを誘うも、ブラウニーらしき精霊は「!」となると逃げて行った。と思ったら遠くの壁の角からやはり覗いている。
「食わんぞ。あと積極的に出てきたがる精霊じゃないから構いすぎんなよ。まぁ少し元気になって良かったな。 よろしくなブラウニー?」
少しだけ疑問を残しながらも手をひらひらさせ挨拶する天理に倣い、満面の笑顔でブラウニーに小さく手を振るとブラウニーはまた少しだけ揺れていた。好奇心はありそうなのに恥ずかしがるその姿が天理を思い出してしまった侯輝はくすくすと笑った。
「恥ずかしがり屋なのかな?天理みたい」
「俺はあそこまでじゃないだろ」
「天理は照れ隠しでつんけんしてるだけだし…それにね」
「うるさ…っ!こんなとこで急に盛ってくるな」
少しむくれる天理が可愛くて侯輝が口づけようと顔を寄せようとすると天理は手で押し返して体を遠ざけた。残念そうにしながらもほらね、と侯輝は笑う。
「今他に誰もいない…事はないんだけど。ブラウニーに見られてるのも恥ずかしいの?」
侯輝は遠くで覗くブラウニーをちらりと見ながら元の様に座り直し天理に尋ねる。
「…別にそれは無い。精霊に人間の感覚は無いらしいしな。…目の前で昆虫が交尾しててもなんとも思わんだろ?」
「その例えもどうなんだよー」
侯輝はツッコミを入れつつもこの物言いも天理の照れ隠しだろうと微笑ましく思った。
「基本的に俺の近くには契約精霊が4体もいるし、こないだお前に…[[rb:S E X > 魔力供給]]して貰ってる最中だってずっと俺に[[rb:炎の精霊 > ブラム]]宿ってたし」
先日の事を思い出したのか少し恥ずかしそうに天理が言う。
「そういえばそうだった!それ[[rb:炎の精霊 > ブラム]]的に大丈夫なの?」
「あっちに感覚共有してる訳じゃないからな。まぁ還る時に文句は言われたが」
「それは言うよ…」
「と、いう事で気にしない事にしている」
恥ずかしがり屋の恋人はそう割り切らないと無理なのだろうと思いつつ、ちょっと脱線してしまったので話を戻した。
「大変なんだね…。で、話戻すけどやっぱり寝室は一緒がいい!なんでだめなの?」
「…就寝時間ずれる時あるし、お互いゆっくり休みたい時だってあるだろ」
少し目をそらしながら言う天理にまたもや悪戯心が湧いた侯輝は横から天理を抱きしめた。
「…天理、まだ理由隠してるでしょ?正直に言うまで離さない」
「抱きつく必要あんのか!お前だって体が資本だし休みたいだろ…」
強気に抵抗するも抱きしめている内に言葉が弱気になる天理にこーしないと本音言えないでしょ?とばかりにもう一押しとぎゅうと抱きつく。
「野宿に比べれば天国だよ。横に天理もいるんだし。全回復だよ!…そんなに俺と一緒に寝るの嫌?」
止めとばかりに寂しげに微笑むと天理はううと唸りながらようやく言葉を紡ぎ出す。
「う…だから……お前の方が留守が多いだろ…広いベッドでお前のにおい嗅ぎながら一人寝る身にもなれ…」
赤くなりながら最後の方はほとんど小声で話すその理由に侯輝もつられて赤くなった。
「!!!ごめんね!寂しいって言ってたもんね!」
「言ったか?言ってたか…や、だがやっぱ今の無し!子供じゃあるまいしその内慣れるだろ。忘れてくれ。だから一緒でも」
起床して目の前にお前の顔があるのだってその内…ともごもごと取り消す天理に強張るのは良くないと笑顔を作り、そっと抱きしめ直す。
「いいよ!寝室別でいいよ!俺思い出して寂しくなっちゃうなら仕方ないよね!」
「あああ…すまん…」
「でも俺が居る時は俺の部屋で一緒に寝て欲しいな。大きなベッド一緒に買いにいこーね」
「お、おう…分かった」
真っ赤になって頷く天理に野郎二人でベッド買いに行くという更なる試練が追加された。

侯輝と天理は新居の掃除の片づけを済ませると一旦冒険者ギルドで引っ越し移動用の大型のリアカーの手配をし、食料を買うと天理の家に帰宅した。辺りは日が沈んでおり、星がちらほらと見え始めていた。
ほぼ荷物がまとめられ積まれている空きスペースで荷物の木箱をテーブルにし二人は夕飯をとると少しくつろぐ。
「この家も今日で最後になっちゃうんだね。」
「そうだな、結構長く住んでたしそう思うと感慨深いな…。ふふっお前がうちに居候してた時期はまだ成長遅くてまだチビだったな。冒険者になるんだっ!って勝手に上京してきて右も左も分からないままうちに転がり込んできて」
「えーその話しちゃうのー」
天理が懐かしそうに話しだした侯輝の子供の頃の話は無力感が強くてどうにも苦手だったので侯輝は不満そうに口を尖らせた。
「背が伸びてきて段々稼げるようになって、うちを出てちゃんと宿屋暮らしになった時は子の巣立ちを見る様な気分だったな」
話を続けながら天理は少し寂しかった事を思い出していた。
「そうだと思ってた。俺あの頃から好きだったのに保護者気分で天理全然気づいてくれないし。だから出てったんだから」
拗ねたように言う侯輝に天理は苦笑した。
「そりゃ悪かったな…その後、会う度に縦も横もでかくなってたのは驚いた」
「驚いただけじゃないって聞いたけど?」
家を出た後、会う度に未だ保護者気分で接してくる天理になんとか振り向かせようとアピールした結果、徐々に天理が意識しだしていた事を知る侯輝はニンマリと笑うと、天理はばつが悪そうに目をそらす。
「…知ってるなら聞くな」
「作戦成功だね。でもなかなかチャンス無かったけどあの遺跡で告白して、ここが俺と天理と最初の場所になった」
「その話はいいだろ」
逆転とばかりにこの家での思い出話を始めた侯輝に、天理はその初夜の事を思い出してしまい恥ずかしさで顔をそらす。
「大事だよ?!ここは俺と天理がはじめて結ばれた思い出の場所なんだから!」
「わ、分かったから! ……」
木箱テーブルを軽くばんばん叩いて主張する侯輝に天理は赤くなってこれ以上勘弁してくれと同意し俯く。そんな天理を見ていると侯輝もまた具体的に思い出してしまい、赤くなった。
「…最後に、する?」
「…明日引っ越しだぞ」
少しの沈黙の後、侯輝はこの家の最後にと天理を誘う。天理は否定するも満更でもなさそうな雰囲気を侯輝は感じとり、もう一押ししてみた。
「一回だけ、ね?」
天理は小さくむぅと唸りながら、立ち上がると片付けられた荷物の一つを解き始める。
「…ちゃんと一回で止めろよ?」
「大丈夫!」
「俺が求めても」
荷物から後孔の洗浄器具を見つけ出しながら、天理が振り向かずに念押しする。
「!それは…大丈夫じゃないかも♡」
天理からの思わぬ念押しに驚きつつ立ち上がり天理に近づくと後ろから抱き締めて少し赤くなった顔を確認する。
「止・め・ろ。支度してくるから。」
天理は道具を持ち腕から抜け出すと侯輝の頬にキスをしてさっさと風呂に向かった。
「!はぁい…」

天理が後ろの支度を済ましてぬるま湯に浸かっていると「おじゃましまぁす♡」と侯輝が浴室に入ってきた。天理はジト目をしつつも言った所で止まる訳でも無く、そもそも止める気が無かったので大人しく迎え入れた。侯輝は新居掃除での汚れを綺麗に洗いシャワーで流すと今度は「後ろ空けてー」と天理の背中側に割り込み後ろから腰に手を回し抱きついた。
「狭い」
だがしかし単身用の浴槽に標準程度男性と標準以上男性二人は狭すぎた。
「一緒に入ったこと無かったなーって。記念に?」
「ばーか……」
苦笑しながら、あの頃はあんなに小さかったのにすっかりでかくなってしまったなと思いながら後ろから回された侯輝の腕に手を添える。
「何考えてたの?」
「お前の事。大きくなったなって」
侯輝は背後から天理を抱き締めたまま首筋にキスしたり軽く吸ったりしつつ耳元に囁くと、天理はくすぐったそうに肩をすくめつつ答え侯輝は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった背伸びて」
「ふふっお前焦ってたもんなぁ」
「そりゃあ天理に意識して貰いたかったし」
「ああ、そっちか。戦士として早く大きくなりたいもんだと」
「もーまだどこかでガキ扱いしてるでしょ」
「してないってw」
「本当~?」
天理はふざけ気味にぎゅうぎゅうと締め付けてくる侯輝に笑いながら肯定する。それどころかすっかり自分の方が甘やかされるくらいになってしまったなと思う。こいつが頑張っているんだろうなとも。
「お前…俺を甘やかし過ぎじゃないか?」
「んー?そりゃ好きな人には甘やかしたいし、それに天理甘やかすと可愛いとこ見られるからね。こーやってぎゅうぎゅう抱き締めてると素直に色々言ってくれるし」
侯輝はそう言いながら天理の腰に回していた腕に力を入れて更に強く抱き締めると、天理はその力強さに安心感を覚える。
「悪かったな素直じゃなくて。って何で抱きしめるのが甘やかすに入ってんだ。」
「天理好きでしょ?俺も好きだけど。こうしてる今も天理可愛いし」
「可愛い言うな……じゃあ……いや、何でもない」
天理はふと思いついてしまった事を口に出そうとするも恥ずかしさで言い留めたが、侯輝がすかさず「ん?なぁに?」とやはりぎゅうぎゅう抱き締めて肩口から顔をすり寄せる。天理はたじろぎながらこれは確かに効果あるなと思いつつ考えを口にした。
「…じゃあ俺が…素直に言えたら。もうお前はこんな風に[[rb:抱き締めて来 > 俺を甘やかさ]]なくなるのか?とか。しょーもない事考えたんだよ」
場が狭く抱き締めてられて身動き取れなかったが少しばしゃばしゃと身悶えすると天理は顔を背ける。侯輝はその可愛らしい恋人に嬉しさからぎゅうぎゅう抱き締めると、背けた天理の耳元で甘く自分の想いを届けた。
「天理が俺に甘えたいって、抱きしめて欲しいって事がしょーもない訳ないじゃん。それに素直にそう言うなら、俺はそれに応えない訳ないんだから。結局一緒だよ?俺は天理が俺を好きって気持ちを聞くのが大好きなんだから。」
「!お前はそーいう…ホント凄いよなぁ…」
「もっと褒めて♪」
素直に想いを伝えてくる侯輝に、天理は敵わないなと思いつつも嬉しくもあり、愛しくもあった。何か自分も想いを言葉で返せないかと思うも難く、仕方がないと少し侯輝の腕を緩めさせて少し体を前にずらし体を侯輝に預けると、そのまま頭を後ろの肩に倒し侯輝を見上げる。
「…ねぇ天理、それ誘ってる?」
侯輝の眼下に天理の白い首すじが無防備に晒され、少し細められた瞳が自分だけを映して愛おしげに見上げていた。
「…ちゃんと誘ってるように見えたか?」
言葉でなくともやはり慣れぬ行為に羞恥が湧き、視線を逸らして天理は問うた。そんな愛らしい恋人の姿に侯輝はくすりと笑い答える。
「うん、見えたよ」
「良かっ…ん」
侯輝は天理の頬を撫でると口付け、舌を差し入れ絡めた。天理も応えるように腕を上げ侯輝の首に腕を回すと自分からも舌を絡ませていく。
「ここで続けていい?」
「…ん」
口付けが離れると融け始めた天理が侯輝の言葉に小さく答えた。

侯輝は湯船の中で後ろから天理を抱き締めたまま、耳たぶをはみ、胸元の飾りをまさぐり脇腹をなぞり小さく震わせる。天理を少し浮かせ胡座をかいて自分の上に乗せ少し脚を開きやすくさせると手を天理の後孔に伸ばした。十分に準備されていたそこにゆっくりと指を差し込み、少しずつ広めるように動かす。
天理の中の敏感な部分を掠める度に腰が動き湯船が揺れた。
目の前で勃ち上がっていく己の中心と漏れる声が浴室に反射し、天理の羞恥心を煽る。背中から侯輝の熱い吐息と中心を感じながら指を増やされていくと天理は期待で思わず後孔を締め付けてしまい、耳元で侯輝の囁く様な笑い声が聞こえると恥ずかしさに更に顔を赤くした。天理は早く侯輝を受け入れたくて堪らないが恥ずかしさが邪魔をして言葉に出来ず、辛うじて侯輝の腕を擦りながら切なそうに恋人の名を呼ぶと、侯輝はザバンと音を立てて湯殿から天理を抱えて立ち上がった。
侯輝は壁側の少し幅のある浴槽の淵に天理を座らせると足の間に割り入り膝裏に手を入れ持ち上げる。天理の腕が侯輝の肩に絡まり捕まるのを確認すると、先程まで解され柔らかくなったそこへ己をゆっくり沈めた。
天理は圧迫感と熱量に一瞬息を詰めるが、すぐに甘い吐息を漏らす。天理が辛くないよう暫くそのままじっとしている間に深く口づけを交わした。やがて天理から強請るような視線と緩く腰を動かされるのを感じると侯輝はゆるゆると動き出した。最初は探るような抽挿が段々と早くなり、次第に肌を打つ音が響き出す。天理の口から甘い喘ぎが絶え間なく溢れ出し、侯輝の息遣いも荒くなると二人の交わりの音が浴室内を満たしていった。
互いの荒い息遣いに混じり、時折混じる名前を呼び合う声にお互いの気持ちの高まりを感じ合う。侯輝は限界が近いことを知らせるように、さらに激しく攻め立た。天理はそれに呼応するように、更に奥へ奥へと誘うように、侯輝の肩に回された手に力がこもる。
天理が音にならぬ声を上げ絶頂を迎えた瞬間、侯輝は強く締め付けられ、その衝撃に促されるまま、一番深いところで果てた。

侯輝はまだ余韻を残し震える天理がおさまるのを待ってゆっくりと自分の中心を抜いた。「んっ」と小さな声を聞く。自分が放ったものが後孔から流れ落ちるの様を見てを自分を刺激しない様、意識しない様にしながら天理の脚をゆっくりと床に下ろした。そして天理の髪を撫でながら頬に触れるだけのキスをするとまだ荒い呼吸を繰り返しながらも心地よさげに目を細める恋人の姿に愛しさが募る。
「天理、大丈夫?」
「ん…」
「体、洗う?」
「…自分で、する。」
天理は今、そんなことされたら本当に二回目を強請ってしまいそうだった。自分を過大評価するつもりは無いがまだ若い恋人に今の自分の姿は刺激が強いだろうと申し出を断る。明日があるからと回数制限したのは自分なのだから。
「そっか。じゃあ俺は先に出てるね。」
「ああ…。」
心配そうにしながらも出ていく侯輝を見送り、天理はまだ残る余韻に小さく震え甘い吐息を漏らした。どうにもこの自分だけ燻っている時間が苦手で、侯輝は紳士に扱ってくれるがどうにも恥ずかしいのだった。
躰を鎮め身を綺麗にして脱衣所に戻ると、バスタオルと着替えが用意されていてまた天理の頬が緩んだ。
(至れり尽くせりだな。ひょっとして、これからこれ毎日なのか?あいつ仕事で毎日居ないけど。)
天理は体を拭き夜着を着ながら考える。侯輝がまだ子供だと思っていたあの頃だって一緒に生活していた時期はあった。今までだって自分の部屋に泊まりに来る事だってあった。けどこれからは恋人として毎日同じ家でずっと一緒に生活していくのだ。
(そしてゆくゆくは結…婚……うわぁぁ……)
まで考えてはずかしさで蹲っていたら、水を持ってきてくれていた侯輝が脱衣所に飛び込んできた。
「天理?!大丈夫?!湯あたりした?!これ飲んで!」
「だ、大丈夫だ!すまん、ちょっと明日の事とか考えてただけだ!」
天理が焦りつつも恥ずかしさをなんとか取り繕い、水をありがたく貰い乾いた喉を潤していると、その様子を見た侯輝はまた何かを察知しおもむろに両手を広げ構えた。
「それならいいんだけど…うーん」
「な、なんだよその手は……っ」
少しじりっと下がる。だが浴室のドアに阻まれた。侯輝はじりっと進む。
「また何か可愛らしい隠し事してるなら自白してもらおうかなーって」
「可愛らしいって何だ!お前のハグはいつから俺の自白剤になったんだ!何でもないって!」
「やっぱり何か隠してるね!えいっ♡」
天理の寄るな寄るなと主張も空しく侯輝はあっと言う間に天理を捕らえるとぎゅうぎゅう抱きしめた。天理は半ば諦めつつも腕の中で叫ぶ。
「あああお前これ卑怯だぞ毎度毎度!」
「これはねー天理が可愛くなる魔法のハグだよ。天理にしか効かないし天理にしかやらないから安心してね。さっ白状して」
侯輝が言いながら天理の耳元にちゅっと口づけると、天理は折角止めた筈の熱がまた上がりそうになりかねないと観念して想いを口にする。
「っ何だよそれ。もう言やいいんだろ…明日からずっとお前と一緒かと思ってたら急に恥ずかしくなってただけだ…言ったぞ離せ」
「ごめん無理…あと煽んないで…」
侯輝もまた再熱しないようにと努めてはいたのだったが、天理の言葉にまた火が点きそうになると抱きしめる力をそのままにすりすりと頬擦りした。
「どこに煽り要素あった」
「全部ぅ」
「添い寝してやるから早く寝ろ」
もうただハグしたいだけと化した恋人に天理は可哀想な目をしながら空いた手でぽんぽんと頭を撫でる。
「また恋人をガキ扱いする酷いー」
「いい加減苦しい!してないって。ほら寝るぞ。明日朝から引っ越しだぞ」
拗ねたようにぎゅうぎゅうと抱きしめる侯輝に天理がキスをすると侯輝はやっと腕を解放した。
明かりを消し、二人は天理のベッドに入る。やはり成人男二人でセミダブルは狭い。
「広いベッド買おうな」
「狭いのでもいいけど。くっついてられるし」
侯輝がそう言いながらまた天理に抱きつき嬉しそうに笑うと、またか物好きめと思いつつも天理もまたその心地よさに笑みを浮かべた。
「明日から一緒に住むんだな」
「うん、嬉しい♪…天理はまだ恥ずかしい?」
「まぁ…でも…俺も…嬉しいよ」
侯輝はえへへと嬉しそう笑うとぎゅっと抱きしめどちらからともなくおやすみのキスを交わす。
お互いの体温でふわふわとした眠気が二人を包みこむと共に眠りについた。

[newpage]
翌朝、めずらしく天理の方が先に目を覚ます。目の前には恋人の寝顔があり、やっぱりまだ恥ずかしい。こうして見るとまだ少しだけ幼い頃の面影があり、可愛いなと思ってしまう。ゆっくり起き上がるとまだセットされていない侯輝の前髪をサラサラといじってみる。ちょっと楽しい。すると手が伸びてきてその手を捕まれた。
「おはよう天理。朝からお誘い?」
「おはよう。朝から勝手に盛ってんじゃねーよ。ほれ起きろ起きろ」
珍しい侯輝の寝起きのぼんやりとした表情に実は一瞬ドキリとしていた事を隠しながら天理は捕まれた手を振り払うと、侯輝はめげること無く眼を瞑り、来て!とばかりに両腕を広げた。
「おはようのチューしてくれたら起きる」
「ったく……チュ…ほれおきろ」
天理が呆れた様にため息をつきつつも軽く口づけると侯輝は広げた腕を閉じ捕まえたとばかりに「はーい」と抱き寄せた。
「おい、こら!あーもう」
天理はその居心地の良さに抵抗をすぐに諦めて一旦大人しく侯輝の腕の中に収まるものの、はっとして侯輝の頬をつねった。
「いい加減に起きろ!」
「いたひ」
侯輝はその愛らしい痛みに頬を緩めながら腹筋で天理ごと起き上がるのだった。

二人は朝食を済ませると早速引っ越し作業に入る。ベッドは分解し、ギルドで借りておいたリアカーへ次々と乗せる。侯輝の荷物はほとんど無かったし、天理は研究資料や遺物は多かったが家具は少なかったので木箱に詰め込んでなんとかギリギリ乗せ終わった。体積の割に重い。素で運ぶのは辛かろうと天理は[[rb:土の精霊 > ガノ]]を喚びリアカーにかかる重力の軽減を頼んだ。
「凄い軽い!これなら俺一人でも余裕で動かせちゃう!でもこれいつまでもつの?」
「俺の魔力があっちの家までもつ事を祈れ」
[[rb:土の精霊 > ガノ]]がぴょこぴょこと跳ねる横で試しに一人でリアカーを引いてみた侯輝が感嘆の声を上げつつ天理の魔力の心配をした。天理が遠い目をしつつ答えると侯輝が慌てだす。
「急がないとならないんじゃん!そうだ!天理もリアカー乗って」
「え。いや、そうは言ったけど一応持つはずだし…俺も押して行こうと」
侯輝は天理一人追加しても十分動かせそうだったので、天理の負担を減らそうとリアカーを指さすと乗る様に促す。だが侯輝より非力でも足しにはなるはずだと共に押して行く気だった天理は戸惑いつつも遠慮しようとした。
「精霊魔法の維持するなら、歩きながらするよりいいんじゃないの?」
「そりゃ止まってた方が集中しやすいが…」
「じゃ、乗って。」
「俺幼児じゃないんだから絵面的にお前一人に引かせて乗ってたらまずいだろうが…」
侯輝は再度荷台を指さしながらピシッと言い放つも、未だ天理は渋る。精霊は万人に見える訳ではない。見える人間なら大地の精が仕事をしており術者である事が察せられるが、そうでない人から見たら大の男が何もしてない上に酷いやつである。自分の外見はさすがに病弱とは言い難かった。
「そんなの誰も気にしないから!それにどうせ魔力切れで倒れたら天理乗せて俺一人で引くんだし」
「切れる前に解除するし…」
天理はこんな時、自分の魔力の低さが恨めしかった。他にも最近噂が主に侯輝から広がって、あっちこっちで”侯輝の嫁”扱いされている事が増え、増々拍車がかかりそうだと気にしていたのだった。だがこうしてる間にも魔力は消費される。観念した天理は渋々リアカーの中の乗っても大丈夫そうな木箱の上に座る。
「天理、ちゃんと乗っててね!無理しない程度に荷物の番だけしてて」
「あーそれくらいはするから」
「拗ねないの!じゃ新居へしゅっぱーつ!」
拗ねたように棒読みで答える天理に侯輝は苦笑しつつリアカーのバーを握ると声高らかに二人の新しい家へ出発したのだった。
 
荷物と天理を乗せたリアカーを侯輝が一人元気に引いて歩きだす。大体いつも元気な侯輝だったがこれから始まる愛しき恋人との同棲生活への期待からか普段よりも更にテンションが高くご機嫌であった。
道を進めばそんな侯輝と天理を見、周りから生暖かい視線を感じるが天理は見なかった事にしてガタガタ揺れるのも構わず高さの高い荷物を肘掛変わりにして頬杖をつく。
「……」
「ねぇ拗ねてないで何か話してよー[[rb:魔法 > ガノ]]に集中できないならいいけど」
段差に気をつけながらも侯輝はガラガラと軽快に進みながら話す。
「…それじゃあ一つ面白い話をしてやる」
[[rb:天理 > 主]]の一人反省会をよそに侯輝のご機嫌につられるようにポーンポーンと楽しそうにスキップしながらついてくる[[rb:土の精霊 > ガノ]]を横目に天理は頬杖を解いた。やっと機嫌直ったのかなと侯輝は話の続きを促す。
「何なにー?」
「俺な…魔術学院じゃ書類運びだの簡単な肉体作業があれば大体呼ばれててな。たまに女子から『わ~天理さん便りになりますぅ~』とか言われたりすんの知ってたか?」
「っ…」
ローテンションのまま語られた天理の話に侯輝は吹き出しそうになり震える。堪えようすると引くスピードが落ちた。
学院に居るのは極一部の例外を除き大体非力な学者ばかりだ。研究の傍ら遺跡探索にも出ている天理は学者としては比較的体力は秀でていた。だが侯輝は天理が普段冒険者サイドでは非力扱いされているのを知っていた。どうみても自虐ネタだ。
「笑ってないで何か言え」
「笑っ…てっ…無いよ…天理がんばっ…てるよ」
侯輝が否定しつつも堪えられずせめてもとフォローを入れたが天理に効果は薄かった。
「お前笑いすぎだろ#」
「ごめっでも自分でっ面白い話っって言ったじゃん!ってあれ?」
侯輝は軽快に引いていたリアカーが徐々にとてつもなく重くなるのを感じた。正確には本来の重さになった。引けない事は無かったが少しきつい。[[rb:土の精霊 > ガノ]]がリアカーの上で寝転がる気配がする。そして背中から微かな怒りのオーラの感じ取り、結局まだ拗ねてたんだと結論づけた。
「………」
「ちょっごめんて言ってるでしょ!軽量化止めないでよ!自分で話振ったんでしょおお!!」
侯輝が一旦止まり振り返りむぅとむくれている天理に謝りつつ抗議すると、「…そうだったな。すまん」と天理も謝るとすぐにリアカーはまた軽くなった。再びリアカーを軽快に引き始め、[[rb:土の精霊 > ガノ]]が荷台から降りて再びぴょこぴょこ歩きだした。好奇の視線が少し集まっていた。
「やっぱり女の子にそう言われるの嬉しい?」
侯輝としては揶揄って言っているのではなく、女子へのちょっとした嫉妬心からの発言だった。スタイルも整っており知的で凛々めな顔と、話してみれば意外と気さくな天理は学院では密かにモテているタイプだと推測していた。そして先日学院を見学した際、侯輝は"それとなく"情報をかき集め推測を断定させた。研究対象がどマイナーで、やもすれば変人扱いされる古代史でなければもう少しモテていたかもしれない。本人に自覚が全くない様だったので思いが通じてすぐ指輪を渡したし、今自分だけの恋人である事を信じてはいたがどうしても不安になる事はあった。
「あのな。冒険者共と一緒にいたらやれ貧弱だ非力だ言われたあげく、お前に何回抱き上げられてベッドに運ばれてるのかもう分からんのに素直に喜べる訳ないだろ…」
実際の所、天理は言う程貧弱ではない。大体はクールそうに見えていじると面白いと知られた相手にからかわれているだけである。侯輝はもちろん全て牽制している。忙しい。
「ごめんね…もっと自信持っていいと思うよ天理…向き不向きはあるし…そこは素直に喜んでおけばいいんじゃないかなぁ」
侯輝は言いつつも天理の言葉に少しだけほっとしてしまう悪い自分を自覚する。
(悪いけどこれからも運ぼ。)
「まぁそうなんだけどな…」
そして天理は侯輝にしては少し歯切れが悪いと思ったが気を使って言葉を選んでくれているのだろうと解釈して素直に受け取り、そんな天理に侯輝は少し罪悪感を覚えつつ一生護ると再度誓うのだった。

天候も良く、機嫌が戻った天理と侯輝は家具の配置など確認の会話をしながらリアカーは軽快に進む。もうじき新居に着きそうだ。
「かなり早く着けそうだね。天理、魔力の方は大丈夫?」
「ああ、このままなら十分いける。俺は移動で肉体労働しなくてすみそうだ」
「あははじゃあ乗ってて正解だったね。俺も結構楽だったし」
にこりとしながら侯輝が少しだけ振り返ろうとした瞬間、前方を見ていた天理の視界にボールがころころと転がってきた。嫌な予感がした天理は咄嗟に警告の声を上げる。
「前!侯輝!」
とそこに小さな子供がボールを追って走り込んできた。急停止をかけようと侯輝が地にザアア……と軌道を描きながら脚を踏ん張るも間に合わず、子供はそのまま勢い余ってリアカーに思いっきり激突しそうになる。
「シア!」
急停止する荷上でなんとか姿勢低く踏ん張りながら天理はとっさに[[rb:風の精霊 > シア]]を呼び出しエアークッションを子の前につくる。見えない幾重もの空気の層にばふっと阻まれ尻もちをつく子供を見、ほっとした瞬間天理の視界が大きく揺らいだ。手続き大幅省略かつ複雑な命令に依る魔力大量消費。魔力切れだ。
「しまっ…」
天理はなんとか倒れるのを堪えようとするも荷物の上に突っ伏してしまう。
侯輝の握るバーがリアカー本来の重さを伝え、[[rb:大地の精霊 > ガノ]]が消える。そして後ろから聞こえた音から侯輝はすぐに天理の身に何が起きたのかを察し振り返った。
「天理!」
「っ…だい、じょぶ…」
顔色が真っ青になった天理を慌てて横抱きに抱える侯輝に、天理が力なく答える。意識はあるが完全に侯輝に体重を任せた状態でぐったりとしており、声を出す元気もなく気絶寸前であろう事が分かった。
そこで子供の事を一瞬忘れていた事に気づいた侯輝が目を巡らせると、子供は尻もちをついたまま状況が分からずぽかんとした様子でこちらを見ていた。大きな怪我は無さそうな事に安堵する。天理を抱えたまましゃがみ子供に目線をあわせ「ごめんね君、怪我はない?」と尋ねると子供は突然の展開についていけずに、コクリコクリと首肯した。遠くから両親らしき二人が子を呼ぶ声を聞くと、ようやく母父の呼称を叫んで両親らしき人物のところに駆け寄っていった。ほっとしていると腕の中から声が聞こえた。
「おろせ…かた…かし…」
「無理しちゃダメだよ、力抜いていいから俺に掴まってて。今家まで運ぶから」
「りあ、かー…に」
「後で運んでおくから」
「ぅ…」
天理はこんな状態でも[[rb:お姫様抱っこ > この状態]]が恥ずかしく降ろして欲しくて、倒れたらリアカーに乗せて運ぶんじゃなかったのか?と言いたかったが、侯輝の有無を言わせぬ口調に今の気力で反論できないでいた。
天理を抱きかかえたまま、子供と手を繋いで向かってきた親子に挨拶をする。
父親が礼を言いながら頭を下げ、母親が泣く子をあやしつつ、あわあわと感謝の言葉を告げた。一刻も早く天理を休ませたかった侯輝は早々に礼に返し、子供に別れを告げると、天理を抱え新居へと急いだ。
侯輝は護ると誓ったそばから一瞬の油断で天理をこんな状態にしてしまったことを後悔していた。

新居にたどり着くと一旦天理を地に下し天理のポケットから鍵を取り出し開錠する。再び天理を抱え上げて家の中に入ると、ひとまず使わない予定の客間の畳に横たえた。
「すまん…こうき、にもつ…」
「大丈夫。やっておくから休んでて」
力なく話す天理に優しく声を返すと、それでもすまなそうに言葉を返す。
「ちょっと、やすむ…かいふくしたら…おれもやる…」
「ごめんね、そんな気に病まないで天理。元々は俺の不注意なんだから。あの子が無事だったのは天理のおかげ。後は俺の仕事なのは当たり前なんだから。ゆっくり休んで。ね?」
懇願する様に言う侯輝に、天理は手の近くにあった侯輝の手を力無くもきゅっと握り「わかった…おまえも…きにやむな」とだけ言うと気絶する様に眠りについた。
「ありがと…天理」
こんなになってまでまだ自分を気にかけてくれる天理に、侯輝は愛しさが込み上げ、同時に自分の不甲斐なさを感じると、拳をギュッと握った。
侯輝がリアカーの場所に戻ると先ほどの親子が番をしてくれていた。気合でリアカーを引こうとしていたら父親が手伝ってくれ、なんとか昼前には新居に運び入れる事ができた。お互い礼を言い合いその親子と別れる。

侯輝は荷物から寝具一式を一旦天理の部屋に運びこむと毛布と枕だけ引っ張り出して客間で眠る天理の所に戻った。するとまだ顔色は悪いが穏やかに眠る天理とその横で昨日出会ったばかりの黒髪のブラウニーが座って天理の頭を撫でていた。
ブラウニーは侯輝に気がつくとまた「!」となって逃げ出そうとしてしまう。
「お願いまって!」
侯輝が天理を起こさぬよう小声で叫ぶと、消えてしまおうとしていたブラウニーは辛うじて留まった。
「天理を看ていてくれていたの?」
ブラウニーはコクリと縦に頷く。話はできないのかもしれないが言葉は分かる様だ。侯輝は天理を起こさぬよう、ブラウニーを刺激しないよう優しく話す。
「ありがとう。自己紹介がまだだったね。俺は侯輝。眠ってるのがさっきも言ったけど天理、俺の大切な恋人だよ。これからよろしく。しばらく天理の看病頼める?」
侯輝はブラウニーがコクりと首を縦に振るのを確認し一安心した。天理に毛布を被せ、そっと頭を持ち上げると枕をひく。静かに立ち上がり作業に戻る為部屋を出ようとすると、ブラウニーは天理に近づき頭を撫で始めた。その姿に侯輝は最初に存在が消えかかっていたブラウニーに出会った時、天理が撫でていた事を思い出し、天理に懐いて真似をしているのかもしれないと考えた。そのままいても良さそうなので、その場を離れ作業を開始する。
あらかた荷物を運び入れると、天理の回復が夕方頃になると見越して休憩がてら天理の横で静かに昼食をとる。それから解体されていたベッドを組み立ていると目を覚ました天理が毛布と枕を持ち天理の部屋まで移動してきた。
「すまん、心配かけた。さすがに毛布はお前だろ?ありがとな。」
「もう起きたの?まだ寝て無くて大丈夫?」
「ああ。全快には遠いが動ける。少し魔力の回復が早くてな…ひょっとしたら、あいつのおかげかもしれない」
言いながら天理の後方でこっそり覗いているブラウニーを見る。
「天理の看病ありがとね。ブラウニー」
にこりと侯輝が礼を言うとブラウニーは汗々と慌てたようにやはり隠れてしまう。そんなブラウニーと少ししょんぼりとする侯輝を見て天理は苦笑しつつ、組み立てを手伝うべく侯輝の方へ近づいた。
「お前はもう今日挨拶済みなんだな。起きたら横に居たんだがあいつに看病頼んでくれてたのか?」
「うん。俺が頼む前から診てくれてたんだけどね。なんだか天理に懐いちゃったみたい。俺だとまだ逃げ出しそうになるんだけど」
天理はその言葉に小さく驚くと心当たりが無く首を傾げる。
「そうなのか?特に何かしてやったつもりは無いんだがな…」
「安心したんじゃないかな」
だが思い当たる侯輝は作業を続けつつ、どこか懐かしそうな顔をしながら答える。
「え?」
「ここでたった一人で消えかけるくらい弱くなっててさ。不安で一杯だったと思う。そんな時天理が見つけてくれて心配して頭撫でてくれて」
「あー…癖になってたな」
自らの手を見ながら天理は苦笑する。天理は病気で不安そうにしていた子供の頃の侯輝を思い出していた。
「元気づけて貰えてさ。きっとブラウニーも好きになっちゃうよ天理の事」
「ブラウニーも。か?」
侯輝がブラウニーにかつての自分と重ねていたのだろうと思うと天理は愛おしく感じ、思わずクスリと笑う。
「でも天理は俺のだから!撫でるのもホントは俺だけにして欲しいから!」
「ふふっお前とうとう精霊にまで嫉妬始めたのか?子供扱いされるの嫌がってたから俺この癖真剣にやめようかと思ってたのに」
侯輝が拗ねた様に言うと、天理は笑いながらも困った様な表情をする。
「でっかい子供だな。ちゃんとお前が一番だから」
駄々をこね始めた侯輝に天理がよしよしと頭を撫でると、侯輝はその気持ち良さに目を細めつつもそれでも尚我儘を言う。
「へへ。でも子供扱いもヤダ」
「あーもう我が儘放題か。ん」
天理が呆れたような口調で言いながらも侯輝に近づくとキスをする。
「!」
「これで我慢しろ」
そう言い作業に戻る天理を侯輝が驚いて手を止めまじまじと見ると、つっけどんな言葉とは裏腹に恥ずかしそうに頬を染めていた。
「!!今すぐベッド行きたい!」
「そのベッドを今まさに組み立ててんだろが。手止まってんぞ。早くやれ」
天理の態度に一気に盛り上がってしまった侯輝はその感情を包み隠さず叫ぶが、すかさず突っ込みを入れられしょんぼりしそうになるも、小突きながらも満更でも無さそうな天理の様子に今晩をちょっと期待しつつ「はぁい」と返事をし大人しく作業を再開した。

ベットを組み立て終わると思い出した様に空腹を覚えた天理は遅めの昼食をとった。生活に必要なものを優先で粗方配置し終わると、天理の個人研究資料などの開梱は後でも良かったので、先に二人で新しい二人のベッドを買いに行くことにした。

市場に行くと職人によるベッドが並んでいた。活気ある店構えのそこは品揃えも多く種類も多い。
天理は男二人でクイーンサイズを買いに来ていても特に干渉してこない店主、までは平然としてられたがお試しで寝て構わないと促されると「お試し」と小さく復唱すると一瞬固まった。公共で男二人並んで寝転がるは想定していなかったのである。
「天理!このベッド凄い!ほらほら!」
天理が恥ずかしくてまごついている間に手頃で良さそうなベッドを見つけ、何の躊躇もなくベッドに飛び込む侯輝が隣の空いたスペースを早く寝て寝てとバンバン叩いて呼ぶ。
「わかったわかった」
侯輝があまりに楽しそうに勧めてくるので、仕方なくといった風に天理も苦笑しながらベッドに乗ると侯輝のノリに救われながらさっと寝てしまえと寝転がってみる。すると程よい弾力が魔力不足の天理の身に染みた。
「おお…これはなかなか」
「ねっ!いいでしょ!」
起き上がると楽しそうにボンボンと跳ね始めた侯輝に寝転がる天理が揺らされていると、天理はなんだか恥ずかしくなって慌てて止めに入る。
「やーめーろ!はしゃぐな揺らすな」
「へへ~♪天理照れてる~♪」
天理は恥ずかしいのを誤魔化そうと怒鳴るが、それがまた侯輝には楽しくますます調子に乗ってしまう。侯輝は天理に覆いかぶさり膝立ちでバインバイン跳ね始めると天理は少し夜の事を連想してしまった。
「う・る・せぇ」
が、恥ずかしさを通り越してイラっとした天理はお試し枕を侯輝に叩きつけどかし起き上がると「お客さん。仲いいのはほどほどで頼むぜ」と流石に店主の親父に注意された。
「すみませんでした」「こめんなさーい」
「ま、ベッド買ってくれたらいいけどよ。どうする?」
素直に謝る二人に親父は苦笑すると、一応聞いておくとばかりに問いかけた。侯輝と天理は顔を見合わせると会話も無く頷き合った。
「じゃあこれください。 侯輝、高いなら俺が出すから」
「出すよ!これから二人でずっと使うんだから!」
「お、おう…」
天理は侯輝がこれから二人で使うものには自分もお金を出すと言う意味で言っているであろうとは頭で理解はしていたが、二人で使われるベッドの意味に焦点を当ててしまい今度は恥ずかしさを隠す事ができず照れていると、店主の親父は微笑ましいものを見る目で眺めていたのだった。
「お客さん。布団も買ってくんだろ?サービスでYES/NO枕付けようか?」
「な!!!」
「?」
YES/NO枕とは、古代で使われていた枕の一種で片面ごとにYESもしくはNOが書かれており、奥ゆかしい嫁が今夜はOK♡の場合にYESにしておいて意思表示をする。などの使われ方がされていた。両面YESもあるとかどうとか。
サービス精神が旺盛らしい店主の親父は楽しそうにYES/NO枕を主に天理に向かって薦め、天理はその伝説と思われていた寝具が現存していた事と何故親父がその用途を踏まえ的確に主に自分に向けて薦めてくるのか驚愕し、存在を知らなかった侯輝はその単語にぽかんとして復唱した。
「いえすのー枕?」
「兄ちゃんは知らないかい?YES/NO枕ってのはな」
「結構です!!会計してください!」
侯輝へ親切に教えようとする店主の親父の言葉を天理は真っ赤になりながら遮ると支払いを進めた。リアカーに組み立て式のベッドフレームとマットとついでに買った布団も積み込む。
「毎度あり。欲しかったらまたきてくれな」
「天理、いえすのー枕って何?」
「後で教えてやるから!」
にかっと笑い見送る店主の親父を背に店を離れながら、リアカーを引く侯輝が不思議そうに聞くと、天理は顔を赤くして答えつつ早く帰るぞとばかりに早足でリアカーを押した。

リアカーに乗せた寝具を二人で運ぶ。辺りは日が暮れかかっていた。晩御飯は露店で食べ歩きをする。帰りがけに露店で揃いの食器や、掃除の時に庭に出る際、靴の都度着脱が面倒だったので簡単に出られるような揃いのサンダル、後は食材などを買う。こういった物を買いそろえて行くとこれから始まる二人の生活が実感として湧いてきて、侯輝は楽しそうに笑った。そんな終始ご機嫌な侯輝を見ていると天理も嬉しくなってくる。これが幸せかと実感して、天理は頬を緩ませて笑みを浮かべるとそれを見た侯輝が更に嬉しそうに笑うのだった。

帰宅して侯輝が荷解きする間、先に天理が鍵を開け扉を開けるとブラウニーがちょこちょこと寄ってきた。その姿がまた少しはっきりしてきており、天理にはその顔立ちが誰かに似てきたように思えた。
「お、ただいま。留守番ありがとな」
天理がブラウニーの頭を撫でるとまた嬉しそうに揺れた。天理はこうして撫でていると侯輝とはまた違う不思議な感情が沸いてくるのを感じる。それは懐かしさであり愛しさである様に思うのだが、天理にはこの気持ちがなんなのかわからなかった。
「あ!ただいま!ブラウニー!」
荷物を持って入ってきた侯輝がブラウニーを見つけて挨拶すると、ブラウニーはまた「!」となって隠れてしまう。
「わーん。俺とも仲良くしてー」
「お前テンション高いんだよ。びっくりしてるだけだって」
天理は苦笑しながら侯輝も撫でてみる。やはりブラウニーに感じるものとは違うなと首を傾げた。
「そうなのかなぁ。ねぇブラウニー誰かに似てない?」
「お前もそう思うか?もう少しはっきり見えてくれば思い出せるかもな」
二人は早速買ったばかりのサンダルをおろしつつ、庭から直接侯輝の部屋へ購入したベッド一式を運びこむと組み立てる。
「そうだ。ブラウニーに名前つけようよ。なんか呼びづらいしさ。」
「あーうん、そうだな…」
作業を進めながら侯輝がそう提案すると、天理が少し考えこむ様な微妙なそぶりをしたので懸念される事があるのかと確認をする。
「精霊だと何か決まりごとがあるの?」
「いや、あいつとは契約するって訳じゃ無いし、勝手に呼ぶくらいなら好きに付けたらいい。と思う」
じゃあと侯輝がいくつか候補を挙げる。見た目から割りと単純に付けられたがおかしくは無い程度の名前だ。だが天理は何故かどれもしっくり来なかった。
「えーこれもダメぇ?」
「ダメじゃないんだが、うーん、なんか、うーーん」
因みに天理の契約精霊は天理が名付けたものだ。命名規則は結構単純で種族名をもじっていたり、似た性質の神からだったりする。そんな天理だったからそれ程難航するとも思わなかった侯輝は不思議に思った。
「て、待たせといて今更だが俺の意見待たなくていいぞ?」
そして天理もいつもなら既に決めてそうなのに自分を待つ侯輝を不思議に思った。
「だって二人で決めたいじゃん。俺達の家の精霊なんだし」
「あ…そうか、そうだな…」
侯輝の言葉に天理は少しだけモヤが消えた気がした。
お互い考えておくという事で命名は一旦保留になった。

しっかりとした作りのクイーンベッドのフレームが完成し、重量のあるマットを置く。シーツを引いて掛け布団を包みから出そうとしたら侯輝が何かを見つけた。ド派手なピンクとブルーのそれ。
「あ、YESとNOかぁ。天理、YES/NO枕ってこれ?」
「!!!あんのオヤジ!!」
断った筈の枕がそこに。天理の脳内に家具屋の親父の帰り際のにかっと笑う顔が思い起こされる。店主の[[rb:ありがたくない配慮 > サービス]]だった。
「で、これどうやって使うの?」
なぜこの枕の事になると天理は顔を赤くするのだろうと、使用用途の分からない侯輝は天理に枕を渡す。
「だ……から!あーー!」
説明しようと口を開きかけるも恥ずかしさが勝り、ヤケクソ気味に枕をベッドに叩き付けるとベッドに寝転がった。
「これで意味分かるか?」
恥ずかしそうに少し目を細め侯輝を見上げる、天理の頭の後ろにはYESの文字が見えた。そのシチュエーションと文字の意味を侯輝は理解し、思わず生唾を飲み込むと顔を赤くした。
「あ!…うん。えっといいの?今日倒れてたし」
侯輝は昼間の天理の状態を思い出し心配しつつも期待しながらベッドに乗るとソロソロと天理に近づく。
「いいって書いてあるだろ。それに今日俺は肉体的には大して疲れてないんだよ」
ここに来てようやく天理は口で説明した方が余程恥ずかしく無かった事に気づいたがヤケクソを続行した。
尚本日の天理は、午前のリアカー運搬は魔法を使い侯輝に運ばれていた。途中魔力切れで倒れた後、新居まで侯輝が抱いてやはり運ばれ、その後魔力回復の為しばらく睡眠、その間侯輝一人で新居へ荷物搬入。朝イチの荷入れと新ベッド運搬搬入設置くらいしかやってない。ついでに言えば今日の作業に備えて昨晩一回しかやってない。ほぼ侯輝の独壇場だったのである。
「明日は仕事だし朝までとかじゃなきゃ大丈夫だ。て…すまん、お前は今日疲れてるよな。無理にとは…」
ちょっと勢いで誘ってしまった事が段々恥ずかしくなってきた天理は口許を手で隠し目を逸らす。枕は一人一つ。相手にだってNOを言う権利はある。すると侯輝が更に近づいて天理に覆い被さってくると耳元でささやいた。
「天理、俺の枕にはYESしか書いてないから安心して?」
「!!!…そ、うか」
(なんて事を言うんだコイツは)
侯輝は脳内で悪態をつきながらも実際は恥ずかしくて顔は正直に真っ赤になった天理の口元の手をどかすと軽く唇を重ねた。
「…風呂行ってくる。洗浄道具どこ置いた?まだ箱の中か?」
「えへへ。もうお風呂にあるー」
了承の意味を込められた天理の言葉に侯輝は表情を緩めながら天理と共に起き上がる。
「これからは見計らって一緒に入っていい?今度のお風呂広いし」
「ぅ…いい、けど今日は風呂じゃ嫌だぞ?」
ワクワクと提案する侯輝に天理はこれからずっとかと恥ずかしさに一瞬怯むも新品のベッドをチラリと見ながら答えた。
「折角新しいベッド買ったもんね?」
「ったく現地で人が寝てりゃ横でボンボン揺らしやがって」
にこりと笑われ見透かされた事を誤魔化すように天理は家具屋での出来事を思い出し批判する。
「きっと最中の事思い出しちゃってるだろうなって思ったら可愛くて、つい♡」
「っ!確信犯か!」
悪びれもせず顔を緩ませる侯輝にそれも見透かされていた上に意図して揶揄われていた事を知り、天理は悔し紛れに布団に紛れていたもう一つのYES/NO枕を投げつけてやった。

天理が風呂で後孔の洗浄を済ました後、体を洗おうとすると侯輝も風呂に入ってきた。中古の新居の風呂は少し古かったが家族で入ることも想定されており旧家と比べると二人で入ってもそこまで窮屈さを感じない。洗い場も二人並べそうだ。
「天理!洗いっこしたい!」
「頭と背中だけな」
侯輝は鼻唄を歌いながら楽しそうに石鹸を泡立てていく。冒険の先々や詩人の友人から覚えてくるのか色々な国の民謡のような歌を口ずさんでいることが多い。贔屓目かもしれないが天理は侯輝のその伸びやかな歌がそこらの詩人よりも好きなのだった。
「天理の頭のコリほぐしてあげるね♪」
「肩じゃなくて頭?」
「頭皮も凝るんだって。天理コってそうだから念入りにマッサージしてあげようと思って」
「ほー。んじゃ頼む」
侯輝の手は大きく暖かく、指で地肌に触れられると気持ちが良かった。目を瞑り、されるがままにマッサージされながら洗われていく。
「ぁ~……きもちぃ……ん……」
「よかった、もっと力入れてみるね。……どう?」
「んっ……上手いな……ぁ……」
「……天理ってマッサージされてる時、えっちな声になるの知ってる?」
侯輝の手に揉まれ気持ち良さそうに洗われながら艶のある吐息をもらす天理に侯輝は少し顔を緩ませながらマッサージを続ける。
「なっ……!お前の主観だろ!馬鹿言ってないで頭流せ」
「はいはーいっと。もし俺以外にマッサージされる時は気を付けてよね。させたくないけど」
天理が慌てて否定するも侯輝にニヤリと笑われるとそのままお湯をかけられた。背中など一通り洗い終わると交代した。
「久しぶりだなお前洗うの」
「お願いしまーす♪」
天理はその昔泥だらけで遊びに来る小さな侯輝を洗おうとして水浸しにされてからは自分も脱ぐようになったのだった。こんなにでかくなってから洗うことになるとは思わなかったなと少し感慨に耽る。
天理は嬉しそうに洗われる侯輝の頭を丁寧に洗い流すと頭を大型犬の如くブンブンと振り水飛沫を飛ばそうとする癖も健在で、文句を言うのもまた久しぶりなのだった。
続けて背中を泡をつけてタオルで擦ろうとし、ふと天理はたまには悪戯でもしてやろうと思い付く。確か腰が弱かったよなと、先程聴いて覚えたばかりのフレーズを口ずさみながら泡の手でツーと侯輝の腰に指を滑らせてみると侯輝の体がビクっと反応した。
「ちょっ待って!そこは自分でやるから!」
「マッサージの礼だ。遠慮するなー?」
慌てた侯輝に止められたが、天理はここぞとばかりにもう一回滑らせてみると反応する侯輝の体が楽しくて鼻歌を歌いながら繰り返した。
「うひゃ!!もぉっ!遊んでるでしょ!」
「ふふっ可愛いなー俺だってお前の弱い所は大体知ってんだよ。うりゃ」
普段やられっぱなしだからたまには可愛いところもみたい、なんか忘れそうだしまた久しぶりに抱くのもいいか。と呑気に天理が思っていると反転した侯輝が抱きついてきた。自分についた泡で天理の薄く筋肉のついた背中をツツツとなぞるとビクりとしなった。
「っ!!」
「自分の方が弱点多いの忘れちゃダメでしょ?」
侯輝が抱きついたまま天理の耳元で低く呟くとついでに脇下から脇腹にも指を這わせ天理の体を震わせる。
「っっ!悪かった!そんな怒んな!」
天理は耳まで真っ赤にしながら呟かれた耳を押さえて侯輝から慌てて離れた。
「怒ってないよ。むしろ嬉しいくらいだけど。ただ俺も天理の可愛いとこ見たかっただけ」
「俺が可愛いかはともかく、お前はもう散々見てるからいいだろ…」
呆れながら言うと侯輝はニカッと笑って「俺はいくらでも見てたいの!」と力いっぱい主張してきたので「はいはい……」と苦笑しつつ、真面目に洗い流した。

そして互いに残りを洗い終わると二人は向かい合う様に浴槽に浸かる。新居の浴槽は旧家に比べればやはり広かったがそれでも大の男二人で入るには狭いので自然と密着することになる。
「窮屈とは言わんが流石に狭いな」
「天理乗って」
胡座をかいた侯輝の上に天理が乗り横抱きの体勢で抱き合った。抱き合っていると不思議と落ち着いてくる。
「天理とずっとこうしてたいな…ずっと俺の腕の中にいてずっと俺だけ見て欲しい」
「お前…俺に、俺達に、もし子供できたらどうするつもりだったんだ。お前ばっかり見てられないんだぞ」
甘える様に抱きついてくる侯輝に、一瞬自分がナチュラルに生む側で考えてしまっていた事を誤魔化しつつ苦笑しながら天理は問いかける。男同士でありえない仮定話ではあったがこうして甘えてくる恋人が父親になったらどうなるんだろうと興味が沸いたのだった。
侯輝は天理がナチュラルに生む側で考えていた事も愛おしいと思ったが、何より天理が多分無意識だろうが子供が欲しいと思ってくれたんだろうなと思うと嬉しかった。侯輝は抱きしめる腕の力を強めた。
「そしたら一緒に大事に育てるよ。家族は多い方がいいじゃん。まあそれはそれとしてやっぱり寂しいけどさ。それでも俺だけのもので居て?お願い」
「我が儘め。ま…タラレバ話だけどな。わかったよ」
首筋に口づけをしながらやはり甘えるように言う侯輝に、天理は苦笑しながらもどこか嬉しそうに頭をポンポンとしたのだった。
[newpage]
二人は風呂を出るとバスタオルで互いに水気を拭き合う。家が広くなった分風呂から寝室まで少し遠くなったなと思いながら天理が夜着を着ようとしていると侯輝に「持ってて」と侯輝の夜着を渡され、横抱きにされるとそのまま下着のみで寝室まで移動した。侯輝は先ほど組み立てたばかりの真新しいベッドに天理を抱えたまま座り、そのまま膝の上に乗せた。
「あのな、俺を抱っこでベッドに運ぶルールはないからな?」
「だって運びたいんだもん」
ここの所機会さえあればベッドに抱いて運びたがる侯輝に呆れた様に文句を言いつつも満更でもないと思ってしまう辺り少し毒されてきたかなと思っていれば、侯輝は少しだけ下心を秘めつつ開き直ったかの様に反論し口づけをしてくる。
「ん…なんだよお前がルールかよ」
侯輝のまだほんのり湿ったうなじに手を添えながら口づけを返し、反論し返すもその言葉にはどこか甘さが込められていて本気で嫌がっているのではないと分かれば「そうだよー」とまた開き直った様に返してまたキスをした。互いにクスクスと笑い合い軽口を交わしながら徐々に口づけを深いものへと変える。舌を絡め、互いの唾液を交換し、口内を犯し合う様な激しい口づけを繰り返す。
「これお前遠い…」
天理が一旦腰を上げ片脚を股がらせると横抱きの体勢から対面座位に変えた。より深く触れ合ってくれようとする天理に侯輝が嬉しそうに天理の腰を引き寄せて強く抱き締めると互いの中心が下着越しに触れ合いぴくりと反応した。
舌を吸い合い、息を継ぐ合間に相手の名前を呟く。互いに腰や背筋、胸元、脇腹などを遠慮なくまさぐり、手の温もりを感じながら体を震わせると熱のこもった吐息を漏らした。唇が離れる頃には瞳の色は愛情に情欲が深く混ざり合い、お互いの中心が熱を持ち下着の下から主張していた。
天理がベッドの端から中央へと誘い、下着を脱がせ合いながら移動する。侯輝は仰向けに横たわる天理の脚に割り込みながら上から覆い被さり、天理の心臓に強く吸い付くと天理が「ん!」と甘い声を上げる。胸元の飾りを口に含み優しく舐めて転がしながら、もう片方にも手を伸ばし親指で摘んで刺激を与えると天理は「ぁ!……っ……ん!」と小さく声をあげ手を侯輝の頭に添えた。
侯輝は天理が大分積極的に求めてくれる様になったものの、その態度の割になかなか恥じらいは抜けないらしいのに、求めに応じて声をあげてくれる姿がたまらなく愛しかった。その表情をもっと見たくなって、指で弾いたり強く吸い上げたりする度に天理の口から抑えきれない喘ぎが漏れ、頭に添えられた手に力が籠ると全身の感度が上がっていくのが伝わってきた。そんな天理の様子を窺いながら手をゆっくりと下にずらし太腿を開き内股の付け根を引っ掻く様になぞるとビクりと体が跳ねた。中心部では天理自身が存在を主張しており先走りで先端が光っているのが見え、更にその最奥では天理の蕾が物足りなげに収縮を繰り返していた。そっと指を蕾に近づけると蕾には触れずに周りをマッサージする。
「っん…」
天理が切なそうな声を上げ腰を少し揺すり始め強請る様な瞳を侯輝に投げかける。侯輝はそのしぐさから沸きあがる欲情を一旦堪え、更に天理の会陰を刺激し内股を撫で上げて焦らしていると、天理は堪らずに涙目で訴えた。
「お前、も…なん、で」
「いつも俺が勝手に進めてるかもしれないから、天理がどうして欲しいか一度聞きたいなって」
「なっ!」
言いながら再び胸の突起を刺激すると天理はピクリと震え羞恥と快感が混ざり合った複雑な表情のまま睨み付てきた。そんな可愛い顔で睨んでもだーめ♡とばかりににこにこしながら待ちの態勢に入ると、小さく「ぅぅ…」と唸ったのちやっと観念したのか目を反らし消え入りそうな声で「お前の…俺にくれ…」と呟いた。
侯輝はそのあまりの可愛らしさに自身の欲望よりも嗜虐心が勝ってしまい、もう少しだけ虐めてみたくなってしまった。
「間違えちゃうといけないから、もう少し具体的に言える?」
少し起き上がり天理の中心から零れ落ちた前走りをすくい、尾てい骨から秘所だけを避け前へ撫で上げる。天理の中心がヒクリと切なげに揺れた。
「具、体…!もっ……!っ!」
天理はもういいだろまだ言わせる気かと零れそうなほど潤んだ瞳で抗議の声を上げようとするが、恥ずかしさでそれ以上言葉にならないのか口をパクパクとさせた。
「何をどうして欲しいのか聞かせて?」
耳元で甘える様に囁くと中心を押し付けた。
「もっ…クソ…」
天理は欲しくて堪らない侯輝の熱い中心を押し付けられるとゾクゾクと体を震わせる。だがその熱さに、侯輝も我慢してまで言わせようとしていると思うと何やってんだかと呆れると同時に愛おしさが込み上げてくるのだから自分も大概だなと思う。こんな事されたら、どれだけ恥ずかしかろうが言わざるを得ないじゃないかと悪態をついた。
意を決した天理が一度強く目を瞑り涙が零れ落ちると侯輝は少し罪悪感が沸く。天理は顔を真っ赤に染めながら肩に抱きつき見つめると途切れ途切れの震える声で告げた。
「いつもみたいに、お前の…ソレを俺の中に入れて、俺を…愛して…孕ませるくらいお前の子種を沢山くれ」
その言葉を聞き終える寸前、侯輝の堪えていた欲望が一気に吹き荒れる。少し乱暴に天理の腰を掲げると、自身を天理の中に一気に突き入れた。
「かはっ!あぁっ!!」
天理は待ちわびていた刺激が一気に入り込み、息が詰まる。それだけで少し達してしまうと、背中を大きく反らし痙攣した。
侯輝はその様子を見ながらも構わず天理の名を呼びながら、きゅうきゅうと締め付けてくる後孔に激しく注挿を繰り返すと、天理は声にならない悲鳴の様なものを口から漏らす。涙は止めどもなく流れ、身体が跳ね、嵐の様な激しさに必死に耐えようと無意識に背に爪を立てた。侯輝はその痛みすら愛おしく、自分を欲してくれている事に喜びを感じる。
天理は精射する事なく何度も絶頂を迎え、その度に中を締め付けて侯輝の精を求める。そして侯輝の名を呼びながら一際強く締め付け絶頂を迎え体を激しく脈打たせると、侯輝は全部喰らい尽くしたいような強烈な感覚に襲われ獣の様な声で天理の名を呼びながら、孕めとばかりに精を最奥に吐き出した。
天理は注ぎ込まれる熱を感じながら全身を震わせて悦ぶと、残る力で強く侯輝を抱き寄せ、侯輝のそれを一滴でも多く搾り取るかの様に足まで腰に絡め引き寄せた。

ビクビクと震える体が少し落ち着いた頃を見計らい侯輝が天理の中からゆっくりと自身を引き抜いた。天理は抜かれた後もひくつく自分の体と、何より先ほどまでの己の行為に消えてしまいたい程の激しい羞恥心に襲われる。あれでは本当に子供が欲しいみたいではないか。腕で顔を覆う。顔が熱い。荒い息を整えながら目を瞑りぐったりしている間、侯輝が用意していたタオルでそっと身を清めてくれ下着を履かせてくれた。
「大丈夫?天理、お水飲む?」
「ん…ありがとな頼む」
掠れた声で返事を返すと「ちょっと待ってね」とベッドを降りる気配とテーブルの水差しからコップに注いでいる音が聞こえた。天理は不意に頭を撫でる感触があり思わず「えっ」と小さく声を上げる。顔から腕をずらし目を開くと黒髪のブラウニーが横に座り頭を撫でていた。
「ブラウニー?」
天理の小さな声に振り向き、同じく驚く侯輝がブラウニーを驚かさない様、ゆっくりと近づこうとするとブラウニーは慌てて天理との間に入ると通せんぼするように両手を前にぱたぱたと振った。侯輝は戸惑いながらも手に持った水を渡そうと天理に近づこうと回り込んでみたがやはり通せんぼされ困惑する。
「えっ何?何?どうしたのブラウニー」
侯輝はおそらく無理やり通ろうとすれば可能だろうがブラウニーの必死な姿になんとなくそれをできずにいた。何より以前よりはっきり見える様になったその姿の為にできなかった。よく知る顔の面影があったから。
そして天理はこのブラウニーにこの場を見られた事にとてつもない恥ずかしさを感じていた。
ただの精霊であるのに。ただの精霊に情事を見られた所で何とも思った事は無かったのに。なんだろうこの感覚は、と。ふとブラウニーをよく見ると更に以前よりはっきりと姿が見える様になった顔を見て驚いた。
「侯輝?」
ブラウニーは子供の頃の侯輝に似てきている様に思えた。自分が呼ばれたのかと侯輝が返事を返す。
「何?天理」
「いや、お前じゃないこいつがお前の子供の頃そっくりで…」
「え?俺は天理に似てるなって…」
二人は改めてブラウニーをじっと見る。そう言われればブラウニーはどちらにも少しずつ面影を継いでいた。まるで二人の子供の様な。
「あ!!うわあぁぁ…」
天理はそう気づいてこれまでのモヤモヤが点から線として繋がった瞬間、顔を真っ赤にして顔を両手で覆った。ブラウニーに感じた恥ずかしさ、それはまるで子供に情事を見られた親の感覚だったのだ。顔が似ているのは最早答え合わせだった。いつの間にかブラウニーを自分達の子の様に感じていたのだ。何より、自分が侯輝との子供が欲しいと本気で願ってしまっていて、それが通じてしまったようで。そんなことがあるわけが無いと分かっていても。
「天理!大丈夫?!ああごめん、どいてブラウニー!」
急に小さく叫びつつ真っ赤になって頭を抱えだした天理に驚き、天理に駆けつけたい一心でやむ得ずブラウニーをどかそうとする。「!」となり逃げ出しそうになるブラウニーだがふるふると首を振りながら目を閉じて尚動かない。
「待て侯輝、俺は大丈夫だから」
これはきっと自分が説得しないとならないのだろうと天理はまだ少し震える体を起こし「おまえも、大丈夫だから。話を聞いてくれるか?」と固まるブラウニーを撫でた。ブラウニーは振り返ると天理に近づいてぺたんと座った。
「ブラウニー、確認だが、おまえいつからこの部屋に居た?もしくは見てたか。ええと、俺がこのベッドでさっきみたいにぐったりした後か?侯輝が俺を運んでこの部屋に入って来た頃か?」
ブラウニーを不安にさせない様、できるだけやさしく問いかける。精霊には時間感覚が無いものが多い。天理は話が通じるか不安だった。横抱きで移動した為、どうせ二人だけだと部屋の扉は開いていた。
ブラウニーは最初の問いには首を橫に振り、後の問いには縦に振った。
「やっぱ見てたかぁぁ…全部…ぅわぁ…」
「天理、ブラウニーに見られて恥ずかしかったの?」
侯輝はまた頭を抱える天理が先程真っ赤になった理由を推測する。だが精霊に見られても平気と割り切っていると思っていたのだった。
「…ぅぅ、その…俺コイツがもう自分の子供みたいな感覚になってて、最中子供に見られた親の様な感覚になってて今目茶苦茶恥ずかしいんだよ…」
天理が恥ずかしそうにしながら、生んでないのに。てか俺生めないのに、とブツブツ言いつつ悩み始めたのを見て侯輝は漸く得心したのだった。
天理は以前、他研の教授が酔っぱらて話していた話を思い出した。最中を子供に見られて嫁は恥ずかしがるわ子供はパニック起こすわフォローが大変だったという話だ。この場合俺が嫁か?確かに恥ずかしいもんだと頭を抱える。
「わぁ…俺達の子かぁ~似てるもんねぇブラウニー。えへへ」
「和んでんじゃねぇ」
天理が一人苦悩する中、侯輝は照れ照れニコニコとし始めたのですかさず顔を上げツッコミを入れた。
ブラウニーが愛し合う二人にそっくりな外見になる事など、精霊使いの天理にすら聞いたことが無い話で、イレギュラーだらけのこの状況に天理は困惑していた。
「だって可愛いんだもん。それにブラウニーが俺達にそっくりなのは、きっと天理が子供を欲しいって思ってくれたからだよね?ね?」
「そ、んな訳ないだろ。俺達男同士だし考えもした事…」
交わりの前にポロっと自分から漏らしたタラレバ話も相まってすっかり自分でも無意識な本音を見透かされてしまった様だったが、恥ずかしさで肯定できない天理に侯輝はにやにや笑う。
「え~だってさっき孕ませくれって。俺が出した時俺の腰脚でぎゅーって」
「あ!あれはっ例えで…あれは……」
「俺も欲しいなって思ったから同じ気持ちだったら嬉しいよ、天理」
アワアワと顔を赤らめながらそれ以上誤魔化しきれなくなった天理に侯輝は優しく微笑む。
「ん…」
認めるように小さく頷く天理に侯輝が抱きしめたいと近づこうとするも、だがやはりブラウニーに阻まれてしまいしょんぼりする。
「で、何で俺通せんぼされてるのかなぁ?俺お父さんだよね?」
「ナチュラルにお父さんポジションつきやがって…」
やっぱり俺がお母さんポジションなのかよと思いつつ天理はブラウニーに確認する。
「お前さっき俺がぐったりする前、俺が侯輝にいじめられてるように見えたのか?」
こくりと頷ずくブラウニーに「えええ!なんでぇ?」と侯輝は泣きそうな声をあげる。天理は夫婦の情事を子供に見られた教授の話からブラウニーが感じたであろう気持ちを推察し確認したのだった。
「子供にはそう見えるんだとよ。父が母を泣かすわ悲鳴上げされるわ最後にはぐったりしてたらセックス知らなきゃそう思うんだろ。で、コイツはぐったりしてた俺を慰めに来て、いじめたと思ったお前から健気に俺を守ろうとした訳だ」
天理は最中に凄い声で吠えてた侯輝を思い出すと、気の弱そうなこのブラウニーにはさぞ怖く映ったのだろうと、よしよしとブラウニーを撫でると少し嬉しそうにしていた。
「そんなぁ…俺達愛し合ってただけなんだよー」
「お前今回無理やり恥ずかしい言葉吐かせようとして俺泣かしたのは事実だろうが」
「ごめんね可愛くて♡悲鳴上げさせた部分はいいの?」
ジト目で抗議する天理に侯輝は懲りずに照れっとしつつ、ちょっと激しくやった事を思い出し問う。
「そこは…俺がやれっつった様なもんだから合意でいいだろ…」
「天理…♡って通してー!俺そろそろ天理不足で死にそう」
そもそもそう言わせたのは自分だったはずなのだが、天理がそう求めてくれていた事が嬉しくて天理を抱き締めようとしたらやはりブラウニーに阻まれる。
天理は確かにそろそろなんとかしないと侯輝はブラウニーに襲いかねんな…と思うのは建前で本音は自分もぼちぼち侯輝に触れたいのだった。自分には一生関係ない事だと聞き流さずにどう子供にフォローしたのかあの教授に聞いておけば良かったと思うが後の祭りで、今はブラウニーをどう説得したものかは自分で考えなければならない。もうあるがままを伝えて分かってもらうしかないと、もう一度ブラウニーに向き直ると語りかけた。
「あのな、侯輝は俺をいじめてた訳じゃない。…えーっと」
だがしかし、まだ結婚も、無いと諦めていた子供もすっとばして、子供にセックス見られた親の悩み持つことになるなど誰が想像できよう。探り探り天理は話を進めると、とりあえずブラウニーはちょっと首を傾げた後コクりと頷いてくれた事にひとまず安堵する。
「頑張ってー天理」
侯輝が両こぶしを固め小さく応援してくれていた。誤解さえ解ければ、時間をかければ侯輝ならきっと受け入れてくれるはずだ。だがまず侯輝が怖がられている今、自分がブラウニーを説得するしかない。天理はもう子だと思ってしまったブラウニーを邪険に扱う事もしたくなかった。ブラウニーを撫でて言葉を紡ぐ。
「侯輝が言う通り、愛し合ってたいたんだ、分かるか?こうして撫でていると心が温かくなるだろ?俺も侯輝にそうされたり抱きしめ合ったりすると、嬉しいし、幸せな気分になるんだ。時には…泣いて叫びたくなるくらい。侯輝は俺の大好きな恋人なんだ。沢山そういう事をしたい、触れたいし、俺に触れて欲しい。侯輝に俺を触れさせてくれないか?」
心の内を話す事に恥ずかしさを覚えたが緊張しながらも真剣に話すとブラウニーは撫でられる事に嬉しそうにしたり、やはり首を傾げたりしていたが『侯輝が大好きな恋人』辺りで「!」となるとコクりと頷いた。更に前進した様子に天理は安堵した。
「天理……」
侯輝はブラウニーへの説得を通じて普段なかなか言葉にできない天理の赤裸々な自分への想いを知り胸がいっぱいになると同時に、ブラウニーの反応から天理が"自分の恋人は侯輝である"という類いのアピールを自分程宣伝して回らなくても普段からもうちょっと他人にして欲しいなぁと思うのだった。
天理は体の震えもおさまったのでベッドを這いゆっくりと侯輝に近づくと、ブラウニーは少しだけ心配そうな様子だったが止められる事は無かった。侯輝をベッド上に引き寄せハグをすると「天理」とギュっと抱き締め返される。たかだか数分振りのハグがなんだか久しぶりに感じて天理は頬を緩めた。
「ブラウニー、俺は絶対に天理を傷つけないし護るから。信じて」
幸せそうな天理を抱きしめながら侯輝はブラウニーを見つめ告げると、ブラウニーはしばらく天理と侯輝を見つめた後こくりとと納得した様に小さく微笑んだ。
「俺は信じてるよ。ま、ケンカくらいはするかもな」
「もー締まらないでしょー」
「でも大好きだよ、侯輝」
愛おしそうな目で侯輝の瞳を見つめて言うと「おれも大好き天理」と侯輝はまた抱き締めた。
するとブラウニーが立ち上がり近づいて来て侯輝の頭に手を伸ばし撫でる。
「やったー!ありがと!ブラウニー!!!」
侯輝がぱぁぁっと笑顔になると、ブラウニーの頭を撫で返…した瞬間に逃げていった。
「仲良くなれたと思ったのに…」
撫でた手を宙にさ迷わせながら一転しょんぼりする侯輝に天理は苦笑する。
「だからお前テンション高いんだって。誤解は解けたし慣れればお前なら大丈夫だろ。まー全お父さんの共通の悩みなんじゃないのか?これからお前留守も多いだろうし」
「寂しい思いさせちゃってごめんね」
「…別に大丈夫だってお互いそうなんだから」
侯輝がベッドに腰掛けて謝ると、天理は顔を赤くして照れながらもそう返すと、隣に座る侯輝に寄り添った。
「ねぇ、ブラウニーってその為にああなったのかな?」
「え…うちで一人お前待つ俺の為にか?まさか。」
「だって俺は天理を護ってくれる何かが欲しかったし、天理も子供を望んでくれたし?」
「ぅ…ん。それはそうかもだが…」
ポジティブに解釈する侯輝に、天理は嬉しい半分、困惑半分で頷いた。何の偶然か分からないがこちらの思惑で勝手に存在を歪めてしまっていないか気になったからだ。
「やっぱり名前ちゃんとつけようよ!どんな存在か分からないけど俺達の子としてさ!」
「お前はそこら辺もっと怪しい存在じゃないのかとか疑わないんだな」
侯輝が楽しそうに提案すると天理は少し眩しそうに侯輝を見て微笑した。
「最初に疑ってなかったの天理でしょ?ちょっと嫉妬しちゃうけど」
「ぅ、まぁそうだったか…名前な、俺達の子としての」
ブラウニーに対するモヤモヤが晴れた今ならちゃんと名付けられそうだと天理は侯輝に導かれる様に前向きに考え始めた。

相談して二人の名の下の字から一文字ずつ取って字を変え[[rb:希守 > きり]]と名付ける事にした。
天理が廊下に向かって呼ぶと再びブラウニーは現れた。希守と呼ぶ事を伝えると目をパチパチさせたあと少し微笑んで首を縦に何度か振り承諾した様子だ。ついでに二人で裸で仲良くしてる時はちょっと近づくのを遠慮して欲しいと伝えた。コクりと頷いてまた消えた。
希守がブラウニーとしてなぜ異例とも言える存在になったのか、天理のレアスキルが影響したとか、二人の願いを聞いてくれたとか、謎のままだったが、ともかく見守ろうという事になった。

「ね、天理、天理も家空ける事だって多いんだし、希守一人で寂しいだろうからもう一人くらい居てもいいんじゃない?」
「ふはっ、お前もう父親気分かよ。お前はまだ若いんだしもうちょい二人きりでいたいとか無いのか?それにポンポンできるもんでも無いだろ多分」
言いながら侯輝が天理の後ろから抱き締めると、天理は笑いながら回された腕に満更でもなさそうに手を添えた。
「楽しいし、沢山いても俺は天理とイチャイチャするから。俺のだし」
「これじゃ父親というより子供増えただけじゃないか?」
侯輝が後ろから顔を擦り寄せると天理はクスクスと笑う。
「えー?ダメかなぁ」
「駄目じゃない。ありがとな。侯輝。お前で良かった。で?二人目作りに挑戦するのか?今度は泣かすのはなしにしてくれ」
イチャイチャと擦り寄る侯輝に天理は応えるように頭を少し倒して侯輝の顔に擦り寄った。
「今度は沢山甘えさせてトロトロにしてあげるね」
「それはそれで泣きそうだからほどほどで頼む」
珍しく甘えるような仕草をする天理に侯輝は嬉しそうに後ろから口付けると、天理は恥ずかしそうに身を捩ったが、そのまま受け入れるように体を預け口付けに応えるのだった。

ベッドにゆっくり倒れお互いの愛を確かめ合うようにもう一度堪能して果てると天理は眠りにつく。魔力枯れ気味の体に新しいベッドは居心地良さそうだ。
「おやすみ天理」
身を清めキスをして天理を抱き締めると侯輝も眠りにつく。こうして二人とその子供らしきものの家の生活1日目は終わった。

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