7.心に欲しいもの
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」(嬉しい…こんな幸せな気分もあるんだ…!)
「はぁっ…ふぅ…大丈夫か?辛くないか?」
直後の震えが治まるのをのを待ちゆっくりと天理が中から引き抜く。侯輝がまだ荒い呼吸を繰り返していると天理が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「うん……平気…凄かったぁ……」
「良かった。ありがとうな侯輝」
天理の幸せそうな笑顔で髪を撫でられると侯輝はまた顔を赤らめた。
「えへへ、うん。俺こそ、ありがと♡」
天理はその幸せそうな姿が可愛くて思わずキスをする。少し余裕が戻ってくると、侯輝に集中するあまりすっかり忘れていた当初危惧していた前だけで達せられた事にも安堵しほっとため息をついていた。少しだけ後ろが疼いていたが侯輝の笑顔に比べれば些細な問題だと思いつつ無意識に少しだけもぞりとしてしまうと、侯輝はそのため息と天理の微細な動きを敏感に察知する。
「どうしたの天理?」
「ん、何だ?」
平静を装いつつも内心焦る天理を侯輝は見つめた。
「何か隠してるでしょ?」
「別に、大した事は無いぞ」
目が泳ぐ天理に侯輝は確信する。
(ここで何も無いって嘘言いきれない辺りが天理だよね。まだ足りないのかな?遠慮無く来てくれていいのに)
「大した事じゃないならあるんだ?ねぇ教えてよ」
「っ…」
ぎゅうと抱きつきながら甘えるように言うと天理は自分の性分を恨やみながら無言で目を逸らした。
「言ってくれないの?じゃあ体に聞いちゃえー」
「なんでだっ!言う!言うから待て!」
言いながら天理の中心を握ろうとする侯輝に焦ったように制止すると侯輝は「えーもう言っちゃうんだ」としぶしぶ手を止めた。
「がっかりすんな。目的変わってんぞ、はーー。…だから、その、後ろが、物足りないと言うか」
天理はまた侯輝を不安にさせるよりはと赤くなりながら恥ずかしさを押し殺し、もぞりと動きながら、ぼそっと呟いた。侯輝は理解した。
(先日前だけでやった時も後ろ辛そうにしてたもんね)
「ね、今からでも天理抱こっか?」
「だめだ」
天理は真剣な顔に戻るとピシャリと言い放った。
「どうして?天理辛いんでしょ?一緒に気持ちよくなりたいよ」
せめて手でと、なんとか届きそうかと天理の後ろへ伸ばそうとした侯輝の手を天理は掴むとそれを拒んだ。
「駄目、だ。そっちやったらお前をちゃんと抱いてやれなくなる気がすんだよ」
「でも!」
なんとかしたいと必死な侯輝にそれでも天理は穏やかにだが少しだけ言いにくそうに話し始めた。
「最近な、それこそ…お前に抱かれてばかりで前だけだと後ろが物足りなくなる様になってたのは事実だよ」
(ひょっとして俺のせい?!)
”抱かれてばかり”やそれらの事実は先日天理を傷つけてしまった言葉だった事を侯輝は思い出した。天理が今我慢して意地になって拒んでしまっているのは自分のせいなのではないのかと。
「ご、ごめん!天理、やっぱりまだ怒ってる?」
「いや、それはもう許すって言ったろ。まぁ事実だったし。俺がお前に甘えてお前を抱きたいって言った事も無かったのは確かだったなって。あー…笑うなよ?その、自信無かったから直前に試したんだよ、前だけでイケるか」
「え、やってたの!?︎大丈夫だった?」
「お前思い出したら勃ったけど、なかなかな…胸弄ってギリギリなんとか。後ろ疼いて堪らないし、お前ちゃんと抱いてやれるか不安だった」
(天理本当は余裕全然なかったんだ…)
「ごめんね天理、俺一人不安みたいな事言って」
「お前の不安に比べたら些細な話だよ。でも実際お前を抱いてみたら違った。いや正確にはお前にさっき目を覚まさせて貰ってからだな」
「俺、何かできてたのかな?」
「お前泣いてただろ」
「えっあれ?!うわぁ恥ずかしいな」
「あん時まで俺はお前をただ気持ちよくしてやりたいばっかり考えてたんだよ。でもお前が欲しがってたのはそうじゃないんだろ?」
「えっ、はじめてだし、そりゃ気持ちいい方がいいけど…うん、俺が天理にして欲しかったのは、愛されてる事とか、大事に思ってくれることとか、そういう感じの事なんだと思う。」
俺だけ見て独り占めして欲しかった。泣いた時の事を思い出したらやっぱり恥ずかしくて顔が赤くなってしまった。
「そうだな、俺もお前に抱かれた時は嬉しくて、幸せで、満たされて、ああこれが好きな人とする幸せなんだなって思ったんだ。だから今度は俺がしてやりたかったんだが、焦ってたな。それでお前泣かせたようなもんだ。ごめんな」
言いながら侯輝の頬を撫でた。
「うぅん、元はと言えば悪いのは俺の方だよ……」
「でも仕切り直してお前を求め、求められてるって思う様になったらもうただお前の事しか考えてなかった。それだけでイケたんだよ」
不思議なもんだよなぁとそう苦笑し言いながら、愛おしそうに侯輝を見つめる天理に更に顔を赤くする。
「あ、ありがとう。嬉しいな」
侯輝は天理と通じ合えて求められている事を実感すると心が震えて思わず涙ぐむと、よしよしと天理が撫でた。
「俺の方こそ気づかせてくれてありがとうな。…侯輝、今日の俺はお前の男でいたいんだ。意地を通させてくれ」
「天理……。分かった。今日は天理に愛して貰うね。あ、でも本当に大丈夫?」
「お前のおかげでイケてはいるし、耐えられない程じゃない。お前程にはいかんかもしれんが今日は、お前が俺の。だ」
「あ、いいな。天理の気持ちちょっと分かった」
熱い視線で俺のものだと言われると照れて赤くなる侯輝に天理はクスリと笑う。
「なんだよこれもお前が言ったやつだろ」
「そうなんだけどね。でも天理が言うとかっこいいなーって悔しいなぁ」
「何言ってるんだよ。お前の方がかっこいいぞ?今日だって結局お前に助けられてるし。俺を最初に抱いてくれた時はお前かっこうよろしくできてただろ」
必死な姿は可愛かったなと思っていたが天理は今は秘め置く事にした。
「俺最初のかっこよかった?やった。やっと聞けたー♪天理のもホント怖くなかったし良かったよ。それにガキの頃思い出して凄い安心できたし」
「ガキの頃って。俺どんなプレイしてたんだよ…」
「そうだ!天理って子供が好きなしょうねん愛?とかなの?」
「ちょっと待て何言い出すんだお前。いくら年差があったってお前もう少年て年じゃないぞ」
少し幼さを残した曇り無き眼で問われ困惑する天理。だがその躰は自分よりはるかに雄っぱいも逞しく育ち少年とは程遠い物だ。天理は己が童顔の巨乳派だったのかと一人混迷を深めた。
「速水がさ、天理が昔、ガキの俺を見る目が違うって言ってたから」
侯輝はかなり説明を要約していた。
「あいつお前に何言った?!…お前でそういう意識しだしたのお前が俺の背抜き始めてからだよ」
天理は侯輝がもう速水の名を出しても平気なくらいには吹っ切れたかと安堵していたがそれ以上にその内容に焦りつつ返すも恥ずかしく最後は小声になっていた。
「…ねぇ天理。やっぱり俺と恋人になる前、抱かれる側で想像してたよね?」
「……ノーコメント」
天理は侯輝と恋人になる前、子供の頃の侯輝を思い出して罪悪感が酷く抱く側で想像する事ができなかったのだが…返答は明後日を向いて誤魔化した。
(やっぱり天理抱かれる側の方がいいのかな?抱かれてる天理凄く気持ち良さそうだし。そんな天理見てるのも凄く好きだし)
「俺、天理のお陰で抱かれる側もいいって思えるようになったけど、いつもはやっぱり天理を抱きたいな」
「ん、それで良いよ、あーもうすっかりお前の体にされたなぁ」
ヤケクソ気味に言いつつも、満更じゃなさそうに言う天理が愛おしい。
「そんな事言われちゃうと俺今すぐ天理抱きたくなっちゃうよ♡」
天理の腰にまたソロリと手を伸ばすとまたピシャリと叩かれた。
「今日は俺のだって言ったそばからお前は。くっそ、お前俺の初夜に俺に何回突っ込んだか忘れてないよな?今日は後ろのフラストレーションをお前に全部ぶつけてやる」
天理は侯輝に覆いかぶさると、再戦申し込みのキスを落とした。
「んっ。天理って全然そんな風に見えないのに負けず嫌いだよね」
「そういうつもりは無いんだが…お前に抱いてもらうのは…まぁ気持ちいいし。どうせなら返したいというか」
天理が言いながら侯輝の躰のあちこちにキスを落とし、時々痕を残し、手を這わせていくと侯輝の声は徐々にまた掠れていった。
「は…俺、俺が投げた球、天理のオマケ付けてなんだかんだ全部、返してくれるとこ好き。ん…俺時々めちゃくちゃやっちゃうからさ。困らせちゃう事あるし」
「自覚があるならちょっと自重しろ」
天理が戒めるようにちょっとだけ胸の飾りに歯を立てると侯輝の腰がびくりと跳ねた。
「んあっ!だって…天理のオマケ楽しいんだもん。沢山投げたくなるじゃん」
やきもきすることだってあるけど、天理との掛け合いはいつだって楽しいのだと顔を赤らめながら言う侯輝の表情に天理は一瞬目を見開いた。
「…ちゃんと返せてるか?」
「うん、時々変な球もあるけど、全部大好き!」
少し不安げに聞く天理に侯輝は満面の笑みで返すと天理は顔を赤くした。
「む…ありがとな。俺もお前が大好きだ。今日は精一杯投げるから俺の球を受け取ってくれ」
「えへへ、いっぱい頂戴ね!」
照れつつ苦笑しながら天理がもう一度深く口付けると侯輝は嬉しそうに迎え入れる。
そして少し長い夜を再び始めた。