6.闇の星もまた光る

novelnovel

侯輝と天理が初めて体を交え、婚約指輪を交換して一月。周囲に冷やかされながも二人はこれまで通りの生活をしつつ交際を深めていった。
「それじゃあ先輩お疲れ様でした!」
「ああ、今日はありがとう。助かったよ速水、育海」
「天理、またね」
侯輝が依頼を受けた冒険から帰還し冒険者ギルドに入ろうとすると聞き覚えのある声が聞こえてきた。愛する天理と挨拶を交わす他の冒険者の声。その内一つはあまり聞きたくない声…天理の元彼女の速水だった。だが侯輝はできるだけ嫌な感情を表に出さない様にしながらギルドの中に入る。
「やっぱり天理だ!ただいま!あれ…?どこか行ってたの?」
侯輝にとって幸い速水は既に奥の宿屋辺りに引っ込んだのか姿が無かったので、数日振りに再会した恋人の姿に侯輝は純粋な笑顔で喜ぶも、天理が普段着ではなく冒険装束である事に気づくと心の中に暗澹とした気持ちが満たし始める。
(天理、まさか速水と探索行ってたんじゃ?!)
学者である天理は単独では冒険に行くことが難しい為、護衛を雇うなどして誰かと行かなければならない。できるだけ都合を付けて天理の探索について行く様にしていたが、都合のつかない時は天理は他の冒険者と探索に行っていた。今までも自分以外の誰かと…というだけでもモヤモヤとした感情が心を満たしていたが、よりにもよって天理が元カノの速水と行ったのであれば侯輝は平静としてはいられないのであった。
「おかえり。ああ、急ぎで遺跡調査の用があって遺跡探索にな。お前が丁度居なかったから速水と育海に頼んで行ってきた所だ」
「へぇ…そうなんだ!今日は天理の家に行っていいかな?!」
数日振りの再会に、見た目分かりにくいが喜ぶ天理に対し、侯輝は心の中では暗い気持ちに満たされていた。
「ああ一緒に帰るか。今日は疲れたよ」
天理は疲れた様子がありながらも嬉しそうに微笑んだ。

ギルドを出て天理の家へと共に歩く。歩きながら天理が今回の遺跡探索について楽しそうにあれこれと話した。だが侯輝は表面上普通にしていたが素っ気ない返事しか返せなかった。数日振りに会えた恋人との逢瀬であればいつも人目を憚らずべたついて鬱陶しがられるほど話しかけるのに、これ程までに心晴れやかになれない事ははじめてで、心の中で渦巻く嫉妬を持て余していた。
(何、自分を振った女と遺跡探索行ってんの天理)

侯輝は忘れもしない、まだ子供だった八年前の事を思い出していた。それは雨の時期から太陽の時期へと移る頃。故郷の街に疫病が発生し避難する為、侯輝は大学に通う為に都に上京していた天理の家で居候していた。ある日、天理は一見普通にしていたが酷く元気が無さそうに見えた侯輝は天理にしつこく纏わりついて理由を聞き出した。
『あのな…俺、振られたわ。私だけを見てくれない人とはお付き合いできません、だってさ。そんなつもり無かったんだけどなぁ。ダメかなぁ俺』と言って力無く笑っていた。
まだ子供でどう元気付けていいか分からなかった侯輝はとにかく天理の周りで騒ぎを起こして構わせた。少しずつ元気を取り戻した天理は「ありがとな」と言って侯輝の頭を撫でた。侯輝は子供扱いされた事は悔しかったが天理の笑顔を取り戻せたからそれで良かった。早く大人になりたいと思った。ずっと天理の笑顔を護れるように。その時はそれが恋愛感情になると分からなかったけれど。

「どうした?疲れてるのか?」
侯輝が昔の事を思い出していると天理が心配そうに覗き込んでいた。
「ううん、大丈夫だよ。さっ早く帰ろ」
侯輝が天理の手を取り足早に歩き始めると、天理は慌てた様子でついていった。その間も言葉なく天理は不安を隠せなかった。

天理の家に辿り着き部屋に入ると侯輝は沈黙を止め静かに天理を責め始めた。
「ねぇ。天理の探索、俺が帰るのは待てなかったの?」
「急ぎだって言ったろ。今までだってお前が居ない時はそうしてたんだし」
天理は荷を置き冒険用の装備を外しつつ、いつもの侯輝とは違う様子に戸惑いながらも努めて冷静に答えた。だが侯輝にはそれが気に食わなかった。
「今までって今は違うじゃん!俺と天理は婚約者なんだよね?!」
「そうだけど、だから何だよ…」
怒る理由が分からない天理は少し苛立ち始め、そんな天理に侯輝も苛立ちが募り始めた。
「俺達付き合ってるんだよ?!もうちょっと俺の事考えてくれても良くない?!」
「考えてるだろ。仕事なんだぞ、子供じゃあるまいし、いつでも一緒な訳じゃないだろ」
熱く訴える侯輝に対し、少しずつ冷たくなっていく天理の瞳。そんな天理に侯輝は更に苛立った。
「分かってない!俺はさ、もっと天理と話したいし、一緒に居たいし、天理が喜ぶ事なら何でもしたいの!!」
(ガキでも構うもんか、ずっと一緒って言ったじゃん!俺ばっかり好きなんじゃないかって不安になるし、寂しいんだよ!カッコ悪くて言えないけど!)
「…わかった…悪かったよ。これからはもっと話すようにするから」
天理は侯輝の子供の様な主張が愛情の裏返しである事までは分かったので一旦場を治めようと謝ったが、侯輝には逆効果だった。
(絶対分かって無いでしょ!俺以外のやつと、よりにもよって速水なんかと行かないでよ!)
「ねぇ天理、あいつ…速水と、よりを戻したいの?あいつと一緒の探索楽しかった?」
「は?速水もう恋人いるだろ。探索には他の奴だっていたし、一緒に行っただけで何でそうなるんだよ。」
天理は侯輝の思わぬ発言に苛立ちつつも少し呆れた顔をする。侯輝はそんな天理の様子に心の中の暗い感情を抑える事ができなくなっていった。
「自分を振った女と一緒に行くなんて、また恋人同士になりたいとしか思えないよ。何?俺に抱かれてばかりいるから、男としてまた女抱きたくなった?」
「何言ってんだお前…」
天理は低く静かにそう言うと睨みつけた。天理は普段どんな気持ちで自分が抱かれているのか分かって貰えていない事に腹が立ち、無意識にカリカリと侯輝から贈られた左手の指輪をかく。だが侯輝の勢いは止まらず、心に悪い妄想ばかりが浮かび、想いをそのまま天理に叩きつける。
「俺は嫌だよ。ずっと俺にだけ抱かれてればいいのに」
「は?ふざけるな…」
天理は苛立ちそう返しながらも、侯輝の表情に焦燥感を感じ困惑した。こんな余裕のない侯輝は初めてだったからだ。
「俺、本気だから。天理の事本気で好きなんだよ。愛してる。誰にも渡したくない」
「お前、少し、落ち着け…」
平時とは異なる侯輝の様子に天理は落ち着かせる為触れようとして手を伸ばした。だが侯輝はそのまま自身も天理に近づいて胸ぐらを掴むと、踏み込んで足をかけバランスを崩し、決して軽い訳ではない天理を抱き上げ強引にベッドに放り投げた。
「うわ!」
天理は突然の事に反応できず投げ出された。そしてその上に侯輝が覆い被さる。
「痛ってぇな!いい加減にしろ!」
「嫌だ。絶対逃さない。お前は俺のだ。俺だけのだ。その体に教えてあげるよ」
常に無い瞳で天理を見据える侯輝。いつもキラキラと輝く瞳は光を吸い込むかと思う程真っ黒に落ち込んでいた。天理がその瞳に意識も吸い込まれたかの様に竦んで見つめている間に侯輝は天理をマウントしながら天理のベルトを抜き取ると天理ははっとしたように抵抗を始めた。
「退け!やめろって!」
「なんで抵抗するの?!うるさいな黙ってよ!」
侯輝の異変に困惑しながら闇雲に抵抗する天理。だが体力、体術共に劣る天理になす術もなく、侯輝は天理の足の間に割り込むと、噛みつくように天理にキスをする。
「んぐっ、むぅー!!︎ぅぅ…っ………ガリっ」「っつ!」
天理は差し入れてきた侯輝の舌をそれでも戸惑いながら噛むと睨み付けた。互いの口許にうっすらと血が滲む。天理はいくら幾度体を交え将来を誓った愛する相手でもこんな誤解された状態で抱かれるのは嫌だった。
「ふざ、けんな…話を聞け。侯輝」
「やっと名前呼んでくれたね。嬉しいな」
そう言いながら嬉しそうに微笑む侯輝。だがその瞳はまだ深く暗いまま言葉を続ける
「聞かないよ。天理はいつも天の邪鬼で言葉と違うじゃん。だから体に誰の物か直接聞くよ」
体力勝負は無理、言葉も通じないのならと天理は最終手段の精霊魔法を行使しようと決意を固め集中を始める。だが侯輝はそれを察し素早く手を天理の目にかざした。
「大人しくして」
「ぁ…」
侯輝は普段は天理の前では使用しない闇の精霊魔法を用い天理を昏倒させると両手をベルトで拘束した。拘束したところで天理がやろうと思えば無詠唱・無動作でも精霊魔法を行使可能な事を侯輝は知っていたが、現時点でそれをしなかった事に天理に別の理由がある事を察し念の為拘束を施した。
「ぅ…」
「もう起きちゃった、やっぱり天理には効きにくいね。甘いなあダメだよ天理、本気で抵抗したいなら遠慮なくやらないと俺には勝てないよ?」
「…闇の精霊魔法ちゃんと使えたんだなお前」
天理はまだ少し朦朧とし、拘束された事を確認しながらも歓心した様に呟いた。闇の精霊適性がある事自体は天理も知っていたが、侯輝は天理が自分に対し光の様にキラキラとしたかっこいいイメージでいて欲しかった為に天理の前では使わないと決めていた術だった。そんな決め事も天理を失いたくないという衝動の前には塵芥に等しくなっていた。ただ一般的に闇の魔法は良いイメージが無く見ただけで嫌悪する者も多い中、天理が全くそうしたそぶりを見せない事に侯輝の心の奥底がほんの少し軽くなった気がした。
「ま、ぁね。ねぇ天理なら詠唱なしでどうにかできたでしょ?何?今日疲れてたの?速水との楽しい冒険で」
「……まだ、それ言うのか」
天理は再びムッとして侯輝を睨んだ。
「ねえどうだったの?俺がいなくても楽しかった?ねぇ速水に見せつけてやりたいよ、天理がこんなカラダだって」
侯輝は天理のシャツをブチッブチッと無理やり開けると胸の突起に吸い付いた。
「っ!…んっ!」
天理は顔を背け歯を食い縛り声を耐えるがどうしても体は反応してしまった。侯輝の舌は執拗に乳首を舐め回す。
「ここ、凄く感じるようになったよね。ね、声は我慢しないでって言ったのに、また我慢してるの?体はビクビクしてるから感じてるのは分かるよ。ねぇいつものエロい声聞かせてよ」
天理はひたすら耐える。もう魔法の為の集中など不可能に近かった。天理は確かに遺跡探索はいつもより疲れていた。供に居たのが侯輝ではなかったからだ。普段どれだけ助けてもらっていたか反省していた位だった。だからといって詠唱無し発動もできない事は無かった。だがコントロールが効きにくく侯輝を取り返しがつかないくらい傷つけてしまう可能性があり、天理にはそれはできなかった。
数日ぶりの恋人との甘い逢瀬だったはずなのになんだってこんな状態に…と天理の中に少しずつ悲しみとそして恐怖が広がる。
「っも、マジでやめろ!!」
「嫌だよ。止めない」
言いながら天理のズボンをパンツごと引き抜き、天理の中心に触れると、何度かの交わりで覚えた弱い箇所を強く刺激し始めた。
「ぁっ!くぅ……ぅ、やめっ……」
天理はいつもの太陽の様に明るく、自分を助けてくれる侯輝を思い出すと心の中に恐怖とそして悲しみが満ちるのを感じた。
「やめない。ほら、気持ちいいでしょ?天理は俺でよがるしかないよ。もう女なんて抱けない。天理は俺のものだ。誰にも渡さない!」
侯輝は天理の前走りをすくい取り、後肛に指を差し入れた。天理は少し震え始めた拘束された手と体で必死に抵抗する。
「いっ!やめろ!準備してない!」
「久しぶりに俺に会うのに準備してないの?」
少し考えれば今日天理に準備してる時間など無い事などすぐに分かる事だが、侯輝にはそんな余裕すら無く心の中に吹き荒れる真っ黒な嵐に飲み込まれていた。侯輝はおざなりに天理の後孔を解すと、天理の拒絶を一切意に介さず腰を掲げ強引に中へ貫いた。
「ぃーーーーっ!!!」
いつもなら焦がれた様に感じる感覚は無く、ただ強張り痛む天理の体。真っ黒な瞳で見つめる侯輝の視線に天理の心はもう嫌だ!!と悲鳴をあげていた。
「……泣いてるの?」
侯輝は天理の瞳に快楽でも痛みとも違う涙に気づくと、心の真っ暗な嵐がピタリと収まっていた。候輝の瞳から暗がりが薄れる。
「泣いてねぇよ」
天理はこんな馬鹿の為に泣き落としなんてできるかと気丈に振る舞おうとするも声が、体が震えるのを抑えられなかった。
「ごめ…ごめん。泣かせるつもりは」
侯輝は顔を真っ青にして謝罪する。
(あれ?俺何してんの?天理泣いてる。震えてる。ずっと守りたかった、一生守るって誓った大事な)
「出てけ」
「あ…」
「いいから今すぐ出てけ!!二度とツラ見せんな!!」
食い縛る様に叫ぶ天理の瞳から涙が溢れ落ちた。
侯輝の心は一気に奈落の底に叩きつけられた。天理の体を解放すると逃げるように天理の家を後にした。

novelnovel