6.闇の星もまた光る
「ごめん!天理!」
候輝はいきなり抱き着こうとして離れ頭垂れる。天理の体が竦んだからだ。昨日の天理への仕打ちを思えば。
「本当にごめん。天理。速水に聞いた。天理はずっと俺の事想って思ってくれてた。それなのに勝手に不安になってガキみたいな想いぶつけて傷つけた。もう我儘言わない。だからどうか……恋人でいさせて…」
いつも自信に満ち溢れた侯輝は今、不安で満ち溢れて今にも泣き出しそうでいた。それでも真っすぐに届けられる謝罪に天理はいつも侯輝に感じる眩しさをたった数日振りだというのに懐かしく思っていた。否、数日振りではない。昨日だって態度は酷かったがあんなに赤裸々に届けていたのだ。
「俺の方こそすまなかった侯輝。考えてるつもりでお前の想いを汲めず寂しい思いをさせてしまっていた。お前には無理させてたよな。これからはちゃんと一緒に居られる様にする。我儘だって言ってくれ。お前が望むなら速水とだって会わない様にするから…」
「えっそれは違うよ天理!そりゃ本音は会って欲しくないけど天理の夢の邪魔までしたくないよ」
腕のいい情報屋であり冒険者である速水のツテがあるのは天理の古代史や遺物の研究を進める上では有意な事だった。天理と速水は学生時代から話の合う友人から恋人となったくらいで、侯輝にとっては悔しい事だったが仕事絡みであれば速水の方が適任だったし、実際速水と会っている時の天理は楽しげだった。それでも候輝は天理の研究成果が世に認められているのが自分も嬉しかったし誇らしかったのだ。
「でも俺はお前に嫌な思いはさせたくないし、それに速水の助けが無くったって俺は仕事を進められるさ」
「そんな風に思わせてごめんね天理。そうじゃなくてね、俺が嫌だったのは…天理が速水に会っていても俺がなんとも思って無いって思われているのが寂しかったというか。うう、カッコ悪いなぁ……」
天理が誰と会っていたって余裕でいたかった候輝はそう言って情けなく笑う。しかし天理にしてみれば背伸びしがちな年下の恋人がようやく見せた弱みだったし、自分の至らなさが起因する所だったろうと反省する所だった。候輝の想いに触れ、竦んでいた天理の体はもう震えてはいなかった。自然と手が伸びると候輝の手を掴み包んでいた。
「いや、俺が無神経だったな。俺は俺がお前以外に懸想する事無い事ぐらい分かれよって勝手に思ってた。俺だってお前が誰かに取られそうになったら平静じゃいられそうにないのにな。ごめんな。本心聞かせてくれてありがとな」
「うん…あー、なんか恥ずかしいなぁ。俺、子供みたいだよね?」
候輝は天理から触れてくれた事でホッとしつつも自分の幼稚さをさらけ出した事が恥ずかしくなって顔を赤くする。
「それでいいんだ侯輝。お前が自然体で心から俺の事を好きになって貰いたいって思うし…その…昨日の”俺のだ”は悪くなかった」
天理は侯輝を抱きしめると小さく囁いた。
「あっあれは!あの時は頭に血が上ってて……」
「ふっはは。悪くないって言ったろ。俺のダメだったとこも許して貰えないか?」
「もちろん!」
「じゃぁ仲直りにキスしてくれ。お前と本当に二度と会えないんじゃないかって気が気じゃなかったんだ」
口調こそ軽かったが心もとない顔で見上げる天理に侯輝は天理がどれほどまでに自分想ってくれているのかを知り、そっと抱きしめ返すと「ごめんね」と口づけた。安心した様な顔で微笑む天理に侯輝からも自然と笑みが漏れると二人は額をくっつけて笑い合いあった。
「そうそう、ところで一つ言いたい事がある」
改めて二人は天理の家の中に入ると天理が笑顔で一つ切り出した。
「何?何でも言って」
「お前昨日、『俺に抱かれてばかりいるから、男としてまた女抱きたくなった?』とか言ったな?あれはちょーっとだけイラっとしたな?」
笑顔だがどう見ても怒っている天理に侯輝は慌てる。
「えっあれも本当にごめん!」
「別に俺がお前抱いてもいい訳だよな?抱かれてばかりいる訳だし?たまには?」
笑顔の天理に滝のような汗をかき震える侯輝。
「ソ、ソウダネ……あ、でも天理って俺で勃つの?抱けるの?」
「お前、俺がお前に片思いしている間、お前でどういう想像してたと思う?」
天理は、はははと半笑いで逆に問い返した。
「えっと、最初、抱かれてやるって言ってたから抱かれる方じゃないの?」
天理は候輝の返しに一瞬その事は忘れろ的なスルーをするとツラツラと妄想を語り始めた。
「俺はな、お前がそのワガママボディでホイホイ半裸で彷徨いて、そっち系の野郎共の的になってる噂を知ってそれとなく言っても聞かなかったから、いっぺん泣くまで抱き潰して俺の子種で腹一杯にさせたら少しは大人しくなるかなとか考えてた時期もあんだよ」
もっとも今ではすっかり自分の方が候輝の子種で腹一杯にさせられている事も天理は脳内で棚に上げた。
(ひぇぇ、天理、俺でそんな事考えてたんだ……)
「…なんか、ゴメンなさい…気を付けるね」
「分かればいいんだ…まあでも?俺に抱かれたくなったらいつでも言え」
シュンとする候輝に天理は少し責め過ぎたかと思いつつも、いつもは振り回されがちだったのでここぞとばかりに揶揄ってやりたくなり、ずいと近づくと耳元で囁いた。
「普段お前に可愛がってもらってるノウハウでたっぷり可愛がってやるから、な?」
「!!は、はぁぃ…」
候輝はちょっと意地悪だけど思ったより真剣な天理の声色に真っ赤になって恐縮した。天理はそんな候輝の姿が可愛らしくて「どんな風に抱かれたいとかリクエストも受け付けるぞ?」とくすくすと笑いながら続けた。
「~~!!もう勘弁してよ!!」
(普段恥ずかしがりの癖にこういう時、揶揄うんだから。でも天理の最後の挿入相手を俺にするって意味なら悪くないかも?)
速水の事はもう心の整理がついたと思っていた候輝だったが、天理と交わりがあったと考えてしまうとやはりまだ嫉妬してしまう候輝だった。
「冗談だよ。お前が嫌なら無理強いはしないさ」
更に真っ赤になり少し考えこみ始めた侯輝に天理がちょっとやりすぎたかなと思いつつフォローすると候輝は「…ちょっと考えとく」と呟やき天理は「ん?」と首を傾げた。
「でも今日は俺が天理を抱くから!」
「…お前、昨日俺を無理やり犯して俺今痛いの分かってるか?」
考え込んでたと思っていたら急に元気に宣言する候輝に天理は冷静に突っ込みを入れた。
「そうだった!ごめんなさい!」
「よーし、俺に抱かれるチャンスだぞ」
「まだ俺に抱かせてよー」(まだ揶揄われてるー)
「…はいはい。今日はお預けだけどな」
「はーい」
イチャイチャしたくはあったけれど今日は天理と仲直りできればそれだけで十分と思っていた候輝は大人しく了承した。天理は候輝が考え込み始めてからの発言に都度思う所はあったが、ひとまずいつも通りの候輝になった事に安堵すると天理もまたいつも通りの心境に戻っていった。
「……口でするか?その、股でも…」
「えっいいの?!」(うわ久々に天理の可愛いの見た)
遠慮がちに誘う天理に候輝はやっぱり嬉しくて顔を輝かせた。
「最後まではさせんからな」
「勿論!あ…天理もしたかった?」
「…俺だって会うの久しぶりなんだよ。昨日は無理やりで全然良くなかったし…怖かったし」
「ごめんね!」
目を反らしながらそう洩らす天理に、候輝は謝罪しつつも嬉しさと驚きと期待が入り交じる。
「もうそれは謝んな。言ったろ。俺だってお前の我儘ききたいんだよ。多分ちょっとは大丈夫だから」
天理が少し顔を赤くすると侯輝もつられて赤くなった。
「じゃあ、お願いします!」
「元気でてきたな」と天理はベッドの上に座り苦笑しながら「ほら、来い」と腕を広げて侯輝を招く。
「うん!」
侯輝は嬉しそうに抱きつき抱きしめ合った。どちらからともなく唇を重ねると、お互いの服を脱がせ合う。
「お前ややこしい服着てるな。脱がせがいがあるというか、脱がせにくい」
「かっこよかったから買っちゃったんだけど、そうなんだよね。あの…天理、昨日の服は?」
昨日無理やり引き裂く様に脱がしてしまった天理の服を思い出し侯輝は恐る恐る聞く。
「んー、ボタンが吹っ飛んだのはともかく生地まで駄目になったからダメだな」
「プレゼントさせて?」
侯輝は天理が侯輝の服を脱がすのにご執心らしく怒っていない事にほっとしながら告げると天理は「ん。」と小さく笑ってそれで良しとしてくれた。
合間にキスとスキンシップを挟みながら二人は裸になりベッドの中央に移動すると仰向けの天理に侯輝が嬉しそうに覆い被さった。
「天理、キスマークつけていい?」
「好きにつけていい。今度は文句言わないから」
天理が苦笑しながら返す。侯輝は天理の白い首筋に強く吸い付き痕を付けた。
「っ!」
天理の躰に印を散らす度に恥ずかし気に漏れる天理の吐息を聞いていると侯輝は目の前の恋人が自分のものなのだと実感できて、嬉しくなってまた強く吸う。そして胸の飾りも吸おうとすると慌てて止められた。
「そこは待て!生活に支障がでんだよ!」
「えー文句言わないって言ったじゃん。チュッ」
「あっ!」
結局文句を言う天理も可愛くて侯輝はじゃあと軽く吸いビクリと反応するのを楽しむだけにする。すると赤くなりながら睨んでくるので侯輝はクスリと笑うと、耳元に口を寄せ囁いた。
「ね、じゃあどこにキスマーク付けて欲しい?」
「どこってお前…どこでもいいって」
「言って欲しいなぁ~」
「この野郎……」
天理は赤くなりながら少し悩むと自らの胸の真ん中やや左よりの位置を「ん。」と指さした。
「胸……じゃなくて心臓?」
「俺の心もお前のモノなんだろ?付けてくれよ」
少し恥ずかしげに、でも愛おしそうな眼で言う天理。自分のものである事を喜んでいてくれる天理が愛おしくて嬉しくて、候輝はドキドキしながら天理の心臓に唇を近付けると同じ様にドキドキと鳴る鼓動を感じながら強く吸い付いた。
(天理…)
「っっ!」
天理はその強さに少し震えながら侯輝の想いの強さを感じ取っていた。
「天理、俺にも付けてよ」
「言おうと思ってた」
微笑しながら天理は体を起こすと侯輝の心臓に辺りに強く吸い付いた。
「っ!」
「やっぱり目立たないな、お前の体だと。目一杯やったのに」
天理の印が付けられると侯輝の躰に甘い痺れが走る。天理は白い自分の肌と比べ不満げに言った。
「ちゃんと天理の気持ちは受け取ったよ。パッと見分かりづらいのも天理らしいし?」
「悪かったな俺の気持ちは分かりにくて」
「そんなとこも好きだよ、俺だけが分かればいいんだし」
候輝はもう独占欲を隠さずに言うと天理は嬉しそうに微笑する。
「ふふっ…まあお前がいいなら甘んじらせてもらうが」
「でも天理はもうちょっと俺に好き好きアピールしてくれてもいいかな?」
「…善処するよ」
天理は苦笑すると早速好きだと想いを伝えるように侯輝に口付けた。
二人は再び天理の方に倒れると口付けを徐々に深くする。
「んっフゥッ…好きだ…候…輝」
「むぅ…ふっ天理…好きだよ」
舌を絡め吸い合い、呼び合うと体が徐々に熱くなっていく。互いの躰に手を這わしお互い緩く硬くなっていた中心に触れあった。
「っん」「あっ」
弱い所を刺激し合うと共に堅さが増した。吐息が熱く短くなり互いに興奮していく様が更に二人を高めていく。
侯輝は起き上がり、膝を折り曲げ膝立ちになる。天理の脚を広げ、いつも交わる様に自らの膝の上に持ち上げると、「あ…」と天理が少し不安そうな顔をしビクッと震えると躰を固くした。
「ーーっクソ」
「天理…!」(まだホントは怖いんじゃ)
天理は後孔にまだ痛みがあるとはいえ、未だに恐怖を感じてしまう自らの躰が悔しくて、でもなんとか受け入れたくて焦る様に自らの腰や太もも辺りを擦り、強ばりを和らげようとする。天理の怯えを感じ取った侯輝は改めて自分が犯した過ちを悔やんだ。天理が理性では受け入れてくれようとしているのに自分はまだ天理を心から安心させてあげられていないのだ。
候輝は天理を抱きしめ胸に額を当てて懇願する。
「ごめん、ごめんなさい天理。もう絶対傷つけないって誓う。お願い天理、どうか怖がらないで……」
侯輝がまるで小さい子供の様に泣きそうな声で必死に謝罪と宣誓と許しを求めると天理は無意識に候輝の頭に手を伸ばし優しく撫でた。
「お前はもう謝らなくていいんだ候輝」
「天…理…」
天理は候輝の心からの願いが身に染み込む様な感覚を覚えると躰の強ばりがほどけていくのを感じた。候輝の金糸にキスを落とし微笑んだ。
「お前の言葉を信じてるよ、いつも俺に勇気をくれてありがとな。もう大丈夫だ、続き…してくれ」
「うん!ありがとう天理…」
侯輝はやさしく天理の腰を寄せて互いの中心を束ねると、もうどちらのものとも分からぬ粘液で緩く擦り始めた。
「っ!っん、はっ侯っ」
「あ!天理!っあ!」
天理も手を中心に重ねて擦り始めると、侯輝は空いた手で天理の胸の飾りを可愛がった。
「んっあ!は、ぁっ!」
「は、ぁっ!天理、気持ちい?」
「んっ!いっ!気持ちっ!いっ!」
天理は恥ずかしさを堪え懸命に言葉を絞り出すと体が更に熱くなった。
「俺も気持ちいい!天理!あっもっと擦って!」
「ん!!っん!ぁっ侯」
擦る手は激しさを増し、刺激を深める。腰が揺れる。そうしていると天理はまだ痛む後孔が切なくなるのを感じてしまった。
「っ侯、輝……!」
「っ!!天理?」
侯輝は切なそうに呼ぶ天理に微かな異変を感じとり、手を止める。
「後っろっ」
天理は微かにもぞりと腰を揺らす。
「痛むの?」
「そう、じゃなくて…つ、らっ……!」
天理は自分で最後までできないと言った矢先、今度こそ恥ずかしくて顔を背けてしまう。
「!!!」
それが痛みの事では無いことは侯輝にも分かった。と同時に物凄い衝動に襲われる。
天理は手元の侯輝の中心がズクンと大きく反応し、己の腰を支える手にぐっと力が入るのを感じた。
「はーっ!はーっ!」
荒く息を吐き、天理を凝視する。
自分を食い破らんとする視線と金色の瞳に天理は魅いられた。もう恐怖さえ超え互いの本能のままに貫かせたらという考えが頭を過る。
「ふーっ!……!」
だが動きを止めたまま必死で堪えている恋人の姿に自分が先に裏切るわけにはいかないと思い直し、恋人の頬を撫でて請うた。
「ごめんな侯輝…無理させて…今日は前だけで可愛がってくれないか?」
恥ずかしさを堪えそう言うと侯輝の中心がまたドクリと揺れた。だが今度は愛おしそうな瞳で天理を見つめた。
「…!!ううん、今日無理させてるの俺なんだから。治ったらいっぱい可愛がらせて?」
「….ああ」
天理は後ろを弄って貰えないだけでこれ程までに疼く自分に少し侯輝を抱く自信が無くなり、抱くなら少しトレーニングが必要かもしれない。などと逸れていたら再び強い刺激を胸の飾りに与えられ引き戻された。
「っあ!」
「今日はこっちで頑張るから!」
そう言うと候輝は音を立てながら天理の胸の飾りを強く舌で舐る。
「ん!っぁあ!っん!」
天理は手の動きを再開する。後ろが疼くのも胸だけでこんなに感じる羞恥も忘れて今は目の前の恋人だけを感じていたいと思った。己の胸を可愛がる恋人のうなじに片手を添え、少し擦ると侯輝が気持ち良さそうに少し震えたので嬉しくなる。
侯輝は腰に添えていた手を二人の中心に更に重ね強く擦りあげた。
「ああっ!ああ!天理!ああ!愛してる!天理!天理!あ!ああ!!」
「っあ!ぁ!ぁ!侯輝!俺、も!愛っ!ぁ!ん!あぁっ!ぁ!!」
侯輝は絶頂が近づくと、天理の心臓に付けた痕に俺のものだと強く想い吸い付いた。天理の全身に痺れが走る。
「んっ!侯っ!く、ぁっ……!!」
「天理!ああああ!!」
二人は絶頂を迎えると、荒い息と視線を交わしながらもう一度キスをしてお互いの想いを強く結び直した。